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中国経済審査報告書2010年版 - OECD Online Bookshop

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中国経済審査報告書2010年版 - OECD Online Bookshop
Policy Brief
FEBRUARY 2010
ORGANISATION FOR ECONOMIC CO-OPERATION AND DEVELOPMENT
中国経済審査報告書2010年版
経済が直面する主要
な課題は何か
要旨
OECDが初の「中国経済審査報告書」を刊行した2005年以降、中国は急成長
金融政策枠組みはど を続けている。中国経済は、特に迅速かつ精力的なマクロ経済政策行動に
のように発展させる
より、世界金融危機を非常にうまく乗り切りつつある。経済の拡大は中期的
べきか
に続く見込みであり、世界経済に占める中国のシェアが更に高まっていくの
金融/製品市場では は確実な情勢である。経常収支黒字の最近の減少にもかかわらず、特に高
どのような改革が必 過ぎる貯蓄率など、いくつかの不均衡が残っているものの、現在行われてい
る改革が長期的にはその緩和に資するものと期待することができる。近年、
要とされるか
幅広い分野で構造改革が行われており、社会統合の必要性がますます重
社会的セーフティネッ 視されるようになっている。それでも、多くの分野で、生活水準の向上を長
トはどのように強化
期的に持続するための取り組みが行われているか、または、まだ必要とされ
すべきか
ている。
労働市場はどのよう
に発展しているか
年金の強化は可能か
保健医療はどのよう
に改善すべきか
詳細情報
金融政策枠組みの一層のアップグレード。中国の金融政策枠組みは、
マネ
ーの伸びを主要な短期目標とする、より市場ベースのシステムへと徐々に移
行している。将来的に、金融政策枠組みは量的な流動性管理から金利変
更へと重点を移していく必要がある。より大きな為替レートの柔軟性を容認
し、インフレ目標をより重視するようにすれば、国内のマクロ経済状況に見
合った金融政策運営を行う余地は拡大する。
金融市場の開放持続。現在、中国の金融機関は数年前より体力を強化し、
規制も改善されており、金融制度も徐々に開放されている。しかし、金融部
門における外国投資の上限引き上げ、社債市場の拡大、正式な商業銀行向
け預金保険制度の創設、監督能力の強化など、一層の改革が求められてい
る。更に、不良債権化する虞れのある融資の増加を回避するため、引き続き
警戒していく必要もある。
本ポリシーブリーフは、
「OECD中国経済審査報告書2010」の評価と勧告について紹介したものであ
る。加盟30カ国と欧州委員会で構成される経済開発検討委員会(EDRC)は、本審査報告書について
討議する特別セミナーを開催し、中国政府も参加した。本審査報告書は、OECD経済総局が最初に草
稿を作成した後、
セミナーの討議を経て修正し、事務総長の責任で発行された。
© OECD 2009
Policy Brief
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
製品市場の障壁引き下げ。現在多くの分野で競争が活発化しているものの、
製品市場には依然として高い障壁が残っており、それが長期的に成長の足
かせとなる可能性がある。国有企業と中央当局間の伝統的な結び付きの緩
和、行政負担の削減、ネットワーク部門に対する民間部門のより大きな関与
の容認、サービス分野における外国直接投資への障壁引き下げなどによっ
て、競争と生産性の伸びを高めることができる。
社会的セーフティネットの一元化。近年、社会保障分野で野心的な改革が
スタートしており、非公認出稼ぎ労働者(unofficial migrants)という例外
はあるものの、特に教育と社会的セーフティネットのカバレッジに関しては、
すでに目に見える進展が成し遂げられている。さらなる進展には、全国的な
財政の連帯性を強化しつつ、福祉援助、年金、保健医療制度の長年にわた
る分散化を克服する必要がある。
労働移動の促進。労働市場は活発だが細分化されている。居住登録制度(
戸口(フコウ))と、出稼ぎ労働者の社会福祉へのアクセス制限が労働移動
を阻害しており、徐々に緩和していくべきである。
年金制度の統合。年金受給者に十分な所得代替率を提供するには、年金
コスト、特に農村部の年金コストに占める中央政府の負担分を高めるととも
に、退職年齢を引き上げる必要がある。
保健医療改革の推進。ユニバーサルで、安全性が高く、手頃な価格によ
る、実効性の高い、基礎的保健医療の実現に向けて前進するため、一次医
療(プライマリーケア)の役割強化、病院経営の効率化、一部の相対価格
の変更、職員研修の強化、各種保険制度の最終的な統合などが必要であ
る。 n
2 ■ © OECD 2009
Policy Brief
経済が直面する主要
な課題は何か
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
OECDが初の「中国経済審査報告書」を刊行した2005年以降、中国は、主に
民間部門の発展に牽引され、急成長を続けている。輸出は世界危機から大
きな打撃を受け、景気は2008年に大幅に減速した。しかし、迅速かつ精力
的な政策行動と労働市場の速やかな調整などが2009年第2四半期までに成
長の回復を後押しし、中国は世界的な景気回復の先頭を走っている。将来
的に、中国国内の生活水準同様、世界経済に占める中国の重要性が更に高
まっていくのは確実な情勢である。実際、中国は購買力平価ベースではす
でに世界第2位の経済大国であり、近いうちに市場為替レート(MER)ベース
でも世界第2位の経済大国となる見込みである。中国はすでに製造部門では
世界第2位、製品輸出では世界トップに立っている。成長は今後も、投資と
50%に迫る都市化率の上昇持続に伴う生産性の低い農業からのトレンドシフ
トに主に牽引されていく可能性が高い。労働力の大幅増は見込めないが、
教育水準は1980年代初頭以降急上昇しており、これが将来の生産性の伸び
を下支えするだろう。
2008年末に輸出が大幅に落ち込むと、中国は多くのOECD諸国にも増して強
力に金融政策と財政政策の双方を発動した。金融政策面では、政策金利
と預金準備率の段階的引き下げを実施した。その一方、2005年半ば以降の
緩やかな人民元高ドル安の動きに歯止めをかけ、実効為替レートの大幅下
落を助長した。更に、景気過熱時に導入した多くの貸出規制も緩和した。
財政政策面では、低水準の公的債務と高水準の財政黒字を背景に、大規
模な刺激策を導入した。一部の支出と減税についてはすでに予算に盛り込
まれていたため、追加的な財政出動の総額を正確に算出することは難しい
が、絶対的にも相対的にも多くのOECD諸国の財政出動の規模を上回ってい
たのは明らかである。刺激策の主要部分は、依然として顕著なニーズがある
輸送、エネルギー、その他ネットワーク・インフラ向けの追加支出という形を
図1.
世界の製造業付加価値額
に占めるシェア
市場価格表示の実質(2000
年基準
China
United States
Europe
Japan
%
30
25
20
15
10
5
0
1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
Source: World Development Indicators; OECD estimates for 2009 and later.
© OECD 2009 ■ 3
Policy Brief
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
とっている。新規支出の一部は、特に保健医療分野の社会プログラムや、あ
る程度は、持続可能な成長を確保する上で重要な役割を果たす環境保護
にも振り向けられている。中央政府は刺激策の一部についてのみ資金手当
てを行い、残りは地方政府、銀行、国有企業が資金手当てすることになって
いる。こうした状況から、2009年上期に信用が急増した。こうして投資された
資金が将来十分なリターンをもたらすかどうかは大きな懸念材料である。
中国では、貯蓄と投資はかなり以前から極めて高水準となっている。近年
では、家計、政府とも純貯蓄が更に増加しており、それが経常収支黒字の拡
大につながり、2007年の経常収支黒字のGDP比は2ケタに達した。世界的な
景気減速の中でも、輸入は、特にマクロ経済の景気刺激策注入により、輸
出より持ち堪えた。この結果、2010年の経常収支黒字のGDP比は5.5%前後へ
と低下する見込みであり、経済成長率が2ケタ台へと持ち直すのは確実な情
勢である。同時に、政府貯蓄も減少する見込みで、これは歓迎すべき動き
である。実際、近年では、一般政府財政黒字の規模は大半の中国経済ウォ
ッチャーに十分に評価されていないが、これは特に社会保障制度が国家予
算に統合されていないためである。より一般的には、全ての都市開発インフ
ラ会社の総体的な財務データを公表するとともに、土地使用権の売却収入
(2007年のGDP比は5%超)の使途をより透明化すれば、公的財政データの質
と妥当性は改善される。広義の社会的セーフティネットのカバレッジ拡大と
所得代替率の上昇によって将来に備えるという動機が薄れていくのに合わ
せ、家計貯蓄も徐々に減少していく可能性が高い。家計向け信用市場の深
化と人口の高齢化も同じ方向に働くだろう。一部の重工業部門が引き続き非
効率的な設備を抱えていることや、深刻な環境への重圧など、その他の不
均衡や緊張も残存している。このいずれについても、政府は最近、特にエネ
ルギー利用の効率化を奨励する方針に関して、政策発表を行っている。価
格設定をより市場ベース化すれば、この分野での適切な誘因の創出に資す
る可能性がある。
将来を展望すると、現在の財政刺激策から脱却する場合に財政黒字へと
逆戻りしないことが重要だろう。中国は、世界経済危機の前夜にうらやまし
いほど強力な財政基盤を持っていたし、公的支出が増加する2010~11年も
こうした事情に変わりはないだろう。教育、福祉給付、年金、保健医療などの
分野で着手した、あるいは必要とされる社会改革を下支えするため、政府支
出の構成は今後も、全国的な再分配を重視しつつ、人的資本への投資や社
会移転を拡大する方向へとシフトしていく必要がある。特に、教育関連の公
的支出拡大は生産性の向上にも格差の是正にも資することができる。 n
金融政策枠組みはど 中国の金融政策枠組みは、計画に基づく管理システムから、
マネーの伸び
のように発展させる
を主要な短期目標とする、より市場ベースのシステムへと徐々に移行してき
べきか
ている。この移行の一環として、一部の金利が自由化され、金利が市場のシ
グナルに反応しやすくなるとともに、金融政策のツールも近代化されてきて
いる。中央銀行は今や銀行間市場の短期金利に対して大きな支配力を有し
4 ■ © OECD 2009
Policy Brief
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
ているほか、期間構造を通じて長めの金利への影響力も強めている。将来
的には、中央銀行の政策運営枠組みは量的な流動性管理から金利変更へ
と重点を移していく必要がある。中央銀行がベンチマークとしている商業
銀行の貸出・預金金利は金融政策運営上の妥当性を失いつつあり、徐々に
ベンチマークから外していくべきである。銀行部門も大規模な改革を経験
しており、経済は市場ベースの政策措置にはるかに強く反応するようになっ
ている。つまり、企業レベルの投資は金利の動きに対してより敏感になって
おり、総需要の変化がインフレに対してより強く影響するようになっている
のである。したがって、中国では金融政策の波及経路が実効性を強めてお
り、金融政策は安定性を促進する上でより大きな役割を果たせるようになっ
ている。しかし、現行の為替制度は、通貨価値がマクロ経済のショックを相
殺する方向に調整することを妨げ、このチャネルの実効性を制限している。
より大きな為替レートの柔軟性を容認し、資産価格に監視の目を光らせつ
つ、インフレ目標をより重視するようにすれば、中央銀行にとって、国内のマ
クロ経済状況に見合った金融政策運営を行うとともに、外貨準備の流入を
不胎化するコストとリスクを減らす余地が広がることになる。しかも、経済が
急速にキャッチアップしている中では、いずれにしても、中期的には実効為
替レートの上昇が見込まれるのである。 n
金融/製品市場では 前号の「経済審査報告書」で審査したものを含め主要な金融改革の実施面
どのような改革が必 では大幅な進展をみせている。金融改革は活発な経済の拡大により促進
要とされるか
されており、有害な海外資産へのエクスポージャーが限られていることと相
まって、中国の銀行がこれまでのところ世界的な景気減速をうまく乗り切る
ことを可能にしている。しかし、最近の融資急増によって、地方当局のイン
フラ会社が無分別な借り入れを行い、不良債権が再び増加するリスクが生
じている。金融機関は業務範囲を拡大しており、住宅・消費者ローンは急増
し、新金融商品・ファシリティも導入されている。商業銀行のコーポレート・
ガバナンス構造とリスク管理制度は改善している。国有株と法人保有株の
売買制限は緩和され、証券市場制度は近代化されている。銀行が新たに企
業合併・買収(M&A)資金を融資できるようになったことと併せ、これにより
企業支配権市場が生まれる可能性がある。しかし、今までのところ、新たに
売買可能となった株式が実際に売買された例はほとんどない。これまで十
分なサービスを受けられなかったセグメント、特に中小企業と農村部の信用
アクセスを改善するための取り組みも行われている。外国資本の流入制限
を緩和する措置がとられているとともに、中国の金融機関はOECDその他の
外国で存在感を増しているが、自由化のペースは遅く、中国の金融機関の資
産に占める外国人のシェアは依然として極めて小さい。
長期的に見て、金融制度の発展は、年金などに関するより広範な経済改革
についての決定に左右される可能性が高い。
予見し得る将来においては、
国有が今後も金融システムの主流となる可能性が高いが、民間部門の拡大
に伴って、こうした仕組みをどの程度のペースで発展させていくかが大きな
© OECD 2009 ■ 5
Policy Brief
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
争点となっている。銀行その他の金融機関に対する外国投資の上限を引き
上げれば、金融機関に対して、そのガバナンス、経営、専門能力をアップグレ
ードするよう圧力をかけるとともに、その国際的な事業拡大も助長する。ま
た、世界金融危機の余波による、銀行の資本増強とリスク管理改善への全
般的ニーズにも資する。債券市場は拡大しているが、社債発行額は依然と
して比較的少額にとどまっている。正式な預金保険制度を整備すれば、大
手商業銀行と中小商業銀行間の競争機会の平等化に資する。中国銀行業
監督管理委員会(CBRC)の能力を強化し、より多くの商業銀行に対して定期
的に実地検査できるようにすれば、銀行改革の実施を加速することに資す
る。
2001年の世界貿易機関(WTO)加盟など、この30年間の自由化により、中国の
製品市場はますます競争が激化しており、今では総じて市場の力が価格形
成と経済行動の主要な決定要因となっている。競争政策枠組みが整備さ
れ、企業の参入と退出に関する規制は改善されている。行政改革により中央
政府の市場経済監督能力が強化され、規制はマクロ経済への介入にあまり
頼らず、枠組み条件が重視されるようになっているが、産業政策は、世界経
済危機に際し、10大産業調整振興計画の形で強化されつつある。さらに、
中国における製品市場への政府介入度に関するOECD初の指標によれば、
政府介入度も、絶対的にも相対的にも、依然として広範囲に及んでおり、ロ
シア並みである。経済が発展するにつれ、これはますます成長の足かせに
なりかねない。国有企業と政府間の伝統的な結び付きを緩める取り組みが
現在行われているが、これには、特に中小規模の公社に関しては、国有の規
模を更に引き下げるのが一番である。行政負担の削減、民間部門がネットワ
ーク部門への関与を強化する余地の拡大、サービス分野における外国直接
投資への障壁引き下げなども、将来の競争と生産性の伸びに弾みをつける
ことになるだろう。 n
社会的セーフティネッ 全土にわたって十分な社会統合と安定を確保することは、中国の公共政策
トはどのように強化
にとって何よりも重要な、そしてますます突出している目標のひとつとなって
すべきか
おり、今後も同様であるだろう。これは効率性を高め、堅調な経済成長の見
込みを強めるものであり、いずれにしても、急速な経済拡大の望ましい成果
である。したがって、近年では社会保障分野で多くの野心的な改革が着手さ
れており、
すでに目に見える進展がみられている。特に、社会的セーフティネ
ットのカバレッジは、都市部の総雇用者数の40%を占めると思われる非公認
出稼ぎ労働者に関しては大幅に遅れているものの、拡大している。しかし、
更に決定的に前進するためには、最近の改革の一部によって実際一段と悪
化している、労働市場と教育・福祉・年金・保健医療制度の長年にわたる分
散化を克服する必要がある。大幅な改善は、本来できるはずの貧困削減が
できていない給付、特に最低生活扶助費、の実施面でも必要とされている。
6 ■ © OECD 2009
Policy Brief
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
必要とされる社会保障制度の一元化では、保健医療と年金の管掌を市から
省へ、更には国へと移管すべきである。全国的な制度は国全体の財政の連
帯性の強化を伴うべきであるが、社会保障の中身については一律にすべき
ではなく、地域ごとの状況や個人の履歴に応じたものにすべきである。全国
的な制度を確立すれば、農村部から都市部へ、またある市から別の市へと
いう労働移動も大いに促進される。成長と都市化を持続していくには出稼
ぎ労働者を更に大幅に増やす必要がある。
一部では、この10年に着手された様々な社会改革の結果として、全国的な所
得格差の拡大傾向が近年一服している可能性を示す明るい兆しが見えてい
る。一連の新指標によれば、いくつかの点では所得格差が縮小している可
能性もある。特に、各省間の所得格差は、送金を通じて貧困地域の所得を
押し上げ、地元に残る労働者の賃金引き上げにつながる傾向のある出稼ぎ
労働の結果などにより、近年やや縮小する傾向にある。とはいえ、人口が少
なく、開発が遅れている西部の開発推進を目的とした西部開発計画が実施
されているにもかかわらず、地理的格差は国際基準からすると依然として極
めて大きい。この点に関して余り大きな成果が見られない理由のひとつは、
この政策に基づく支出の大半が長い間、天然資源を沿岸部に運ぶための大
規模な資本集約型プロジェクトに重点的に投入されてきたことにある。人
的資源の増加と長期的には所得格差の縮小に資する教育(特に後期中等
学校の教育)や、民間起業家の育成に、
もっと力を入れる必要がある。 n
図2.
0.06
中国の家計所得分布
0.05
家計所得が所与の50人民
元区間に入る確率(1990年
都市価格)
0.04
0.03
0.02
0.01
1987
1992
1998
2003
2008
1800
2100
2400
2700
3000
3300
3600
3900
4200
4500
4800
5100
5400
5700
6000
6300
6600
6900
1500
1200
900
600
0
300
0.00
Source: OECD estimates using the Chotikapanich et al. (2007) method and source data from NBS.
© OECD 2009 ■ 7
Policy Brief
労働市場はどのよう
に発展しているか
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
労働市場は、1年前に比べ解雇が増え大量失業の虞れが出ているにもかか
わらず、景気が減速する中で、驚くほどの回復力を見せている。雇用者数は
2008年末から2009年初めにかけての2~3カ月間減少したものの、その後は、
ややペースが落ちたとはいえ、新たに増勢に転じている。2008年末に都市
部で職を失った大量の出稼ぎ労働者は、ほとんど全員が、必ずしも同じ職
場ではないものの、2009年半ばまでに都市部で新たな職を見つけていた。
多くのOECD諸国よりはるかに素早く、失職した労働者がこのように新たな職
に就くことができているのは、景気の持ち直しや賃金引き下げ、特に出稼ぎ
労働者が大幅な賃金カットを受け入れていることを反映したものである。
現在の市場の現実に適合させる必要があった1995年施行の法律に代わるも
のとして、一連の新労働法が2008年に導入された。新法導入の目的は、今や
市場が民間部門の雇用主によって支配されている中で、雇用者保護を強化
することにある。これには、期日どおりの給与支給など、労働者の基本的権
利を全雇用主に遵守させるための、労働契約のより体系的な利用が含まれ
ている。しかし、新法は終身雇用を創設するためのものではない、と政府は
強調している。新法は、最低賃金、労働時間、社会保障法の厳格な遵守に
つながるものである以上、企業のコスト増につながる可能性もある。原則的
に、個々の雇用者は、それに伴う何らかの判決の執行には困難が伴うとして
も、自己の権利を認めさせることが容易になる。他の分野同様、非常に重要
なことは、新法とその施行規則がどの程度執行されるかである。現時点で
は、企業を処罰する労働基準監督官の権限は極めて限られている。当面、
雇用者は実際的には法律上の保護よりはるかに弱い保護しか受けられな
い状態が続いており、ほとんど規制を受けない有期契約が依然として大半
を占めている。新法の実施に際しては、無期契約の過度の厳格化は避ける
べきである。過度の厳格化は労働市場の二元化を固定化するだけとなるか
らである。
居住登録制度(戸口(フコウ))関連の規制は、特に内陸部と西部地域では
時間をかけて緩和されてきているが、この規制は依然として労働市場をセ
グメント化し、地理的移動の阻害と家族の離散につながっている。大都市
圏では、現在、出稼ぎ労働者は暫住人口(一時的居住者)として登記するこ
とができるが、常住人口(恒久的居住者)と同じ権利は与えられない。政府
は、出稼ぎ労働者の児童は都市部で教育を受ける必要があると強調してい
るが、現実的には、出稼ぎ労働者の児童の大部分は祖父母とともに後に残
されており、今でも、大学入学試験は学生の戸口登録地で受けなければなら
ないと規定している。居住登録制度は、同じ地域における農業戸口と都市
戸口の区別をなくすためばかりでなく、各地域間、各省間の区別をなくすた
めにも、徐々に廃止していく必要がある。東部の大都市圏では、
もっと多く
の試験的プログラムを実施し、居住登録制度を緩和することによって、暫住
人口にも常住人口と同じような、教育、家賃補助、医療保険などの社会給付
8 ■ © OECD 2009
Policy Brief
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
へのアクセスを提供すべきである。このためには中央政府や省政府からの
特別交付金が必要となるかもしれない。それと併せて他の政策を変更する
必要もあるかもしれない。特に、政府が土地使用権を買い取る場合にはそ
の所有者に現実的な補償金を支払う必要がある。 n
年金の強化は可能か 低い出生率と平均余命の伸びにより、中国では人口高齢化が急速に進展し
ている。若年層の都市部への出稼ぎが間断なく生じているため、老年従属
人口指数は農村部の方が都市部より更に速いペースで上昇するだろう。都
市部では多様でセグメント化した制度が乱立し、農村部では退職年齢は高
いのに所得代替率は低く、公共部門の年金には特別規則が適用されるな
ど、ばらばらの年金制度が国中に存在している。この結果、労働移動が阻害
されているという点で効率性の問題が生じ、また、ある部門における勤務経
験が別の部門に移ると年金計算上認識されないという点で公平性の問題
が生じている。都市部の年金は、まず世紀の変わり目頃に、次いで2005年に
も再度、限定的な改革を経験している。いずれの際も給付の減額が行われ
た。更に、一部の地理的プーリングも導入されている。それでもなお、保険
料率は、出稼ぎを通じて人口が急増している地域では低いものの、産業基
盤が衰退しているか、高齢者の割合が高い都市部では格段に高い。2005年
には、自営業者や柔軟な雇用形態の労働者のカバレッジを引き上げるため
の措置もとられた。2009年半ばには、農村部の新年金制度が発表され、出
稼ぎ労働者を対象とする年金が提案されている。最近の改革の中には、断
片化を強める方向に働いているものもあれば、特に地理的プーリングの拡大
を規定したものなど、
十分に実施されていないものもある。また、現行の規
則では、農村部の居住者の場合も都市部の居住者の場合も、実効所得代
替率は非常に低く、更に低下することが見込まれている。高齢者が子供と同
図3.
主に子供に依存している都
市部の高齢者
年金を受給している高齢者
と受給していない高齢者
Without pension
With pension
%
70
60
50
40
30
20
10
0
65-69
70-74
75-80
Source: Tabulations of the 2006 China Health and Nutrition Survey.
© OECD 2009 ■ 9
Policy Brief
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
居しなくなる可能性はますます高まるので、こうした状況を維持するのは難
しいかもしれない。しかも、高齢化人口の大半は地方に集中する可能性が
高いので、追加負担の多くは地方政府が背負い込むことになるが、貧困地
域の地方政府の多くは十分な資金を持っていない。
これらの課題は、様々な制度の段階的統合、農村部の年金コストのうちの
中央政府負担分の増加、年金保険料の全国的プーリング、退職年齢の引き
上げなどによって対処することができる。労働者のカテゴリー別(特に雇用
者と自営業者)に異なる年金制度を存続させる場合でも、長期的にはそれ
ぞれの制度を地理的に、最初は省レベルで、次に全国レベルで統合すべき
である。この過程で、勧告に沿って地方の居住登録制度を廃止するのと並行
して、都市部の居住者と農村部の居住者の区別を徐々になくしていくべきで
ある。退職年齢は現在非常に低くなっているが、長期的な年金制度の持続
可能性を確保するために、いずれは、一部のOECD諸国と同じように、少なく
とも平均余命の伸びに合わせて引き上げるべきである。当面は、国民貯蓄
がすでに極めて高水準になっているので、政府の将来年金債務について事
前積み立ての必要はない。 n
保健医療はどのよう
に改善すべきか
10 ■ © OECD 2009
多くの点で中国の保健医療状況はここ何十年かで大幅に改善しているが、
これは従来型感染症の一部がほぼ根絶されたことによる面が大きい。結局
のところ、中国の保健医療状況は、中国の方が所得が低いにもかかわらず、
メキシコやトルコなどのOECDの低所得国とあまり変わらない。しかし、地域
によって大きな開きがあり、総じて、特にたばこ消費量の拡大などのライフス
タイルの変化により、慢性疾患による死亡率が上昇している。保健医療状況
を改善するためには、保健医療ニーズが急速に高まっている中で保健医療
制度を苦しめている多くの不均衡とインセンティブ上の問題に対処する必
要がある。保健医療は公的に提供されているケースが圧倒的に多いが、公
的資金に占める病院のシェアは高まっており、一次医療がそのあおりを受け
ている。医師数は急増しているが、その資格は低レベルなことも多く、地理
的な分布も地元のニーズに合っていない。病院の予算と医師の給与は、医
師が処方・販売する医薬品に一部基づいているが、医薬品価格は規制され
ており、大幅な内部相互補助(cross-subsidization)が行われている。こう
した状況を背景に、家計の現金医療費が急増している。これらの問題の多
くはかなり以前から認識されていたものであり、2003年以降、都市部と農村
部の新保険制度導入など、政府はこうした問題に対処する改革に何度も着
手している。この結果、医療施設のカバレッジと利用は、出稼ぎ労働者を除
き、大幅に拡大している。しかしそれでも、特に貧困地域では、難治疾患と
慢性疾患によって貧困状態に陥る人が後を絶たない。全国レベルのリスク・
プーリングが依然として限られていることを考えると、患者に対し、その患者
が法律的には受ける権利を持つ弁済率を提供することは、多くの場合不可
能である。
Policy Brief
OECDポリシーブリーフ 2010年2月
2020年までに、ユニバーサルで、安全性が高く、手頃な価格による、実効性
の高い基礎的保健医療制度を確立することを狙いとした、一連の新たな改
革が2009年4月に発表された。この改革は、2009~11年に8,500億人民元(こ
の期間のGDPの0.8%)の追加支出を伴うものである。この金額は巨額ではあ
るが、長期的に保健医療部門で必要とされる特別支出の頭金にしかならな
い。これらの改革には、医療インフラへの投資、保険カバレッジの一般化、
予防への重点的取り組み、低資格医の再訓練、新たな必須薬制度、病院予
算を含む広範囲にわたる再編などが含まれている。大したことのない健康
上の問題でも病院で診断を受けようとするような適切でない需要を減らす
ために、一次医療が保健医療の提供で果たす役割を強化していくことが重
要である。また、序列的な構造を弱めて病院経営を効率化したり、給与と処
方薬の連動を廃止したりすることも重要である。保険制度によって支払われ
る価格が実際のコストを反映するようにする必要もある。実際、多くの国が
経験しているように、こうした供給面の問題点を解決できないと、保険カバ
レッジ拡大の実効性が損なわれることになる。状況を改善するには、医師
給与の引き上げ、医薬品価格の歪み是正、たばこ税・たばこ価格の引き上げ
という形で、相対価格を変更する必要もある。出生地ではなく居住地にいる
出稼ぎ労働者を含めて、ユニバーサルに近いカバレッジを実現した暁には、
様々な保険制度を統合するとともに、その資金助成に占める中央政府の負
担分を増やすべきである。
要するに、中国は多くの改革に着手しており、その改革が、世界的な景気減
速に直面しても内需を下支えし、対内的・対外的なマクロ経済的不均衡の
縮小を後押しするとともに、中国経済を再構築することによって、実を結び
つつある。多くの国では、構造改革に着手すると、特に公財政上、緊縮財政
措置が相殺されてしまうために、短期的な費用と長期的な便益の間に痛み
を伴うトレードオフが生じる。対して、中国は継続的かつ大胆な社会改革に
資金を充当する余裕があり、右を通じ高い国民貯蓄率の引き下げに資する
ことができるという幸運な状況にある。公共インフラ投資がより正常な水準
に戻っても社会支出を増やすことによって、中国は生活水準の向上と国内
社会統合の強化を享受し、世界経済の調和化に貢献するだろう。 n
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