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A SPECIAL EDITION 図2 ATF6経路の分子機構 小胞体ストレス下においてBiPの解離により ATF6のゴルジ体移行シグナルが露出し,ATF6は 分泌小胞に乗ってゴルジ体へと運ばれる。ATF6は ゴルジ体でプロテアーゼによる切断を受け,サイ トゾル領域を遊離する。サイトゾル領域は転写因 子として働き,小胞体分子シャペロンの転写を誘 導する。 常時はBiPの結合により単量体で存在し不活 性化されている。小胞体ストレス下ではBiP が構造異常タンパク質に奪われ,PERKは小 胞体内腔領域を介して多量体を形成する。そ 示し,糖尿病や成長不全を呈する。 5. ATF6経路 ATF6は小胞体に分布する膜貫通型の転写因 の結果,サイトゾル側のkinase領域が自己リ 子である。ATF6の小胞体内腔側にはゴルジ体 ン酸化により活性化状態となり,翻訳開始因 移行シグナルが存在しており,通常時はBiP 子eIF2のαサブユニットをリン酸化する。リン の結合によりそのシグナルが物理的に遮蔽さ 酸化されたeIF2αはその活性を失い,全般的な れている。小胞体ストレス下においてはBiP mRNAの翻訳の開始が抑制される(図1) (応 の解離によりそのシグナルが利用可能とな 答①に相当) 。一方,上記の翻訳抑制により, り,分泌小胞に乗ってゴルジ体へと運ばれる。 逆に翻訳が促進される転写因子ATF4が知られ ゴルジ体へ到着したATF6は,プロテアーゼに ており,ATF4制御下の遺伝子群(アポトシス よる膜内切断を受けサイトゾル領域を膜から やアミノ酸代謝に関連した遺伝子)はこの経 遊離させる。このサイトゾル領域は核内へと 路で転写誘導される。また,PERKの遺伝子 移行し,転写因子として機能する。その結果, 欠損マウスは体内の多くの分泌細胞で異常を 小胞体シャペロン関連遺伝子群を転写誘導す 20(594) BIO Clinica 26(7),2011 小胞体ストレスと疾患 図3 XBP1 mRNAの細胞質スプライシング機構 (A) XBP1 mRNAの細胞質スプライシング。動物細胞においては,IRE1αは小胞体に構造異常タンパク質が蓄 積すると二量体化して活性化し, サイトゾルでXBP1前駆体mRNAをスプライシングする。スプライシングに よって26塩基のイントロンが除かれると, フレームスイッチが起こり, 前駆体mRNAでは異なる読み枠でコー ドされていたDNA結合領域と転写活性化領域が融合し, 機能的転写因子XBP1sをコードするようになる。 (B) XBP1u mRNAの小胞体膜局在化機構。XBP1u mRNAを翻訳中のリボソームから伸長する新生XBP1uポリ ペプチドは疎水的領域HRを介して膜に結合し,その結果,XBP1u mRNAをリボソーム-新生鎖複合体の一部 として膜上にリクルートする。小胞体ストレス時には活性化した小胞体膜タンパク質であるIRE1αによって, 膜に係留されたXBP1u mRNAが効率的にスプライシングされる。今回の研究で,XBP1uのC末端付近を合成 中のリボソームが一時に停止することが分かった。 る(図2)(応答②に相当)。ATF6の活性を制 いる進化的に最も古い小胞体ストレス応答経 御する機構としてはBiP以外にも,小胞体内 路である。哺乳類では全身に発現している 腔側でのジスルフィド結合を介する多量体形 IRE1αと消化器系でのみ発現しているIRE1βの 成による調節が報告されている 。哺乳類では 2つのパラログが存在する1)。IRE1αは小胞体 ATF6にα,βというパラログが存在する。こ 膜貫通型のkinase / ribonucleaseであり,PERK のうちどちらか一方の遺伝子を欠損させたマ やATF6と同様に通常時には小胞体内腔ドメイ ウスに異常は観察されないが,両方の遺伝子 ンにBiPが結合した不活性化型として存在す を欠損させたマウスは胎生致死という表現型 る。 小胞体ストレス下においては, BiPが解離 を示すことから,両遺伝子は機能的に相補し した後にホモ二量体化し,サイトゾル側の ていると考えられている 。 kinaseドメインで自己リン酸化する。その結 4) 5) 6. IRE1経路 IRE1は酵母からヒトに至るまで保存されて 果,ribonuclease領域が活性化し,転写因子 XBP1の前駆体型mRNA (XBP1u mRNA)を特異 的な二ヶ所で切断する。この切断反応によっ BIO Clinica 26(7) ,2011(595)21 A SPECIAL EDITION 図2 ERストレスによるapoBの分泌制御と脂肪肝の発症 病モデルマウスに投与すると,UPRの活性化が 減弱し肥満に伴う耐糖能異常や脂肪肝が改善 した15)。 ERストレスの亢進はインスリン抵抗 性の上流にある病態として,2型糖尿病や糖 脂質代謝異常の発症に密接に関与し注目され ている。 3. 肝臓のVLDL分泌と脂肪化に関与する ERストレスの役割 インスリン抵抗性状態では,肝臓はTGに富 むVLDLとして脂質の放出を増大させるにも かかわらず脂質を過剰に蓄積し脂肪化する。 実際に,MR spectroscopy(MRS)を用いた大 規模臨床試験のサブ解析から,高TG血症を高 率に合併する米国人の30%以上に脂肪肝の合 併が推測されている 16)。インスリン抵抗性に おける高TG血症と脂肪肝が共存する意義を明 らかにするため,筆者らはERストレスに注目 し基礎実験を行った。高濃度の脂質(脂肪酸 またはTG)を長時間にわたり培養肝細胞に添 加すると,また,正常マウスの肝に脂肪酸を 6〜9時間潅流させるとPERK-eIF2α経路お よびXBP1といったUPRが活性化しシャペロン であるGRP78の発現が時間依存的に増加した。 脂肪酸の流入よりERストレスが適度に誘導さ れる状況下では肝からのVLDL-apoB分泌は増 加したが,さらに強いUPRが生じるとapoBの 分泌は低下した(図2)17)。興味深いことに, このERストレス誘導下ではapoAIといったそ の他のアポ蛋白やアルブミンなどの肝細胞か 30(604) BIO Clinica 26(7),2011 らの分泌蛋白には変化はみられなかった。さ らに,肝に生じた強いERストレスは蛋白翻訳 抑制と分解亢進を介しapoBの分泌を阻害し, その結果,肝臓からのVLDLの分泌を抑制し 脂肪肝を促進させることを見出した。すなわ ち,脂肪酸によって誘導されるERストレスは 肝臓からのapoB分泌を二相性に制御すること が明らかとなった(図2)17)。 最近,脂肪酸誘導性ERストレスによるapoB の分泌低下により,apoBが肝細胞に蓄積する ことによりERストレスが増強しJNKを介して インスリン抵抗性がさらに増大することが報 告されている 18)。翻訳後の修飾が蛋白の品質 管理に必須である高分子のapoBはERストレス に対する感受性が高く,その一方で,apoBの 分泌障害は肝臓のERストレス自体に対し,さ らにインスリン感受性に対しても何らかの影 響を与えているのかもしれない。脂肪酸以外 にも,tunicamycinやDTT,またはグルコサミ ンによるERストレス誘導下では肝臓からの apoB分泌が低下していることが知られてい る 19)-21)。ごく最近,ERストレスによるapoB分 泌低下の機序にオートファジーによる分解の 関与が報告されている22)。ApoBの分泌制御は 脂質代謝におけるERストレスの関わり考える 上で興味深く,重要なターゲットといえよう。 4. NASHの進展における ERストレスの関与 2型糖尿病やメタボリックシンドローム患 小胞体ストレスと疾患 者において,肝臓の脂肪化のみならず炎症と 線維化を伴うNAFLDの進行形であるNASHの 合併頻度は少なくない1)。筆者らはモデル動物 において肥満やインスリン抵抗性により NASHが大きく進展すること,反対にインス リン抵抗性の改善により炎症・線維化までも改 善しうることを明らかにしてきた (図3) 23)-25)。 近年,ヒトにおいてもインスリン抵抗性改善 薬がNASHの治療に有用であることが報告さ れている26) 27)。インスリン抵抗性との関連性の エビデンスが確立されているNAFLD/NASHの 病態におけるERストレスの意義については, 肝のインスリン作用と脂肪化,炎症やアポト ーシスの誘導といった観点から,遺伝子改変 マウスを中心に検証されている。特にJNKの 活性化は先に述べたインスリン抵抗性の発症 に関わるのみならず,脂肪化に続く炎症誘導 に関わることが示されている (図3 ) 28) 29)。核 内受容体PPARγと協調し脂肪細胞分化を制 御する転写因子C/EBPβの欠損マウスに食餌 性にNASHを起こすと対照に比し,肝脂質含 量の低下,NF-kB等の炎症シグナルとともに UPRの減弱がみられたことから,C/EBPβは ER ストレスとNASHの発症とをリンクする分 子の一つといえる30)。また,XBP1を肝特異的 に欠損させたマウスでは,Dgat2やScd1といっ たリポジェネシス遺伝子の発現が減少し,肝 脂質合成と分泌が阻害され,血中と肝内の脂 質値が低下していた。XBP1はERストレスの みならず脂質合成をも制御する重要な転写因 子であるのかもしれない31)(図3) 。 図3 脂肪肝炎の進展におけるERストレスの意義 (文献25より改変) ヒトでは,Puriらがメタボリックシンドロ ームに合併したNAFLD患者の肝臓において活 性化されるUPRをNAFLDの進展度別に評価し ている。炎症や線維化の強いNASH患者では eIF2αのリン酸化やJNKの活性化が認められ た 32)。一方,eIF2αの特異的ホスファターゼ GADD34を肝に過剰発現させeIF2αを脱リン 酸化させたマウスでは,高脂肪食摂取による 耐糖能障害および脂肪肝が軽減しており, eIF2αは脂肪肝の形成にも関与している可能 性がある 33) (図3 )。それでは,ERストレスの 減弱が果たしてヒトのインスリン抵抗性や脂 肪肝,脂質異常症を改善させるのだろうか? 肥満マウスの過剰なERストレスを抑制しイン ス リ ン 抵 抗 性 や 脂 肪 肝 を 改 善 す る PBAや tauroursodeoxycholic acid (TUDCA) の肥満者に 対する有効性の成績が最近報告されている。 TUDCAはグルコースクランプ試験で評価した 肝臓および骨格筋のインスリン感受性を改善 し 34),PBAもTG潅流後に評価したインスリン 感受性を軽度に改善しているが 35),薬剤の標 的臓器や長期投与効果など明らかにすべき今 後の課題は多い。 おわりに 神経変性疾患や膵β細胞障害といった領域 を中心に発展してきたERストレス研究は,こ こ数年,インスリン抵抗性を基盤とする代謝 疾患においても新たな展開をみせている。ER ストレスの亢進が,TRLPsの過剰産生をベー スとした脂質異常症や肝脂肪蓄積,さらに NASHの進展にも関与していることが徐々に 明らかとなりつつある。しかし,このような 脂質代謝異常の直接的な成因としてのERスト レスの意義は十分に証明されているとは言い がたい。 ERストレスが糖脂質代謝異常の本 質 的 病 態 な の か , そ れ と も 単 な る innocent bystanderに過ぎないのか,それを見極めるこ とのできるブレークスルー研究をさらに期待 したい。 文献 1) Neuschwander-Tetri BA: Fatty liver and the metabolic syndrome. Curr Opin Gastroenterol 23:193-198, 2007 2) Kotronen A, Yki-Jarvinen H: Fatty liver: a novel component of the metabolic syndrome. Arterioscler Thromb Vasc Biol 28:27-38, 2008 3) Ginsberg HN: New perspectives on atherogenesis: role of abnormal triglyceride-rich lipoprotein metabolism. Circulation 106:2137-2142, 2002 BIO Clinica 26(7) ,2011(605)31 A SPECIAL EDITION 胞を含む組織を採取し, BMP2,アスコルビン酸,βグリセロホスフェート処理を 施すことで軟骨細胞の分化過 程を経時的に追跡できるミク ロマスカルチャー法を行なう と,BBF2H7とSec23aは軟骨 基質分泌開始の時期と同調す るように発現が誘導される。 しかもBBF2H7の場合は膜内 切断を受けたN末端断片が過 剰量観察されることから,小 胞体ストレスが軟骨細胞の分 化の際にも生じていることが わかる。実際に,軟骨基質分 泌開始とBBF2H7,Sec23aの 図3 BBF2H7は生理的小胞体ストレスによって活性化し,軟骨形成を 発現上昇の時期と一致して 促進する BiP, PDI, GRP94, EDEMなど 軟骨細胞分化シグナルによって,軟骨基質タンパク質が盛んに合成さ の小胞体ストレスマーカー遺 れる。その結果,小胞体に負荷がかかり,軽度の小胞体ストレス (生理 的小胞体ストレス) が生じる。BBF2H7はストレスを感知して活性化し, 伝子の発現レベルが一過性に Sec23aの転写を誘導する。Sec23aはCOPⅡ小胞の形成に与り,分泌物の 上昇する。軟骨細胞は大量の ソーティングを活発化させる。 軟骨基質タンパク質を分泌す る。急激かつ大量のタンパク 質合成は小胞体に負荷をかけ 発芽を誘導する。発芽した小胞はCOPⅡ小胞 るものであり,軽度な小胞体ストレスが発生 となり,その内部に分泌タンパク質を搭載し, すると考えられる。BBF2H7はこれを感知し 最終的にシスゴルジとドッキングすることで て活性化し,Sec23aの発現を上昇させる。軟 搭載タンパク質をゴルジ装置に送り届ける。 骨細胞が大量の軟骨基質タンパク質を分泌す 最近Sec23aは,骨格形成異常,大泉門閉鎖不 るには,分泌物を小胞体からゴルジ装置,あ 全,顔面形成異常などの症状を示すCranioるいは細胞膜までスムーズに運搬する必要が leticulo-sutural dysplasiaという疾患の原因遺伝 ある。未分化状態から成熟軟骨細胞に成長し 12) 子であることが報告された 。患者の線維芽 ていく過程でこのような機能を獲得していく 細胞では小胞体が異常に拡張し内部には分泌 ことは必然であり,BBF2H7-Sec23a経路の活 物が貯留するというBBF2H7欠損軟骨細胞に 性化も一連の分泌マシーナリー発達には欠か きわめて類似した形態変化を示す。 せないものである(図3) 。 5. 軟骨細胞の分化成熟と 小胞体ストレス応答 軟骨細胞でも骨芽細胞と同様に分化の過程 で小胞体ストレスが起こっているのだろう か?マウス胎仔の四肢より未分化間葉系幹細 46(620) BIO Clinica 26(7),2011 おわりに 骨芽細胞や軟骨細胞は,いずれも未分化間 葉系幹細胞を起源とし,分化した後に大量の 基質タンパク質を分泌する細胞になる。これ ら細胞が成熟した分泌細胞になるためには, 小胞体ストレスと疾患 子のパートナーとなる分子を 同定することも今後の課題の 一つである。小胞体ストレス 応答による生体制御という概 念は大きな拡がりをみせてお り,今後さらなる研究の進展 が期待される。 文献 1) Ron, D. Translational control in the endoplasmic reticulum stress response. J. Clin. Invest. 110, 1383-1388 (2002). 2) Schroder, M. & Kaufman, R. J. ER stress and the unfolded protein response. Mutat. Res. 569, 29-63 (2005). 図4 OASISファミリーを介した生理的小胞体ストレス応答が細胞の分 3) Wei, J. et al. PERK is essential for 化成熟を促進する neonatal skeletal development to 未分化間葉系幹細胞が大量の基質タンパク質を分泌する細胞へ分化す regulate osteoblast proliferation and る際に生理的小胞体ストレスが発生する。これを感知したOASISファ differentiation. J. Cell. Physiol. 217, ミリーが分泌細胞に必要な能力を獲得させ,成熟した分泌細胞への転 693-707 (2008). 換を促進させる。 4) Yang, X. et al. ATF4 is a substrate of RSK2 and an essential regulator of osteoblast biology; implication for 基質タンパク質の大量合成,タンパク質品質 Coffin-Lowry Syndrome. Cell 117, 387-398 (2004). 管理,さらには産生されたタンパク質のスム 5) Saito. A. et al. ER stress response mediated by the PERKーズな分泌などの能力を同時に獲得する必要 eIF2α -ATF4 pathway is involved in osteoblast differentiation induced by BMP2. J. Biol. Chem. 286, がある。今回紹介したOASISやBBF2H7は成 4809-4818 (2011). 熟した分泌細胞への転換に必須の役割を担っ 6) Delepine, M. et al . EIF2AK3, encoding translation initiation factor 2-alpha kinase 3, is mutated in patients with ている。両分子が活性化するためには未分化 Wolcott-Rallison syndrome. Nat. Genet. 25, 406-409 状態の細胞に小胞体ストレスが起こることが (2000). 大切で,このストレスが細胞を分化成熟させ 7) Kondo, S. et al. OASIS, a CREB/ATF-family member, modulates UPR signalling in astrocytes. Nat. Cell Biol. 7, る(図4)。これまで小胞体ストレスは,細胞 186-194 (2005). に傷害を与えるトキシックな作用のみが強調 8) Kondo, S. et al. BBF2H7, a novel transmembrane bZIP されてきた。しかしここで示したように,適 transcription factor, is a new type of endoplasmic reticulum stress transducer. Mol. Cell. Biol. 27, 1716-1729 (2007). 度な小胞体への負荷と,これに応答して活性 9) Murakami, T. et al . Cleavage of the membrane-bound 化する小胞体ストレス応答(生理的小胞体ス transcription factor OASIS in response to endoplasmic reticulum stress. J. Neurochem. 96, 1090-1100 (2006). トレス応答)が骨軟骨細胞の分化成熟,さら 10) Murakami, T. et al. Signalling mediated by endoplasmic には恒常性維持に重要である。OASISファミ reticulum stress transducer OASIS is involved in bone リーが属するCREB/ATFファミリーは,ホモ formation. Nat. Cell Biol. 11, 1205-1211 (2009). 11) Saito, A. et al. Regulation of endoplasmic reticulum stress ダイマーやヘテロダイマーを形成して転写因 response by a BBF2H7-mediated Sec23a pathway is 子としての機能を発揮することが広く知られ essential for chondrogenesis. Nat. Cell Biol. 11, 1197-1204 (2009). ている。OASISやBBF2H7が生理的状態に対 12) Boyadjiev, S. A. et al. Cranio-lenticulo-sutural dysplasia 応してパートナーを変更することで,状況に is caused by a SEC23A mutation leading to abnormal 合わせた小胞体ストレス応答シグナルを発信 endoplasmic-reticulum-to-Golgi trafficking. Nat. Genet. 38, 1192-1197 (2006). している可能性も考えられることから,両分 BIO Clinica 26(7) ,2011(621)47 ロン 10)11) の活動を抑 制する,という報告 であった。アストロ サイトから放出され たATPそのもの,ま た 代 謝 産 物 の adenosineは,非常に ダイナミックかつ協 力にシナプス伝達を 抑制する。海馬神 経−アストロサイト 共培養系では,培養 後1週間後程度から 神経細胞において, glutamateのシナプス 伝達に起因する同期 図3 アストロサイト由来ATPによる海馬神経細胞のシナプス伝達抑制 し た 自 発 的 な Ca 2+ A. ATP(1 μM)を加えると,ニューロンの興奮性シナプス伝達に起因するCa2+振動は抑 振動が観察される 制される。一方このときアストロサイトは主にP2Y受容体を介して細胞内Ca2+濃度 (図3)。これをシナ を上昇させる。 B. アストロサイトによるシナプス伝達(Ca2+振動)抑制作用。中心の細胞模式図1-3はア プス伝達の指標とし ストロサイトを,4-5はニューロンを示す。これらの番号は,左右の各トレース(細 てATPの作用を検討 胞内Ca2+濃度変化)と対応している。アストロサイト1の機械刺激(矢頭)により し た 。 ATP 刺 激 を アストロサイト間Ca2+波(細胞1-3)の伝播が観察され,これはニューロン(4-5)の シナプス伝達(Ca2+振動)を抑制した。このアストロサイトによるシナプス伝達抑 行うと,この神経細 制はアピラーゼ処置により消失した。 胞の Ca 2+ 振動が抑 C. アストロサイトによるシナプス伝達(Ca2+振動の頻度)抑制のまとめ。細胞外ATPは 制されるが(図3A) , シナプス伝達を抑制するが,これはアストロサイトの機械刺激により模倣された。 アストロサイトによるシナプス伝達抑制作用は,アピラーゼにより消失する。 これは神経終末の P2Y受容体を介した アストロサイトを精製した培養系でも,自発 glutamate放出の抑制に起因すると考えられ 的なCa2+波を形成する能力を有していた。こ た。この共培養系において,単一アストロサ れは,アストロサイトは,ニューロンの活動 イトに局所的な機械刺激を与えると,前述し 依存的にフィードバック制御をかけるという 2+ たようにアストロサイト間にCa 波が伝播す ニューロン主導的な側面だけでなく,アスト るが,これは被刺激細胞近傍の神経細胞の ロサイトが独自かつ恒常的にニューロンの基 2+ Ca 振動,つまりシナプス伝達を抑制した。 礎活動性をコントロールしている可能性を示 さらにこの Ca2+ 振動抑制作用は,ATP分解酵 唆するものである。実際,海馬のニューロ 素apyrase処置により消失した(図3B)。つま ン−アストロサイト共培養細胞系にapyraseを り,アストロサイトから放出された ATP ,グ 添加してアストロサイトから放出されるATP リア伝達物質ATPは海馬の興奮性シナプス伝 を除去すると,シナプス伝達に起因するニュ 達をダイナミックに抑制するのである(図 ーロンのCa2+ 振動は,その頻度及び振幅とも 3C)。また,アストロサイトはニューロンの に爆発的に増強された(図4A及び図4B #1活動電位をtetrodotoxin(TTX)で完全に抑制 2)。一方このときapyraseはアストロサイトの した場合でも,またニューロンが存在しない 80(654) BIO Clinica 26(7),2011 自発的Ca2+波を完全に消失 させた(図4A及び図4B #34)。つまり,アストロサイ トは自発的に細胞外ATP放 出を調節することにより, シナプス伝達を恒常的にし かも強力に制御している可 能性,ニューロンの活動は アストロサイトのコントロ ール下に置かれている可能 性が示唆されたのである。 3. グリア伝達を抑制した 遺伝子改変動物 アストロサイトはどのよ うにグリア伝達物質を放出 しているのであろうか? 少 図4 ATP分解酵素 apyraseによるシナプス伝達増強作用 なくとも5種類のATP放出 A. ATP分解酵素アピラーゼ(20units/ml)を添加すると,ニューロンのCa2+振動 経 路 が 示 唆 さ れ て い る 。 (シナプス伝達)は増強された(細胞1,2)。このとき,アストロサイトの自発的 Connexin,pannexinが形成 なCa2+変動は逆に抑制された(a細胞3, 4)。 するヘミチャネル,maxi- B. A(i)〜(iii)に相当する時間の細胞内Ca2+濃度変化の疑似カラー像(左端は位相 差顕微鏡像) 。番号はAのトレース番号に一致している。 anion channel,P2X7受容体, とされた。この研究により重要な知見が2点 Cl- channelを介した自由拡散及び開口放出で 明らかとなった。つまり,(1)アストロサイ ある。このうち,最も積極的かつ調節性に富 トは開口放出によりATPを放出しシナプス伝 んだ化学物質放経路は,ニューロンや内分泌 達を抑制していること,(2)アストロサイト 腺等が行う開口放出である。アストロサイト はATP以外のグリア伝達物質(グルタミン酸 が,小胞様の構造を有していること,SNARE 等)も放出することが知られているが,dn蛋白を発現していること,Ca2+依存性化学物 SNAREマウスアストロサイトで放出が阻害さ 質を放出すること等を考えると,開口放出に れた分子はATPであったこと,である。以上 よる放出を行っている可能性が高い。Pascual ら(2005)は,不活性体SNARE(dn-SNARE) の結果は,アストロサイトはきわめて積極 的・調節性に富んだメカニズムでATPを放出 をアストロサイト特異的にノックインした遺 し,脳内細胞間コミュニケーションを制御し 伝子改変マウス(dn-SNAREマウス)を作成 ている可能性が強く示唆された。 し,アストロサイトの開口放出能を消失させ るとシナプス伝達がどのように影響されるか を詳細に検討した12)。このdn-SNAREマウス脳 では,ATP放出が低下していること,細胞外 ATP及び分解産物アデノシン濃度が低下して いること,これにより興奮性シナプス伝達に 対する抑制作用が低下し,結果としてシナプ ス伝達の興奮性が高まっていることが明らか 4. グリア伝達と生理機能 最近,グリア伝達物質ATPに関する非常に 興味深い報告,つまりアストロサイトによる 呼吸調節に関する報告がなされた。延髄の化 学受容器は,血中pH低下を関知すると,遠心 BIO Clinica 26(7) ,2011(655)81 BIOLOGY TOPICS 図2 IL-17産生細胞の検索と,γδT細胞除去抗体の投与による脳保護効果 (a) IL-17産生T細胞の主なソースはγδT細胞である。(b) 脳虚血発症24時間後にTCRγδ 抗体を投与して体内から γδT細胞を除去した場合でも,発症7日目の脳梗塞体積が縮小する(MAP2染色) 。 (参考文献7より引用) を用いた解析では梗塞体積が縮小することか ら,γδT細胞の脳梗塞の病態への寄与が明ら かとなった(図2)。Th17の分化誘導には抗原 特異的なTCR刺激のほかにTGFβやIL-6による 刺激が必要で分化誘導には数日を要する。そ の点,γδT細胞は自然免疫を担う細胞であり, IL-23によって速やかにIL-17産生が誘導され るため,脳梗塞のような急性炎症の病態に関 与することは合理的であると考えられる。 5. 脳虚血とIL-10 6. TLRと虚血性脳傷害 これまでに,heat shock protein (HSP)や過酸 化脂質などの内因性リガンドによるTLRの活 性化が虚血による組織傷害に関与しているこ とが明らかになっている。脳虚血における TLRの内因性リガンドとしてはHSPのほか, MRP8やMRP14,HMGB-1が知られている15) 16)。 TLR2やTLR4 KOマウスでは脳虚血ダメージの 軽減が報告されているがTLRを介する刺激が 神経や組織修復にも影響している可能性も示 唆されている。 IL-10は主にT細胞が産生する抗炎症性サイ おわりに トカインである。脳室内にIL-10を過剰発現さ せるアデノウイルスベクターを投与すると, 神経細胞死が抑制されることから,IL-10は神 経保護効果のあるサイトカインであると考え られる13)。最近,CD4陽性ヘルパーT細胞のサ ブセットの1つである抑制性T細胞(Treg)が IL-10を産生し,TNFαやIFN-γの作用を抑制す ることで神経保護的な作用を持つことが報告 されている14)。 86(660) BIO Clinica 26(7),2011 本稿ではIL-17産生性γδT細胞を中心に,脳 虚血の病態におけるT細胞による炎症メカニ ズムにつき概説した(図3)。炎症を促進する ようなT細胞を標的として脳虚血亜急性期に おける新たな脳保護療法を開発できる可能性 がある(図4)。今後も詳細なT細胞の機能解 析が期待される。