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髄膜炎菌性髄膜炎

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髄膜炎菌性髄膜炎
Infectious Diseases Weekly Report Japan
2001年 第43週
(10月22日∼10月28日)
:通巻第3巻 第43号
感染症の話
◆髄膜炎菌性髄膜炎
化膿性髄膜炎のなかで髄膜炎菌を起炎菌とする疾患を髄膜炎菌性髄膜炎という。髄膜炎を起
こす病原性細菌はいくつか知られているが、大規模な流行性の髄膜炎の起炎菌は髄膜炎菌のみ
であることから、流行性髄膜炎ともよばれる。
疫 学
日本においては第二次世界大戦前後が症例数のピークで、1960年代前半からは激減しており、
近年では極めて稀な疾患となっている
(図1)
。1986∼1994年の間での小児性化膿性髄膜炎184
例のうち、髄膜炎菌によるものはわずか1例(0.5%)
と報告されており、日本では特にBおよびY群
が起炎菌であることが多い。
しかし、海外においては特に髄膜炎ベルト
(meningitis belt)
とよばれる、アフリカ中央部におい
てその罹患率が高く、また先進国においても局地的な小流行が見られている。
アフリカではA群が起炎菌であることが圧倒的に多く、8∼12年周期で地域流行を起こしており、
またアジア
(ベトナム、ネパール、モンゴル)
、ブラジルでも流行を起こしている。B群は欧州に最も
広く認められ、C群は米国、欧州に
多く見られる。近年では1998年イン
グランドでC群による流行性髄膜炎
が発生し、1,500人以上が発症し、
4384
150人が死亡したと報告されてい
4000
る。世界全体としては毎年300,000
人の患者の発生に対し、30,000人
の死亡例が出ている。最近ではメ
1500
ッカへの巡礼者を介したW-135群
1304
1350
の感染例があり、2001年6月の時点
1250
1193
でのWHOへの報告では地元サウ
ジアラビアの109人、英国及びアイ
1000
949
ルランドの41人を筆頭に世界中か 発
症
ら報告されている。
例
750
一般的に患者としては生後6カ月
630
から2年の幼児及び青年が多い。
526
500
髄膜炎菌は患者のみならず、健
445
常者においても5∼20%の保菌率を
示す。保菌者が何故無症状のまま
250
275
214
であるのかについては気候や空気
72
33 24 27 12
6
汚染等の環境条件や栄養条件、宿
0
1990
1920
1980
1960
1940
主側の免疫力の相違などが原因因
年
子の一部として考えられているが、
図1. 日本における髄膜炎菌性髄膜炎の発症例の推移
現在のところ明確な見解はない。
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2001年 第43週
(10月22日∼10月28日)
:通巻第3巻 第43号
病原体
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis )
は1887年にWeichselbaumによって急
性髄膜炎を発症した患者の髄液から
初めて分離された。大きさは0.6∼0.8
μm、グラム陰性の双球菌(図2)
で、
非運動性である。患者のみならず、
健常者の鼻咽頭からも分離される。
人以外からは分離されず、自然界の
条件では生存不可能である。
この菌はくしゃみなどによる飛沫感
染により伝播し、気道を介して血中に
入り、さらには髄液にまで進入するこ
とにより敗血症や髄膜炎を起こす。
図2. 髄膜炎菌のグラム染色像
髄膜炎菌は莢膜多糖の種類によ
って少なくとも13種類(A, B, C, D, X,
Y, Z, E,W-135, H, I , K, L)
のSerogroup(血清群)
に分類されているが、起炎菌として分離されるも
のはA, B, C, Y, W-135が多く認められ、A, B, Cが全体の90%以上を占める。
血清群以外ではMLST(Multi Locus Sequence Typing)
と呼ばれる、菌の成育に必須の遺伝
子(house keeping gene)
の塩基配列の多様性を比較、解析することにより菌を分類する方法が導入
され、分子レベルでの分類法が徐々に適応されつつある。
臨床症状
気道を介してまず血中に入り、1)菌血症(敗血症)
を起こし、高熱や皮膚、粘膜における出血
斑、関節炎等の症状が現れる。引き続いて2)髄膜炎に発展し、頭痛、吐き気、精神症状、発疹、
項部硬直などの主症状を呈する。3)劇症型の場合には、突然発症し、頭痛、高熱、けいれん、
意識障害を呈し、DIC(汎発性血管内凝固症候群)
を伴いショックに陥って死に至る
(WaterhouseFriderichsen症候群)
。
菌血症で症状が回復し、髄膜炎を起こさない場合もあるが、髄膜炎を起こした場合、治療を施
さないとその死亡率はほぼ100%に達する。抗菌薬が比較的有効に効力を発揮するので、早期に
適切な治療を施せば治癒する。
潜伏期間は3∼4日とされている。
病原診断
髄液、血液から分離培養し、グラム染色による検鏡及び生化学的性状により髄膜炎菌であるこ
とを確定する。
最近はラテックス凝集法による診断キットがSlidex(Bio-Merieux)
から販売されており、髄液中の
細菌抗原の存在の有無によって検出する方法がある。ただし、このキットはA, B, C群の抗原し
か検出できないので、その点に留意する必要がある。
血清群別はWellcome社、E.Y Lab社等で販売されている群別用の抗体を用いて凝集反応の
有無によって検査を行う。
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PCRによる髄膜炎菌の同定はいくつかの論文で報告されているが、標準化するまでには至って
いない。
治療・予防
第一選択薬としてpenicillin Gが、第二選択薬としてはchloramphenicolが推奨されている。ま
た一般に髄膜炎の初期治療に用いられるcefotaxime(CTX)
、ceftriaxone(CTRX)
、cefuroximine
は髄膜炎菌にも優れた抗菌力を発揮するので、菌の検査結果を待たずしてCTX、CTRXを
penicillin Gと併用すれば起炎菌に対して広範囲な効果を現し、早期治療の助けとなる。
予防としてはまずワクチンが挙げられる。現在ではA, C単独もしくはその二群及びA, C, Y, W-135
の四群混合の精製莢膜多糖体ワクチンが使用されている。しかし、2歳以下の幼児には効果が薄
く、さらに大人に対しても効果はあるが、その効果は数年でなくなるとされている。最近ではC群髄
膜炎菌の莢膜多糖体を不活化ジフテリアトキシンに結合させた混合ワクチンが開発され、英国で
は2000年から導入され始めており、その動向が注目されている。B群の精製莢膜多糖体ワクチン
は免疫惹起力が非常に弱く、ワクチンとして使用できないため、現在外膜タンパクを用いたワクチ
ンが開発、検討されている。いずれにしても、本邦においては発生率の低さからワクチンは認可
されておらず、現在のところアフリカ等の髄膜炎菌性髄膜炎多発地域に行く旅行者でワクチン接
種を希望する場合は海外から個人輸入するか、海外で接種する以外に方法がない。
患者と接している人々の感染率は一般の人々に対してかなり高くなるため、ワクチン以外の予
防法として抗生物質の予防投与が推奨されており、主にリファンピシンが用いられている。
発生動向調査
1999年4月に施行された感染症新法において4類感染症に分類され、全数把握の対象となっ
ている。髄膜炎菌性髄膜炎による患者を診断した医者は速やかに最寄りの保健所長を通じて都
道府県知事に届け出なければならない。
*なお、2000年4月から厚生労働省研究班が中心となって全国での髄膜炎菌性髄膜炎の国内疫学的
調査を開始した。上記のように報告義務が髄膜炎に限定されているため、髄膜炎菌による発症例の全
体像が把握しにくい状況であり、可能であれば地方衛生研究所、もしくは国立感染症研究所に症例をご
連絡くださるようご協力頂きたい。
(国立感染症研究所細菌部)
(国立感染症研究所細菌部 高橋英之)
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