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社会的プレッシャーがワーキングメモリに及ぼす影響の男女差
社会的プレッシャーがワーキングメモリに及ぼす影響の男女差 ○小林晃洋1 ・大久保街亜2 (1 専修大学大学院,2 専修大学) キーワード:あがり現象,ワーキングメモリ,社会的プレッシャー Gender differences in working memory disruption under social pressure. Akihiro KOBAYASHI1 and Matia OKUBO2 ( Graduate School of Humanities, Senshu Univ. 2 Senshu Univ.) Key words: Choking under pressure, Working memory, Social pressure 1 目 的 プレッシャーにより課題成績が低下する「あがり現象」 (Choking under pressure) について,ステレオタイプ脅威説 (Schmader & Johns, 2003) によると,プレッシャーによる不安 がワーキングメモリ (WM) を奪うことで生じるという。ただ しプレッシャーによる不安が WM を奪う機序ならびにその 個人差はこれまで検討されていない。そこで本研究では社会 的プレッシャー (Beilock & Carr, 2001) と空間・言語 WM 課題 を用い,社会的行動の男女差という観点からプレッシャーの 性質について検討した。一般に男性は女性よりも社会的競 争を重視し (Eagly, 1995; Tannen, 1999),女性は男性よりも社 会的協調を重視するとされる (Tannen, 1999)。社会的プレッ シャーによるステレオタイプ脅威が社会的競争に関するもの であれば男性の,社会的協調に関するものであれば女性の 課題成績がより低下するだろう。またその影響も言語 WM や空間 WM の違いによって異なる可能性がある。不安の影 響は特性不安の高い人で顕著なため (Byrne & Eysenck, 1995), プレッシャーの影響も高特性不安群でより強く表れると考え られる。 実験1 方法 実験参加者は右利きの大学生 84 名 (女性 44, 男性 40) であった。各参加者の特性不安を日本語版 STAI(清水・今栄, 1984) を用い,得点の中央値を基準として参加者を二分しそ れぞれ高特性不安群,低特性不安群とした。その後半数の参 加者に Beilock & Carr (2001) の社会的プレッシャーを提示し た。これは文章による教示で,自身の失敗が他者に迷惑をか けるという内容のものであった。 課題 Shackman et al. (2006) の空間・言語 3-back WM 課題を 行った (図 1)。空間 WM 課題の目的はある試行で呈示された ターゲット (□) の呈示位置が 3 試行前に呈示された位置と 一致するかどうかを試行ごとに回答していくものであった。 一方言語 WM 課題の目的はある試行で呈示されたターゲッ ト内に書かれた文字の種類が 3 試行前に呈示されたターゲッ ト内に書かれた文字の種類と一致するかどうかを試行ごとに 回答していくものであった。空間 WM 課題と言語 WM 課題 は同時に行わず,ブロックごとに分けて行った。またどちら の課題を先に行うかは参加者ごとにカウンターバランスを とった。 性),不安 (高・低),社会的プレッシャー (高・低) の 4 要因 分散分析を行った。言語課題は空間課題よりも成績が高く (F(1, 69) = 64.63, p < .0001, η2 = .49),課題 × 性別 × 社会的プ レッシャーの交互作用が有意傾向だった (F(1, 69) = 3.20, p = .07, η2 = .04)。またプレッシャーの影響について男女ごとに分 析を行ったところ,男性について不安 × 社会的プレッシャー の交互作用が有意であり (F(1, 32) = 4.81, p < .05, η2 = .13), 空間課題成績は低不安男性群よりも高不安男性群のほうが 低かった (t(15) = 5.95, p < .05, r = .56)。一方女性へのプレッ シャーの影響はみられなかった (F s < 1, η2 s < .001)。 図 2: 実験 1 における WM 課題の平均正答率 (エラーバーは標準誤差) 考察 実験 1 の結果から,社会的プレッシャーが男性・高不 安群の空間 WM に影響を及ぼすことが示唆された。言語課 題にこのようなプレッシャーの効果はなかったが,課題が簡 単なことで社会的プレッシャーの影響が弱まった可能性があ る。そこで実験 2 では言語課題の難易度を高めこの可能性に ついて検討を行った。 実験2 方法・課題 実験参加者は右利きの大学生 80 名 (女性 43, 男 性 37) とした。言語課題はターゲットを 2 種類の文字とした (実験 1 では 1 種類)。その他の条件や空間課題は実験 1 と同 じであった。 結果 実験 2 における WM 課題成績の平均正答率を図 3 に 示した。言語 WM 課題は空間 WM 課題よりも成績が高かっ た (F(1, 68) = 11.10, p < .001, η2 = .14)。また男性高不安群に おいて高プレッシャー群は低プレッシャー群よりも課題成績 が低かった (F(1, 15) = 5.95, p < .05, η2 = .28)。一方女性への プレッシャーの影響はみられなかった (F s < 1.87, η2 s < .04)。 図 3: 実験 2 における WM 課題の平均正答率 (エラーバーは標準誤差) 図 1: 空間 WM 課題,言語 WM 課題の例 結果実験 1 における WM 課題成績の平均正答率を図 2 に 示した。これについて,課題 (空間・言語),性別 (女性・男 総合考察 実験 1,2 の結果から,社会的プレッシャーは高特性不安の 男性に影響を及ぼす効果をもつことがわかった。これは社会 的プレッシャーが,男性が重視する社会的競争に関するステ レオタイプ脅威となる可能性を示唆する。また実験 2 の結果 から,社会的プレッシャーは空間・言語 WM の両方に作用す るか,中央実行系へ影響を及ぼす可能性が考えられる。