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課題番号 19GS0418 研究課題名 生体情報伝達連鎖機構の単分子力学

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課題番号 19GS0418 研究課題名 生体情報伝達連鎖機構の単分子力学
課題番号
19GS0418
研究課題名
生体情報伝達連鎖機構の単分子力学解析と計算機モデリング
研究代表者
猪飼
推薦者
産学協力総合研究連絡会議
(ナノプローブテクノロジー第 167 委員会)
推薦研究テーマ名
生体情報伝達連鎖機構の単分子力学解析と計算機モデリング
推薦の観点
創造的・革新的・学際的学問領域を創成する研究
篤(東京工業大学・大学院生命理工学研究科・教授)
推薦理由
生細胞は自ら運動し、環境に応じて外部情報の細胞内へのインプットや、細胞内情報の細胞外
へのアウトプットを自己制御するダイナミックな化学反応槽であり、その基本構造は脂質・タン
パク質間の非共有結合性相互作用に依存するソフトなシステムである。そこに見られる情報伝達
機構は、細胞内外のタンパク質間でのリン酸化・脱リン酸化などの化学的な変化によるとされて
いる。生細胞構造の分子基盤はかなり詳細にわかりつつあるが、単一タンパク質分子内および分
子間での情報伝達メカニズムや、細胞を構成する分子間の相互作用については未解明の事柄が多
い。その理由の一つとして、従来は関係する分子の化学的変化に注目しその変化を解明してきた
が、化学変化が誘起する分子間の力学的連鎖機構の詳細に未解明な点が多いことが挙げられる。
情報伝達がタンパク質等高分子のコンフォメーションおよび電荷分布の変化により力学的に伝播
される点にあるにもかかわらず、単一分子レベルでの力学的な情報伝達機構の解明は技術的に困
難であった。しかし、昨今のプローブ顕微鏡やレーザートラップ法を中心とした単一分子力学測
定方法の開発により、これが可能となりつつある。本研究課題では、これらの知見を踏まえ、分
子間情報交換の基盤が、化学変化を受けた分子間の直接的接触に基づく力学的相互作用と、これ
に引き続く分子コンフォーメーション変化の連鎖という物理学にあることを重視した新しい研究
方法の開拓を目ざし、特に薬剤効果等に関連する緊急課題として細胞膜を介した細胞内外の情報
伝達機構の力学解明に重点を置く。この命題はまさに本委員会の主題であるナノプローブテクノ
ロジーを駆使して解決されるべき学際的課題であり、生化学領域に新規な力学的視点と研究方法
を導入するという意味において、上記、①創造的・革新的・学際的学問領域を創成する研究のう
ち、既存の学問領域を異なる観点からとらえ直し、新しい学問領域を創成することが期待される
研究の範疇に入ると考える。具体的には、情報伝達を担う素子間の力学的相互作用状況を、プロ
ーブ顕微鏡が持つ光学顕微鏡を超える高解像度で映像化し、単一分子レベルの相互作用力をピコ
ニュートンレベルの解像度で実測する。さらに、得られた映像情報、力学物性情報をもとに細胞
構造の力学的基盤を分子動力学と構造物単位での有限要素法を融合した計算機モデリングにより
理解する。このような分子レベルにおける映像取得、力学測定の両面において高解像度データを
得るには、本167委員会の持つプローブ顕微鏡技術を最大限生かした対応と、本委員会の全面
的バックアップが必要であると判断した。
研究代表者の推薦理由
猪飼氏のバックグランドは生化学・生物物理学にあり、従来の研究はタンパク質および細胞膜を
対象としてきた。特にタンパク質分子の変性実験とその速度論解釈で世界的な業績を挙げた。タン
パク質分子を対象として単一分子生化学を実現するためにトンネル顕微鏡、AFM を積極的に使用し
た研究に取り組み、特にタンパク質や細胞膜の力学物性測定においてわが国をリードする研究を続
けており、その成果は世界的にも広く認められている。猪飼氏の研究遂行の特徴は、バックグラン
ドである生化学・生物物理学的視点を従来以上に広く据え、分子レベルへの材料力学の適用および
計算機シミュレーションを積極的に進めている点にある。その意味で、生体構造とその相互作用に
よって発現される生物機能理解への力学的視点の導入という本研究課題遂行にはもっとも適任であ
る。本研究課題は物理学、工学、材料科学、生化学、生物学諸分野の英知を集め、単一分子レベル
での力学的相互作用に基づく情報交換、情報伝達の機構を、プローブ顕微鏡を中心とする高解像度
映像法と力学解析法により解明するものであるから、プローブ顕微鏡技術を中心として結集してく
る多彩な背景を持ち、新学際領域開拓の意欲に燃える若手研究者の相互協力と切磋琢磨が欠かせな
い。この点から見て、本委員会の委員として長らく諸分野の俊秀と議論を重ね、異分野融合に尽力
してきた点でも本研究課題の代表者としてふさわしい人物であると考える。
また、同氏はこのような学際的分野を代表する研究者として、物理学者、工学者、物質科学者、
生物学者等からたゆみなく新しい知見を吸収し、広く意見を交換している点で学際研究にふさわし
く、また常に新しい領域に挑戦することにより、学問的若さを保っている。さらに、あたらしい世
代を担う若い研究者、外国人研究者の養成にも熱心であるところも研究代表者としてふさわしい資
質と考える。
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