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建築の三権分立 - 国民生活センター

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建築の三権分立 - 国民生活センター
新連載
住まい の
基 礎 知 識
第
1
回
―トラブルを未然に防ぐために―
河合 敏男
Kawai Toshio
弁護士(第二東京弁護士会所属)
河合敏男法律事務所。国民生活センター紛争解決
委員会特別委員、第二東京弁護士会住宅紛争審査
会紛争処理委員、東京地裁調停委員等。
建築の三権分立
―設計、施工、監理―
書のとおりに実施されているか否かを確認する
ことをいいます。設計と監理は、建築士
(国家資
既製品とオーダーメード
格を有する専門家*2)が行わなければならない
ことになっています。
1960 年代後半頃からマンションが販売され
この設計、施工、監理は、国家権力を立法、
るようになり、その頃から戸建て住宅について
も建売住宅として
「建物を買う」
という形態がで
行政、司法に分けて互いにチェックアンドバラ
きてきました。それまでは新築の建物は
「建て
ンスの機能を働かせる三権分立の制度とよく似
る」ものであって、
「建物を買う」という言い方
ています。設計、施工、監理は、互いに協力し、
は一般的でなかったといわれています。
かつ、けん制し合って、施主
(建築主)
に間違い
のない建物を提供するための優れた制度になっ
マンション、建売住宅、中古住宅は
「買う」
こ
ているということができます。
と(売買契約)によって手に入れ、
注文住宅は
「建
てる」こと(請負契約)によって手に入れること
になります。服に例えれば、前者は既製服を買
うような場合、後者はオーダーメードの服を仕
設計と監理を切り離す
立てるような場合です。自分のからだにぴった
り合ったものを手に入れるためには後者を選択
この3つの行為のバランスがとれ、適正な
することになります。どちらを選択するかによっ
チェック機能が果たされるようにすることが建
て、知っておくべき基礎知識や注意点は異なっ
築工事を成功させるポイントであることはいう
てきますが、この連載では注文住宅を中心に解
までもありません。その理想的なかたちは、設
説し、必要に応じてマンションや建売住宅を買
計者、施工者、監理者について互いに利害関係
う場合についても触れていきたいと思います。
のないように選定することです。
公共建築物については、この三者を厳格に分
離し、
しかも競争入札によって厳正に選定して、
建築の3つの行為
―設計、施工、監理―
それぞれとの間で別個独立の契約が締結されま
すが、一般の住宅のような小規模建築では、設
建築は、3つの行為から成り立っています。
計と監理は同じ人のほうがかえってスムーズに
それは、設計、施工、監理の3つです。
「設計」
いくので、1人の建築士に設計と監理を依頼す
とは設計図書
(設計図面および仕様書*1)
を作成
るのが一般的です。設計と監理を施工から分離
すること、
「施工」
とは建設工事を行うこと、
「監
して、施工者とは一線を画した専門家に依頼す
理」
とは工事と設計図書を照合し、工事が設計図
る方式を
「設監分離」
と呼んでいます
(図1)
。し
2014.6
国民生活
23
住まい の 基 礎 知
識
−トラブルを未然に防ぐために−
かし、わが国では施主
(建築主)は施工と設計・
とんど不可能といってよいでしょう。そうだと
監理を分離せず、すべて一括して施工者に依頼
すると、消費者の立場に立って適正に工事を監
し、すべてを依頼された施工者は、設計と監理
理してくれる監理者が存在することは大変重要
を知り合いの建築士に外注したり、あるいは施
なことといえます。
工者自身が自ら開設した設計事務所に行わせる
欠陥住宅紛争では、監理者による監理がきち
という形態が多くとられています。このような
んと機能していれば防げたであろうと思われる
発注形態は「設計施工一貫」
とか
「設計施工」
など
事例が少なくありません。
「設監分離」
は建物を建
と呼ばれています
(図2)
。わが国では、古くか
てる場合に必ず知っておいてほしい基礎知識で
ら優れた棟梁がいて,棟梁に建築すべてを任せ
す。注文住宅を建築する際の原則的な方法とし
て建築してきたという伝統から
「設計施工一貫」
てもっと普及していってほしいと考えています。
とうりょう
が多いといわれています。
監理者は、施工者の施工を厳しく監視する役
関係が生ずる立場にあります。このことを考え
建築会社の見積もりを
設計者がチェック
ると、「設計施工一貫」
は、施工者と設計・監理
「設監分離」
による建築を行う場合は、まず最
者との間に利害関係が生じやすく、また契約関
初に建築士事務所を訪ね、設計者と設計契約を
係から従属的な力関係になりやすいため、適正
して設計図書を作ってもらうところから始まり
な監理がないがしろにされる危険性がありま
ます。木造二階建て住宅の場合でも、2~3㎝
す。建築は専門性が高く、素人である私たち消
くらいの厚さの設計図書になります。設計図書
費者が自ら建築の適正をチェックすることはほ
が完成したら、これを建設会社に持ち込み、見
割を担っており、ときには施工者と厳しい対立
積もりを取ります。1社だけの特命見積もりで
も複数業者の相見積もりでも構いません。見積
書ができてきたら、設計者にチェックしてもら
施主(建築主)
います。
設計者は積算資料を持っていますから、
( 請負契約)
見積もりの適正さをチェックし、修正意見も提
(設計・監理契約)
示してくれます。そして気に入った事業者を選
施工者
択し,建築請負契約を締結します。建築工事の
設計・監理者
ときは、設計者との間で監理契約を締結してお
き、建築工事の監理をしてもらいます。これが
図 1 設監分離方式
設監分離方式による建築の流れです。
*1 材料や製品の性質、性能、施工方法、メーカーなどについての
指示を文章や数値で示したもの。
施主(建築主)
*2 一級建築士、二級建築士および木造建築士のこと。取り扱うこ
とのできる建築物の規模等により級が異なる。
( 請負契約)
施工者
(設計・監理契約)
設計・監理者
図2 設計施工一貫方式
2014.6
国民生活
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