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でんさいの資金決済

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でんさいの資金決済
で ん さ い ネ ッ ト 通 信
で ん さ い ネ ッ ト 通 信
[第12回]
でんさいの資金決済
全銀電子債権ネットワーク
1 はじめに
行営業日前に、でんさいの決済情報(債権者の
決済口座情報等)を債務者側の金融機関に通知
でんさいの資金決済は、原則として「口座間
し、これをもとに債務者側の金融機関と債権者
送金決済」という方式によって行われる。
側の金融機関の間で口座間送金決済を行う。そ
今回は、口座間送金決済の基本的な仕組みを
の後、債務者側の金融機関はでんさいネットに
解説した上で、口座間送金決済によらず資金決
対し口座間送金決済を行った旨の通知を行い、
済を行う場合の対応等についても解説すること
でんさいネットは通知を受けて、支払期日から
としたい。
起算して 3 銀行営業日を経過したときに支払等
2 口座間送金決済の基本的な仕組み
記録を行う。
⑵ 手形の決済との違い
⑴ 口座間送金決済の概要
でんさいの口座間送金決済は、前述のとおり
a 電子記録債権法上の口座間送金決済
でんさいネットと金融機関の間で完結する手続
電子記録債権は、当事者間で振込等により資
であるため、利用者は特段の手続を取る必要は
金決済を行い、支払等記録請求をするのが電子
ない。この点、所持人が金融機関に取立の依頼
記録債権法上の原則である。しかし、当事者間
を行う必要がある手形とは異なる。なお、でん
で振込等を行い、そのつど支払等記録請求をす
さいが分割譲渡されていた場合、口座間送金決
るのは煩雑であるため、電子債権記録機関が金
済は各でんさいについて複数回行われることと
融機関に決済情報を提供し、それをもとに債務
なるが、この場合も利用者による手続は不要で
者側の金融機関が債務者の決済口座から資金を
ある。
引落しの上送金し、債権者の決済口座に入金す
また、入金された資金が利用可能となるまで
ることが電子記録債権法上認められている。こ
の時間も異なり、手形の場合には、取立後に不
の電子記録債権の決済方法を「口座間送金決
渡返還時限が経過しなければ入金された資金が
済」という。そして、電子債権記録機関は、金
利用できないのが一般的であるが、でんさいの
融機関から口座間送金決済を行った旨の通知を
場合には、支払期日に資金が入金され、その時
受けて、支払等記録を行うことができるとされ
点から資金を利用することが可能である。
ている。
b でんさいネットの口座間送金決済
でんさいネットは、電子記録債権法の当該規
定を受けて、でんさいの支払期日における資金
決済を原則として口座間送金決済によることと
している。でんさいネットは、支払期日の 2 銀
金融法務事情■ No.2046 2016.7.25
3 口座間送金決済によらない資金決済
⑴ 口座間送金決済によらず資金決済する場
合の手続
a 当事者間の資金決済
でんさいの資金決済は口座間送金決済による
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【図】でんさいネットの口座間送金決済
X 社(債務者)
Y 社(債権者)
②口座間送金決済
[支払期日]
③口座間送金決済を
行った旨の通知
A銀行
①決済情報の提供
[支払期日の 2 銀行営業日前]
④支払等記録
[支払期日から起算して
3 銀行営業日が経過したとき]
のが原則であるが、口座間送金決済を行わない
場合には、当事者間において資金決済を行う 1 。
b 当事者による支払等記録請求
B銀行
下のような場合がある。
a 支払等記録がなされている場合
でんさいネットは、支払期日の 2 銀行営業日
口座間送金決済によらず当事者間で資金決済
前に債務者の金融機関に決済情報を送信する
を行った場合は、支払等記録が自動的に行われ
が、この時点で支払等記録がなされているでん
ないため、当事者が支払等記録請求を行うこと
さいについては決済情報を送信しないため、口
となる。債権者が支払等記録請求を行った場合
座間送金決済は行われない。
は債務者からの特段の請求なしに支払等記録が
b 口座間送金決済が中止される場合
なされるが、債務者から請求を行う場合には、
でんさいネットからでんさいの決済情報が送
債権者から支払等記録の承諾を受ける必要があ
信されていても、以下の場合には口座間送金決
る。
済は中止される 3 。
なお、電子記録債権は支払等(弁済または免
まず、債権者が口座間送金決済の中止を申し
除等)がなされることにより消滅することとさ
出た場合、または債務者が債権者の同意を得た
れており、支払等記録は電子記録債権消滅の要
上で口座間送金決済の中止を申し出た場合に
件ではない。しかし、債務の消滅は人的抗弁 2
は、口座間送金決済は中止される。
に当たり、支払等記録をしなかった電子記録債
また、債権者の同意によらず口座間送金決済
権が第三者に譲渡された場合には債務の消滅を
が中止されるケースとして、債務者が決済資金
譲受人に対抗することができないため、確実に
を用意できない場合や、債務者が債権者に対し
支払等記録を行う必要がある。
契約不履行等の抗弁を主張している場合、およ
また、支払期日より前に当事者間で資金決済
び債務者について破産手続の開始決定がなされ
を行った場合には、支払等記録がなされないと
ている場合等がある。
支払期日において口座間送金決済が行われると
いうことについても注意を要する。
⑵ 口座間送金決済が行われない場合
口座間送金決済が行われない場合として、以
4 留意事項
その他、対応に留意すべき資金決済関連の事
例について紹介する。
1 支払期日前の一部弁済ができない等、弁済の期日や弁済者に係る制約がある(業務規程40条 2 項)。
2 債務者が特定の請求者に対して債務の履行を拒むために主張し得る抗弁であり、どの請求者に対しても債務の履
行を拒むために主張し得る「物的抗弁」に対する概念。
3 口座間送金決済を中止するケースの詳細については、業務規程細則40条~42条を参照。
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金融法務事情■ No.2046 2016.7.25
⑴ 債権者が破産した場合
b 民事上の保証人が弁済する場合
債権者に関して破産手続の開始決定等があっ
でんさいに対する保証は、電子記録を伴う電
た場合には、債務者の財産の処分が禁止されて
子記録保証に限らず、民事上の保証契約による
いるわけではないため、原則として口座間送金
ことも可能である。また、でんさいに対し民事
決済は中止されないものの、債権者による同意
上の保証を行うこと、およびでんさいを弁済す
なしに、債務者からの申出により口座間送金決
ることは、でんさいネットとの間の利用契約が
済を中止できることとしている。
なくても可能である。
⑵ 保証人が弁済する場合
ただし、民事上の求償権とは別に電子記録債
a 電子記録保証人が弁済する場合
権法上の求償権を取得するためには、支払等記
電子記録保証人がでんさいについて弁済する
録が必要となる。そして、でんさいネットとの
場合、電子記録保証人・債権者間において資金
利用契約がなければでんさいについて支払等記
決済と支払等記録請求をすることになる。この
録請求を行うことができないため、でんさい
際、支払等記録が電子記録債権消滅の要件にな
ネットと利用契約を締結する必要がある。
らないことは既に述べたが、一方で、電子記録
保証人が債務者に対して電子記録債権法上の特
5 おわりに
別求償権を取得するためには、支払等記録がな
でんさいの資金決済は、原則として利用者に
される必要がある。なお、電子記録保証人が遅
よる手続を要しない利便性の高い仕組みとなっ
延損害金等を負担した場合には、支払等記録請
ている。資金決済はでんさいサービスの根幹を
求において、債権の元本以外の弁済分について
なすものであり、でんさいの信頼を維持するた
も記録請求を行うことで、負担金額が記録され
め、でんさいネットは今後も安定した決済サー
特別求償権の一部となる。
ビスの提供に努めてまいりたい。
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