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SPMとオキシダントの生成メカニズム 1 総論 揮発性有機化合物(VOC
SPMとオキシダントの生成メカニズム 1 総論 揮発性有機化合物(VOC)は、光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質(SPM)の二次生 成粒子の原因物質とされている。このうち、光化学オキシダントは、大気中の VOC を含 む有機化合物と窒素酸化物の混合系が、太陽光(特に紫外線)照射による反応を通じて生 成する。また、SPM の二次生成粒子は、大気中の VOC が化学反応を起こしさらに反応生 成物が凝縮すること等により生成する。また、窒素酸化物や硫黄酸化物からも二次生成粒 子が生成するが、この反応にはオゾンが関与していることから、VOC の存在はこれら無機 化合物由来の二次生成粒子の生成にも関与している(図1)。 なお、二次生成粒子が生成するためには、VOC から生成した反応物の蒸気圧が低い必要 があるため、通常、炭素数の多い VOC が関与するが、光化学オキシダントの生成には、 ほとんど全ての VOC が関与する。 非揮発性有機化合物 一次有機粒子 有機化合物 OH 揮発性有機化合物 NO3 二次有機粒子 . RO2 O3 SPM(有機粒子) . RO NO NO3 SPM(無機粒子) 光化学オキシダント OH O3等 NO3、N2O5 O2 O3 アルデヒド NO NO2 OH, O2 ,NO2 hν NH3 ペルオキシアセチルナイトレート(PAN) O2 NH4NO3 オゾン(O3) (NH4) 2SO4 OH O3等 NH3 SO2 H2SO4 前駆ガス オキシダント 二次粒子 出典:炭化水素類に係る科学的基礎情報調査(三菱化学安全科学研究所) 図1 大気中の VOC 等の反応メカニズム 2 VOCから光化学オキシダントが生成する反応メカニズム (1) 概要 光化学オキシダントとは、オゾン(O3)、ペルオキシアセチルナイトレート(PAN、 RC(O)O2NO2)、アルデヒド(RCHO)類のことであり、その大部分がオゾンである。こ れらは、大気中のVOCと窒素酸化物の混合系に太陽光(特に紫外線)が照射することに より反応して生成する。 (2) ① VOC の光化学オキシダント生成過程への関与 オゾン 二酸化窒素(NO2)は太陽光の照射を受けて一酸化窒素(NO)と原子状酸素(O)に 分解する。生成したOは直ちに酸素(O2)と反応してオゾン(O3)を生成する。その後、 O3はNOと反応してNO2とO2を生成する。大気中にVOCが存在しない場合は、これらの 反応が平衡状態になるため、NO、NO2及びO3はある一定濃度になる(図 2 (A))。 しかし大気中にVOCが存在する場合は、VOCがOHラジカルやO3等と反応してアルキ . . ルペルオキシラジカル(RO2)を生成する。このRO2がNOと反応してアルコキシラジカ . ル(RO)となる反応と、O3がNOと反応してNO2となる反応が競合するため、図 2 (A) . の平衡状態がずれてO3濃度が増加する(図2(B))。 (A) OH、NO3等 O2 (B) VOC . RO O3 O2 NO2 . RO2 O3 NO NO2 O3 O2 NO hν hν NO2 VOC 濃 度 濃 度 O3 NOX−NO O3 NO 0 光照射時間 0 NO 光照射時間 出典:秋元ら(1978)より作成 図2 ② オゾン生成への VOC の関与 アルデヒド . . ①で生成したアルキルペルオキシラジカル(RO2)は、NO、NO3、RO2と反応してア . . ルコキシラジカル(RO)を生成する。ROは、分解反応によりアルデヒド(RCHO)等 . を生成する(図3上段) 。 ③ ペルオキシアセチルナイトレート(PAN) ②で生成したアルデヒドは、OHラジカル等、O2と反応してアシルペルオキシラジカ . ル(RC(O)O2)を生成し、さらにNO2との反応によりペルオキシアセチルナイトレート (PAN、RC(O)OONO2)を生成する(図3下段)。 OH、NO3等 VOC O3 O2 . RO2 . NO、NO3、RO2 . RO 分解反応 アルデヒド OH 等 O2 . RC(O)O2 NO2 ペルオキシアセチルナイトレート (PAN , RC(O)OONO2) 出典:炭化水素類に係る科学的基礎情報調査 (三菱化学安全科学研究所) 図 3 アルデヒド、ペルオキシアセチルナイトレート(PAN)生成 への VOC の関与 3 VOCから二次生成粒子が生成する反応メカニズム (1) 概要 大気中の VOC は、主に以下の過程を経て二次生成粒子を形成する(図4) 。 ① VOC が大気中で OH ラジカル、オゾン等と化学反応を起こし揮発性の低い有機化合 物を生成し、それらが自ら又は大気中にある既存の微小粒子上に凝縮して粒子を形成 する場合 ② VOC そのもの又は①の反応により生成した物質が既存の微小粒子に吸着又は吸収 され、粒子上・粒子中で化学反応を起こしさらに揮発性の低い有機化合物を生成する ことにより粒子を形成する場合 OH、NO3等 VOC O3 低揮発性有機化合物 凝縮 吸着・吸収 二次生成粒子 吸着・吸収 ① ② 図4 (2) VOC から二次生成粒子が生成するメカニズム 大気中での化学反応について(①前段の反応) . VOCは大気中でOHラジカル、オゾン等と反応しアルキルペルオキシラジカル(RO2) . を生成し、さらにNOやRO2等と反応することによりカルボニル化合物等を生成する(図 . 5)。 VOC の大気中での化学反応の具体的な例として、シクロヘキセンの反応プロセスを示 す(図6)。 VOC OH、NO3等 ① ② O3 . R カルボニル化合物 O2 ③ ⑦ ROOH ⑧ . RO2 HO2 NO2 ROONO2 OH . ⑥ RO2 ⑤ NO3 ④ NO アルコール、 光分解 カルボニル RONO2 化合物 . RO ⑩ 分解 ⑪ O2 ⑫ 異性化(1,5-H転移) アルデヒド + カルボニル 化合物 . R 反応 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ 図5 反応物 δ-ヒドロキシアルキルラジカル 出典:炭化水素類に係る科学的基礎情報調査 (三菱化学安全科学研究所) 被反応物 生成物 . OH ラジカル等 アルキルラジカル(R) VOC カルボニル化合物、高エネルギービラ VOC(二重結合を . O3 持つもの) ジカル、R 等 . . O2 アルキルペルオキシラジカル(RO2) R アルキルナイトレート(RO NO2) . NO アルコキシラジカル(RO) . NO3ラジカル RO . . アルコール、カルボニル化合物 . RO2 RO2 RO ヒドロペルオキシド(ROOH) HO2 アルキルペルオキシナイトレート NO2 (ROO NO2) . 光分解 ROOH RO . 分解 アルデヒド、R . RO カルボニル化合物 O2 異性化 δ-ヒドロキシアルキルラジカル 大気中での VOC の化学反応の例 . O O O3 - CO2 O OO O CHO H2O O OHC - H2O2 OHC CHO OOH OOH OH - H2O OH OHC COOH OHC Ox OH - OH - CH2O HOOC HOOC M OH COOH O2 O OHC COOH OO CHO OHC O Ox HOOC COOH HO 2 HO 2 OHC OHC COOH CHO O2 OH HOOC Ox OO a OHC COOH HOOC CHO COOH HO 2 O HOOC O COOH OHC b OHC a b CHO O2 OHC OO HO 2 HO 2 OHC OH OHC a O O2 HO2 OHC CHO Ox O HO 2 O2 HO2 OHC COOH OHC Ox HOOC COOH OO OHC OHC HOOC HO 2 O2 OHC a OHC CHO Ox COOH Ox O2 OHC OHC O O2 HO2 OHC CHO OHC Ox COOH Ox HOOC COOH COOH ( Kalberer, M.; Yu, J.; Cocker, D.R.; Flagan, R.C.; Seinfeld, J.H.:Aerosol Formation in the Cyclohexene-Ozone System, Environ. Sci. Technol. 34, 4894-4901 (2000)より作成) 図6 大気中でのシクロヘキセンの反応の例 (3) ① 粒子化について(①後段及び②の反応) 凝縮 大気中においてある物質の分圧が飽和蒸気圧以上の場合、その物質は凝縮を起こす。 VOC の大気中での化学反応の結果生成した反応生成物も、その蒸気圧が低い場合には、 凝縮して二次生成粒子を生成する。 ※凝縮:飽和蒸気の温度を下げ、又は温度を一定に保って圧縮するとき蒸気の一部が液化する現象。凝縮 は普通空間に浮遊する微小なちりやイオンなどを核として液滴が生ずることによって始まる。これらの 核となるべきものがない場合には、過飽和になることが多い。(理化学事典) ② 吸着・吸収 大気中の VOC や化学反応の結果生成した反応生成物は、大気中に浮遊している既存 の粒子上へ吸着又は吸収される場合もある。吸着又は吸収された VOC 等は、粒子上(吸 着)又は粒子中(吸収)で化学反応を起こし、反応前の物質より低い蒸気圧を持つ物質 に変化するものもある。その結果、粒子上・粒子中の反応前物質(VOC)が減少するた め、さらに大気中の VOC が粒子上・粒子中へ吸着・吸収を起こし、二次生成粒子を成 長させる。 ※吸着:気相又は液相中の物質が、その相と接触する他の相(液相や固相)との界面において、相の内部 と異なる濃度で平衡に達する現象をいう。(理化学事典) ※吸収:ある物質が他の物質の内部にその界面をこえて取り込まれる現象。普通、分子、原子、イオンの 形で溶解や化学反応によって取り込まれる場合をいう。なお、ある物質が他の物質の内部にまで取り込 まれず、その界面付近にとどまっている場合には吸着という。(理化学事典)