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東アジア文化交流の年に

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東アジア文化交流の年に
2008
新しい年を迎えて
東アジア文化交流の年に
New Year
青木 保(文化庁長官)
あおき たもつ
1938 年生まれ 。1976年東 京 大学
大 学 院 社 会 学 研 究 科 文化 人 類 学
専攻修了、博士(人間科学、大阪大
学)。大阪 大 学 教 授、アメリカハー
バード大学人類学科客員研究員、フ
ランス国立パリ社 会 科 学高等 研究
院客員教授、東 京 大学先 端 科 学技
術研 究センター教 授、政 策 研 究 大
学院大学政策研究科教授などを歴
任し、2007年4月より現職。
れた。また未来に向かっての文化交流の
二十一世紀の交流
時代が本格的に開き始めたとの認識でも
一致したとの強い印象を抱いた。
新年を迎えるに際して、あらためて東ア
二十一世紀に入ってからこの地域での
ジアとの文化交流がさまざまな面で一層盛
国際交流は二十世紀とは異なる積極的な
んになることを願いたいと思う。
次元に入ったといってもよいのではない
昨年四月に文化庁長官に就任してから
か。経済交流が中心であるとはいえ、
「東
も、文化庁関係の私自身も参加した東ア
アジア共同体」議論もなされるようになり、
ジアにおける国際文化交流として八月には
「東アジアサミット」会議も開かれるよう
上海でメディア芸術祭、九月には東京で中
になった。日流、韓流、華流などの言葉も
国映画祭、十一月にはソウルで日本映画
いつしか日常的に使われるようになった。
際、十二月には日本伝統芸能中国公演など
十一月には国際文化フォーラムが奈良、京
日中韓による
「南通宣言」
都、福岡で開催され、ここにも韓国、中国
東アジアの文化交流に関して注目すべき
の代表的な文化人が参加して文化交流に
は、昨年九月中国江蘇省南通市で日本、中
関して議論を盛り上げた。文化遺産の問
国、韓国の文化大臣が集まり(日本からは
題から映画、美術、文化政策など多くのこ
長官が出席)、この三か国による文化交流
とが語られ、相互交流の重要性が強調さ
を促進させるための「日中韓文化大臣フォ
が行われ、いずれも盛況であった。それに
「南通宣言」の調印式で書類を示す三か国の大臣
植樹会場にある記念碑の序幕を喜ぶ三か国の大臣
2
ACCUニュース No.365 2008.1
ーラム」が開かれたことである。これは中
は日本ですら、そうした見方は強
国文化部(省に相当)の主催による会議で
かった。よく北京や上海で「文化は
あるが、南通市で第九回「アジア芸術祭」
中国、技術は日本」と言われたこ
が開かれるのにあわせて行われ、その開
とがある。それがいまや中国政府
幕式にも出席した。このフォーラムで「南
率先しての「文化交流」の促進で
通宣言」が三大臣(長官)の署名のもとに公
ある。こうした背景にはさまざまな
表された。宣言は、共通認識として六点を
事情が存在するであろうが、平等
挙げている。まずはじめに 1. 世界の文化
で相互的な文化交流は日本にとっ
の多様性を尊重し、三国の優れた文化伝
ては当然のことに違いない。知的
統を保護し、発展させるために絶え間なく
財産権の保護などはかねて強く日
努力する、といった後、2. 対話と協力の精
本が主張してきたことであり、それ
神に則り、三か国の文化交流を強化し、
がはっきりと「宣言」されたことに
国民の相互理解と信頼を促進し、三か国
は大きな意味がある。「宣言」は
の善隣関係及び自由と繁栄を促進する、
条約とは違い実効力や相互束縛
3. 青少年間の文化交流の促進により友情
的なものは伴わないものであると
を深める、4. 文化と学術交流分野での協
しても、南通市郊外にある植物公
力と文化遺産の保護と継承に共に努力す
園には三人の署名を記した「南通
る、そして、5. として、文化産業分野での
宣言」が三か国の言葉で銘記され
協力と知的財産権の保護、文化コンテンツ
た石碑が建てられ、その脇には三
産業を経済発展の持続的な動力とする、
人それぞれの名前を刻んだ石版を
と宣言した。また、6. として今年2008年に
前に梅ノ木が一本ずつ植樹されてある。こ
された「儒教文化圏」
「漢字文化圏」とは
第二回会談を韓国で開くと明記された。
の精神は尊重されるべきであろう。
異なる現代文化による「文化圏」を大いに
以上のような「南通宣言」であるが、こ
の三か国が平等の文化的土台の上に立っ
ての「文化交流」の推進を公に宣言する
「ヨンサン祭り」 ©Jung Un-Lai(韓国)
「談笑」©花岡泰助(日本)
「文化交流」に寄せる
期待
発展させるよう努力をしたいものと思う。
昨年二月に閣議決定された「文化芸術
振興の基本方針(第二次基本方針)」にあ
ことは歴史的に見てもこれまで例がない
文化交流は国家だけが行うものではも
る六つの重点事項の二として「日本文化の
のではないか。東アジア地域においては中
とよりなく民間の熱意と創意があってこそ
発信・国際文化交流の推進」が掲げられ
国文明の圧倒的な文化的影響の下に「文
可能になることは事実であるが、中国のよ
ているのと併せて本年を「文化交流の年」
化」は中華から流れ出てくるものであると
うに国家の方針の下に行われる傾向の強
として日本文化の世界への発信と国際文
いった見方が特に中国では根強く、平等な
いところでこの宣言が有効に生かされれ
化交流の新たな出発への「年」としたいも
レベルでの相互的な文化交流といった考
ば東アジアの将来は明るいものとなる。か
のである。とくに何かと難問の出る東アジ
えは現代においても容易には認められな
ねて現代の「東アジア文化圏」が出来つつ
アの平和と繁栄の基盤を「文化交流」によ
かった。中国だけでなく韓国でも、あるい
あると言って来た者としては、かつて主張
って築きたいものであると願う。
2007 年 ACCU 韓国教職員招へいプログラム。
『プチェチュム(扇の舞)』を披露する先生方
「山の花たち」©Yan Houkang(中国)
ACCUニュース No.365 2008.1
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