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第 8 章 循環型社会の実現に向けて―市場の進化 - C

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第 8 章 循環型社会の実現に向けて―市場の進化 - C
第8章
循環型社会の実現に向けて―市場の進化―
3 年 企業・環境班(高梨雅央 内山拓也 上松誠知 山口高明 山田悠平 吉田拓望)
1 循環型社会の実現と市場のあり方
1.1 循環型社会の実現と企業の責任
循環型社会は、環境問題の深刻化を受けて、従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄型社会」
に代わり、資源の消費を減らして、環境負荷をできるだけ少なくした、今後目指すべき「持続可
能な」社会として提唱された。循環型社会を達成する上で、企業の果たす役割は大きい。拡大生
産者責任の下で、循環型社会実現に向けて、企業には大きな責任がある。
持続可能な発展を遂げるため、将来世代のためにも現在と同レベルの水準の環境を残すために
は生産活動へのシフトが必要になる。産業界の中心としての企業には持続可能な社会の実現を図
る環境ビジネスへの大きな期待が寄せられている。
ここで、大きな問題がある。現実に企業が循環型社会に向けて自主的に取り組みを行うかとい
うと、そうではないのである。環境対策に資金を振り向けることは、企業には利益に反した行動
と映り、利益追求のみを目的とした市場のあり方と循環型社会への移行の関係が解明されなけれ
ばならない。
1.2 市場の進化の必要性
以上の対立する関係に見える市場と循環型社会の両立の難問はどのように克復されるのであろ
うか。企業の環境対策の一例を取り上げ、その問題点への鍵を考えてみよう。
企業の取り組みが必ずしも実を結ぶわけではない。市場の動向、技術開発、法制度の整備など
企業外部の要因によって、環境対策として投入した資金は無駄になってしまう可能性がある。
自動車業界で言えば、一昔前は環境に配慮した車といえば電気自動車だったが、現在の主流は
ハイブリッド、さらに世界的に見ればバイオエタノールの利用と、激しくトレンドは移り変わっ
ている。無駄になった研究開発費もあっただろう。企業の環境対策には財務的リスクが付きまと
う。このような状況では、企業は環境に対する投資に二の足を踏んでしまう。
このようなリスクが企業のビジネスチャンスにとって換えられるように、市場の仕組みは環境
に配慮した製品が買われる市場、環境に配慮した経営が評価される市場に変えていかなくてはな
らないのである。
1.3 市場の進化と金融の役割
市場の資金の流れが全体としての市場の性質を変える。市場を変えるためには、金融面から変
えていく必要がある。市場の血液である資金の流れは、循環型社会へ向けて企業が行動するに適
した市場の形成に貢献する。新しい資金の流れが企業行動に連動すれば、循環型社会の実現はさ
らに近いものになるはずである。
これまで市場の中では、環境対策は企業にとって単なる財務面のマイナス要因なる可能性が懸
念される。企業に求められることは利益を上げることで、社会的責任を果たすことは、社会には
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望まれても、必ずしも義務ではない項目が多い。その中で事業者にただ「環境に配慮しろ」とい
っても実効性は乏しいのである。
循環型社会構築のためには、これまでの市場のあり方を見直し、利潤追求以外の考え方、環境
に配慮する経営などを取り入れ、新たな形の市場を作り、拡大させていくことが必要となってく
る。その上、資金の出し手と受け手を結びつける金融に期待される役割は極めて大きいと言うこ
とができる。
投資や融資の際に財務上のリスクと収益のみならず環境などの社会的価値も考慮するようにし
ていけば、資金の流れを環境など社会に配慮されたものに変えていくことができ、このことが経
済社会を大きく変えていくと考えられる。
2 SRI(社会的責任投資)とは何か
2.1 SRI とは
SRI(社会的責任投資=Socially Responsible Investment)は、従来の財務指標に加え、安定
した配当を見込みつつ、法の遵守、雇用慣行、人権の尊重、消費者の問題、社会への貢献度や環
境への配慮などの社会的倫理的基準をもとに評価、精選した企業に投資することである。SRI の
機能は、「環境」の側面を金融(商品)化して、社会的責任を果たせる企業にのみ投資を行い、その
企業の成長が環境配慮を促進し、市場を持続的に発達させるのである。
日本における SRI 市場規模は 2006 年 3 月末時点で約 2500 億円となっているが、アメリカで
は 2005 年末時点で約 274 兆円、イギリスでは 2003 年末時点で約 22 兆 5000 億円となっている。
欧米でこれだけ SRI の市場規模が大きい理由は、年金法の改正や公的年金が取り組み始めたこと、
社会的責任の評価機関が発展していることが挙げられる。投資家や金融機関の SRI に対する認知
度が低いことなどから、欧米と比べて日本のその市場規模は小さいものとなっている。
2.1.1 SRI の手法
SRI の手法は、株式投資、株主関与、投融資などの投資目的を実現させるやり方の違いによっ
て分類され、スクリーンニング運用、株主関与(株主行動)、コミュニティ投資の 3 種類がある。
以下でその 3 つの手法を見ていこう。
(1)スクリーンニング運用
これはソーシャルスクリーンを通した株式などへの投資活動を指す。また、スクリーニング運
用にはネガティブ・スクリーニングとポジティブ・スクリーニング、進化したスクリーニングが
ある。
①
ネガティブ・スクリーニング
1970∼80 年代に、特定の価値を汚す企業(例えば武器製造、タバコ製造など)を投資対象か
ら外すことから始まったものである。
②
ポジティブ・スクリーニング
これは、その社会や環境面での実績が優れた企業を積極的に支援するために投資しようとする
もので、ある業種の中で他企業を凌駕するベスト・イン・クラスとして位置づける手法である。
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③
進化したスクリーニング
時間の経過とともにネガティブとポジティブの双方を用いるものを進化したスクリーニングと
言う。コーポレントガバナンス概念が近い将来、公式の SRI スクリーニングの基準となることが
考えられ、進化した形態としては「持続可能性」が挙げられている。
(2)株主関与(株主行動)
社会や環境面でのその企業のパフォーマンスを改善するために、公開質問状の送付や改善の働
きかけといった日常レベルでのコミュニケーション活動や、株主の立場から、経営者側との対話
や株主総会での議決権行使や株主提案、株主代表訴訟などによって、企業市民としての責務を果
たす行動をとるよう働きかける手法のこと。
(3)コミュニティ投資
財政状況の厳しい特定の地域に対し、経済的支援の意味も含めた投資のことで貧困層に対する
財政サービスを可能とすると同時に、チャイルドケアやヘルスケアのような地域の小ビジネスに
対する資本支援ともなる。
今後の SRI 戦略は、ポジティブとネガティブのスクリーニング運用を併用すると同時に企業の
コーポレートガバナンス、透明性、アカウンタビリティ、情報開示といった課題について、中長
期的な観点からその企業との対話=株主行動を組み合わせた形態が増加すると予測される。
2.2 SRI の意義
(1)SRI は企業の社会的責任=CSR を促すと言われる。これは従来、
「社会貢献」と考えられて
いた事業が、
「持続可能な発展」のために必要不可欠なものへと進化したことを表している。つま
り、SRI は、企業による社会的活動が企業価値を高めることになる制度・システムを構築するの
だ。このことは、企業活動がグローバル化する中で、欧米市場における企業の社会的責任の評価
が日本企業の評価に影響することも意味している。国内でも最近、相次ぐ企業不祥事などから、
CSR の取り組みが企業価値に影響を与える事例が増加するとともに、社会的側面の評価が企業価
値判断に不可欠という認識がある。また、宗教的信条や個人の価値観などから社会的に望ましく
ないと投資家が考える特定の企業や業種を投資対象から排除する、あるいは、積極的に投資する
という考え方も挙げられる。
(2)個人金融資産などの有効利用を促すこと=個人資産について多様な運用先や手法を提供し、
また、郵貯簡保年金といった公的部門についても代替運用先を提供することによって、個人の資
産運用を通じたコミットメントや新たな投融資基準によって、金融機能の活性化につながる可能
性がある。
(3)民間活力の積極的な発現を促すこと=政府活動の限界が顕在化するにつれて、市民の働きか
けで企業活動やコミュニティを変革し、豊かな社会を実現しようとする。
2.3 SRI の現状
わが国での SRI の歴史は欧米に比べてまだ浅く、1999 年に SRI の1つであるエコファンドが
初めて発売された。(SRI のうち、環境面に着目し、環境配慮に優れていたり、優れた環境パフ
ォーマンスを上げていたりする企業に積極的に投資しようとする投資信託をエコファンドとして
いる。)
87
欧米の場合は、アルコール、タバコ、軍需産業などに関連する企業を投資対象から除くネガテ
ィブ・スクリーニングが多いが、日本のエコファンドは環境保全や社会貢献などに意欲的な企業
を投資対象として選定するポジティブ・スクリーニングに特化している。
企業の社会的取り組みが消費者や従業員や地域へ何らかの好影響をもたらし、それがビジネス
活動にプラスなり、企業価値に反映されるため、株価パフォーマンスも高くなると言われている。
しかし、そういった企業は CSR 評価の高い大企業であり、SRI によって株価が高いのかは判断
しづらいとも言える。
3 環境ビジネスの現状
循環型社会を実現できるかどうかは企業の行動にかかっている。われわれはこの論文で、企業
の環境への取り組みは不十分で、SRI によって市場のあり方を変えなければ、循環型社会は実現
できないと仮定している。循環型社会の実現という視点から、企業の環境への取り組みを検証し
て見よう。
図 1 環境報告書を発表した企業の株価と TOPIX の比較
(環境への対策を公表している企業の株価はどのような評価を得ているか)
3.1 企業の環境ビジネス
(1)環境ビジネスとは
環境ビジネスは、産業活動を通じて、環境保全に資する製品やサービス(エコプロダクツ)を
提供したり、社会経済活動を環境配慮型のものに変えていく上で役に立つ技術やシステム等を提
供したりしようというものと定義される。
(環境省「環境ビジネス研究会報告書」平成 14 年 8 月)
環境ビジネスは大きく技術系とソフト系に分類できる。
①
技術系
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大気汚染・水質浄化・土壌浄化関連、測定・分析技術、環境配慮型素材、自然エネルギー利用、
省資源・省エネルギー、廃棄物処理、ごみ処理装置、低公害車、公害防止装置・技術
②
ソフト系
環境コンサルタント、環境アセスメント、環境情報システム、環境教育、リサイクル市場、金
融・保険、静脈産業の物流(廃棄物運搬)
技術系の環境ビジネスは自然環境に直接影響しているビジネスといえる。また、ソフト系は自
然環境に間接的に影響を与えているビジネスといえる。
(2)日本の環境ビジネスの市場規模
循環型社会構築の必要性が叫ばれる中、環境ビジネスは環境関連法が整備される中で急速に市
場が拡大してきた。急速な市場拡大の要因として、環境保全のための規制強化、消費者の環境意
識の高揚、海外環境ビジネス市場の拡大等があげられる。そして、環境対応をビジネスチャンス
として捉えて行動する企業が数多く出現してきていることが原因と考えられる。
市場規模は 2000 年には約 30 兆円だったものが 2010 年には約 47 兆円、2020 年には 58 兆円
に拡大すると推計されている。中でも 2020 年には、循環型社会を支える廃棄物処理、リサイク
ル関連ビジネスが市場の約 50%を占めるとされている。今後市場規模及び雇用規模が顕著に拡大
すると見込まれるビジネス分野としては、大気汚染防止用装置の開発、教育・研修・情報サービ
スの提供、環境負荷低減及び省資源型技術の開発等が挙げられる。
図2
環境ビジネスの市場規模
700,000
583,762
600,000
472,266
億円
500,000
400,000
300,000
299,444
200,000
出所:環境省
100,000
0
2000年
2010年
2020年
出所:新・地球環境ビジネス 2005−2006(産学社)
(3)環境ビジネスの役割
環境ビジネスは、環境保全への取り組みの積極性や事業内容から見て日本の経済社会構造をグ
リーン化する大きな推進力となると同時に、環境にやさしい製品やサービスの活用を通して、人々
のライフスタイルそのものをより環境負荷の少ない持続可能な物に変えていく可能性を開くもの
89
である。
図3
環境ビジネス進展における問題点
39
消費者の関心が低い
26.9
26.8
23.4
19.7
市場規模が不明
情報が入手できない
採算が合わない
国家の支援が十分でない
6.6
消費者の信頼が得られない
13.2
12.4
特に問題はない
その他
4.2
回答なし
0
10
20
30
40
50
%
出所:環境にやさしい企業行動調査(環境省)
3.2 環境ビジネスの進展における問題点
需要が高まってきている環境ビジネスであるが、それを進展させていく上での問題点
がいくつか存在する。
現状の価格メカニズムにおいては、環境への配慮は新たなコストアップとなるケースが多いが、
これを優遇するような差別化の仕組みが不足している。
・ 環境配慮に対して消費者やユーザーの関心がまだ低い。
・ 環境ビジネスにおけるそれぞれの分野についての市場規模がわからない。
・ 環境配慮につながる規格等の整備が十分でない。
・ 効率的・効果的なビジネスの展開にあたって様々な規制や制約が存在する。
・ 関連する情報が十分に手に入らない。
3.3 環境ビジネスの問題点とその解決法
上記のように、環境ビジネス市場が拡大傾向にあるにも関わらず、われわれは循環型社会の実
現が市場の能力だけでは、困難であると考える。
企業の環境対策の問題点を、自動車業界を例に挙げて考えてみよう。環境配慮物品であるクリ
ーンエネルギー車、特に、ハイブリッドや燃料電池車、最近注目されてきているバイオエタノー
ルに対応する車などに対する開発研究費は膨大である。たとえばトヨタの 2005 年の研究開発費、
設備投資額は 15.500 億円であった。にもかかわらず、利益は薄く、トレンドの移り変わりが早
いといった、開発・生産リスクが高い。これでは、経済的インセンティブが薄く、リスクが高い
ので、新しいエコ・プロダクツによる環境配慮物品の生産・開発の流れが、滞ってしまう恐れが
ある。
日本自動車工業界(JAMA)は 2004 年の四輪新車販売台数(乗用車、トラック、バス)は 5.852.068
90
台と発表している。その中の約 71%、4.207.593 台が低公害車等(燃料電池自動車、電気自動車、
ハイブリッド自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車、ディーゼル代替LPG自動車、水素
自動車、低燃費かつ低排出ガス認定車)であった。 この 71%の中でガソリンだけに頼らないで、
新たなエコプロダクツ(燃料電池自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車、天然ガス自動車、
メタノール自動車、ディーゼル代替LPG自動車、水素自動車)で走行する車の販売台数は 64.345
台、わずか約1%でしかない。
低燃費かつ低排出ガス認定車は 2005 年の 4.141.447 台と 2000 年の 864.314 台を比較してみ
ても 5 年もの間に、約 5 倍近く増えている。エンジンの効率化をはじめ、動力ロスの少ない効率
的な駆動系への伝達、車両の軽量化、ボディの空気抵抗の低減、などさまざまな対策技術が開発・
採用された。確かに低燃費かつ低排出ガス認定車は増加してきている。低燃費かつ低排出ガス認
定車が増加したからといっても、供給の限界が唱えられているガソリンだけしか使用できない製
品に依存するのでは、あまりにもリスクが高いし、資源枯渇の問題を先延ばしにしているだけに
すぎない。現在 1%のシェアしかない、新しいエコプロダクツの製品化が急務である。ハイブリ
ッド車は 2005 年から 2000 年を比較してみても堅調に増加して来ている。だが、他の、燃料電池
自動車、電気自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車、ディーゼル代替LPG自動車、水素
自動車などが開発研究費用やコスト、実用化の面から様々な問題を抱えていて商品化に漕ぎ着け
ないでいる。
このような現状を改善するには、環境配慮物品の需要を確保し、増加させることにより、価格
を下げることが必要となってくる。また、企業の、環境に対する開発、研究、新しいエコプロダ
クツを推進するために、企業などに対して、投資や融資の際に財務上のリスクと収益のみならず
環境などの社会的価値も考慮するようにしていけば、お金の流れを環境など社会に配慮されたも
のに変えていくことができ、このことが経済社会を大きく変えていくと考えられる。
前者には、グリーン購入・調達、環境ラベルによって、国や企業が率先して環境物品等(環境
負荷低減に資する製品・サービス)の調達を推進するとともに、環境物品等に関する適切な情報
提供を促進することにより、需要の転換を図り,持続的発展が可能な社会の構築をすべきである。、
後者は、金融の取り組みの中で今注目されている、SRI によって、企業の利益追求の方針を企業
の社会的責任の向上、しいては、環境に配慮した企業にすることにできるのである。
4 SRI の必要性
4.1 SRI の必要性
SRI ファンドの存在により企業がより透明性を高め、それをファンドマネージャーやアナリス
トといった専門家が評価することにより、企業の透明性をさらに高めることができれば、社会が
より成熟することになる。社会のレベルにより評価は変わってくる。
戦後間もない頃であれば、公害問題に気を配らずに利益を上げることだけを考える企業でも、
貧しい社会では公害問題よりも、まず生産性を上げることの方が重要だったので、“煙モクモク”
でも、さほど問題にはならなかった。ところが、モノがひととおり行き渡り、社会が豊かになっ
91
てくると、
「公害を引き起こす企業はもってのほか!」と、私達は消費者としても投資家としても、
公害を出す企業を評価しなくなった。企業に対する評価は、社会の成熟度に応じて変わっていく。
私達が、消費者として、また投資家として、「環境に配慮しているかどうか」「社会責任を果た
しているか」といった観点で企業を評価する「成熟した社会」になっていけば、長期的には、SRI
ファンドへの投資は利益が期待できるといえる。むしろ、社会的責任を果たしていない企業の株
価が上がりにくい(=もしくは、淘汰されていく)という状況になるのかもしれない。
4.2 SRI 普及に向けて
(1)政府の取り組み
日本において経済産業省や環境省を中心に SRI への取り組みの方向性を検討し、企業の自主的
な取り組みを支援する動きが見られる。経済産業省では 2004 年 9 月に「国内外で拡大している
SRI は企業の社会的責任に対する取り組みを促進する効果がある」と位置づけている。また、環
境省では 2006 年 4 月に「環境と金融に関する懇談会」を設置し、環境などの社会的な課題を検
討していく際の金融機能の重要性について着目し、SRI も含めた金融機能が企業の社会的な取り
組みを考慮し、社会的な取り組みを積極的に進める企業が評価されていくための課題と、今後の
方向性について検討を行っている。加えて、日本経団連、経済同友会などの主要な経済団体も CSR
の推進に積極的に取り組んでいる。日本経団連では、企業の自主的な取り組みを推進するための
倫理規範として、「企業行動憲章」を制定、経済同友会では、企業評価基準を策定し、企業価値
の増進に向け経営者自らが企業の取り組みを自己評価する枠組みを提供し、CSR への取り組みを
推進している。
(2)個人投資家に対する普及に向けて
①
エコファンドや SRI ファンドの考え方や内容を広報する施策。
②
エコファンドや SRI ファンドの運用報告書の記載事項に工夫を求める施策。
③
エコファンドや SRI ファンドに携わる販売員の教育・研修を支援する施策。
④
エコファンドや SRI ファンドの知名度を高め、社会的意義を広報する施策。
(3)機関投資家に対する普及に向けて
①
社会的責任投資と投資収益との関係をめぐる実証分析の推進を支援する施策。
②
「社会的責任投資が受託者負担の観点から問題がない」とする制度的な担保を与える施策。
③
機関投資家としての社会的責任投資行動を公的セクターが率先して導入できる仕組みを与え
る施策。
4.3 SRI が普及すれば
・ SRI は社会的に無責任な企業、その可能性の高い企業を投資対象としないことにより、長期
的には予期せぬ不祥事など企業の社会的責任の欠如から生じる株価下落のリスクをある程度
低減する効果が期待できる。
・ 株価は企業にとっての資金調達コストを決定する要因であり、このことから環境配慮行動の
巧拙が企業の経営コストに反映するという意識がより強まることとなり、企業の環境経営の
促進材料となれる。
・ SRI が普及すると、企業にとって環境報告書の利用者のイメージが明確となり、企業にとっ
92
ても環境情報を開示することの意義を具体的に認識できるようになる。これによって環境報
告書、環境会計、環境パフォーマンス指標などの環境情報開示が促進される。
・ 海外投資家による日本企業の環境情報への関心が増大する。つまり、社会的責任に取り組む
企業は、そうでない企業に比べて欧米の有力機関のポートフォリオに組み入れられる可能性
が高くなり、したがって株価が上昇する確率も高くなる。
・ 環境配慮行動が企業の長期的な存続のための必要条件であることをアピールすることで、潜
在的なグリーンインベスターを刺激する。
5 結論
5.1 SRI の広がり
米国では、1990 年代以降、CSR への関心の高まりを背景に、市民社会が企業に対して社会的
な責任を追及し、企業がその要求に自ら主体的に応えていくことで、投資家が社会問題へ取り組
む手段として SRI が広まり、同市場の拡大に結びついていった。
欧州では、1997 年に採択された京都議定書を契機に、イギリスを中心に各国政府が SRI を促
進する立法化の動きを進めた。SRI は循環型社会の実現のための方法として捉えられている。
このような現状が、金融の取り組みによって市場のあり方を変え、そのうえで企業が責任を果
たすことによって、循環型社会の構築が可能となると、世界が考えていることを示している。
これまで SRI は通常の投資とは別の「特殊な投資」と捉えられてきた。しかし今後は、資金が
持つ社会的な影響に配慮すべきだという考え方が一般的になり、拡大していくと考えられる。
UNEP(国連環境計画)は、金融機関や保険会社に環境や持続可能な開発に協力する署名を集め、
金融イニシアティブというネットワークを作り、温暖化防止などに取り組んでいる。また、世界
銀行は計画的な融資の際の配慮原則を公表し、金融機関にその適用を求めている。
5.2 市場のあり方を変え、循環型社会の構築を目指す
循環型社会はカネや製品の流れから自然界へと排出される悪影響をできるだけ減らし、連続的
な資源循環のサイクルを確立させた社会である。人間の経済活動は、物質面でその全てを自然界
に依存している。人間の活動がこのまま環境を破壊し続ければ、やがては文明社会を維持できな
くなってしまう。それを防ぐために、「持続可能な発展」が求められているのである。
限られた資源の中で生活を営んでいくためには、循環型社会の構築はもはや不可避なものとな
った。その実現のためには、市場に新しい性質を持たせることが必要なのである。長期的に見て
環境に配慮し、持続可能な社会に貢献する「よい企業」であればあるほど市場で高く評価され、
利益を生む、というような状態が理想である。そうでなければ、企業の環境対策は持続不可能な
ものである。
それは、放っておいて自然に実現するものではない。だから、SRI という資金面からの働きか
けが必要なのである。企業の取り組みが社会的に評価され、そのことで企業価値をあげることが
できるのならば、企業は積極的に環境に対する取り組みを進めていくだろう。さらにその取り組
みが資金を呼び込む材料になれば、それをさらに促進することができる。SRI によって資金の流
93
れに社会的視点を加え、利益追求に傾倒した現状を見直す。資金の流れに新しい性質を持たせる
ことで新しい市場のあり方を創出し、そのうえで企業が環境への対策をとっていくことによって、
持続可能な経済が実現できるのである。
<参考文献>
『循環型社会の制度と政策』(岩波書店)
細田 衛士・室田 武
著(2003)
『新・地球環境ビジネス』
(産学社) エコビジネスネットワーク 著(2005)
『持続可能な事業にするための環境ビジネス学』(中央経済社) 勝田 悟
『手にとるように環境問題がわかる本』
(かんき出版)
『社会的責任投資の基礎知識』(日本規格協会)
著(2003)
UFJ 総合研究所(2002)
松本恒雄監修 水口剛 著(2005)
『環境経営を学ぶ―その理論と管理システム―』(日科技連) 足立辰雄 著(2006)
『CSR 入門』
(日経文庫) 岡本享二 著(2004)
<参考URL>
・ 環境省「環境ビジネス研究会報告書」
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/junkan/h18/index.html
http://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h18/index.html
・ 環境省「環境にやさしい企業行動調査」
http://www.env.go.jp/policy/report/h14-01/all.pdf
・ 環境省「環境等に配慮したお金の流れの拡大に向けて」
http://www.env.go.jp/policy/kinyu/rep_h1807/mat.pdf
・ 政府資料等普及調査会「環境ビジネスの展開」
http://www.env.go.jp/policy/j-hiroba/kigyo/h16/gaiyo.pdf
・ 社会的責任投資
http://www.gioss.or.jp/current2/cr040614.htm#3
・ 三重銀総研
http:/www.miebank.co.jp/mir/news/20030101.pdf
・ マネープラン入門 All about
http://allabout.co.jp/finance/moneyplan/closeup/CU20040519B/index.htm
・ 大和証券グループ
http://www.daiwair.co.jp/topics-old.cgi?filename=20040611&num=227
・
三菱UFJ信託銀行
http://www.tr.mufg.jp/houjin/jutaku/pdf/c200607_2.pdf
・ 大和総研
http://www.daiwa.jp/branding/sri/060904sri.pdf
http://www.goodbankers.co.jp/wer/GERindex.html2006
・ 広島県立大学
http://www.hiroshima-pu.ac.jp/~katagiri/rsrchabs/20021abs.htm
94
・ 環境 goo
http://eco.goo.ne.jp/word/business/S00113_kaisetsu.html
・ 循環社会ビジネス研究所
http://www.is3.co.jp/index.html
・ EIC ネット
http://www.eic.or.jp/ecoterm/
・ 大阪・神戸ドイツ連邦総領事館
http://www.german-consulate.or.jp/jp/umwelt/politik/index.html
・ わしだネット
http://washida.net/kyokusoc/kyokusoc-chap2.html
・ 株式公開入門ナビ
http://www.ipo-navi.com/pickup/csr_sri/csr.html
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