...

女性の活躍推進 - 企業活力研究所

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

女性の活躍推進 - 企業活力研究所
提言
「女性の活躍推進」
~後進国から世界のトップランナーへ~
平成26年5月
女性が輝く社会のあり方研究会
提言「女性の活躍推進」~後進国から世界のトップランナーへ~
目次
提言のポイント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
前文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.基本的ビジョン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2.現状・課題
(1)企業における女性就労の問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(2)個人の意識の問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
3.具体的方策
(1)国、制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
(2)企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
(3)教育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
「女性が輝く社会のあり方研究会」委員名簿・・・・・・・・・・・・・29
「女性が輝く社会のあり方研究会」開催経緯・・・・・・・・・・・・・30
提言
「女性の活躍推進」
~後進国から世界のトップランナーへ~
【提言のポイント】
○問題意識
日本は現在も女性活躍の後進国。人材投資の無駄のみならず、海外からの持
続可能性に対する懸念にもつながっている。
女性活躍が政権の優先課題と位置づけられている今こそ、
「女性活躍の世界の
トップランナー」に躍り出るチャンス。一気に社会の「モデルチェンジ」を進
めるべき。
○目指すべき社会
・男女の区別なく、各々が「働くこと」及び「家庭参加すること」が当たり前
になる社会。
・ダイバーシティ経営が企業の競争力を高め、長時間労働が解消され、時間と
場所を自由に選べる柔軟な働き方や多様な家族のあり方が受容される社会。
○現状と課題
・性別役割分担意識がいまだ根強い中で、無限定な働き方を前提とする正社員
モデルに適応できる女性は少なく、育休・時短制度の普及が「マミートラック」
問題につながった。
・こうした中、若い女性でも「仕事(キャリア)か育児か」の二者択一の発想
に縛られ、学部選択における男女格差も依然として大きい。
○具体的方策
(国)
・子育てインフラの整備(保育サービスの量・質両面での拡充)
・ワークライフバランスのための長時間労働の是正、労働時間法制の見直し等
・女性就労を促進する方向での税・社会保障制度の抜本的な見直し
・女性活躍推進企業への後押し(目標設定・報告の義務づけ、見える化の促進
等)
・
「同一価値労働同一賃金」原則の推進、限定正社員の導入支援、主婦の再就職
支援、新たな家族モデルに関する意識啓発、女性へのキャリア教育及び男性へ
の家庭参画教育の推進 等
1
-1-
(企業)
・「経営戦略」としての女性活躍の推進
・両立支援と活躍支援のバランスのとれた推進
・早期育成(スタートダッシュ)による「“キャリア”と育児」の両立支援、晩
期育成も含めた年齢と仕事をリンクさせない社員育成
・管理職・役員への登用等女性の活躍に関する数値目標、透明・客観的な評価
の仕組み、長時間労働の是正のための働き方改革
(教育)
・理系女子の育成など幅広い分野での活躍推進
・大学教育における企業ニーズへの対応
・生涯働き続けることを前提とした、中高・大学・大学院でのキャリア教育の
再構築
・「男女がともに仕事と家庭と両立できる社会」の実現に向けた意識啓発
2
-2-
前文
少子高齢化の中で、多様な人材が持つポテンシャルを最大限発揮させること
は、我が国経済の持続的成長にとって最重要課題である。特に、これまで活か
しきれていなかった我が国最大の潜在力である「女性の活躍推進」は、労働力
人口の維持に寄与するという消極的な意味にとどまらず、企業のイノベーショ
ンを促進し、グローバルでの競争力強化に貢献するものとして重要である。
しかしながら、現状は、第一子出産を機に約 6 割の女性が離職し、子育て期
の 30 代で女性労働力率が低下する「M 字カーブ」は依然として残り、企業にお
ける役員や管理職に占める女性割合は、先進国の中で最低水準にとどまってい
る。
これは、教育水準が高く、大きなポテンシャルを有しながら、日本の女性が、
経済社会において活躍の機会を十分に与えられていないということであり、潜
在能力と活躍状況との間に大きな乖離があることは、教育投資が無駄になって
いるということでもある。
このような状況に対し、海外からも、日本経済の持続可能性に対する懸念と
して、厳しい目が向けられている。
男女共同参画が叫ばれて久しいが、何故これまで大きな進展が見られなかっ
たのか。雇用慣行や様々な社会の仕組みが、片働きを前提として有機的な一つ
のシステムを形成しており、局所的な対応ではシステム全体の「慣性」の力を
超えられず、摩擦や反発を受けて変革へのモメンタムを消耗し、なかなか大き
な成果につながらなかったと考えられる。
女性活躍推進は、我が国最大の「岩盤」を打ち砕く構造改革を要するもので
ある。日本が女性の力を活かせる社会に自己変革できるかどうかということは、
「少子高齢化を乗り超え、グローバル競争の中で勝ち残る」ための試金石とし
て、国際社会から注目されている。
こうした中、女性の活躍推進は、安倍政権における「成長戦略の中核」と位
置づけられ、昨年 6 月の「日本再興戦略」においても、また、本年年央の成長
戦略改定に向けた「成長戦略進化のための今後の検討方針」(本年 1 月)でも、
重要な柱として掲げられているところである。
こうした政権の方針が強力に打ち出されたことにより、社会的機運が高まり、
企業の本気度が増している今こそ、具体的な取組を加速化し、これまでの遅れ
を取り戻すとともに、一気に「女性活躍における世界のトップランナー」に躍
り出る絶好のチャンスである。今、日本経済は、多様な人材を活かせる土台を
作り、持続的成長軌道への復帰ができるかどうかの重要な「転換点」に立たさ
3
-3-
れている。この機を逃さずに、日本社会を「構造改革(モデルチェンジ)」する
ことは、「待ったなし」の喫緊の課題である。
こうした問題意識から、本研究会では、特にこれからの社会を担う若い世代
に対して、
「女性が輝く社会」のあり方の具体的なビジョンと、その実現のため
の道筋を示すことを目指し、集中的な議論を重ねてきた。
その結果、「女性が輝く社会」を実現するためにまず取り組むべきは、「片働
き」モデルの制度的象徴であり、性別役割分担意識の固定化にもつながってい
る税・社会保障制度(「103 万円のカベ」と言われる配偶者控除と、
「130 万円の
カベ」と言われる年金の第三号被保険者制度)を撤廃することである、との結
論に至った。これに対しては、
「内助の功を否定するもの」として大きな反発が
あること、ゆえに政治的に扱いが難しいことは想定した上で、過去の否定では
なく、社会の「進化」と捉え、これら最難関の「岩盤」に真正面から挑む「未
来志向」の提言として、発信していくこととした。
全ての女性の個別状況を満足させられるような制度設計は不可能であるが、
日本の将来を見据えた国家戦略を考える時には、まず最初のステップとしてこ
の制度改革は必要である。
以下、本研究会での議論の成果として、
「女性が輝く社会」のあり方を具体化
した「基本的ビジョン」を示し、
「現状と課題」を整理し、その実現に向けて国、
企業、教育機関等が具体的に取り組むべきことを提言する。
本提言が単なる提言にとどまっていては、大胆な改革はできない。本提言の
積極的な発信を通じて、国・企業・教育機関等による具体的な取組につなげて
いく事は提言策定と同様にきわめて重要なことである。具体的には、適切な時
期に本提言のフォローアップのための委員会を開催する事が望ましい。
4
-4-
1.基本的ビジョン:女性にとって、「働くこと」が当たり前になる社会
現状において、女性は「もっと仕事がしたい」と願い、男性は「もっと生活
を楽しみたい」と願っている。つまり、女性と男性は、逆方向の「理想と現実
のギャップ」を不満に思っている。
<図表1
仕事と生活の調和の希望と現実>
(出所)内閣府「男女共同参画社会の実現を目指して」(平成 23 年 3 月)
「女性にとって、「働くこと」、つまり、家庭だけにとどまらず、能力を発揮
して社会に貢献すること、が当たり前になる社会」とは、
「男性にとって、家庭
において、育児や介護に当事者として関わり、充実した“ライフ(個人の生活)”
を送れる社会」でもある。
つまり、男女が共に、仕事(キャリア形成)と個人の生活(育児や介護等)
を両立できる社会であり、男女ともに、
「理想の生き方」を実現できる社会、と
いうことである。
こうした社会は、日本経済の持続可能性の観点からも、個人の幸福度の観点
からも実現すべきものであり、同時に、以下のような社会でもある。
・ 職場においては、正規・非正規のカベが無く、恒常的な長時間労働が解
消され、
「時間や勤務場所などの働き方」ではなく「成果」で評価される
仕組みが整い、働く人がライフステージに応じて働き方を柔軟に選択し
ながら、高い意欲をもって成長できる社会。
・ 企業にとっては、より広い母集団の中から、男女問わずに優秀な人材を
確保し、多様な人材の活躍(「ダイバーシティ経営」)により、イノベー
5
-5-
・
・
ションを創出し、グローバルな市場で競争力を維持できる社会
個人にとっては、働き方や生き方、家族のあり方の多様性が受容され、
幅広い選択肢から自由に選べる社会であり、育児等でいったん離職して
も、再就職や起業など、セカンドチャンスが豊富に与えられる社会。
社会全体として「適材適所」が実現し、一人一人の強みが最大限発揮さ
れ、生産性向上を通じて持続的な経済成長を達成する社会。
このような社会は、夫婦が希望通り子どもを持つことができる社会でもあり、
出生率の向上を通じ、少子化に歯止めをかけることも期待される。
6
-6-
2.現状・課題
(1)企業における女性就労の問題
① 企業の競争力の問題
日本企業は、女性の役員・管理職比率が、先進国の中でも最低水準であり、
海外のビジネスパートナーや投資家等、様々なステークホルダーから、ダイバ
ーシティの欠如が今後の発展への阻害要因となり、グローバルなビジネス展開
の中で、競争力を維持できるのか疑問を持たれている1。
<図表2
50.0
45.0
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
管理職・役員に占める女性比率の国際比較>
管理的職業従事者
役員
<管理的職業従事者> 1.労働力調査(基本集計)(平成 24 年)(総務省)、データブック国際労働比
較 2012((独))労働政策研究・研修機構)より作成。2.日本は 2012 年、オーストラリアは 2008 年、そ
の他の国は 2010 年のデータ。3.「管理的職業従事者」とは、会社役員、企業の課長相当職以上、管
理的公務員等をいう。また、管理的職業従事者の定義は国によって異なる。4.総務省「労働力調査」
では、平成 24 年 1 月結果から、算出の基礎となる人口が 24 年国勢調査の確定人口に基づく推計人
口(新基準)に切り替えられている。<役員>米国の国際非営利団体「国際女性経営幹部協会」
(CWDI)『CWDI/IFC 2010 Report:Accelerating Board Diversity』2010 年に基づき、作成。
(参考)2014 年版「役員四季報」によれば、全上場企業における女性役員(取締役、監査役、執行役)
は、1.8%
1
世界経済フォーラム(ダボス会議)が発表した 2013 年「ジェンダー・ギャップ指数」で、
日本は 136 カ国中 105 位(前年 101 位から低下)。G7 中最低。高所得国 49 カ国中 42 位。
7
-7-
② 人事管理・マネジメントの問題
○「無限定」な働き方の問題
日本企業においては、従来、職務内容や勤務場所や労働時間に制限がないメ
ンバーシップ型(長時間労働、全国転勤を前提とした無限定正社員)が正規社
員の標準的なモデルとなっており、家庭責任の主な担い手となることの多い女
性にとっては、キャリア形成が困難となることも多かった。
企業によっては、
「女性は、いずれ結婚・出産して離職する(あるいはキャリ
アが中断する)から期待できない(だから、女性への育成投資は無駄である)。」
というステレオタイプ(いわゆる「統計的差別」)から、(事実上)男女の採用や
育成プロセスを異なるものとし、対等に機会が与えてこなかったところも少な
くなかったと言われている。
こうした状況の中、多くの女性は、結婚・出産前から仕事への意欲をなくし、
結婚・出産を機に離職をすることとなり、いわば「予言の自己成就」2とも言う
べき悪循環に陥った。
一方、キャリア志向の強い女性の中には、長時間労働をしたり、婚期を遅ら
せたり、または結婚・出産しないなどで、仕事に対する強いコミットメントを
示すことで、キャリアを形成した人もいた。こうして道を拓いたフロントラン
ナータイプの活躍は、
「女性が男性と同等の能力を持っていること」を示す上で
重要な役割を果たしたが、若い世代にとって魅力的なロールモデルとはなりに
くく、活躍する女性の裾野が広がらないという問題にもつながっている。
○育休・時短制度の普及に伴う問題
大企業に関しては、2000 年代に入り、育児休業や短時間勤務制度などが整備
され、出産後も継続して働く環境は整えられた。一方、全体の働き方改革が進
まないままにこうした両立支援制度のみが整備されたために、短時間勤務の長
期化等により、上司や周囲からの期待も下がり、新たな業務や難しい業務の経
験が得られず、本人の意欲も下がり、成長が止まってしまうという悪循環に陥
っているケースも見られる。
また、女性が、短時間勤務を続けることで、女性が一人で家庭責任を背負い、
夫は長時間勤務を続けることが可能となり、結果的に、性別役割分担を強化し
ているとの指摘もあった。
○非正規雇用の問題
2
最初の誤った認識に基づく行動がきっかけとなって、当初の誤った認識を実現させてし
まうこと
8
-8-
多くの日本企業において、男性正社員が長期メンバーシップ型雇用であった
のに対し、女性は、かつて、新卒採用から結婚までの短期的メンバーシップ(一
般職)であった。最近は、結婚後も仕事を続ける女性が増えたため、最初から
非正規社員として採用する企業が増える背景となっているとの指摘もあった。
こうした現状において、現実に家庭責任を担っているために「無限定」のコ
ミットがしにくい多数の女性にとって、
(特に出産後の)現実的な選択肢は非正
規雇用ということになるが、正規社員と非正規社員とでは、同じ業務をしてい
ても、処遇に大きな違いがあることが、女性の活躍を大きく阻害する要因とな
っている。
(2)個人の意識の問題
○社会における性別役割分担意識の問題
90年代には、片働き世帯と共働き世帯の数が逆転し、以来、共働き世帯が
増加しているが、共働き世帯の中で、夫婦ともに週 35 時間以上の雇用者である
割合は25%強程度とほとんど変化していない3。つまり、共働き世帯の増加は、
妻が正社員ではなく、パートタイムで働く世帯の増加がもたらしたものであり、
主として夫が家計を支える世帯が大半を占めている状況に変わりはない。
<図表3
共働き等世帯数の推移>
(出所)内閣府
3
男女共同参画白書(平成25年版)
労働力調査によると、1990 年は、27.8%、2000 年は、25.8%、2013 年は 25.4%
9
-9-
夫の中には、妻がパートに出ることについて、
「趣味の一環」とか「社会勉強」
と捉えて、一人前の労働力として認識せず、
「家事、育児をおろそかにしない程
度で」という前提であるため、夫自らが家事労働を分担しようとはしないもの
も少なくないと言われる。
こうした背景から、日本の男性は欧米の男性と比べて、育児時間は2分の1
程度だが、家事時間は、約5分の1~6分の1と極端に短く、家庭参加が進ん
でいない。
<図表4
6 歳未満児のいる夫の家事・育児関連時間(1 日当たり)>
(出所)内閣府
男女共同参画白書(平成22年版)
このように、
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という性別役割分
担意識が根強く残る背景には、税制上の配偶者控除や年金・健康保険における
第三号被保険者制度を始め、女性が専業主婦となることへの誘導、あるいは就
労を一定限度内に抑制するような社会制度があり、意識を固定化する方向に働
いていると考えられる。
○女性自身の意識の問題
最近、女子学生や若い女性社員の多くは、均等法世代が仕事と家庭の両立に
苦労している姿を見て、かえって、子育てと仕事(キャリア)の両立は難しい
10
-10-
という「二者択一」的なあきらめ感を持っていることが指摘された。
自分の母親の専業主婦としての生き方が身近なロールモデルとして強く影響
していることや、就職活動の厳しさも相まって、女子学生の専業主婦志向は高
まっていると言われている。他方、若い男性側は、妻が働き続けた方が経済的
に得だという意識が広まっており、
「専業主婦志向の女性は婚活市場で敬遠され
がち」とも言われており、イクメンを生む土壌はできつつあるとの見方もある。
○学部選択における偏りの問題
4年制大学に進学する女子学生の人数は、増加しているものの、人文科学・
社会科学分野に比べ、理系分野の伸びは小さい。また、近年は理系の中でも、
薬学・看護学の割合が増加し、理学・工学部の割合は減少傾向にある。
理系選択には、ハイレベルな研究者を目指すというイメージが根強く、あき
らめてしまったり、「女性が理系に行くと職がない」との思い込みや、「受験難
易度が高い」、「学費が高い」などの事情から、保護者や教師が文系選択へ誘導
することも多いと言われ、適性に合った進路選択を歪めていることは問題であ
る。
<図表5 専攻分野別学生数>
男性
800,000
女性
350,000
300,000
250,000
200,000
150,000
100,000
50,000
0
700,000
昭和50年
600,000
昭和60年
500,000
平成7年
400,000
平成17年
300,000
平成24年
200,000
100,000
人文科学
社会科学
理学
工学
農学
医学・歯学
薬学・看護学等
家政
教育
芸術
その他
人文科学
社会科学
理学
工学
農学
医学・歯学
薬学・看護学等
家政
教育
芸術
その他
0
(備考)文部科学省「学校基本調査」より作成
11
-11-
<図表6
女性
専攻分野別学生分布(大学学部)の推移:全学部>
0%
20%
40%
60%
80%
100%
昭和50年
昭和60年
平成7年
平成17年
平成24年
人文科学
社会科学
理学
工学
農学
医学・歯学
薬学・看護学等
家政
教育
芸術
その他
男性
0%
20%
40%
60%
80%
昭和50年
昭和60年
平成7年
平成17年
平成24年
人文科学
社会科学
理学
工学
農学
医学・歯学
薬学・看護学等
家政
教育
芸術
その他
(備考)文部科学省「学校基本調査」より作成
12
-12-
100%
3.具体的方策
(1)国、制度
①子育てインフラの整備
保育所・学童保育の待機児童問題は、出産後の就業継続の最大のカベとも言
われる。
女性活躍のみならず、少子化対策の観点からも、
「育児かキャリアか」の二者
択一ではなく、出産・育児による機会コストを下げ、安心して出産できる環境
を整えるために、質・量両面で充実した、子育てのための社会インフラの整備
を進めることが必要。
待機児童の解消は大前提であり、希望通りの期間、育児休業を取得しつつ、
キャリアプランを立てやすいよう、年度途中でもいつでも入所できるようにす
ることが重要である。都市部で深刻な保育士不足問題に対応するため、保育士
試験の実施回数を増やしたり、試験内容をより実践的なものにすることで、主
婦の再就職の受け皿とする、といったことが必要である。また、質の面では、
開所時間や幼児教育等の付加価値サービスなど、保護者の多様なニーズに対応
するため、株式会社等の多様な主体の参入を促進していくべきである。
② ワークライフバランスの推進
職場におけるワークライフバランスの推進は、社会における子育て支援と、
車の両輪として強力に進めるべきである。
育児等のため時間制約のある女性にとっては、時間ではなく成果で評価する
仕組みの方がハンデが少なく、パフォーマンスを上げやすい。
また、保育園の行事等で早退した後、子供を寝かしつけてから、残った仕事
を片付けたいというニーズは大きく、「21:00 以降がワーキングマザーのゴール
デンアワー」4とも言われている。
これに対し、現行の労働基準法では、夜 22:00 から早朝 5:00 までの間は、前
述のような本人都合による場合も含め、一律に割増賃金の支払い義務が生じる
ため、こうした「家庭の事情に合わせて、社員が働く“時間帯”を選べる自由」
が阻害されている面がある。
こうした問題を解消し、能力と意欲のある女性が、時間制約を乗り越え、育
児期にも業績を上げ、キャリア形成できるようにするためには、業務の性格や
4
博報堂リーママプロジェクト代表田中和子氏が、2014 年 3 月 28 日「輝く女性応援会議」
におけるプレゼン・配布資料の中で紹介。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/woman/dai1/siryou1.pdf
13
-13-
本人の希望に応じ、時間ではなく成果で測る仕組み、つまり、
「(社員が)時間と
場所を自由に選べる」仕組みが導入しやすいよう、業務遂行を自律的に行える
一定の層については、深夜割増規制の適用除外等、労働法制を見直すとともに、
過度な長時間労働、深夜労働とならないように、労働時間のインターバル規制
等の一定の歯止めも必要である。
③ 共働きを前提とした社会制度へ
女性の就労に対して抑制的に働いている現行の税制・社会保障制度について
は、女性の就労を促進するインセンティブとする方向で見直し、再設計すべき
である。
(配偶者控除)
既婚女性の所得分布をみると、年間の100万円付近に集中しており、配偶
者控除の限度額(103万円)にあわせて就労調整をしていることが要因と考
えられている。
<図表7 既婚女性の給与所得者の所得分布(年代別)>
100 万
100 万
100 万
100 万
(出所)男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会報告書「第1部 女性が活躍できる経済社会の構築に向けて」(2012
年 2 月)
14
-14-
配偶者控除については、以前より、女性の就労に対する抑制効果が指摘され、
男女共同参画の立場から、その廃止が求められてきたが、イデオロギーや価値
観に基づく議論に陥り、国民的なコンセンサスが得られていない。
女性の活躍推進を「成長戦略」として位置づけるのであれば、女性の就労を
促進する方向で、制度を見直すべきである。配偶者特別控除により、夫の年収
が 1000 万円以下の場合については、妻の収入が増えることにより世帯収入が減
るという意味での「カベ」
(収入の逆転現象)は解消されているが、以下のよう
な問題がある。
・そもそも妻の収入が 103 万円未満の世帯を制度的に優遇するものであり、
女性の就労に対して抑制的に働くこと。
・妻の収入が 103 万円の時に、夫婦二人で3人分の基礎控除が受けられて不
合理であること(「二重控除」の問題)
・
「内助の功」を評価する制度であり、妻は「夫の扶養の範囲内で働くのがよ
い」という心理的なカベの形成につながっている面があること。
・実際には、高収入の男性と結婚した妻が優遇される逆進的な制度であるこ
と5。
なお、世帯単位課税のN分N乗方式については、現行以上にフルタイム共働
き世帯に不利な制度であること、少子化対策としての効果も、夫が高収入の家
庭(特に妻が専業主婦の場合)に限られることに留意が必要である。
(第三号被保険者制度)
現行の社会保障制度においては、法人正社員等を夫に持つ女性にとっては、収
入が一定額(130 万円)以下の場合には扶養を受けているとみなされ、社会保険
料負担が生じない一方、収入がこの金額を超えると、収入全体について社会保
険料負担が生じる制度となっている。この結果、妻の収入の増加が世帯の可処
分所得の減少をもたらす制度上の「カベ」
(世帯収入の逆転現象)が生じている。
こうした「130 万円のカベ」は、企業側にも、社会保障の使用者負担が避けら
れるというメリットを与え、非正規社員やパートタイマーを低賃金で使うこと
へのインセンティブを制度的に与えている側面もある。
5
具体的には、所得税の税率が40%の人は、配偶者控除額38万円の40%の15万2
000円の経済便益を受けるが、5%の人は1万9000円。所得が低く、非課税の場合
は、控除の恩恵はゼロとなり、妻の家庭内での貢献に対する評価が、夫の所得によって変
わることになり、合理性がないという意見もある。
15
-15-
<図表8
パートタイム労働者の労働時間と時給>
(前年同月比)
(%)
(%)
12 月:
+0.7%
12 月:
▲1.0%
(出所)毎月勤労統計(厚生労働省)
※時給は、所定内給与を所定内労働時間で除して計算。
※※3か月移動平均の前年同月比。
この問題に関しては、年金機能強化法により、平成 28 年 10 月から厚生年金・
健康保険の適用拡大を実施することとされている。また、社会保障プログラム
法において、更なる適用拡大が検討課題とされているが、適用拡大が不完全な
場合には、新たな「壁」を生じさせることとなり、女性の就労促進の観点から
本質的な問題の解消にはつながらないため、雇用所得があるすべての配偶者に
ついて、第二号被保険者として、収入に応じて保険料を徴収することが考えら
れる。
これにより、保険料負担が発生することとなるが、将来の年金給付が増えるよ
うな設計とすることで、理解を得るように努める。なお、企業側も、事業主負
担を負うことになるが、130万円以下のパート従業員を使うインセンティブ
をなくし、少子高齢化の中で労働力を適正に確保するという観点から、非正規
雇用対策としても有効と考える。
さらに、将来的には、自営業者の配偶者や独身女性との公平性の観点も踏ま
え、第三号被保険者制度そのものの是非を含め、年金・健康保険制度全体につ
いて抜本的な改革を検討すべきである。
また、現在130万以下に就業調整している世帯が多いことに対しては、就
16
-16-
業調整を外した場合の社会保険料の負担増と将来の年金給付の増加も含めた生
涯収入の試算を示す等、啓発活動を積極的にすべきである。
(配偶者手当)
制度面のみならず、企業慣行として、103 万円や 130 万円など一定の収入以下
の配偶者を持つ従業員に対し、手当を支給する事例も多く、女性の就労を抑制
する要因となっていると考えられる。
政府としては、公務員から率先して、扶養手当の支給の在り方を見直し、女性
の就労促進及び子育て支援の観点から、配偶者手当を廃止し、その財源を子ど
もの扶養手当の引き上げに充てる方向で検討を進めるべきである。
④ 女性活躍推進企業に対する後押し
企業に対して、女性管理職比率等に関して、クォータ制を義務づける等の強
制的な措置をとることについては、「政・官が先ではないか」「経営の自由が阻
害される」といった経済界の反発も強いことから、現実的な対応として、例え
ば、企業に対して、女性登用に関する数値目標を設定し、進捗状況(登用実績)
の報告を義務づけ、これを公表する等、ゴール・アンド・タイムテーブル方式
のゆるやかなポジティブアクションの導入を促進すべきである。
(見える化)
企業における女性活躍状況の見える化(情報開示)を実効的に進めるため、
役員・管理職への女性の登用状況について、有価証券報告書や金融商品取引所
におけるコーポレートガバナンス報告書での記載を義務づけることが必要であ
る。
あわせて、ESG投資(社会的責任投資)が欧米では主流になりつつあり6、
これらの情報開示が進まなければ、資金調達にも支障を来すリスクがあること
を経営者に伝えていく必要がある。
女性の能力発揮を進めるためには、両立支援と活躍支援の両輪が必要である
が、企業の取組が、両立支援の充実に偏っている面があることから、
「くるみん
マーク」だけでなく、女性の活躍状況を認定する仕組み(例えば「きらきらマ
ーク」)を作るなど7、両立支援と活躍支援をバランスよく進めていくことが重要
である。
6
社会的責任投資市場シェアは、欧州49%、米国11.2%、日本0.2%(Global
Sustainable Investment Alliance 2012 Global Sustainable Investment Review)
7
経済産業研究所 ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究プロジェクト
RIETI ディスカッション・ペーパー「組織の情報化と女性活躍推進」(牛尾奈緒美、志村
光太郎)
17
-17-
(取組に対するインセンティブ)
企業における女性の登用促進に向けた取組に対してインセンティブを与える
ため、公共調達や補助金における女性活躍推進企業への優遇措置を設けること
を検討すべきである。
また、女性活躍推進の経営効果ついて、データを示して、啓発していくこと
が必要である。例えば、離職率低下による採用や育成のコストを削減できる効
果を試算して示していくことは有効と思われる。
⑤ 「同一価値労働同一賃金」原則の推進
正規社員と非正規社員の処遇の格差に関し、職能給を基本とする企業が多数
を占める現状においては、まず、客観的理由のない不利益取り扱いの禁止を徹
底すべきである。
さらに将来的には、
「同一価値労働同一賃金」の原則に基づき、企業において、
職務内容等の明確化、客観的な評価法の確立等透明な処遇ルールを徹底させる
ことが必要である。国はその好事例を集め、普及させていくことが有効である。
また、正規から非正規、非正規から正規へという就業階層性の流動化を図る
必要がある。最近、非正規から正規への転換を行う企業の事例が目立つように
なっているが、一般には、非正規から正規への転換は企業にとってリスクが大
きいとも言われる。そのため、非正規から正規への転換を促進するためには、
国は、正規に転換するために必要な経験や専門的能力に関する業界共通の評価
基準・査定軸を設定するよう要請する等、積極的な関与を行うことを検討すべ
きである。
⑥ 限定正社員の導入支援
多様な働き方を推進するため、男女ともに、職種や時間、勤務地を限定して
働く限定型の正社員モデル(「普通の働き方」のモデル)を作っていくことが重
要と考えられる。
ただし、無限定正社員が上とする意識ができてしまうのではないかという点
や、無限定正社員が男性、限定正社員が女性ということに固定化するのではな
いかという点が懸念される。加えて、限定正社員の導入によりワークライフバ
ランスを実現しようとすれば、従来の無限定型正社員における長時間労働は改
善されないことも課題として残るなど、限定正社員を普及・定着させる上で、
こうした点に配慮した議論が必要である。
⑦ 主婦の再就職支援
第一子出産時に約6割の女性が離職している現状においては、主婦の再就職
18
-18-
を支援していくことも重要である。新卒一括採用を基本とする大企業に対し、
再雇用制度の導入を促進する一方、ブランクのある主婦の雇用にリスクを感じ
る中小企業に対しては、大学等での学び直しやインターンシップ事業8等を通じ
た支援が有効である。
<コラム
日本女子大学
~女性のための再就職支援プログラム~>
「日本女子大学リカレント教育課程」は、大学卒業後に就職しても育児や進路変更
などで離職した女性に1年間(2学期)のキャリア教育を通して、高い技能・知識と働く
自信・責任感を養い、再就職を支援するプログラムである。
第1の「再教育」課程では、グローバル化したビジネス界での即戦力となる
スキルとして 1 年間のキャリア教育を行っている。英語やITリテラシー、金
融、企業会計、内部監査などのビジネス性に特化した独自の科目を提供する他、
学部の授業も履修できる。
第2の「再就職」課程では、再就職を目指したいという女性に向けて、独自
の合同会社説明会実施・求人 Web サイト開設、その他就職に関するイベントの
開催などの支援事業を行うとともに、受講生・修了生一人ひとりに対するきめ
細やかな支援も実施している。
⑧ 意識啓発
30 代の夫婦で、家事・育児を50:50で分担し、楽しく家庭参加している
ケースは増えつつある。こうした新たなスタイルの家族を社会として支援する
とともに、こうした家族のリアルな姿を魅力的なロールモデルとして積極的に
発信することで、若い世代の意識を変えていく努力を行うべきである。
⑨ キャリア教育の推進
各高校・大学にキャリア教育の専任を配置する等、政府主導で、学校現場に
おけるキャリア教育の実施のための体制強化を図るべき。
また、現行では、インターンシップを採用につなげられない等の問題がある
が、大学の単位に入れられるようにする等、インターンシップの普及を促進す
るべきである。
8
中小企業庁「中小企業新戦力発掘プロジェクト」
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/jinzai.htm
19
-19-
(2)企業
① 経営戦略としての女性活躍推進
かつて日本企業は、総合職/一般職のコース別人事制度の下、女性には人材
育成の投資を控え、補助的な労働者として使うなどの男女間格差を、
「経済合理
性あり」として容認していた。これに対して、専門家からは「統計的差別であ
り、女性の離職は“預言の自己成就”である」との指摘もあり、新しい時代に
合わせて、女性の活躍推進を図っていく必要がある。
日本の外でビジネスをしていく上で、新しい柔軟な発想が非常に重要である
ことを認識し、これまで企業を動かしてきた男性中心の社会で重視されてきた
視点とは異なる視点を経営に生かすことが必要であり、女性を含む多様な人材
の活用が不可欠となっている。
具体的には、ダイバーシティを進めることを経営トップがコミットすること
が重要である。そして、経営戦略に沿った人材育成計画を行うこと、権限をも
って進めていく組織を設置すること等が必要である。中間管理職が、ダイバー
シティの意義を理解せず、現場まで浸透しないことを避けるためには、中間管
理職の評価項目の中にダイバーシティに対しての貢献を入れるなど、確実に実
行される仕組みを作る必要がある。
また、これまで活躍してきた男性の育成モデルが女性には適合しない部分も
多いことから、新しい時代における多様な社員の育成モデルのあり方を検討す
べきである。
②人事管理・マネジメントの改善
○両立支援と活躍支援のバランス
企業は、仕事と生活の両立支援のための環境整備だけでなく、女性の育成や
登用などの活躍支援にも重点を置き、この二つの施策をバランスよく進めるこ
とが重要である。女性の管理職登用を進めるための具体的な取組の推進やその
結果としての数値目標の設定、時間当たり生産性で評価するなど透明な評価制
度を徹底することが求められる。
両立支援については、時間制約のある社員に対して長期にわたる短時間勤務
を認めるなど、
「仕事を減らす」方向での過剰な配慮ではなく、フレックス勤務
やテレワーク(在宅勤務)等による柔軟な働き方を可能とすることで、時間制
約によるハンデを減らし、育児中でもパフォーマンスを上げやすい環境を作る
ことが重要である。
また、企業が全体の働き方改革を進めずに育児休業や短時間勤務などの手厚
い両立支援を導入することにより、女性の両立支援への依存を高めて、家庭内
20
-20-
の性別役割分担を強化することにつながることを認識し、女性のためだけでは
なく、社員全員の働き方の改革、支援のあり方を設計・導入すべきである。
また、多くの企業では、育児中の女性にとって海外転勤は難しいと考えてい
るが、途上国ではベビーシッターやメイドを使って、両立はかえって容易とな
るという例もあり、国内においても、ベビーシッターやハウスクリーニングな
ど家事・育児支援サービスを利用したアウトソースを支援する形での両立も奨
励すべきである。
○早期育成の重要性
企業にとって、女性社員の結婚・出産後の離職やキャリアダウンは、人材投
資の無駄遣いということになる。
入社後数年の初期キャリアの段階で、仕事の面白さを実感できる経験が、子
育て期に両立の苦労を乗り越える原動力となるので、女性にとって、集中的な
早期育成(スタートダッシュ)は特に重要である。
一方、出産後に一旦ペースダウンしても、子育て期が終わった後の「晩期育
成」の可能性を追求していくことも重要であることや、女性の早期育成を強調
しすぎると、キャリア志向が高くない「普通」の女性は就職自体を敬遠してし
まう懸念があるので留意すべきとの指摘もあった。
<コラム リクルートワークス研究所の提言>
2013年11月、人と組織に関する研究機関・リクルートワークス研究所は、
提言書「提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」を発表した。大卒で新
卒入社の女性を10年後、15年後に管理職・リーダーにするためには、企業
の人事管理をどう改善すべきかという点に焦点をあて、女性のキャリアは、年
齢との競争であり、課題は「スピード」と「育児期間中にも仕事で成長できる
仕組み」が大切だとしている。(参考資料に提言サマリー)
○育成等の結果指標としての数値目標の設定
大企業における女性管理職比率は、国際的にも最低水準であり、10%程度
になるまでは、何らかの数値目標の設定及びその達成に向けたポジティブアク
ションの実施は有効であると考えられる。ただし、管理職比率は、採用から育
成といった一連の雇用管理において着実な取組を進めた結果指標として重要で
あることに鑑み、数値目標のみが注目されることのないよう、雇用管理の各ス
テージにおける取組を総合的に実施することの重要性を認識して設定すること
が重要である。
21
-21-
○評価の透明性の確保
家庭の事情により時間制約を抱えやすい女性が活躍するには、時間当たり生
産性で評価するなど、評価方法を客観的なものとし、それを透明化することで、
評価結果の納得性を高めることが重要である。
そのような評価方法の確立は、多くの企業にとって難しい課題となっている
ため、好事例を集め、共有していく必要がある。
○長時間労働の是正を含む働き方の見直し
恒常的な長時間労働の是正を進めることは、男女が共に仕事(キャリア形成)
と家庭(育児や介護)を両立できる社会を実現する上で不可欠である。
労働時間の短縮は、従来より重要性が叫ばれつつ、進んでこなかったもので
あるが、効率的に働くことは、個人にとっても自分の時間が創出でき、また組
織にとってもメリットが大きい。
労働時間の短縮は、様々なマネジメントの工夫により可能となっている事例
も多い。例えば、会議時間の設定や開催方法を効率化する、時間外の顧客対応
はチーム制で対応する、定型化できる仕事を切り出して他のメンバーに割り振
る、などの工夫が可能である。また、残業は「必要」から生じているのではな
く、「習慣」で行っていることが多いことも認識すべきである。
また、社員の業績を、時間ではなく成果で評価する仕組みを導入し、時間当
たり生産性を上げるという意識に変えていくことも重要である。
<コラム アデコの取組>
総合人事・人財サービス企業の株式会社アデコでは、2013年10月から、
社員の業績評価は、
「時間」ではなく「成果」で行うということを明確にすると
いうパラダイムチェンジを図り、残業を削減する取り組みを行っている。
そのためには、まず、個人の業務の目標設定を見直し、業務の「成果」が明確
になるようにした。その上で、社員間の公平性を図るため、残業代も含めた年
収と「成果」を比較し、同じ「成果」に対して、残業代の多寡によって年収が
異なっていれば、基本給の見直しや変動賞与の調整をして、対応している。こ
うして、残業時間ではなく、
「成果」を報酬に反映することにより、短時間で効
率を上げてアウトプットを上げようという意識が高まっていく循環を作ってい
る。
22
-22-
(3)教育
①理系女子の育成など、幅広い分野での活躍推進
技術系の企業を中心に、理工系(特に機械・電気工学系)の女性人材へのニ
ーズは大きい。一方、医学部・薬学部等を除き、女性の理工系学部への進学は
低調であり、需給ギャップが拡大しつつある。
その背景には、男女問わず理系離れが進んでいることもあり、理系の育成が
重要である。スーパーサイエンスハイスクールなどを通じて、高校と大学の連
携が始まっているが、大学提供のアドバンストな授業の単位は、大学入学後の
単位に入れるだけでなく、高校の卒業単位として、認めることでより普及して
いくと思われる。一方、理系選択に迷いがある層に関しては、中等教育の段階
で理系・文系に振り分けるのではなく、大学入学後でも文系・理系の選択が可
能となるような入試のシステムを考える必要がある。
理系の進学は、研究者育成のイメージが強いが、それ以外にも、企業の技術
者など多様な進路があることを認識させて、理系進学者のすそ野を広げること
が必要である。また、さまざまな場所・ステージで活躍する理系女性のモデル
を見せることで、女性の特性を生かした理系の研究分野が多様であることを示
していくことも重要である。
こうした観点から、例えば、東北大学では、
「サイエンスエンジェル」として、
自然科学系各部局の女子大学院生を身近なロールモデルとして、高校に派遣し、
出張セミナーを行ったり、科学館等での科学イベント活動に参加をしている。
日本は 15 歳段階の数学能力は男女差が非常に少ない9にもかかわらず、理系の
大学入試の合格者では、男女のバランスを著しく欠いている現状においては、
入試に女性枠を設けるなど、バランス回復のための暫定的な特別な枠組みを検
討してはどうか。
また、女性研究者の育成については、女性の研究者の多くは任期付であり、
研究者としてキャリアを確立しなければならない時期に、育児期が重なり、家
庭との両立が大変難しいので、国としての研究支援は重要であり、継続・拡充
すべき。女性研究者には様々な階級でグラスシーリングのようなものがあり、
どんどん数が減っていくと言われている。その見えない壁を分析し、除去して
いくことが重要である。
PISA(Programme for International Student Assessment OECD 国際的な学
習到達度に関する調査)の結果
9
23
-23-
② 大学教育における企業が求める人材像への対応
女性リーダーの育成は、教育の中で本格的に取り組むべきであり、その育成
プログラムを作る際は、企業が必要とする人材という観点を入れるべきである。
例えば、高校や大学での IT 関連の授業が学生の興味を喚起せず、将来の職業
選択に関してマイナスとなっている場合もあるとの指摘もあった。専門的な分
野においても、企業の意見を取り入れてカリキュラムを作成するなど連携が必
要である。
入試制度についても、改善すべき点は多い。イギリスの大学進学では、学部
と直接関係のない科目の成績も考慮するなど、多様な人材の入学を可能として
いる。現状では、入試は基本的に科目の点数だけで決まるが、多様な人材発掘
という観点から、大学入試をよりフレキシブルな内容にすることも必要ではな
いか。
③働く意欲を持てるようなキャリア教育の充実
学生には、子育てと仕事の両立は難しいという刷り込みがあり、
(結婚・出産
後は)そもそも働き続けるつもりがないという学生も多い。
働く意欲を高めるためのキャリア教育の必要性は、認識されて久しいが、未
だ十分に普及していない。その背景には、高校では進路指導の教諭が、大学で
は就職課が、キャリア教育を担当していることが多く、目先の進学実績や進路
実績の向上を目指すことに重点が置かれがちであるため、長期的な取組が必要
なキャリア教育には力が入りにくいこと、また、採用に直結しない高校生や大
学低学年の学生への教育には、企業の協力が得られにくいことがあるとの指摘
があった。
こうした中、高校生や大学1,2年生の段階から、将来のキャリアについて
考え、働く意欲を持たせるために、企業で働いている等身大のロールモデルと
直接会わせ、対話させる機会を作ることは有効であり、こうした取組のさらな
る展開が期待される。
また、大学でのリーダーシップ教育、大学院における産休・育休中の学び直
し(リカレントプログラム)等の取り組みも重要である。
24
-24-
<コラム マイナビ「MY FUTURE CAMPUS」の取組>
株式会社マイナビでは、2013年4月から、高校生から大学1,2年生を
対象にした「MY FUTURE CAMPUS」というキャリア教育の会員制プログラムを
実施している。大多数の女子学生は、「結婚=キャリアを止める」「出産=仕事
を辞める」という認識をまだまだ持っており、進路や就職先を限定的に捉えて
選択してしまっているケースも多い。そのため、就職活動に入るより前の段階
で、広い視野でキャリアを捉えてもらうことを目的に、企業で活躍している女
性社員を等身大のロールモデルとして紹介し、生身の対話を行うことを重視し
ている。
2013年8月には、経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」選定
企業とのコラボで、女性のキャリアのきっかけをサポートする一日イベント
「Girls 1 Day」を開催し、340 人の女子高生、女子大生が参加した。また 2014
年 3 月には理系女子に特化した「理系女子の選択とキャリア」を開催し、193 名
の理系進学希望の女子中高生、理系女子大生が参加した。
④「男女がともに仕事と家庭を両立できる社会」の実現に向けた意識啓発
伝統的な性別役割分担意識を解消するため、女性も仕事を続け、社会に貢献
し、男性も家事・育児を分担する「新しい家族のあり方」について、初等教育
の段階から教育を行うことが重要である。
女性が結婚すれば、夫に養ってもらえるという時代は終わり、現在の経済環
境を踏まえれば、そうした生き方はリスクの高いものであること、自分の将来
の幸せのためにも、経済的に自立することが重要であることを伝えていく必要
がある。また、専業主婦志向の女子学生には、仕事を続ける生き方について、
手の届かないスーパーロールモデルではなく、等身大の「普通」のモデルを見
せることも有効である。
また、妊娠適齢期に関しても、必要な知識を持った上で、ライフプランを自
ら選びとっていけるよう、学生時代から専門家による教育を受ける機会を作る
ことが重要である。
25
-25-
<コラム 「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」>
国立成育医療研究センター 不妊心療科 齊藤英和医長と少子化ジャーナリ
スト、相模女子大客員教授の白河桃子氏は、働きながら産み育てる女子とその
パートナーを育成するため、妊活(「産むと働く」のライフプランニング)講座
(http://www.facebook.com/#!/goninkatsu)を東大、慶応、早稲田、昭和女子
大、大妻女子大等で、ボランティア事業として行っている。男女ともに同じ講
義をし、
「妊娠適齢期や卵子、不妊などについての医学的な事実」と「仕事と出
産、子育ての両立ができるキャリアプラン」について啓発している。
対面講義だけでなく、無料オンライン講座「産むと働くの授業」
http://www.youtube.com/user/goninkatsu を Youtube 上に設置し、場所と時間
に関係なく、講義を受けられるようにもなっている。
26
-26-
(参考資料)
<図表9
女性の年齢階級別労働力率(国際比較)>
(出所 男女共同参画白書(平成 23 年版))
<図表10
子どもの出生年別、第1子出産前後の妻の就業経歴>
(出所)男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会報告書(2012 年 2 月)
27
-27-
<図表11
リクルートワークス提言サマリー
28
-28-
(P21 参照)>
「女性が輝く社会のあり方研究会」委員名簿
委員長
水田 宗子
学校法人城西大学理事長
特別顧問
松 あきら
元参議院議員 元経済産業副大臣
委員
牛尾 奈緒美
大久保 幸夫
明治大学情報コミュニケーション学部教授
株式会社リクルートホールディングス専門役員
リクルートワークス研究所所長
日本女子大学人間社会学部現代社会学科教授
アデコ株式会社代表取締役社長
実践女子大学人間社会学部現代社会学科教授
認定 NPO 法人フローレンス代表理事
少子化ジャーナリスト 相模女子大客員教授
エーザイ株式会社執行役員
法政大学キャリアデザイン学部教授
日経BP社「日経マネー」副編集長
(元日経WOMAN編集長)
(2014年4月より、
淑徳大学 人文学部表現学科長・教授)
マイナビ教育広報事業本部事業推進部
キャリアデザイン推進課課長
中央大学文学部教授
大沢
奥村
鹿嶋
駒崎
白河
鈴木
武石
野村
真知子
真介
敬
弘樹
桃子
蘭美
恵美子
浩子
羽田 啓一郎
山田 昌弘
事務局:(一財)企業活力研究所
オブザーバー:経済産業省
-29-
「女性が輝く社会のあり方研究会」 開催経緯
(★:ゲストスピーカー)
第一回(2013 年 9 月 30 日)
○各委員自己紹介(「女性活躍」に関する問題意識等)
○経済産業省より「現状と政府の取組」のご紹介
○今後の進め方(議論)
第二回(2013 年 10 月 30 日)
○「女性活躍」の現状と課題(全体像、諸外国の取組等)
・鹿嶋敬 実践女子大学人間社会学部現代社会学科教授
・野村浩子 日経BP社「日経マネー」副編集長
★パク・スックチャ アパショナータ代表(ワークライフバランス・コンサル
タント)
★濱口桂一郎 独立行政法人労働政策研究・研修機構 労使関係部門 統括研究員
第三回(2013 年 12 月 5 日)
○企業における女性就労を巡る現状と課題
・大久保幸夫 リクルートワークス研究所所長
・武石恵美子 法政大学キャリアデザイン学部教授
第四回(2014 年 1 月 16 日)
○女性のキャリア
★小林いずみ ANAホールディングス(株)取締役(元世界銀行多国間投資
保証機関(MIGA)長官))
★小谷元子 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 機構長・教授 理学博士
第五回(2014 年 2 月 26 日)
○キャリア教育のあり方
・白河桃子 少子化ジャーナリスト、東京女子大学非常勤講師
(田中和子 博報堂 リーママプロジェクトリーダー)
○個人の意識・働き方に中立的な社会保障・税制度
★森信茂樹 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員
第六回(2014 年 3 月 26 日)
○提言(全体とりまとめ)について議論
30
-30-
Fly UP