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仮名文字の読字学習における単語内の文字の位置効果*

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仮名文字の読字学習における単語内の文字の位置効果*
仮名文字の読字学習における単語内の文字の位置効果ま
今
井
靖
親**
(心理学教室)
一般に、単語を構成している文字は、それが単語内で占めている位置によって、「語頭」、「語
尾」(2文字の単語の場合)、あるいはr語頭」、r語中」、r語尾」(3文字の単語の場合)
などの部分に分けられる。では、単語を用いて文字の読みの学習を行なう際に、それぞれの文字
の位置によって、その習得量に差異が生じるだろうか。また、その位置別習得量は、読みの指導
法によっても、なんらかの影響を受けるのであろうか。本研究は、これらの問題を実験的に検討
する目的で行なわれた。
ところで、わが国の仮名文字の読字学習に関する心理学的研究を展望した今井(19801bl)に
よれば、読字学習の領域でこのような問題を検討した研究は、過去には見当らない。そこで、次
の2つの外国の研究を参考にする。
Marchbanks&Levin(1965)は、3文字と5文字からなる無意味綴りを用いて、幼児と
1年生に次のような実験を行なった。1つの無意味綾り(例:CUG)に対して、語頭が同じ綴
り(例:CHE)、語中が同じ綴り(例:TUK)、語尾が同じ綴り(例:I LG)および全く
異る綴り(例:ARP)の4つのうちで、最もよく似ているものを選択させた。その結果、語頭
の同じ綴りが最も多く選択され、以下、語尾、語中の順で、全く異る綴りが最も少なく選択され
た。
また、Horowits,White&Atwood(1968)は、6文字と9文字からなる単語を用いて、
大学生に次のような実験を行なっ㍍例えば・単語’’reCOgniZe”を学習させた後で、”reC…
… ”、 ’’… ogn… ”、 ”・・・… ize”という3つの部分(fragment)を見せて、”r㏄og−
niZe”の再生成績を調べた。その結果、最初の部分が最も再生が容易で、反応繕時も短かく、中
央の部分か最も再生が困難で、反応潜時も長い、ということが見い出された。
上記の2つの研究結果が、わが国の仮名文字単語の読字学習にも、仮りにあてはまるとするな
らば、その単語を構成する文字の読みの成績は、2文字の単語ならr語頭.」r語尾」の順に、’3
文字の単語ならr語頭」「語尾」 「語中.」の順によいことが予想される。
方
法
被設者 幼児72名(男女各36名)であり、学習材料に用いられる文字が1文字も読めないこ
とが予備調査で確かめられている。年齢は4歳9か月から6歳2か月の範囲であり、年齢と男女
* A Study on the Position Effects of Letter in Leaming to Read Kana−Characters
榊Yasuchika Imai(Department of Psychology,Nara University of Education,
Nara)
皿101一
の数がほぼ等しくなるように配慮して、2文字単語を文字・単語読みする群(2LW群)、2文
字単語を単語読みする群(2W群)、3文字単語を文字・単語読みする群(3LW群)、3文字
単語を単語読みする群(3W群)をつくった。各群の平均年締は、順に5歳5か月、5歳7か月、
5歳4か月、および 5歳5か月であった。
学習材科学習に用いた文字は、片仮名であるが、2文字の単語を読む群、すなわち2LW群
と2W群では、学習とテストの際には、清音で2音節からなる4個の単語(rクマ」、rタコ」、
「イス」、「ハナ」)を用い、最終の読みテストにおいては、上記の単語を構成している8個の
文字を用いた。また、3文字の単語を読む群、すなわち3LW群と3W群では、学習とテストの
際には、清音で3音節からなる4個の単語(rホタル」、rトケイ」、「ヒヨコ」、rサクラ」)
を用い、最終の読みテストでは、上記の単語を構成している12個の文字を用いた。
仮名文字は2.5㎝x2.5㎝の白い画用紙に黒のフェルトペンで、ゴチック体で1字ずつ書かれ
ている。2文字からなる単語は、7c皿x5.5㎝のピンク色の台紙に貼られ、3文字からなる単語
は、a5㎝x5.5㎝のピンク色の台紙に貼られている。最終読みテストで用いる文字は5㎝x5
㎝のピンク色の台紙に貼られている。
手続き ω予備調査 実験は個別に行なった。まず彼験者に氏名を尋ねてから、学習材料に用
いられる文字が読めるか否かを調べた。最終テストで用いる文字カードを被験者に示し、実験者
が文字を1つずつ指でさしながら読めるかどうかを尋ねた。その結果、1文字でも読めた者は以
後め実験から除外された。
12〕読みの訓練 予備調査終了後、「これから字を見せます。読み方を教えてあげますから、た
くさん覚えましょう。」という教示を与えた。1単語8秒ずつの速さで、ランダムに単語を提示
した。文字・単語読み群(2LW群と3LW群)では、実験者が単語を構成している文字を1字
すっ指でさしながら、はっきり読みあげ、次に全体を続けて読み、被験者に模倣させた。例えば、
「この字は}グと読みます。この字は’’マ”と読みます。続けて}クマ”と読みます。言って
みてください。」のようである。単語読み群(2W群と3W群)では、実験者が単語を提示して、
全体を続けて読み、被験者に模倣させた。例えば、rこの字は”クマ”と読みます。言ってみて
ください。」のようである。
以上のような仕方で、各群とも4個の単語提示を1試行とする学習試行が続けて2回行なわれ
た。その後で、r今度はOOちゃんが先に読んでください。」という教示を与え、学習試行で用
いた単語の順序を変えて、1単語4秒ずつ提示し、被験者が4個の単語を読めるか否かを調べた。
学習2試行とテスト1試行が交互に5回行なわれたので、全部で学習は10試行、テストは5試行
になる。
13〕最終の読みテスト 学習終了後、すべての被験者に最終テスト用の文字カードを1枚ずつ提
示して、rこの字はなんと読みますか。」と尋ねた。2文字群なら8枚の文字カード、3文字群
なら12枚の文字カードを提示して、被験者に答えさせた。
一102一
果
最終読みテストにおいて、被験者が1つの文字を読めた場合には1点を与えた。2文字群の満
点は8点、3文字群の満点は12点であ乱ただし、本研究では、例えば}タ”または’’コ’’を提
示した時に、’.タコ”と読んだ者も正答とみなしれこのようにして、文字の位置別に平均正答
数を算出しれこの結果を示したものが表1であり、それを図示したのが図1であ乱
表1
文字の位置別平均正答数
文字 の位
置
語尾
全体
文字・単語読み群
2.39
1.50
3.89
2文字群単語読み群
1.44
1.11
2.55
1.92
1.31
語頭
全
体
語中
文字・単語読み群
1.39
O.50
1.00
2.89
3文字群単語読み群
1.56
0.56
0.61
2.73
1.48
0.53
0.81
全
体
次に、2文字群、3文字群それぞれについて、指導
得
方法を被験者問の要因、文字の位置を被験者内の要因 点
口国■
頭 中 屋
とする分散分析を行なった。この結果を示したものが
表2、表3である。
表2から明らかなように、(1〕2文字群については、
①指導法の主効果が5%水準で有意となった。これは
r文字・単語読み群」のほうがr単語読み群」よりも
成績がよかったことを示している。②文字の位置の主
効果も5%水準で有意であった。これは、r語頭」の
文字の学習成績は「語尾」の文字のそれよりもよかっ
たことを示している。
表3から明らかなように、1213文字群については、
①指導方法の主効果は有意にはならなかった。これは
2文字群
3文字群
図1 文字の位置別平均正答数
r文字・単語読み群.1とr単語読み群」の成績には差がなかったことを意味している。②文字の
位置の主効果は1%水準で有意であったので、「語頭」、「語中」、r語尾」の差を検定してみ
たところ、「語頭」と「語尾」とでは、ド35.30、〃芒68,P<.001で、また、「語頭」と
「語中」とでは、t=5.00、〃=68,P<.001で、ともに有意であった。しかし、「語中」
とr語尾」の成績の間には有意差は認められなかった。以上の結果から、3文字群においては、
r語頭」の文字の学習成績のほうが、「語中.1およびr語尾」の文字の学習成績よりもよいこと
一103一
表2
が明らかにされナこ。
なお、2文字群、3文字群とも、
文字の指導法と文字の位置との交互
作用は有意にはならなかった。すな
わち、「文字・単語法」とr単語法」
の指導法のちがいに関係なく、文字
の位置による学習の差が生じること
が確かめられた。
考
察
分散分析表(2文字群)
変動因
S8
被験者間
64,11
指導方法1A1
8.00
誤差ω
被験者内
M8
〃
F
35
旦
8,00
4.85*
56.11
34
46,00
36
文字の位置旧〕
6,72
1
6,72
6.50*
A x B
1.39
1
1,39
1.25
誤差1ω
37.89
1.65
34 1.11
‡p<.05
すでに紹介したように、従来の研
究では、語の弁別(Marchbanks&
表3
分散分析表(3文字群)
Levin,1965)や記憶再生(Horo−
witz,White&Atwood,1968)に
おいて、語頭の文字の成績がよいこ
変動因
被験者間
SS
MS
〃
F
37,22
35
0.09
1
0,09
1.09
とが報告されているが、本研究によ
指導方法(A1
って、日本の幼児を対象とした単語
誤差1ω
37.13
34
被験者内
61.33
72
16,97
2
8.49
13.48**
1.55
2
0,78
1,24
42.81
68
(仮名文字)の読字学習においても、
語頭の文字が最も学習されやすい、
という興味ある事実が確かめられた
わけである。
文字の位劃B〕
A x B
誤差ω
0.63
**P<.O1
では、文字の位置によって、どう
して学習量に差が生じるのであろう
か。従来の系列学習の研究においては、初頭部分の項目の学習が一番速く成立し(初頭効果)、
次に終末部分(新近効果)、そして中央部分の項目が最も遅いことが明らかにされている。この
弓型のr系列位置曲線」に対して、種々の説明が試みられているが、Jmg(1968)はMurd㏄k
(1962)の説を引用して次のように述べている。「リスト内で早い位置を占めている項目は、順
向抑制は少ないが、しかし多くの逆向抑制を受けやすい。リスト内の後の項目は多くの順向抑制
を受けるが、逆向抑制は少ない。しかしながら、リストの中央の項目は順向および逆向抑制の両
方を受けるのである。というのは、それらには多くの他の項目が先行し、また後に続いているか
らである。結果として、遂行はリストの中央部において最も劣るのである。」ただし、系列位置
再生課題の材料は、ふつう1リスト20−30項目、少なくとも1O項目以上で構成されているので
上記の系列位置曲線の説明を、本研究のような2文字あるいは3文字から成る単語の読字学習に、
そのままあてはめることはできないであろう。
なお、先の今井(1980(0))の研究と比較すると、本研究では、文字・単語群の成績が、単
語群と比較して、特にすぐれてはいなかった。これは採点の方法が異なっていたためと考えられ
一104一
る。すなわち、本研究では文字の位置効果を知るために、.’ダ (または”コII)を}タコ皿と
読むような(首藤、1975の言う「前・単語読み」の)答えも正答とみなされた。ところが、こ
のような回答の仕方は、当然r単語法」で学習した者に多くみられる(36名中15名、42%)ので、
単語群の成績は、先の今井(1980(0))の研究よりは高いものとなり、結局3文字群では文字
・単語群の成績と比較しても有意性が生じなかった、と解釈されよ㌔
以上、本研究の結果、初学者に仮名文字の読みを指導する場合には、2文字または3文字の単
語を使い、しかもできるだけ語頭文字を教えるような方法が有効であることが示唆された。
要
約
本研究の目的は、仮名文字で構成された単語の読字学習において、文字の位置によって習得量
に差があるか否か、またそれは読みの指導法のちがいによって影響を受けるか否かを、実験的に
検討することであった。被験者は5歳児72名で、年齢と男女数を考慮して、まず2文字単語を読
む群と3文字単語を読む群に分け、さらにそれぞれをr単語読み」で教える群と「文字・単語読
み」で教える群に分けた。各群に対して読みの学習2試行とテスト1試行が交互に5回ずつ行な
われたのち、単語を構成している各文字について読みが調べられた。主な結果は次のとおりであ
る。ω2文字で学習した群では、①r語頭」の文字の成績はr語尾」のそれよりもよかった。②
「単語読み」で指導された郡よりも、r文字・単語読み」で指導された群のほうが成績がよかっ
た。12〕3文字で学習した群では、①「語頭」「語尾.1「語中」の順に成績がよかった。②指導法
による成績の差異は認められなかった。
文
就
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Psツ。^0’0g)’. 64,482−488.
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の学習・発達過程に即して一読書科学第五9巻第3号 69−85.
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