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外資系小売業の東南アジア食品小売市場開拓

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外資系小売業の東南アジア食品小売市場開拓
特集
Special Feature
外資系小売業の東南アジア食品小売市場開拓
―デイリーファームインターナショナルをケースとして―
神谷 渉
公益財団法人流通経済研究所主任研究員
めている外資系企業をベンチマークしていく
1 はじめに
ことが一つの方法であると考えられる。そこ
で本稿では、東南アジアの市場において既に
東南アジア小売市場は魅力の大きな市場と
展開している外資系小売業、特にデイリーフ
して、日本の小売業にとっても関心が高い市
ァームインターナショナルに注目し、日系小
場となっている。これまで魅力的な市場と言
売業が東南アジアでの展開において成功する
われてきていた中国では、2012 年に発生し
ための示唆を得る。
た尖閣諸島の国有化を契機としたデモによる
日系小売業の破壊・略奪に代表されるように、
感情や政治的な面での日本との関係の難しさ
が存在している。このような背景もあり、日
本の小売業の東南アジア小売市場への事業展
開を拡大する動きは続くだろう。
2 東南アジアにおける
外資系食品小売業の展開
東南アジアにおいて展開する外資系食品小
売業の状況を取りまとめたものが、図表1で
しかし、本当に中国に比べて東南アジア小
ある。欧米の小売業の幾つかは既に東南アジ
売市場は魅力的なのであろうか。単純な感情
ア市場から撤退しており、現在欧米系食品小
面や政治面のみでは比較できない部分もあ
売業が東南アジア市場を席巻しているとは言
る。2013 年 10 月には、高成長をけん引して
えない状況である。このことからも、東南ア
きた内需の拡大ペースが鈍り調整色にあるこ
ジア市場が成長しているとは言え、どの企業
と、タイでは価格競争の激化により日系ファ
にとっても魅力的な市場という考えは通用し
ストフードが価格の引き下げに走ったり、イ
ないことがわかる。
ンドネシアではコンビニエンスストアが出
欧米系で東南アジア市場に現在も残ってい
店ペースを緩めていることなどが報じられ
るのは、テスコ、カジノ、デレーズといった
た 1)。また、ベトナムではファミリーマート
企業となっている。その中で、特に堅実な展
が現地提携先との合弁を解消し、新たなスタ
開を見せているのが、テスコとカジノであろ
ートを余儀なくされている 。
う。ただし、テスコとカジノは主にタイ市場
2)
このように、単純に中国と比べて東南アジ
アの方が成功する可能性が高いと考えること
で大きなシェアを取っている企業であり東南
アジア全般で展開しているわけではない。
は早計であり、真摯に市場に向き合っていく
東南アジア市場開拓の先駆けとなったアホ
必要がある。東南アジアで日系小売業が成功
ールドやカルフールは、東南アジア各国に展
していくためには、既にこの市場で成功を収
開をしていたが、本国の業績不振等の理由
特集●中国・台湾・東南アジアにおける製・配・販関係の革新
35
図表1
主な外資系食品小売業の展開状況
企業
本拠地
ウォルマート
アメリカ
カルフール
フランス
テスコ
イギリス
メトロ
ドイツ
マクロ
オランダ
カジノ (ビッグC) フランス
アホールド
オランダ
デレーズ
ベルギー
デイリーファーム
香港
イオン
日本
主力展開
東南アジア展開国【参入年】(撤退年)
インドネシア
マレーシア
タイ
ベトナム
カンボジア
フィリピン
ハイパーマーケット 【1997】
(1998)
(2012)【1996】
(2010)
【1998】
(2012)【1994】
ハイパーマーケット
現地企業が運営
イオンに売却
カジノに売却
ハイパーマーケット
キャッシュ&キャリー
【2002】
【1997】
(2012)
【1998】
【2012】
(2006)【1989】
(2013)
【1992】
(2010)【1993】
キャッシュ&キャリー ロッテマートに売 デイリーファーム CPグループに売
却
に売却
却
ハイパーマーケット
【1999】
(2003)【1997】
(2004)
【2002】
(2003)【1998】
スーパーマーケット デイリーファーム デイリーファーム セントラルグルー
(Hero)に売却 に売却
プに売却
【1997】
(2004)
スーパーマーケット
【1997】
セントラルグルー
プに売却
ハイパー/スーパー/
【1998】
【1999】
ドラッグ
ハイパー/スーパーマ
ーケット
シンガポール
【2013】
【1985】
【1985】
【1995】
(2007)
SMグループに売
却
【2003】
【1996】
(1999)
デイリーファーム
に売却
【1999】
(2003)
デイリーファーム
に売却
【2011】
【2012】
【2014】
【2014】
【2012】
【1993】
出所:各種情報より作成
注:2014年8月13日にメトロはベトナムの事業をタイのバーリュッカに売却し、ベトナムから撤退することを発表
により 2000 年代に入り事業売却を加速させ、
港を拠点とする企業であり、2013 年度のジ
既に東南アジア市場からは撤退している。こ
ョイントベンチャー等を含む売上は、124 億
のように見ていくと、参入が早いことが必ず
米ドル(約 1.2 兆円、1 ドル 100 円換算)とな
しも生き残りの条件であるとは言えないこと
っている(図表2)
。香港・マカオ、中国、
がわかる。また、現在好調の欧米企業の特徴
台湾のほか、東南アジアでは、マレーシア、
を見ると、高いシェアを確保している国を抱
シンガポール、ブルネイ、インドネシア、ベ
えていることがわかる。
トナム、フィリピン、カンボジアで展開して
一方、欧米系食品小売業以外で好調な動き
いる。また、
業態もハイパーマーケット業態、
を見せているのが、香港系食品小売業のデイ
スーパーマーケット業態、
ドラッグストア
(パ
リーファームインターナショナルである。デ
ーソナルケアストア)業態、コンビニエンス
イリーファームインターナショナルは欧米系
ストア業態、家具量販業態(IKEA)
、レス
小売業とは異なり、東南アジアに幅広く展開
トラン業態など複数の業態を展開しており地
していることが特徴である。香港系小売業で
域に合わせた展開を行っている(図表3)
。
は、ドラッグストアやパーソナルケアストア
を展開するワトソンズを擁する AS ワトソン
も東南アジア一帯に展開しており好調企業と
言えるが、ここでは食品小売業に焦点をあて
るため詳細は割愛する。
図表2
デイリーファームインターナショナルの売上推移
(百万米国ドル)
14,000
12,000
10,000
8,000
3
デイリーファームインター
ナショナルの東南アジア展開
[1]企業概要
デイリーファームインターナショナルは香
8,053
9,113
10,449
11,540
12,432
6,000
4,000
2,000
0
2009
2010
2011
2012
2013
(年)
出所:デイリーファームインタナショナルアニュアル
レポートより作成
2014.9(No.510)
36
図表3
デイリーファームインターナショナルの東南アジア展開
国
カンボジア
業態
スーパーマーケット
パーソナルケアストア
インドネシア スーパーマーケット
ハイパーマーケット
コンビニエンスストア
パーソナルケアストア
マレーシア スーパーマーケット
ハイパーマーケット
パーソナルケアストア
フィリピン
スーパーマーケット
ハイパーマーケット
ベトナム
ハイパーマーケット
パーソナルケアストア
シンガポール スーパーマーケット
ハイパーマーケット
コンビニエンスストア
パーソナルケアストア
ブルネイ
スーパーマーケット
ハイパーマーケット
バナー
Lucky supermarket
Guardian
Hero
Giant
Starmart
Guardian
Cold Storage/Jason's/Mercato/Giant
Giant
Guardian
Rustan's/Wellcome
Shopwise
Giant
Guardian
Cold Storage/Jason's/Giant
Giant
Seven-Eleven
Guardian
Giant
Giant
店舗数(2013年)
12
1
158
51
157
316
72
78
414
32
12
1
18
116
8
537
154
2
1
出所:デイリーファームインタナショナルアニュアルレポートより作成
デイリーファームインターナショナルは、
ジャーディン・マセソングループの構成企業
イギリスの植民地政策と密接な関わりを持っ
ていた企業である。
であり、ジャーディン・マセソングループの
なお、ジャーディン・マセソングループは
上場企業の持株会社であるジャーディン・ス
実質的にイギリスが出自であるケズィック家
トラテジックホールディングスが 78%の株
による同族経営であり、デイリーファームイ
式を所有している上場企業である(図表4)。
ンターナショナルも現在ベン・ケズィックが
ジャーディン・マセソングループは、アヘ
取締役会議長を務める。ジャーディン・マセ
ン戦争で一躍名を馳せたジャーディン・マセ
ソングループの一員であることなどから、グ
ソン商会を前身としており、香港がイギリス
ループの東南アジアネットワークの恩恵を受
領となったころから香港で事業展開を行い、
けることができるのも東南アジア展開におい
ては大きな後ろ盾になったも
図表4
ジャーディン・マセソングループとデイリーファームインターナショナル
Jardine Matheson Holdings
[2]デイリーファームインタ
83%
56%
100%
100%
Jardine Pacific
Jardine Moters
非上場企業の
持株会社
Jardine Stategic
Holdings
自動車
(中国・香港)
42%
Jardine Lloyd Lloyd
Thompson
金融
外展開
デイリーファームインター
ャーディン・マセソングルー
78%
50%
不動産
ーナショナルの沿革と海
ナショナル自体はもともとジ
上場企業の
持株会社
Hong Kong Land
のと考えられる。
Dairy Farm International
小売
73%
Mandarin Oriental 74%
Jardine Cycle
and Carriage
ホテル
出所:ジャーディンマセソンホームページより作成
自動車
(東南アジア)
プではなく、牛乳の供給を目
的としてイギリス人により設
立された企業が前身となっ
ている(図表5)。これが大
き く 転 換 し た の が、1964 年
特集 ● 中国・台湾・東南アジアにおける製・配・販関係の革新
37
図表5
デイリーファームインターナショナルの沿革
年
1886
1904
1918
1960
1964
1967-70
1972
1979
1986
1987
1989
1990
1993
1994
1995
1997
1998
1999
2000
2002
2003
2004
2005
2007
2008
2012
沿革
Sir Patrick Mansonにより、安全で清潔な牛乳を市民に提供することを目的に、The Dairy Farm Company Limitedを設立。
最初の小売店舗を開店。オーストラリアからの食肉等も販売。
製氷企業であるHong Kong Ice Companyを買収し、The Dairy Farm, Ice & Cold Storage Company Limitedに名称変更。
Dairy Farm と Lane Crawford はそれぞれの食品小売部門を統合し、Dairy Lane Limitedを設立。
地元の食品スーパーWellcomeを買収。Dairy Lane LimitedのLane Crawford 持分を買収。
海外展開を本格化。ケータリング事業を中心にオーストラリア、グアム、インドネシア等で展開。
香港ランド社により買収されるが、経営の独立性は確保。
オーストラリアのフランクリンチェーンの "No Frills"店舗(75店舗)を買収。
香港ランド社から分離し、香港市場に上場を果たす。
英国で第6位の小売業KwikSaveを買収。台湾でスーパーマーケット事業を開始。
香港の7-11事業をジャーディンマセソンから取得。
英国市場での上場を果たす。その後、シンガポールとオーストラリアでも上場し、1995年香港市場での上場を廃止する。
スペインのSimago Supermarket、ニュージーランドのWoolworthsを買収。
シンガポールのCold Storageを買収。
マレーシアでCold StorageとのJVを展開開始。
日本で西友とウェルセーブスーパーを設立(1997年撤退)。インドのRPGSpencer(FoodWorld)と技術援助提携。インドネシ
アのMitra(PTHero)と技術援助提携。
インドで、ビューティチェーンHealth and Glowの合弁を設立。インドネシアで、ビューティチェーンGurdianの技術援助提携。
英国のKwickSave、スペインのSimagoを売却。インドネシアのPTHeroの32%を取得。
マレーシアのGiantの90%の株式を取得。インドでFoodWorldの49%の株式を取得。
オーストラリアのフランクリンチェーンを売却。
ニュージーランドのWoolworthsを売却。香港と台湾のIKEAをジャーディンマセソンから取得。
Aholdのマレーシア事業、シンガポール事業を買収。PTHeroがAholdからインドネシア事業を買収。
製氷事業を売却し、小売事業に特化。
PTHeroの持ち株を69%に拡大。タイにGurdianを開店。
中国広東省のコンビニエンスストアを買収、7-11ブランドに転換。
Giantハイパーマーケットがブルネイで開店。
カンボジアのLuclySupermarketの70%を取得。フィリピンのRustan Supercenterの50%の株式を取得。
デイリーファームインターナショナルホームページより作成
の Wellcome ス ー パ ー の 買 収 と 1972 年 の ジ
平洋地域にあるとし、欧州における小売業の
ャーディン・マセソングループの香港ラン
売却を行う一方、アジア地域での拡大を推し
ド社によるデイリーファームの買収である。
進めた。就任後 Floto は5つの投資領域を設
Wellcome スーパーの買収により小売事業へ
けたという。①東南アジアでのハイパーマー
の比重が高まったこと、香港ランド社の傘下
ケットの展開、② IKEA の拡大、③中国事業
に入ったことで買収の資金を得たことによ
の強化、④既存市場における買収の強化、⑤
り、海外での小売業の展開を拡大する契機と
新規のアジア市場での参入(可能な限り買収
なったことがわかる。
での参入)というものであった。
当初、海外での小売業の展開の重点はアジ
ここで興味深いのは、
「買収」という文字
アよりも、
欧州やオーストラリアにおかれた。
である。自社での展開拡大よりも、買収によ
オーストラリアのフランクリンチェーンの買
る事業拡大に重点が置かれていることがわか
収に始まり、英国の KwikSave などディスカ
る。実際に 1998 年以降の東南アジアでの展
ウント業態を中心とする買収が行われた。そ
開は、提携パートナーの小売部門への資本参
の後、マレーシアやシンガポールなど旧英国
加、撤退欧米小売業からの事業買収により進
領であったアジア諸国での食品小売業の買収
出国を拡大していることがわかる。カンボジ
が行われた。
アなど、近代的食品小売業の発展がこれから
1997 年 に Ronald Floto が CEO に 就 任 し、
大きな転換が起こった。Ronald Floto は、米
と考えられる国においても現地企業への資本
参加を貫いている。
国の Kmart で上級副社長を務めた人物であ
った。Ronald Floto は、デイリーファームイ
ンターナショナルの競争力の源泉はアジア太
[3]デイリーファームインターナショナルの
戦略と東南アジア展開
2014.9(No.510)
38
アニュアルレポートからデイリーファーム
の海外展開は、投資的な側面が強く現地での
インターナショナルの戦略を確認し、東南ア
経営が尊重される一方、インフラの共用など
ジア展開との関わりを見ていく。アニュアル
はほとんど意識されていなかった。そのた
レポートで示されている 2008 年~2012 年の
め、オーストラリアやヨーロッパなど地理的
ビジョンと戦略は一貫しており、以下のとお
に離れた地域での買収が行われた。プラット
りとなっている。
フォームの共通化が意識されたのは Ronald
■ビジョン:アジアにおける小売の開拓者
(パ
Floto が CEO に就任してからのことであっ
イオニア)であること
■戦略:①高品質で低コストの小売
②アジアフォーカス
③複 数フォーマット(業態)
、サー
ビスの共用
た。Floto はセントラルバイイングや地域ハ
ブの設置に加え、IT インフラの構築を推進
した。
なお、2013 年のアニュアルレポートでは、
CEO が交代したこともあり、戦略の変更が
④長期的な株主価値の創造
行われた。
この戦略でのポイントは東南アジア各国に
■戦略:①顧客ロイヤリティを獲得する魅力
根差した業態・店舗の展開を行う一方、バッ
的な小売ブランドの構築
クグラウンドになる仕組みやインフラは共通
②各事業におけるマーケットリーダ
化することで、効率化を図っていくことが
ーとしてのポジションの確立
示されている点であろう。実際に、各国の
③信頼できる効率的なサプライチェ
スーパーマーケットの名称は買収先の名称
ーンを通じた一貫性のある高い品
を残すケースもあるため多様なものとなっ
質のオペレーションの実行
ているし、国により展開する業態も異なっ
④魅力的な業態の経済性を基礎とし
ている。例えば、スーパーマーケットにつ
た、持続可能で強固な利益の成長
いて、香港や台湾では Wellcome という店舗
⑤小売りを愛する情熱的な人材を惹
名で展開しているのに対して、シンガポー
きつけ、育成する
ルやマレーシアでは ColdStorage という店舗
ここでの変化として注目したいのは、マー
名で展開している。Wellcome は、赤や黄色
ケットリーダーとなることと小売ブランドの
を基調とした中国的な色彩を前面に出す一
構築を明示したことであろう。各市場でリー
方、ColdStorage は緑を基調とした店舗とな
ダーとなるべく、
買収等も積極化させる一方、
っているなど、訴求する色味やイメージも変
中長期で見てもリーダーとなれない場合は退
えている。その他、インドネシアでは Hero、
出する場合もあり得ることが示されていると
カ ン ボ ジ ア で は Lucky、 フ ィ リ ピ ン で は
言える。直近のことであるが、2014 年7月
Rustan’s など、同じスーパーマーケット業態
にインドでの資本参加しているインドのスー
ではあるが、買収先の名称を生かした展開と
パーマーケット Foodworld の 49%とパーソ
なっている。
ナルケアストアである Health and Glow の 50
なお、当初から地域に応じた業態・店舗と
%の持ち株すべてを合弁相手に売却し、イン
プラットフォームの共通化による効率化が意
ド市場から撤退することを発表した。また、
識されていたかと言うと、結果としてそうな
2014 年8月には、中国のスーパーマーケッ
ったと言う方が正しいように思われる。初期
ト企業である永輝超市に 19.9%の出資を行う
特集 ● 中国・台湾・東南アジアにおける製・配・販関係の革新
39
ことが発表された。
ファームインターナショナルの東南アジア展
小売ブランドの構築に関しては、グローバ
開からは、現地に既にある程度根ざした企業
ルブランドの構築も課題となるだろう。同じ
への資本参加、買収が有効であることを示し
業態でも国によって店舗名が異なるのは地元
ており、今後の海外展開では考慮していくべ
での浸透という面で優位に働いてきた面もあ
き視点であろう。
ったが、今後は強固な小売ブランドの構築の
またデイリーファームインターナショナル
ため店舗名の集約も行われていくものと考え
の東南アジア展開は、海外展開の先駆けとな
られる。
った欧州やオーストラリアでの買収も大きな
役割を果たしていると考えられる。デイリー
4
デイリーファームインター
ナショナルの東南アジア展
開からの示唆
ファームインターナショナルの欧州やオース
トラリア、日本での展開は、小売業としての
ノウハウ、インフラ等が先進国では通用せず
に撤退に至ったとする論調も少なくない 3)。
デイリーファームインターナショナルの東
しかしながら、このような参入が無駄であっ
南アジア展開の歴史を紐解くと、その展開は
たかというと、そうではなく、むしろその経
合弁による展開ではなく、既存事業の買収に
験が役に立ったと捉えることができる。欧州
よる進出を戦略として選択していることがわ
とオーストラリアにおけるディスカウント業
かる。特に近年の展開を見ると、現地小売業
態のノウハウや人材を得ることができ、そ
への技術援助提携からスタートしてその企業
の後の PB の開発や業態開発に生かされてい
に出資していくパターンが多い。この買収に
る。日系小売業においても、海外展開におい
よる参入パターンは、欧米系として生き残っ
て撤退を決断する国などが出てきた場合、そ
ている企業にも当てはまる。例えば、タイの
の経験や資産を次の展開にどのように活用し
テスコも地元資本 CP グループのチェーンで
ていくかという視点を持っておくことが重要
あったロータスに出資することからスタート
であるように感じられる。
している。同様に、タイのカジノも BigC に
出資することで現在のポジションを獲得して
いる。一方、日系小売業を見ると、既存の小
売業を買収して参入したケースはほとんどな
い。買収そのものも、イオンが既存市場での
事業強化のため、マレーシアのカルフールの
事業を買収した程度であろう。多くは日本と
同様の店舗の展開を前提に、合弁や独資、フ
ランチャイズでの進出を図っている。日系企
業は買収という手法に慣れていないことや、
自社の理念や日本流のサービス等の浸透が図
れないのではないかという恐れから、買収や
資本参加での海外展開に積極的であるとは言
えないようである。しかしながら、デイリー
〈注〉
1)「 外食小売り、 計画見直し」 日本経済新聞 2013 年
10月18日
2)「消えたベトナムのファミマ」 日本経済新聞 2013 年8
月13日
3)例えば、 Spulber(2007)など。
〈参考文献・資料〉
神谷渉(2008)「香港系小売業のアジア展開」『流通情
報』466 号,14-21 頁,流通経済研究所。
川端基夫(2004)「アジアの消費市場と流通業を捉える
視角」『流通情報』420 号,5-12 頁,流通経済研究所。
Daniel F. Spulber. (2007) Global Competitive
Strategy, Cambridge University Press.
2014.9(No.510)
40
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