Comments
Description
Transcript
1 研究主題「子どもたちが,生きる意味や価値を見出すいのちの教育 (性
研究主題「子どもたちが,生きる意味や価値を見出すいのちの教育」(性教育) 鹿島市立古枝小学校 1 主題設定の理由 子どもたちを巻き込んだ様々な事件,事故が次々に起こる。子どもたちの自殺のことも大きな社会問 題となっている。そんな中で,親も教師もどうすればいいかと頭をかかえている。大人自身も,混とん とした社会状況の中でそれぞれが問題を抱えている。このような出来事の根底に「自分が生きている意 味があるのか。自分が生きている価値があるのか。」という子どもたちの叫びが聞こえるようである。 本校は,平成14年度から平成16年度の3年間,文部科学省よりエイズ教育(性教育)推進地域指定を受 け,性教育の研究実践をエイズ教育にスポットを当てながら積み重ねていった。平成17年度は,その流 れを引き継ぎ,いのちの教育の具現化を図るということで実践研究を行ってきた。 学校における性教育の基本となる考え方やその内容は,「学校における性教育の考え方,進め方」(文 部省(当時)平成11年3月31日)に,次のように示されている。「学校における性教育は,児童生徒等の人 格の完成と豊かな人間形成を究極の目的とし,人間の性を人格の基本的な部分として生理的側面,心理 的側面,社会的側面などから総合的にとらえ,科学的知識を与えるとともに,児童生徒等が生命尊重, 人間尊重,男女平等の精神に基づく正しい異性観をもつことによって,自ら考え判断し,意思決定の能 力を身に付け,望ましい行動を取れるようにすることである。」 いのちの大切さを実感することや生きる力を身に付けることの大切さは,だれもが認めることであり, 当然のことながら教育現場にそれが求められる。しかし,性教育について言えば,性教育の目標や内容 について様々な意見が出され,どのような目標をもって,どのような内容をどのような方法で行うのか 個人的にも組織的にも迷うような状況である。また,性に関する誤解もまだまだ多いように思われる。 先に示した性教育の基本となる考え方やその内容は,個々人の生まれながらにしてもっている素質を 開花させ,よりよい生き方,よりよい社会を具現化することへと向かうものである。学校教育の目指す 「児童・生徒の人格の完成,豊かな人間形成」に直結しているものだと言える。 生きているということの素晴らしさやかけがえのなさを,子どもたちにどのように実感させていくか がいのちの教育の鍵となる。このことが,子どもたちに生きていることの意味や価値を見いださせ,自 分を大切に思い,みんなと共に生きているということを実感させ,自分の人生をたくましく生き抜くこ とにつながると考える。 以上のようなことを目指し,小学校期の発達段階に合ったいのちの教育とはどのような具体的な実践 と結び付くのかを,4年間の実践研究を基に明らかにしたいと考え,本主題を設定した。 2 研究の目標 小学校期における性教育がどのような教育実践として具現化するのかを明らかし,いのちの大切さを 実感できる児童を育成する。 3 研究の仮説 (1) 各教科・各領域を関連させたいのちの教育の全体計画を作成し教育実践を積み重ねれば,いのちの 素晴らしさやかけがえのなさを子どもたちは実感し,生きている意味や価値を実感できるであろう。 (2) 家庭・地域と連携していのちの教育に取り組めば,子どもたちが自分の日常生活と関連させて生き ている意味や価値を見いだすことができるであろう。 4 研究の内容と方法 (1) 教科・領域のつながりを意識した“いのちの教育”としての全体計画の作成 (2) 単元づくり,授業づくり (3) 教材・教具の開発,校内の学習環境づくり - 1 - (4) 家庭・地域との連携 5 研究の実際 (1) 教科・領域のつながりを意識したいのちの教育としての全体計画の作成 性教育を基軸にしながら,教科・道徳・特別活動・総合的な学習の時間との関連を明らかにしたい のちの教育の計画を立て,それまでの性教育の実践を基に,それにかかわる各学年の単元や一単位時 間の授業の略案を作成することにした。 全体計画の作成に当たっては,いのちをつなぐための体のしくみや生命の誕生などの科学的な内容 と,いのちの大切さやかけがえのなさを扱った道徳的な内容と,他者と共に生きることに関する社会 的な内容とを関連できるようにした。 表1 道徳 全体計画一覧表 生活科・総合的な学習 体育科(保健)・理科 (6月)「しぜんのいのち」 特別活動 (4月)「せいけつなからだⅠ」 3-(2) (9月)「せいけつなからだⅡ」 (7月)「はしのうえのおおかみ」 (2時間) 2-(2) (1月)「じぶんをきけんからまもろう」 (9月)「二わのことり」 一 (2時間) 2-(3) 年 (11月)「ハムスターの赤ちゃん」 3-(2) (12月) 「くりのみ」2-(3) (1月)「きみにあげるよ」 2-(2) (2月)「あかちゃんがうまれるよ」 3-(2) (6月)「ぴよちゃんとひまわり」 (11月)「わたしのものがたりⅠ」 3-(2) (10月)「きつねのおさん」 二 3-(2) 年 (12月)「きつねとぶどう」 (5月) 「さそいにのらない」 (2時間) (7月)「けがをしたとき」 ~わたしのたんじょう~ (11月)「わたしのたんじょう」 ~わたしのなまえ~ ~おなかのなかのあかちゃん~ (2月)「わたしのものがたりⅡ」 (1月)「うつるびょうきと 2-(4) ~生まれてから今までのせいちょう~ うつらないびょうき」 (2月)「わすれないよ,ゴン太」 3-(2) (5月)「目に見えない犬」 3-(2) 三 (11月)「おばちゃん,がんばれ」 年 (11月)「体のふしぎたんけんたい」 (4月)「一日の生活」 (10月) 「家族のむすびつき」 (6時間) (7月)「からだをせいけつに」 (11月) 「受けついだいのち」 ~わたしはどこから~ (9月)「健康を守る活動」 3-(2) (1月)「体のふしぎたんけんたいⅡ」 (1月)けがの手当て ~血液の働き~ ~血えきのはたらき~ (5月)「オトちゃんルール」 四 2-(3) 年 (9月)「お母さん泣かないで」 (4月~)「伝え合う心」 (4月)「わたしたちは4年生」 (23時間) (6月)「からだの発育のしかた」 ~交流の輪を広げよう~ (11月)「大人への体の変化」 3-(2) (2時間) - 2 - (1月)「心を合わせる男子と女子」 (6月)「命」3-(2) (1月)「エイズについて知ろう」 (6月)「けがの防止」 (11月)「母とながめた一番星」 五 (10時間) 3-(2) (7月) 「男女仲良くしよう」 (5時間) (11月)「かぜの予防」 (7月)「生命のつながり」 (1月)「私たちの心と成長の変化」 《理科》 年 ~誕生の不思議~ (12月)「心と健康」(4時間) (5月)「ラッシュアワーの惨劇」 (5月)「長崎探検隊」 (10月)「病気の予防」 3-(2) ~戦火の中で~ (6月)「わたしの思い」 (9月)「好きになるということ」 (2時間) (10月)「大人への準備」 (4時間) ~エイズを正しく理解しよう~ 3-(2) (7月)「生きるⅠ」 ~もっと知りたい心と体~ 六 年 (2時間) (11月) 「生きるⅡ」 (6時間) ~エイズは治らないの? わたしたちにできること~ (1月) 「生きるⅢ」 (10時間) ~生命誕生から現在までの自分~ (2) 単元づくり,授業づくり ア 低学年グループの実践(2学年 (ア) 単元名 生活科) わたしのものがたりⅠ(わたしのいのちのはじまり) (イ) 教科・領域との関連 学級活動「私たちの誕生」 生活科「わたしのものがたりⅠ」3時間 学級活動 「わたしのたんじょう」 ~おなかの中の赤ちゃん~ 道徳「きつねのおさん」3-(2) 生活科「わたしのものがたりⅡ」11時間 (ウ) 単元目標 ・ 自分がこの世に誕生するまでには,大変な苦労や喜びがあったことを知り,母親や家族に感 謝の気持ちをもつとともに,自分のいのちを大切にしようと思うことができる。(気付き) ・ 自分の誕生や名前の由来について,意欲的に調べたり,発表したりすることができる。(関 心・意欲・態度) ・ 自分の誕生について,まとめることができる。(思考・表現) (エ) 指導計画(全3時間) 第1次 わたしたちのたんじょう 1時間(本時1/3) 第2次 わたしたちのたんじょうと名前 1時間 第3次 まとめ 1時間 (オ) 本時の目標(本時1/3) ・ ゲストティーチャーの話を聞いたり,お母さんからの手紙を読んだりすることで,自分たち がこの世に誕生するまでには,大変な苦労や願い,喜びがあったことに気付く。(気付き) ・ ゲストティーチャーにインタビューしたり,話を聞いたりすることができる。(技能) - 3 - (カ) 本時の展開 学習活動 1 学級活動(わたしのたんじょう)の学習 を振り返る。 指導・支援 備考 〇 へその緒の役割や出産の時,母子ともに協力し 学級活動で使った て誕生することについて簡単に振り返る。 図 おなかの中にいたときや,生まれたときのことを知ろう。 2 母親にインタビューする。 ・ おなかの中にいることが分かったとき ・ おなかの中にいるとき ・ 生まれてくるとき ・ 1歳まで 〇 2~3人の母親にゲストティーチャーとし て出席してもらう。 質問カード 〇 児童には,学級活動の時に質問を考えさせ ておく。 〇 インタビューを4項目に分けさせておく。 〇 母親たちには,特にエピソードがあるとこ ろでは,思いがよく伝わるような話し方をし てもらう。 〇 自分の質問に対するこたえだけでなく,友 達の質問の答えもしっかり聞くように指導す る。 3 母親からの手紙を読む。 〇 事前に母親たちに子どもにあてた手紙を書 お母さんからの手 いてもらっておく。誕生前後の母親や家族の 紙 大変な苦労や願い,喜びを児童が読み取れる ような手紙の書き方をしてもらう。 〇 児童が,手紙をじっくり読める時間を確保 する。 4 感想を書く。 〇 ゲストティーチャーの話を聞いて思ったこ 感想を書く紙 とや,母親からの手紙を読んで思ったこと, お家の人にさらに聞いてみたいことについて 書かせる。 〇 母親や家族への感謝や自分のいのちについ ての感想が書けているものがあったら,発表 させる。 〇 自分のことを家の人にインタビューし, 「わ 5 今後の計画について知る。 たしのものがたり」の1ページ目としてまと めていくことを伝える。 評価・ インタビューをしたり,話を聞いたりすることができたか。(インタビューの時の様子より) ・ 自分たちがこの世に誕生するまでには,大変な苦労や願い,喜びがあったことに気付いたか。(授業後の感想より) (キ) 授業後の考察 ・ この単元に入る前の学習として,今回は学級活動「わたしの誕生」を設定した。お母さんのおな かの中での様子やへその緒の役割など,低学年なりの科学的な理解をした上で,自分のことに目を 向けようというねらいであった。一般的には,生まれてから後の自分の生い立ちを調べる学習を行 - 4 - うが,お母さんのお腹の中にいるときの自分の様子を想像することで,いのちの不思議さやいのち のかけがえのなさに気付いてほしいと考えたのである。 ・ 子どもたちからボランティアティーチャーとして参加していただいたお母さんへの質問がたくさ ん出たことが,まず,事前の学習の成果であったと考えられる。 ・ 友達のお母さんという身近な存在の人が,赤ちゃんがお腹にいるときのことや誕生した瞬間のこ となどを話してくれたので,自分のより身近な問題としてとらえることができた。 ・ 学習のまとめの段階で,お母さんから自分への手紙を読む場面では,他の人に見られないように こっそり読んでいる姿や,わざと大きな声で読んで友達との共通点を見出そうとする姿などから, 子どもたちにとってとても身近で興味深い学習内容になっていることが分かった。 イ 中学年グループの実践(3学年 (ア) 単元名 学級活動) 学級活動(受け継いだいのち) (イ) 教科・領域との関連 道徳いのちのあるものを大切に 学級活動「受け継いだいのち」 「目の見えない犬」3-(2) 1時間 総合的な学習「体の不思議探検隊Ⅰ」 ~赤ちゃんの不思議~ 9時間 道徳赤ちゃんが生まれるまで 「おばちゃんがんばれ」3-(2) (ウ) 本時の目標 ① いのちがなぜ大切なのかを考えることができる。 ② 自分のいのちも友達のいのちもいかに尊いものであるかに気付くことができる。 ③ 自他のいのちを大切にする心情を自分の言葉で書き表すことができる。 (エ) 本時の展開 学習活動 1 普段の学校生活を振り返る。 (友達の心を傷つける言葉や行為) 指導・支援 備考 〇 普段の学校生活を振り返り,いのちを軽んじた 発言や行動をとっていなかったかを振り返らせる。 ・バカ ・アホ ・カス ・死ね ・叩く ・蹴る 2 本時のめあてを確認する。 なぜ,いのちを大切にしなければならないのか。 〇 自分の考えを発表させる。 3 いのちがなぜ大切かについて話し合う。 〇 総合的な学習「赤ちゃんの不思議」で学んだ生 ・ いのちはつながっているから 命の神秘さ・不思議さにも触れて,いのちの大切 ・ 両親にもらったから さに気付かせる。 ・ いのちはひとつしかないから ・ ふしぎをいっぱい持っているから 4 詩を読み,いのちのつながりを考える。 いのちの旅は終わらない。いや, 終わらせてはいけないのである。 めあてカード 〇 友達の意見を聞きながら,いろいろな考えがあ ることに気付き,自分の考えを深めさせる。 〇 詩についての絵本を見ることで,たくさんのい 絵本 のちで自分が生きていること,生かされているこ 「いのちのまつり」 とに気付かせる。 草場一壽作 - 5 - (草場一壽作「いのちのまつり」より) 〇 今の自分のいのちは,たくさんの人のいのちを 受けついできたバトンのようなものだから,自分 たちもつなげる(自分のいのちで精一杯生き抜く) ことが大切だということを理解させる。 〇 友達のいのちについて考えさせる。 5 今日の授業の感想を書く。 〇 自分の心にある今のいのちに対する気持ちを自 感想を書く紙 由に書かせる。 〇 最後に数名に発表させ,その思いを共有させる。 評価・ いのちの大切さが理解できたか。(授業後の感想より) ・ 自分のいのちも友達のいのちも尊いものであることに気付くことができたか。(授業後の感想より) (オ) 授業後の考察 ・ 日ごろの生活の中でよく起こる友達の心を傷つける言動から学習に入ったことで,子どもたちに とってめあてが身近な問題として認識することができ,発言も身近な出来事と関連することが多か った。 ・ いのちのつながりが絵本として視覚に訴えるものであったために,子どもたちの驚きが言動に表 れていた。また,「なぜいのちを大切にしなければならないのか」というめあてへの答えも抽象的 なことから,具体的なことへと変わっていった。 ・ 自分のことから友達のことへと思考を広げていくところでは,もっと時間をかけて学習を重ねて いくことが必要だと感じられた。 ウ 高学年グループの実践(5学年 (ア) 主題名 道徳) とうとい命3-(2) 資料名 『母とながめた一番星』(みんなの道徳 学研) (イ) 教科・領域との関連 学級活動 道徳 道徳 「私たちの誕生」 「とうとい命」3-(2) 「思いやりを持って」2-(2) 学級活動「私たちの心と成長の変化」 (ウ) ねらい 総合的な学習「エイズについて知ろう」10時間 生命の尊さを理解し,生命を大切にして生きようとする態度を育てる。 (エ) 本時の展開 学習活動 主な発問と予想される児童の反応 指導上の留意点 1 自分が調べてきたことを発表 〇 赤ちゃんを産むということは,どのようなこ ・ 胎児の鼓動を聞かせ,学級活動での する。 2 資料「母とながめた一番星」 の話を聞いて,話し合う。 となのか調べたことを発表しましょう。 学習を振り返りながら,調べてきたこ ・ 心配そうな母の声を背に家を飛び出したと とを発表させる。 き,恵子はどのような気持ちになったでしょ ・ 母の声も耳に入らないくらいにつら う。 い恵子の気持ちを話し合わせ,共感さ ・ 自分は親友だと思っていたのに信じられな 3 家を飛び出した時の主人公の 恵子の気持ちを考える。 い。 ・ 死んでしまいたい。 - 6 - せる。 ・ 仲間はずれにされ,とてもショックだ。 (1) 母から自分が生まれた 〇 母から自分の誕生の話を聞いた恵子は,どん ・ 補助発問として,母がやっとの思い ときの話を聞いた恵子 な気持ちだろう。 で恵子を産んだということは,どうい の気持ちを考える。 ・ 命がけでわたしを産んでくれたんだ。 うことを意味するのかを導入の発表を ・ ありがとう。 参考に想像させる。 ・ 家族みんなに愛されていたんだ。 ・ すぐに答えさせるのではなく,黙考 ・ 死ぬなんて考えていた自分が恥ずかしい。 する時間を十分に取り,ワークシート ・ 母がこんなに苦労して産んでくれたんだ。 の吹き出しに書かせることで,自分が このいのちを大切にしていこう。 ・ 命は尊いものだ。母ががんばってくれた からこそ今があるんだ。 生きていることの幸せ,母や家族の思 い,命のありがたさに気付いていく恵 子の心の変容に共感させる。 ・ 私を心配してくれたからこの話をしてく れたんだ。 3 自分のことを考える。 〇 自分も恵子と同じように大切にされていると ・ 本時の学習を基に,今までの自分を 感じるのはどんな時か。 ・ 自分が生まれた時のことを教えてくれ たとき 振り返らせる。 ・ 危険な出産だけが尊いのではなく, 子どもたち一人一人が大切な存在とし ・ 自分ががんばったことをほめてくれたと き て生まれてきたこと,これ以上にない 愛情を受けて生まれてきたことに気付 ・ 毎日のご飯の準備などをしてくれるとき かせたい。 ・ 保護者の手紙を手渡し,自分も恵子 と同じように大切に思われていること に気付かせる。 4 学習を振り返る 〇 今日の学習を振り返りましょう。 ・ 本時の学習を振り返らせ,感想を書 かせ,数名に発表させる。 評価 自分も恵子も母や家族の愛を受けて生まれてきたことを感じ取って,学習の感想を書くことができたか。(授業後の感想より) (オ) 授業後の考察 ・ この学習に入る前に,自分の誕生について学習し,お母さんのおなかにわが子がいる時の気持ち などを調べていた。そのために,恵子が誕生する時のことをより身近なこととして捉えることがで きていた。 ・ 保護者の手紙を読む場面では,低学年の様子とは全く違い,照れなども感じさせることなく真剣 な表情で読んでいた。 ・ 意見交流の場面で,考えてはいてもなかなかみんなの前では言えない子どももいたので,意見交 流の方法にさらに工夫が必要であったのではないか。 - 7 - (3) 教材・教具づくり,校内の学習環境づくり ア 教材・教具づくり 年間指導計画を基にどの教材・教具がどの学年に適しているか,指導内容に見合った教材や教具 にはどのようなものがあるかを考え,適した教材を選択した。 (ア) 絵本や昔話の教材としての活用 絵本や昔話を教材としての活用することを積極的に行った。絵本や昔話は,子どもたちにと って親しみやすく,登場人物の心情や立場を考える時に考えやすくなった。特に,いのちの大 切さやかけがえのなさをテーマにした絵本や昔話は多いので,今後のさらなる教材開発が期待 できる。(昔話『河童の雨乞い』,絵本『いのちのまつり』,絵本『しろいぞうのはなし』など) (イ) 手づくり教具 学校にない教材・教具については,先進校を視察して,情報交換を行い,手づくりの教材を 作成した(赤ちゃん人形や妊婦体験ベスト(写真1),紙芝居等(写真2))。子どもたちが直接触 れることのできる教具は,子どもたちに学習意欲を高め,いろいろな人たちの気持ちを考える 上でも効果的であった。 写真1 手づくり「妊婦体験ベスト」 イ 写真2 「免疫・エイズ」の手づくり紙芝居 校内の学習環境づくり (ア) 書籍,ビデオ資料の充実 性教育,エイズ教育に関する児童用の書籍(写真3)を購入し, 図書室内にコーナーを設置し,学習時にすぐ使えるようにした。 また,エイズ関連の書籍・ビデオがすぐ活用できるように内 容紹介の一覧表を作成した。 写真3 購入した書籍(児童向け) (イ) 「きらりっ子」コーナーの設置 きらりっ子」コーナー(写真4)とは,よいことや人に優しい行いをした児童を選び,全校児童 に紹介をしていくものである。人権や共生への意識化を図るために児童会(運営委員会)との連携 を図りコーナーを新設した。 写真4 きらりっ子コーナー - 8 - (4) 家庭・地域との連携 ア 広報誌の発行(広報誌『手と手をつなぎ,心をつなぎ』) (ア) 広報誌を発行し,いのちの教育として学校でどのようなことをねらって,どのようなことを実 際にやっているのかを保護者,地域の方々に知らせていった。 (イ) 学習発表会の開催 毎年,12月の学習発表会で,子どもたちが学習したことを保護者,地域の方々へ発表してい。 発表会は,家庭・地域への性教育,いのちの教育の啓発活動でもあり,子どもたちの学習活動の ゴールとしての役割も果たしている。 (ウ) 保護者の意識調査 保護者の意識調査をアンケートによって行い,その結果を啓発活動や指導計画の作成に生かし た。 4% 1%3% 3% 17% 31% 入学前 小低 小中 小高 中学 な い そ の 他 親 41% 分 か 分からない その他 ら 母 親 高校 父 教 師 40.0% 35.0% 30.0% 25.0% 20.0% 15.0% 10.0% 5.0% 0.0% 図1 性教育はだれがすべき? 図2 性教育を始める時期はどれぐらい? (エ) PTA母親部との連携 a お話会の実施 お母さん方が行われるお話会は,子どもたちにとってとても新鮮で,意欲的な参加態度であ る。昔話や絵本,紙芝居を通して,いのちの大切さ,人間のつながりの大切さ等を子どもたち に伝えられている。 b 学校行事への参加 学習発表会にPTA母親部から参加していただき,いのちをテーマにした出し物を発表して もらった。(平成15年度「エイズと闘った少年,ライアン・ホワイト君~」) (オ) 地域行事への子どもたちの参加 古枝地区のふるさと祭りに参加し,6年生が学習したことを出し物にして発表している。これ までの発表内容は,平成16年度「エイズに関する研究発表」,平成17年度「生きる~いのちにつ いて考える~」,平成18年度「戦火の中で」であった。 (カ) その他 ・ エイズカレンダーの作成(平成16年度) 古枝小学校,鹿島東部中学校,鹿島高校で協力して作製し,市内小中高各校に配布した。 図3 エイズカレンダー - 9 - 6 研究のまとめ 子どもたちに「いのちについて思うことや考えることはどんなことか?」と問うと,多くの子どもた ちが「いのちは,大切なものだ」と答える。しかし,重要なのは,知識として「いのちは,大切だ」と いうことを知っているということではない。なぜ大切なのかを,実感(切実感)を伴って心の奥にしっか りもっているということである。また,それを日常の態度として少しでも表せるということである。 当初は,授業づくりも知識の伝達の方に偏ったものになりがちであった。子どもたちの実態と教師の 教えたいことにずれがあったと思われる。 しかし,全体計画を作成し,教科・領域のつながりを考えた上で実践を積み重ねていくことで,子ど もたちの実態に合わせた内容を考えることができるようになり,目標もより明確になってきた。科学的 な知識にかかわる内容,心情にかかわる内容,社会性にかかわる内容のバランスがとれるようになって きた。 例えば,低学年では,自分の体の部位のそれぞれの役割や清潔に保つことの大切さを学習内容とする ことで,日常生活と結び付けながら興味・関心を高めることができた。母親とのつながりも低学年には 実感のある内容と言える。そのことと道徳の生命尊重の内容を関連させることができ,より実感をもっ て学習ができた。 中学年になると,大人への体の変化と新しいいのちの誕生とを結び付けることを考えた。他者との関 係にも目が向く時期であるので,いろいろな人たちとの交流や家族とのつながりなども学習内容として 考えていった。いろいろな人たちとの交流を通して,お互い様々な違いがあっても,同じかけがえのな いいのちを有するということでつながっていることを実感させることができた。 高学年になると,自分を客観的に見る目も育ってくるので,そのような目で自分や自分の生き方を考 えるような内容も取り上げていった。一方で,社会の一員としての見方もできるようになるので,より よい社会をつくるためにどのようなことが自分にできるのかを考えさせることも意図してきた。地域の 方々への情報の発信も行い,子どもたちから家族や地域の人々とかかわっていけるように試みた。 「私は,やっぱり命は大切だなあと思いました。自分の命を今すてる人が多いけど,やっぱり,この 世に生まれたことを感謝しなければいけないと思いました。いじめられてもからかわれても,まけずに がんばってほしいと思いました。お母さんも,苦しみながらうんでくれたから感謝したいです。」 本校の6年生の「いのちについて思うことや考えることはどんなことか?」という問いに対する答え である。6年生39名中,13名が自分のいのちの誕生や家族のかかわりと関連させて“いのちの大切さ” を考えていた。 いのちの大切さの根拠として“いのちの誕生”や“いのちのつながり”を挙げることができるように なったことは,これまでの取り組みの成果と言える。しかし,まだ,全体にしっかり浸透したと言える までには至っていない。 学年の発達段階に合わせて,系統をさらに明確にし,学習内容を精選することもこれからの課題と言 える。 また,いのちの大切さを知った上で自分はどのような態度をとればいいのか,場面の応じて考えさせ ることも,今後,留意していかなければならないことだと考える。 家庭・地域との連携については,学校からの情報の発信と家庭・地域からの情報の収集,お互いの情 報の交換など,さらに工夫が必要である。 - 10 -