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1.1.4 万有引力の法則とクーロンの法則 質量を持つ2つの物体の間には

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1.1.4 万有引力の法則とクーロンの法則 質量を持つ2つの物体の間には
1.1.4 万有引力の法則とクーロンの法則
質量を持つ2つの物体の間には重力が働く。ニュートンが発見した万有引力の法則は
mM
F=G 2
r
というものでした(P7)。一方, 2つの電荷に働く電気力は
qQ
F=k 2
r
のようにまとめられました(P9)。重力と電気力は無関係であるはずなのに, なぜ, こんなにも似ているのだろうか?
偶然でしょ!と言ってしまうこともできるだろうが, なにか理由が欲しくありませんか?物理学, ひいては,
自然科学の進歩は「なぜ」の問いかけを続けてきた結果です。万有引力の法則とク−ロンの法則の関係を
調べるために, 「うなぎ屋」の周辺で起きる現象について考えてみることにします。
まず, うなぎ屋の店先でうなぎを焼いている光景を思い浮かべます。
うなぎからは食欲をそそる匂いが発生しています。このうなぎの匂いは
店先から外へと広がっていくでしょう。そこに通りかかったうなぎ好き
客
うなぎ
の客は, 匂いをかいで, 思わず, うなぎ屋に入って行きたくなることでしょう。
客を店に引き寄せるのは「うなぎの匂い」なので, 「匂い」が強ければ,
客はより強く店に引き寄せられるでしょう。では, 「うなぎの匂い」の強さ
r
はどのようになるでしょうか?簡単に想像できるように
・焼いているうなぎの量が多いと, 匂いが強くなる
球
・うなぎ屋に近付くほど, 匂いが強くなる
となると考えられます。うなぎから発生する匂いは, うなぎの周囲に一様に広がっていくでしょう。数学的には,
うなぎを中心とする球の表面に匂いがばらまかれることになります。また, 匂いの強さは焼いているうなぎの
量し比例するでしょうから, うなぎから距離 r 離れた場所での匂いの強さは
においの強さ = 比例定数×
うなぎの量
球の表面積 4πr2
(1)
のように表すことができるでしょう。うなぎ屋は地面に立っているのだから, 匂いが地中を伝わることはないのでは
ないか?と細かいことを気にしてはいけません。
さて, 匂いを感じた客がうなぎ屋に引き寄せられるのだけれど, 客を引き寄せる力, すなわち引力はどの
ようになるのでしょうか?力の大きさは,
・客がいる場所での匂いの強さに比例し
・客がどれ程うなぎが好きか(客の好み)に比例
すると考えられます。これを式で表せば
客が引き付けられる力 =(においの強さ)×(客の好み)
(2)
となります。式(1)を式(2)に代入してみると
客が引き付けられる力 =
比例定数 (うなぎの量)×(客の好み)
4π
r2
という関係式を得ます。なんと, これは, 万有引力の法則の式やク−ロンの法則の式と同じ形ではないか!
つまり, 距離の逆2乗の関係は, 「うなぎの匂い」のようなものを介して力が働いているということを
意味しているのではないか!と考えるのは自然だと思いませんか?
実は, この考え方が正しいことが分かっています。電気や磁気について「匂い」のような存在を考えると,
その「匂い」だけが空中を飛んで行くといく現象が現れます。これが「電磁波」なのです。電気力が直接に
電荷に働くと考えているだけでは「電磁波」は出てこない。電気の現象には「匂い」のような存在が必要
なのです。
13
1.2 力の大きさの例
われわれは,地球からの重力を受けています。
この重力の大きさを
アレクサンドリア
ニュートンの万有引力の法則
F=G
mM
r2
シエネ
(アスワン)
を使って求めてみましょう。
そのためには,
いくつかの数値が必要と
なります。
地球の大きさ
(半径 r)
は,
エラトステネス
(紀元前276年
エラトステネス
ギリシャ
紀元前276-196
ころ∼196年ころ)
が初めて測ったと伝えられています。真夏の日,
エラトステネスは北回帰線の近くにあるシエネ
(いまのアスワン)
アレクサンドリア
という町にある井戸の中まで太陽の光が届くことに気がつきました。
これは,太陽が真上にあることを意味します。
そこから北に 925km
シエネ
(アスワン)
北回帰線
離れたアレクサンドリアで太陽がどんな角度に見えるかを測りました。
この結果から,地球の大きさを計算しました。現在の数値に 色ない
ものだったことは脅威です。現在知られている地球の半径は
r = 6.4 × 10 6 メートル
ヘンリー・キャベンディッシュ
イギリス
1731-1810
です。
万有引力の法則に含まれる定数 G は万有引力定数と呼ばれます。
この定数はキャベンディッシュ
(1731∼1810)
が初めて測定しました。
キャベンディッシュが用いたのは右の図のようなものでした。
クーロン
が電気力の測定に用いた装置を大型にしたようなものです
(P9)。
質量Mとmに働く重力を直接測定します。
ふたつの物体の質量と
間の距離を測ると,万有引力定数を決定することができます。
現在の測定によると
G = 6.6743 × 10
−11
m /kg/s
3
キャベンディッシュの実験
2
という数値であることが分かっています。
地球の重さ
(質量)
は物体が地球から受ける重力を測定することで万有引力の式を用いて求められています。
キャベンディッシュも自らが求めた万有引力定数を用いて地球の質量を決定しています。現在では地球のまわりに多数の
人工衛星が飛んでいて,
それらの軌道は正確に知られています。言い換えると,人工衛星が
m kg
どんな重力を受けているかが分かっているのです。
もちろん,軌道の半径や人工衛星の質量
も正確に分かっているので,
それらの数値を用いて地球の質量は
M = 5.97219 × 10 24 kg
r=6.4 106 m
であることが分かっています。
右の図のように,地表にある質量 m kg の物体が受ける重力の大きさは,
万有引力定数,地球の半径,地球の質量を用いて
F = 6.7 × 10
−11
m × 6 × 10 24
( 6.4 × 10 )
6
2
= m × 9.8
kg
24
m/s 2
M=6 10
kg
となります。
つまり,地上に物体が受ける重力の大きさ
(単位:ニュートン N)
は,物体の質量(単位:キログラム kg)
m/s 2 という数値をかけ算したものです。
に 9.8(単位: )
この 9.8 という数値は重力加速度という名前がついています。
9.8とかけ算するのは,地球の表面だけで,
山の上だったり,海の底だったりすると数値は変わります。
また,地球は赤道のほうに少し膨らんだ楕円体です。
したがって,緯度によって 9.8 という数値は変化します。
そもそも表面ってどこのこと?っていう疑問がありませんか?
稚内 9.8062273
宮古島 9.7899718
福井 9.7983819
キトー 9.7726319
(赤道)
昭和基地
9.8252560
各地の重力加速度
(赤道付近が最も小さい)
14
次に筋肉が出す力について考えてみましょう。筋肉には平滑筋,骨格筋,
心筋の3種類に大別されています。
それらのうち,
身体を動かすための
骨格筋と心臓を動かしている心筋は横紋筋と分類されます。平滑筋は
消化器官や血管などを作っている筋肉です。横紋筋は平滑筋よりも素早く
動くことができるのですが,
エネルギーの消費が大きい筋肉です。
平滑筋についてはエネルギーのお話のところで触れることにして,
ここでは骨格筋,
とくに上腕二頭筋について考えることにします。
筋肉には束になった筋繊維がまとめられています。筋繊維はアクチン
平滑筋
とミオシンというタンパク質からできています。神経からの刺激を受けると
骨格筋
(横紋筋)
心筋
(横紋筋)
筋小胞体というところからカルシウムが放出され,
それを受け取ると
ミオシンがアクチンのすきまに滑り込みます。
ミオシンが動く原因は
電気力にあります。
ミオシン繊維とアクチン繊維の組が力を生み出すので,
それらの組が多いほど筋肉が出す力は大きくなります。
ミオシンやアクチン
繊維の太さは一定ですから,本数が多いと筋肉の断面積が大きくなります。
すなわち,筋肉の力は筋肉の断面積に比例すると考えられます。実際は,
最大 3 105 N/m2
(1)
という値であることが知られています。単位 N/m2 は,筋肉の断面積が
2
1m あたりに
3 10 5 N の力が出せるということです。
上腕二頭筋な図1のオレンジ色の部分です。
いわゆる力こぶのところです。
図2は上腕の断面を示したもので,
ピンク色の部分が上腕二頭筋です。腕の直径は 10 cm であるとしておきましょう。
図3は上腕二頭筋の断面積を求めるためにメッシュをかぶせて, 全体が上腕二頭筋に含まれているものを で,
半分くらい含まれているものを で表してあります。
メッシュは 10 cm を 20 等分してありますから, ひとつ分で
10[cm]
20
2
= 0.25 [cm 2 ]
2
という面積となります。上腕二頭筋の断面積は が 55.5 個分ですから,0.25 55.5=13.875 cm ということになり
ます。
したがって,上腕二頭筋が出せる最大の力は式(1)から
3 × 10 5
N
13.875
×
[m 2 ] = 416.25[N]
2
m
100 × 100
1 [m ] = 100 × 100 [cm ]
のように求めることができます。
ここで, に注意しましょう。
2
2
ところで,P14で考えたことを思い出すと,体重 m[kg] の人に働く重力は mgとなります。
ここで,
g は重力
9.8[m/s 2 ] です。
加速度で したがって,体重 50 kgの人に働く重力の大きさは
50[kg] × 9.8[m/s 2 ]=490[N]
となります。
この力の大きさは筋肉の力とほぼ同じ大きさです。
1
4 4
上腕二頭筋
5
2 1
6 7
3
2
3
8
9 10
5
6 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 7
8 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39
9 40 41 42 43 44 45 46 47
10 48 49 50 11
上腕二頭筋
10 cm
上腕三頭筋
図1 図2 図3
15
1.3 力の表し方
物理で扱う量は
大きさだけの量(スカラー) と 大きさと向きの両方を持つ量(ベクトル)
の二種類があります。実はほかにも高度な数学による量がありますが,
この講義では扱いません。
教室の中の学生の人数はスカラー量の一例です。
「教室の中に 60 名の学生がいる」
と知らされたなら, それで
必要な情報が完全に特定され, 方向は必要ありません。
川の流れはベクトル量の一例です。
川の水がどのように流れているかを完全に記述するためには, 流れている
水の量(大きさ)
と水がどのような方向に流れているか
(向き)
を特定しなければいけません。
力もベクトル量です。物体にどのような大きさで, どのような向きに力が働いているかを知る必要があります。
ある物体の運動(速度)
を記述するときは, それがどのくらいの速さで運動しているかということと, その向きの両方を
特定しなければいけません。
ベクトルの計算方法を復習しておきましょう。
ベクトルは
B
右の図のように,
矢印の向きでベクトルの向きを表し,矢印の
AB
長さはベクトルの大きさを表します。
ベクトルの記号は,矢印の
AC
AB
始点と終点を表す記号を使って や のように書いたり,
AB + AC
a +b
a
C
b
AC
A
a
b
ベクトル全体を や と書く
ことがあります。
D
B
ベクトルの足し算(和)
は,
ベクトルの大きさの和ではありません。
右の図のように,
ベクトルの和は
AB
足したいベクトルの始点を一致させて,
足したいベクトルとする平行四辺形を作って,
D
BD
AB + AC
ベクトルの和
C
AC
A
対角線を結ぶベクトルを作る
AC
ことで求めます。
ふたつのベクトルについて,大きさと向きが同じであれば同じベクトルです。
たとえば, と BD
は同じです。
このように考えると,
ベクトルの和は
BD
AからBへのベクトル と BからDへのベクトル を合わせると,
AからDへのベクトル になる
AD
AB
ということを表しています。
B
ベクトルの引き算(差)
は,足し算をつかって考えることが
できます。右図のような例を考えると
AC− AB
AB
AB + BC = AC
a
C
b
AC
ベクトルの差
A
AB
ですから,右辺の を左辺に移項すると
b-a
BC = AC − AB
であることが分かります。
すなわち,
ふたつのベクトルの引き算は 引く方のベクトルの終点 から 引かれる方のベクトルの終点
を結ぶベクトルということになります。
ベクトルの和を逆にとると,
ベクトルを分解することができます。
D
右の図の を青い線の方向と緑の線の方向に分解することを考え
AD
ます。
青と緑の線に平行な線をベクトルの終点を通るように
D
AD
書きます。青と緑の交わる点を終点としてベクトルを
AB AC
作ると,右の図の と が出来ます。
これらは,
AD
A
上で考えたベクトルの和と同じものになっています。
A
D
B
力はベクトルで表すことができる量です。
2つ以上の力
がひとつの物体に働いているとき,物体は力のベクトルの和
ベクトルの分解
AB
にしたがって動きます。
また,
力のつり合いを考えるときには,
A
ベクトルの分解を使うと理解が容易になります。
16
C
AC
1.3.1 力のつり合い
(その1)
図1のようにふたりの人 が物体 を
=
引っ張っているとしてみましょう。 の人は
ベクトル で表す力で, の人は の
ベクトルの力で引っ張っています。
これらの力の
和は の矢印のベクトルとなります。
図1:力ベクトルの和(合力)
このベクトルの力でひとりの人 が引っ張ると,
ふたりで引っ張ったのと同じことが物体におきます。
=
このように,複数の力ベクトルを足し合わせた力を
合力
(ごうりょく)
と呼びます。
図2のように,合力の力の向きをひっくり返して,
の3人で物体を引っ張ると,
力ベクトルの
図2:力のつり合い
合計はゼロとなります。
この場合は,物体には力が働いて
いないのと同じです。
このように,物体に働いている 力ベクトルの和がゼロ となっている状況を
「力がつりあっている」
と言います。
[例題] ひも につながれた おもり
力のつり合いについて,図3のような例題を考えてみましょう。
ひも1
天井に
「ひも1」
と
「ひも2」
がそれぞれ40 と50 の角度で
40
50
つなぎ目
固定されています。
それらのひもは
「ひも3」
と
「つなぎ目」
で結ばれていて
ひも2
ひも3
その下には 5 kg の物体がぶらさがっています。P14で調べたように,物体には
5 kg
5[kg] × 9.8[m/s 2 ]=49[N]
図3:例題
の重力が働いています。
3本のひものつなぎ目に注目すると,図4のように, の
力が真下の方向に働いていることになります。
また,
つなぎ目
50 40
は
「ひも1」
の力 と
「ひも2」
の力 で斜めに引っ張ら
れていて,
+
+
=0
50
40
つなぎ目
のようにベクトルの和がゼロとなります。
ここで,
( の大きさ)+
( の大きさ) と ( の大きさ)
は異なることに注意しましょう。
図4:つなぎ目に働く力
「ひも1」
と
「ひも2」
に働いている力を調べるために,
図5:力の分解
図5のように力を分解してみます。
つまり,
=
+
=
+
というベクトルの関係が成り立っています。
したがって,
つなぎ目についての力のつり合いは
+ + =0
+
( の大きさ)
( の大きさ)

× sin 40
40
( の大きさ)
=0

× cos 40
ということになります。
このようにすると,
ベクトルの方向が同じなので,

× sin 50
50
( の大きさ)

× cos 50
図6:分解した力の大きさ
それぞれのベクトルの大きさでつり合いの条件を書くことができて
( の大きさ)+
( の大きさ)=
( の大きさ)
c
( の大きさ)=
( の大きさ)
θ
となります。
さらに,図6のように,分解した力の大きさは三角関数をつかって,
( の大きさ) =( の大きさ) × sin 40

( の大きさ) =( の大きさ) × cos 40

( の大きさ) =( の大きさ) × sin 50

( の大きさ) =( の大きさ)× cos 50
17

a
b
a
b
a
sinθ =
cosθ =
tanθ =
c
c
b
図7:三角関数
と表すことができます
(図7を参考にしてください)。
したがって,
( の大きさ)
× sin 40 +( の大きさ)× sin 50 =( の大きさ)
 

( の大きさ)× cos 40

=( の大きさ)× cos 50
cos 50 
( の大きさ) =
( の大きさ) ×
となります。下の式から となりますから,
これを上の式に代入すると

 cos 40
cos 50 
× sin 40 +( の大きさ)× sin 50  =( の大きさ)
( × の大きさ)
( の大きさ)
 
 cos 40
となりますから,
( の大きさ)
cos 50 
×
× sin 40  + sin 50 
cos 40 

=( の大きさ)
( の大きさ) =
( の大きさ)
であることが分かります。三角関数の数値は
なので, 
cos 50 = 0.64279
( の大きさ)

sin 50 = 0.76604
=0.76604
cos 40 
×




 cos 50 sin 40 + sin 50 cos 40

cos 40 = 0.76604

sin 40 = 0.64279
( の大きさ) =0.64279 ( の大きさ)
( の大きさ)
( の大きさ)= 49 [Ν]
となります。
ここで, でしたから
( の大きさ)
= 37.5 [Ν]
( の大きさ) = 31.5 [Ν]
がひもに働く力となります。
練習問題
1. 右図のように例題と角度が異なる場合について,
ひもに働く力をもとめなさい。




三角関数の値は cos 30 = 0.86603 sin 30 = 0.5 cos 20 = 0.93969 sin 20 = 0.34202
力のつり合いは左図のようになります。
例題とはひもの角度が違うだけなので,
30
20
つなぎ目
20 30
ひも1
ひも2
つなぎ目
ひも3
5 kg
計算の過程はそのまま使うことができます。
角度を 40 →20 ,50 →30 と変えることになります。
( の大きさ) =
( の大きさ)
( の大きさ) =
( の大きさ)
( の大きさ)
=1.2267
( の大きさ)
cos 30 
×

 cos 20
cos 20 
×




 cos 30 sin 20 + sin 30 cos 20
( の大きさ)
= 60.1 [Ν]
( の大きさ) =1.1305 ( の大きさ)
( の大きさ) = 55.4 [Ν]
ひもに働く力は,
おもりに働く重力より大きくなることに注目しましょう。
2. 右図のように,
角度60 の向きに張られた
「ひも1」
水平に張られた
「ひも2」
で10 kg のおもりを支える。
ひも1
ひもに働く力をもとめなさい。
60
つなぎ目
おもりに働く重力の大きさは 98 [N] であることに
ひも3
注意して,
10 kg
( の大きさ) = 113.2 [Ν]
( の大きさ) = 56.6 [Ν]
18
ひも2
60
[例題] 滑車
mg
滑車は人類が発明した様々な装置のなかでも重要なもののひとつだと
(a)
(b)
mg
mg
思います。「定滑車」と「動滑車」の組み合わせで,力の向きを変えたり,
力の大きさを変えたりすることができます。
m
m
図8(a)のように,「ふたつのおもり」を「ふたり」で支えることを
m
m
考えます。ひもが垂直方向を向いているなら,「ひとり」は
(c)
「ひとつのおもり」を支えればよいことになります。図8(b)のように,
mg
ひもの1本を天井に固定すると,ひもを持つ人は「ひとり」となります。
でも,「ふたり」で支えるのと変わりありませんから,支えている
動滑車
ひとの力は「ひとつのおもり」分でよいのです。図8(c)のように
m
ひものつなぎ目に工夫を施して車輪のようなものをつけると,おもりを
m
動かすことができるようになり便利です。この車輪のようなものを
定滑車
m
m
mg
図8:滑車の説明
動滑車と呼びます。さらに図8(d)のように天井に固定した
定滑車を使うとひもを下に引っ張ればよいのでさらに
(d)
(a)
(b)
(c)
(d)
便利です。
同じようなことをもっと多くの(重い)おもり
についても考えることができます。図9(a)は8個の
おもりを8人がささえています。つまり,「ひとり」
は「ひとつのおもり」を支えればよいことになります。
図9(b)のように4つの動滑車を使うとひもを支える
人数は半分となります。さらに,図9(c)のように
3つの定滑車を通してひもをつなぐと,ささえる
人は「ひとり」となります。
練習問題
図9:多数の滑車
8個のおもりの場合について,ひもの各部分,滑車などに
どのような力が働いているか,考えてみましょう。滑車の重さは考えなくてよいほど軽いとします。
ひもから
天井に働く力
滑車から
天井に働く力
天井から
滑車に働く力
ひもから
滑車に働く力
滑車から
ひもに働く力
天井から
ひもに働く力
上図をいくつかの部分に分けて,それぞれ
部分に働いている力を書き出すと右の図の
ようになります。各部分に働いている力の
滑車から
ひもに働く力
ひもから
滑車に働く力
つり合い(その1)が成立していることを
確かめておきましょう。
滑車からひもに働く力
人から
ひもに働く力
おもりが固定
されている棒から
滑車に働く力
ひもから滑車に働く力
のように,力を受けるものと,力を与えるもの
が入れ替わっている力の関係は,後述の
「作用・反作用の法則」を学習すると
滑車から
おもりが固定
されている
棒に働く力
分かりやすくなります。
19
おもりに働く重力
1.3.2 力のつり合い(その2)
力ベクトルの合計がゼロとなることが力のつり合いの条件であることを学習しました。
しかし,ここまでの話では物体の大きさについて考えていません。右の写真のような
天秤を例にしてみましょう。図10のように,
まっすぐな棒の左端に「ひとつの物体」
が,右端に「ふたつの物体」がぶら下げ
てあります。1個の物体に働く重力の
大きさを F と書くことにします。
(a)
したがって,
(b)
3F
2l
棒の左端には F,
l
3F
2l
l
棒の右端には 2F
支点
回転軸
の力が下向きに働いています。天秤棒
を使っても,使わなくても,3個の
F
F
支点
回転軸
2F
2F
おもりを支えなければならないので,
棒を支えている場所(写真ではおじさん
図10:力のつり合い(その1)が成立する天秤
の肩)には 上向きに 3Fの力 が働いて
いなければなりません。ところが,
「力ベクトルの合計がゼロになればよい」ということだけだと,図10の(a)でも(b)でもよいし,
支点がもっと別の場所であっても構わないことになってしまいます。実際は,みなさんも
よく知っているように(知らなければやってみましょう)
(a)は つり合う けれど (b)は つり合いません。
つまり,
力のつり合いの条件は 「ベクトルの合計がゼロ」というだけでは足りなくて,
物体の「どこ」に「どんな力」が働いているかということを考えなくてはなりません。
Archimedes
BC 287 - BC 212
Syracuse
天秤あるいは「てこ」を使うと右図のように,支点からの距離を
十分にとると小さな力で重たいものを動かすことができます。
古代ギリシャの賢人アルキメデスは
「私に支点を与えよ。そうすれば地球を動かしてみせよう。」
と言っています。
力のつり合いの条件(その2)は,
力のモーメント = (+かー)(力の大きさ)×(力が働いている場所から支点までの距離)
という量の合計がゼロになっていればよいことが知られてます。+かーの符号は,支点を中心として力が物体
(図10では棒)をどちら向きに回すかを表しています。時計の針がまわる向きを+とするならば,
右端のおもりの力(2F)の力のモーメントは+ 左端のおもりの力(F)の力のモーメントはー
ということになります。図10のふたつの場合について,力のモーメントは
(a)の場合
(b)の場合
左端のおもりの力(F)
−F × 2l
−F × l
支点に働くの力(3F)
3F × 0
3F × 0
右端のおもりの力(2F)
+2F × l
+2F × 2l
合計
0
注)力のモーメントはゼロなので符号はどちらでもよい
+3F × l
となっていて,図10(a)場合は力のモーメントの合計がゼロとなっていることが分かります。
20
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