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Title 男性における仕事と家族生活の両立 : 役割葛藤が男性の心理的
Title Author Publisher Jtitle Abstract Genre URL Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) 男性における仕事と家族生活の両立 : 役割葛藤が男性の心理的状態に及ぼす影響 裵, 智恵 三田社会学会 三田社会学 (Mita journal of sociology). No.12 (2007. ) ,p.74- 85 Journal Article http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AA11358103-200700000074 三 田社 会 学 第12号(2007) 男 性 に お け る仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 役割葛藤が男性の心理的状態に及ぼす影響 Men's The Work Impact and of Role Family Conflict Life on Balance Mental Health‐ 蓑裵智恵 1.背 景 と目的 近 年 、 既 婚 就 業 女 性 の 増 加 や 、 男 女 平 等 とい う理 念 の 広 が りな ど に よ っ て 、 男 性 の 家 族 役 割 参 加 に対 す る 社 会 的 期 待 が 高 ま っ て い る。 そ れ と同 時 に 、 男 性 自身 の 意 識 も変 化 をみ せ て い る。 日本 家 族 社 会 学 会 が1999年 と2004年 に 実 施 した全 国 家 族 調 査(以 下 、 「NFRJ98」 い て 、2度 の 調 査 時 点 間 に お け る家 族 意 識 の 推 移 を検 討 した 西 野(2006)に と 「NFRJO3」)を 用 よ る と、 「 男 性 は 外 、女 性 は 家 庭 」 とい う性 別 役 割 分 業 に 対 す る男 性 の 支 持 度 は 、 い ず れ の年 齢 層 にお い て も 「NFRJ98」 よ り 「NFRJO3」 の 方 で 下 が っ て い る。 ま た 、 この 傾 向 は す べ て の コー ポ0ト で も確 認 で き る(西 野2006:142)。 こ う した 結 果 か ら 、 従 来 の 伝 統 的 な 性 別 役 割 分 業 に 基 づ い た 男 性 の 家 族 役 割 に 対 して も、 男 性 の 意 識 が 変 化 して い る 可 能 性 は 充 分 考 え られ る。 実 際 に 、 最 近 の い くつ か の 調 査 は 、 家 族 役 割 に対 す る 男 性 の 意 識 変 化 を 報 告 して い る(今 井2001;UFJ総 しか し、 実 態 レベ ル で は 、 男 性 の 家 事 ・育 児 参 加 の 程 度 は 低 い(松 合 研 究 所2003)。 田2006)。 そ の背 景 に は 、 長 時 間 勤 務 や 頻 繁 な 残 業 とい っ た 、 日本 社 会 にお け る職 場 の 構 造 的 拘 束 が 存 在 す る。 男 性 の 家 族 役 割 に 対 す る価 値 ・規 範 の 変 化 に 、 職 場 の 変 化 が つ い て い け な い の で あ る1)。 この よ うな状 況 か ら、 家 族 社 会 学 の 分 野 で も 、 これ ま で 主 に 女 性 の 問 題 と して 扱 わ れ て き た 「 仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 」 を、 男 性 の 立 場 か ら も検 討 す る こ との 必 要 性 が 主 張 され る よ うに な っ た(冬 木 ・本 村1998;前 西 川1998,1999)。 田2002; しか し、 日本 で は 、 こ の 分 野 の 研 究 が 始 ま っ た ば か りの 段 階 で あ るた め 、小 規 模 調 査 デ ー タ の 分 析 か ら得 られ た 仮 説 的 推 論 は み られ る もの の 、 大 規 模 調 査 デ ー タ を 用 い た 研 究 は い ま だ 少 な い。 そ こで 、 本 稿 で は 、 前 述 した 「NFRJO3」 の 個 票 デ ー タ を 使 用 し、 従 来 あ ま り取 り上 げ られ な か っ た 男 性 に焦 点 を あ て て 、 仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 を め ぐ る問 題 につ い て 検 討 した い 。 2.先 (1)分 行 研 究 と仮 説 析 の枠 組 み と して の ス トレス 論 的 ア プ ロ ー チ こ の 問 題 を 検 討 す る に あ た っ て 、本 稿 で は 、ス トレ ス論 的 ア プ ロー チ(stress approach)を and mental health 採 用 す る。 こ の ア プ ロー チ に よ る研 究 は 、 一 人 の 個 人 が 職 場 と家 庭 で 、様 々 な役 割 を 74 蓑:男 性 にお け る仕 事 と家族 生 活 の 両 立 同 時 に 遂 行 しな けれ ば な らな い とい う多 重 役 割 の 状 況 が 、 個 人 の 心 理 的 状 態 に 与 え る影 響 に 注 目 し な が ら、 仕 事 と家 族 生 活 の 相 互 関 連 性 を解 明 して き た。 と こ ろ で 、先 行 研 究 で は 、既 婚 就 業 女 性 の 二 重 負 担 が テ ー マ と され る こ とが 多 か っ た 。 「 男性 は仕 事 、 女 性 は 仕 事 と家 事 ・育 児 」 とい う、 い わ ゆ る 「 新 性別 役 割 分 業 」 の 問 題 性 を指 摘 す る研 究 が 、 ス トレ ス論 的 ア プ ロー チ を採 用 した研 究 の 中核 を な して い る(稲 葉2002:109)。 そ の た め 、男 性 を 対 象 に した 研 究 は少 な い。 ま た 、 男性 が 対 象 とな る 場 合 も、 男 性 の 家 族 役 割 参 加 の 当為 性 を 前 提 に しな が ら、 男 性 の 家 事 ・育 児 参 加 の 規 定 要 因 を 解 明 す る研 究 が 目た っ 。 しか し、職 場 の 構造 的 な拘 束 が 改 善 され な い ま ま男 性 の 家 族 役 割 参 加 が 要 求 ・期 待 され て い る状 況 が 、 男 性 た ち に どの よ うな 影 響 を及 ぼ して い るか は 、 あ ま り分 析 され て い な い 。 そ こ で 、 本 稿 で は 、 ス トレス 論 的 ア プ ロー チ の視 点 か ら、 男 性 に お け る仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 に つ い て 検 討 した い 。 具 体 的 に は 、 男 性 が 仕 事 と 家 族 生 活 を 両 立 させ る過 程 で の 多 重 役 割 の 経 験 が 、 彼 らの 心 理 的 状 態 に どの よ うな影 響 を 与 え る か を 明 らか にす る。 心 理 的 状 態 に は,生 活 満 足 感 や 幸 福 感(psychological wel-being)の よ うな ポ ジテ ィブ な側 面 と、 個 人 の 経 験 す る不 快 な 状 態 で あ るデ ィス トレス の よ うな ネ ガ テ ィ ブ な 側 面 が あ る。 こ の2つ の側 面 は 、 測 定 の 方 向 が 逆 で あ る だ け で 、 い ず れ も一 定 時 点 で の個 人 が 経 験 す る 主 観 的 な状 態 で あ る と さ れ て い るが 、両 者 の 分 析 結 果 は 必 ず し も一 致 して い る わ け で は な い(稲 葉2002:109,2004:49)。 そ の理 由 と して は 、 以 下 の よ うな 点 が 指 摘 され て い る 。 ま ず 、 生 活 満 足 感 な ど を尋 ね る満 足 度 指 標 は 、 「目標 の 達 成 度 とい っ た動 機 付 け の 強 さや 達 成 状 況 を反 映 した 相 対 評 価 で あ り、比 較 的 長 い ス パ ン か ら評 価 が な され る」 傾 向 が あ る の に対 し、デ ィ ス トレス の 場 合 は 、 「 そ の 時 点 で の 絶 対 的 な状 態 で あ り 、 期 待 に 対 す る剥 奪 や 不 満 の 効 果 を 反 映 し、 短 期 的 な ス パ ン か ら評 価 が な され る 」(稲 葉 2002:109)。 さ らに 、幸 福 感 を 尋 ね られ た 場 合 は 、回 答 者 が 「 社 会 的 望 ま し さ(social desirability) の 影 響 を受 けや す い 」 が 、デ ィ ス トレス の 場 合 は 、 「 社 会 的 望 ま し さ の 反 映 とい うバ イ ア ス が 比 較 的 少 な い 」(稲 葉2004:49-50)。 そ の た め 、 ス トレス 論 的 ア プ ロー チ で は 、 デ ィ ス トレス の 方 が 生 活 満 足 度 や 心 理 的 幸 福 感 よ り測 定 論 的 な 利 点 を も っ て い る と され て きた(稲 葉2002:109,2004:50)。 本 稿 で も、 こ の よ うな議 論 を 考 慮 し、 男 性 の 心 理 的 状 態 に 、 デ ィ ス トレス とい うネ ガ テ ィ ブ な 側 面 か ら接 近 す る。 ま た 、 男1生の デ ィ ス トレス に影 響 を 与 え る 多 重 役 割 状 況 と して は 、役 割 葛 藤 の概 念 を 用 い る。 役 割 葛 藤 と は 、 個 人 の 過 去 、 現 在 、 未 来 で の 役 割 と関 連 す る様 々 な 問 題 や 困 難 を さす 役 割 ス トレー ン の 下 位 概 念 で あ り、相 互 に矛 盾 す る役 割 期 待2)に よ っ て 発 生 す る。 つ ま り、 一 方 の 役 割 期 待 に 応 じ る こ とが 他 方 の 役 割 期 待 に 背 く状 態 を意 味 す る(稲 葉2004:58)。 役 割 葛 藤 は 、 仕 事 と家 族 の 相 互 関 連 性 を 分 析 す る 際 の 重 要 な キ ー概 念 と して指 摘 され て い る(Voydanoff 仕 事 領 域 と家 族 領 域 の 間 で 生 じる役 割 葛 藤 は 、発 生 経 路 に よ っ て2つ 職 場 で の 要 求 が 家 族 の 要 求 を妨 げ る場 合(Work to Family 要 求 が 職 場 で の 業 務 遂 行 を 妨 げ る場 合(Family to Work この2つ 1988)3)。 に 区分 す る こ とが で き る。 Conflict、 以 下 「WFC」)と Conflict、 以 下 「FWC」)が の 役 割 葛 藤 は 、 い ず れ も仕 事 領 域 と家 族 領 域 間 の 「 適 合 の 不 在 」(absence 75 家 族 か らの それ で ある。 of fit)を 意 味 す 三 田社 会 学 第12号(2007) る(Crouter 1984)。 に もか か わ らず 、 既 存 の 研 究 で は 、仕 事 役 割 と家 族 役 割 が 対 立 す る 際 、2っ を 両 立 しよ う とす る個 人 は 、 一 般 に 前 者 よ り後 者 を調 整 す る傾 向 が あ る とい う仮 定 か ら、 「FWC」 り 「wFc」 よ を 中 心 に分 析 が 行 わ れ て き た。 しか し近 年 、仕 事 に 対 す る 家 族 の 潜 在 的 な 影 響 が 家 族 に 対 す る仕 事 の 影 響 に 劣 らず 重 要 で あ る とい う認 識 が 高 ま る こ と に よ っ て(Lou 1981)、 「WFC」 と 「FWC」 の 両 方 を視 野 に 入 れ た研 究 が 増 え て い る(Gutek et al .1991;Parasuraman et al.1996; 『Y ang et al.2000)。 こ う した 動 向 を ふ ま え 、 本 稿 で も 、 「WFC」 と 「FWC」 を と もに 分 析 す る こ と に す る。 (2)男 性 の役 割 葛 藤 とデ ィ ス トレス の 関係 を媒 介 す る 要 因:稼 ぎ手役割 意識 役 割 葛 藤 が 個 々 人 の 心 理 的 状 態 に及 ぼ す 影 響 は 、 様 々 な 要 因 に よ っ て 大 き くな っ た り、 ま た 小 さ くな っ た りす る。 ス トレ ス論 的 ア プ ロー チ で は 、 前 者 を脆 弱 性(vulnerability)要 (buffering)要 因 、 後 者 を緩 衝 因 と呼 ぶ 。 男 性 の 役 割 葛 藤 を テ0マ とす る先 行 研 究 は 少 な い が 、 そ こ で は 、 そ の様 々 な 要 因 の1つ 男性 の 「 稼 ぎ 手 役 割 意 識 」 が 着 目 され て き た(重 塑 司1998;金 期 の 父 親 を 対 象 に した 表(2005)で 井2002;n2005)。 と して 、 例 え ば 、育 児 は 、 圧 倒 的 に 多 くの 男 性 が 家 族 役 割 を 職 業 役 割 よ り重 視 す る と 答 え て い るが 、 長 い 勤 務 時 間 、 頻 繁 な残 業 な どの た め 、 実 際 に彼 らが 家 族 役 割 に 参 加 す る程 度 は低 調 で あ っ た 。 しか し、 男 性 の 生 活 満 足 度 に 負 の 効 果 を もつ の は 、仕 事 が 家 族 役 割 の 遂 行 を妨 害 す る 場 合 の 役 割 葛 藤(「wFc」)で (「FWC」)で は な く 、 家 族 役 割 の 遂 行 が 仕 事 に 支 障 を も た らす 場 合 の 役 割 葛 藤 あ っ た。 蓑 は 、 こ う した 一 見 矛 盾 した 結 果 を 、 日本 男 性 に お け る根 強 い 稼 ぎ手 役 割 意 識 が 反 映 され た結 果 と して解 釈 して い る。 す な わ ち 、 日本 の 男 性 は 、 強 力 な 「 稼 ぎ手役割 意識 」 を も っ て い る た め 、仕 事 の こ とで 家 族 役 割 に支 障(「WFC」)が 生 じて も 、そ れ を男 性 が 果 た す べ き 家 族 扶 養 の 役 割 を遂 行 す る過 程 で 発 生 す る 当 然 の こ と と して 認 識 す る。 そ れ ゆ え 、 「vvFc」 は 、 男 性 の 生 活 満 足 度 に は 影 響 を与 え な い 。 こ の場 合 、 男 性 の 稼 ぎ 手 役 割 意 識 は 、 役 割 葛 藤 が 生 活 満 足 度 に 及 ぼす否 定 的な影 響 を緩和す る 「 緩 衝 要 因 」 と して 作 用 して い る とい え る。 他 方 、 家 庭 の こ とで 仕 事 の 業 務 が 妨 害(「FWC」)さ れ る と、 「 稼 ぎ 手 役 割 」 の 遂 行 が 難 し くな る。 こ の 状 況 は 、 男 性 に と っ て 、 自分 が 担 うべ き 「 稼 ぎ 手 役 割 」 の 遂 行 が 妨 害 され る こ と を意 味 し、 生 活 満 足 度 に否 定 的 な 影 響 を 及 ぼ す こ と に な る。 こ こで は 、 男 性 の稼 ぎ 手 役 割 意 識 が 、 役 割 葛 藤 の 否 定 的 な効 果 を 大 き くす る 「 脆 弱 性 要 因 」 と して 働 く可 能 性 が 考 え られ る。 しか し、 この 解 釈 は 、 小 規 模 の 有 意 抽 出 デ ー タ を分 析 した 結 果 に基 づ い た も の で あ る た め 、 大 規 模 調 査 デ ー タ を 用 い て 再 検 討 しな く て は な らな い。 ま た 、 生 活 満 足 度 は 心 理 的 状 態 の ポ ジ テ ィ ブ な 側 面 で あ り、 前 述 し た よ うに 、 い くつ か の 測 定 論 的 な 問 題 が あ る と い う点 を ふ ま えれ ば 、 比 較 的 問 題 が 少 な い と され る心 理 的 状 態 の ネ ガ テ ィ ブ な 側 面 か ら接 近 し、 同 様 の 傾 向 が 認 め られ る か を分 析 す る こ と も必 要 だ ろ う。 した が っ て 、 本 稿 で は 、 日本 家 族 社 会 学 会 が 実 施 した 全 国 規 模 の デ ー タ を 使 用 し、 生 活 満 足 度 の 代 わ りに デ ィス ト レス を 取 り上 げ 、 役 割 葛 藤 が 男 性 の 心 理 的 状 態 に 及 ぼ す 影 響 を 検 討 す る。 設 定 す る仮 説 は 、 以 下 の とお りで あ る。 76 蓑:男 性 にお け る仕 事 と家 族 生活 の 両 立 仮 説1男 性 の 稼 ぎ 手 役 割 意 識 は 、 「wFc」 が デ ィ ス トレス に 与 え る影 響 を 弱 め る。 仮 説2男 性 の 稼 ぎ手 役 割 意 識 は 、 「FWC」 が デ ィ ス トレス に 与 え る影 響 を 高 め る。 3.方 (1)分 法 析対 象 分 析 に使 用 した デ ー タ は 、2004年 日本 家 族 社 会 学 会 が 実 施 した 第2回 全 国 家 族 調 査(「NFRJO3」) の 個 票 デ ー タで あ る。 この うち 、 本 稿 で は 、60歳 未 満 の 正 社 員 で 、妻 と同 居 して い る 有 配 偶 の 男 性 1,205人 (2)変 1)従 を 分 析 対 象 にす る。 数 属 変数 ・デ ィス トレス:「NFRJO3」 で は 、CES-D(Center fc)rEpidemiological Studies Depression)の うち 、 「 ふ だ ん は 、 何 で も な い こ と を わ ず らわ しい と感 じた こ と」 「 家 族 や 友 達 か ら励 ま して も ら っ て も気 分 が は れ な い こ と」 「 憂 うつ だ と感 じた こ と」 な どの12項 目 を用 い て 、 最 近1週 間 の心 身 の 不 快 な 状 態 を尋 ね て い る。 こ こ で は 、ポ ジ テ ィ ブ な 感 情 につ い て の 項 目を 除 い た11項 目に つ い て 「ま っ た くな か っ た 」 に1点 毎 日」 に4点 、「 週 に1∼2日 」 に2点 、「 週 に3∼4日 」 に3点 を あ た え て 、合 成 尺 度 を作 成 した。 と り う る変 数 の 範 囲 は 、11∼44点 が 高 い ほ どデ ィス トレ ス が 高 い こ とを 意 味 す る。 この 合 成 尺 度 のcronbachα 2)独 、「 ほ とん ど で あ り、 点 数 は 、.88で あ っ た。 立変数 ・役 割 葛 藤:「 仕 事 の た め に家 族 との 時 間 が とれ な い と感 じた こ と」 を 「WFC」 め に仕 事 の 時 間 が とれ な い と感 じた こ と」を 「FWC」 と して使 用 す る。この2つ と して 、 「 家族 の た の 項 目に つ い て 、 「ま っ た くな か っ た 」 と 「ご くま れ に あ っ た 」 を 「 役 割 葛 藤 低群 」、 「とき ど き あ っ た 」 と 「 何度 もあった」 を 「 役 割 葛 藤 高 群 」 にす る。 ・稼 ぎ手 役 割 意 識:「 家 族 を(経 済 的 に)養 うの は 男 性 の役 割 だ 」 の 項 目に つ い て 、 「そ う思 う」 と 「ど ち らか とい え ば そ う思 う」 を 「 賛 成 」、 「ど ち らか とい え ば そ う思 わ な い 」 と 「 そ う思 わ な い 」 を 「 反 対 」 とす る。 3)コ ン トロ ー ル 変 数 ・教 育 年 数:最 ・世 帯 年 収:調 終 学 歴 を 卒 業 とみ な し、 そ れ に 対 応 す る教 育 年 数 を算 出 した 。 査 票 上 の カ テ ゴ リー の 中央 値 を用 い る。 便 宜 上 、 「 収 入 が な か っ た 」 は0と た 、 一 番 上 の カ テ ゴ リー で あ る 「1,600万 円 以 上 」 に は1,650の 差 が100万 した 。 ま 値 を 与 え る。 これ は 、 中間 値 の で 区切 られ て い る こ とに 対 応 して い る。 ・本 人 の 勤 務 時 間:往 復 通 勤 時 間 を含 む1日 平 均 労 働 時 間 と1ヶ 77 月 の 平 均 労働 日数 を も と に 、 月 あ 三 田 社 会 学 第12号(2007) た りの 勤 務 時 間 を 算 出 した 。 単 位 は 、 時 間 で あ る。 ・末 子 の 年 齢:末 子 の年 齢 を そ の ま ま連 続 変 数 と して 用 い る 。 表1 分 析 に使 用 した変 数 点数 の範囲 一 末子年齢 本人の勤務時間 4 変数 4 -⊥ 1-4 教育年数 世帯収入 コ ン トロー ル い 独立変数 1-44 -← 宝ロ 鑛 醸 報 寄 勃・ き 役 役 稼 デ ィ ス トレス D D 融 耽 耽 鰍 従属変数 9 16 0-1,650 1 33.33495 平均 標準偏差 14.91 4.67 2.04 1.07 1.30 .65 1.95 .92 2.16 13.64 345.81 768.03 11.34 9.15 51.95 242.38 ※1:「 ま っ た くな か っ た 」、2:「 ご く まれ に あ っ た 」、3:「 とき ど き あ っ た 」、4:「 何 度 も あ っ た 」 「FWC」 の場 合も同様。 ※ ※1:「 そ う思 う」、2:「 ど ち ら か とい え ば そ う思 う」、3:「 ど ち らか とい え ば そ う思 わ な い 」、4:「 そ う思 わ な い」 注)(去 年1年 間 の)世 帯 収 入 の 単 位 は 、 万 円 で あ り、 勤 務 時 間 の 単 位 は 、 時 間 で あ る。 (3)分 析 方法 まず 、男性 が経験す る役割 葛藤 の全般 的 な傾 向を把握 す るた め、クロス集 計 とx2検 定を行 う。各 仮説 につ いて は、一般 線形 モデル を用 い て検 討す る。2つ の仮 説 を検証 す る前 に、デ ィス トレス に 対す る役 割葛 藤 の影 響 を検討 す る。そ のた め、役 割葛藤 を単独投 入 した一元 配置 の一般線 形モデ ル、 それ に夫 の教育年 数 、世帯 年収 、末子 年齢 、本 人 の勤務 時間 な どの コン トロール変数 を加 えた多元 配置 の一般線 形 モデル を実施 す る。最 後 に、緩 衝要 因お よび脆 弱性 要因 と しての稼 ぎ手役 割意識 の 効果 をみ るた め、稼 ぎ手役割 意識 と役 割葛藤 の交互 作用項 を含 ん だ多元配 置 の一般線 形 モデル を行 う。 4.結 (1)男 果 性 の役 割 葛 藤 の全 般 的 傾 向 男 性 が 経 験 す る役 割 葛 藤 の 分 布 は 、 表2の とお りで あ る。 表 か らわ か る よ うに 、分 析 対 象 に な っ た 男 性 た ち は 、 家 族 が原 因 で職 業 生 活 に 支 障 が 生 じる 場 合 の 役 割 葛 藤(「FWC」)よ に 家 族 の 生 活 に 支 障 が 生 じ る場 合 の 役 割 葛 藤(「WFC」)を 78 り、仕 事 の た め 頻 繁 に経 験 して い る。 「WFC」 に つ い て n:男 の 分 析 結 果 か らみ る と 、 「 何 度 も あ っ た 」が 約14%、 わ せ る と 、 約31%に ぞ れ 約2%、5%で な るの に 対 して 、 「FWC」 、 両 方 合 わせ て も7%に 表2 性 にお け る仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 「と き どき あ っ た 」 が約17%で あ り、両 方 を 合 は、 「 何 度 も あ っ た 」 と 「とき どき あ っ た 」 が そ れ 過 ぎ な い。 (%) 男性が経験する役割葛藤の頻度分布 とき どきあ った 何度 もあ った こ くまれ に あった 「WFC」 13.9 17.4 27.8 「FWC」 1.9 5.1 14.2 次 に 、 こ う した 男 性 の役 割 葛 藤 と社 会 属 性 との 関 係 を み る た め 、x2検 ま っ た くな か っ た 40。9 .. 定 を 行 っ た(表 割 愛)。 社 会 属 性 と関 連 す る 変 数 と して は 、 ライ フ ス テ ー ジ 、 仕 事 の 種 類 、 教 育 水 準 、 世 帯 年 収 な どの 変 数 を 用 い た4)。分 析 結 果 、2つ の 役 割 葛 藤iと社 会 属 性変 数 の うち 、統 計 的 に 有 意 な 関 係 が 認 め られ た の は 、 「WFC」 と ライ フ コー ス 変 数 の み で あ っ た 。 具 体 的 に み る と、幼 い 子 ど も を もっ 男 性 の場 合 が 、 そ うで は な い 男 性 と比 べ 、 「vvFc」 を経 験 す る割 合(「 何 度 も あ っ た 」+「 と き ど き あ っ た 」)が 高 い。 統 計 的 に は 有 意 で は な い もの の 、 「FWC」 の 場 合 も 、 同 様 の傾 向 が 確 認 され た 。 ラ イ フ ス テ ー ジ以 外 の変 数 に つ い て み る と 、社 会 属 性 変 数 と役 割 葛 藤 との 関係 は 、 全 て 統 計 的 に 有 意 で は な か っ た 。 この よ うな結 果 か ら 、 男 性 が 経 験 す る役 割 葛 藤 は 、 社 会 属 性 に よ っ て は あ ま り 左 右 され な い こ とが わ か る。 (2)各 表3と 仮説 の検 討 表4は 、それぞれ 「WFC」 と 「FWC」 が デ ィ ス トレス に及 ぼ す 効 果 を 分 析 した 結 果 を示 した もの で あ る。 ま ず 、 モ デ ル1の の効 果 は 、 「WFC」 結 果 か らみ る と 、役 割 葛 藤 は デ ィ ス トレス に 有 意 な 主 効 果 を 及 ぼ して い る。 そ に お い て も、 「FWC」 に お い て も認 め られ て お り、 教 育 年 数 、 末 子 年 齢 、 世 帯 収 入 、 本 人 の 勤 務 時 間 な ど コ ン トロー ル 変 数 を 投 入 した モ デ ル2で も有 意 で あ る。2つ の役割葛 藤 に っ い て カ テ ゴ リー(「 役 割 葛 藤 高 群 」 と 「 役 割 葛 藤 低 群 」)ご とに デ ィ ス トレ ス の 平 均 値 を 比 較 し て み る と、 「WFC」 の 場 合 は 、 「 役 割 葛 藤 高 群 」 が16.74、 合 は、 「 役 割 葛 藤 高 群 」 が18.53、 「 役 割 葛 藤 低 群 」 が14.09、 「 役 割 葛 藤 低群 」 が14.66と な っ て い る。 「WFC」 「FWC」 の場 と 「FWC」 と もに 、 役 割 葛 藤 が 高 い 方 が 、 デ ィス トレス も 高 い とい う結 果 が得 られ た 。 男 性 の デ ィ ス トレス に対 す る役 割 葛 藤 の影 響 を 検 討 した 上 で 、 以 下 で は 、 各 仮 説 に つ い て の検 証 作 業 を行 う。 そ の た め 、 モ デ ル2に 項 を追 加 した(表3と4の は 、 「WFC」 稼 ぎ手 役 割 意 識 、 さ らに役 割 葛 藤 と稼 ぎ 手 役 割 意 識 の 交 互 作 用 モ デ ル3)。 分 析 の 結 果 、男 性 の役 割 葛 藤iと稼 ぎ手 役 割 意 識 の 交 互 作 用 項 の 場 合 は 、10%水 準 で は あ る もの の 有 意 で あ っ た が 、 「FWC」 79 の場合 は有意 で はなか 三 田社 会 学 第12号(2007) っ た 。 ま た 、 い ず れ の 場 合 に お い て も 、 男 性 の 稼 ぎ 手 役 割 意 識 は 、 有 意 な 主 効 果 が 認 め られ な か っ た。 図1は 、 「wFc」 と稼 ぎ手 役 割 意 識 の 交 互 作 用 効 果 を示 した もの で あ る。 「WFC」 が低 い 場 合 は 、 男 性 が 男 性 の稼 ぎ手 役 割 に 賛 成 して い る か 、 そ れ と も反 対 して い るか に よ る デ ィ ス トレス の 差 は 、 あ ま り大 き くは な い。 しか し、 「WFC」 が 高 い 場 合 は 、 男 性 の稼 ぎ 手 役 割 に よ っ て 、 デ ィス ト レス の 差 が 大 き く な る。 男 性 の 稼 ぎ 手 役 割 意 識 は 、 「WFC」 が デ ィ ス トレス に 及 ぼ す 否 定 的 な 影 響 を緩 和 す る 効 果 を も っ て い る。 こ の よ うな 結 果 か ら 、男 性 の 稼 ぎ手 役 割 意 識 が 「WFC」 の 否 定 的 な影 響 を弱 め る 「 緩 衝 効 果 」 を も っ て い る とい う仮 説1は 一 方 、 「FWC」 支 持 され た と い え る だ ろ う。 と稼 ぎ手 役 割 意 識 の 交 互 作 用 項 は 、 統 計 的 に 有 意 で は な か っ た 。 した が っ て 、 男 性 の 稼 ぎ 手 役 割 意 識 が 「FWC」 の 否 定 的 な 影 響 を高 め る 「 脆 弱 性 要 因 」 と して の効 果 を も っ て い る とい う仮 説2は 棄 却 され た。 表3デ ィス トレス に対 す る一般線 形モ デル の分析 結果(「WFC」 モ ア ル1 モ ァ ル2 F F 69.67★ .05 .09 .11 .07 1 1 末子年 齢 62.73*** 1 -← 世帯年 収 ★★ -⊥ 1⊥ 教育 年数 F -← 95.53*** 1 モ ァ ル3 1 rWFC」(A) の場合) .36 .31 1 1⊥ 本人 勤務時 間 1.45 1.56 1 稼 ぎ手役割 意識(B) 1.59 1 (A)x(B) N 1169 Adj R2 1: 1017 1・ ・ fip<.10,*"p<.001 80 3.82fi 1017 .070 表:男 性 にお け る仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 表4デ ィス トレス に対 す る一般線 形モ デル の分析結 果(「FWC」 の場 合) モ デル2 モ ア ル1 F モデ ル3 F F 1 1 rFWC」(A) 1 57.23轍 43.04轍 35.94★ 1 1 教 育年数 .04 .04 1 1 世帯年 収 .02 .03 1 1 末子年齢 .20 .22 1 1← 本人 勤務時 間 8.72** 8.18`" -占 9一 -← 稼 ぎ手役割意 識(B) 3 nδ -⊥ (ツ)X(B) ★ ★p< 鼎 N 1170 1018 1017 Adj R2 .046 .045 .043 .01,★ ★★p<.001 図1役 割 葛藤(「WFC」)と 男性 の稼 ぎ手 役割 意 識 の交互作 用効果 20.0 一f7 18。0 .7コ 16.52 16.0 1 14.0 12.0 10.0 「WFC」 (デ ィ ス トレ ス) +稼 低 群 rWFC」 ぎ手役 割意識賛 成+稼 高 群 ぎ手役割意 識反 対 5.結 論 本稿 は、ス トレス論 的 アプ ローチ か ら、男性 が仕事役 割 と家族役 割 を 同時 に遂 行す る過程 で経 験 す る役 割葛藤 が 、彼 らの心理 的状 態 に及ぼす 効果 を実証 的 に分析 して きた。 本稿 の分析 結果 と得 ら れた知 見 をま とめ ると、以下 の とお りで ある。 第一 に、今 日の 日本男性 が経験 す る役 割葛藤 は、それ が仕事 の ため家庭 生活 に支障 が生 じた場合 81 三 田社 会 学 第12号(2007) にせ よ(「wFc」)、 逆 に家族 の ことで職 業 生活 に支 障が生 じた場 合にせ よ(「FWC」)、 男性 の心 理 的状 態 に否 定的 な影 響 を及 ぼ して い る。 この よ うな役割 葛藤 の否定 的影響 は、共働 き家 族 の男性 を 対象 に した蓑の研 究(2006)で 、す で に報告 された ことがあ る。 分析対 象 を拡 大 した本稿 の分析 結 果 は、仕事 と家族 生活 の 両立過程 で経 験す る緊 張 ・困難 が、共働 き家族 の男性 だ けの問題 で はない こ とを示唆す る。 そ こで、妻 の働 き方 を、フル タイ ム、パー トタイ ム、専 業主婦 の場合 にわ けて 、 2っ の役 割葛藤 の分布 とデ ィス トレス との関係 を確認 してみ た。 そ の結 果 、男性 が経験 す る役 割葛 藤 の分布 には、妻 の働 き方 に よ る差 がない こ とが明 らか にな った。 さらに、すべ て のカテ ゴ リー に おい て、役割 葛藤 の高 い場合 、デ ィス トレスの水 準 も高 い とい う結果 が得 られ た(表 割 愛)。 ここか ら、仕 事 と家 族生 活 をめ ぐる役割 葛藤 が男性 の心理 的状態 に及 ぼす否 定的 な影響 は 、共働 き家族 の 男性 に限定 した もの では ない、 とい う主張 は支持 され る。 これ まで主 に女性 の 問題 として多 重役割 状 況 に接 近 して きた この分 野の研 究 は、男性 の 多重役割 状況 につ い て も 目を向 け る必 要が あ るだろ う。本稿 で は、男性 の役割葛 藤 を規定 す る要 因5)に つ いて は、基本 的 な社 会属性 との関連 を分析す る水準 に止 ま ってい るが 、男性 の役 割葛 藤 の発 生 メカニズ ムな どにつ いて 、今後 よ り精 密 な考察 が 求 め られ る。 第 二 に、男性 の稼 ぎ手役 割意識 は、役割 葛藤(「WFC」 の場合)が 彼 らの心理 的状態 に及 ぼす否 定的影 響 を弱 める効果 をもって い る。 この結 果 をみ る限 り、今 日の 日本 男性 は 、仕 事 のた め家族 と の時 間が足 りない とい う状 況 を、「 良 き稼 ぎ手」役割 を果 たす過 程 で生 じる不可避 の もの として正 当 化 してい る とい う先行研 究 の知見 は支持 され た とい える。 ただ し、本稿 の分 析結果 におい て、稼 ぎ 手役割意 識 と 「WFC」 の交互 作用項 は 、そ の統計 的有意 差が 弱か った(10%の た蓑(2006)に おい て も、稼 ぎ手 役割意識 が役 割葛藤(「WFC」)と 有意 水準)。 前述 し デ ィス トレス間 の関係 を緩 衝す る効果 は、認 め られ て い ない。 だ とす る と、男性 の稼 ぎ手役割 意識 の緩衝 効 果 は、妻 の働 き方 によ って異 な る可 能性 も考 え られ る。 これ を確認 す るた め、再び妻 の働 き方 別 に、多元 配置 の一般 線形 モ デル を用 いて稼 ぎ手役 割意識 と役 割葛 藤 の交互 作用効 果 を検 討 す る追 加分析 を実施 した。 分析 の 結 果、交 互作用 項 が統計 的 に有 意 であ ったの は、妻 が専業 主婦 で ある場 合のみ であ った(p<.05)。 この追加 分析 か ら、男性 の稼 ぎ手役割 意識 が役割 葛藤 の否 定的 な影 響 を小 さ くす る効 果 を もっ のは、 妻 が専業 主婦 で ある男性 の場 合の みで あ り、妻 がフル タイ ムかパ ー トタイ ムで働 いて い る男性 の場 合 は、そ うした稼 ぎ手役割 意識 の緩衝 効果 が認 め られ ない こ とが 明 らか にな った。結 局 、仮説1は 、 妻 が専業 主婦 であ る男性 に限 って、支 持 され る と考 えた方 が よい だろ う。この よ うな点 か らす る と、 男性 は 、 自分 の家族 役割 を稼 ぎ手役 割 と同一視 してお り、それ 以外 の家族 役割 は明確 に認 識 され て いない とい う先行 研 究の指摘(金 井2002;蓑2005;尋 眉司1998)は 、(少な くとも)妻 が働 いて い る男性 の場 合におい ては 、説 得力 が低 い と考 え られ る。 この男性 た ちは、 単純 に家族 を養 うこ と だけで はな く、 よ り多様 な側 面か ら自分 の家族 役割 を考 えて い るのか も しれ ない(蓑2005:71)。 一方 、男性 の稼 ぎ手 役割意識 に よって、役割 葛藤(「FWC」)の 否定 的 な影 響が 高ま る傾 向 はみ ら れ なか った。 っ ま り、家 族 のた めに仕事 に支 障が 生 じる とい う状況 が、 男性 が担 う 「 稼 ぎ手役割 」 の遂行 に対す る妨 害 として認識 され 、役 割葛藤 の否 定的 な影響 を大 き くす るだ ろ うとい う仮説 は棄 82 表:男 性 に お け る仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 却 され た 。 妻 の 働 き 方 別 に追 加 分 析 を して も 、 結 果 は 変 わ らな か っ た 。 こ の よ うな 結 果 は 、 男 性 が 仕 事 に付 与 す る意 味 が 、家 族 を 経 済 的 に養 うた め の 手 段 の み で は な い こ と を示 唆 す る。残 念 な が ら、 「NFR,JO3」 の デ ー タ か らは 、 男 性 が 自分 た ち の 仕 事 役 割 、 ま た は 家 族 役 割 を 、 どの よ うに 定 義 し て い る か にっ い て は 、 直 接 的 な 情 報 が 得 られ な い 。 しか し、 男 性 に お け る家 族 役 割 が 多 様 な側 面 を 含 ん で い る(一 部 の 男 性 に 限 るか も しれ な い が)の と 同 様 に 、 仕 事 が もつ 意 味 も 、 従 来 考 え られ て き た 以 上 に多 様 な側 面 を も っ て い る 可 能 性 が あ る。 今 日の 男 性 は 、 家 族 役 割 と仕 事 役 割 を どの よ う に 定 義 し、 そ れ が彼 らに と っ て どの よ うな 意 味 を も っ て い る か とい う点 は 、 男 性 に お け る仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 を 考 え る際 、 再 検 討 し な け れ ば な ら な い 問 題 で あ る だ ろ う。 本 稿 は 、 男 性 に とっ て の仕 事 と家 族 生 活 の 両 立 に つ い て の 関 連 研 究 が 少 な い 日本 の 状 況 で 、 大 規 模 な デ ー タ を 用 い た 実 証 的 な 分 析 を 行 っ た とい う点 に 、 そ の 意 義 が あ る と考 え られ る。 しか し、 大 規 模 調 査 を使 用 した2次 分 析 で あ るか ら こそ の 制 限 も あ る。 そ の1つ と して 、 「NFRJO3」 で は 、本 稿 の キー 概 念 とな る役 割 葛 藤 を 時 間 的 な 側 面 の 単 一 項 目で 測 定 して い る。け れ ど も、仕 事 役 割 と家 族 役 割 を 同 時 に 遂 行 す る際 、個 人 が 経 験 す る役 割 間 葛 藤 は 、 時 間 的 な 側 面 に 限 る もの とは い え な い 。 こ の 分 野 の 研 究 が 活 発 に す す め られ て き た ア メ リカ で は 、 複 数 の 質 問 項 目 を用 い て 、 よ り多 様 な 側 面 か ら役 割 葛 藤 が 検 討 され て い る。 例 え ば 、Greenhausら (1985)は 、 時 間 べ 一 ス 、 ス トレー ン ベ ー ス 、 行 動 べ 一 ス の3つ の 側 面 か ら 「WFC」 と 「FWC」 の 問 題 を分 析 して い る。 こ の よ うな 点 を 考 え る と、 時 間 的 な 側 面 に 焦 点 を あ て て 単 一 項 目で 役 割 葛 藤iを測 定 した 「NFRJO3」 の 分 析 か ら は 、 個 人 が 仕 事 領 域 と家 族 領 域 の 問 で 経 験 す る役 割 葛 藤 の様 子 を充 分 に検 討 で き な か っ た か も しれ な い 。 も ち ろ ん 、 「NFRJ」 の よ うな 大 規 模 調 査 に 、特 定 テ ー マ と関 連 す る質 問 項 目 を多 数 設 定 す る こ とは 、 難 しい だ ろ う。 した が っ て 、 今 後 の 研 究 で は 、 役 割 葛 藤 に 対 す る概 念 的 ・理 論 的 検 討 を は じめ 、 多 重 役 割 状 況 に テ ー マ を絞 っ た 小 規 模 調 査(質 的)の 的 ・量 蓄 積 が 待 た れ る。 そ して 、 そ こ で 得 られ た 結 果 が ま た 次 回 の 大 規 模 調 査 の 設 計 や 分 析 に 反 映 され る こ とが 望 まれ る。 【註 】 1)「NFRJ98」 と 「NFR.JO3」を用い て父親 の家事 ・育児 参加 の水準 と規 定要因 の変化 を分析 した松 田(2006: 49)に よ ると、父親 の長時 間労働 化 ど醐lj役割 分業 意識 の低 下は、矛 盾す る動 きをみせ てい る。 2)役 割期待 の概念 を含 め、役 割 に関す る諸概 念につ いて は、渡辺(1981)を 参照。 3)た だ し、役 割葛藤 の概 念が 、役 割 ス トレー ンの も う1つ の下位概 念 であ る役 割過 重 と異 な る概念 であ る こ とには、分析 の 際に注意 す る必要 があ る。 稲葉(2004)の 整理 に よ ると、役 割葛 藤 が、役割 期待 自体 が論理 的 に両立 で きない状況 を意 味す るの に対 し、役 割過 重 は、 ある特 定の地位 にお ける役割 期待 が大 きす ぎて、他 の地位 にあ る役 割期 待 に応 じる時 間やエ ネル ギー が不足 す る状況 を意 味す る。役 割葛藤 と 役割 過重 が心理 的安寧 に及 ぼす効 果の相 違 を実証 的 に確 認 したCoeverman(1989)の 分析 は、両者 が異 な る概念 で あ り、実証 分析 の 際、その 点に注意 しなけれ ばな らない とい う主 張の妥 当性 を立証 してい る。 83 三 田社 会 学 第12号(2007) も ち ろ ん 、稲 葉(2004)が 指 摘 した よ うに 、個 々 の 現 象 が ど ち ら に相 当 す る か を 明 確 に 区 分 す る こ とは 、 容 易 で は な い 。 実 際 に 、 本 稿 で分 析 した 「NFRJO3」 の 質 問 項 目が 、役 割 過 重 で は な く 、 役 割 葛 藤 を 測 る 尺 度 で あ る か に つ い て は 、 異 論 の 余 地 も あ る。 した が っ て 、 今 後 この 分 野 の研 究 に お い て 、 こ う した 問題 点 を 把 握 した うえ 、 よ り精 巧 な 尺 度 を 開 発 す る 努 力 が 必 要 と な る。 4)ラ イ フ ス テ ー ジ は 、末 子 の 年 齢 別 に 、 「 子 ど も な し」 「 末 子0歳 18歳 」 「 末 子19歳 ∼24歳 」「 末 子25歳 ∼6歳 」 「 末 子7歳 ∼12歳 」「 末 子13歳 ∼ 以 上 」 の カ テ ゴ リー に 分 け る 。 仕 事 の種 類 は 、 「 専 門職」 「 管理 職」 「 事 務 ・営 業 職 」 「 販 売 ・サ ー ビ ス 業 」 「 技 能 ・労 務 職 」 「 農 業 」 の カ テ ゴ リー を 用 い た 。 ま た 、 教 育 水 準 は 、 「中学 校 卒 業 」 「 高校 卒業 」 「 高 専 ・専 門 学 校 卒 業 」 「 大 学 卒 業 以 上 」 の4つ 入 は 、 「400万 円未 満 」 「400∼800万 万 円 以 上 」 の5つ 円未 満 」 「800∼1,200万 の カ テ ゴ リー を 、 収 円未 満 」 「1,200∼1,600万 円未 満 」 「1,600 の カ テ ゴ リー を 用 い た 。 5)欧 米 の 先 行 研 究 に よ る と、 男 性 の役 割 葛 藤 を 引 き 起 こ す 要 因 と して 最 も強 い 規 定 力 を もつ の は 、 職 業 関 連 特 性 で あ り(Kely and Vbydanoff 1988;Guelzow et al.1991)、 男 性 の役 割 葛 藤 を軽 減 す る た め に 、 こ う した 職 業 環 境 を 改 善 す る こ とが 指 摘 され て い る。 長 い 勤 務 時 間 、 頻 繁 な 残 業 な ど職 場 の 拘 束 が 強 い 日本 に お い て も 、 同 様 の 結 果 が 予 想 され る。 付記:本 稿 は 、第16回 日本家族 社会 学会大 会(2006年9月)に お ける報告 を修 正 した もの であ る。 報告 に対 し貴 重 な ご意 見 ・ご指摘 を下 さった方 々に感 謝 した い。 また、 「NFRJO3」 のデ ー タにっい ては 、 日 本家族社 会 学会全 国家族 調査(NFRJ)委 員 会 の許 可 を得て使 用 した。 【文 献 】 蓑 智 恵,2005,「 共 働 き家 族 の 男 性 に お け る仕 事 と家 族 の 両 立一 育 児 期 の 父 親 の 役 割 葛 藤 を め ぐ っ て 」 第78回 日本 社 会 学 会 自 由 報 告 配 布 資 料. 蓑 智 恵,2006,「 共 働 き 家 族 の 男 性 に お け る役 割 葛 藤 とデ ィ ス ト レスー 稼 ぎ 手 役 割 意 識 と配 偶 者 か ら の 情 緒 的 サ ポ ー トに よ る 緩 衝 効 果 」西 野 理 子 ・稲 葉 昭 英 ・島 崎 尚 子 編 『第2回 第2次 Coverman, 報 告 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