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現代の日本マンガに見る社会問題 オールウィン・スピーズ(立命館大学) 2

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現代の日本マンガに見る社会問題 オールウィン・スピーズ(立命館大学) 2
現代の日本マンガに見る社会問題
オールウィン・スピーズ(立命館大学)
2.大人にならない「バカ女」
欧米におけるジャパニーズ・スタディーズの最近の流行に、日本の『キュートカルチャ
ー』
(cute culture)と呼ばれるものを議論することがある。銀行のキャッシュカードか
らごみ箱に至るまで、日本のほぼすべてのモノにはかわいいキャラクターがついている。
それらが子供だけでなく大人にも売れているということが、この題材について多くの研究
書や論文が書かれる要因となっているようだ。しかし、このテーマを研究しているのは外
国のジャパノロジストだけではない。日本の文化人類学者の大塚英志は 1989 年に、
『少女
民俗学』という本で、大衆文化の流行を、物質主義や消費中心のライフスタイルに関する
より大きな社会的、経済的流行と関連づけている。この中で彼は、すべての日本人は「少
女化」したと言う。なぜなら日本人は、「モノ」の生産から離れ、消費するだけになった
からだと。
もちろん、これは褒め言葉ではない。すべての日本人が少女化することは、日本という
国全体が女性化、弱体化することである。こうした考え方は「生産=男性的=能動的=良
い」、「消費=女性的=受動的=悪い」という前提の上に成り立っている。経済上の変化そ
のものは別として、それを「女々しい」という意味を含んだ「少女化」という言葉で喩え
ることは、女性の存在を(再)否定していることになる。
初期のフェミニズム運動がすぐに気付いたのは、責任ある大人とみなされるためには、
かわいさや「女の子っぽさ」を避けなければならないということである。
社会での地位を向上させるために、女性は一生懸命勉強し、きちんとした(扇情的でない)
服装をし、伝統的に「女向き」ではない仕事に就くよう教えられた。これは実践的なやり
方ではあったが、「大人」とは「男」であるという定義を永続させるものでもある。現在
の若い女性たちはこれに気づいている。意識的にせよ無意識にせよ、フェミニズムの価値
観を背景にした社会で育った彼女たちは、侮蔑的に使われる「女らしさ」を、許すことが
できない。その結果、彼女達は政治的声明のようなものとして少女性を「再− 専有」する
に至る。
ガーリーズ(girlies)とは、第二派フェミニズムの生真面目さの遺物として彼女達が
捉えた、反− 女性性や反− 快楽の強調に反抗する20代から30代の「少女」達のことだ。
ガーリーズは少女文化の奪還を求めている。編物やピンク色、マニキュア、遊び心といっ
た、以前は軽視されていた少女の事物を。(Baumgardner and Richards, 2000)
この現象は、「第二派フェミニズム」や「70年代フェミニズム」と呼ばれた彼女達の
母親世代に対して、よく「第三派フェミニズム」と称される。こうした用語の使用法をめ
ぐってフェミニストの間では白熱した論議が展開されているが、大衆文化、特に日本の少
女マンガや少女文化を考察するためには、このような語句は有効な出発点となるだろう。
アフリカン・アメリカンのヒップホップアーティストが、黒人の若者に対する否定的な
ステレオタイプを利用し、それをおおっぴらに表に出すことで再− 専有したように、イェ
ール大学の社会学研究者であるシャロン・キンセラ(Sharon Kinsella)は、日本の少女
達は少女についてのステレオタイプを再− 専有したと指摘する。
幼稚で無責任だと貶められた女性達は、男の非難を嘲りバカにする方法として、少女的
性格をフェティッシュ化し、それをわざと見せびらかし始めた。と同時に、それは遊ぶの
をやめること、家に帰ること、従属的な立場の受け入れを強制されることへのかたくなな
拒否を明確にするための手段である。通俗的な例として、真偽はさだかではないが、若い
女性がそのキュートな外見をえさにして男を巧妙に操ることが、80年代後期の日本では
頻繁にあった。(Kinsella 1995)
この視点から言えば、岡崎京子のマンガ『PINK』の登場人物であるユミや、『狂った日
本』
(Mad in Japan)に出てくる成長せずに買い物ばかりする若い女性達は、決して「バ
カ女」ではなく、おそらく彼女達独自のやり方で、独自のことばで、従来の抵抗の方法に
も反発しているのかもしれない。
参考文献
Baumgardner, J., & Richards, A. (2000). Manifesta: Young women, feminism, and the
future. New York: Farrar, Straus and Giroux.
Kinsella, S. (1995). Cuties in Japan in B. Moeran and L. Scov (Eds.), Women, media
and consumption in Japan (pp. 220-254). Honolulu and London: Curzon & Hawaii
University Press.
大塚英志。(1997)。『少女民俗学:世紀末の神話をつむぐ「巫女の末裔」』
。東京:光文社。
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