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2009年08月号(PDF:566KB)
IFRS outlook 2009 年 8 月号 国際会計実務の解説 本号の主な内容 金融危機への対応 2 プライベート・エクイティ・ ファンド - 投資の会計処理 4 借入費用における為替差損益 の取扱 5 財務報告制度の動向 10 金融危機への対応 国際会計基準委員会財団( International Accounting Standards Committee Foundation: 以下、 IASCF )のモニタリング ・ ボードが 先頃設置されたことから、モニタリング ・ ボードの初代議長であるハンス・ フーガーホースト氏にインタビューを行い、モニタリング ・ ボードの役割及 び今回の経済危機に対する同氏の考えについて伺いました。 プライベート・エクイティ・ファンド - 投資の会計処理 新たな連結基準の導入が迫る今、プライベート・エクイティ・ファンドは、自身 のビジネスにどのような影響があるか知っておく必要があります。アーンスト・ アンド・ヤングはこの度、ルクセンブルク及びロンドンにおいてラウンド・テー ブルを主催し、プライベート・エクイティ・ファンドが投資ポートフォリオを連結 する基準について議論が行われました。ラウンド・テーブルでの議論及び提起 された問題に対する国際会計基準審議会(International Accounting Standards Board: 以下、IASB)によるラウンド・テーブルでの反応につ いて記載しました。 借入費用における為替差損益の取扱 国際会計基準(International Accounting Standards: 以下 IAS)第 23 号「借入費用」はすでに発効しており、企業はこれらの借入費用の会計処理 について、もはや選択の余地はありません。しかし、外貨建の借入金を有す る企業は、為替差損益の影響を会計処理する際、依然として判断が求められ ます。外貨建借入金が企業に及ぼしうる影響、及び適用可能な代替的アプロー チについて解説します。 財務報告制度の動向 金融商品、リース、収益認識及び年次改善に関する暫定的な意思決定など、 貴社のビジネスに重要な影響を及ぼす可能性がある IASB の議論をまとめま した。 金融危機への対応 インタビュー : IASCF モニタリング ・ ボード議長 ハンス・フーガーホースト氏 ハンス・フーガーホースト氏はまず、 「会計制度が今回の金融危機に与えた 影響は小さなものに過ぎません。」と 明言し、 「この危機は、銀行の質の低い 経営と当局の不十分な監督との組合 せによって発生しました。ただし、財 務報告制度は改善の余地があります し、制度の見張り役としての監査人の 役割も見直す必要があるかもしれま せん。」と述べた。 ハ ンス・フーガ ーホースト氏 は このほど、IASCF のモニタリン グ ・ ボードの議長に任命された。 同氏は、IASB の金融 危機諮問 グ ル ープ(FCAG) の 共 同 議 長 及びオランダ金融取引監視機関 (AFM)の委員長も務めている。 それ以前は、オランダ大蔵大臣 及び保健福祉スポーツ大臣を務 めていた。 I A S B 及び米国財務会計基準審議会 (Financial Accounting Standards 「 両 Board: 以 下、FASB)( 以 下、 審 議 会 」)の 金 融 危 機 諮 問グル ープ (FCAG)の共同議長として、フーガー ホースト氏及び同氏の率いる委員会 は、この 2、3 ヶ月間相当な時間を費 やし、今回の危機の根本原因、財務 報告の役割、金融監督当局との関わ り方、及び財務報告と会計基準の改 善に必要な措置について議論、分析 を行った。 フーガーホースト氏は、次のようにコ メントした。 「たとえば、我々は両審 議会に対し、負債の公正価値を測定 する場合は、自己の 信用リスクを考 慮するよう現行の基準を改訂するこ とを提言しています。自己の信用状態 の悪化により、損益計算書で利益を 認識することになるのは直 感的に違 和感があるため、こうした考え方をと ることによって、結果的に財務報告自 体の信頼性が損なわれることにもな りかねません。 我々は両審議 会が協働して基準のコ ンバージェンスを 行うよう要 請して います。また、銀 行の貸倒引当金に ついては、期待損 失のカバーのため 利息収入の一部を留保する期待損失 モデルの 採用を支 持しています。財 務報告の景気連動性についても検討 しています。ただし、貸倒 損 失モデ ルは透明性の高いものでなければな らず、不当に金融規制の影響を受け るべきではないと考えます。」 FCAG は、7 月 後 半 に 報 告 書 を 発 表し、2009 年 12 月に再 び 会 合を 「会計基準の設定は、各種の規制や政 治の影 響を受けるべきではありませ 開 いてそ の 後 の 状 況 に つ いて 議 論 ん。会計上の細かい専門的な論点の し、FCAG のような 委 員 会に、今 後 も担うべき中長期の役割があるか否 検討は、政治家ではなく専門家の仕 かにつ いて 結 論 を出す予 定 であ る。 事 であるべきです。しかし、専 門 家 「FCAG は、会計と規制当局との間の の活動は孤 立して行われるべきでは 重要なパイプ役を果たしてきました。」 なく、周りに対してきちんと責任を負 うものでなければなりません。会計 FCAG の報告書は、財務報告につい 基準の設定は、実務からかけ離れた ものではなく、むしろ、より広い意味 て具体的な改善提 案をいくつか含む が、依 然として金融 監 督当局と会計 での財務報告が果たす役割を考慮し、 基 準 設 定の関 係についてのハイ・レ 実 社会に組み込まれ、これに資する ベルなものとなる予定である。 ものである必要があります。」 2 IFRS outlook 2009 年 8月号 「会計制度が今回の金融 危機 に与えた影響は小さなものに 過ぎません。」 今年前半、IASCF によってモニタリング ・ ボードが設 置された理由として、特に財務報告への関心の高まり と、米国議会(FASB 側)及び欧州連合(EU) (IASB 側)からの最近の政治的圧力が挙げられる。 いえません。したがって、IFRS がこれについて批判 され、政治家が介入して来るのも驚くに当たりません。 現在 IASB が FASB と協力し行っている、金融商品 に関する基準の簡素化に向けた取り組みを私は大い に歓迎しています。」 「昨年 9 月、IASB は EU の要求に屈し、通常の正当 な手続きを経ずに、金融商品に関する基準を改訂し、 危険な前例を作ってしまいました。グローバルな会計 基準の設定という我々の目標を達成するには、IASB が独立した会計基準設定主体であることが絶対的な キーなのです。米国やアジアは、IASB が欧州に支配 されている、あるいは EU の要求に屈服しているとい う印象を抱いたとたんに、関心を失うでしょう。」 モニタリング ・ ボードの役割は、独立性を保ちながら、 IASCF の公益性を担保するという任務を見守り、強 化していくことである。ハンス・フーガーホースト氏は、 モニタリング ・ ボードが今年前半に設置された際、初 代議長に任命された。モニタリング ・ ボードの憲章に は、メンバーは、証券監 督者国 際 機構(IOSCO)の 2 つの委員会、欧州委員会、日本の金融庁(JFSA)、 米国証券取引委員会(SEC)からの代表者とすると定 められている。フーガーホースト氏は説明する。 「欧州 委員会はモニタリング ・ ボードにまだ参加していませ ん。これは、欧州議会が、まずは公正価値会計の領 域で IASB の譲歩を求めているためです。そうしたこ とが、私のような政界出身者がモニタリング ・ ボード の議長就任を求められた理由の 1 つになっているのか もしれません。」フーガーホースト氏は、オランダ大蔵 大臣及び保健福祉スポーツ大臣を務め、2007 年か らはオランダ金融取引監視機関(AFM)の委員長に 就任している。 フーガーホースト氏は、金融商品に関する最近の動向 について、次のように語り締めくくった。 「金融商品に 関する現行の会計規則を簡素化する必要があるのは 明らかです。現在の基準は寄せ集め的で、非常に複雑 であり、決して利用者にとって理解が容易なものとは IFRS outlook 2009 年 8月号 3 プライベート・エクイティ・ ファンド ‐ 投資の会計処理 プライベート・エクイティ・ファンドは多数の企業へ多額の投資を行うことが多く、 その目的は、ビジネスでの相乗効果によって収益を得ることではなく、キャピタル・ ゲインによって収益を得ることである。しかし、これらの投資は、プライベート・エ クイティ・ファンドが意図していなくても、投資先企業の財務や事業運営の方針を決 定する権限を有するほど多額になることが往々にしてある。結果として、プライベー ト・エクイティ・ファンドは支配を有することになる。したがって、IFRS 適用の際、 プライベート・エクイティ・ファンドは支配を有する投資先を連結しなければならな いが、業界ではこれが意思決定に有用な情報を提供することにはならないと考える 企業が多い。 2009 年 5 月と 6 月、アーンスト ・ アンド ・ ヤングはルクセンブルク及びロンドンに おいてクライアントとの 2 度のラウンド・テーブルを主催し、この会議には 50 社を 超えるプライベート・エクイティ・ファンドからの代表者が出席した。会議の目的は、 プライベート・エクイティ・ファンドに求められる投資ポートフォリオの連結要件に ついて議論することであり、ロンドンの会議には、IASB からヤン・エングストロー ム氏及びパトリーナ・ブキャナン氏も出席した。 IASB が公表中の公開草案は、支配の新しい定義を採り入れた新たな連結基準を提案 している。公開草案の公表に際し、IASB は、ベンチャー ・ キャピタル事業に対する 適用免除は認めないという、それまでの決定を変えなかった。しかし、今回の 2 度の ラウンド・テーブルでは、参加者からこの決定について懸念が示され、プライベート・ エクイティ・ファンドの連結財務諸表に対する利用者のニーズ、及び連結財務諸表が 意思決定上有用な情報を提供しているかについて議論が行われた。 参加者から、ファンドは連結財務諸表を作成した上で、さらに投資を公正価値で表示 した別の財務諸表も作成している例が挙げられた。彼らの指摘によると、財務諸表が 公表されても、連結財務諸表に関する問い合わせは一切なく、すべての問い合わせは 補足情報についてのものであるとのことであった。彼らは、これは連結財務諸表が利 用者にとってあまり有用でないことを表しているものと考えている。 IASB からの参加者は、この懸念を認め、彼らの主張に理解を示したものの、業界に対 して基準適用を免除する計画はない。その代わり、すべての地域のあらゆる IFRS 適 用企業に適用できる原則主義アプローチの検討が必要となる。業界にとっては、支配 持分を保有する投資の非連結を正当化できる適切な原則を提案するという課題が残 された。 このラウンド・テーブルで議論された事項の詳細については、会議の内容を要約した ポッドキャスト「プライベート ・ エクイティと連結 : 変化する状況」で聴くことができ る。ポッドキャストは www.ey.com/ifrs から利用可能。 4 IFRS outlook 2009 年 8月号 借入費用における為替差損益の取扱 借入費用に関する会計基準 IAS 第 23 号「借入費用」は改訂 され、既に発効している。企業は、借入費用の会計処理につ いてもはや選択の余地がなく、 「適格資産」を建設するために 行った借入金に関して発生したすべての借入費用は、資産建 設のための原価の一部として資産化される。これに対応す るため、多くの企業は業務プロセスや情報システムを大きく 変更することになった。しかし、昨今の経済危機により、資 産化される借入費用の金額に影響を及ぼす他の論点、なか でも外貨建で借入を行った場合の為替レート変動の影響や、 為替エクスポージャーや金利リスクをヘッジするためのデ リバティブ金融商品に関する会計処理が関心を集めている。 Box 1 IAS 第 23 号の主な要件の概要 • 借入費用は、それが適格資産の建設又は取得に直接帰因 する場合に資産化される。これらは、適格資産に係る支出 が行われなかったならば避けられた借入費用である。 • 適格資産: • 意図した使用又は販売が可能となるまでに相当の期 間を必要とする資産 • 経常的に反復して大量に製造又は生産される資産を 含まない • 借入費用は以下の項目で構成される 本稿では、外貨建借入金が資産化される借入費用にどのよう • 実効金利法で計算される利息費用 に影響を及ぼすか、及び経営管理者の判断が必要な問題につ • ファイナンス・リースに関連する財務費用 いて詳しく説明する。 • 外貨建借入金から発生する為替差額で、利息費用に対 する修正部分とみなされる部分 IAS 第 23 号「借入費用」の要件 2007 年に IAS 第 23 号が改訂された際、IASB は資産化の 具体的な方法をいかに導入するかについて新たな指針を発 行しなかった。それどころか、この改訂の内容は、借入費用 を費用処理するという選択肢を削除し、会計処理を米国会 計基準(US GAAP)にほぼ整合させるという範囲に限定さ れていた。しかし、IAS 第 23 号において改訂されず、US GAAP のアプローチとの違いが残っている項目として、外貨 建借入金に係る為替差額の処理がある。Box 1 に示すよう に、為替差額は資産化される借入費用の算定に含まれている • 特定借入金の場合: • 資産化する借入費用は、借入金に関して発生した実際 の借入費用額から、余剰資金の一時的投資による投 資利益を控除した金額である • 一般借入金の場合: • 資産化する借入費用は、適格資産の建設又は取得の ための特定借入金以外のすべての借入金について、発 生した資本的支出に適用すべき資産化率を決定して計 算される が、資産化対象となるのは借入金に係る利息費用に対する修 正部分に限られている。これを算定する方法について、IAS 第 23 号の中でそれ以上の指針は示されていない。実際 US GAAP には、このような要件は存在しないため、指針はない。 国際財務報告解釈指針委員会(International Financial Reporting Interpretations Committee: 以 下、IFRIC) で本件が検討された際には、 「企業が外貨建借入金に IAS 第 23 号をどのように適用するかは、判断を要する会計方針の 問題である」1 と結論づけている。 1 IFRIC アップデート 2008 年 1 月号 IFRS outlook 2009 年 8月号 5 借入費用における為替差損益 の取扱(続き) 外貨建借入金の影響 理論上、為替レートと金利は関連しているので、為替レートの変動は金利 の変動を反映していると仮定することは適当である。この仮定に基づくと、 外貨建借入金から発生するすべての為替差損益は、借入金に係る借入費用 の一部とみなされる。だが最近では、為替レートと金利の関係には、他の 多くの要因が影響を及ぼしているとして、この理論が正しいものとは支持 されなくなっている。したがって、外貨建借入金から発生するすべての為 替差損益が利益に対する修正であると仮定することは必ずしも正しいわけ ではない。以下に 2 つの例を挙げる。 A 社の機能通貨はユーロであり、2009 年 1 月 1 日、資産建設資金を調達 するため、固定金利 5% で 1 年間、1,000 ポンドを借り入れた。借入日 の直物為替レートは 1 ポンド =1.5 ユーロであった。2009 年 12 月 31 日現在の為替レートは 1 ポンド =1.1 ユーロであった。A 社には為替差益 400 ユーロが発生したが、利息費用は(その時点の直物レートで年間を通 じて支払われたと仮定し)65 ユーロとなった。資産化適格借入費用に含 まれる為替差益はいくらか ? B 社の機能通貨はユーロであり、2009 年 1 月 1 日、資産建設資金を調達 するため、固定金利 3% で 1 年間、1,000 ドルを借り入れた。借入日の 直物為替レートは 1 ドル =1 ユーロであった。2009 年 12 月 31 日現在 の為替レートは 1 ドル =1.4 ユーロであった。B 社には為替損失 400 ユー ロが発生したが、金利費用は(その時点の直物レートで年間を通じて支払 われたと仮定し)36 ユーロとなった。資産化適格借入費用に含まれる為 替損失はいくらか ? いくつかのアプローチが考えられる。 1. 借入日現在での現地通貨建で借り入れた場合に適用される金利を算定 し、これを資産化する借入費用の算定に使用する。上記両方の例につい て、2009 年 1 月 1 日現在の借入金 1,500 ユーロに係る金利が 7%(A 社)、2009 年 1 月 1 日現在の借入金 1,000 ユーロに係る金利が 4%(B 社)であると仮定しよう。A 社の資産化されるべき借入費用額は、為替レー トの変動に関係なく、105 ユーロとなる。B 社の資産化されるべき借入 費用額は、40 ユーロとなる。しかし、企業は利息費用の削減を期待し 6 IFRS outlook 2009 年 8月号 て外貨建で借入を行っており、このアプローチは、 る。さらに、選択したアプローチは継続して適用し、 企業が外貨建で借入を行う理由を無視している。こ 財務諸表において開示しなければならない。また、い の場合、為替レートの変動は実際、A 社にとって ずれのアプローチにおいても、関連する情報を収集す 追加的な利益を生み出しており、直観的にも説得力 るための適切な情報システムを整備する必要がある。 に乏しい。 デリバティブの影響 2. 借入費用に含まれる為替差損益の金額に対して 企業が、外貨建借入金から発生する為替差損益、又は 「キャップとフロア」を設定する。フロアは、借入 金利変動のヘッジを目的としてデリバティブ取引を行 費用と同額として設定することができる。アーンス うことも一般的である。IAS 第 23 号自体は、デリバ ト・アンド・ヤングは、正味差益を資産化できると ティブ金融商品の処理を規定していないため、デリバ は考えない。上記の例では、A 社は、借入費用に ティブ金融商品が適格資産の取得又は建設を直接の発 為替差益 65 ユーロを含めることになり、正味借入 生原因としているかどうかの判断には、一般原則が適 費用はゼロとなる。キャップは、借入時の現地通貨 用される。つまり、IAS 第 39 号「金融商品 : 認識及 建借入での金利になるだろう。これが、その時点 び測定」の規定を適用することになり、一段と事態が での為替と金利の関係を反映しているからである。 複雑になる。というのも、IAS 第 39 号では、デリバ したがって、上記の例では、B 社は、借入費用に為 ティブ金融商品にヘッジ会計の適用が認められない限 替差損 4 ユーロを含めることになり、正味借入費 り、デリバティブ金融商品は公正価値で計上され、す 用は 40 ユーロとなる。 べての公正価値の変動は損益計算書で認識されなけれ ばならないからである。IFRIC は本件について再度議 3. 借入日現在の先物為替予約レートを算定し、これを 論し、これも「判断を要する会計方針の問題である」 資産化すべき為替差損益の金額の算定に使用する。 と結論づけた。経営管理者は、デリバティブの会計処 上記の例において、2009 年 1 月 1 日現在の 1 年 理が資産化すべき借入費用の額に及ぼしうる影響を考 物先物為替予約レートが 1 ポンド =1.4 ユーロ及び 慮する必要がある。以下がその例である。 1 ドル =1.1 ユーロであると仮定しよう。A 社が借 入費用に含める借入金から発生する為替差益の金額 は、為替レートの変動に関係なく、10 ユーロ と 2 なる。B 社は、 借入金から発生する為替差損 10 ユー ロ 3 を借入費用に含める。このアプローチでは、為 替レートと金利の関係について一貫性のある評価を C 社は 2009 年 1 月 1 日、建物の建設のために、5,000 ユーロの借入をした。利息は EURIBOR+1% で支払 われる。同日に、C 社は、同じ想定元本及び同じ利息 支払日の金利スワップ契約を締結し、EURIBOR+1% の利息を受け取り、固定金利 9% を支払う。 実施できるが、決して完璧なアプローチとはいえな い。為替レートと金利の関係に影響を及ぼし、適切 2 通りのアプローチが考えられる。 に測定できない多くの要因が存在する。 経営管理者は、どのアプローチが為替レートと金利の 関係を最も適切に反映するか慎重に検討する必要があ 1. C 社は、IAS 第 39 号と IAS 第 23 号との相互関 係において、デリバティブ金融商品が IAS 第 39 号 に従ってヘッジとして指定されている場合に限り、 2 開始時の直物レートと先物レートの差額は 0.1 ユーロ(1.5 − 1.4)。したがって、為替差益は 10 ユーロとなる。 3 開始時の直物レートと先物レートの差額は 0.1 ユーロ(1 − 1.1)。したがって、為替差損は 10 ユーロとなる。 IFRS outlook 2009 年 8月号 7 借入費用における為替差損益の取扱(続き) 当該デリバティブ金融商品は資産の取得又は建設 なる。本基準内のその他の領域についても判断が求め を直接の発生原因としていると判断しうる。した られる。これらについては、今後の記事で取り扱う予 がって、上記の例では、デリバティブの影響を資産 定である。 化する借入費用に含めるには、デリバティブ金融商 品を、金利リスクのヘッジとして指定しておく必要 がある。その場合、資産化すべき借入費用は、借入 金に関して支払う金利費用に、スワップに関して 支払う又は受け取る正味利息を加えたものとなる。 デリバティブ金融商品がヘッジとして指定されて いない場合は、資産化すべき借入費用は、借入金に 関して支払う金利費用のみとなる。 2. もう一つのアプローチとして、C 社は、IAS 第 39 号と IAS 第 23 号とには相互関係が無いと判断し、 たとえデリバティブ金融商品が IAS 第 39 号に基 づいてヘッジとして指定されていなくても、当該デ リバティブ金融商品は資産の取得又は建設を直接 の発生原因としているとみなしうる。これもまた、 公正価値の変動ではなく、スワップの現金費用に基 づく。したがって、資産化すべき借入費用は、借入 金に関して支払う金利費用に、スワップに関して 支払う又は受け取る正味利息を加えたものとなる。 しかし、経営管理者は、デリバティブ金融商品が 資産の取得又は建設を直接の発生原因としている ことを立証するアプローチを確立する必要がある。 これは、スワップと借入金の契約条件の違いが多く なればなるほど、ますます困難になるだろう。 おわりに 借入費用を資産の取得原価として資産化する基準にお いて、適用指針が限られているため、何を計算に含め るかについて重要な判断が求められる。為替差額をど こまで借入費用の構成要素とするかの判断は特に難し く、経営者は適切な方針を選択するため、選択肢とな るいくつものアプローチを検討しなければならない。 それゆえ、経営者による判断についての開示が重要に 8 IFRS outlook 2009 年 8月号 IFRS outlook 2009 年 8月号 9 財務報告制度の動向 IASB は、2009 年 6 月 15 日から 19 日にかけてロンドンで会議を開催した。下表は、議論された主な論点を整 理したものである。■ 議論されたプロジェクト 重要な論点 進捗状況 金融商品 - 認識及び 測定 IASB は、IAS 第 39 号を刷新するプロジェクトの一部として、金融商 ED は 2009 年 7 月に 公表されている 品の分類及び測定についていくつかの暫定的な決定を行った。 IASB はまた、単純な貸付金に見られる特徴を有し、かつ、契約上の利 回りに基づいて管理される金融商品の分類及び測定に関する、その他の アプローチについて議論がなされた。 金融資産の減損 IASB は、金融資産の減損に関する 2 つの教育セッションを開催し、減 ED は 2009 年第 4 資本の特徴を有する 金融商品 IASB は、持分金融商品の測定に関するいくつかの暫定的な決定を行っ ED は 2009 年第 4 保険契約 IASB は、保険契約への適用が検討される各種の測定アプローチについ ED は 2009 年第 4 損にかかる期待キャッシュ・フロー・アプローチについて、その実務的 な実行可能性に関する情報を求めることとした。IASB は、収集した情 報を勘案の上、減損に関する公開草案の作成を行う。IFRS Outlook 増 刊号第 47 号 「IASB が新しい減損モデルについての情報を募集」を参照。 た。 て議論し、以下を暫定的に決定した。 四半期に公表予定 四半期に公表予定 四半期に公表予定 • 後 述する IAS 第 37 号改 訂プロジェクトで検 討されている新たな モデルに 基づく測 定 アプ ロー チ( た だし、初日利 得 の 認 識を 避 けるために修正されたモデル)を採用候 補に含める • 残 余マージ ン及びリスク・マージ ン を 含 む 履 行 価 値 アプ ロー チ の 採用を見 送る • 現在出口価格アプローチの採用を見 送る ジョイント ・ ベンチャー IASB は、共同契約において、共同支配権を持たない出資者による会計 処理を、以下のように定めることを暫定的に決定した。 • 共 同 契 約が 共 同 事 業( 共 同 支 配 の 営 業 )に当たる場 合、当 該 事 業 から生じた 資 産、負債、収 益 及び 費 用にかかる自己 の 持 分を 計上する • 共 同 契 約がジョイント・ベンチャーに当 たる場 合、 (それ がジョ イント・ベンチャーにおいて重 要な影 響 力を有 する場合)IAS 第 39 号又は IAS 第 28 号に従って自己の持 分を計上する IASB はまた、共同資産に対する持分を有するすべての当事者は、それ ぞれの持分を認識しなければならないことを暫定的に決定した。 10 IFRS outlook 2009 年 8月号 IFRS は 2009 年 第 4 四半期に公表予定 議論されたプロジェクト 重要な論点 進捗状況 リース IASB は、借手の会計処理に関して未確定であった論点の一部について、 いくつかの暫定的な決定を行った。 ED は 2010 年 上 半 期 に公表予定 負債‐IAS 第 37 号の 改訂 IASB は、訴訟、待機債務、求償権及び開示から生じる負債について暫 定的な決定を行った。 IFRS は 2009 年 第 4 規制料金下における 事業活動 IASB は、以下を暫定的に決定した。 ED は 2009 年第 3 • 新 基 準 の 適 用日現 在 で 存 在 する規 制 資 産 及び 負債に当 基 準 を 適 用し、利益 剰余 金の開始残高に対して調整を行う 四半期に公表予定 四半期に公表予定 • 初 度 適 用 企 業 は 、従 前 の GA AP で 算 定 さ れ た 規 制 資 産 が 当 基 準 の 条 件を満たしている場合は、有形固定 資 産 又は無 形資 産の 帳 簿価額に含めることを選 択できる • 自 家 建 設 有形 固 定 資 産 又 は自己 創 設 無 形 資 産 につ いては 、規 制当局が算入を認めるすべての原価を含めるものとする 収益認識 IASB は、以下について暫定的な決定を行った。 • 第 三者 が 顧 客 へ の 商 品 及び サービ スの 提 供 に関 与 する 場 合 に 認 識される収 益 ED は 2010 年上半期 に公表予定 • 契 約の 結合及び 変 更から生じる収 益 • 現金 以 外 の対価 2009 年年次改善 IASB は、以下について暫定的な決定を行った。 • 初度 適 用企 業 が みなし原価として用いることが できる再評 価の タイミング ED は 2009 年第 3 四半期に公表予定 • IFRS の 適 用年度における会計方針の変 更 • 企業 結合における被取得企業の偶発対価 • ベンチャー・キャピタル の 連 結 及び 損 益 を 通じた 公 正 価 値によ る測定の部分的利用 • 関連 会 社投 資の減 損 ED: 公開草案 IFRS outlook 2009 年 8月号 11 Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト・アンド・ヤングについて アーンスト・アンド・ヤングは、監査、税務、トラ ンザクション・アドバイザリー・サービスなどの分 野における世界 的なリーダーです。全 世界 の 13 万 5 千人の 構 成 員は、共 通 のバリュー(価 値 観) に基づいて、品質において徹底した責任を果しま す。私どもは、クライアント、構成 員、そして社 会の可能性の実現に向けて、プラスの変化をもた らすよう支援します。 詳しくは、www.ey.com にて紹介しています。 「アーンスト・アンド・ヤング」とは、アーンスト・ アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのメンバー ファームで構成されるグローバル・ネットワークを 指し、各メンバーファームは法的に独立した組織で す。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッ ドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サー ビスは提供していません。 新日本有限責任監査法人について 新日本有限責任監査法人は、アーンスト・アンド・ ヤングのメンバーファームです。全 国に拠 点を持 ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人業界の リーダーです。品質を最優先に、監査および保証 業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサー ビスなどを提供しています。アーンスト・アンド・ ヤングのグローバ ル・ネットワークを 通じて、日 本を取り巻く世界経済、社会における資本市場へ の信任を確保し、その機能を向上するため、可能 性の実現を追求します。 詳しくは、www.shinnihon.or.jp にて紹介して います。 アーンスト・アンド・ヤングの IFRS(国際財務報 告基準)グループについて IFRS(国 際 財務 報告 基 準)へ の移 行は、財務報 告における唯一最も重要な取り組みであり、その 影響は会計をはるかに超え、財務報告の方法だけ でなく、企業が下すすべての重要な判断にも及び ます。私 たちは、クライアントによりよいサービ スを提供するため、世界的なリソースであるアーン スト・アンド・ヤングの構成員とナレッジの精錬に 尽力しています。さらに、さまざまな業種別セク ターでの経験、関連する主題に精通したナレッジ、 そして世界中で培った最先端の知見から得られる 利点を提供するよう努めています。アーンスト・ア ンド・ヤングはこのようにしてプラスの変化をもた らすよう支援します。 お問い合わせ先 新日本有限責任監査法人 IFRS 推進本部 〒 100-0011 東京都千代田区内幸町二丁目 2-3 日比谷国際ビル Email: [email protected] © 2009 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は、一定の編集を経 た要約形式の情報を掲載するものです。したがっ て、本書又は本書に含まれる資料のご利用は一般 的な参考目的の利用に限られるものとし、特定の 目的を前提とした利用、詳細な調査への代用、専 門的な判断の材料としてのご利用等はしないでく ださい。本 書又は本 書に含まれる資 料について、 新日本有限責任監査法 人を含むアーンスト・アン ド・ヤングの他のいかなるグローバル・ネットワー クのメンバーも、その内容の正確性、完全性、目 的適合性その他いかなる点についてもこれを保証 するものではなく、本書又は本書に含まれる資料 に基づいた行動又は行動をしないことにより発生 したいかなる損害についても一切の責任を負いま せん。