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第8回ソウルJMICシンポジウム

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第8回ソウルJMICシンポジウム
第 8 回ソウル JMIC シンポジウム
~日韓ミュージック・パブリッシャーの役割と課題~
日韓両国のミュージック・パブリッシング(音楽出版)が、日韓それぞれの音楽業
界においてどのような役割を果たしてきており、どのような違いがあるのか、著作権
管理事業者との関係、ここ数年の音楽業界を取り巻く急速なデジタルネットワーク化
に対応するためにどのような対応をとっているのか等、日韓のミュージック・パブリッ
シングの現状と課題について、日韓両国の専門家を招聘し、講演やパネルディスカッ
ションを開催することにより、本件に対する理解を深める機会を提供することとする。
◆日時:2009 年 3 月 19 日(木) 10:00~13:00
◆会場:在韓日本大使館公報文化院 3 階ニュー・センチュリーホール
◆主催:在韓日本大使館公報文化院日本音楽情報センター(JMIC)
財団法人音楽産業・文化振興財団(PROMIC)
◆第一部講演会:堀一貴氏、株式会社ホリプロ取締役副会長
社団法人音楽出版社協会副会長
キム・ジュヨン氏、FUJIPACIFIC MUSIC KOREA INC 代表理事
社団法人韓国音楽出版社協会 理事
◆第二部パネルディスカッション:シン・チョル氏、シンシネ代表理事
キム・ヨンミン氏、S.M.Entertainment 代表理事
◆司会・進行:チョ・ギチョル氏、Universal Music Publishing 代表理事
音楽出版社の業務と著作権管理団体の関係
堀
一貴
ただいまご紹介にあずかりました、ホリプロの堀一貴です。本日はこのような形で皆様
にお話しをできる機会を頂きまして本当にありがとうございます。
早速ですが、皆様のお時間を拝借して「音楽出版社の業務と著作権管理団体の関係」つ
いて少しお話をさせていただきたいと思います。
一般的に音楽出版社の歴史は 16 世紀の楽譜の貸出業から始まったとされています。エ
ジソンが蓄音機を発明したのが 1877 年。ベルリナーが平円盤レコードと蓄音器を発明
しグラモフォンと命名したのが 1887 年。レコード会社らしきものがスタートするのが
20 世紀の初めですから、音楽出版業の誕生はレコードビジネスより 300 年以上前とい
うことになります。
日本においては 1910 年に現在のコロムビアミュージックエンタテインメントの前身で
ある日本蓄音機商会が初のレコード会社として設立されています。音楽雑誌や楽譜を出
版する会社が誕生するのが 1940 年代の初め、そして現在皆様がご存知の形の音楽出版
社が誕生するのが 1960 年前後ですから、世界の歴史とは逆の道をたどっています。まず
はその辺の事情からお話ししたいと思います。
レコード産業の創生記、日本のレコード会社は歌手と専属契約を結ぶように、作詞・作
曲家とも専属契約を結んでいました。歌手は所属しているレコード会社の専属作家の作
品だけをレコーディングし、その著作権もレコード会社が独占的に権利を保有していた
訳です。ですから、音楽出版社が介在する必要がありませんでした。50 年代の後半以
降、それまでポップスといえば洋楽曲のカバーであったのが、徐々にオリジナル曲の需
要が高まってきました。当時のレコード会社の歌手も作家も、どちらかといえば主にト
ラディショナルな邦楽か歌謡曲が専門でしたので、フリーのポップス作家の楽曲が必要
になってきたのです。と同時に、レコードビジネスが変革し、歌手が所属するマネージメ
ント会社(一般的にはプロダクションと呼ばれますが)が所属する歌手にオリジナル曲
をレコーディングさせ、その原盤をレコード会社に貸し出す、いわゆる「原盤ビジネ
ス」がスタートしたのもこの時期です。「原盤ビジネス」の草分けと言われる渡辺音楽
出版は 1962 年の設立、私どもホリプロはその 8 年後 1970 年に東京音楽出版という音楽
出版社を設立し原盤ビジネスをスタートさせています。
それまでレコード会社が制作したレコードに使用する楽曲の著作権を管理していた訳
ですから、フリーの作家としても原盤を制作した音楽出版社に著作権の管理をゆだねる
のは自然の成り行きだったようです。こうして、原盤権に付随するように著作権が原盤
制作会社によって管理される日本特有の音楽出版ビジネスが誕生した訳です。
現在の日本の音楽出版社を見ますといくつかの系統に分けることができます。今お話し
たように、所属の歌手の原盤制作をするプロダクション系。専属作家の楽曲だけでは時
流に合わなくなり、フリー作家の楽曲の管理もする必要性に迫られたレコード会社系の
出版社。番組の主題歌や背景音楽の制作、そして時には独自にアーティストを発掘しプ
ロモートする放送局系の出版社。また、コマーシャル音楽制作会社、映画会社、ゲームソ
フトメーカー等音楽が欠かせない映像メディアに携わるありとあらゆる会社が音楽出
版社を設立しています。
ここで日本で最大の音楽著作権管理団体である JASRAC の歴史をたどってみましょう。
日本の音楽著作権の歴史を語る上で欠かせないのは 1930 年代に起こった俗に言う「プ
ラーゲ旋風」です。当時東京の府立高等学校のドイツ語教師だったウィルヘルム・プラ
ーゲ(Wilhelm Plage)はフランス、ドイツ、イギリス、オーストリア、イタリア 5 カ国の音
楽著作権団体の要請で 1931 年に「プラーゲ機関」を設立し西洋音楽の著作権使用料の
徴収を始めました。プラーゲは 1932 年 7 月、公共放送である NHK と交渉の末、月極めの
使用料を支払わせることに成功し、その他当時西洋音楽を無断で使用していた音楽演奏
会の主催者、演劇団体、レコード会社等に次々にアプローチ、使用料の支払いに同意しな
い場合は法的手段に訴えることによって揺さぶりをかけました。
1933 年 4 月それまでの月 600 円から 1,500 円に値上げを要求したプラーゲに対し、NHK
は同年 8 月から約 1 年西洋音楽の放送を取りやめる処置を取りました。同時に NHK は日
本政府に働きかけ NHK がレコードを使用し音楽を放送する際、作詞者、作曲者、レコード
会社名前等を放送すれば無料で放送できるという著作権法改正を翌年行わせました。
そして 1939 年に日本政府は「著作権に関する仲介業務に関する法律」、俗に言う「仲
介業務法」を制定し、プラーゲが行っていたような著作権使用料の徴収業務を政府の許
可が必要なシステムに変えてしまいました。この法律に則ってプラーゲと政府の主導で
設立された大日本音楽著作権協会が許可を求め、後者のみ許可されたのです。この大日
本音楽著作権協会が後の JASRAC となり、2001 年に「仲介業務法」が廃止され新たに
「著作権等管理事業法」施行されるまで日本唯一の音楽著作権管理団体だった訳です。
「著作権等管理事業法」は著作権の仲介業務にも市場原理を取り入れる名目で、それま
で許可制だった仲介業務を登録制に変更しました。これにより、音楽の分野ではイー・
ライセンスやジャパン・ライツ・クリアランス等株式会社の著作権管理事業者が誕生
しました。
少し戻りまして、JASRAC の歴史をもう少し掘り下げたいと思います。「仲介業務法」に
よって独占的に著作権管理業務を始めた JASRAC ですが、その創生記は決して順風万端
だったという訳ではありません。
先ほども申しましたように、当時のレコード会社は専属作家制を敷いていました。録音
権は当然レコード会社が自己管理をしていますので、JASRAC にとってはレコード会社
が管理していなかった演奏権と 1951 年以降少しずつ増えていった海外の楽曲の使用料
が主な収入源でした。設立の趣旨から言って,JASRAC は NHK になるべく自由にそして安
価に音楽を利用させるために設立された訳ですから、そんなに多額の放送使用料が協会
に支払われる訳がありません。ですからその影響のせいか、徴収額で世界トップクラス
となった現在でも全体の徴収額の中で放送の占める割合は約 23%となっています。
さて JASRAC の徴収額が安定して増えてくるのは 1960 年以降です。音楽出版社が生まれ
原盤制作をすることによって得た著作権を JASRAC に信託することにより、それまで
JASRAC があまり扱えなかった録音権の許諾・徴収が取り扱えるケースが飛躍的に増え
たからだと言えるでしょう。ですので、JASRAC の歴史の中で音楽出版社の貢献度はか
なり高いと言えると思います。
ここで著作者、音楽出版社、そして JASRAC の三者の関係をおさらいしてみたいと思いま
す。作詞・作曲家は合意した条件で音楽出版社に著作権を譲渡します。出版社は譲渡さ
れた楽曲を JASRAC に登録し、JASRAC は得た使用料を音楽出版社に分配し、音楽出版社
は譲渡された時の条件に応じてそれを作家に再分配します。この際、演奏権の著作者取
り分は著作者が JASRAC と信託契約をしていれば国際的慣例により直接著作者に分配さ
れます。
このような説明をすると、著作者の方はよく JASRAC が徴収・分配をしてくれるなら音
楽出版社はいらないではないか、と思われることがあるようです。このスライドでは音
楽出版社、JASRAC、そして使用者の関係を見ていただきたいと思います。先ほどと同じで
すが、音楽出版社は著作者から譲渡を受けた楽曲を JASRAC に信託することによって、
JASRAC はその楽曲を使用したい者に許諾を与えることができます。そしてその使用者
から使用料を徴収し、音楽出版社に分配をします。
ここでキーとなるのが右側に赤い色で書いてあります「プロモート」という行為です。
まず音楽出版社は原盤を制作しそれを発売させることによって楽曲をプロモートして
いると言えます。それが前提で著作者も楽曲の権利を出版社に譲渡している訳です。当
然出版社はその楽曲がヒットするようレコード会社と協力して宣伝活動に力を入れま
す。また原盤を保有する出版社は自ら原盤をネット配信したり、インデペンデント・レ
ーベルとして CD を自ら販売したりするケースも多く見受けられます。
音楽出版社のプロモーションで非常に重要な位置を占めるのは映像製作者に対する楽
曲のプロモーションです。TV コマーシャルや番組とのタイアップはしばしば大ヒット
を作り出しますし、映画、ゲーム等の映像作品は楽曲を露出するための有力な媒体とし
て有効です。
またカラオケやモバイル配信でのユーザーとの接触数は、ヒット曲の度合いを測る意味
でも非常に重要なデータとなっています。カラオケやモバイル配信に早い時期に楽曲を
提供することが、楽曲をヒットさせるための一つのプロモーションとなっています。
最後に、ここ数年パチンコからの利用料徴収額が増大しています。パチンコの場合は、許
諾料、複製使用料とも比較的単価が高いため、一ライセンスからの収入が多く見込まれ
ます。韓国の楽曲でもドラマ「冬のソナタ」や「春のワルツ」をテーマとしたパチンコ
機器にドラマの中で使用された楽曲が使用され、大きな使用料収入を得たことは皆様ご
存知のことかと思います。
このように楽曲をヒットさせるためもしくはスタンダード化させるため、音楽出版社は
作家個人で行うのは難しいプロモート活動を多面的に展開しています。
音楽ビジネスはここ数年デジタル化、ネット化の波に押され、違法ダウンロード等の影
響か CD のセールスは大幅に下落しています。そこに加え昨年後半からの金融危機は、音
楽業界にさらなる暗い影を落としています。当然その影響は音楽出版社のビジネスモデ
ルにも出てくるでしょう。
音楽出版社はこれまでプロダクションやレコード会社が手掛けていた新しい才能の発
掘や育成を独自の視点で手掛けていく必要が出るでしょう。またレコード会社の様な
機能を持ち新人アーティストの原盤を製品化もしくは配信することによって新人アー
ティストを世に送り出すための重要な役割を担ってくるでしょう。既にこのような動き
は欧米でも見られるようになっています。音楽出版社が YouTube や My Space を利用し
アーティストのプロモーションを展開し、インターネットを通じて国境をも超えて楽曲
をファンに直接提供するビジネスモデルは、著作権や原盤権を軸とした言わば 360°の
ビジネスモデルと言えるでしょう。
また音楽著作権を中心としたビジネスモデルは他の権利ビジネスに応用できる可能性
も秘めています。これは実際に私どものアメリカ法人に持ち込まれた企画ですが、本を
紙の書籍として出版せずにオーディオブックとして制作しインターネットを通じて流
通させ、その制作を我々が請け負う対価としてオーディオブックからの売り上げを著者
と分け合い、そしてその本の映像化等の二次的権利を我々に委託するという提案でした。
残念ながら私どもでは現状スタッフに余裕がないためお断りしましたが、形としては音
楽の原盤・著作権ビジネスに瓜二つのビジネスモデルとして将来的には考えられるの
かもしれないと思います。
デジタル化の時代になり著作権を取り巻く環境は大きく、そしてすさまじい勢いで変化
しています。それまでに考えられなかったような音楽の利用法に対し権利者側は許諾を
迫られます。これに迅速な対応が取れないと、早いスピードで変化していく技術につい
てゆけずビジネスチャンスを逃してしまうことになってしまいます。
初期の音楽配信の時代に JASRAC も技術の革新に戸惑い、許諾の方針を確立するのに立
ち往生した時期があります。音楽出版社はこの新しい技術をビジネスチャンスととらえ、
未熟な段階にあった着メロ配信やインターネットによる音源のダウンロード販売に積
極的に取り組みノウハウを蓄積しました。このノウハウがその後 JASRAC がネットに対
応した許諾システムを確立した際少なからず活かされたのではないかと私は思ってお
ります。現在の JASRAC は世界の著作権管理団体の中でも、最も技術革新に柔軟に、そし
て現実的に対応している団体の一つとして実績を積んでいます。
当然ながら、この著作権管理団体と音楽出版社のコラボレーションは今後の著作権ビジ
ネスの上でも必要不可欠なものであると考えます。
最後に Culture First 運動について一言述べさせていただきたいと思います。
日本におけるインターネットを利用したコンテンツの流通ビジネスは成功例が多くな
いというのは誰の目にも明らかだと思います。ネット流通業界の中にはこれを権利者が
許諾を下ろさずに障害となっているためだという主張が少なからずあります。権利者の
立場も流通側の立場も経験したことがある私から申し上げれば、それはネット流通側が
権利者と Win-Win の関係になるようなビジネスモデルを提示できていないからだと思
います。
しかし残念ながら政府の中にはネット流通サイドの話を鵜呑みにして権利者の権利の
格下げや、不当に低い許諾料を法制化することによって流通促進につなげようという動
きがあります。ユーザーの利便性を考えて制度化された私的録音・録画補償金制度は機
器メーカーの激しい抵抗にあい、肝心の iPod やハードディスクレコーダーが対象機器
にできない状況が続き、制度自体が存続の危機に瀕しています。
Culture First はこの危機的な状況に対応し権利者側の声を発信するために、国内の著
作者、著作権者の団体が集まり起こした運動で、ヨーロッパで既に存在する同様の運動
をモデルにしています。
創作者に正当な対価が支払われない限り、その創作意欲は衰え最終的にはコンテンツが
枯渇してしまいます。そうなれば、どんなに立派な技術や機器が存在しても、それは無用
の長物となってしまう。「Culture First~はじめに文化ありき~」とは、文化をないが
しろにしてまでも、経済的な繁栄を求めていくのは難しい、というアーティストの叫び
だと思います。
現在では 91 団体が参加する運動は、若干意見を集約するのに手間取るくらいの大きな
運動になってきました。本格的な活動はこれからということになりますが、必ずやその
意思が日本国民そして政府に伝わることを心から願っております。
ご静聴ありがとうございました。
大韓民国における音楽出版社の役割と展望
金周姸(キム・ジュヨン)
FUJI PACIFIC MUSIC KOREA INC で代表理事を務めております金周姸と申します。
しかし、本日この場には FUJI PACIFIC MUSIC KOREA の代表理事ではなく、(社)韓
国音楽出版社協会の一員として参加させて頂きました。
韓国の音楽出版社の歴史は15年しか経っておらず、同じ音楽業界に携わっていなが
らも音楽出版社の役割に詳しくない方が少なくないため、このような場を通じて音楽
出版社の役割を皆様に理解していただき、また他の関連業界の関係者の皆様とも業務
協力を行っていきたいと思いまして、この場に参加させて頂きました。
本格的な発表を始める前に早朝からお越し頂きました観客の皆様と、並びに本日この
場を設けてくださいました日本広報文化院の関係者の皆様、本行事を後援して頂きま
した後援者の皆様、パネルとして参加していただきましたシン・チョル様、キム・ヨ
ンミン様、お忙しい中にもかかわらず遥々日本からお越しくださいました堀様に感謝
の言葉を申し上げます。
では、本格的な発表を始めさせて頂きます。
音楽出版社が韓国でどのような業務を行っているかについてお話する前に、音楽出版
社について多くの人が混同している3つの分野についてまずお話したいと思います。
第一はレコード会社と音楽出版社はどう異なるのか、第二は楽譜を出版する楽譜出版
社と音楽出版社はどう異なるのか、最後に著作権管理団体の KOMCA と音楽出版社は
どう異なるかについてお話します。
2番目と3番目の違いについては後ほど説明することにして、まずレコード会社と音
楽出版社との違いについてお話いたします。通常レコード会社は、韓国ではよく企画
社という言い方をしますが、歌手と契約を締結してその歌手の活動を支援し、さらに
その歌手のレコード製作に関する活動を行ないます。これに対し、音楽出版社は基本
的に作詞、作曲を行う作家と契約を締結し、その作家が創作した楽曲をどうパブリッ
シングするか、すなわち世の中に広く PR する作業を行います。
レコード会社の最も基本的なパートナーが歌手だとすれば、音楽出版社の最も基本的
なパートナーは作詞、作曲を行う作家だといえます。しかし、韓国ではこれまで作家
が曲を書いて楽曲を供給する上で、音楽出版社を介して供給を行ったというよりは、
スライドをご覧になるとお分かり頂けると思いますが、楽曲の供給が二箇所で行われ
ています。
これまでは作家個人が企画社の社長、または企画社に勤める人たちの紹介で楽曲を供
給してきましたが、最近は作家が音楽出版社を通じて楽曲を供給するケースが増えて
います。これがレコード会社と音楽出版社との最大の違いです。
では、次の説明に移りたいと思います。
韓国で音楽出版社が初めて設立されたのは、1994年のことです。しかし、199
0年代初め、80年代後半には既に海外にはミュージックパブリッシャーという業種
があるということが知られていました。ミュージックパブリッシャーをあえて韓国語
に訳しますと音楽出版社になりますが、このような音楽出版社の概念やビジネスモデ
ルについては90年代初めに既に知られていたのです。
だが、韓国で音楽出版社と言える企業が設立されたのは、キリン音楽権利出版社が設
立された1994年のことでした。このキリン音楽権利出版社が韓国で初めて音楽出
版業を展開したということができますが、1997年からは皆様がよくご存知の EMI、
Warner Chapel、ソニーなど外資系大手レコード会社の系列会社が韓国に支社を設立
し始めました。 FUJI PACIFIC が韓国に支社を設立したのも1999年のことです。
2000年に入ってからは、独立して音楽出版業を展開する会社が設立され始めた上、
レコード会社内でも音楽出版社と同じ業務を行えるのではないかとの認識が広がり、
レコード会社内にパブリッシング担当部署やミュージックパブリッシング担当者を設
ける動きが出始めました。
音楽出版社の業務を外部に紹介するときにどう紹介すべきかについて、私もいろいろ
悩みましたが、音楽出版社の業務を一言で言いますと、音楽著作者および楽曲の価値
を最大化することだと思います。いかにして良い作者を発掘して、その作者が創作し
た楽曲をこの世の中に PR するか、これが音楽出版社の基本的な業務と言えます。
それでは、音楽出版社の詳細な業務について、例を挙げながら説明したいと思います。
その具体的な例を挙げる前に、音楽出版社の役割をいくつかに分けてみました。
まず、著作権を管理する役割、楽曲をプロモーションする役割、その代価として発生
した使用料を分配/精算する役割に分けられますが、これについてより詳しく説明した
いと思います。
音楽出版社が存在するためには、まず楽曲がなければなりません。そのため、良い楽
曲を創作できる国内外の作家を発掘しなければならない上、また発掘した作家やその
作家が創作した楽曲を音楽業界に広く知らせるために企画およびプロモーションを行
わなければなりません。
音楽出版社がビジネスを行う際には、必ず個人作家とのみ契約を締結するのではなく、
既に個人作家と契約を締結している国内外の音楽出版社、または作家から著作権の譲
渡を受けてその著作権を保有している会社とも契約を締結して、これらの会社が保有
している楽曲についても開発およびプロモーションを行ないます。
著作権者を発掘して良い楽曲を確保した後は、契約を締結しなければなりません。音
楽出版社がその著作権者の楽曲についてどんな条件で、そしてどんな形で世の中にパ
ブリッシングするか、また著作権を持っている外資系会社または国内会社とその著作
権の母体となる楽曲をどのようにするかについて、様々な内容が盛り込まれた契約を
締結することになります。
そして、契約を締結した後は、国内外の著作権集中管理団体に登録します。音楽出版
社の業務について話をする際、管理業務は著作権集中管理団体の KOMCA が行ってい
るので、音楽出版社はプロモーションだけやればいいのではないかとの話をよく聞き
ます。しかし、音楽出版社における管理業務、すなわち登録に関する業務は非常に重
要です。音楽出版社がいくらプロモーション活動を一生懸命に行なうとしても、音楽
著作権集中管理団体と緊密な協力関係が構築されていない場合は、その後著作権使用
料が発生するとしてもその著作権使用料をきちんと処理することができなくなります。
そのため、音楽出版社は契約を締結した際には、その契約した楽曲についてその国の
状況に合わせて登録を行わなければなりません。
国内の場合は KOMCA(韓国著作権協会)に楽曲を登録する一方、海外の場合は海外
にいる自社の楽曲を管理してくれるサブパブリッシャーに自社にどんな楽曲があるか
を内部システムに登録しなければならない上、その通知を受けたサブパブリッシャー
は各国にある著作権集中管理団体に登録を行ってこそ、後にプロモーションの代価で
ある著作権使用料が発生した際、円滑に著作者にその使用料を支払うことができます。
次に、皆様が最も大きな関心を持っていらっしゃると思われるプロモーションの役割
についてお話致します。
音楽をパブリッシングする媒体、すなわち音楽を広く PR できる媒体にはいくつかの
ものがあります。最も基本的かつ重要なものが音盤であり、これが CD の形であれ、
インターネット配信の形であれ、音源と呼ばれるこの音盤が最も重要です。
その次に重要なのが楽譜です。楽譜については堀副会長もおっしゃいましたが、16
世紀に楽譜の貸出業が始まったのが、音楽のパブリッシングの始まりとも言えるため、
この楽譜も非常に重要であるといえます。
さらに、カラオケ、私たちが歌を歌うためによく訪れるカラオケも、音楽出版社のプ
ロモーション媒体として重要な役割も担っています。
この他、CM の音楽も重要な媒体となっており、映画、ドラマ、ゲーム、そして各種
のマーチャンダイズ商品も媒体となっています。マーチャンダイズ商品についてはよ
く知らない方もいらっしゃると思いますが、おなかについているボタンを押すと音楽
が聞こえるくまのぬいぐるみや、 歌のタイトルが印刷されているコップやシャツなど
がそのマーチャンダイズ商品です。これらの商品も音楽出版社にとって重要なプロモ
ーション媒体になっていますが、言葉だけで説明するのはあまり面白くないと思いま
したので、いくつかの例を用意して参りました。これらの例につきましては、利用許
諾を行う会社にはきちんと許可を受けましたが、実際に映画やミュージックビデオを
製作した方たちには事前に許可を受けることができませんでした。今回ご覧頂きます
例につきましては、講演で非商業的に利用することですので、ご了承の程よろしくお
願い申し上げます。
それでは、東方神起の Wrong Number という曲を少し聴いて頂きたいと思います。
この曲は昨年末に東方神起が出した呪文というアルバムに収録された曲で、呪文
(MIROTIC)に次いで PR に力を入れた曲だといいます。最近は多くの歌手が国境を越
えた作業で作られた曲を歌っています。作曲は外国の作曲家が行い、作詞は韓国の作
詞家が行う場合も少なくなく、それに伴って著作権処理問題も数多く発生しています。
この Wrong Number を歌った東方神起の所属会社である SM エンターテイメントに
は各アーティストを担当する A&R がいて、この A&R が音盤を製作する際に独自で
海外の作曲家から曲をもらったり、または音楽出版社に東方神起に歌わせる曲を提供
して欲しいと依頼したりします。このとき、song presentation を行いますが、その
プレゼンを見て自分のアーティストに適した曲があったと判断された場合は、その曲
を使用するのです。この東方神起の Wrong Number という曲が、このような作業を
通して生まれた曲で、作詞は韓国の作詞家が行い、作曲は海外の作家が行いました。
これがすなわち、国内の音楽出版社が楽曲を提供しているという良き例になると思い
ます。
では、もう一つの例をご紹介致します。私が個人的にも非常に好きだったドラマ、
「エデンの東側」です。ドラマで音楽を使用する時、著作権処理をどう行なうかにつ
いては、まだ意見がまとまっていません。ドラマ部門については音楽著作権協会内で
も、さらに音楽出版社内でも、事前許諾を受けなければならないのかどうかについて、
意見がまちまちです。
今例に挙げましたのは「エデンの東側」ですが、少し音楽をお聞きになってから、説
明を続けたいと思います。音楽を広く知らせるには、ドラマや映像が非常に効果的で
す。この紅豆という歌は本来 Faye Wong という香港歌手の歌ですが、その歌手の歌
を私どもの会社がパブリッシングしようとした際に、二つの権利を考慮しなければな
りませんでした。一つ目は Faye Wong が自分の音盤を出すために作った歌なのに、
果たしてその歌を韓国のドラマに使用していいのか、すなわち業界用語で申し上げま
すと、シンクロナイゼーション(Synchronization)関連の許諾をどう確保するかという
問題でした。
二つ目は、Faye Wong が広東語バージョンで作った歌を韓国語歌詞に変えて、すなわ
ち原型を変えて歌うのが可能かどうかという問題で、この二つのシンクロナイゼーシ
ョンおよびカバー(アダプテーション)関連の問題を解決しなければならなかったの
です。この曲をパブリッシングするためには、必ず著作者がこれを了解して許諾しな
ければなりません。それで、曲を使用するドラマ制作会社と原著作権を有している著
作権会社および該当曲の著作者の間で音楽出版社である私どもの会社が調整を行い、
著作者が許諾する代わりにユーザーは一定の条件で代価を支払うので双方にプラスに
なると説得して、この曲が入った状態でドラマ「エデンの東側」を海外に輸出すると
しても何の問題がないように著作権問題をきちんと解決しました。
また、音楽が広く知られる上で重要な役割を担うのが映画です。この映画は昨年封切
りした 「妓房乱動事件」という映画の予告編ですが、少しご覧ください。この音楽を
どこかで聴いたことがあると思う方も少なくないと思いますが、この音楽はレスリン
グ音楽で、レスリングするときに出てくる音楽です。この音楽がレスリングするとき
にだけ使用されるなら、一部のケーブルチャンネルでのみ使用され広く知られる機会
が制限されますが、このような映画予告編に使用されるようになりますと、全国の映
画劇場で上映されるため、音楽が広く知られる上で大きく役立ちます。
さらに、私が楽譜を一つ持ってきましたが、これは香港小学校の音楽教科書です。最
近は韓国の韓流商品が海外に大量に輸出されていることから、韓国の楽曲が広く知ら
れ、海外で音楽出版社が得ている音楽著作権料収入が急増しています。
その一つである大長今の挿入曲「オナラ」という曲です。「オナラ」という曲は韓国
で広く知られましたが、香港や中華圏でも広く歌われました。Kelly Chen という歌手
が希望というタイトルに歌を翻案して歌いました。もちろん、著作者の事前承認(利
用許諾)を得てからです。その歌が知られるようになると、楽譜としても使用され、
カラオケでも使用されるなど、海外でも様々な利用形態が生まれるようになりました。
楽譜の一番上を見ると、希望というタイトルが記載されていて、その横に大長今の主
題歌という意味の漢字が記載されています。右側の端を見ると、作詞家、作曲家の名
前が出ています。
楽譜がどのようにしてプロモーションの対象になれるかについて疑問に思う方もいら
っしゃると思いますが、韓国の場合は楽譜に対して KOMCA に印税を支払って自動承認
される場合が多いですが、海外の著作権管理団体の場合は楽譜の使用において、自動
承諾ではなく、複製権承諾は音楽出版社から直接受ける場合が多いです。そのため、
海外で韓国の楽曲を楽譜に使用したい場合は、ただある協会にお金を支払って使用す
るのではなく、必ず音楽出版社に楽譜に該当楽曲を使用してもいいかどうか、利用許
諾要請を行います。
音楽出版社も有名な著作者の作品を広くパブリッシングする上で、楽譜集などを作成
して配布することが役に立つと判断されれば、そうします。実際、海外の大手音楽出
版社の場合は、主要事業が楽譜に集中している会社も数多くあります。
音楽出版社は作家を発掘して契約を締結し楽曲を登録することで、究極的に収益を得
なければならず、このような収益を著作者に配分しなければなりません。
音楽出版社の最も重要な細部役割の一つが、各種の著作権使用料を精算・配分するこ
とです。この図で詳しい説明を行なうよりは、著作権集中管理団体との関係でより詳
しく説明する方が良いと思いますので、ここでは大きな概念だけをお話したいと思い
ます。
その概念とは、様々なユーザーがこれに対する利用許諾を著作権集中管理団体および
音楽出版社から得て、音楽出版社はその利用許諾に対する著作権使用料が納付された
ときに、それを再び著作者および著作権者に精算する作業を行なうということです。
これは非常に重要な作業であり、この作業がきちんと行われないときには、著作者と
音楽出版社間の信頼関係が壊れる可能性があります。
この他にも、音楽出版社の役割は数多くあります。それをその他の業務として紹介し
たいと思います。
韓国では音楽出版社による原盤関連の投資がまだ活性化されていませんが、これには
痛々しい歴史があります。90年代後半と2000年代初めに一部の音楽出版社が原
盤に対する投資を行いましたが、その時前払い金だけを支払って、それを回収できな
い場合が多発しました。そのため、原盤に対する投資が急減したのであります。
今はまた音盤市場が非常に厳しく、音盤を制作するファンドそのものが急減し、音楽
出版社にとっても会社の曲を PR するためには、音盤が製作されなければなりませんが、
製作できない状況が増えています。そのため、このような状況を打開するために音盤
流通業者、アーティスト所属会社、音楽出版社が一堂に会して音盤製作に対する投資
を協議するようになりました。
さらに、ほとんどの音楽出版社は韓国の音楽著作権協会 KOMCA の会員であるため、著
作権集中団体の会員として集中団体の業務に協力したり、一緒に協議してプロジェク
トを行ったりしています。
外国の場合は、弁護士が音楽出版業を行う場合が多いですが、韓国の場合は弁護士資
格証を持ってこの業務を行う人はごく稀です。しかし、音楽出版社は音楽関連契約を
数多く行うため、様々な取引先や作家を通して音楽関連のコンサルティング業務も並
行して行っています。
さらに、音楽創作者と音楽利用者との間で権利関係の許諾、使用料の策定について調
整する役割も担っています。
最近は音楽がどこでどんな形で使用されるかについて全く予測が付かないため、新規
メディアの発達に伴う楽曲の利用許諾形態およびその方法についての研究も行ってい
ます。
音楽出版社の細部役割の中で、原盤について紹介できる良き例がないかいろいろ考え
てみましたが、実際私が紹介致しました音盤の他に、音楽出版社協会に加入している
MUSIC TUBE やネガネットワーク、SM エンターテインメントなども原盤を数多く製作し
ています。
ここで、専門音楽出版社も音盤関連の業務を行っているということをお話しするため
に、いくつか例を挙げたいと思います。
左側はソン・イェジン主演の「妻が結婚した」という映画です。この映画の音盤製作
は韓国イエムアイ音楽出版、すなわち EMI ミュージックパブリッシングが担当しまし
た。直接オリジナルスコアを作曲した作家との協議、全ての選曲作業、プロデューシ
ング作業、音盤製作関連投資の調整、クリアランス問題を全て担当し、流通は専門流
通業者の Mnet が担当しました。すなわち、このように音楽出版社の主導的な役割を通
じて、この OST が誕生したのであります。
右側の音盤は私どもの会社が製作した音盤です。もちろん、流通は担っておりません。
流通とプロモーションマーケティングは音盤の専門的なマーケティング作業を担当す
る会社と協業を行い、音盤の流通はロエンエンターテインメントで担当しました。弊
社は作家のアンドレギャニオンが韓国でより広く知られるように、マスター権利部分
を解決して韓国市場に音盤として公開しました。今後このような作業はより増えると
見込まれていますが、そうなると音楽出版社と従来のレコード会社との協業は益々重
要になると思います。
それでは韓国には音楽出版社が何社ほどありますでしょうか。この資料は今年3月初
めに韓国著作権協会のホームページに掲載されていたものです。数日前にもう一度ホ
ームページにアクセスしてみたら、資料が更新されていました。しかし、内容がほと
んど変わっていなかったので、原稿の修正は行いませんでした。これを見ると、約1
00社ほどの会社があります。音楽著作権協会に会員として加入している会社のリス
トですが、見ると知っている会社もあれば、なくなった会社もあります。韓国では音
楽出版業をしようと準備している会社、現在音楽出版業を行っている会社、途中であ
きらめて事業をたたんだ会社などを全部合わせると、計100社程度あると言えると
思います。
それでは、ここで音楽出版社協会について少しお話したいと思います。(社)韓国音
楽出版社協会は文化体育観光部の承認を受けた社団法人です。2002年当初の名称
は(社)高麗音楽出版社でした。この高麗の名称を採用した理由について申し上げま
すと、2002年当時は90年代から音楽出版業を始めた会社の集いである MPA と、
2000年代初めから音楽出版業を始めた比較的若い会社の集いである KMPA が混在し
ていたので、韓国という単語を使用することができませんでした。その後音楽出版業
の発展のためには、この二つの団体が統合する必要があるとの意見が出され、200
5年に両団体が統合され、2007年に(社)韓国音楽出版社協会に名称が変更され
ました。
音楽出版社協会に加入している会社について、その範囲を分けることは非常に難しい
ですが、基本的に音楽出版業を中心に運営される会社がある一方、アーティスト所属
会社、レコード会社の業務が主要業務ではあるが、パブリッシング業務も併せて行う
といった会社があります。
韓国 EMI 音楽出版や SONY/ATV 音楽出版、FUJIPACIFIC といった会社は音楽出版業を
主要業務としている会社である一方、SM エンターテインメント、 Fluxus Music、
Mnet メディアはアーティスト所属会社またはレコード会社として知られていますが、
このような会社も音楽出版社協会に加入して、ミュージックパブリッシング(音楽出
版)機能を担当しています。
この他、会員加入を準備している会社の中には、楽譜出版社系列もあります。また、
最近顕著になっている傾向のひとつが、作家が直接会社を立ち上げることです。その
ため、作家を中心とする会社も増えています。
音楽出版社と著作権集中管理団体との間の業務協力関係については、先ほど堀副会長
もおっしゃいましたが、著作権集中管理団体、著作者、音楽出版社が三角関係を成し
ているということができます。3者が全部そろってこそ、円滑に業務が行われるので
あります。
1960年代初めに創立された韓国の KOMCA は、大韓レコード作家協会が前身で、
有志の元老著作者が集まって立ち上げた団体です。政府から承認を得る上で、当時の
文化教育部に務めていらっしゃいましたチャン・インスク先生が大いに助けて下さっ
たそうです。このように音楽著作権協会が設立されたのは60年代ですが、実質的に
活動を本格的に行ない業界に広く知られるようになったのは、80年代、90年代に
入ってからです。このように音楽著作権協会の歴史が音楽出版社の歴史より長いため、
音楽のユーザーは KOMCA と協議すればよいのに、なぜ音楽出版社が必要なのかとい
う質問をよくしていました。
このスライドは図がやや複雑なので、まずその次のスライドについて説明してからこ
ちらの方を説明したいと思います。
国内で音楽著作権を管理し、音楽のユーザーが利用許諾を受ける上で KOMCA という
団体が中心的な役割を果たします。著作者が個人的に自分の曲をパブリッシングする
業務は音楽出版社に委任するとしても、その全てのユーザーを一人一人相手にするこ
とは不可能です。そのため、著作権集中管理団体が存在する必要があり、特に公演分
野、放送分野ではこのような団体が存在してこそ、著作権の使用や利用を容易に行う
ことができます。
著作者は個人的に KOMCA に自分の楽曲を委託することもでき、KOMCA は委託され
た曲に対して使用料が発生したときそれを分配することができます。著作者が自分の
著作権を音楽出版社に譲渡して、音楽出版社がその譲渡された著作権を再び KOMCA
に再委託することも可能です。そしてそのような場合、相手側が必ず一つの音楽出版
社でなければならないという決まりもありません。例えば、一つの楽曲を PR するた
めに、複数の出版社と業務を行うこともできます。その中で代表者を決めることも、
または共同音楽出版の形をとることもできる上、1人の著作者と複数の音楽出版社が
一つとなって、著作権者の立場で KOMCA に著作権を委託することもできます。
すると、KOMCA は委託された著作権を管理し、徴収規定または利用料規定に基づい
て利用許諾を行います。ユーザーは利用料を KOMCA に支払い、KOMCA は支払われ
た利用料を再び著作者または音楽出版社に分配するため、それほど複雑な構図ではあ
りません。最近は、音楽出版社と KOMCA との業務協力が極めて円滑に行われている
ので、ユーザーは何の不便なく利用することができます。
それでは1ページ前に戻りたいと思います。左側をご覧になりますと、国内著作者と
KOMCA がありますが、90年代初めまでは国内著作者と KOMCA だけが存在してい
ました。音楽出版社が登場したのは90年半ばのことです。さらに、韓国の音楽が海
外でも広く知られるようになり、海外でも著作権業務を行わなければならなくなり、
海外音楽出版社、海外作家、海外著作権団体とも関係することになりました。
一つ一つ説明申し上げますと、国内著作者は本人の楽曲に関係する著作権を KOMCA
に直接信託することもできますが、国内の音楽出版社に譲渡することも可能です。国
内出版社に譲渡した場合は、その譲渡を受けた音楽出版社がその著作権を再び
KOMCA に再委託し、これにより一つの三角関係が形成されます。
さらに、国内音楽出版社はその譲渡された曲を海外でもパブリッシングしなければな
らないため、海外音楽出版社とサブパブリッシングという契約を締結します。翻訳言
語のうち最も気に入らない単語の一つが下請け音楽出版ですが、このサブパブリッシ
ングという単語が国内に初めて紹介されたときに、下請け音楽出版と訳されました。
下請けという単語はニュアンスがあまりよくないので、ここではサブパブリッシング
という単語をそのまま使わせて頂きます。
国内の曲を海外地域でパブリッシングする上で、サブパブリッシング契約を締結する
と、一つの団体が全てのことを解決してくれるのではなく、私どもの海外のサブパブ
リッシャーが曲を管理することになります。但し、公演権につきましては、集中管理
団体がどの国でも存在するため、韓国の著作権集中管理団体の KOMCA や、香港の著
作権集中管理団体の CASH、日本の JASRAC、フランスの SACEM といった著作権管
理団体と相互管理契約を締結して、公演権や複製権をお互い管理します。
すると、あの矢印が双方向に作用して利用許諾が行われ、それに伴い利用許諾料、著
作権使用料が発生して、あの矢印に沿って国内の著作権者らにその利用許諾料と著作
権使用料が支払われます。
これまで簡単ではありましたが、音楽出版社の役割について説明させていただきまし
た。次は現在音楽出版社が直面している主要課題についてお話致します。
音楽出版社が直面している課題の一つは、皆様もよくご存知だと思いますが、レコー
ド市場の低迷によるレコード販売の急速な落ち込みで、レコードから得られる収入
(Mechanical Royalty)が急減していることです。その減少分をインターネット/モ
バイル関連の配信分野の著作権使用料が補っているかと言えば、全くそうではありま
せん。レコードが100万枚売れたときとインターネット配信分野で曲が大きくヒッ
トしたときとを比べて見ると、インターネット配信分野での著作権使用料がレコード
販売部分を全く補えずにいると言えます。
そのため、音楽出版社は収益を拡大させるために、また自社の楽曲と著作者の価値を
最大化するためにどんな媒体、どんな商品、どんなブランドと協力すべきかについて、
常に悩んでいます。
もう一つの問題は、インターネット上のウェブハードなど、著作権を侵害するサイト
が存在しているということです。先ほども「エデンの東側」の OST をご紹介しました
が、この場合も苦労して全ての著作権問題を解決して音楽をドラマに使用しレコード
を作ったのに、レコードが市場に投入されるや否や、ウェブハードサイトに M 流通業
者の音源3カ月無料クーポンが掲載され、無料でダウンロードされていました。この
ようなことについては、今後も引き続き対応して行く必要があると思います。
最後の課題は、360度 DEAL において音楽出版社の役割をきちんと確保することで
す。かつては音盤製作が歌手の活動の中心だったとすれば、今は音盤から得られる収
入には限界があるため、コンサート、公演、ブランドとのマーチャンダイズ契約、ブ
ランドとの歌手のイメージ契約、これに関する音盤の流通、海外でのデジタル配信な
どが一つの契約に統合される傾向が強まっています。こうしたことから、誰が中心に
なって契約を締結するのかという問題が浮上しており、これを受け、エンターテイン
メント産業で一つの権利関係者となっている音楽出版社も、音楽出版業に関連した著
作権問題をどう解決していくのかという課題を解決していかなければならない状況に
あります。
それでは次に、国内の音楽出版業と海外の音楽出版業との違いについてお話致します。
韓国の著作者の中には、国内には KOMCA があるから、または自分は非常に有名だか
らレコード会社に曲を直接提供すればいいと思っている方が少なくありません。一部
の集中管理団体や各種の関連団体の関係者も国内には KOMCA があるから、音楽出版
社は国内でプロモーションを行えばいいのではないかと思われる傾向があります。
しかし、国内で著作権が一つの産業として定着するためには、著作者、集中管理団体、
音楽出版社が一つになって努力しなければなりません。これからは海外の曲を国内で
PR したり、国内の曲を海外で PR したりすることだけではなく、国内の著作者の曲を
国内でどう PR するかについての問題が大きく浮上すると見られます。
なお、著作者の楽曲をより積極的にパブリッシングするために、従来のレコード会社、
企画会社および音楽出版社が知恵を絞りあって、お互いリスクを分担しつつ、より多
くのレコードを発表していかなければならないと思います。
音楽出版社と著作権集中管理団体がともに存在してから約15年が過ぎていて、業界
で両者の役割についての理解が進んでいますが、まだ詳細な部分については、音楽出
版社の役割がどこまでなのか、著作権集中管理団体の役割はどこまでなのか、相互協
力すべき部分はどこまでなのかなど、より詳しく検討して行く必要があると思います。
以上を持ちまして私の発表を終わらせて頂きます。
最後に私の個人的な希望を申し上げますと、ここにいらっしゃる皆様にとって今回の
私の発表が、音楽出版社がどんな役割を担っているのかについて理解できる良い機会
となることを願っております。さらに、本日関連業界の関係者が大勢いらっしゃいま
したが、今レコード市場は大変厳しい状況にあります。良い楽曲を創作していらっし
ゃる著作者、一生懸命に努力している歌手、このような歌手を物心両面で支援してい
る制作会社、レコード会社、またこのような会社にファンドの形で投資したり、デジ
タル転送のラインを提供したりしている通信会社、これらの関係者がより緊密に協力
し合うことで、韓国でより多くの音楽が作られ、韓国のファンだけでなく、全世界の
ファンをも魅了できる音楽が誕生することを願っております。
司会
では、まず SM エンターテインメントのキム・ヨンミン代表より発表に対するご感想
を賜りたいと思います。
感想1.
SM エンターテインメントのキム・ヨンミン代表
まず、堀副会長のおっしゃった Culture First という言葉に大きな感動を覚えました。
韓国もそのような方向で文化が発展していれば良かっただろうにと思いました。文化
体育観光部より知識経済部のパワーがより強いためなのか、SM エンターテインメン
トより SK テレコムの力がより強いためなのか、もしくは音楽出版社より KOMCA の
力がより強いためなのか、Culture First ではなく企業の力の論理 First となり、また
集中管理団体のライセンスの独占などにより、Culture First が全く実現されていませ
ん。
二番目の発表では、音楽出版社の概念と役割について簡潔にまとめていただきました
が、これについては私も非常に重要であると思っております。日本側の発表内容と韓
国側の発表内容は非常に似ているように見えますが、詳しく見ると、違いも少なくな
くありませんでした。それでは、私が思う最も大きな違いについて簡単にお話致しま
す。
資料を見ると、音楽出版社が著作者に著作権を譲渡するとなっていました。これを見
るとちょっと誤解が生じるかも知れません。
著作権は基本的に人格権を除く全ての権利を商業的に利用できるため、譲渡すること
ができます。すなわち、著作者がどんな契約関係であれ、音楽出版社と譲渡契約を締
結すれば、実質的な著作権者は音楽出版社になります。その権利があってこそ、様々
な PR や収益事業が可能であり、そのような権利が認められなければ、そのような事
業を行うのが困難になります。
日本側のプレゼンの資料を見ると、正確に楽曲に対する譲渡となっており、音楽出版
社の権利が著作権者となっています。
一方、韓国側の資料はあいまいになっています。条件付譲渡、条件付権利、すなわち
音楽出版社が資本主義社会で資本主義に合ったプロモーションまたは権利行使を行う
ことが不可能になっています。もちろん2月からは KOMCA が寛大になり、若干権利
を認めるようになったと伺いました。
音楽出版社が韓国でも海外でも様々な役割を担うためには、第一に契約を締結する際
に音楽出版社が著作権者であることを KOMCA が認める必要があると思います。その
ことを認めて、著作権者である音楽出版社が資本市場で自由に活動できるようにする
ことが望ましいと思います。
弊社は以前ボアの楽曲をプロモーションするためにインターネットを利用しようとし
たことがあります。インターネットでボアの楽曲を無料でオンラインで聞かせて PR
しようとしましたが、そうすることができませんでした。それは著作権そのものを
KOMCA でコントロールするため、聞くためには必ずお金を支払わなければならない
ということでした。楽曲を作った著作者とその楽曲の譲渡を受けた音楽出版社と、そ
の歌を歌ったボアという歌手、この3者が PR するためにインターネットに配布して
無料で聞かせようとしたのですが、許諾を受けることができず、そうすることができ
なかったのです。それは一曲当たり少なくともいくら以上は徴収しなければないとの
規定が定められているため、無料で曲を配布することは認められないということでし
た。このような規定が今後のデジタル時代にどれほど効果があるのでしょうか。
最後に、隣の国日本ではボアの楽曲を PR するために有名なテレビ番組とのタイアッ
プを行い、その番組にタイトル曲として流すために音楽出版権の50%の持分を放送
局系列の音楽出版社に提供しました。50%もの持分を提供するため、一見不利なよ
うに見えますが、全くそうではありません。統計を見ると、通常1万5千枚ほど売れ
る CD が、テレビ朝日系列のあるアニメーションとのタイアップを行ってからは約7
万枚売れたそうです。通常4倍から5倍ほど販売量が増加するため、半分を提供する
としてもより広く楽曲を PR してより多くの収益を上げてそれを配分する方が望まし
いのです。これは音楽出版社、レコード会社、放送局の3者の利害関係が商業的に一
致するため、可能なことです。このようなことは、JASRAC がコントロールすべき問
題ではないと思います。そのため、韓国においても放送局とのプロモーションを自由
に行える主体である音楽出版社や音楽出版業に携わる会社がより積極的に事業を展開
できるように、産業構造を変えていく必要があると思います。以上です。
感想2.
シンシネ代表
シン・チョル代表
小さな映画制作会社を経営しているシンシネのシン・チョルと申します。最初ここに
招待されたときには音楽について何も分からない私がなぜここに来なければならない
のか、疑問に思いましたが、中々断ることのできない方からの招待でしたので来させ
て頂きました。日本から堀先生もいらっしゃるのでぜひ来るように言われまして来ま
したが、予想外に非常に多くのことを学ぶことができました。ありがとうございます。
現在、文化分野では様々な現象が複合的に起きているようです。シンシネは韓国映画
が非常に大きな苦境に陥っていた1988年に設立された会社です。韓国で海外映画
を凌ぐ優秀な映画作品を作ろうということで会社を立ち上げましたが、その結果海外
映画を上回る優秀な作品を数多く作ることができました。
しかし、このような成功を収めたにもかかわらず、韓国でクリエーターとして生きる
ことは決して生易しいものではありません。皆様もよくご存知のように著作権保護が
きちんとなされていない上、様々なシステム上の不備が多く、流通問題を始め、数多
くの問題が発生しているからです。
そこで、私たちは市場そのものを拡大するために努力しています。「猟奇的な彼女」
が私が撮った最後の映画ですが、今現在も少なくないお金を使いながら次の準備をし
ております。特に米国市場進出を目指して、様々な努力を行っています。
「猟奇的な彼女」はアジア全域で大きくヒットしました。しかし、中国では最低1億
枚から最大3億枚程度の違法 CD が出回りました。
私が北京に行くたびに「猟奇的な彼女」のタイトル曲である I Believe を耳にします
が、この歌がどんなルートでここで流されているのか、全く知ることもできず、知ろ
うとも思いませんでした。
しかし、この頃思うのが映画だけではだめだということです。インターネットのダウ
ンロードにより音楽市場が厳しくなったのが5~6年前からだと伺っていますが、私
はただ第3者の観点で音楽業界がかわいそうだとばかり思っていました。しかし、そ
の一方で、映画業界にもそのような時期が来るのではないかと思いました。
結局最近は違法ダウンロードが横行して、先ほど堀先生もおっしゃったように
Culture Fist の国ではなく、Infra First の国になってしまいました。
私の試算では、インターネットダウンロードによる韓国映画界の被害額は年間500
0億ドルに上ると見られます。実際にはこれを上回る可能性も少なくありません。今
後は制度がより整備され、状況が徐々に改善されるとは思いますが、このようなこと
を防ぎ制裁を課すことが重要なのではなく、二番目の講義で取り上げられました36
0度 DEAL のお話(この部分を私が正確に理解しているかどうかは定かではありませ
んが、考え方が非常に新鮮であり、私の考えと一致している部分も多くありました)、
非常に多くのものが一度に Deal されなければならない時代になりつつあると思いまし
た。
現時代の特徴の一つが Convergence ですが、特にメディア間の融合が進み、メディ
ア間の障壁がほとんどなくなっています。そのため、このようなメディアの融合を通
じて、新しい時代にどう対応しシナジー効果を生み出すべきかということを非常に重
要視しなければならない時代になっていると思います。
韓国の特殊な状況ではありますが、コンテンツが流通の一手段としてしか認識されず、
音楽が切れ切れに引き裂かれてダウンロードされている状況を目の当たりにすると、
私が音楽に携わる者ではありませんが、非常にむなしい気持ちになります。
しかし、状況がこのようになっている以上、その状況にきちんと対応して、我々クリ
エーターがどのようにしてクリエーターの所得を向上させることができるかについて
考えなければならないと思います。
私もお二方の発表を聞きながら、様々なことを考えさせて頂きました。私の考えと一
致している部分も多くありましたし、私がこの分野で学ぶべきものも非常に多いと感
じました。
私どもの会社が Convergence をキーワードに、かなり以前から推進しておりますの
が、です。会社を一つ立ち上げて、2年6カ月間一つのコンテンツの全ての領域を扱
う試みを行っています。これが成功するかどうかは誰もわかりませんが、映画におい
ても非常に重要なのが、一つのソースをいかにしてマルチに使用できるかです。これ
が韓国の映画におきましてもキーワードとなっています。
音楽界も同じ状況にあると思います。そして、このようなことが中間の段階で
MERGE されていると思います。そのため、この二つの分野が協力すれば、一緒に数
多くのものを生み出すことができると思います。そして、本日の発表を聞いて、お互
い協力すれば相互にとってウィンウィン関係を構築できる部分が数多く存在するとい
うことを知りました。
映画というのは映像と音が合わさったものですが、この音には2つの種類があります。
その一つは台詞で、もう一つは音楽ですが、この音楽が及ぼす影響は甚大なものです。
音楽という要素の感情的説得力は非常に大きなものがあるにもかかわらず、音楽を全
く知らない状態で映画を作ってきたということが非常に恥ずかしく思えました。
本日この場を通じて多くのことを学べまして非常にうれしく思います。今後もここに
お越しの皆様と一緒にお話できる部分が非常に多いのではないかと思います。この場
を設けて頂きまして、誠にありがとうございます。
司会
I Believe については、私どものユニバーサルで中国地域を管理しました。許可を受け
て使用しているところもありましたが、ほとんどのところは許可を受けずに使用して
いました。著作権料については、中国、香港などアジア地域でかなり多くの著作権料
を得て、著作者に分配しました。
音楽出版社の役割には、どうプロモーションを行なうかという部分があります。私は
先日台湾の担当者と話す機会がありましたが、韓国のテレビドラマはほとんど10
0%台湾に輸出されるといいます。ところが、台湾の番組はオープニングクレジット
とエンディングクレジットをレコード会社に販売するそうです。それでレコード会社
が自社の歌手の曲を持ってきて、オープニングに使用するのです。例えば韓国では A
という曲がタイトル曲として使用されましたが、台湾ではある歌手を PR するために他
の曲が使用されるようになるのです。その結果、ドラマの Originality が損傷され、
作品に問題が発生するようになり、その問題を解決するためにある試みが行われるよ
うになりました。それは、予めそのレコード会社と接触して韓国のオリジナル曲をそ
の国の曲に翻案してその会社の歌手に歌わせるということです。そうすると、その歌
手のレコードの PR にも役立つ上、ドラマの Originality を生かすことができるからで
す。
これは一つの例でありますが、万一中国地域についてもこのようなアプローチ方法を
取っていたなら、法的にきちんと処理して有名な歌手に歌わせる方法を定着させるこ
とができ、著作者の収益をより高めることができたのではないかと思いました。
シン・チョル代表につきましては、出席依頼を中々引き受けてくださらず、この発表
会にお招きするのに大変苦労しました。
海外では映画制作会社が音楽出版を兼ねています。しかし、韓国の場合は、映画制作
会社が音楽出版を兼ねている場合はほとんどありません。そこで、この機会を通じて、
映画と音楽が一緒に海外に出てどのように Convergence できるかについてその可能性
を打診してみたいと思いました。それでシン・チョル代表に何度もお願いしてこちら
にお招きしましたが、その甲斐あって、多くの方にそのことを理解していただき、相
互協力できる部分が数多く生まれるようで非常うれしく思います。
二方のご感想をお聞きしましたので、SM の金社長がおっしゃいました音楽出版社と作
家協会との関係が日本ではどのように構築されているかについて、堀先生にお話をお
伺いしたいと思います。
堀氏
先ほどボアの曲をプロモートするためにインターネットを使用することが、規定があ
ってできなかったと言われました。何年か前に JASRAC でインターネットでの楽曲使
用をどうするかということについて、さらにそれを JASRAC との信託契約、もしくは
約款にどう盛り込むかについて委員会が話し合いましたが、そのとき、私も委員会の
メンバーでした。当時、作家の皆さんはインターネットの楽曲使用に非常に懐疑的で、
インターネットは海賊版の温床だからインターネットに楽曲を使用することはもって
のほかだと述べていました。出版社の多くもそう思っていました。
ただ、私たちは将来的にインターネットを使ったプロモーションは必ず行われるよう
になると思いまして、何らかの形でそれをできるような規定を盛り込んでおかないと
後で非常に厄介なことになると思いました。
それで、そのレコードにかかわる権利者、すなわちレコード会社、作詞家、作曲家、
音楽出版社などが自ら使用する場合であって、全権利者が同意すれば、プロモーショ
ンに無料で使えるという規定を契約約款の中に盛り込みました。ですから、レコード
会社や出版社がプロモーションと言うことでインターネットで曲を使用することに大
きな問題は起きていません。現状はそういうやり方で処理しています。
司会
ありがとうございます。では、キム・ジュヨン代表にご質問したいと思います。
シン代表が映画が映画だけでは生き残れないとし、360度 Deal に多大な関心を示さ
れました。今後国内または海外で、音楽出版社が映画制作会社とこのような意味での
タイアップを行う可能性はあるでしょうか?
キム・ジュヨン氏
まず、音楽出版社の基本的な業務は、著作者と著作者の楽曲を保護すると同時にその
使用を促進することであると思います。音楽出版社に対して、権利関係の処理のみを
行っている会社というイメージを持っている方が多いようですが、私たちも様々なビ
ジネスを行いたいという願望を持っています。例えば、韓国の映画やドラマが特に日
本地域に輸出される際、多くの方が複製使用料に関心を持ちます。韓国では適切な著
作権処理がきちんと行われないため、海外で複製使用料を得ることで本人の創作に対
する代価を回収したいと思われるようです。
映画やゲームが映画の単位またはゲームの単位でパブリッシングされるためには、そ
の中に入っている数多くの著作権的な要素、例えば構成に対する作家のアイデア部分
や音楽、絵やキャラクター肖像権などがこれに当たりますが、このような部分が全て
一つの権利になってこそパブリッシングが可能になります。しかし、海外で映画、ゲ
ーム、ドラマを流通させる上で、音楽著作権者やキャラクター権所有者、劇作家など
に個別に許諾を受けなければならないとすれば、それはディールそのものが不可能に
なります。
そのため、例えば制作委員会といったものが設立されていて、委員会に音楽出版社、
映画制作会社、アーティスト所属会社、企画会社などあらゆる権利関係者が所属され
ていれば、韓国で制作を行う段階で予め全ての権利関係について決めることができる
と思います。例えば、海外に輸出される部分については無条件に支援を行なうことに
して、権利関係をどう処理するかを決めるのです。より具体的に申し上げますと、音
楽関連の権利については、 SM エンターテインメントが OST を制作し、フジパシフ
ィックの楽曲を使用するとすれば、このドラマに関しては全てのハンドリングを SM
エンターテインメントに委託することも可能になり、SM エンターテインメント側が
例外的に原盤権についてはフジパシフィックが窓口になって音楽の方を担当して欲し
いと依頼することができるため、このような制作委員会のようなものを立ち上げて、
一つの権利に統合して、そして海外から権利関係の処理についてどんな質問が来ても、
この制作委員会の窓口の役割を担う人が全て処理できるようにするといった方法も検
討できると思います。
司会
約20分位、時間が残っていますので、会場から質問を受けたいと思います。
質問1
韓国音源製作社協会のキム・グァンギと申します。私は堀副代表にお聞きしたいと思
います。発表された内容の中に私的録音・録画補償制度についての紹介がありました。
韓国では私的複製に対する補償制度がまだ導入されていませんが、私個人的には私的
複製行為に対して権利者が補償を受ける必要があると思います。
私どもの団体は IFPI という国際音楽産業連盟と定期的に交流を行っていますが、先日
IFPI が販売額の2~4%程度に過ぎない私的録音録画補償金だけでは複製容量が急激
に増加しているのに比べて、金額があまりにも少ない上、また侵害事業者を摘発する
と、既に補償金を支払っているので賠償を行うことはできないとして、版権使用料だ
けを支払うため、IFPI は同制度の導入に反対すると発表しました。これについて、日
本音楽出版協会はどのように考えていらっしゃるのか、お話ください。
また、Culture First 活動を90団体が推進しているとおっしゃいましたが、Culture
First 運動においても私的複製補償金の適用範囲を iPod などの新しいメディアにも適
用することを検討されていらっしゃるのか、教えてください。
堀氏
私的録音・録画補償金制度とはユーザーが自分で利用するために支払う代償というこ
とができます。例えば音源や映画、レコードなどを私的に利用するならコピーしても
いいということが前提となっています。いわば、権利者は本来許諾権を持っているわ
けですから、それを許諾しないということもできます。その権利の制限を受ける代わ
りに、その権利に対する補償を受けるという制度で、政令で指定された機器の販売額
から何%かを権利者側に支払うという形で運営されています。
残念ながら、当初はこの制度が有効であったと思いますが、その後新たなメディアが
出てきたとしても、なかなか政令で指定されないということがありました。現実的に
は金さんのお話でもあったように、日本の政府の中でも文部科学省よりは経済産業省
の方が発言力があるのだと思います。そのため、どちらかというと機器を製造するメ
ーカーの声の方が政府に届きやすいということで、実質この制度が始まったころには
MD や CDR などに対して補償金が課せられたわけですけど、現状は MD や CDR で行
われたコピー行為が減少し、パソコンから i-Pod に行われたり、もしくはビデオで行
われていた録画行為がパソコンからハードディスクにダウンロードされたりしていま
す。しかし、このように主流になっている機器が政府の規制の対象になっておらず、
このことについては、我々出版社業界としても早く整備してほしいと思います。カル
チャーファースト運動が起きた要因もそこにあると思います。
ただ、一つ区別をつけなければならないことは、この私的録音・録画補償制度はあく
までユーザーが私的に利用するということが前提であって、私的に利用するというこ
とは個人で利用するとか、または家族に聞かせるとか、家族にコピーをとって渡すこ
とだと思います。
しかし、現状で行われているのは、例えば学校でクラスの1人が CD を買ってそれを
友達に配るということです。これは私的利用ではなくて、海賊行為で、犯罪だと思い
ます。この犯罪と私的利用をどう区別するのか、もちろん私的録音・録画補償制度を
きちんと確立することも重要だと思いますが、このような海賊行為に対しても厳しく
対処することも重要だと思います。この制度があるからと言って海賊行為が許される
わけではないということをきちんと権利者側に話していく必要があると思います。
一つ付け加えるとすれば、もしこの制度をなくすとすれば、私的使用は一切許さず、
全てのコピー行為に対して対価を支払わせるしかないと思います。しかし、このよう
な極めて不便な世の中にするということは、権利者側もユーザー側も決して望まない
と思います。
質問2
ケーブルテレビ放送協会のファン・ギョンギルと申します。堀さんにご質問申し上げ
ます。堀さんが作成された資料を見ると、出版社と JASRAC との契約関係について委
託契約という表現も使用され、信託契約という表現も使用されています。委託と信託
は法的にも若干違いがあり、信託の場合は権利者の全ての権利が信託者に譲渡される
ことであり、委託の場合は委託者に全ての権利が譲渡されるというよりは、委託する
人に権利が還元されるものだと思います。
例えば、委託契約の場合は著作権者の出版社が著作権物をインターネットに配信して
無料で自由にダウンロードさせることができますが、信託契約の場合はそれができま
せん。では、日本の場合は委託なのか、信託なのか、それを教えてください。
堀氏
先ほど説明しました仲介業務法という法律の時代には、管理事業者に信託をしなけれ
ばならなかったのですが、それが著作権等管理事業法になったときには信託でも委託
でもどちらもできるように変わりました。ただ、JASRAC は信託という制度を採用して
いるので、信託という表現を使いましたが、他の事業者は委託という制度を採用して
いるところもあります。
質問3
私は文化体育観光部著作権課のイ・ヘチャンと申します。
日本の音楽出版社と韓国の出版社は似ているようで、違う点が少なくないと伺ってお
ります。それで、堀先生にご質問申し上げます。
先ほどキム・ヨンミン代表も日本と韓国の違いの一つが、日本の場合は譲渡契約で著
作権者が認められる一方、韓国の場合は条件付譲渡であるとおっしゃいました。日本
は何の条件も付いていないので、条件付譲渡という表現が適していないのでしょう
か?だとすれば、著作権の譲渡が行われた場合、本来の著作権者はどの程度の権利を
持つことになるのでしょうか?もちろん、日本は分離信託を行うことも可能であるた
め、一部を譲渡することもできると思いますが、これについてお答え下さいますよう
お願いします。
また、金先生と堀先生の説明資料を見ると、日本では音楽出版社が著作者と JASRAC
との間の仲介役を果たしているのに対し、韓国では著作者が直接 KOMCA に信託を行
うケースがありますが、日本でも著作者が直接管理団体に信託することがありますで
しょうか?あるとしたら、どれくらいの割合を占めていますか?
最後の質問は若干漠然とした質問ですが、同じ音楽業界にいらっしゃるからご存知だ
と思いまして、また昨年末に JASRAC と KOMCA が相互管理契約を締結したため、
より多くのことをご存知ではないかと思いまして、質問致します。
日本の音楽出版社と韓国の音楽出版社との主な違いは何ですか?特に著作権の譲渡な
ど、著作権的な面でどんな違いがあるのかについてご存知の範囲内で教えてください。
また、韓国では音楽出版社が著作権者として認められていませんが、その根本的な理
由またはその背景は何だと思いますか?
キム・ジュヨンさんにも質問がありますが、登録は音楽出版社の名義で行いますか、
もしくは本来の著作者の名義で行いますか?また、著作者なら、条件付譲渡を行った
とみなされますが、譲渡されたと見るべきでしょうか、もしくは譲渡されていないと
見るべきでしょうか?
堀氏
一番最初の質問は、日本では作家から著作権を出版社が受ける場合譲渡契約を交わし
ますが、一部の権利だけを部分的に譲渡するというケースはあまりありません。ただ、
期間の設定が有期限であるか、もしくは著作権の保護期間であるかの違いはあります
が、一部の権利だけを出版社に譲渡するということはほとんどありません。ですから、
著作権者としての立場は著作者から出版社に移動するということだと思います。
分離信託というのは、著作権者となった出版社が管理団体にどのような形で楽曲を預
けるかということですから、録音権のみを預ける、もしくは作品に関する全ての権利
を預けるということをその時点で選択するということで、それは出版社と著作者との
間の関係ではないと思います。
2番目の質問は著作者が出版社を介さずに管理団体に直接信託するケースはあるのか
ということだと思いますが、基本的には先ほど申し上げましたように、演奏権の部分
は直接著作者に、JASRAC や管理団体から分配されますので、その部分に関しては著
作者が JASRAC に直接信託していることになります。出版社を全く介さずに信託して
いるケースもその数はあまり多くはないですが、あります。
キム・ジュヨン氏
三番目、4番目、5番目の質問は内容があいまいな部分が多いので、私がお答えした
いと思います。
このように多くの質問が著作権を管掌する主務部署である文化観光部から出たという
ことに SM のキム・ヨンミン代表もすごくビックリされているようですが、これを裏返
して言いますと、音楽出版社、音楽著作権集中管理団体の役割や業務についての理解
が業界でもあまり進んでいないことを意味しているのではないかと思います。
JASRAC と KOMCA の違いを音楽出版社の観点から申し上げますと、JASRAC は信託契約に
よって運営されますが、実際の役割は「窓口」の役割に近いです。もちろん、訴権な
ども有しているので、著作権侵害事例が発生した際に JASRAC を通じて訴権による救済
を受ける場合もありますが、実際業務を行う上での JASRAC の役割は窓口の役割です。
そのため、使用料の徴収や利用許諾が表面的には JASRAC を通じて行われるように見え
ますが、実際はユーザーが JASRAC のサイトにアクセスして、使用したい曲の権利をど
の音楽出版社が有しているかを確認します。確認した後、JASRAC の自動許諾や利用許
諾規定がない場合は、音楽出版社に連絡して、曲の使用用途を話して許諾を受けられ
るかどうかを問い合わせます。すると、音楽出版社はその内容を受け付けて、著作者
と検討を行います。もし、著作者から権利を譲渡されていて協議する必要がない場合
は、著作権を所有している音楽出版社が利用するかどうかを直接決めて JASRAC とユー
ザーの双方に通知します。すると、その次の作業からは JASRAC が利用許諾を行ったり、
自動承認印税を徴収したりします。
では、次に KOMCA についてお話致します。音楽を使用するためには音楽出版社を介さ
なければならないという概念が 韓国に導入されたのは、90年代半ばのことでした。
しかも、国内楽曲ではなく、海外の楽曲を映画に使用したい場合について問い合わせ
がありました。
ところが、2000年代初めに国内にある音楽出版社が設立されました。その会社は
作家が中心となって立てられた会社で、分離信託を試みたことがあります。言い換え
ますと、KOMCA には公演権のみを譲渡し、複製権は本人が直接扱うとのことでした。
これはアイデア面では必ずしも悪いとはいえませんが、運営面で現状に合わない面が
ありました。
私的な見解ですが、KOMCA としてはこれまで著作権集中管理団体としてさまざまな役
割を担ってきたのに、突如パイを奪われたと感じられたようです。著作権管理団体と
しての地位が揺らぎかねたいと思い、このとき(KOMCA が)導入したのが無権利者の概
念でありました。すなわち、著作者は信託を行ったため、著作者には著作財産権が残
っておらず、KOMCA が全ての著作財産権を有するとのことです。信託法だけで見ると、
これは合っていますが、著作権法規定を見ると、(著作権法は)信託法や他の法に優
先するとの内容があります。
そのため、著作者が信託契約約款を締結して KOMCA に加入したことが、著作者が著作
財産権に対して無権利者になることを意味するのかについては、疑問の余地がありま
す。これについては、弁護士や学識者の間でも意見がまちまちです。だから、これは、
私たちが法を優先すべき業務と実務的な部分を優先すべき業務について話し合いなが
ら解決していくべき問題であると思います。
音楽出版社が著作権者として認められなかったとの見方が残っているのは、このよう
な事件があったためであり、韓国では音楽出版社より KOMCA の歴史が長く、音楽出版
社よりはるかに幅広い業務を担ってきたので、認識の違いもありました。
そのため、著作者と音楽出版社との契約については、譲渡である場合もあり、譲渡で
ない場合もあると言えます。海外で契約を締結する際には ASSIGN という用語をよく使
います。Assign が譲渡なのか、売り渡しなのか、買い切りなのか、これは解釈次第で
大きな違いが生じます。著作者と音楽出版社との契約は、本来自由に行えるものにも
かかわらず、最も多く使用される日本式表現は譲渡であり、西洋式表現は ASSIGN です。
著作権が存続する死後50年間 ASSIGN を行うこともできますし、契約期間を10年間
に限定することもできます。そのため、著作者と音楽出版社との契約が譲渡なのか、
譲渡ではないのかという質問に対しては、譲渡である場合も、譲渡でない場合もある
が、譲渡という形を取る場合が主流となっていると言えます。以上です。
(了)
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