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東京「山の上ホテル」Part1(平成22年11月)

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東京「山の上ホテル」Part1(平成22年11月)
東京 山の上ホテル
創業者亡き後も守り続けられる
接客・料理・建築
2010年11月
東京ホテル事情
先日サントリーホールで、諏訪内晶子さんが弾くシベリウスのヴァイオリン協奏曲
(ロンドン交響楽団、ワレリー・ゲルギエフ指揮)を聴くことが出来ました。家族で大
変楽しみにしていたコンサートでしたが、期待を裏切ることのない、一生忘れられない
演奏でした(チケット代をけちったので最前列になってしまったのがちょっと残念でしたが)。コンサートが終わると(早
寝の我が家としては)かなり夜も遅くなるため、この機会に「山の上ホテル」に一泊することにしました。皆様もご存じの
通り、現在の東京は外資系ホテルが相次いで開業しているため、宿泊する側としては百花繚乱な反面、いざ泊まるとなると
どこにしていいものやら迷ってしまいます。しかし戦前の洋風建築をこよなく愛する私としては、やはりそれなりに築年の
経った老舗ホテルに泊まりたいと思い、熟慮の結果「山の上ホテル」に宿泊することと致しました。
老舗の御三家とは違った魅力
東京の老舗ホテル御三家と言えば、帝国・オークラ・ニューオータニということになろうかと思いますが、山の上ホテル
にはそれらのホテルとは違った魅力があります。それを一言で言いあらわすと、規模が圧倒的に小さいことによって従業員
の方々の目が行き届きやすいことと、数々の文化人が愛した独特の雰囲気(レトロ感?)ではないかと思います。川端康
成・井上靖・松本清張・池波正太郎・山口瞳など数々の作家が山の上ホテルを訪れ、実際に定宿としていたそうです。神保
町など近辺に出版社が多く、これらの出版社が彼らを「缶詰」にしやすかったこともあるのでしょうが、池波正太郎や山口
瞳が山の上ホテルとそのレストランをこよやく愛していた様子は、「池波正太郎の銀座日記」や「年金老人 奮戦日記」に
も詳しく書かれています。
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クラシカルホテル倶楽部 東京・山の上ホテル 1
創業者のことば
山の上ホテルが個性的かつ魅力的なのは、創業者である吉田俊男氏が超個性的な経営者だったことと大いに関係している
ようです。常盤新平著「山の上ホテル物語」には創業者の人柄(カミナリ度?)が偲ばれるたくさんのエピソードが書かれ
ており、非常に面白くお勧めです。また吉田氏は自分で営業用のキャッチコピーなどもたくさん書かれていて、どれもとて
も良くできています。以下に私が特に好きなものを抜粋させていただきます。
「これが限度です。客室100で五つの食堂その他バー宴会場がうちの全部です。小さいホテルです。ですが、良いサービスと
うまいたべものを継続して行けるのは、これが限界です。これ以上大きくしては質の低下となります。良質のものはどの世の
中でも少ししかないのです。お客様が「及第」と言ってくださるのを目標にして二十五年。どうやらお試し願へる様になり
ました。サービスの質、食事のうまさ等ホテルの試験をして下さる様願ひ上げます。」
「もし、人が他人に与へられる最高のものが誠意と真実であるなら、ホテルがお客様に差し上げられるものもそれ以外には
ないはずだと思ひます。」
吉田氏は平成3年9月14日死去、享年77歳だったとのことですが、現在の山の上ホテルが創業者の個性を引き継いでいること
を天国で喜ばれていることと思います。
「小さなホテル」の魅力
山の上ホテルの開業は昭和29年で、昭和45年に別館が建設されました。また本館はクラシカルな外観を保ったまま、昭和
55年に内装が改装されたそうです。今回は親子3人での宿泊だったため、残念ながら古い建築が残されている本館には泊まれ
ず、小綺麗な新館での宿泊となりました。しかし新館でも階段や手摺りの意匠などが繊細で美しく、室内のレトロな備品に
も老舗ホテルならではの配慮がゆきとどいており、決して悪いということはありませんでした。また本館のラウンジやバー
などのパブリックスペースは十分鑑賞できましたので、私としては十分楽しんだ一泊でした。本音を言えば古い建築に泊ま
りたかったのですが、これは子育てが終わるまで我慢することにします。「小さなホテル」が健闘している姿は、山近記念
総合病院をどこか彷彿とさせるため、どうしても私には親近感が湧いてしまいます。
評判のルームサービス
今回コンサートが終わってからホテルに戻ったため、あいにく通常のレストランはすべて営業を終えており、地下のワイ
ンバーも団体客で埋まっていて入れませんでした。仕方なくホテルの部屋でルームサービスをとり、家族でコンサートの打
ち上げをすることになりました。しかしそのおかげで評判のルームサービスを堪能することが出来たのです。山の上ホテル
のルームサービスが美味しい、ということは池波正太郎をはじめ多くの方が書かれていますので、期待に胸をふくらませて
注文の電話をしました。ハヤシライスと前菜の盛り合わせ・定食にワインをお願いしたのですが、このいずれもがとても美
味しかっただけでなく、持ってきてくれた(入社後間もないと思われる)メイドさんの応対も真心がこもっていて、さすが
山の上ホテルと感心いたしました。
実際に泊まってみての感想
「山の上ホテル」は老舗ホテルの例に漏れず、終戦直後GHQに接収され、米軍婦人将校の宿泊施設として使われたそうで
す。当時の面影を残したまま営業を続けてくれているこのホテルに深い敬意を抱くとともに、この建物を末永く大事にメン
テナンスして使い続けてほしいと思います。ホテルの内外装は素晴らしくサービスも良好な上、食事も素晴らしいので多く
の方が満足出来るホテルであることは間違いありません。ただ、古いホテルに魅力を感じない人や、プール・スポーツクラ
ブがほしい人、豪華絢爛なラグジュアリーホテルこそ最高と考える人、などには向かないかも知れません。もっともスポー
ツクラブがないという点に関しては近隣の施設と提携し、ジムやプールを確保しているとのことですので、次回は水着持参で
泊まってみようかと思います。
「山の上ホテル」のここがスゴい:
1)親切だがビジネスライクでない接客と、おいしいレストラン・カフェ・ルームサービス。
2)こぢんまりとした美しい外観と、簡素だがシックな内装。
3)この規模では無理なはずのスポーツクラブやプールも、近隣の他施設と提携することで利用可能とした工夫。
「山の上ホテル」の不満:
1)なんといっても我が家にとっては、家族3人で本館に泊まれないこと! 新館に不満はないのですが、私のような古い洋館好きとしては、本館に家族で泊まってみたいです。
2)場所柄致し方ないとはいえ、どうしても眺望が悪い。ホテル周囲を囲むオフィスビルや高層ビルには、
やはり興醒めします。戦後にGHQが接収した頃はさぞかし眺めが良かったろうに、と思うと残念無念。
3)レストランがもう少しだけ遅くまで営業していてくれたら助かります。
もっとも、ルームサービスの味が格別なので大きな問題ではないのですが。
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クラシカルホテル倶楽部 東京・山の上ホテル 2
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