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椙山人間学研究 2013年度 Vol.9 194-199
[環境と人間」プロジェクト研究報告 教員養成における陸水学の研究手法を導入した アクティブ・ラ一二ング形式の環境教育の実践 Ap r a c t i c a lr e p o r to fenvironmentale d u c a t i o nonacourseo fteachere d u c a t i o n conductedi na c t i v el e a r n i n gi n t r o d u c i n gl i m n o l o g i c a lmethod 椙山女学園大学教育学部准教授 野崎健太郎 K e n l a r o NOZAKI キーワード・アクテイブ・ラーニング、環境教育、陸水学、教員養成 Keywords:a c t i v el e a r n i n g, e n v i r o n m e n t a le d u c a t i o n, l i m n o l o g y , t e a c h e re d u c a t i o n 背景と目的 学的、歴史学的に学ばれるが、地域の水環境 l n l a n d 河川、湖や地下水といった陸水 ( の特性を明らかにしてきた陸水学の成果を活 w a t e r ) は、人聞社会に身近な場であると同 かすことができるであろう。つまり、陸水学 時に、上下水道を通じて日常生活とも密接に は、教育学の授業研究分野に貢献できる可能 結びついている(日本陸水学会東海支部会編、 性がある。 2010)。陸水が持つこれらの特性は、保育所、 陸水学は、西欧科学における湖沼学の日本 幼稚園および小学校の自然体験、理科、社会 語訳であるが、 1931年 6月3日に設立された 科における参加型学習(アクティブ・ラーニ ] a p a n e s eS o c i e ちI0 1L i m n o l o g y: 日本陸水学会 ( c t i v el e a r n i n g )の場として有用で、ある。 ング A JSL) は、研究対象を湖沼に限らず、内陸水 本実践のねらいは、地球惑星科学あるいは地 全体にまで広げようとの意図のもと、湖沼学 理学の 1分野として、海洋学 (Oceanography) ではなく陸水学と命名された(上野、 1977; と並ぶ陸水学 (Limnology )の研究蓄積を、 0 1 1 )。この意図は、その後、世界で共 沖野、 2 保育者および教師教育の材料に活用すること S o c i e t a sl n t e r n a t i o 仰 l i s 有され国際陸水学会 ( である。実際に、小学校の生活科では、 2年 L i m n o l o g i a e:SIL、英語では l n t e r n a t i o n a lS o - 生で水生生物を採集し飼育する単元があり、 ちI0 1 L i m n o l o g y )においても学会誌が l n l a n d c z e 理科では、 3、4年生で野外の生き物採集、 5 W a t e rと命名された。 I Iによる地形の形成、 年生でプランクトン、 J 陸水学の成果を教育現場に活かしていくた 6年生で生態系など、水溶液の性質を扱う単 めには、専門家(研究者)の派遣による出張 元があり、いずれも陸水学によって蓄積され 講義(出前授業)と保育者、教師への研修が てきた知識が教材開発や授業運営に活用でき 挙げられる。しかし、出張講義は、専門家へ る。社会科でも、例えば愛知県では、愛知用 の安易な丸投げになる可能性が高く、学校の 水、明治用水、豊川用水に代表される地域の 授業文化に陸水学が根付くとは考えにくい。 水文的特徴に対応した濯蹴施設の整備が地理 やはり教師への研修が、専門家からの支援の 194 J o u r n a lo fS u g i y a m aHumanR e s e a r c h2 0 1 3 中心となるべきと思われる。それと同時に、 部に建設されたため、現在でも湧水が見ら 教員を目指す学生が学ぶ養成課程において、 れ、ピオトープは、その湧水によって酒養さ 陸水学を活用した体験型の授業実践が行われ 0 1 1 )。実践は、 れている(野崎・宇士、 2 012a、2012b、 るべきであろう(野崎、 2 2012年および 2013年に椙山女学園大学教育 2 0 1 3 )。そこで、小学校に設置された水域型 学部にて筆者が担当している教養教育科目 のピオトープを用いて、水質調査と生物採集 「環境の科学」で、行った。全日回の授業の内、 を組み込んだ授業を立案し実践した。その結 1回をこの実践に用いた。 2012年は 4月 24 果から、保育者および教師教育における陸水 日 、 2 013年は 4月 23日に実施し、授業の回 学を活用した授業運営の可能性を検討した。 数としては、いずれも 3回目となる。受講学 012年 5 4名 、 2 013年 43名であった。 生は、 2 受講学生は 3~4 人単位で 12 班に分け、グ 方 法 ピオトープは、椙山女学園大学附属小学校 ループ活動をさせた(野崎、 2 0 1 4 )。 (名古屋市千種区覚王山)に設置された小川 事前学習として、水温計、パックテストの b )。附属小学 池型のものを用いた(図 1a, 講習を前時に行った。加えて、受講学生各自 校はかつて丘陵地の谷戸であった場所の源頭 に学校ピオトープとその活用事例について調 013年からは、野崎・宇土 ( 2 0 1 1 ) べさせた。 2 を、基本文献とした。当日は、校長による講 2地点での水温とパックテスト(共立 話 、 1 理化)の pH、 CODの測定、および手網によ る水生生物の採集を行った。事後学習として ピオトープの活用法について提案書を書かせ た 。 結果と考察 ビオトープの水環境 2012年の調査結果は、野崎・森 ( 2 0 1 2 ) に発表済みであるため、ここでは 2 013年の 調査結果について報告する。図 2は水温の地 点間変化である。水温は、ピオトープへの流 4Cと最も高く、遠ざかるにつれ 入地点で 1 0 て低下する傾向であった。ピオトープの水源 は小学校敷地の地下からの湧水である。地下 水の水温は、一般的に地表面の水温に比べ季 節変化の幅が小さく、その地点の年平均気温 図 1.椙山女学園大学附属小学校ビオトープ に近い値を示すことが知られている(新井、 J o u r n a lo fS u g i y a m aH u m a nR e s e a r c h2 0 1 3 1 9 5 六一 当E皇室温 8時 1 0. 4" C . 9時 1 2 . 0 " C / 1 1 1 0 3 2 4 6 5 7 9 B 1 0 1 1 1 2 地点 図2 . 椙山女学園大学附属小学校に設置されたビオトープ内の水温 の分布 (2013 年 4 月 23 日 9 時 30 分~ 1 0 ロpH 10時に測定)。 , ー 8 ー 「一 6 「一一 「一 「一一 「 「 ー 7 8 ヱ且 r- ( 「 4 2 。 r 2 3 4 5 6 9 1 0 1 1 1 2 地点 図3 . 椙山女学園大学附属小学校に設置されたビオトープ内の pH (水素イオ ン強度)の分布 (2013 年 4 月 23 日 9 時 30 分~ 196 10時に測定)。 J o u r n a lo fS u g i y a m aH u m a nR e s e a r c h2 0 1 3 図4 舗椙山女学園大学附属小学校に設置されたピオトープ内の COD (化学的 酸素要求量)の分布 (2013 年 4 月 23 日 9 時 30 分~ 10時に測定)。 図5 . 透明なプラスチックコップを用いた 図6 . 小型の水槽を用いた班用の水族館 個人用の水族館 2004;野崎、 2010)。名古屋市の年平均気温 トーフ。の水源が地下水で、あることの理解を助 は1 5~ 1 6Cで あ り ( 気 象 庁 webs i t e )、調 ける。 0 査結果から、ピオトーフ。の水源が地下水であ 図 4は 、 水 中 の 有 機 物 量 の 指 標 で あ る ることを受講学生に理解させることができ COD ( C h e m i c a lOxygenDemand: 化 学 的 水 た。図 3は、水の酸性度の指標で、ある pH ( 酸素要求量)の地点間変化である。流入地点 素イオン強度)の地点間変化である。弱酸性 では検出されず、有機物量が少ない清澄な水、 の 6付近を示す地点が多く、この指標もピオ すなわち地中で長時間ろ過されてきた地下水 J o u m a lo fS u g i y a m aH u m a nR e s e a r c h2013 1 9 7 が水源であることを示している。ピオトープ カマキガイ(外来種)、ヒメタニシ、カワニナ、 内では上部の木本からの落葉の影響により値 水 生 昆 虫 の ヤ ゴ 3種、イトミミズ、ヒル、ハ が 高 い 地 点 が 見 ら れ た 。 一 般 的 に CODは 、 リガネムシが採集された。採集した生物は透 水の有機物汚濁の指標として使われ、値が高 明なプラスチックコップに入れ個人の水族館 い地点は、家庭排水等の人為的影響により水 ( 図5 )、そして小型の水槽に集め班ごとの水 が汚れていると判断される。しかしながら有 族館(図 6 ) をつくって楽しんだ。特定外来 機物は、落葉のように自然界にも豊富に存在 生物であるカダヤシは、類似した在来種のメ し 、 生 態 系 を 支 え る エ ネ ル ギ ー 源 の 1つと ダカとの競合関係を説明し(谷口、 2 010)、 なっている(村上、 2 010)。この結果は、 環境問題の 1つの話題である生物多様性の保 CODを 即 ち 水 質 汚 濁 と 見 な す 短 絡 的 な 思 考 全について受講学生に考えさせた。 に注意を促す教材となった。 ビオトープの活用法 表 1に 受 講 学 生 の 人 数 と 提 案 さ れ た ピ オ 水生生物は、魚類のカダヤシ(外来種)、 甲殻類のミズムシ、貝類のモノアラガイ、サ トープの活用法の数についてまとめた。活用 表 1.受講学生の人数と提案されたビオトープ活用法の数 1年生 2年生 3年生 4年 生 合 計 提 案 数 提 案 率 実施日 2012年 4月24日 2013年 4月23日 。 (人) (人) (人) (人) 27 20 19 9 7 12 1 (人)数/人 53 42 71 60 1 .3 1 .4 ヘ 三i f z 2 0 ) 〈1 5 事 量 話 訴 1 0 5 。 型 炉 A 9 2砂 等 r ぷ 河ぷ詐電ダ 4ず YJ9 ψ'Oが v ぜ . < I V も 4 ヂの 命 Jヅγ~~ャeヂォpFhC9 咲 p a も 、 J 図7 . ビオトープ活用法として提案された内容。 2012年と 2013年の相聞は r=0.864であった。 198 J o u r n a lo fS u g i y a m aH u m a nR e s e a r c h2013 法の内訳は図 7に示した。 2012年と 2013年 近な水の環境科学一源流から干潟まで一」日 の結果は、ほほ同じで、両者の相関係数(め 本陸水学会東海支部会(編)、 pp.39-56、朝 4を示した。生き物に関する活用法 6 8 . 、 0 は 倉書届 ) で報告 1 1 0 2 が上位を占め、野崎・宇土 ( ) 人文社会学系の大学生 a 2 1 0 2 野崎健太郎 ( された結果と同様であった。この結果から受 を対象とした陸水環境教育の実践 講学生は、生き物に強い関心を持つことがわ への利き水、水質分析および BOD試験の導 かった。今回は、水質調査を最初に、採集を . 8 1 1 入とその評価.陸の水、 54:1 その後に行ったが、今後は、まず採集を行い、 ) 保育者・小学校教員養 b 2 1 0 2 野崎健太郎 ( その後、生物相を維持している水環境の特徴 成課程における河川調査実習の立案とその教 について、学生と対話しながら探索させると . 8 5 1 育効果. 日本生態学会誌、 62:5 いう授業運営を実践する予定である。 ) 第 5章 河 川 調 査 実 習 を 3 1 0 2 野崎健太郎 ( 講義科目 人間関係の諸 通じた人間関係への気づき. I 問題」渡遺毅(編著)、 pp.101-114、中部日 謝 辞 ピオトープでの授業実践を快諾され支援し 本教育文化会. て下さった椙山女学園大学附属小学校長の宇 ) 小学校のピ 1 1 0 2 野崎健太郎・宇土泰寛 ( 土泰寛教授、教頭の松原道晴先生、研究部主 オトープを活用した大学生の水環境教育一椙 任の川野幸彦先生、環境教育主任の森昌彦先 山女学園大学教育学部(愛知県名古屋市)の 生に深く感謝いたします。本研究の遂行にあ 教養教育における実践一椙山人間学研究、 たり、科学研究費補助金基盤研究 c(研究課 . 5 5 1 8 4 7:1 題番号 :24501114、研究代表者:野崎健太郎) ) 保育者・教員 2 1 0 2 野崎健太郎・森昌彦 ( を用いた。 養成課程の大学生への環境教育および研究の 場としての椙山女学園山添キャンパス(愛知 文 献 県名古屋市千種区覚王山).椙山人間学研究、 地域分析のための熱・水収 )I 4 0 0 2 新井正 ( 8:181-184 支水文学J.古今書院 )第三部 1 1 0 2 沖野外輝夫 ( 身 . 集水域から渓流へ. I )2 0 1 0 2 村上哲生 ( 「川と湖を見る・知る・探る 近な水の環境科学一源流から干潟まで 」日 日本の陸水学史 陸水学入門」 、地人書館. 日本陸水学会(編)、 pp.133-167 水田水路と魚た 本陸水学会東海支部会(編)、 pp.13-19、朝 ) コラム 0 1 0 2 奇口義則 ( 倉書屈. ちの生活 ) 身近な 0 1 0 2 日本陸水学会東海支部会編 ( 干潟まで一」日本陸水学会東海支部会(編)、 水の環境科学一源流から干潟まで一.朝倉書 pp.103-105、朝倉書庖. 庖. ) 陸水学史.培風館. 7 7 9 1 上野益三 ( 「身近な水の環境科学一源流から 身 . 地下水の世界. I )3 0 1 0 2 野崎健太郎 ( 3 1 0 h2 c r a e s e aHumanR m a y i g u fS lo a n r u o J 199