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ノミ・プリンス氏セミナー - キヤノングローバル戦略研究所
ノミ・プリンス氏セミナー 重大なリスク: 世界の中央銀行の政策、民間銀行のポートフォリオ、そしてマーケットに潜む危機 【質疑応答】 日 時 :2016 年 11 月 14 日(月)10:00~12:00 会 場 :キヤノングローバル戦略研究所 会議室 1 CopyrightⒸ2017 CIGS. All rights reserved. 小手川氏:まず 2 つ質問させてください。 一つ目はグラス・スティーガル法の復活についてです。トランプ氏は同法の復活を綱領に 入れていましたが、あなたは議会がそれを容認しないとおっしゃいました。一方で多くの 著名なエコノミストがトランプ氏に賛同しています。なぜ議会はそれに反対だとお考えな のですか? 二つ目は、さきほどトランプ氏の勝利は反既成勢力派の人々によって支持されていたが、 今、既成勢力から人材を登用しているという発言がありました。恐らく JP モルガン・チェ ースのジェームズ・ダイモン氏もその一人かもしれません。トランプ氏の選挙活動を支え ていた層による反発は懸念されるでしょうか? プリンス氏:お話したあらゆる理由、それに銀行が金融危機以前と比べて大きくなってい るという事実を見ても、グラス・スティーガル法の現代版を成立させるべきだと思います。 そうすれば、米国中そして世界中に向けて、不正はいけないというメッセージを発信する ことになります。私たちには同法をもう一度成立させる責任があると考えます。 1999 年にビル・クリントン政権で同法が廃止されたとき、米国銀行の世界的競争力を高め ることが狙いと言われていました。その主張に当時の議会は共鳴しましたし、今でも上院 議員の多くは賛同するでしょう。 第二に、ウォールストリートや証券業界は、米国の他のどの業界よりも候補者の当選のた めにお金を出しています。もし、グラス・スティーガル法復活を狙った本腰を入れた取り 組みが始まれば、証券業界は落胆するでしょう。2010 年、ドッド=フランク法が審議され ている頃、ウォールストリートはワシントンに何千ものロビイストを送り込んで文言を変 更させようとしました。グラス・スティーガル法の復活を目指せば同じことが起こるでし ょう。 第三に、民主党サイドではバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレンという二人の 上院議員が中心となって同法の復活を主張してきましたが、共和党サイドにはそのような 大物上院議員はいません。同法の復活には、それに真剣に取り組む上院議員グループが共 和党サイドにも必要です。 トランプ氏は自身の政治資本を同法の復活のために使うでしょうか? 私はそうすべきだ と思いますが、どうなるかはわかりません。 つづいて、ジェームズ・ダイモン氏についてですが、彼は JP モルガン・チェースの会長お よび最高経営責任者で、トランプ氏の政権移行チームから接触を受けています。このこと 2 CopyrightⒸ2017 CIGS. All rights reserved. は、ウォールストリートに関しては何も変わらないということを意味していると思います。 1933 年にグラス・スティーガル法は成立したのですが、それは共和党員であったチェース 経営者ウィスロップ・オルドリッチ氏が民主党のフランクリン・デラノ・ルーズベルト大 統領と協力したからです。そもそも両者とも同法の成立を望んでいました。そういった協 力は今の時代、起こるようなことではありません。同法は世界にとって重要ですが、政治 的には成立が難しいでしょう。 国民は落胆するでしょうか? その可能性はありますが、それまでにはまだしばらくかか るでしょう。すでにトランプ氏は有権者が選んだと思っている人物ではありません。 質問者 1:ジェームズ・ダイモン氏が悪者のようにお話されていましたが、彼は非常に聡明 で頭の切れる銀行家であり、大変な成功を成し遂げています。2007 年にサブプライムロー ンが問題になったとき、他の銀行が深追いして多くの不正をする間に、彼は関連ポジショ ンをいち早く整理しました。 プリンス氏:ダイモン氏は、銀行業界で間違いなく尊敬されている存在です。人として邪 悪であるというわけではありませんが、同銀が金融危機のあと外国為替相場の不正操作問 題、ロンドン銀行間取引金利操作問題、住宅ローン関連不正問題、クレジットカード関連 不正問題などで有罪を認めた際、ダイモン氏は自分は関係がなかったとしましたが、JP モ ルガン・チェースが目指す方向という点から見ると考えさせられる行動です。こうした不 正が行われていた期間、ずっと同銀において実権を握っていたのは彼なのです。彼は邪悪 というわけではありませんが、自分の銀行がやったことに責任が無いわけはありません。 質問者 1:金融業界でトランプ氏がアプローチしている他の人についてはどう思いますか? プリンス氏:私はケン・ウォルシュ氏がトランプ政権の閣僚に含まれると見ています。ス ティーヴン・マヌーチン氏もそうです。彼は経済諮問委員会委員長あるいは財務長官に任 命される可能性が大きいと思います。 質問者 2:今後中央銀行はどうすればいいのでしょうか? 今日の世界経済環境下で、グロ ーバルリーダーたちはどのような政策を組み合わせて実行していくべきでしょうか? もう一つ。トランプ政権は明らかに積極財政を推し進めるでしょう。その点は多くのエコ ノミストが支持していますが、新政権は、とりわけ保護主義の傾向があることを考えれば、 どのような負債を望んでいるのでしょうか? 3 CopyrightⒸ2017 CIGS. All rights reserved. プリンス氏:今日まで続く中央銀行の政策の多くは、当初経済の安定化のために 2008 年に 導入されました。中央銀行が経済を支えるのは当然であるという今日の考え方は、本来の 役割から外れたものなのですが、にもかかわらず、中央銀行は経済成長を考える上で欠か せない一部になっています。 他方で、米国では金利はほぼ 0%、量的緩和をおこない、国債を発行して借金をしています。 そうした国債の大部分は民間銀行によって購入され、準備金として中央銀行に戻ることで 循環し、実体経済とつながることはありません。これで、連邦準備制度理事会の帳簿上 4.5 兆ドルの資産と国債が積み上がっている説明がつきます。このお金はいまだに大規模銀行 を支えていて、一文たりとも実体経済に流れることはありません。 実体経済に効き目がある刺激策とはどのようなものか、多くのエコノミストや主要メディ アが意見を戦わせています。財政政策、それとも金融政策なのでしょうか? 財政面から の景気刺激策はこれまでもありましたが、世界に影響を与える金融政策の影に隠れてしま っていました。金融面からの刺激策はインフラや市井の経済の長期的成長には役に立たず、 投機的バブルを生むばかりです。 米国では、議会が財政面からの景気刺激策についてあまり積極的ではなかったのです。代 わりに連邦準備制度理事会と金融政策に依存しています。財政刺激策が決議されたのは一 度きり、金融危機の初期の頃でした。多額の借金を作りましたが、実行された計画はあま りありませんでした。 トランプ氏が公約に掲げてきたのは、政府支出による巨大なインフラ整備計画で、民間の 銀行や企業の参加も視野に入れています。これもグラス・スティーガル法の復活と同様、 議会の賛同を得られるか今のところ未知数です。 私はグラス・スティーガル法の復活よりもインフラ計画の承認のほうが多少可能性が有る と見ています。なぜなら、雇用を作り出しますし、雇用が政治家の生命線ですから。それ よりも可能性があると見るのは、議会が大規模な財政刺激策を発案することですが、トラ ンプ氏が公約したほどの規模にはならないでしょう。財政刺激策は中央銀行ができなかっ たことを埋め合わせることができるかもしれません。中央銀行は金利 0%あるいはマイナス 金利、そして量的緩和政策を実行するに当たり、大した制約を課してきませんでした。し たがってこうした政策は金融業界の問題解決という点で、あまり効果的ではなかったので す。 これが、米国で国民が経済成長を実感できていなかった理由だと思います。政府から発表 されるデータでは経済は良くなっているはずなのに、国民はそれを実感していません。小 規模ビジネス向けの融資を獲得したり、住宅ローンを組んだり、高金利の学生ローンから 4 CopyrightⒸ2017 CIGS. All rights reserved. 抜け出すのが難しいと感じられれば、それは経済全体に影響します。連邦準備制度理事会 は、すべて解決することができる力があるのにそうしてきませんでした。事態は今のよう にならずに済んだはずなのです。 質問者 3:米ドル高についてどう思われますか?今後もドル上昇は受け入れられますか? プリンス氏:それは中央銀行の判断にかかっているでしょう。目下のところ、ドル高はと りわけ南米通貨について顕著です。ただし、これは中央銀行の問題というよりも、貿易協 定の再交渉が想定されているからです。 トランプ氏のこれまでの発言や孤立主義の観点から考えれば、ドル高を抑えたいところで しょうが、それには中央銀行が金利を上げないということが必要になります。トランプ氏 は、連邦準備制度理事会が政治的性格を帯びた集団であると発言してきました。これが事 実なら、連邦準備制度理事会が大幅に金利を上げることはないというもう一つの根拠にな りますし、トランプ氏の当選後にドルは上昇しましたが、今後揺り戻しの可能性があると いう理由にもなります。 質問者 4:欧州と保護貿易主義的政策についてお伺いします。英国の EU 離脱手続きが来年 に始まり、マリーヌ・ル・ペン氏が仏大統領選に勝利する可能性もあります。オランダに も保護貿易を推進する運動があります。ユーロはこれで終焉を迎えるのでしょうか? 欧 州の政策と英国の EU 離脱についてのご意見をお聞かせください。 プリンス氏:EU 離脱は否決されるだろうというのが大方の予想でした。何を基準に投票す るのかというところで読み違えたのです。投票の際、何を根拠にするかは様々です。移民 関連の問題があり、失業問題が自国外から来た人たちのせいにされたりしています。ただ、 こうした問題の元になっているのは、人々が持っている漫然とした経済的不安なのです。 有権者に不安がないのであれば、誰か他人を非難しようとはしません。自分たちの生活と 経済的状況に満足しています。ところが、金融危機以降、中央銀行が導入した政策によっ て人々は安心できないでいるのです。マクロレベルで見れば経済は安定していると考える 人もいますが、実際には違います。欧州のどこを見てもそうでないことがわかります。 私はフランスの EU 離脱はあり得る、あるいは少なくとも有権者は EU 離脱を支持する政 治家を選ぶのではないかと見ています。イタリアも国民投票を迎えますが、結果によって は EU からの離反に繋がりえます。私には、多くの人が漫然とした経済的不安から失望し て、他国や EU に責任をかぶせているように見えます。 EU 発足直前、国家間の違いだけでなく、どれだけの主権を保てるのかといったことについ 5 CopyrightⒸ2017 CIGS. All rights reserved. て欧州全体で多くの議論が行われていました。そんな 1999 年時点では、2008 年以降に起 きたことの大半は想定できていなかったのではないでしょうか。 基本的に EU は全体として、 多数の国由来の多くの罰則を適用しています。EU 諸国民は自国の主権が奪われていること にいらだちを覚え、そして自分の置かれている状況に不安を抱え、頭を悩ませているので す。 とりわけ、英国の EU 離脱そしてトランプ氏の当選によって、今後問題が起きてくる可能 性があります。EU が完全に崩壊するとは思いませんが、たくさんの票が反 EU に流れるで しょう。状況はさらに不確実性を増していきます。英国の EU 離脱の場合、どのような形 になるのか交渉は始まっていません。これは英国にとって EU に留まることには良い面も 有り、慎重に事を運ばなければいけないからです。 EU はしばらくの間困難が続くでしょう。事態が急変することもあるでしょう。構成国にも EU にも有益にはならない国家主義が勢いを増します。緊張感は更に高まります。英国の EU 離脱は今後起こることの始まりに過ぎないのです。 質問者 5:現在の中国の金融市場についてのご意見を聞かせてください。中国の四大銀行は すでに世界の大銀行リストに名前を連ねていますが、中国外での事業については制約があ ります。米国銀行は、特にアジアや南米市場において、こうした中国の銀行を潜在的競合 企業とみなしているでしょうか? プリンス氏:私は 7 月に IMF の会議で中国を訪れました。議題に上がった一つに、中国で は社債の外国人保有割合は 3%しかないということがありました。これは投資家が中国には 大きな透明性の問題が有ると考えていることが主な原因です。 それと、資本の流れにも問題はあります。しかし、その会議では透明性の問題が最重要課 題であるとされました。皮肉なのは、連邦準備制度理事会も透明性を欠いているというこ とです。いずれにせよ、投資家は、中国人民銀行がどのような手に打って出るのかわから ないという認識を持っています。 投資家は、投資が守られ、かつスムーズに手を引くことができない限り、海外投資をしよ うとは思いません。外国人投資家が中国から資金を引き上げるときのプロセスが、7 つかそ こらある規制団体によって厳しい取り締まりを受けているといった認識が投資家にはあり ます。それでも、中国には非常に大きな内需があります。融資に関して言えば、一番大き な影響を受けてきたのは南米です。 最大の借り手はブラジルです。多くの中国の銀行が、南米や南米程の規模ではないですが アフリカのインフラ計画まで事業を広げています。しかし、政権交代にしたがって、ブラ 6 CopyrightⒸ2017 CIGS. All rights reserved. ジルでは事態が変わり始めています。新政権は、中国への依存を抑え、米国との連携志向 を強めています。 中国の銀行は多額の負債を抱えています。中国の成長が低すぎると考えるエコノミストも 多いです。私は、銀行も中国の成長も問題は無いと考えています。銀行の負債は消えませ んが、その大部分は中国政府に担保されるでしょう。 米国は中国の銀行を競争相手とは考えていません。なぜなら、米国が儲けている市場で事 業を行っていないからです。たとえば、中国の銀行は複雑な取引を含むデリバティブ市場 ではそれほど活発ではありませんし、M&A 事業にもそれほど積極的ではありません。 質問者 6:米国で起きているデモなどの政治的状況は、米国経済に短期的な影響を与えるで しょうか? プリンス氏:選挙直後、大都市でデモが起きていることが報道されています。比較的小さ な町でもデモは起きています。ただ、暴力沙汰になったのはだいたい報道されている小グ ループのものに限られています。私はデモがあること自体は健全だと思っています。トラ ンプ氏はデモを無視しています。 就任式当日、またそれまでの間にワシントンで大きなデモがいくつか有るでしょう。ただ、 それらは、トランプ氏の政策に何ら影響するものではないと思っています。 米国は国が分断されています。トランプ氏はさまざまな層にたいしてネガティブな発言を してきました。もし本当にそうしたネガティブなことを実行に移すとするなら、国家にと って由々しい事態だと思います。世界における米国の地位にも悪影響があるでしょう。デ モが起こるのはそうした懸念の表れであり、止むことはないでしょう。 質問者 7:実際に仕事上でどのような経験をされて、金融機関が大きな問題を抱えていると いう考えに至ったのでしょうか? プリンス氏:私はチェース銀行に 5 年勤めた後、リーマン・ブラザーズで働きながら大学 院に通い始めました。当時はアジア担当でした。その後、ベアー・スターンズに入社しロ ンドンでも 7 年働きました。そこではアナリティクス部門を創設しました。その間、アジ ア通貨危機やロシア財政危機があり、危機には事欠きませんでした。また、そうしたこと で多くの証券が売買されていましたが、私は販売している商品のデメリットについて私た ち売り手は必ずしもオープンにしていないと感じていました。 2000 年にニューヨークのゴールドマン・サックスに転職しましたが、状況は似たり寄った 7 CopyrightⒸ2017 CIGS. All rights reserved. りでした。その時もエネルギーや通信業界で多くの危機が起きていました。今でも覚えて いますが、私たちが売っている商品に何かまずいことが起きた場合どうなるかということ を、きちんとお金をかけて分析する必要性を社内の人にわかってもらうのに苦労しました。 私にはゴールドマン・サックスで売っていた商品のデメリットについて、そういった分析 はできませんでしたから。 9.11 同時多発テロやエンロン事件のころ、仕事を辞めようと決意して、最初の本を書きま した。それはまさしくグラス・スティーガル法について書いたもので、2004 年に出版され ました。その本で、私はこの目で実際に見てきたことを書きました。つまり、規制緩和に よって、エネルギー、銀行、通信業界がいかに共存関係にある相場師に変わっていったか ということです。 質問者 8:トランプ氏が世界の市場に好影響をもたらすという期待はどれくらいですか? 日本では彼のアメリカ第一主義が多少懸念されているように思われるのですが。 プリンス氏:私も同様な懸念を持っています。控え目に言っても、トランプ氏が予測でき ない行動に出ることがあるというのは間違いありません。私は彼が米国第一主義を曲げる ことはないと思っていますが、同時にいままで言ってきたほどに孤立主義の道を歩むとも 思えません。その理由は、彼が取り巻きに既成勢力からの人材を充てているからです。 既成勢力を考える際に大事なのは、彼らが国際関係の力を信頼しているということです。 トランプ氏が最初に行うのは、選挙運動でもかなりの時間を割いた、メキシコあるいは NAFTA への対応だと思います。NAFTA からの脱退よりも再交渉への支持が多いですから、 トランプ氏もそれを狙うでしょう。しかし、トランプ氏に関して最大の問題はまずは国内 問題だと思っています。 トランプ氏は雇用の創出を訴えていますが、それが可能になるのはインフラの視点から雇 用を増やすために必要な予算が承認された場合に限ります。さもなくば、ただ、口先だけ の約束ということになるでしょう。今までの発言が今後さらに問題となっていくのではな いかと思っています。人々は本当に恐怖を抱いています。メキシコ人やコロンビア人は追 放されるのではないかと怯えています。職場でさらにいいように利用されるのではないか と不安を抱える女性もいます。そうした懸念が経済的な不安を大きくします。大統領とな ったなら、トランプ氏はもっと冷静になって欲しいと思います。ただ、そんなことが起き る予兆は、閣僚に既成勢力からの人材を充てているということ以外に見当たりません。も しトランプ氏がもっと抑制を利かせるようになれば、国際関係という点では、ヒラリー・ クリントンが当選していた場合とさほど変わらないでしょう。ただ、それも就任後最初の 数ヵ月を経過するまでは何とも言えません。 8 CopyrightⒸ2017 CIGS. 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