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3板マイクロミラーデバイスによるディジタル シネマ用プロジェクション光学系

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3板マイクロミラーデバイスによるディジタル シネマ用プロジェクション光学系
解 説
プロジェクター光学技術の最近の進展
3 板マイクロミラーデバイスによるディジタル
シネマ用プロジェクション光学系
林
宏 太 郎
Projection Optics for Digital Cinema Using Three Panels Digital Micro Mirror Device
Kohtaro HAYASHI
For digital cinema use, the projection system that has three DMD (digital micro mirror device)
panels is already on market.I explain about the history of the development for this three panels
DM D projection optics.
Key words: digital cinema, digital micro mirror, projector
映画の業界においては,従来のフィルムによる映画の撮
段階から現在までの光学系の発展を中心に述べる.
影,配信,上映から,ディジタル信号による撮影,配信,上
映が始まっている.このシステムは,撮影・映像製作から
1. 1.2K ディジタルシネマ光学系
大容量通信による配信,ディジタル信号を忠実に上映する
TI 社の DM D 素子は,すでに各種プロジェクターに多
投影システムすべてにおいて,従来のフィルムシステムか
く採用されている micro display device のひとつで,画素
ら大幅に置き換わるシステムであり,大きな市場規模が期
に対応する 10 数 μm 程度のマイクロミラーをディジタル
待されている.日本では,推進団体 DCCJ(Digital Cinema
情報に合わせてマイクロミラー対角線を軸に回動させ,傾
Consortium of Japan)が,実験的に 4K とよばれる画素
きを変えるものであるが ,ディジタルシネマ用プロジェ
数 4096×2160 の解像度で,撮影から上映までのディジタ
クターの開発当初は,当時ビジネス用途として既存であっ
ルシネマシステムの検討・推進を行い,米ハリウッドの推
た 1 画素がピッチ 17μm 角で傾き角±10度 SXGA(1280×
進団体 DCI(Digital Cinema Initiative)との協調が図ら
1024 画素)の DM D 素子を用いており,1997 年には,こ
れ,DCI によるディジタルシネマの規格制定に関与して
の既存の素子を利用した 1.2K とよぶディジタルシネマ用
きた.この 4K のシステムは,Optics Japan 2005 でシン
のプロトタイプが TI 社により作られている.映画の縦横
ポジウム「デジタルシネマ―ネットワークと光技術の新し
アスペクト比の代表的なものは,ビスタビジョンとよぶ
い接点―」として紹介されている .また米国では,投影
1.85:1,シネマスコープの 2.39 :1 などがあるが,このシ
システムに関して,1997 年より米 Texas Instruments 社
ステム自体の 5:4 のアスペクトを活用するため,投影レ
(TI 社)によってディジタルマイクロミラーデバイス(以
ンズの前に映像の左右方向だけ拡大するアナモルフィック
下 DM D
と表記)素子を用いたディジタルシネマ用投影
コンバーターレンズを搭載し ,1.5 倍,あるいは 1.9 倍の
システムの開発が行われ ,すでに商用として先行してお
アスペクト変換を行った.この 1.2K のプロトタイプは明
り,DCI の活動にも貢献している.ここでは,投影シス
るさ,コントラストの改善が行われ,最終的に,明るさ
テムですでに米国中心に商用として先行している TI 社の
13000 ルーメン,コントラスト 1000:1 の性能を達成し ,
DM D による投影システム DLP Cinema に関して,初期
2000 年には商用化が行われた.
コニカミノルタオプト(株) (〒 589 -0021 大阪狭山市今熊 6-300) E-mail:kohtaro.hayashi@konicaminolta.jp
DMD ,DLP Cinema
35巻 6号(2 06)
は米 Texas Instruments 社の商標.
313 (21 )
図 2 5 ピースプリズムユニットのカラープリズム部構成図.
図 1 のプリズムユニットの上方から見た図と色 離合成光路
を示す.
図 1 3 板 DMD プロジェクターの構成図.
2. 2K ディジタルシネマ光学系
ぐ.投影光学系は,上記プリズムユニット長のレンズバッ
1.2K の開発後,ディジタルシネマ専用の素子として,
解像度 2K とよばれる新しい DM D 素子が開発され,これ
クをもつロングレンズバック,テレセントリック光学系で
ある.
に伴い,光学系も 2K 素子の解像度を生かすべく,新しい
ディジタルシネマ用プロジェクターは,たとえば 20 m
光学システムが TI 社より提案され,2003 年末には商品化
のスクリーン幅では,18000 ルーメン以上の超高輝度プロ
されている.
ジェクターが要求される(スクリーンゲイン 1.8 でスクリ
2K 用 の DMD 素 子 は,画 素 ピ ッ チ 13.68μm,2048×
ーンの明るさが 14 フットランバート相当).光学系の構成
1080 画素の 1.2 型の素子で,1.2K 時の±10 度のマイクロ
部 のプリズムユニット,照明光学系,投影光学系それぞ
ミラー傾き角から,よりコントラストと明るさアップを図
れが,2 万ルーメンクラスの明るさを達成し,シネマに求
るため傾き角±12 度に広げられ,アスペクト比もビスタ
められる高画質を得るための工夫がなされている.
ビジョンに近い設定となっている.
2.1 6 ピースプリズム
DMD 素子を用いたディジタルシネマ用プロジェクター
既存の 3 板プロジェクターから,2K 専用の DMD 素子
は,大規模業務用システムと同じく,R,G,B 3 色に 3
に変
枚の DMD 素子を用いる 3 板プロジェクターである.
る.1 つは,5 ピースプリズムから,6 ピースプリズムと
図 1 は,3 板プロジェクターの光学系構成図を示す.大
されたことに従い,いくつかの改善が行われてい
よぶプリズムユニットの方式の変
がある.5 ピースと
きく DMD 素子 3 枚(うち 2 枚は図 1 に見えず)を含み,
は,2 つのプリズムブロックからなる TIR プリズムと,3
照明光と投影光そしてオフ光を
離するプリズムユニッ
つのプリズムブロックからなるカラープリズムの 5 つのブ
ト,数 kW クラスのキセノンランプからプリズムユニッ
ロックを示す.12 度 DMD の場合,図 1 の断面において
トに照明光を導く照明光学系,および DMD 素子の表示画
DMD 素子に対して 24∼26 度(空気換算)で照明光が入
像を投影する投影光学系からなる.プリズムユニットは,
射し,ほぼ垂直に投影光(=オン光)が射出する.さら
照明光学系からの光路と投影光学系への光路を
離する
に,マイクロミラーがオフ状態の場合は,素子に対して
TIR(total internal reflection)プリズムと,照明光を 3
48∼50 度 (空気換算)のオフ光が射出する.ダイクロイッ
色に色 離し,かつ 3 色の DMD 素子からの色合成を兼ね
クコーティング面をもつカラープリズムは,通常,入射角
るカラープリズムからなる.カラープリズムは,図 1 の上
や偏光によって特性が異なる入射角依存性,偏光依存性を
面から見た構成が図 2 であり,図 2 の断面で色 離合成を
もつため,照明光,投影光,そしてオフ光の 光特性が異
行う.図 1 の TIR プリズムの 2 つのプリズムブロック間
なる.これは,本来透過すべき色光が照明光では透過して
および,図 2 のカラープリズムの 3 つのブロック間は 10
投影光では反射するなど,光量の損失やゴーストを発生さ
数 μm∼数十 μm のエアギャップ(空気層)を介してい
せる.投影光,オフ光とも,特に DMD 側に到達するゴー
る.照明光学系は,人工石英製のロッドプリズムをもつイ
ストは DMD 素子やその周辺の構造物などに当たり,フレ
ンテグレーターロッド方式の照明光学系で,DM D の表示
アおよび熱的問題を発生させる.
域に非常に良好に結像させるリレー光学系により,DM D
2K 用の DM D 素子を用いた,DLP Cinema システムに
の表示域外への不要光を抑え,光熱によるダメージを防
おいては,これらを低減させるために,カラープリズムを
314 (22 )
光
学
図 3 6 ピースプリズムユニットのカラープリズム部構成図.
(a)
(b)
図 5 (a) イエローノッチフィルターの 光透過率と (b) 5
ピース→ 6 ピース,6 ピースでのイエローノッチフィルター
による色純度改善効果.
(a)
改善している.
2.2 イエローノッチフィルター
2K ディジタルシネマ用プロジェクターには,イエロー
(b)
ノッチフィルターとよぶ,図 5 (a)のような
光特性をも
つフィルターが照明光学系にある.イエローノッチフィル
ターにより,プリズムに入射する前にイエローおよびシア
ン成
の
光をある程度カットし,投影光の各 R,G,B
の色純度向上,ならびに上記,プリズム内のゴーストのさ
らなる低減を図っている .図 5 (b)に,イエローノッチ
図 4 カラープリズムの照明光から投影光 (=オン光)の 光
透過率とゴースト光.(a) 5 ピースの場合.(b) 6 ピースの
場合.各色の照明∼正規投影光,オン/オフ光状態にて G に
達するゴーストと R あるいは B に達するゴーストを示す.5
ピースと 6 ピースでは色 解の順が R と B で逆なため,ゴ
ーストも逆の色素子に達する.
フィルターによる色純度改善を色度図上に示す.
3. 2K ディジタルシネマ用投影光学系
プリズムユニットの改善に加え,投影光学系も従来の 3
板業務用システムの投影光学系から,透過率の改善,MTF
および倍率色収差の大幅な改善を図っている.従来の 3 板
4 つのプリズムブロックで構成させた 6 ピースプリズムと
業務用レンズに対し,イメージサークルやレンズバック,
よぶ方式を採用している (図 3).5 ピースに比べて,ダイ
倍率比の違いがあるので,直接的な比較はできないが,表
クロイック面への入射角が大きく変わり,図 2 および図 3
1 に示すように,2K 用に高性能画像を得るために,およ
の入射角は α >α ,α >α となる.これにより,ま
そ倍ほどの高精細に値する設計性能を達成している.図 6
ず,ゴースト光をできるだけダイレクトに DMD に達しな
に製品レンズの写真,表 2 にラインナップを示す.
いようにしている.また,最も入射角の大きい入射角 α
3.1 投影光学系の透過率改善
を α にまで小さくすることで,偏光による 光特性隔差
投影光学系の光学性能はレンズ枚数を増加させることで
を少なくし効 率 ア ッ プ に 貢 献 し て い る.図 4 は,12 度
アップを図れるが,大型レンズのため,レンズ枚数増加で
DM D においての 5 ピースと 6 ピースでの投影光,および
透過率の低下が激しい.また,面間反射などが増え,コン
DM D 側に達するゴースト光の
トラスト低下の要因にもなる.まず,透過率確保のため,
光特性を示す.
6 ピースの採用により,B 投影光の G 側カーブ,G 投影
レンズ枚数の制限と 用ガラスの制限,具体的には図 7 に
光の B 側カーブが急峻となり,色純度改善と 3% 程度の
示すように,青波長域で透過率の低い高屈折率,高
効率アップとなるとともに,DMD 側に達するゴーストを
ガラスを避けている.また,本光学系で多数 われている
大幅に低減させており,数 kW のキセノンランプを用い
フッ化物ガラス専用の高透過率 AR コートも採用してい
る DLP Cinema システムにおける,熱,フレアの問題を
る.
35巻 6号(2 06)
散の
315 (23 )
表 1 従来 3 板用投影光学系と 2K 用投影光学系の設計性能等の比較.
業務用途(レンタル&ステージング)
投影光学系
2K シネマ用投影光学系
1280×1024
17μm
1.1 型
10 度
2048×1080
13.68μm
1.2 型
12 度
素子スペック
画素数
画素ピッチ
素子インチ数
DMD 傾き角
主 値
プリズムタイプ
レンズバック(in Air)
F no
102.5 mm 5 ピース
>84 mm
F3
116 mm 6 ピース
>98 mm
F 2.5
MTF
Center>80%/30 本
Corner>70%/30 本
<0.5 画素=8.5μm
白色平 >85%
Center>90%/36 本,70%/72 本
Corner>80%/36 本,60%/72 本
<0.25 画素=3.4μm
白色平 >88%
R-G,G-B 隔差<5%
光学性能(設計値)
倍率色収差
透過率
表 2 2K 用投影光学系のラインナップ.
投影比
1.0:1
1.25∼1.45:1
1.45∼1.8:1
1.8∼2.4:1
2.2∼3.0:1
3.0∼4.3:1
4.3∼6.0:1
5.5∼8.5:1
F no
焦点距離 (mm)
F 2.5
F 2.5
F 2.5
F 2.5
F 2.5
F 2.5
F 2.5
F 2.5
29.0
35.3∼41.0
40.7∼50.9
50.7∼67.8
62.4∼84.8
85.0∼121.6
122.8∼172.3
156.5∼243.1
シネマ用および業務用を含めて投影比(投影距離とスクリーン
幅の比)の異なる光学系を製品化している.
図 7 2K 用投影光学系の 用ガラスマップ.通常のガラスマ
ップから透過率確保を 慮し,ほぼ枠内の硝種に限定.
二次の色収差がよく知られており ,プロジェクター光学
系において R,G,B 3 色の色収差を補正することが大き
な課題である.本光学系のようにレンズバックが長い光学
系では,仮に標準的ガラスで構成した場合,C 線 F 線間
がよく補正されても,g 線 F 線間で 30∼40μm 程度の二
次の倍率色収差(h=17 mm)が発生する.
正レンズに正の異常部
図 6 2K 用投影光学系(写真)
.
性能面では特に向上が困難な二次の色収差を補正するた
めに,異常部
散比をもつガラスを効果的に配置してい
る.
散比(θ が標準ガラス直線よ
りプラス側)のフッ化物ガラス,負レンズにランタン系な
どの負の異常部
3.2 投影光学系の色収差の改善
りより後の
散比のガラスを用い,それでも補正不
足であるため, りより前部の効果的な負レンズにフッ化
物ガラスを用いて,二次の倍率色収差を 1∼2μm 程度ま
で改善させている.図 8 は,光学系群のうち,(a) 広角,
(b) 標準投影光学系の各レンズの二次の色収差補正量で
標準的ガラス(本説明では,g 線 F 線間の各硝種の部
ある.ΔLC は倍率色,ΔAC は軸上色収差の補正を示す.
散比 θ を ν でプロットしたとき,基準硝種 K7 と F2
特にΔLC は,前群,後群のレンズで積極的に負に補正を
を結ぶ直線上にあるガラスとする)を組み合わせた光学系
行うことで,R,G,B 全色において倍率色収差を非常に
では,特定の 2 波長(本説明では C 線 F 線間)の色収差
小さく抑えている.
が十
補正されても,その他の波長との色収差が発生する
316 (24 )
光
学
(a)
るために,透過率の確保を行いつつ,従来レンズに比べ
て,倍率色収差,M TF の大幅な改善を行い,従来のフィ
ルムシステムに引けをとらない映像を得ることができた.
本システムは,特にアメリカを中心に商用として順次導入
されており,フィルムによるシステムからの置き換えが推
進されようとしている.
(b)
なお,本稿の作成にあたり,Texas Instruments 社より
サポートいただきましたことを感謝いたします.
文
献
アを低減,色純度を向上させるために,新たに 6 ピースプ
1) 吉村 真:“デジタルシネマ用プロジェクタ”,Optics Japan
2005 Proceeding (2005) pp. 456-457.
2) W. B. Werner and D. S. Dewald: Application of DLP
technology to digital electronic cinema―A progress
report, 140th SMPTE Technical Conference, October 98
(1998) pp. 99 -103.
3) L.J.Hornbeck: Current status and future applications for
DMD-based projection displays, The 5th International
Display Workshop (1998) pp. 713-716.
4) D. S. Dewald:US patent No. 5,930,050.
5) L. J. Hornbeck, D. Darrow, G. Pettitt, B. Walker and B.
Werner: DLP Cinema projectors:Enabling digital cinema, SID Digest (2000) pp. 314-317.
6) D. S. Dewald:US patent No. 6,231,190.
7) たとえば,高橋友刀:レンズ設計 (東海大学出版会,1994)
pp. 57-60.
リズムやイエローノッチフィルターが採用された.同プロ
(2006 年 1 月 23 日受理)
図 8 個別レンズの異常部
散 Δθ による倍率色収差の補
正効果.二次の色収差によって発生する+30∼40μm の倍率
色収差を各レンズの異常部
散性によるマイナス方向への
補正を積み上げて低減させている.左側がスクリーン側レン
ズ.(a) 広角投影光学系の各レンズの二次の色収差補正,
(b) 標準投影光学系の各レンズの色収差補正.
2K 画素のマイクロミラーデバイスを用いたディジタル
シネマ用プロジェクション光学系では,2 万ルーメンクラ
スの高輝度での,光学系および構造物への熱的負荷,フレ
ジェクションの投影光学系においては,投影画質をよくす
35巻 6号(2 06)
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