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大規模災害時のICT活用による備え検討WG 報告書

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大規模災害時のICT活用による備え検討WG 報告書
大規模災害時のICT活用による備え検討WG
報告書
一般社団法人 九州経済連合会
情報通信委員会 企画部会
大規模災害時のICT活用による備え検討WG
2013年5月
目
次
1.はじめに
2.東日本大震災で明らかになった課題とICT利活用例
(1)国、自治体、電気通信事業者が今後取り組むべき事項(課題)
(2)ICT利活用例
(3)九州の防災力としての課題
3.九州で想定される被害規模
(1)南海トラフ巨大地震
(2)九州の災害の特性
(3)九州西海岸の活断層について
(4)九州における立地条件や熱帯化する豪雨
4.各社の防災対策/BCP策定状況
(1)BCP/災害対策業務計画/災害対策方針策定状況について
(2)被害報について
5.災害対応の効率化の先行的な取組み
(1)先行事例:情報共有
九州広域防災ポータルサイト
(2)先行事例:情報共有
九州防災ポータルサイト
(3)先行事例:情報共有
九州のりもの info.com
(4)先行事例:トレーニング
6.産業界における備え
7.今後の方向性
8.おわりに
ハイパーネットワーク2012ワークショップ
1.はじめに
平成 23 年 3 月 11 日に東北で発生した未曽有の大災害をトリガーに、国内では大規模災害に備
えた議論が活発化している。それは東日本大震災が、現代の日本国民に対して、我が国観測史上
初の M9.0 の規模で東北地方を中心に最大震度7という強い揺れを生じさせたのみならず、巨大
な津波を引き起こし、東北地方から関東地方の太平洋沿岸部に甚大な被害を与えたからである。
この東日本大震災以降、日本各地で想定される地震の再評価が行われている。その中でも甚大
かつ広範囲で、我々が生活する九州にも大きな被害を及ぼすと言われているのが南海トラフ巨大
地震である。これについては、国レベルで有識者が集められ、日々細やかなシミュレーションが
行われている。
また、九州は昨今の気候の熱帯化による短時間かつピンスポットに降る集中豪雨が頻発すると
ころでもある。災害多発地域で事業活動、経済活動を維持・継続していくために、すぐにでも起
こりうる災害に備えた検討を進めておくことは必要不可欠なことであると考える。
九州では福岡西方沖地震が平成17年に発生以後、東日本大震災がさほど年月を空けることな
く発生したため、災害に対する意識がさほど薄らいでいないと思われる。したがって可能な限り
その意識が薄まらないうちに大規模災害に備えた検討状況について情報発信することは意味が
あると考え、
(一社)九州経済連合会・情報通信委員会企画部会では、この大規模災害に対して
備えるという課題に対して、ICTの観点で検討を行うためにワーキンググループ(WG)を立
ち上げ、その議論を整理した。
本報告書は、九州の企業がBCPや災害対策等を検討するに当たり、気づきを与えるような情
報として共有することで、九州全体の防災力強化につながることを望むものである。
-1-
2.東日本大震災で明らかになった課題とICT利活用例
(1)国、自治体、電気通信事業者が今後取り組むべき事項(課題)
総務省は、平成 23 年 4 月から緊急事態における通信手段の確保の在り方について検討するこ
とを目的として「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」を開催し、
平成 23 年 12 月 27 日最終取りまとめを実施した。その最終取りまとめ「アクションプラン」に
基づいて抽出された国・電気通信事業者等の各主体が今後取り組むべき事項が以下の通りである。
表 1.国・電気通信事業者等の各主体が今後取り組むべき事項i
また、平成 23 年度に九州総合通信局が中心となってまとめた“九州地域における大規模災害
発生時の通信手段確保に関する報告書”では、以下のような課題が挙げられている。
表 2.各組織が取り組むべき事項ii
国が今後取り組むべき事項
1
情報収集・伝達等の見直しを引き続き進めることが課題。
2
総務省が通信機器等の備蓄・調達体制を整備し、市町村における災害予防及び災害応急対策での連絡手段
を確保するために、衛星携帯電話等の貸出しを行っていること等についての一層の周知が課題。
3
複数の通信システム構築に向け、整備コスト、要員問題(技術的知識の向上、要員不足)が課題。
4
災害時には、日常的に利用又は認識している通信手段を利用する傾向にあり、通話以外の有効な通信手段
に関する周知・啓発が課題。
5
市町村においては、電話回線・携帯電話の代替として、無線を利用した情報通信機器の整備が求められ、
停電時の非常用電源確保が課題。また、複数の情報手段の整備のための予算確保が重要な課題。
自治体が今後取り組むべき事項
1
情報収集・伝達等の見直しを引き続き進めることが課題。 県の情報収集窓口の集約化、収集情報の県組織
内での共有体制は、奄美災害等で指摘された課題。
2
市町村においては、電話回線・携帯電話の代替として、無線を利用した情報通信機器の整備が求められ、
停電時の非常用電源確保が課題。また、複数の情報手段の整備のための予算確保が重要な課題。
-2-
3
連絡手段がなく、災害対応に支障が出る状況を回避するため、衛星携帯電話の分散備蓄等を検討する等、
通信手段を確保するための解決方策(予算確保等)が課題。
4
防災行政無線、衛星携帯電話等の各種通信手段が十分活用できるよう、日常的利用、定期的訓練が不可欠。
大災害時は職員確保も困難なため、防災部門以外の職員への分かりやすい操作マニュアルの早急な整備が
課題。
5
孤立集落等では災害時に住民が直接通信機器を使用せざるを得ない状況が発生するため、住民向けのマニ
ュアル作成や研修を行うことが課題。
6
市町村は、豪雨による水害だけでなく、沿岸部では南海地震等による津波を想定して、非常用電源設備の
設置場所、浸水対策を再点検し、必要な対策の実施が課題。 東日本大震災では非常用電源の燃料枯渇が大
きな問題。使用可能時間を踏まえた燃料備蓄、燃料の迅速かつ安定的確保方策の検討が課題。 財政上、非
常用発電機の備蓄は困難な意見が多数。同一地域の自治体が協力して備蓄するなど、負担を減らしつつ地
域全体の備蓄数を少しでも増やすことができないか検討することが課題。 停電時でも通信手段の利用に必
要な電源確保ができるよう、避難所における非常用発電機の確保についての検討が課題、その際には地域
住民でも操作できる簡便な非常用発電機とする配慮が課題。
7
県は、各機関保有通信機器の把握、応援のための通信機器の整備、担当者間の日頃からの情報交換・情報
共有の強化、情報通信に携わる職員の育成が課題。 市町村は、情報交換を強力に推進することが課題。
8
全県で電気通信事業者が防災訓練に参加できるようにすること、連絡体制構築も併せて検討することが課
題。
9
発災後のインターネットアクセス環境整備には時間がかかるため平時から環境を整えておくことが望まし
い。大半の避難所は通常無人のため、対象避難所の選定が課題。
電気通信事業者が今後取り組むべき事項
1
非常災害時における県との情報共有、伝達体制は不十分。 事業者は、指定公共機関でないと自衛隊や自治
体等の協力が得られない、県との窓口設定が必要と認識。 また、緊急通行車両の事前届済証の交付は、指
定(地方)公共機関以外の事業者は対象外。 非常災害時における情報収集の流れに沿った訓練の実施、通信
機器に係る適切な対応方法など情報提供が課題。
2
非常災害時における道路管理者と事業者の情報共有、伝達体制が不十分。 電気通信の復旧作業に支障があ
る被災道路の優先復旧、仮設道路建設、迂回路等について道路管理者と協議できるようにすることが課題。
3
電気事業者の電柱に共架している通信ケーブルの被災状況や携帯基地局等への停電状況の把握は重要。情
報共有・協力体制を強化し、停電の復旧見込情報がいち早く入手出来る環境の構築が課題。 特に山間部等
の基地局への電力供給の復旧(仮復旧)所要時間等、詳細情報がいち早く入手出来る環境の構築が重要。
4
非常災害時における情報収集の流れに沿った訓練の実施、通信機器に係る適切な対応方法についての訓練
は重要。 燃料や自家用発電機の確保・輸送等のため、防災関係機関との連携が求められるが、現状は不十
分。九州管内に多い離島で大規模災害が発生した場合、国土交通省との連絡体制の確保は重要。
5
東日本大震災における防災対応機器のニーズを踏まえた通信機材の確保が重要。 貸与機器搬入場所、避難
者人数等の情報を迅速に入手する連絡体制の構築が課題。 本土から離島への応急復旧用資機材、要員の運
搬・搬送手段やルートを想定している事業者が少なく、また、運搬・搬送手段提供先との連絡体制を確保
している事業者も少ないことから、離島への運送・搬送が十分行えない状況。
6
奄美豪雨災害、東日本大震災等を踏まえた情報収集体制の見直しを行う事が課題。
7
電線共同溝等の導入促進、交換局・基地局等の局舎については、基礎の嵩上げや扉構造等の強化(防水仕様)
及び給排気口の取付場所、局舎内部での基礎架台の再検討を行い、災害に強い通信設備の構築とネットワ
ーク化を図ることが課題。 さらに基地局の無停電化やバッテリーの長時間化の推進、移動電源車の増車が
課題。
8
災害関連情報提供のポータルサイトでは、避難所ごとの名簿等作成でデータベース化が必要となり検索サ
ービス提供に時間を要し、また、避難所情報等の公開の是非・範囲等について、ポータルサイト運営事業
者が行政機関等に個別に情報提供を要請したため公開に時間を要し非効率。
これらの課題の多くは、迅速な情報収集・情報共有もしくは、電源確保の問題であり、それを
いかに解決するかが復旧の立ち上がりスピードを上げるためのポイントとなっている。
-3-
(2)ICT利活用例
東日本大震災被災時の情報通信手段の状況は、以下のようになっている。また、表には記載さ
れていないが、PHS や衛星携帯電話も有効な通信手段として活用されている。
表 3.東日本大震災時の情報通信手段の状況iii
情報通信手段
有効性
○
ラジオ
固定電話
×
携帯電話(docomo, au, softbank)
△
いわて情報ハイウェイ
×
庁内LAN(各自治体)
×
防災行政無線
△
無線 LAN
○
Internet 衛星通信(Internet)
○
<凡例>
○:有効な手段であった
△:稀に有効な手段であった
×:あまり有効な手段でない
当然のことではあるが、東日本大震災においては道路ごと津波に流されたこともあり、有線系
通信網は壊滅的な被害を受けたため、ワイヤレス系の通信手段が活躍している。被災直後の復旧
期には、これらの通信手段を用いて、迅速な復旧対応を実践することとなる。
次に、東日本大震災におけるICTを活用した支援活動の例を紹介する。
表 4.ICTを活用した支援活動iv①
伝言・消息情報
岩手日報社(岩手県)は、3 月 14 日付から約 3 週間にわたり、岩手県内約 300 ヶ所の避難所に避難していた被災者約 5 万
人ほぼ全員分の氏名を報道した。同社の HP は初日からアクセスが殺到しサーバがダウンしたが、47 ニュースや北海道新聞
社が転載を申し出てアクセスを分散させ、閲覧可能な状態を維持した。
東日本電信電話(NTT 東日本)と西日本電信電話(NTT 西日本)は、それぞれ「災害用伝言ダイヤル」 (171) と「災害用
ブロードバンド伝言板」 (web171) の提供を開始した。
KDDI (au)、ソフトバンクモバイル、NTT ドコモ、イー・モバイル、ウィルコムの携帯電話各社は災害用伝言板サービスを
開設している。
Google は「Google Person Finder (消息情報) 2011 日本地震」という消息情報を登録・照会するためのサイトを開設
した。【携帯版】。NHK の安否情報も含み、次の機関、企業、団体から提供されたデータが登録されている(NHK、朝日新聞
社、警察庁、福島県、山形県)。
NHK は、安否情報を Google に提供。NHK オンラインのトップページ(右上)から「Person Finder (消息情報)」を利用
し、「安否情報検索」ができるようにしている。なお、表示された結果には、「NHK の安否情報ダイヤル」に寄せられた安
否情報であることが表示される。
日本赤十字社と赤十字国際委員会は、無料の安否確認サイト「Family Links(ファミリー・リンク)」を立ち上げ、日本
語でも利用可能にした。
岩手県警・宮城県警・福島県警 が 行方不明者相談ダイヤルを開設。岩手県警ではアクセス殺到のため、暫定版ホームペ
ージを設けた。
IBC 岩手放送は「IBC 安否情報 東日本大震災」で岩手県の被災地の避難者の名前を掲載している。
YouTube は、東日本大震災において被災した人々のメッセージ動画を集めて紹介する「YouTube 消息情報チャンネル」を
開設した。
警察庁のサイトでは、「今回の災害でお亡くなりになり身元が確認された方々の一覧表」を、PDF ファイルで閲覧できる。
含まれる内容は、岩手県・宮城県・福島県・3 県以外の都道県、となっている。この一覧表の内容に関する問合せは、各都
道府県警察にするように記載されている。また、この情報は、上記 Google パーソンファインダーでも検索できる。
-4-
表 5.ICTを活用した支援活動②
インターネット(総合サイト)
Google は、上記消息情報や、ニュース、リンク集、地図などをまとめた Crisis Response という特設サイトを開設した。
goo では地震・津波に関する情報や、停電情報、交通情報や避難所からのメッセージなどの安否確認情報などを提供する
特設サイトを開設している。
Yahoo! JAPAN では、地震・津波災害に関する特設サイトを開設している。
日本マイクロソフトでは、当社 MSN Japan サイトにて、地震・津波災害、安否情報に関する特設サイトを開設している。
地理情報システムを提供している ESRI は、震源、震度情報や Youtube、Flickr、Twitter などのソーシャルメディアを地
図上にまとめた特設サイトを開設した。
防災科学技術研究所は被害状況、生活、ボランティア、復興支援、専門学会・協会などの情報を総合的に集約した「ALL311」
という特設サイトを設けた。
NHK オンラインは警報・注意報、伝言ダイヤル・消息情報、避難所情報、原発情報、ライフライン、ニュース番組ライブ
中継サイトなどへのリンクをまとめたページを設けた[37]。また、NHK の携帯電話向けのニュースサイトでは、「東日本大
震災」・「福島第一原発関連」のニュースを携帯電話から閲覧できる。
NHK の「各放送局災害情報」には、東北の 6 放送局と、関東・甲信越の 9 放送局によるライフライン・交通・生活などの
地域情報が掲載され、携帯電話からもアクセスできる。
首相官邸には、「東日本大震災への対応」というサイトがある。内容は、「被災された方へ」、「国民の皆様へ」、「支
援をお考えの方へ」。この中には被災者への医療、健康、安全についての情報もある。また、インターネットなどの通信機
器が使えない人のために、壁新聞「被災者のみなさまへ 政府からのお知らせ」を発行した。内容は「必ず知ってほしいこと」、
「くらしに役立つ情報(医療・健康のこと、住まいのこと、お金のこと、学校のこと、子育てのこと)」、「復旧状況(電
気・ガス・水、通信、道路、鉄道)」。
表 6.ICTを活用した支援活動③
サービス・アプリケーション
Twitter は、同社 Blog にて、公式なハッシュタグの利用、不確定情報の伝播の防止を訴えるページを開設。
Facebook は、同社 SNS サービスにて、震災用コミュニティページを開設。
Evernote は日本語ユーザーを 1 ヶ月無料でプレミアムにアップグレードする。
Honda は、地震支援のため通行可能道路の情報を Google Earth で提供。
日本マイクロソフトは、同社クラウドプラットフォームである Microsoft Windows Azure の、震災対応用 90 日間無償パス
を発行している。
Amazon.co.jp のクラウドサービスである、Amazon Web Service の日本ユーザグループ AWS・JAWS-UG では、同サービスを
災害復興などに利用するための情報ページを開設した。
これらの例を見てわかる通り、被災時に非常に多くの情報収集・情報共有関連のサイトが活用
されたことがわかる。いずれも初期段階でのICT活用は、情報収集、情報共有が重要であるこ
とがわかる。
(3)九州の防災力としての課題
平成 2 年(1990 年)の梅雨前線による根子岳崩壊で 8 名、平成 3 年の台風 19 号で 16 名、同年
の雲仙岳噴火・火砕流で 40 名の命が失われ、平成 24 年の九州北部豪雨では、31 名の命が失われ、
被害総額は約 2000 億円とも言われている。そんな中で、防災対応力や意識も向上しているが、
次なる大災害に備えた広域連携が課題である。
本WGアドバイザーでもある九州大学大学院工学研究院附属アジア防災研究センター長
の塚原健一教授は、アメリカの危機管理庁のような市町村、都道府県単位ではなく、国レベル、
地域レベルの広がりを持って危機管理・防災を 統合調整する機関が必要だと強調している。
-5-
図 1 は、九州としての防災力を向上させるための連携系、関連イメージだが、これを具現化す
るためには、労力と時間がかかる。各組織の体制や窓口の整理だけでなく、被災時にやりとりす
る情報項目、活用するICTツールの準備と費用負担、災害対策本部連携の運営体制、それをい
ざという時にスムーズに稼働させるための日常的な訓練の実施等、調整事項は多岐に渡るため、
早い段階で調整に入り、次の災害に備える必要がある。
図 1.産学官の連携による防災力の向上イメージv
また、平成 24 年 6 月に福岡県の防災危機管理局(防災企画課、消防防災指導課の2課からな
る)が実施した総合防災訓練では、
「県境を越えた住民避難」という課題が出た。糸島市から唐
津市方面に避難するというような、まさに、福岡県と佐賀県が連携した避難体制の必要性であり、
九州における広域連携の具現化に向けたひとつのきっかけと言えるだろう。福岡県は、この総合
防災訓練の前の月(平成 24 年 5 月)に “福岡県地域防災計画・震災対策編vi”を「地震・津波
対策編」として見直しを行っている。
-6-
3.九州で想定される被害規模
大規模災害に対するICT活用による備えを検討するにあたって、現時点で九州が被災する可
能性が高い災害による被害規模について再確認を行う。
(1) 南海トラフ巨大地震
内閣府は、中央防災会議防災対策推進検討会議の下に平成 24 年 4 月に設置された「南海トラ
フ巨大地震対策検討ワーキンググループ」において、南海トラフ巨大地震を対象として具体的な
対策を進め、特に津波対策を中心として実行できる対策を速やかに強化していくことが重要との
認識の下、当面取り組むべき対策等をとりまとめた中間報告を平成 24 年 7 月 19 日に策定し、並
行して被害想定手法等について検討を進め、平成 24 年 8 月 29 日に南海トラフ巨大地震の被害想
定の第一次報告を、平成 25 年 3 月 18 日に第二次報告をとりまとめ、建物被害・人的被害等の推
計結果を、大きく被災する地方毎に以下の4つのパターンで被害ケースを想定し、公表した。
東海地方が大きく被災するケース
近畿地方が大きく被災するケース
四国地方が大きく被災するケース
九州地方が大きく被災するケース
ここでは「九州地方が大きく被災するケース」についての被害想定を紹介する。(以降、いず
れも複数データがある場合には、被害規模が大きなものを選定して掲載)
図 2.震度分布図vii
-7-
宮崎県中部では、震度7が想定されており、平成 17 年 3 月 20 日午前 10 時 53 分に、地震空白
域と言われる地域で発生した福岡県西方沖地震の規模と同等の震度 6 弱の地震発生の可能性が宮
崎県ほぼ全域に広がっている。
図 3.津波高分布図viii
津波については、九州東海岸側で 10〜20m の津波が想定されており、九州西海岸側でも 5m 規
模の津波が想定されているため、九州の沿岸部 7〜8 割の地域が津波の被害を受ける想定になっ
ており、津波に対する備えは必要である。
人的被害、建物被害、ライフライン被害等の想定規模については、次ページの通りとなってい
る。やはり東九州の大分県、宮崎県の被害想定規模が非常に大きくなっている。
-8-
図 4.南海トラフ巨大地震―九州の被害想定ix
-9-
また、南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告)平成 24 年 8 月 29 日に記載され
ている『南海トラフ巨大地震発生時に想定される人的被害のシナリオ』を参考のため記載する。
ここには、様々な被害ファクターが掲載されており災害対策を検討する上での参考情報が紹介さ
れている。
表 7.南海トラフ巨大地震発生時に想定される人的被害のシナリオ(1)x
- 10 -
表 8.南海トラフ巨大地震発生時に想定される人的被害のシナリオ(2)xi
- 11 -
また、国土交通省は、この平成 24 年 8 月 29 日に発表された内閣府の南海トラフ巨大地震の被
害想定の情報を元に、津波に対するより安全な早期復旧対策を検討するために、南海トラフ巨大
地震の想定津波より大きな被害規模として 1m 程度上回る津波が来ることを想定した、国内の6
つの空港の津波浸水被害想定を発表しており、九州では大分空港、宮崎空港がその対象となって
いる。
<大分空港>
・空港の半分程度が浸水する。
・ターミナルビル前面の浸水深は最大 0.2m 程
度となる。
・空港内の最大浸水深は誘導路周辺で発生し、
2.5m 程度となる。
<宮崎空港>
・空港の大部分が浸水する。
・ターミナルビル前面の浸水深は最大 0.5m と
なる。
・空港内の最大浸水深は東側先端部で発生し、
8m 程度となる。
図 5.大分空港、宮崎空港の被害想定xii
(2)九州の災害の特性<第1回WGにて提示された九州地方整備局の資料より>
日本では、九州のみならず、全国規模で年々少雨と多雨の変動幅が大きくなっており、短時間
- 12 -
降雨(50mm/h)が発生する危険性は高まっている。
図 6.日本の自然災害特性xiii
図6の上右図からわかるように、日降水量 400mm 以上の降雨の年間発生回数が 20 年前と比較
すると約2.5倍にもなっている。
図6の下図に示されるように、特に九州は台風の経路にあたることもあり、他の地域に比べ、
台風の上陸頻度が高く、また台風の勢力が強い状態で上陸する傾向である。50mm/h 以上の短時間
降雨の回数も九州が圧倒的に多い状況である。
- 13 -
表 9.九州の自然災害特性xiv
風水害、地震等、九州では、ここ数年毎年のように死者を出すような災害が発生している。
図 7.九州の自然災害特性xv
九州の自然災害の特性は、台風による豪雨に伴う家屋浸水や、土石流等の土砂災害による被害
が毎年のように発生している。また、桜島や新燃岳の噴火による災害も近年発生している状況で
ある。最近では、気象や地形による災害以外にも口蹄疫や鳥インフルエンザ等のウイルスによる
パンデミックも災害のひとつとして取り上げられるようになってきている。
- 14 -
(3) 九州西海岸の活断層について
政府の地震調査研究本部は、社会的・経済的に大きな影響を与えると考えられる M6.8 以上の
地震を引き起こす可能性のある活断層について、対象とする地域ごとに総合的に評価した「九州
地域の活断層の長期評価」を平成 25 年 2 月 1 日に発表した。
図 8.
九州北部の活断層の特性と想定される地震の規模xvi
九州北部区域内の活断層で発生しうる最大の地震
→西山断層帯全体が同時に活動:M7.9~8.2 程度
図 9.
九州中部の活断層の特性と想定される地震の規模xvii
九州中部区域内の活断層で発生する最大の地震
→別府-万年山断層帯の別府湾-日出生断層帯全体が
同時に活動:M8.0 程度
→布田川断層帯布田川区間+日奈久断層帯全体が同時
に活動: M7.8~8.2 程度
図 10.
九州南部の活断層の特性と想定される地震の規模xviii
九州南部区域内の活断層で発生する最大の地震
→日奈久断層帯全体が同時に活動:M7.7~8.0 程度
→日奈久断層帯全体+布田川断層帯布田川区間が同時
に活動:M7.8~8.2 程度
また、それらの地震が今後 30 年以内にどこかで発
- 15 -
生する確率は、九州の北部(福岡市など)が7~13%、中部(大分市や熊本市など) が 18~27%、
南部(鹿児島市など)で7~18%。九州全域では 30~42%となっており、最大で M8.2 程度と推
定している。
表 10.活断層で発生する地震の規模・確率xix
(4)九州における立地条件や熱帯化する豪雨
企業の立地条件もひとつの被災ファクターである。各自治体等がホームページで公開している
ハザードマップや土石流危険地域等の地図を参考にして、所在地の過去の災害を調査して、自社
の立地条件を再確認し、過去に発生した災害をハザードに設定するということも考えたい。
自然災害が発生しやすい土石流危険地域は、九州の至る所に分布しているため、過去の被災実
績がある等、危険と考えられる区域には立地したり、重要施設を設置したりしない方が望ましい
が、現実的には短期的に実現するには困難な課題である。従って被災した場合の復旧体制などを
整えておく必要がある。
例えば、図 11 のケースで述べると、八代 IC 付近は、土石流危険区域に九州新幹線、鹿児島本
線、九州自動車道、国道 3 号線という九州の大動脈が集中しており、災害時のこれらの機能確保
は災害復旧のためにも必要である。
- 16 -
図 11.土石流危険渓流・危険区域分布図xx
また、九州に限らず昨今の雨は熱帯化の様相を呈しているため、特に土石流危険地域は、降雨
による災害も十分に注意したい。豪雨災害の場合、過去最大の降雨が発生した場合重大な被害を
受ける可能性が高いため、このような降雨の場合は、十分に注意をする必要がある。しかし、雨
の降り方は場所毎に大きく異なっており、平成 24 年の九州北部豪雨の際も、5km 程度しか離れて
いない場所でも、それぞれ過去最大の 1.5 倍と 0.7 倍と、大きな違いがあり、その違いの情報を
リアルタイムに活用できれば、情報により回避できる危機もあると考える。
マスコミからの気象情報は「福岡地方」や「筑後地方」といった広範囲の情報しか通常提供さ
れず、自分の居る地点がどの程度の危険性があるのか把握が困難である。携帯電話や車のプロー
ブ情報等 ICT を活用したきめ細かな情報収集や情報提供の仕組み作りが、適切な災害への備えに
対して非常に重要である。例えば、気象台の短時間降雨予測で危険な地域にエリアメール等で警
告を出す、カーナビで危険な箇所を通行中の車両に注意を喚起する等の可能性が考えらる。国内
レベルで見れば、すでに市販されているミクロな気象情報を活用して、路線の気象予測を行い、
鉄道の運行管理に役立てている鉄道会社もあり、今後、ミクロな気象情報の活用は拡大すると思
われる。
- 17 -
図 12.九州北部豪雨の際の矢部川流域の降雨状況xxi
- 18 -
4.各社の防災対策/BCP策定状況
前項の課題の中で、情報収集及び共有についてのことが多く取り上げられているので、本WG
でより具体的な情報収集・共有の仕組みや情報項目の考察を行うため、WGメンバー企業に対し
て、各社の防災対策/BCPについてのアンケート調査を行い、メンバー企業で被災時の復旧段
階において必要な情報項目について出し合い共有した。
以下に調査結果を紹介する。
(1)BCP/災害対策業務計画/災害対策方針策定状況について
WG参加企業の中で、災害対策マニュアル(災害対策業務計画)/BCP対策/大規模災害の
対策に準ずるものを策定している企業をアンケートにより調査した。特に、南海トラフ大地震の
発生が想定されている東九州側に立地している企業の中には、より充実したBCP対策を検討さ
れている企業もあり、本WGに参加した企業には、参考になるものであったと思われる。
策定されたものについては、特に地震用、津波用というように特定の災害に限定されたもので
はなく、基本的には、すべての災害や事故に対して対応するものであった。
図 13.災害対策対応状況アンケート結果
アンケート結果から、大規模な災害に対する対応は、半数以上の企業が実施できているが、B
CPに対する対策が遅れていることがわかる。
- 19 -
表 11 に民間企業における具体的な対策例を示す。ICT関連の対策とそうでない対策を分類
しているが、ICT関連のツールを活用することを考慮すれば、計画や訓練もICT関連対策と
なって比率も高くなる。
表 11.民間企業における具体的な対策例
リモートアクセス環境の構築
ICT関連対策
営業店舗に非常用電源を設置
ICT関連対策
安否確認システムの導入(複数回答)
ICT関連対策
非常用食料の準備
バックアップセンターの設置
ICT関連対策
定期的な事業継続訓練を実施(特に工場系)
事業継続計画の見直しを実施
主要システムの遠隔地二重化を実施
ICT関連対策
本社ビルBCP用非常用発電機設置
ICT関連対策
震度に応じた、自動出社体制の規定
本社損壊時の、近傍の支社における最低限の事業継続計画・訓練(訓練済み)
遠隔地のバックアップサーバー設置(一部構築中)
ICT関連対策
衛星通信手段の確保(複数回答)
ICT関連対策
非常用電源用燃料確保のための隣接他県同業者との協定(策定中)
ICT関連対策
大規模な災害およびネットワーク障害を想定した災害対策マニュアルの制定
①被害レベルに応じた体制・指示命令系統
ICT関連対策
②各組織の役割分担(ネットワーク復旧・お客様対応等)
③警戒・初動・復旧段階での各組織の行動フロー
等
広域での災害復旧支援も含めて、全国規模での定期的な防災訓練の実施
ネットワークの信頼性確保のための対策を実施。
(基地局へのバッテリー搭載、大ゾーン基地局の設置、移動基地局・電源車
の配備、全国集約サーバのバックアックセンター化等)
ICT関連対策
等
本人・家族の安否情報確認
ICT関連対策
自家発燃料タンクの増量
非常災害対策用備蓄品の増量
地震規模に応じた指定箇所への自動出社ルールの策定
緊急地震速報の活用
ICT関連対策
津波ハザードマップの整備
ICT関連対策
各種システムのバックアップサーバ設置
ICT関連対策
最低限活かしておかなければならない業務とそのための必要要員数の事前整理
大規模災害を想定した定期的な災害訓練実施(複数回答)
参集訓練(指定拠点までの徒歩もしくは二輪車による)の実施
※類似したものも掲載しています。
- 20 -
以下に、WG参加企業の参考となった東九州側に立地している旭化成株式会社様のBCP対策
資料(抜粋版)を掲載させていただいた。
- 21 -
図 14.旭化成株式会社様のBCP対策資料(抜粋版)xxii
- 22 -
(2)被害報について
被災時における被害報については、WG参加企業中5社が一般に公開していた。被害報で共有
される情報項目については、WG参加企業がすでに公開している情報項目と希望する(いざとい
う時に共有して欲しい)情報項目には大きな差がある。また、今回、WG参加企業以外の組織へ
のヒアリングを実施した結果、公開を希望する情報項目の中には、すでにホームページ等で公開
されている(もしくは被災時のみ公開される)情報項目も存在したので、関係各社が効率よく情
報収集する仕組みの必要性はあることがわかった。
以下に、メンバー企業の現在被害報として公開している情報項目を示す。<表 12>
表 12.現在公開されている被害報に含まれる情報項目(現状/WGメンバーの被害報より)
情報項目(復旧状況)
参照元
国、自治
道路
日時、区間、距離、規制開始基準、周辺地図
九州地方整備局、各自治体等
体
交通
路線、方向、規制区間、原因、規制内容
(財)日本道路交通情報センター
電力
県及び市区町村単位(町丁目レベルまで)、復旧見込み
九州電力
電話:局番単位(日時)
NTT 西日本
光 IP:町単位(日時)
KDDI、NTT 西日本
通信
ライフ
民間
通信
復旧エリアマップ、サービス中断エリア、不具合状況(お
(携帯)
客様影響)、サービス中断原因
放送
長時間の電波停止
RKB 毎日放送、KBC 九州朝日放送
鉄道
路線、駅間
JR九州
ライン
NTT ドコモ
自治体
個別
民間
※本WGで参加企業様よりいただいた情報及び一般に公開されているホームページ等の情報を元に作成しています。
- 23 -
以下に、メンバー企業の既存の被害報の情報項目に、各社が迅速に復旧するために要望のあっ
た情報項目を付加したものを示す。<表 13>
表 13.迅速な復旧に必要な情報項目(希望/理想)
※公開フラグ:公表できる情報か、内部に留めておくべき情報かを区別するもの。
- 24 -
表 13 の情報項目はあくまでも本WGメンバーが復旧期に希望している情報項目だが、これら
の情報がオートマチックに一元集約され、共有されることで、被災時の各企業の迅速な復旧に寄
与することが可能になると思われる。今回のアンケートでは、東日本大震災の状況を反映して、
自家発電による電力確保の観点から自家発電のための燃料の調達に関する情報を共有して欲し
いという回答も多く寄せられた。
復旧作業において役に立つ情報は、各社の復旧情報だけではなく、より迅速な復旧を目指すな
らば信頼関係が前提となるが、「何月何日の何時頃復旧予定」というような各社の復旧見込みの
情報も提供されることで、それらの情報を早めの復旧活動計画に活かすことができ、復旧期間も
短縮できることが期待される。
(これらの情報項目を活用したユースケースについては、
「6.産
業界における備え」で記載する)
また、各企業は被災時に各自治体に優先的に提供している被害報(情報項目)を<表 13>のよ
うに充実させ、九州の企業各社で同時に共有することで迅速な災害対応が可能となる。
図 15.災害対応時の情報の流れ
◆道路復旧に関する取り組み◆
これらの情報が共有されることは重要だが、すべての復旧のベースとなるのが被災した現地に
復旧活動のために駆け付けるための動脈となる道路で、本WGの一部のメンバーでサブミーティ
ングを開催し、道路の復旧に関する情報共有についての議論を個別に行った。
図 16.復旧順序
- 25 -
道路の復旧については、九州地方整備局とインフラ企業が、まずは通れる道路を確認するため
に現場調査を同時並行で実施している場合が多く、それらの道路状況の情報を持ち寄ることで、
より早く道路の状況や被災地への迂回路等が把握できるため、より早く復旧計画を立て、復旧作
業に着手できるメリットがある。この道路復旧の取り組みののちに、そこで連携して道路状況、
復旧見込みを作成すれば、より早く次のステップで復旧作業のために待機している各企業が早く
動き始めることができ、ひいてはより早い復旧を実現できることになる。
ライフライン保持に責任を負う企業は、設備復旧工事を行うため、第一に各設備へのルートと
なる道路の通行可否に関する正確な情報を必要としているところが、あるルートに向かう道路の
管理者は様々な機関に分かれていることから、通行可否を判断できる情報を統合的に得られない
状況となっている。
九州における道路の迅速な復旧にあたっては、道路管理者とライフライン企業が、各々の目的
により、道路通行の可否を確認するために、現地調査を同時並行で実施している。この現状には、
ライフライン企業として以下の2点の問題がある。
現地調査して全貌を把握するのに時間がかかる。
現地調査を行う担当者が危険にさらされている。
大規模災害時に、ライフライン企業の現場同士がそれぞれが個別に調査した道路に関する情報
や、その他役に立つリンク情報を、草の根レベルで共有し、相互補完できる場を設けることで、
より早く道路の状況や被災地への迂回路等が把握できるため、より早く復旧計画を立て、復旧作
業に着手できるメリットがある。そうすることで、ライフラインの復旧を待ち、次のステップで
自分たちの復旧作業のために待機している各企業が早く動き始めることができ、九州全体として
のより早い復旧を実現できることになる。そこで本WGの道路に関係する組織(道路管理者とラ
イフライン企業)で、個別に道路復旧に関する情報共有を考えるサブミーティングを開催し、各
組織の現状を共有しするとともに、道路を迅速に復旧するための限定メンバーによる協力関係に
おいて、お互いに曖昧な情報でも許容するリアルタイムな助け合いを実現する情報共有活動が必
要であり、その方法論については、関係の組織の間で、個別に体制を組むことのも提案がなされ
て、
「道路」についての迅速な復旧のためには今後検討を進めていくことが必要であるとの共通
認識を持った。
- 26 -
5.災害対応の効率化の先行的な取組み
先に紹介した九州総合通信局の取り組みにもあった通り、情報共有の仕組み作りが急務である。
また、内閣府・中央防災会議がまとめた“平成 24 年度総合防災訓練大綱”にも書かれている通
り、いざという時にスムーズに行動できるための、より実践的な防災訓練が必要であるというこ
とが指摘されている。
災害時の復旧段階における情報収集・共有の仕組み作りと防災訓練に関する取組みについては、
九州内でもすでにいくつかの事例があるので紹介する。
(1)先行事例:情報共有
九州広域防災ポータルサイト
中越沖地震の際、関係者がネット上で情報共有を効率良く図れるツールがなかったことを教訓
に、岩手県立大、星陵女子短大沢、静岡県立大等が共同で開発をしていた「WIDIS」という
電子国土を活用した災害情報共有システムが前身となって(社)九州テレコム振興センターが実
運用部分を強化開発した自治体向け災害情報共有システムで、九州各地で災害情報を共通のプラ
ットフォームで共有できるようにする、というのが出発点である。
平成 22 年度から大分県と一緒に実運用に向けたシステム開発を進め、平成 23 年度から大分県
での試験運用、平成 24 年度からの本格運用しています。現在、大分県では、別途補正予算を組
んで、この防災GISに追加機能として、公共コモンズを連動させることにしており(現在、追
加開発中)
、九州の自治体では、初の公共コモンズ導入となる。
九州広域防災ポータルサイトは、情報共有で使いやすいと言われている地図ベースのインタフ
ェースとなっており、将来、本WGで議論した情報項目が取り込めるよう連携できるようにし、
更に現在の県のみに留まった利用ではなく、市町村や企業も含めた広域な連携が可能になると活
用範囲が広がり、有用性も高まると思われる。
図 17.九州広域防災ポータルサイト システム全体イメージxxiii
- 27 -
(2)先行事例:情報共有
九州防災ポータルサイト
九州地方整備局は、平成 22 年に、九州管内の各防災関係機関との情報共有の推進の取組みを
行っており、九州の道路、天気、河川、災害等の状況をはじめとする各種防災に関連するサイト
を一元的に閲覧できるリンク集として九州防災ポータルサイト(本ポータルサイトには、アクセ
ス制限がないので、日頃の気になる地区の状況把握や情報収集にも役立つ)を立ち上げ、利用者
の利便性向上に寄与するとともに、光ファイバー等の通信ネットワークを整備し、九州地方整備
局がハブとなり、常に防災関係機関と連携できるような体制を構築している。
図 18.九州防災ポータルサイトxxiv
図 19.防災関係機関による情報共有の推進xxv
図 20.災害通信ネットワーク整備による災害情報のハブ化xxvi
- 28 -
(3)先行事例:情報共有 九州のりもの info.com
九州全般の約120社の公共交通機関、鉄道(JR 九州・西鉄・地下鉄),バス,フェリー,航空の災害
時の運行(航)情報を一元的に確認できる公民連携型のポータルサイト。地域別や事業者別に閲覧する
こともでき、携帯からの閲覧も可能となっている。また、メールアドレスを登録すると、希望する交
通機関、地域、事業者の運行(航)情報が希望曜日・時間帯に配信される。
図 21.のりもの info.com トップ画面xxvii
(4)先行事例:トレーニング ハイパーネットワーク2012ワークショップ
公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所(http://www.hyper.or.jp/)は、平成 24 年 11
月 21 日から 3 日間、大分県国東市にてリアルなフィールドを使った災害ワークショップを実施
した。このワークショップでは、通信手段が壊滅的な被害を受けたという想定でスタートして、
情報収集、情報発信を行うというストーリーで実施されたが、官民が連携した体制で実施しない
と本当の意味での訓練にならないことがアンケート調査でも明確になっている。
- 29 -
図 22.ハイパーネットワーク2012ワークショップ実施概要xxviii
ワークショップにおける想定災害規模
図 23.ハイパーネットワーク2012ワークショップ訓練内容とスケジュールxxix
- 30 -
東日本大震災以降、自治体や公共団体で取り組んだ防災訓練は、各地で実施されているが、よ
り迅速な復旧に備えるのであれば、今後は、公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の取
組みのように官民合同による訓練が増えることを期待したい。
<防災訓練事例>
・九州地方整備局防災訓練(実施日:平成 23 年 9 月1日)
http://www.qsr.mlit.go.jp/n-kisyahappyou/h23/110829/index1.pdf
・大分県南部地区総合防災訓練(実施日:平成 23 年 11 月 11日)
http://www.lascom.or.jp/news/vol49/P002-003.pdf
・九州九都市合同防災訓練(実施日:平成 24 年 10 月 31 日~11 月 1 日)
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/35455/1/kyuutoshi.pdf
- 31 -
6.産業界における備え
4章で抽出された各WG参加企業が希望する情報項目が整うことで、復旧のどんな場面に寄与
するのか、WGメンバーでユースケースを出し合い、希望する(いざという時に共有して欲しい)
情報項目が公開され、共有されるとした場合の可能性について議論を行った。
図 24.ポータルサイト二次利用連携イメージ
上図は、各社の被害報を共有の API を介して、共同利用できるポータルに集約・一元管理し、
そこで一元管理された情報を二次利用するイメージ図である。このイメージ図を元に、WG参加
企業から出してもらい議論したユースケースを以下に示す。
表 14.想定されるユースケース
No.
希望する情報を
使う立場の業種
ユースケース
1
各業種
電力の復旧の優先順位付けができる。
復旧対応の順位付け。復旧見込みの確度が向上する。
2
報道
主要な情報がポータルに集約されれば、効率的に情報収集ができ、より迅速な
情報伝達が可能となり、有用な情報を放送等を通じて住民の方に発信していく
ことができる。
ただし、非常時において、ポータルへの情報入力・更新が迅速にできるのか、
といった課題も出てくると思う。また、各企業から提供される情報について、
「一般公開可」「事業者内限りの見込み情報」など、一般視聴者に向けた放送
で使用して良い情報かどうかのレベル分けが必要。また、提供情報の「賞味期
限」についても評価が必要。
3
報道、交通
(自社の災害対応)各インフラの災害状況に応じて自社設備の復旧対応の順位
付けを行い、事業継続計画の展開・修正を行う。
具体例:道路や電力などの復旧見込みの情報を元に、自社送信所設備の
復旧優先順位を決定し、自営発電機や燃料類の手配など行う。
- 32 -
4
各業種
社員、職員の出勤体制構築ができる。
5
各業種
社内メール便(社内用文書や関係物資等)の稼動見込みをたてられる。
6
金融
各ライフライン等の復旧状況が確認できれば、営業可能なロケーション(事業
所等)の把握ができ、営業及び運用体制の確立、営業再開及び運用再開予測へ
の活用が可能となる。
7
報道、交通
避難所の状況や場所がわかれば、お客様の所在確認や社員・職員の安否及び避
難状況が確認できる。
8
製造
水道の復旧状況がわかれば、工場の復旧計画が立てられる。
9
各業種
10
各業種
各情報項目の復旧見込みがわかれば、誤差はあるものの自社の復旧計画が立て
られる。
復旧見込みの確度を高めることができ、それをお客さまへ伝達できる。
使用できる自転車、レンタカー、電源車、タンクローリー、各種重機等の所在
や使用可能台数等がわかれば、自社の復旧作業がよりスムーズに実施できる。
11
各業種
携帯キャリア各社の復旧エリアマップが一元的に提供されれば、復旧現場にど
のキャリアの携帯電話を持っていけばいいのかわかるので、より効率的な復旧
が可能となる。
12
報道、交通
道路の復旧状況、道路規制情報、復旧見込みがわかれば、作業現場/被災現場
への駆け付けがよりスムーズにでき、結果的に復旧をより効果的に実施するこ
とが可能になる。
13
通信
復旧させる基地局の優先的順序付けができる。
避難所に対して携帯電話、衛星電話提供できる。
14
通信
お客様のサポートという部分で、道路の状況がわかれば基地局の孤立化エリア
が特定できる。
15
各業種
食料備蓄情報がわかれば、社内備蓄分だけでは長い復旧期間をしのげないの
で、社外調達する分の情報で復旧期間の長期化に対応可能。
16
ライフライン、
交通
社外の車両情報がわかれば、社所有の車両が足りなくなった時に、復旧現場近
くで借りれる。車両が通れないような道では自転車が活躍するのでその情報も
欲しい。
17
ライフライン、
交通
災害時に避難所へ避難誘導している場合に、避難所の通信状況・手段が分かれ
ば、状況に応じて手段選択し現地との連絡が可能になる。また、災害復旧等に
は通信手段(携帯・固定)が必要なため、通信状況や復旧見込みが分かれば状
況に応じた適切な対応ができる。
18
ライフライン、
交通等
クレーンの保有台数がわかれば、大きなものを移動させるような設備復旧が可
能になる。
19
運輸
道路情報(被災状況、復旧見込み)がわかれば、災害が起きた時に緊急物資輸
送対応に活用できる。
20
各業種
希望する情報項目が一元的に見
れるところを社内のサイト(グループウェア等)からリンクできれば社内の情
報共有も早くなり、結果、お客様への広報もいち早くできる。
21
金融
復旧や復旧予測を開示することで、お客様に冷静対応を促せ、他の営業可能な
ロケーション(事業所等)へ誘導が可能となる。
22
各業種
調査稼働、調査頻度が減ると、危険作業の頻度が減少する。
希望する情報項目を参加組織それぞれが出し合い共有し合うことで、お互いの復旧に関連する
実施事項がよりスムーズになり、効率的になるのは間違いない。また、官民がお互いに情報を提
供・共有し合うことで、収集する情報の不備が少なくなり、各組織がそれぞれに独立して同時並
行的に復旧作業が出来る場面も多く想定される。
これらのユースケースから考えると、今回整理した希望する情報項目は、復旧期の早い段階で
- 33 -
共有されることでより機能する。
図 25.災害対応時の時間経過と活動の変化xxx
被災した時に、情報共有を行うための各種ツール等を活用する場合、常日頃から活用している
システムやツールでなければ有効に活用できないか、もしくは使えない状況になってしまうこと
が多々あることが知られている。各社の情報をこのように一元的に情報を集約するには、各組織
が持っている関連システム上で共通したフォーマットでの情報入力が必要となるため、日頃から
その共通フォーマットを採用しての防災訓練や日常業務の中で役立てるような取り組みが必要
となる。
また、想定されるユースケースだけでなく、有効な参考データとして、一般社団法人・日本経
済団体連合会が調査を行った東日本大震災にて有効であったICT利活用事例やICTに限定
されるものではないが東日本大震災で被災した企業のベストプラクティス、教訓について紹介す
る。
図 26.インターネットを通じた支援に係る情報提供の例xxxi
- 34 -
東日本大震災の時は、数多くの情報共有サイトが立ち上げられた。やはり情報に対するニーズ
は非常に高く、情報項目についても非常に多くのバリエーションがあることがわかる。
図 27.ITS を活用した被災地の車両通行実績の提供xxxii
期間限定であったが、自動車メーカーが提供したプローブ情報を元に車両の通行実績を元に作
成した可能な道路情報が提供された。
図 28.衛星を活用した緊急通信手段の確保xxxiii
東日本大震災時、有線系通信手段が津波によって全滅した中、衛星通信を筆頭に、ワイヤレス
通信の重要性が際立った。
- 35 -
図 29.ICTを活用した取組み事例(防災分野)xxxiv
まさに備えがキチンと作動した例。地震の早期検知という情報の活用が被害を低減した。
図 30.ICTを活用した取組み事例(NPOと連携した被災地クラウドサービスの提供)xxxv
- 36 -
被災時に、短期間でサービス提供まで持ち込めるクラウドサービスは、多くのサービス事業者
が提供し、復旧を支援した。被災状況、避難状況、通信をはじめとするインフラの復旧関連情報、
避難所情報、被災者情報、物資情報等、多くの情報が発信・共有され、それらの情報を閲覧する
ニーズも非常に高いものであった。
次ページに、参考になるデータとして、一般社団法人・日本経済団体連合会が実施した東日本
大震災に際しての企業の対応に関するアンケート調査結果の中から「グッドプラクティス、教訓」
を紹介する。ICTに関連しない事項も多いが、大規模災害に対する備えを検討するにあたり、
ICTに限らずリアルな物の調達や訓練の在り方、自治体や関連企業との連携等、多方面にわた
って検討する事項があることがわかる。
- 37 -
表 15.東日本大震災に際しての企業の対応に関するレビュー「グッドプラクティス、教訓」xxxvi
災害対策本部
安否確認
・災害対策本部の設置に当たっては、「設置基準の明確化」
「対策本部員間でのマニュアルの共有」「対策本部設置訓練
の実施」などが有効であった。
・安否確認システムは混乱の中でも機能した。会社、自宅宅
のメールアドレスに加えて、携帯電話のメールアドレスなど
複数登録していたことが有効であった。
・被災地内のグループ企業の担当者が集結し、合同で対策本
部を設置した。本社との連絡窓口の一本化、被災地における
グループ間での連携・情報の共有が図られた。
・通信が輻輳するなか、安否確認システムが機能せず、緊急
連絡網の活や社員宅への訪問により安否確認を行った。
・危機対応マニュアルが更新されておらず、対策本部が十分
に機能しなかった。
・安否確認システムを導入していたが、社員への周知不足の
ため、半数以上が未回答であった。安否確認訓練の実施の必
要性を認識した。
・社員へのマニュアル周知が不十分、或いは、情報伝達ルー
トが不徹底であったため、対策本部に指揮命令系統が一元化
されず、情報が錯綜した。
・派遣社員や出向者、社員の家族、顧客等の安否確認に時間
を要した。
訓練
備蓄
・初動においては訓練の成果が発揮され、まずは身の安全を
確保するという考え方が徹底されていた。
・備蓄が帰宅困難者、災害対策本部員に有効に活用された。
・沿岸部の拠点では、津波を想定した避難訓練を実施してお
り、社員の人的被害を防ぐことができた。
・被災地では、折りたたみ自転車が近隣拠点との連絡・交通
手段として有効に活用された。
・避難、安否確認については、毎年の訓練により、社員の意
識が向上し、迅速に実行することができた。
・拠点間、グループ会社間で備蓄量にばらつきがあった。
・被災地の拠点では備蓄が3日で底をついた。また、首都圏
・初動以降の支援・復旧等については、訓練が未実施であり、 でも帰宅困難者を想定していなかったため、備蓄が不足し
円滑な対応が図られなかった。
た。
・訓練の実効性を高めるためには、内容や実施頻度の見直し
に加えて、社員の訓練参加率の向上や「訓練で出来ないこと
は災害発生時にも出来ない」という意識の徹底が重要である
と認識した。
・被災した施設の中には、什器の倒壊などにより、備蓄品を
取り出せなかった施設があった。適切な備蓄場所の確保が課
題だと認識した。
施設の耐震化・水防対策
予備電源
・発災後の停電や計画停電に際して、自家発電設備が有効に
機能した。
・建物の耐震化・免震化、設備の固定化、ガラスの飛散防止
が機能し、被害を軽減できた。
・被災地の全拠点で耐震診断とそれに基づく強を実施してい
たため、倒壊した建物はなかった。
・建物自体の耐震化を実施していたものの、什器等の転倒防
止対策が不徹底であった。
・被災地の自家発電設備を保有していない施設では停電後、
事業を継続できなかった。
・燃料の保有量が規制されている事に加え、需給が逼迫し、
かつ、輸送手段が制限される中では、燃料の追加での調達は
困難であった。
・予備電源を有していたが、被災による故障・浸水により使
用できなかった。
- 38 -
帰宅困難者対策
事業継続
・地震発生の際の待機方針を徹底していたため、発災後から
帰宅指示を出すまで社員は落ち着いて社内にとどまった。
・徒歩帰宅訓練、また、徒歩帰宅に際しての備え(スニーカ
ー、懐中電灯、帰宅ルート)が有効に機能した。
・帰宅困難者に対して、食堂での炊き出しや水、毛布などの
物資提供、また、宿泊場所等を提供した。
・災害発生時の帰宅・待機の方針を定めておらず、帰宅・待
機の判断をするまでに時間を要した。
・災害発生時の帰宅・待機の方針を定めていたものの、被災
の状況や交通機関の復旧見込みなどの情報を正確に把握で
きず、帰宅・待機の判断をするまでに時間を要した。
・帰宅した社員とのコミュニケーション手段の確立、報告の
義務付けなどが徹底されていなかった。
・BCPの中で、代替生産工場の展開やサポート体制、優先
立ち上げ製品の考え方、対応組織・要員等を定めていたので、
早期に代替生産を実施することができた。
・生産拠点毎のBCPに加えて、災害時の全社的なサポート
体制を策定していたので、事業継続に向けて被災地内外で迅
速な対応ができた。
・業界内で相互応援協定を締結しており、発災直後より応援
体制を構築し、事業継続に向けて、迅速な支援活動が可能と
なった。また、物資の過不足情報の共有もできた。
・BCPを策定していたが、社内における周知が不十分であ
ったり、適切に更新されていなかったため、十分に機能しな
かった。
・BCPを策定していたが、交通インフラの寸断、自家発電
用燃料の入手困難、通信機能の停止等により、十分に機能し
なかった。
・ガソリン不足や交通インフラの停止による出社困難、また、
海外出身社員の帰国要請などにより、要員の確保が困難とな
った。
サプライチェーンとの連携
行政組織との連携
・取引先と共同でBCPを策定していたことがサプライチェ
ーンの維持に有効であった。
・地元自治体と大規模災害発生時における協定を締結すると
ともに、防災訓練を共同で実施している。
・業界内で統一した規格・考え方に基づいて震災対策を講じ
たことで、取引先の負担を軽減し、サプライチェーンの早期
復旧に繋げることができた(例:飲料業界におけるペットボ
トルキャップの統一など)。
・地元自治体と平時から協力関係を構築していたことで、復
旧に向けた連携を図ることができた。
・日頃より顧客台帳等をメンテナンスし、取引先・顧客との
連携を深めていたことが、サプライチェーンの早期復旧に有
効であった。
二次までは把握していたが、三次以降の調達先を把握してい
なかった。
・コストダウンのための在庫の極小化と取引先の絞り込みの
ため、生産・供給が滞りそうになった。
・地域の協議会に参加していたことで、災害発生時の行政の
取組みや各社における対応状況について、情報を共有するこ
とができた。
・規模災害発生時は行政との連絡は困難であり、平時より行
政との連携体制を構築しておくことの必要性を感じた。
・様々な施設を緊急避難場所として開放するための仕組みづ
くりや緊急時の物流体制の構築に係る官民一体での取組み
の必要性を感じた。
- 39 -
7.今後の方向性
本WGでは、まず、東日本大震災や今後九州に起こりうる大規模災害のシミュレーション結果
を把握するとともに、WGメンバー企業の災害対策状況を共有し、お互いの気づきを見出すこと
で、被災した場合の迅速な復旧のために必要な情報を各社から集約し整理した。また、各企業が
復旧対応に着手する大前提となる道路の復旧が必要不可欠となる。この道路復旧に関して、九州
地方整備局とライフライン企業で個別にサブミーティングを開催し、道路情報の早期収集につい
ての可能性を探るための議論を行った。東日本大震災の例を見ても、情報収集、情報共有におけ
るICT活用のニーズが高く、本WGの検討結果は、その中身をより具体化したと思われる。
本検討における企業間の情報共有に関しては、九州経済連合会以外にも、総務省の推奨する公
共コモンズの普及の中心となっている中京圏において、防災情報の配信に関する企業間での情報
共有が進んでいるほか、一般財団法人関西情報センター(KIIS:九州経済連合会同様に、賛助会
員企業の支援・協力により関西地域の情報化の発展、産業の活性化を目的とする)においても、
ライフライン企業の報道発表資料を NHK の提供するポータルサイトで一元的に閲覧させる試みが
計画されている。更に、東京大学総合防災情報研究センター(CIDIR)において、首都圏のライ
フライン企業、メディアを集めたライフライン・マスコミ連携講座が開かれており、この中で各
社の被害状況、復旧予測を共有する仕組みを検討中である。
また、総務省情報流通行政局情報流通振興課の実証事業で、情報流通連携基盤の防災・災害情
報における実証が平成 24 年度に行われた。実証では、国や地方公共団体の防災・災害に関する
情報を流通させる情報流通連携基盤において、防災・災害情報等の標準データ規格を検討し標準
API を定義するとともに、防災・災害情報を収集・加工し、複数の情報を組み合わせ有効に利活
用することを検討するほか、ライフライン企業など他分野の情報と防災・災害情報を組み合わせ
ることにより、有益な新たな情報の価値を創造するとともに、情報流通連携基盤を普及させるた
めの課題を抽出することを目的としている。なお、平成 24 年度は、山形県において実証が行わ
れ、内閣府、気象庁、山形県の防災・災害情報を用いた検討が行われた。
また、総務省の実証事業と並行して、ASPIC(ASP・SaaS・クラウド コンソーシアム)では、防
災関係機関が作成・保有する防災・災害情報を公開する際に留意すべき事項、及び防災・災害情
報を情報サービス事業者等が二次利用して新たな意味・価値を持つ地理空間情報として複合させ、
その情報を提供する際に留意すべき事項等の大枠を示すと共に、防災・災害情報の公開・二次利
用を促進することを目的とした「防災・災害情報の公開・二次利用促進のためのガイド」を平成
24 年度末に発表した。平成 24 年度版では、前述の総務省の実証事業と同様に、内閣府、気象庁、
自治体が持つ防災・災害情報の中でオープンにすべき情報のみについて、応急対応期に絞った時
間フレームに対するガイドが作成された。初動期や復旧・復興期、クローズドな情報など、平成
24 年度に検討されていない項目については、今後整理される予定である。
このような各種民間企業における連携の取り組み、総務省による標準 API、ASPIC におけるガ
イドラインなど、さまざまな取り組みが始まったばかりである。本検討のアウトプットはこれら
の取り組みに対し大きな影響を与えるものと考えられ、今後とも本検討の具現化を目指すと共に、
これらの取り組みと連携しながら実施すべきであると考える。
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8.おわりに
本報告書では、平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災を教訓にして、今後、九州に起こ
りうる災害の種類や想定規模を確認し、現在九州の産業界が行っている ICT を活用した大規模災
害に対する備えに関する情報を共有することで、今後の大規模災害に対しどのような備えが必要
となるかを ICT の視点で考えることで、九州の産業界が備えるべき BCP の策定や災害対策等を実
施する上で検討すべき事項について考察を行い、取りまとめを行った。
九州にてこのワーキングを企画立案してから1,2年の間に、九州北部豪雨災害、新たな九州
西部の活断層の確認、内閣府による南海トラフ巨大地震の詳細な被害想定等、新しく考えていく
べき災害想定が次々と明らかになっている。単に過去の被災経験に依存するのではなく、これま
で経験したことのない大規模災害が身の回りに起こるのではないか、という緊張感を感じるくら
いにリアルタイムに様々な情報がワーキングの元に飛びこんでくる状況の中、本検討を進めてい
たが、まさに今この取り組みは必要なのだとメンバー全員で認識することができた。
東日本大震災の教訓を生かした取り組みは九州各地で見られるが、未だ自治体や住民が中心と
なった避難に対する取り組みが中心である。一方で大規模災害による被害を軽減し、さらに復旧
を円滑に行うには電力、通信、交通といったインフラストラクチャーの機能確保及び早期復旧が
必要であるのは明白であったが、インフラ企業、民間企業及び自治体とが連携した大規模災害に
対する取り組みは、ほとんど進んでいない状況であることが本検討会によって明らかになった。
また、被災後の復興を進めてゆくためには経済活動を支える企業活動も早急に立ち上がっていく
必要があるため、迅速な復興対応に着手するためにインフラ企業、民間企業の災害時の運用継続
や被災後の迅速な復旧が実現できるよう取り組みを上手く連携しながら行っていく必要があり、
(一社)九州経済連合会としては今回のワーキングの結果がそれらの実現に寄与できることを願
っている。
九州の産業界は、今まさに東日本大震災を教訓に各企業が災害対策を見直している状況である。
産業活動の継続は企業単体ではなく企業間の連鎖により成立していることを今回のワーキング
で再認識でき、電力、通信、交通といったインフラストラクチャー供給企業や製造業、金融業等
のユーザー側の企業が、これまであまり意識されてこなかった被災状況や運用状況といった情報
を共有することにより、お互いに復旧情報をうまく連携させることで、より効率的に復旧を行え
るという点にフォーカスが当たった。被災時、復旧時の企業間のリアルタイムの状況・情報を共
有し合い補完し合うという、一見単純に見えるがこれまで実現できていない情報共有の体制構築
についての必要性が認識された。
大規模災害にみまわれるということは架空のことではなく、近い将来にこの九州が被災するこ
とを現実として受け止めなければならない。その備えには、九州の各企業が連携して、実際の被
災時、復旧時を想定した災害訓練演習などが実現すれば、本ワーキングで検討してきた内容もよ
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り具体化し、九州の産業界の災害対応力をより強化でき、九州全体としての防災力を強化するこ
とができるであろう。本ワーキングの中の議論でも話題の中心となった、国、自治体、産業界に
よる連携が実現することでより効率的な災害復旧が可能となるため、必要な情報の共有、そして
そのための仕組み作りが今後の重要なテーマである。
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大規模災害時のICT活用による備え検討WG 構成員一覧
【座 長】
前田 裕二
NTT セキュアプラットフォーム研究所 主幹研究員
【メンバー】
真野 勝文
旭化成株式会社 延岡支社 延岡総務部 総務部長
梅嵜 貴史
RKB 毎日放送株式会社 技術局 システム開発部 部長
佐久間 秀人
NHK 福岡放送局 企画総務部 部長
坂狩 敏昭
㈱NTT ドコモ 九州支社 経営企画部 担当部長
菅原 信孝
㈱NTT ドコモ 九州支社 経営企画部 経営企画担当 担当課長
大塚 正浩
九州朝日放送株式会社技術局技術戦略担当 部長
岡山 秀行
九州通信ネットワーク(株) 経営戦略本部 経営企画部 部長
広岡 淳二
(一社)九州テレコム振興センター 事務局長
日當 裕二
(一社)九州テレコム振興センター 広域連携推進課長
森原 正剛
九州電力㈱ 情報通信本部 ICT 地域・国際連携グループ長
立石 靖記
九州電力㈱ 情報通信本部 ICT 地域・国際連携グループ副長
香月 裕司
九州旅客鉄道㈱ 総合企画本部 IT 推進室 室長
佐藤 公広
九州旅客鉄道㈱ 総合企画本部 IT 推進室 副室長
中澤 修治
九州旅客鉄道㈱ 総合企画本部 IT 推進室 主査
梅崎 善彦
久留米運送株式会社経営管理部 課長
駒崎 和範
KDDI㈱ ソリューション九州支社 企画管理部 部長
三ヶ島 博子
KDDI㈱ ソリューション九州支社 法人営業部 部長
三留 立実
新日鐵住金㈱ 八幡製鐵所 生産技術部 システム IE 企画室長
和田 真典
凸版印刷株式会社 西日本 TIC 本部開発部 課長
坂田 恵紀
㈱西日本新聞社 報道本部 コンテンツ事業局 編成部 次長
山口 光穂
西日本鉄道㈱ 経営企画本部 IT 推進部長
嶺 真一
西日本電信電話㈱ 福岡支店 法人営業本部副本部長 SE 部長
山本 貴之
西日本電信電話㈱ 福岡支店 企画部 企画課長
中村 成孝
西日本電信電話㈱ 福岡支店 企画部 経営企画担当 主査
諌山 精二
ニシム電子工業㈱ ネットワーク技術本部 ネットワーク技術開発 部長
中野 賢司
日本電気㈱ 九州支社 公共第一営業部 部長
青木 栄二
(財)ハイパーネットワーク社会研究所 事務局長
稲葉 太郎
(財)ハイパーネットワーク社会研究所 主任研究員
牛島 智之
㈱福岡銀行 IT 管理部 副部長
待鳥 敏範
㈱福岡銀行 IT 管理部 主任調査役
小松 健一
富士通株式会社 サービスビジネス本部サービスコンダクターセンター
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【アドバイザ】
塚原 健一
国立大学法人九州大学
大学院工学研究院附属アジア防災研究センター センター長 教授
【オブザーバ】
植木 健一郎
経済産業省九州経済産業局 地域経済部域経済課 参事官
小井田 司
総務省九州総合通信局 無線通信部 防災対策推進室長
上村 一明
国土交通省九州地方整備局 企画部防災課 課長
南 知浩
国土交通省九州地方整備局 企画部防災課 係長
谷川 昭弘
国土交通省九州地方整備局 企画部情報通信技術課 課長補佐
【事務局】
廣瀬 香
(一社)九州経済連合会 社会資本部 部長
明石 信宏
(一社)九州経済連合会 社会資本部 次長
泥谷 信太郎
(一社)九州経済連合会 社会資本部 課長
※企業名は、アイウエオ順に掲載。
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参考文献
i
平成24年版情報通信白書-第4節 東日本大震災の教訓を踏まえた ICT 災害対策の強化
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/pdf/n3040000.pdf
ii
九州地域における大規模災害時の大規模災害発生時の通信手段確保に関する報告書
平成 24 年 1 月
http://www.soumu.go.jp/soutsu/kyushu/press/120120-1-0.html
iii
「大規模災害情報システムの構築と課題 ~東日本大震災からの教訓~」
http://www.kiai.gr.jp/PDF/ict/shibata.pdf
iv
「東日本大震災に対する支援活動」
http://ja.wikipedia.org/wiki/東日本大震災に対する支援活動
v
フォーラム福岡 vol.46
http://www.forum-fukuoka.com/
vi
福岡県地域防災計画
http://www.bousai.pref.fukuoka.jp/kikaku/chiikibousaikeikaku/chiikibousaikeikaku.htm
vii
南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告) ~施設等の被害 【定量的な被害量】~
平成 23 年 3 月 18 日 P.5
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130318_shiryo2_2.pdf
viii
南海トラフ巨大地震の被害想定について(第二次報告) ~施設等の被害 【定量的な被害量】~
平成 23 年 3 月 18 日 P.8
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130318_shiryo2_2.pdf
ix
x
西日本新聞朝刊 2013 年(平成 25 年)3 月 19 日
35 面
南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告) 平成 24 年 8 月 29 日
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku/pdf/20120829_higai.pdf
xi
南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告) 平成 24 年 8 月 29 日
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku/pdf/20120829_higai.pdf
xii
空港の津波浸水想定高さ(国土交通省)平成 25 年 3 月 8 日
http://www.mlit.go.jp/report/press/kouku09_hh_000036.html
P.11
P.12
xiii
(一社)九州経済連合会 第1回 大規模災害時のICT活用による備え検討WG資料
「九州における自然災害について」
(九州地方整備局) 平成 24 年 10 月 11 日 P.3-5
xiv
(一社)九州経済連合会 第1回 大規模災害時のICT活用による備え検討WG資料
「九州における自然災害について」
(九州地方整備局) 平成 24 年 10 月 11 日 P.7-8
xv
(一社)九州経済連合会 第1回 大規模災害時のICT活用による備え検討WG資料
「九州における自然災害について」
(九州地方整備局) 平成 24 年 10 月 11 日 P.9
xvi
九州地域の活断層の長期評価(第一版)概要 平成 25 年 2 月 P.9
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/13feb_chi_kyushu/kyushu_gaiyo.pdf
xvii
九州地域の活断層の長期評価(第一版)概要 平成 25 年 2 月 P.11
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/13feb_chi_kyushu/kyushu_gaiyo.pdf
xviii
九州地域の活断層の長期評価(第一版)概要 平成 25 年 2 月 P.13
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/13feb_chi_kyushu/kyushu_gaiyo.pdf
xix
「九州地域の活断層の長期評価」
(第一版)のポイント
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/13feb_chi_kyushu/kyushu_point.pdf
- 45 -
xx
熊本県 土砂災害防災マップ
http://sabo.kiken.pref.kumamoto.jp/website/indexnew.html
xxi
梅雨前線に伴う平成 24 年 7 月 13・14 日出水について P.4
http://www.qsr.mlit.go.jp/bousai_joho/saigai_news/pdf/h24/20120726_01.pdf
xxii
(一社)九州経済連合会 第2回 大規模災害時のICT活用による備え検討WG資料
「延岡・日向地区の震災・津波対策について」
(旭化成(株)延岡支社) 平成 24 年 12 月 05 日
xxiii
九州広域防災ポータルサイトの紹介
http://www.kiai.gr.jp/bousai.html
xxiv
九州防災ポータルサイト(国土交通省 九州地方整備局)
http://www.qsr.mlit.go.jp/bousai_joho/kyusyubosai/
xxv
(一社)九州経済連合会 第1回 大規模災害時のICT活用による備え検討WG資料
「九州における自然災害について」
(九州地方整備局) 平成 24 年 10 月 11 日 P.41
xxvi
(一社)九州経済連合会 第1回 大規模災害時のICT活用による備え検討WG資料
「九州における自然災害について」
(九州地方整備局) 平成 24 年 10 月 11 日 P.42
xxvii
九州のりもの info.com
http://www.norimono-info.com/
xxviii
ハイパーネットワーク 2012 ワークショップ報告書
「大規模災害における情報伝達・共同訓練」 P.9
xxix
ハイパーネットワーク 2012 ワークショップ報告書
「大規模災害における情報伝達・共同訓練」 P.7
xxx
奈良県橿原市 橿原市地域防災計画
http://www.city.kashihara.nara.jp/kikikanri/c_bousai/bousai/shisaku/jourei_keikaku.html
xxxi
復旧・復興と成長に向けた ICT の利活用の在り方 参考資料 P.8
一般社団法人 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/075/sanko.pdf
xxxii
復旧・復興と成長に向けた ICT の利活用の在り方 参考資料 P.10
一般社団法人 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/075/sanko.pdf
xxxiii
復旧・復興と成長に向けた ICT の利活用の在り方 参考資料 P.11
一般社団法人 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/075/sanko.pdf
xxxiv
復旧・復興と成長に向けた ICT の利活用の在り方 参考資料 P.13
一般社団法人 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/075/sanko.pdf
xxxv
復旧・復興と成長に向けた ICT の利活用の在り方 参考資料 P.14
一般社団法人 日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/075/sanko.pdf
xxxvi
東日本大震災に際しての企業の対応に関するレビュー~経団連アンケート調査結果より~
http://www.keidanren.or.jp/policy/2012/013_besshi1.pdf
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