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東京都左官職組合連合会・70 周年記念対談
久住 章
氏
& 中屋敷 剛
氏
(司会:阿嶋 一浩 氏/平成28年6月7日収録)
東京都左官職組合連合会(石川隆司会長)は 6 月 7 日、
第 70 回定期大会を新宿区の京王プラザホテルにて開催し
た(7 月号既報)
。当日は記念式典に先立ち、別会場にて
久住章氏、中屋敷剛氏による記念対談「左官の未来―伝
統と革新―」(司会:阿嶋一浩氏)が催された。本稿では、
“職人育成”や“これからの時代に求められる左官”をテー
マとした対談のもようを掲載する。 (編集部)
モデリングによる
塗り壁トレーニング
れら三つについて積み上げて学んでい
で現場に送り出すということです。そ
く必要があるのではないでしょうか。
うすることで、現場で若手を預かって
今日は、主にこのうちの「技術」につい
いただく親方だとか、先輩職人さん達
中屋敷 ご承知のように私は一切鏝を
てお話したいと思っています。
に多少なりとも役立つ存在になれる。
持ちませんし、壁も塗れません。かた
左官業界の中で、「若手の育成がう
というのがこのプログラムの成果で
や、久住親方は誰もが知っている超
まくいかない」とか、「入ってもすぐに
す。
一流の職人さんですから、今日の対談
辞めてしまう」という声を聞いており
実際、授業はどんな風になっている
は、ある意味で異種格闘技戦かなと
ます。まず最初に私のほうから、自分
かというと、午前中は座学を主体にし
思っています。
なりに行っている新しい取り組みをご
て、安全、材料、技術についての知
今日のテーマは「左官の未来−伝統
紹介したいと思います。
識学習を行います。とは言え、勉強の
と革新−」です。「伝統」と「革新」は、
私の会社もしくは札幌の訓練校で
好きな子は少ないですから、出来る限
相反しているように思えますが、「左
は、若い子をまず採用すると、現場に
り映像を主体にして授業をしていま
官技能の継承」のためには、両者とも
一切出さず、1ヶ月間、即戦力育成プロ
す。知識を学んだらすぐにその場で実
必要なテーマであるのは皆さんもお感
グラム研修というものを集中して受け
践。例えば、脚立の使い方を学んだら
じかと思います。
させます。これは、5月から現場に出る
すぐ外に出て実際にやってみます。そ
それでは、「左官技能」とはどういう
のに当たり、最低限覚えておくべき安
んな具合で、材料の練り方、運び方か
ものなのか。これは、「技術」と「道具」
全、知識、技術の習得を目的としてい
ら、モルタルはどういうものかという
と「材料」の三つに分類できます。従っ
ます。現場で必要な最低限の知識を
ことも含めて、知識を学んで実践して
て、左官技能を継承していくには、こ
持っていて、多少は仕事が出来る状態
みる、というのが午前中の授業です。
8
No.480 2016 年 8 月号
東京都左官職組合連合会・70 周年記念対談
く
す み
あきら
久住 章 氏
昭和 23(1948)年、兵庫県淡路島生まれ。18 歳で長兄について
左官の修行を始め、京都の数寄屋左官卯田惣二氏に弟子入りして聚
楽壁を習うなど、さまざまな技術の習得に励む。かたわら左官組合
から呼ばれるまま、講師として全国を巡る。36 歳のとき、ドイツ、
アーヘン工科大学の教授を紹介されたのを機に、アーヘン工科大学
の夏期講師となる。以後、世界各地を訪れ、土壁の建築を見て歩く。
そうした経験に裏付けられた技術と独特の新しい感性で多くの建築
を手掛け、この頃より「カリスマ左官」と呼ばれるようになる。こ
れまでの業績に対して、1984 年兵庫県技能顕功賞、95 年には早稲
田大学の学生に造らせたゲストハウスで吉岡賞、さらに 99 年、日
本建築学会文化賞を受賞している。
午後は、最近はご存知の方も多いか
なったのは、8年ほど前、久住親方に札
と思いますが、モデリング手法による
幌までお越しいただいた時に「若い子
塗り壁トレーニングをしています。お
にこれをさせるとええよ」と言われた
手本の映像を真似しながら、90cm×
のがきっかけでした。そこから色々と
中 屋 敷 昔 は 、「 仕 事 は 教 わ る も の
1m80cmの塗り板に土の塗りつけをす
研究させてもらいまして、モデリング
じゃない、見て盗むものだ」といわれ
るシンプルなトレーニングで、塗りつ
を5、6年やってきましたが、大分コツ
た時代でした。私はその言葉に真理が
けて、粗均しして、剥がしての繰返し
も得てきました。
あると思っています。昔は、先輩職
を1時間で20回できるようになるのが
実はこの塗り壁トレーニングの講師
人を見ることでしか学べなかったこと
目標です。これを午後1時から4時まで
は私が1人でやっています。鏝を握る
が、いまの若い子たちは映像を見て
3時間塗り、あとは片づけて終わると
技術指導の人間は誰もいません。鏝を
学ぶことができる。見て盗む対象が変
いうのを毎日続けていきます。
持ったことのない人間が教えて、1時間
わっただけなのではないかと、いまは
これを1ヶ月間続けるわけですが、 で20回の塗り剥がしを、概ね10日間程
これからは
「見て考えて真似る」
感じています。
学校ですから土日は休みです。月曜日
あれば教育できるようになりました。
また、実はこのトレーニングの目的
から金曜日まで4週で20日間あります
要するに、『教える側に技術がなくて
は、塗れるようになること自体が最大
が、祝日もありますから概ね18日間程
も塗れるようにすることができる』、
の目的ではないのです。お手本を見
度の研修です。
というのがこのモデリングの価値だと
て、
「それと同じように真似することが
このトレーニングを始めるように
思います。
出来るようになる」と、自分が出来ない
な か
や
し き
つよし
中屋敷 剛 氏
昭和 42(1967)年、札幌生まれ。千葉工業大学卒業後、東急建
設株式会社横浜支店〜東京支店において現場監督として勤める。平
成 7 年 7 月 13 日、当時 28 歳の時、父であり先代社長の急死によ
り前勤務先を退社。同年 8 月 1 日、中屋敷左官工業株式会社代表取
締役に就任。現在、
(一社)日本左官業組合連合会青年部の本部長
を務める。「スーツを着た左官屋さん」というペンネームのブログ
で「新しい左官」を発信しており、人材育成においても「モデリン
グ手法」という新しい概念を世に提案、自社においてもここ 4 年間
で 15 名の新卒を採用し、新しい時代の採用、育成を実践している。
No.480 2016 年 8 月号
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