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注目すべき感染症
Infectious Diseases Weekly Report Japan 2007年 第26週(6月25日∼7月1日) :通巻第9巻 第26号 注目すべき感染症 ◆手足口病 手足口病(hand, foot, and mouth disease : HFMD) は、口腔粘膜および手や足などに現れる水 疱性の発疹を主症状とした急性ウイルス性感染症であり、乳幼児を中心に夏季に流行する疾 患である。病原ウイルスは主にコクサッキーA16(CA16) 、エンテロウイルス71(EV71) であるが、 その他コクサッキーA9やA10などのエンテロウウイルスによっても類似の症状を呈することがあ る。 臨床的特徴であるが、感染から3∼5日の潜伏期間の後に、口腔粘膜、手掌、足底や足背な どの四肢末端に2∼3 mmの水疱性発疹が出現する。発熱は約3分の1に認められるが軽度で あり、高熱が続くことは通常はない。本症は基本的には数日間の内に治癒する予後良好の疾患 である。しかしながら、まれではあるが髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経感染症症状 などのほか、心筋炎、急性弛緩性麻痺などの多彩な臨床症状を呈することがある。特にEV71 に感染した場合は、髄膜炎、脳炎などの中枢神経性の合併症を引き起こす割合が比較的高い ことが明らかとなってきているので、EV71が流行しているシーズンは、手足口病発症児の経過 を注意深く観察し、合併症に対する警戒を行う必要がある。 感染経路は飛沫感染、接触感染、糞口感染であり、保育園や幼稚園などの乳幼児施設におい ての感染予防は手洗いの励行と排泄物の適正な処理が基本となる。本疾患は主症状が回復し た後も比較的長期間に渡って児の便などからウイルスが排泄されることがあるが、基本的には軽 症疾患であることを踏まえ、回復した児に対して長期間の欠席を求めることは現実的ではない。 感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関からの定点当たり報 告数は、2007年では第19週以降増加が継続しているものの、2005年および2006年の水準を下 回った状態が続いている (図1)。第26週までの定点当たり累積報告数(全国平均では9.41、総 患者報告数28,348) をみると、宮崎県(63.9) 、熊本県(50.5)、佐賀県(46.3) 、長崎県(38.9)、鹿 児島県(36.3) 、福岡県(26.0) 、大分県(22.4) 、福島県(19.2) の順であり、九州地域を中心に流 行がみられている (図2)。累積報告数の年齢別割合をみると、発生報告の中心が5歳以下の乳 幼児であることは例年と同様であるが、2007年は特に0∼3歳の報告割合が71.8% (第26週現在) と多くなっている (図3)。第26週までの手足口病由来ウイルス分離・検出報告件数は59件であ り、CA16が40.7%(24件) と最多を占め、次いでEV71(32.2%、19件) 、CA9(3.4%、2件) の順と なっている (図4)。2003年以降の手足口病由来ウイルス分離・検出状況をみると、EV71の報告 割合は、2003年、2006年よりは低いものの、2004年、2005年の報告割合を上回っている (図5)。 手足口病の流行は間もなくピークを迎えるものと予想されるが、今後ともその発生数の推移や EV71の分離・検出状況には注意が必要である。 Ministry of Health, Labour and Welfare / National Institute of Infectious Diseases 5 Infectious Diseases Weekly Report Japan 2007年 第26週(6月25日∼7月1日) :通巻第9巻 第26号 (年) 6.0 2007 2006 5.0 2005 定 点 当 た り 報 告 数 2004 4.0 2003 3.0 2002 2001 2.0 2000 1999 1.0 0 1998 1997 1 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50(週) 図1. 手足口病の年別・週別発生状況(1997年∼2007年第26週) 70.0 63.9 60.0 累 積 定 点 当 た り 報 告 数 50.5 50.0 46.3 38.9 40.0 36.3 30.0 26.0 22.4 19.2 20.0 15.4 10.0 9.4 8.1 9.3 7.5 0 2.1 9.0 9.0 6.8 4.4 1.9 2.2 12.7 11.7 10.7 8.6 4.3 4.3 3.3 2.6 5.4 4.7 3.5 4.0 1.3 12.0 9.3 8.7 5.6 5.1 4.2 4.5 4.7 1.8 6.2 1.6 3.1 4.8 2.4 3.9 全北青岩宮秋山福茨栃群埼千東神新富石福山長岐静愛三滋京大兵奈和鳥島岡広山徳香愛高福佐長熊大宮鹿沖 海森手城田形島城木馬玉葉京奈潟山川井梨野阜岡知重賀都阪庫良歌取根山島口島川媛知岡賀崎本分崎児縄 国道県県県県県県県県県県県都川県県県県県県県県県県県府府県県山県県県県県県県県県県県県県県県島県 県 県 県 図2. 手足口病の都道府県別累積報告状況(2007年第1∼26週) Ministry of Health, Labour and Welfare / National Institute of Infectious Diseases 6 Infectious Diseases Weekly Report Japan 100% 2.6 7.9 80% 24.6 2.2 6.9 2.3 7.1 2.5 7.2 23.5 23.0 24.3 2007年 第26週(6月25日∼7月1日) :通巻第9巻 第26号 2.4 7.0 2.4 6.8 22.0 21.3 2.7 7.5 1.9 5.3 20歳以上 19.3 15∼19歳 23.8 10∼14歳 8∼9歳 60% 37.1 37.9 36.1 37.2 39.8 36.6 38.4 37.6 6∼7歳 4∼5歳 40% 2∼3歳 20% 26.2 27.5 28.5 26.4 28.3 30.6 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 32.0 26.2 0∼1歳 0% 2006年 2007年 (∼第26週) 図3. 手足口病の報告症例の年別・年齢群別割合(2000∼2007年第26週) CA16 23.7% 40.7% EV71 3.4% CA9 32.2% その他 総報告数=59 図4. 手足口病由来ウイルスの分離・検出状況(2007年第1∼26週) 2007年 40.7 32.2 3.4 23.7 CA16 (∼第26週) EV71 2006年 31.8 50.1 2.9 11.5 CA10 CA9 2005年 57.1 10.5 29.9 Echo18 CA4 2004年 2003年 0% 63.8 16.1 17.0 71.1 20% 40% 60% 14.1 2.5 4.1 80% その他 7.9 100% 図5. 手足口病由来ウイルスの年別の分離・検出状況(2003∼2007年第26週) Ministry of Health, Labour and Welfare / National Institute of Infectious Diseases 7