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No.7 - 分子ロボティクス

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No.7 - 分子ロボティクス
News Letter No. 7
2014 年 8 月 31 日発行
巻頭言
萩谷先生が代表を務められていた特定領域「分子プログラミ
ング」
(2001 年 ~ 2004 年)に途中から参画させていただき、
東京大学の陶山先生をはじめ何人かの先生方にオリジナルの
光応答性塩基を提供させていただく形で共同研究もさせてい
ただきました。当時、化学生物学という新領域研究も同じ
タイミングで盛んになってきており、これに倣い化学分野の
知能班計画研究分担者 成果を生命科学の分野で利用していくことには少々造詣が
藤本 健造
ありましたが、一方で、今まで遠い研究領域と感じていた情報
北陸先端科学技術大学院大学 工学の先生方、生物物理学の先生方と恊働できる可能性があ
ることを肌で感じることができ、大いに感銘を受けました。
研究会や特定領域研究の会議に出席した際ですが、異分野の
私は核酸化学を専門としており、本領域において知能班
アプローチに対して当時からハードルが低く、多種多様な
計画研究の分担研究者として光 DNA 操作及び DNA 計算の
価値観を積極的に議論に引き込んでいくスタイルも(今では
高速化に関する研究を行っています。今回この場をお借りし
複合領域研究が盛んとなり当たり前になりましたが)斬新に
て、化学を専門としている私が分子を用いた計算ならびに分
感じたものです。時が経過し、2008 年から 2010 年まで文
子ロボティクスに関する研究に関与させていただくきっかけ
部科学省の学術調査官(化学担当)を兼任することとなりま
から現在に至るまで、最終的には本新学術領域への思いを含
した。当時文部科学省では特定領域研究を支援するスタイル
めて徒然に述べさせていただきたいと思います。約10年前
から、そういった領域研究を複合的に束ねることで生み出さ
にラボを主宰して間もない 2003 年の 11 月になりますが、
れる新しい学術領域研究を支援しようという科研費システム
萩谷先生などが主催されておられた分子計算研究会で講演を
の改善を行っておりました。そこでお手伝いさせていただい
する機会をいただきました。その時の講演タイトルは「光を
た経験もあり感じているのかもしれませんが、もともと大き
用いた遺伝子操作法の開発 ―DNA コンピューティングの
な夢に向けて多種多様な専門分野の研究者が集い議論する文
ツールとしての可能性を探る―」といったもので、どういう
化を大切にしていたこの研究集団から、2010 年 3 月に「分子
研究会かも良く理解しないまま発表をさせていただいた記憶
ロボティクス研究会」が誕生し、さらに 2012 年から本新学
があります。その一方で、講演の際に数多くの質問をいただ
術領域「感覚と知能を備えた分子ロボットの創成」の発足に
き、思いのほか多くの方に興味を持っていただけた様子に手
繋がっていく流れは必然だった様に感じられます。決して
応えを感じました。おそらく、酵素を用いた DNA 操作以外
一日にして出来上がることのなかった「分子ロボティクス」
に光応答性の人工塩基を使うという化学からのアプローチに
精神を私も大切にし、微力ながら本領域の発展に貢献できれ
興味を持っていただけたからではと推察しております。実際、
ばと切に感じております。
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
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分子ロボティクス研究会 4 月定例会
計測自動制御学会システム・情報部門調査研究会分子ロボティクス研究会(共催)
人工知能学会分子生物情報研究会(共催)
~「電気システム・分子システム越境によるハイブリッド型分子ロボットを目指して」~
開催日時 : 2014 年 4 月 12 日(土)
開催場所 : 東京工業大学田町キャンパスイノベーションセンター 501 室 2014 年度最初の新学術領域「分子ロボティクス」月例研究会は、計測自動制御学会システム・情報部門調査研究会分
子ロボティクス研究会、人工知能学会分子生物情報研究会との共催で、2014 年 4 月 12 日(土)に、東京工業大学田町
キャンパスイノベーションセンターにて開催された。一つめの特別講演では、脂質二重膜にナノポアチャネルを形成させ、
DNA 分子反応と電気シグナル計測を融合させることで、分子コンピューティング技術を開発している東京農工大学・川野
竜司先生に講演頂いた。疑似細胞ドロップレットをネットワーク化することでより複雑な演算へ発展できること、また、分子
ロボティクスのセンサー技術やコンピューティング技術と親和性が高く、活発なディスカッションが行われた。二つめの
特別講演では、ダイナミッククランプ法による神経回路網の数理モデルと実システムを融合させる技術を開発した東京工業
大学・青西亨先生に講演頂いた。このシステムでは、実システムのデータとコンピュータ上のシステムの情報が互いにフィード
バックすることで非常に興味深いハイブリッドシステムができ、分子ロボットにおける制御システムに関して重要な知見や
技術が得られた。また、一般講演として、東北大学・村田 / 野村研の大学院生・津澤卓氏の DNA の電場応答性を利用した
鞭毛様マイクロスイマーの研究や、公募班で研究を進めている九州大学・柳澤実穂による、相分離・ゲル化・濡れによる
高分子ミクロゲルのパターン形成に関する報告もあった。多くの参加者により活発な議論が行われ、盛会であった。
プログラム
14:00 - 14:40 特別講演 1
「DNA とナノポアを用いた論理演算システムの構築」
川野 竜司 先生(東京農工大学 )
15:00 - 15:40 特別講演 2
「ダイナミッククランプによる数理モデルと実システムの融合」
青西 亨 先生(東京工業大学 )
16:00 - 16:20 一般講演 1
「DNA の電場応答性を利用した
鞭毛様マイクロスイマーの設計」
津澤 卓(東北大学 学部 4 年生)
16:20 - 16:40 一般講演 2
「相分離、ゲル化、濡れによる
高分子ミクロゲルのパターン形成」
柳澤 実穂(九州大学 )
17:20 - 19:20 懇親会
2
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
ナノ・マイクロビジネス展 /ROBOTECH
開催日時 : 2014 年 4 月 23 日(水)- 25 日(金)
開催場所 : パシフィコ横浜
前年度に引き続き、分子ロボティクス技術の啓蒙のために
ブース展示を行った。今年度は「次世代ロボット製造技術展」
を展示テーマとしていたこともあり、DNA オリガミやリポ
ソームなどの生体分子を用いた分子ロボットのコンセプトに
多くの人が関心を示した。特に、DNA そのものをロボットの
本体やセンサーの素材として用いることは次世代ロボット
製造技術の観点から斬新なアイデアとして高く評価された。
産業界における分子ロボティクスの認知度を高めるために、
今後とも、このようなブース展示を継続してゆく予定である。
展示者 : 小長谷(東工大)
、萩谷(東大)
、村田(東北大) パシフィコ横浜
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
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分子ロボティクス研究会 5 月定例会
計測自動制御学会分子ロボティクス研究会(共催)
人工知能学会分子生物情報研究会(共催)
~「分子ロボティクスにおける計算と制御」~
開催日時 : 2014 年 5 月 9 日(金)
開催場所 : 電子通信大学東キャンパス総合研究棟3F
5月9日(金)に電気通信大学東3号館において、分子ロボティクス研究会(計測自動制御学会分子ロボティクス研究会、
人工知能学会分子生物情報研究会共催)が開催されました。
「分子ロボティクスにおける計算と制御」というテーマで発表を
募集し、1件の特別講演、4件の一般講演が発表されました。
特別講演は、東京電機大学の堀尾喜彦先生に「高次元カオスダイナミクスを用いたハイブリッド計算」と題したご講演を
賜り、
「ダイナミクスを利用した計算」という同じ研究課題を抱える分子ロボティクスの研究者との活発な研究討論が繰り
広げられました。
プログラム
14:00 - 14:50 特別講演
「高次元カオスダイナミクスを用いたハイブリッド計算」
堀尾 喜彦 先生(東京電機大学)
15:00 - 15:30
「走化性を司る制御器の性能解析:
大腸菌とゾウリムシ、どちらが優れた制御器を持つのか?」
東 俊一(京都大学)
15:40 - 16:10
堀尾 喜彦 先生
「生物型フィードバック制御系の安定判別法に関する研究」
中茎 隆(九州工業大学)
16:20 - 16:50
「スウォームネットワークにおける信号伝達機構の構成」
森 正志(兵庫県立大学)、礒川 悌次郎(兵庫県立大学)
、
フェルディナンド・ペパー(NICT)、松井 伸之(兵庫県立大学)
17:00 - 17:30
「鎖置換反応ダイナミクスを利用した
アナログコンピュータの構築に向けて」
柳橋 一哉(電通大)、小林 聡(電通大)、小宮 健(東工大)
、
4
藤本 健造(JAIST)
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
リポソームブートキャンプ 2014 in 駒場
開催日時 : 2014 年 5 月 16 日(金)- 18 日(日)
開催場所 : 東京大学駒場キャンパス 16 号館 604 室
様々な “分子部品” を搭載できる “分子ロボットのシャーシ(車体)
” として巨大リポソームを作製するに当たり、これ
まで研究者ごとに職人技のように行われてきた巨大リポソーム形成技術を標準化し様々な分野の研究者間で共有することは、
分子ロボティクス研究推進の重要な課題の一つと言えます。アメーバ班は、分子ロボティクス第四回領域会議の終了後に
班会議を行い、この課題に取り組むブートキャンプを企画する運びとなり、リポソーム形成技術である「油中水滴エマルション
遠心沈降法」の研究開発を行ってきた豊田が第 1 回ブートキャンプを駒場で開催致しました。
本技術は、原理的には、油中に水滴として分散できるものであればリポソームに内包可能であることから、参加者が
リポソーム作製のトレーニングをするのみならず、
応用可能なリポソーム実験をその場で展開できるよう工夫を施しました。
アメーバ班からは、野村研、瀧口研、平塚研、葛谷研、濱田研、感覚班からは、根本研、寺井研、スライム班からは、宮元研、
萩谷研(BIOMOD の学生を含む)が参加され、3 日間のブートキャンプは盛会のうちに終了しました。参加者皆さんが
本技術を習得できたことで目標を達成することができました。また、実施者として、本技術の有用範囲がおぼろげながら分
かってきたことは大きな収穫でした。北は北海道から、南は九州まで、参加者の皆様ご足労頂き有難うございました。7 月
には、出張版リポソームブートキャンプ 2014 in 鳥取大学(松浦研)を実施する予定です。 ブートキャンプ当日の最終打ち合わせ
(豊田太郎 / アメーバ班・東大院総合文化)
調製できたリポソーム分散液に参加者と盛り上がりました
リポソーム分散液を顕微鏡で観察している時の様子
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
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分子ロボティクス研究会 6 月定例会
開催日時 : 2014 年 6 月 9 日(月)
開催場所 : 名古屋大学東山キャンパス高等総合研究館
6月9日月曜日、名古屋大学の高等総合研究館カンファレンスルームにて「生き物に学ぶ」をテーマに6月定例研究会が
開催されました。分子を材料として自律的に自在に動くロボットを開発する際に、数十億年もの長い歳月を掛けて開発向上
(進化)を重ねてきた生き物に学ばない手はありません。
研究会では、肺炎などの病原微生物の仲間で特殊な運動装置を持つマイコプラズマ、スクリューの様な鞭毛で泳ぐ細菌、
動物細胞をはじめ全ての真核細胞が分裂する際に DNA すなわち遺伝情報を分配するために形成させる紡錘体、植物が受粉
受精を行う時に見せる花粉管伸長のガイダンス機構、これら原核生物、真核生物、動物、植物など多岐に渡る生物が観せる
多様な運動機構について、その分野の最先端にいらっしゃる4名の先生に特別講演をして頂きました。大変面白く、また
他分野の方にも分かり易く講演して頂いた御陰で、調和のとれた高度な運動を行う系を開発することの難しさと同時に、
その構築に必要なエッセンス、あるいは重要なヒントを、20名を超える参加者の皆さんに充分感じ取って頂けたと思っ
ています。
プログラム
14:00 - 14:50 「最小生物、マイコプラズマの滑走運動」
宮田 真人 先生(大阪市立大学)
14:50 - 15:40 「細菌はどのようにして泳ぐのか? 〜生体回転モーターの不思議〜」
小嶋 誠司 先生(名古屋大学)
16:00 - 16:50 「細胞分裂装置・スピンドルの形成機構」
五島 剛太 先生(名古屋大学)
16:50 - 17:40 「花粉管ガイダンスを分子ロボットで構築できるか?」
東山 哲也 先生(名古屋大学)
6
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
研究活動紹介
認 す る と、 こ れ は「 分 子 X の 濃 度 の 時 間 変 化 」 で あ る。
名古屋大学
これは確率過程でも同様で、分子の濃度が X である確率の
情報文化学部
時間変化は、dX/dt = X に変化する分子の確率 – X から他
の分子種に変化する分子の確率、となる(これはマスター
鈴木 泰博
方程式とよばれる)
。ここから “分子数が大数” という仮定
をおくと(←ここがポイント)
、微分方程式系+摂動項がエ
レガントに導出される(van kampen 拡大による)。“エレ
緒言
これまで、毎号に掲載される華々しい成果を見上げてきた。
見下ろしてみれば、私には反り身になってご紹介できるよう
な成果はない。不徳の致すところである。伏して重々お詫び
申し上げる。このままじっと伏してこの原稿を終えたいとこ
ろであるが、まだかなり余白がある。冷汗百斗で世迷い言を
以下少し申し上げる。
少数性とわたくし
ある日、化学も生物もど素人の私に突然、
「ジンコウセイ
メイ」なるものの研究が厳命され、矢庭に鋭い銃弾の飛び交
う最前線に丸腰で放り込まれた。物理や数学で高度に武装し
た勇者から容赦ない攻撃をうけ、逃亡生活の中で “生活の知
恵” として「コレハ抽象化学反応系デス」という苦し紛れの
呪文を覚える。そして初等的な化学絵本を横目に、ヨチヨチ
と絵本の通りに反応系みたいなもんをつくってみた。だが僅
かに口糊をしのぐうち、それは数十年前に Gillespie という
方が提案したものと違わぬものであることが判明する。去一
難亦一難。気がつけば Gillespie 王国に迷い込んでいて、三
角帽子を被され「Gillespie 法と同じであると自己批判せよ」
と糾弾される日々となる。祖国なき民となった私が流浪する
術として行き着いたのが “少数分子の化学反応系(これを少
ガントな方々” は摂動項の評価をしたり、分子衝突の確率分
布を工夫したりして少数性の検討を行っている(こちらが
殆ど)。私はエレガントな方法は難しくてわっからないので、
期待値をとって誤摩化したり計算機を動かしたりして珍芸人
として泥臭くやっているのである(図1)。
“ 手品のタネ” は0付近の連続性
反り身になって物申すほどの専門家ならぬ珍芸人として少
数性で妙な挙動を出す「手品のタネ」を曝露してしまえば…
それは実は連続性にある。離散系の場合は 1 の次は0になっ
てしまうが、連続系の場合は “0に限りなく漸近できる”。
例えば、X → X,X (r1), X, Y->Y,Y(r2) の2つの反応がある
場合 , 一見すると r1 は1次反応で、r2 は 2 次反応なので
r2 の反応は r1 よりも速いと思われる。実際にそうなのであ
るが、ポイントは Y が 1 を下回り0に近くなった場合であ
る。この場合には両者の立場は逆転していく。ここでいっそ
Y が0になってしまえば , X が発散するだけであるが、「連
続系で Y が限りなく0に漸近できる」場合には、X を増や
していくと、やがて X と Y の積が X を越えることができて、
それまで眠っていた r2 が突如に復活して , Y が増加に転じ
ることになる。これは(親なしの)丁半賭博みたいなもので、
離散系では所持金が有限で、破産のタイミングの期待値は所
持金に比例するが、連続系ではいくら負けても破産しないの
数性とよぶ)
” という珍芸であった…
で妙なことが起こる。この辺りもう少し詳しく調べてみたい
少数性やぶにらみ
では?と夢想している…
と思っている。少数になったほうが安定化する場合もあるの
反応速度論の教科書によると、化学反応を分子衝突のレベ
ルから考えるとは、本質的に反応を離散系としてみなすこと
になる。1 モルの分子の分子衝突を1つづつ考えるなんて、
全く途方も無い。だが、分子が大数であれば分子を統計的に
扱うことができる。すると、反応は “ある確率分布” に従っ
て生じるとみなすことができて確率過程となる。
ここでちょっと微分方程式で書かれている反応速度式、例
えば、dX/dt = aX – b XY、での dX/dt とは何か?を再確
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
図1. 泥臭く計算機を動かして少数性をみる。左から右に少数化していく。
同一パラメータだが分子数の多寡で振る舞いがかわる。
7
研究活動紹介
Fforce = - (1 ⁄ 3)( ∂ Fgel [ α ] ⁄ ∂α )
旭川医科大学
ここで Fforce は発生する力、Fgel [ α ] はゲルの自由エネルギー、
化学教室
[ α ] はガウス鎖のサイズで規格化した高分子鎖のサイズ、因子
1/3 は等分配則による。ゲルが膨潤したときに正の力を発生
眞山 博幸
する実験結果を説明する結果が得られた。
BZ 高分子鎖および BZ ゲルの
振る舞いに関する理論的研究
H25 年度では BZ 高分子および BZ ゲルに関する研究で幾つ
かの成果が得られたが、ここではそのうちの2つを簡単に紹介
する。いずれも原雄介先生(産総研)との共同研究で得られた
成果である。
BZ 高分子鎖の高次構造変化に関する研究 1)
Figure 1. Generative force of self-oscillating BZ gel (experimental re-
分子鎖内に BZ 反応場をもつ BZ 高分子鎖を合成し、同高分
子鎖が BZ 反応に伴って周期的にコイル状態と収縮状態の間で
周期的に高次構造変化する様子を世界で初めて 1 分子レベル
で直接観察した。測定には水晶発振子マイクロバランス測定法
(QCM)を用いた。高分子鎖の高次構造変化により高分子鎖の
流体力学的サイズが変化する。これは流体力学的質量(高分子
鎖および高分子鎖がまとっている流体をあわせた質量)が変化
することを伴う。一方、QCM 測定では対象物の質量が変化に
sults). Positive force is generated when the BZ gel becomes green (Ru3+).
Reprinted with permission from Y. Hara et al., J. Phys. Chem. B 118,
2576-2581, 2014. Copyright 2014 American Chemical Society.
H25 年度では研究成果を 6 報の論文にまとめることができた。
この場を借りまして、共同研究者の原雄介先生(産総研)
、角五
彰先生(北大院理)
、研究統括の先生方に感謝申し上げます。
論文:
よって水晶発振子の共振周波数がシフトするため、BZ 高分子
[1]Y. Hara, H. Mayama, Y. Yamaguchi, Y. Takenaka and R.
鎖の高次構造変化を検出することができる。実験結果を理解す
Fukuda: Direct Observation of Periodic Swelling and Col-
るため、高分子単分子鎖の 1 次相転移(膨潤と収縮が不連続で
lapse of Polymer Chain Induced by the Belousov-Zhabotinsky
起こることに相当)の平均場理論に BZ 反応を説明するモデル
Reaction, J. Phys. Chem. B 117, 14351-14357, 2013.
の1つである 2 変数 Oregonator で計算した周期的に変化す
[2]Y. Hara, H. Mayama, K. Morishima: Generative Force of
る溶媒の性質(高分子鎖の居心地がいい環境か、居心地が悪い
Self-Oscillating Gel, J. Phys. Chem. B 118, 2576-2581, 2014.
環境か)を繰り込むことで実験結果を再現する結果を得た。
BZ ゲルの力発生に関する研究
[3]Y. Hara, Y. Yamaguchi, H. Mayama: Switching the Belousov-Zhabotinsky reaction with a Strong-Acid-Free Gel, J. Phys. Chem.
2)
BZ ゲルの体積変化時に発生する力を測定する測定系を開発・
B 118, 634-638, 2014.
測定を行った。その結果、温度 18℃のときに約 10 Pa の力が
[4]Y. Hara, H. Mayama, Y. Yamaguchi, K. Fujimoto: Activation
周期 480 秒で発生する様子を観測した(Figure 1)。BZ ゲル
enegy of the Belousov-Zhabotinsky reaction in a gel with Fe
3
は緑色(Ru )の時に膨潤して正の力を発生する。発生した
(bpy)3 catalyst, Chem. Lett. http://dx.doi.org/10.1246.cl131175.
力の大きさは従来報告されていた BZ ゲルの 20 倍の力を発生
[5]Y. Hara, K. Fujimoto, H. Mayama: Self-Oscillation of Polymer
することを明らかにするとともに、筋肉が発生する力の 1% に
Chains with an Fe(bpy)3 Catalyst Induced by the Belousov-
相当する力を発生したことも明らかにした。
Zhabotinsky Reaction, J. Phys. Chem. B 118, 608-612 , 2014.
3+
実験結果を理解するために、BZ ゲルの自由エネルギーから
[6]Arif Kabir, D. Inoue, Y. Hamano, H. Mayama, K. Sada, A.
体積変化の際に発生する力を理論的に扱った。原理的にポテン
Kakugo: Biomolecular Motor Modulates Mechanical Prop-
シャルエネルギーと力の関係から得られる。
erty of Microtuble, Biomacromolecules, accepted.
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Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
研究活動紹介
兵庫県立大学大学院
工学研究科
礒川 悌次郎 図1. BCA におけるセル・遷移規則
非同期セルオートマトンによる
生物自己複製過程のモデル化
セルオートマトン (Cellular Automaton; CA) と呼ばれる計算モ
デルは、セルと呼ばれる有限状態機械が規則的に配列され、これ
らが局所的に情報交換を行うシステムであり、1940 年代に Neumann と Ulam により提案された。このモデルは生物における自己
複製過程をモデル化するために考案されたものであるが、現在では
流体のシミュレーションやパターン形成などに応用されている。
さて、元々の生物の自己複製過程のモデル化に関する研究では、
生物を構成している遺伝情報がどのように複製され、子孫に受け継
がれてゆくかという情報の流れをいかに簡単な規則や構造でモデル
化するかということに注力が注がれてきた。セルの複雑さという観
点から見ると、Neumann らの CA は各セルあたり 29 通りの状態を
取るものであるが、その後に提案された Langton の CA では 8 状態
となり、それをさらに単純化した Byl の CA では 6 状態まで削減し
ている。しかしながら、これらのモデルで行われている自己複製過
程は抽象化されており、現実の(真核)生物における自己複製過程
とは大きく異なっている。有性生殖や遺伝的操作を導入した自己複
製 CA は提案されているが、現在のところ、生物が行っている化学
反応に基づいた自己複製過程のモデル化についてはほとんど試みら
れていない。
我々は、自己複製プロセスについてより生物に近い形でモデル化
を行うために、生物内で行われている化学反応系のモデル化ならび
にシミュレーションを行う CA 手法を提案している。シミュレーショ
ンを行うための CA として各セルが他のセルと非同期かつ独立に更
新を行うブラウニアン CA(Brownian CA; BCA) を用いている。各
セルの構成とこのセルを更新するための規則である遷移規則の例を
図1に示す。各セルは4つのパーティションを含んでおり、各パー
ティションは有限個の状態のうちの一つを取る(状態は各パーティ
ションの色で表している)。各セルは図1に示すように自身のパー
図2. BCA による自己複製過程のモデル
ティション状態ならびに周囲のセルの一部のパーティション状態を
更新する。
生物における自己複製過程には、大きく分けて DNA 鎖の複製、
[1] D.Takata, T.Isokawa, F.Peper, and N.Matsui: Modeling
Chemical Reactions in Protein Synthesis by a Brownian Cellular
DNA 鎖から RNA 鎖への転写、
スプライシングによる mRNA の生成、
Automaton, Proc. 1st Int. Symp. Computing and Networking
mRNA からタンパク質の生合成があるが、[1] においては mRNA
(CANDAR’13), pp.527−532, 2013.
の生成までをモデル化した結果を示している(図 2)
。
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
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研究活動紹介
岐阜大学
工学研究科
池田
将
バイオマーカーを見分ける
ゲル状物質を開発
小分子化合物が水中でナノサイズの極細繊維(ナノファ
イバー)となり、そのナノファイバーが絡み合うことで
図1. バイオマーカーを見分けて溶けるゲル状物質
ヒドロゲル(超分子ヒドロゲル)を形成するゲル化剤の
高機能化を進めてきた。今回、それらの知見を基に、酸化
還元反応によって溶けるという特徴をもった反応性超分子
ヒドロゲルをそれぞれ開発した
[1]
。
酸化反応によって溶けるヒドロゲルを形成するゲル化剤
(BPmoc-F3)は、活性酸素種(ROS)の中で過
本成果は、京都新聞、岐阜新聞、中日新聞、日刊工業新聞、
日本経済新聞、化学工業日報、朝日新聞 ( 以下掲載 ) に紹介
されました。
酸化水素を選択的に見分けて溶けることを明らかにした。
過酸化水素は、各種オキシダーゼ(酸化酵素)がその基
質を酸化する時に生成することが知られている。そこで、
BPmoc-F3が形成するヒドロゲルにいろいろなオキ
シダーゼを埋め込んだところ、内包したオキシダーゼの
基質をヒドロゲルに添加した時にのみゲルが溶けることを
見いだした。例えば、グルコースオキシダーゼ(GOx)
を内包させたヒドロゲルは、グルコースのみに応答して溶
けることを実証した(写真の1列目)
。この結果は、ヒド
ロゲルの中でオキシダーゼが十分にその活性を保持し、基
質を酸化する際生成した過酸化水素がヒドロゲルを溶かし
ているということを意味している。つまり、1種類のゲル
2014 年 5 月 31 日付の朝日新聞岐阜地域欄 28 面(転載許諾済)
化剤が形成するヒドロゲルに酵素を選んで混合するだけ
で、さまざまな生体分子に応答して溶けるヒドロゲルが作
[1]M. Ikeda, T. Tanida, T. Yoshii, K. Kurotani, S. Onogi, K.
製できることになる。還元反応によって溶けるヒドロゲル
Urayama and I. Hamachi: Installing logic-gate responses to a
の開発にも成功しており、別の生体分子に応答して溶ける
variety of biological substances in supramolecular hydrogel–
ことも明らかにしている。また、合目的にヒドロゲルと酵
enzyme hybrids, Nat. Chem., 6 (6), 511–518, 2014. [DOI:
素を混合することで、論理応答 (AND 応答など ) を引き
10.1038/NCHEM.1937]
出すことも可能であることを実証している。
10
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
研究活動紹介
産業技術総合研究所
ナノシステム研究部門
向井 理 ・ 有村 隆志 を用いることで、ハイドロゲルの膨潤収縮・自律振動反応を
制御することに初めて成功した [2]。フェロインを触媒とし
たハイドロゲルは、酸化状態では 35℃、還元状態では 32℃
に明確なLCSTを有すことが判明した。また、BZ反応の
振動特性に従って 7%の膨潤収縮運動を示した。この自律振
動反応は、およそ 7 分のインターバルでおよそ 6 時間継続
した。
近況としては、分子ロボでお世話になりました向井は、8
月より米国リーハイ大学レーゲン研究室でのポスドクとして
異動いたします。
鉄錯体・フェロインを触媒とする
BZゲルの自律性膨潤収縮運動
概日リズムを有する生体は、外部から入るエネルギーと生
体内で散逸するエネルギーが一定の均衡を保つことで、細胞
レベルから一個体に至るすべての階層において、自律神経、
心臓拍動等の自律的機能を有するアクティブゲルである。
図 1. ハイドロゲルの構造
他方、これまでの自己組織化による生体超分子に関する研究
は、
「目的物=最安定状態」
というエネルギー最小化に帰着し、
非平衡系の動的安定を利用するアプローチはほとんど行われ
ていないのが現状である。本研究では、室温付近に下限臨界
相溶温度( Lower Critical Solution Temperature:LCST)
を有するハイドロゲルを用いて、非平衡的安定性に基づいた
ゲル反応場で構成されるスケール拡大型分子ロボットの開発
を目指している。
図 2. ハイドロゲルの膨潤収縮の自律運動
1996 年に、吉田らにより、希土類金属であるルテニウム
錯体を用いた Belousov-Zhabotinsky( BZ ) 反応による自
律振動ゲルシステムに関する知見が示されて以来 [1]、最近
では自律的機能を有するアクティブゲルの研究が盛んに行わ
[1] Ryo Yoshida, Toshikazu Takahashi, Tomohiko Yamaguchi,
れている。しかし、構造化ゲルのBZ反応触媒として酸化・
Hisao Ichijo: Self-oscillating Gel, J. Am. Chem. Soc., 118,
還元部位に使用されている金属錯体は、高価なルテニウム錯
5134-5135, 1996.
体のみである。今後、自律振動ゲルシステムをアクチュエータ
[2] Takashi Arimura, Masaru Mukai: A Self-oscillating Gel
等へ応用するにあたっては、高価な希土類を使用しない安価
Actuator Driven by Ferroin, Chem. Commun., 50, 5861-5863,
な錯体での駆動が望まれる。今回、構造化ゲルの構成スケル
2014.
トンとして N- イソプロピルアクリルアミドを採用し、BZ
反応の触媒として通常使用される安価な鉄錯体・フェロイン
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
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研究活動紹介
東京大学大学院
総合文化研究科
豊田 太郎
油中水滴エマルション遠心沈降法による
ジャイアントベシクル作製
ジャイアントベシクル(GV)は細胞サイズの袋状脂質二
分子膜であり、光学顕微鏡下で形状や形態変化を観測できる
ことから、アメーバ型分子ロボットの “車体” として注目さ
れている。名古屋大学の宝谷紘一先生(名誉教授)のグルー
プが世界に先駆けて、リン脂質でできた GV(巨大リポソー
ム)に細胞骨格の構成タンパク質を内包し、GV があたかも
細胞のような形態となる現象を発表して約 25 年の月日が経
ったが、細胞のように動き出す GV はいまだ実現されていな
図 1. 性フェロモン(Bombykol)の受容体の遺伝子(RNA)とミクロ
い。そのためには駆動力を生み出す分子素子を設計図通りに
ソーム膜を含む無細胞翻訳反応液を内包した GV において、受容体
GV に内包することが必要であるが、従来の GV 作製法はそ
が合成され GV 膜上に移行する模式図。
文献 [5] から許可を得て転載。
の技術に至っていないことが要因の一つだろう。そこで私た
ちは、米国ハーバード大の Weitz 教授らが 2003 年に発表
した油中水滴エマルション遠心沈降法 [1] に注目して、その
改良を行うことで課題解決を目指した。本手法は、リン脂質
を溶解した流動パラフィンなどの油の中に、GV に内包した
い水溶液をリン脂質で覆った水滴として懸濁し、それを水層
[1] S. Pautot, B. J. Frisken, D.A. Weitz, Langmuir, 19, 2870-2879,
2003.
に重層した後、遠心力を利用してその水滴を下の水層に移行
[2] T. Toyota et al., Anal. Chem., 84, 3952-3957, 2012.
させる過程で、もう一つのリン脂質の膜で水滴を覆うことで
[3] K. Nishimura, T. Toyota, et al., J. Colloid Interf. Sci., 376, 119-125,
GV を作製する。私たちは、油、脂質、水溶液について検討
2012.
を重ね、水溶性の有機分子、タンパク質、DNA や RNA、金
[4] Y. Natsume, T. Toyota, Chem. Lett., 42, 295-297, 2013.
属ナノ粒子、帯電したポリスチレンビーズ、細胞内小器官を
[5] S. Hamada, T. Toyota et al., Chem. Commun., 50, 2958-2961, 2014.
GV に内包できる段階にまで要素技術を高めることができた
[6] 豊田太郎 , 藤浪真紀 , 野本知理 , 櫻井健志 , 中谷敬 , 神 崎亮平 ,
[2-5]
。また、多くの分子種を同時内包することが必要な遺伝
化学 , Vol.69, 12-16, 2014.
子発現反応系を内包可能な GV 作製条件も見出すことができ
た(図1)[5,6]。本作製法で形成された GV では、用いる油
によって脂溶性分子も GV 膜に導入できる。今後は、アメー
バ型分子ロボットの実現にあたってアメーバ班内および他の
班の研究者の方々と連携するのみならず、DNA の入力に応
答して形態変化する新奇ジャイアントベシクルの創成を目指
したい。
12
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
研究活動紹介
北陸先端科学技術大学院大学
マテリアルサイエンス研究科
坂本 隆 分子ロボット創製に向けた DNA・RNA の光操作
「様々な外部刺激に応じてプログラムした通りに行動する。」
図1.
CNV
K を含むオリゴ DNA と RNA との光架橋反応
DNA や RNA などの核酸は、そんな分子ロボットに求めら
れる「センサー」
「演算」
「運動」の機能要素をすべて実装可
能な分子として期待されている。さらに、核酸の構造や機能
を光で制御することができれば、分子ロボットの機能要素を
光で制御することが可能となり、機能要素間の高度な連携も
可能になるものと期待できる。
我々の研究室では3−シアノビニルカルバゾールヌクレオ
シド(CNVK)を含むオリゴ DNA が、わずか数秒の UV 光照
射で相補的な核酸と光架橋し、1本の鎖に戻ることのない強
固な2重鎖核酸構造を形成することを報告してきている [1]。
最近では、この光架橋反応を用いた DNA ナノ構造制御や
DNA 鎖置換反応制御、さらにはこの光架橋反応のペプチド—
DNA 相互作用系への拡張に挑戦している。ここでは、この
CNV
K を用いて細胞内 mRNA 機能の光制御に挑戦した最近の
結果について紹介したい。
分子ロボット内では様々な分子が混在し、それらが複雑に
相互作用しながら機能を発現することが想定される。このよ
図2. 細胞内 GFP mRNA の定量結果
うな複雑系において CNVK を用いた光架橋反応による核酸機
○:オリゴ DNA 未添加、●:オリゴ DNA 添加、▼のタイミングで光
能の光制御が可能か否か、細胞内の mRNA を標的に検討し
照射を行った。
た(図1)。具体的には GFP 遺伝子を定常的に発現している
HeLa 細胞に、GFP mRNA と相補的、かつ、CNVK を含むオ
リゴ DNA(25 量体)を添加し、366 nm の UV 光を 10 秒
[1] Kenzo Fujimoto, Asuka Yamada, Yoshinaga Yoshimura, Tadashi
照射後、
完全長の GFP mRNA を RT-PCR にて定量した。結果、
Tsukaguchi and Takashi Sakamoto, Details of the ultrafast DNA
図2b に示した通り、光照射後約 60%の GFP mRNA の減
photo-cross-linking reaction of 3 cyanovinylcarbazole nucleoside:
少が見られた。また光照射のタイミングを変えても同様の
Cis–trans isomeric effect and the application for SNP-based
効果が得られ(図2c)
、光照射を2回繰り返すと約 90% の
genotyping, J. Am. Chem. Soc., 135, 16161–16167, 2013.
mRNA の減少が見られた(図2d)
。GFP タンパク質の発現
[2] Takashi Sakamoto, Atsuo Shigeno, Yuichi Ohtakia and Kenzo
量も光照射により有意に減少したことから、細胞内という複
Fujimoto, Photo-regulation of constitutive gene expression
雑系において狙った mRNA に対する光架橋が可能で、その
in living cells by using ultrafast photo-cross-linking oligonucle-
機能を光により自在に制御できることが明らかとなった
[2]
。
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
otides, Biomater. Sci., 2, 1154–1157, 2014.
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研究活動紹介
東京大学大学院
情報理工学系研究科
萩谷 昌己 スライム班とゲルオートマトン
スライム班の目標は、抽象的には「分子シグナルを変換・
時空間パターンの迅速な生成が可能であると考えられる。
増幅し、ミリメートルスケールの移動や形態変化を惹き起こ
そして、ゲルオートマトンにより分子ロボットの chassis を
す」ことであり、具体的に究極的には「外界に反応してナメ
作れないかと考えた。セルの溶液によってその近くのゲルを
クジのような蠕動運動を行うスライム型分子ロボットを構築
膨潤・収縮させれば、chassis 全体の構造を変化させること
する」ことであるが、その道は決して平坦ではない。
ができるだろう。
BZ 反応に基づいて振動する BZ ゲルは既に存在している
これまでに、DNA ゲルにより壁を作り壁が溶けて溶液が
が、BZ 反応が強酸性下でのみ起こるため、分子シグナル、
混ざること、別の種類の DNA ゲルが膨潤して隙間を埋める
特に DNA 分子によってその運動を制御することは難しい。
ことにより壁が新たに構築されることを確認した(図2およ
一方、DNA に基づくハイドロゲルは、いうまでもなく DNA
ぶ図3)。
分子によって制御可能ではあるが、mM レベルの DNA 濃度
一方、ゲルオートマトンの各種の数理モデルの理論的な
を必要とし、ゲル中の DNA 自身の拡散が非常に遅いために、
考察を行っている。特に、空間は離散的であるが、溶液は現
反応拡散場をスケールアップすることは容易ではない。しか
実的な連続的 mass-action kinetics に従う数理モデルのも
も、これまでに報告されている DNA ゲルは、膨潤もしくは
とで、一方向に伝達するシグナルが実現可能であることを示
収縮の一方のみ可能である。そもそも、反応拡散場を設計し
し、その結果として、計算万能性が(理論的ではあるが)成
自在に制御することは(少なくとも筆者には)容易ではない。
立することを示した。
そこで筆者たちは、DNA ゲル中の DNA 分子の拡散が遅
いことを逆手にとって、DNA ゲルで作った壁で空間をセル
に分割することにより、空間を離散化することを構想した。
今後、早々に図4のようなゲルマシンのプロトタイプを
構築したいと考えている。
なお、以上の研究は、スライム班の分担研究者の村田・
すなわち、セルオートマトンの知見と技術を応用してスライ
川又、連携研究者の今井、公募班の磯川たちとの共同研究と
ム型分子ロボットを構築しようと考えた。各セルは溶液で満
して行い、非通常計算と自然計算に関する国際会議(UCNC
たされ、溶液で起こる反応により、ゲルの壁を溶かしたりゲ
2014)にて発表した [1]。
ルの壁を再構築したり(壁の穴を塞いだり)する分子(典型
的には DNA 分子、decomposer もしくは composer と呼ぶ) [1]Masami Hagiya, Shaoyu Wang, Ibuki Kawamata, Satoshi
が産出されると想定される(図1)
。壁が溶けると壁で隔て
Murata, Teijiro Isokawa, Ferdinand Peper, Katsunobu Imai:
られていたセルが融合しそれらの溶液は混合する。壁が再構
On DNA-Based Gellular Automata, Unconventional Compu-
築されればセルは再び分割される。こうして、離散的ではあ
tation and Natural Computation, 13th International Confer-
るが空間的な時空間パターンが生成される。このようなセル
ence, UCNC 2014, Lecture Notes in Computer Science
オートマトンをゲルオートマトン(gellular automata)と
Vol.8553, 2014, pp.177-189.
呼ぶ。ゲルオートマトンはゲルと溶液の混合系であるため、
14
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
図1. 壁の融解と構築
図2. 入れ子になったチューブ中に作られたゲルの壁が溶けて溶液が混ざりあう様子
図3. 膨潤する DNA ゲルを用いて、ゲルとチューブの間の隙間がゲルの膨潤により埋まり、溶液間の壁が構築された様子
図4. 外からの刺激により溶液が decomposer を生成して壁が溶け、混合した溶液がゲルを膨潤・収縮することが
期待されるゲルマシンのプロトタイプ
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
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TOPICS
Chemical Account Research 誌 vol.47,no.6 に分子ロボティクス関連の論文が 4 報掲載されました。 Molecular Robotics Symposium
10:00-15:45, Friday, September 26,2014 Shiran Hall, Kyoto University
Special Talks
Nadrian C. Seeman (New York Univ.)
"Molecular Machines Made from DNA " (10:10-)
Hiroyuki Asanuma (Nagoya Univ.)
"Light-powered DNA nanomachine carrying
azobenzenes as molecular photon-engine " (11:10-)
Panel Discussion (13:30-15:30)
Molecular Robotics : Contributions to Science, Technology and Society
Moderator : Satoshi Murata (Tohoku Univ.)
Panelists : Shawn Douglas (UCSF)
Nadrian C. Seeman (New Yorek Univ.)
Masami Hagiya (Univ. of Tokyo)
Akihiko Konagaya (TITECH)
Satoshi Kobayashi (UEC)
Hirohide Saito (Kyoto Univ.)
今後の予定
9 月 6 日 BIOMOD2014 国内大会 ( 東京大学本郷) 9 月 22-26 日
DNA20 国際会議(京都大学)
9 月 25-27 日
第 52 回日本生物物理学会年会(札幌)
10 月 28-30 日
CBI 学会 2014 年大会(東京)
11 月 1-2 日
BIOMOD2014 本大会(ハーバード大学)
12 月 12 月定例研究会(九州)
2015 年 1 月
1 月定例研究会(鳥取)
2015 年 3 月 第五回領域会議(関東)
次号 No.8 は11月30日発行予定です
Molecular Robotics Research Group. News Letter No. 7
発行:新学術領域 分子ロボティクス 感覚と知能を備えた分子ロボットの創成
事務担当 :村田智(東北大学 [email protected])
広報担当 :小長谷明彦(東京工業大学 [email protected]) http://www.molecular-robotics.org/
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Molecular Robotics Research Group. News Letter No.7
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