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植物のアスコルビン酸輸送体がついに同定された ―PHT4;4 による葉緑
トピックス 286 〔ビタミン 89 巻 植物のアスコルビン酸輸送体がついに同定された ―PHT4;4 による葉緑体へのアスコルビン酸輸送― $VFRUEDWHWUDQVSRUWHULQSODQWFKORURSODVWVZDV¿QDOO\LGHQWL¿HG 一般に植物の葉は,mM オーダーの高濃度でビタミ のレドックス状態に影響しないこと 7),AtNAT を発現 ン C(還元型アスコルビン酸:AsA)を含んでおり,そ した組換え体酵母は AsA 輸送活性を示さないこと 7), の量はセルロースやデンプンを除いた可溶性糖質の約 AtNAT3 および AtNAT12 を発現した大腸菌は核酸塩基 10%にも相当する.オルガネラレベルでは葉緑体に多 (アデニン,グアニン,ウラシル)に対して輸送活性を く存在しており,数十 mM オーダーに達する.植物の 示すが,AsA はこの輸送活性を阻害しないこと 8),な AsA は,D-マンノース / L-ガラクトース経路により生合 どの事実から,AtNAT ファミリーが植物の AsA 輸送 成されるが,その最終段階はミトコンドリア内膜に局 体ではないことはほぼ明らかであり,動物とは異なる 在する L-ガラクトノ-1,4-ラクトン脱水素酵素の触媒反 輸送機構の存在が示唆されてきた. 応によることから,葉緑体への AsA 供給は能動的に行 こうした中 Miyaji ら 9)は,無機リン酸輸送体をコー わなければならない.葉緑体の AsA 輸送機構に関する ドする PHT ファミリー遺伝子の一つである PHT4;4 が, 知見は非常に限られており,これまでに唯一,Beck ら 1) 当該分野研究者が長い間追い求めてきた葉緑体型 AsA によるホウレンソウの単離葉緑体を用いた 14C-AsA 取 輸送体であることを初めて明らかにした.PHT4 ファ 込み実験が報告されているのみである.それによると, ミリー遺伝子は,Na+/H+ 依存性リン酸トランスポー 葉緑体の AsA 輸送活性は約 100μmol/mg chlorophyll/h で あり,AsA に 対 す る Km 値 は 18 ∼ 40 mM で ある. ターファミリー(SLC17)に属する.ほ乳類の SLC17 葉緑体以外にも,組織間における AsA 輸送機構の存在 てアスパラギン酸,グルタミン酸などの有機アニオン 2) 3) 14 ファミリーの中には,膜電位差(ǻȌ)と Cl− に依存し も報告されている.Franceschi ら や Badejo ら は C- に対する輸送体も存在することから,著者らはシロイ AsA を用いたトレーサー実験により,シロイヌナズナ, ヌナズナの PHT4 ファミリーの中にも同様の性質を有 アルファルファ,トマトなどの葉に与えた AsA が師部 し,アスコルビン酸に対する輸送体が存在するのでは に蓄積し,根の先端,花,果実などへと輸送されるこ ないかと仮定した.シロイヌナズナの PHT4 ファミリー とを報告しており,ソース器官(主に光合成の盛んな葉) は 4 つのサブグループに分けられるが,これらの中で からシンク器官(光合成産物を材料として生長もしくは 特に PHT4;3 ∼ PHT4;6 に着目し,大腸菌に発現させ 貯蔵が行われる生長点や子実など)への AsA 輸送機構 た組換え体タンパク質をリポソームに組込みこんだ 1) の存在が示唆されている.Beck ら の最初の報告から AsA 輸送活性測定系を独自に開発し,評価した.ǻȌ 30 年以上もの間,世界中の多くの研究者が植物 AsA 輸 の誘起には中性イオノフォアのバリノマイシンを用い ている.その結果,これらの中で,PHT4;4 のみが ǻȌ 送機構の解明に取り組んできたにも関わらず,AsA 輸 AsA 輸送体に関する研究は動物分野で先行してお と Cl−濃度依存的な AsA 輸送活性を示し,ǻpH や Na+ 依存性は認められなかった.AsA に対する Km 値およ り,Na+/AsA 共 輸 送 体 の SVCT1/2(SLC23A1/A2)が び Vmax は そ れ ぞ れ 1.2 mM お よ び 520 nmol/min/mg 送体タンパク質およびその遺伝子は未同定であった. 4) 1999 年に Tsukaguchi ら によって初めて報告されて以 protein であり,Beck ら 1)の単離葉緑体を用いた結果と 来,その分子特性や生理機能に関する多くの知見が蓄 おおよそ一致する.一方で,単離葉緑体の AsA 取り込 積している.それらの詳細については他の総説に詳し 5)6) み 活 性 は 酸 化 型 AsA に よ っ て 競 合 的 に 阻 害 さ れ る .SVCT1/2 は Nucleobase-ascor- が 1),PHT4;4 は AsA に特異的であり,酸化型アスコ bate transporter(NAT)family タンパク質であり,相同性 検索によりシロイヌナズナには 12 種類の NAT 遺伝子 ルビン酸や AsA 立体異性体 D-isoAsA の影響は受けな かった.PHT4;4 遺伝子は,AsA 生合成が盛んな葉で (AtNAT1 ∼ AtNAT 12)が存在することから,これらが 顕著に発現し,また光により発現誘導された.PHT4; く述べられている AsA 輸送体ではないかと考えられていた.しかし,シ 4 抗体を用いて免疫組織化学的に局在を調べたところ, ロイヌナズナの AtNAT 遺伝子の破壊株は,通常および PHT4;4 タンパク質は葉の向軸側(表側)に存在する柵 強光下の葉や根などの各組織における AsA レベルやそ 状組織で発現していた.また,細胞レベルでは葉緑体 5・6 号(6 月)2015〕 トピックス 287 包膜のマーカータンパク質 TIC40 と局在パターンが類 の AsA 輸送を担っているのではないかと推測してい 似することから葉緑体包膜に局在することが示され る. た.葉の AsA レベルは光により亢進されることから, 今回植物で長年未解明だった待望の AsA 輸送体が初 PHT4;4 の発現パターンと局在は妥当な結果と言える. シロイヌナズナの PHT4;4 遺伝子破壊株(atpht4;4)を用 めて同定されたが,ミトコンドリアの膜間スペースで 合成された AsA は,葉緑体以外にもミトコンドリアマ い た 解 析 か ら も, 葉 緑 体 型 AsA 輸 送 体 と し て の トリクス,液胞,アポプラスト(細胞膜外側のスペース) PHT4;4 の役割が支持されている.atpht4;4 は野性株と などにも存在し,また先述したように組織間でも輸送 の形態学的特徴に違いは認められなかったが,強光ス されることから,今回同定された PHT4;4 以外にもま トレス条件下において atpht4;4 の葉における AsA レベ だ複数の AsA 輸送体が存在するはずである.今回の発 ルは野性株に比べて∼ 35%まで低下していた.さらに, atpht4;4 では葉緑体中の AsA レベルの低下も認められ 見がブレークスルーとなり,植物における AsA の動態 た.葉緑体の AsA は,強光ストレスで生成する活性酸 は動物の SVCT1/2 とは特性が全く異なるが,生物間に 素種の代謝以外に,過剰な光エネルギー散逸系である おいて AsA 輸送機構はどのような変遷を辿ってきたの キサントフィルサイクルの駆動に必須の因子である か進化的な側面からも興味は尽きない. や輸送機構の全貌解明が期待される.また,PHT4;4 が,atpht4;4 では予想通り強光下のキサントフィルサ イクル活性が低下していた.これら一連の結果は, Key Words:vitamin C, transporter, plant, chloroplasts PHT4;4 が AsA 輸送体として生理的に機能しており, 葉緑体への AsA 供給に不可欠な役割を担っていること Faculty of Life and Environmental Science, Shimane Uni- を強く支持している.一方,キサントフィルサイクル versity はチラコイド内腔で機能していることから,葉緑体胞 Takashi Takeuchi, Takanori Maruta, Takahiro Ishikawa 膜を通過してストロマに到達した AsA は,さらにチラ 島根大学生物資源科学部 コイド膜も通過しなければならない.著者らは PHT4; 竹内 崇,丸田 隆典,石川 孝博 4 と高い同一性を持つ PHT4;1 がチラコイド膜内腔へ (平成 27.1.19 受付) ග䝇䝖䝺䝇 文 献 AsA ⣽⬊㉁ ⴥ⥳య 1)Beck E, Burkert A, Hofmann M (1983) Uptake of L-ascorbate by intact spinach chloroplasts. Plant Physiol 73, 41-45 2)Franceschi VR, Tarlyn NM (2002) L-ascorbic acid is accumulated 䝏䝷䝁䜲䝗 AsA ȴɎ䚸ClЁ౫Ꮡⓗ AsA AsA㍺㏦య APX APX ? in source leaf phloem and transported to sink tissues in plants. Plant Physiol 130, 649-656 䜻䝃䞁䝖䝣䜱䝹 䝃䜲䜽䝹 㻾㻻㻿௦ㅰ 3)Badejo AA, Wada K, Gao Y, Maruta T, Sawa Y, Shigeoka S, Ishikawa T (2012) Translocation and the alternative D-galacturonate pathway contribute to increasing the ascorbate level in ripen- 䝇䝖䝻䝬 ing tomato fruits together with the D-mannose/L-galactose path⇕ᨺᩓ way. J Exp Bot 63, 229-239 4)Tsukaguchi H, Tokui T, Mackenzie B, Berger UV, Chen XZ, 図 植物葉緑体におけるアスコルビン酸輸送機構 葉緑体内へのアスコルビン酸(AsA)輸送は胞膜に局在す る PHT4;4 が担っており,膜電位差(ǻȌ)や Cl−依存的に 機能する.PHT4;4 は光により誘導される.葉緑体に取込 まれた AsA はストロマやチラコイド膜に局在するアスコ ルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)の基質としてまたチラ コイド内腔でキサントフィルサイクル構成酵素の補因子 として利用され,光ストレス時の活性酸素種(ROS)代謝 や熱放散過程に必要である.ストロマからチラコイド膜 内腔への AsA 輸送機構は未解明である. Wang Y, Brubaker RF, Hediger MA (1999) A family of mammalian Na+-dependent L-ascorbic acid transporters. Nature 399, 70-75 5)Wilson JX (2005) Regulation of vitamin C transport. Annu Rev Nutr 25, 105-125 6)Bürzle M, Suzuki Y, Ackermann D, Miyazaki H, Maeda N, Clémençon B, Burrier R, Hediger MA (2013) The sodium-dependent ascorbic acid transporter family SLC23. Mol Aspects Med 34, 436-454 7)Maurino VG, Grube E, Zielinski J, Schild A, Fischer K, Flügge UI (2006) Identi¿cation and expression analysis of twelve mem- 288 トピックス bers of the nucleobase-ascorbate transporter (NAT) gene family in Arabidopsis thaliana. Plant Cell Physiol 47, 1381-1393 〔ビタミン 89 巻 3025-3035 9)Miyaji T, Kuromori T, Takeuchi Y, Yamaji N, Yokosho K, Shima- 8)Niopek-Witz S, Deppe J, Lemieux MJ, Möhlmann T (2014) Bio- zawa A, Sugimoto E, Omote H, Ma JF, Shinozaki K, Moriyama Y chemical characterization and structure-function relationship of (2015) AtPHT4;4 is a chloroplast-localized ascorbate transporter two plant NCS2 proteins, the nucleobase transporters NAT3 and in Arabidopsis. Nat Commun 6i5928 NAT12 from Arabidopsis thaliana. Biochim Biophys Acta 1838,