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グループにおけるスケーブゴーティ ング現象の

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グループにおけるスケーブゴーティ ング現象の
岡 島:グ ル ー プ にお け る ス ケ ー プ ゴ ー テ ィ ング現 象 の心 理 力 動 につ い て
《修士験文要 旨》
グル ー プ に お け るス ケ ー プ ゴー テ ィ ング現 象 の
心 理 力 動 につ い て
個 人 の パ ー ソナ リテ ィ類 型 と集 団 文 化 の 影 響 に関 す る実証
岡
島
1.問
真
一*
題
日本 にお い て 近 年 、 「い じめ 」 に対 す る 関心 が 高 ま って い る 。 い じめ と は 、imidasに
よれ ば 、
集 団関 係 の な か で立 場 や力 の弱 い者 を ター ゲ ッ トに して精 神 的 ・身体 的 な攻 撃 を執 拗 に加 え る こ
と をい う。 学 校 で の い じめ が 問 題 化 す る よう に な っ た の は1980年 代 以 降 で あ る 。
文 部 省 の 児 童 生 徒 の 問 題 行 動 等 に 関 す る調 査 研 究協 力 者会 議 は96年7月
に 「い じめ の 問題 に対
す る総 合 的 な取 組 につ い て」 と題 す る報 告 を公 表 し、 い じめ 対 策 と して 、家 庭 や 地 域 との連 携 や
学 校 全 体 で の 対 応 の 重 要性 を指摘 し、 学 級 編 成 替 えや 転 校 とい った 措 置 も必 要 だ と提 言 した 。
当 時 の 文 部 省 、 厚 生 省 で は、 学 校 集 団 に お け る 「い じめ 問 題」 へ の対 策 が 議 論 され た。 本研 究
は グル ー プ にお け る ス ケ ー プ ゴー テ ィ ン グ現 象 の 心 理 力 動 に関 す る 実 証 的研 究 で あ る 。
本 論 文 は まず 定 義 され る必 要 の あ る4つ の 根 本 的 な概 念 か ら構 成 され る。 す な わ ち 、 「ス ケ ー
プ ゴー ト(scapegoat)」 、 「ス ケ ー プ ゴ ー テ ィ ン グ現 象 」、 「Bionの グ ル ー プ理 論 に お け る基 本 的概
念」、 「D一 グル ー プ」 で あ る 。
∬.ス ケ ー プ ゴー テ ィ ン グ現 象 に お ける概 念
1.ス
ケ ー プ ゴ ー トの 定 義
心 理 学 辞 典 に よる と 「ス ケ ー プ ゴー一トscapegoat」 は、 賦 罪 の 山羊 の こ と。 転 じて 、 集 団 が 危
機 に 直 面 した と き、集 団 内 の欲 求不 満 を解 消 した り他 の集 団成 員 が 自責 の 念 を まぬ が れ る た め の
非 難 ・攻 撃 の対 象 とな る 内 集 団 の特 定 の 成 員 の こ と。 実 際 の 問 題 解 決 か ら 目 を逸 らす こ とにつ な
が る 。 ス ケ ー プ ゴ ー トの典 型 的 な例 と して 、 経 済 破 綻 の 危 機 に直 面 した ドイ ツで 、 ナ チ ス が 問 題
のす べ て をユ ダ ヤ人 の 国際 的 陰謀 の せ い に して ユ ダヤ 人 を非 難 ・攻 撃 した こ とを あ げ る こ とが で
き る。Bion(1961)に
よれ ば、 心 理 力 動 的 ア プ ロ ー チ に賛 成 して い る ほ とん どの 筆 者 は、 ス ケ ー
プ ゴ ー トが 彼(彼 女)が 所 属 して い る グ ル ー プの 投 影 した、望 まれ ない 側 面(衝 動 、 感 情 、動 作 、
印 象 な ど)の た め の入 れ物 の役 割 を演 じる とい う解 釈 を共 有 す る。 ス ケ ー プ ゴ ー トの存 在 は 、 そ
れ に対 して グ ル ー プの 攻 撃 性 を 向 け る こ と を可 能 に し、 そ して グ ル ー プ の緊 張 、 恐 怖 、 お よび不
安 レベ ル を減 少 させ る。
平 成18年 度*社
会 学 研 究科 社 会 学 専 攻(臨 床 心 理 学 コー ス)
一233一
奈良大学大学院研究年報
2.ス
第13号(2008年)
ケ ー プ ゴ ー テ ィン グ現 象 の定 義
「ス ケ ー プ ゴー テ ィ ン グ現 象 」 とは広 義 の 意 味 で は グル ー プ 自体 が 抱 え る問 題 を グル ー プ 内 の
個 人 あ る い は サ ブ グル ー プ に 身代 わ り と して押 しつ け 、 結 果 と して根 本 的 な問 題 解 決 が で きな い
状 況 を指 す 。 また 集 団 文 化 の 特 徴 と して は 、規 則 に縛 られ て 個 人 に 自由 が な い とこ ろ や 、 警 察 や
軍 隊 や 政 党 の よ うな 、組 織 が 一 体 とな っ て敵 と戦 わ なけ れ ば な ら ない よ う な集 団 に お い て ス ケ ー
プ ゴー テ ィ ン グが起 きや す い とい う経 験 敵 な推 測 が あ る。 しか し、 ス ケ ー プ ゴ ー テ ィ ング現 象 が
発 生 す る状 況 を 明 らか に示 す研 究 は な い 。
3.Bionの
グル ー プ理 論 に お け る 基本 的概 念
本研 究 は 、グ ル ー プ に お け る ス ケ ー プ ゴー テ ィ ン グ現 象 の 心理 力 動 に 関 す る 実 証 的 研 究 で あ る。
集 団 文化 の測 定 に はBionの
「基 底 的 想 定 グ ル ー プ(basicassumptiongroup)」
を用 い る 。
Bionの 基 本 的 な発 見 は 、 あ らゆ る グ ル ー プ活 動 に は 「作 動 グ ル ー プ(workgroup、
と 「
基 底 的想 定 グ ル ー プ(basicassumptiongroup、
以 下baG)」
以 下WG)」
とい う対 照 的 な機 能 的水 準 が 同
時 に存 在 す る とい う こ とで あ る 。 しか し、 こ こで の 「グ ル ー プ」 とい う用 語 は 、 「特 殊 な心 的 活
動 の み を包 含 す る もの で あ り、 そ の作 業 に携 わ る人 々 を意 味 す るの で は な い 」(Hafsi訳)。
Morenoは
、社 会 の 基 本 的 構 造 を、 原 子 の ネ ッ トワ ー ク と して記 述 して い る 。 更 に 、Bionも 、
化 学 か ら 「原 子 価valency」
とい う概 念 を借 用 し、 人 間 の 対 人 関 係 や個 人 と グ ル ー プ との 結 合 の
説 明 を試 み た。Bionは 、 人 間 が 、 原 子 と同 様 に原 子 価 を持 ち、 原 子 同 士 の よ う に、 そ の原 子 価 に
よ って 結 合 す る と考 え 、 原 子 価 を、 「確 立 した行 動 パ ター ン を通 じて 、 他 者 と瞬 間 的 に結 合 す る
個 人 の 能力 」 また 「
基 底 的 想 定 を創 り出 した り、 そ れ に基 づ い て行 動 した りす る た め に グ ル ー プ
と結 合 して い くた め の個 人 の準 備 状 態(read㎞ess)」(Hafsi訳)と
4.D一
D一
グル ー プ
グ ル ー プ の 根 源 は フ ラ ン ス 学 派(CEFFRAP)の
dedianostic」
をD一
定 義 して い る。
あるいは
代 表 で あ るAnzieuと
「診 断 グ ル ー プ 」 に あ る 。HAFSIは
グ ル ー プ と 省 略 し て 用 い た 。D一
グ ル ー プ は1人
その英訳で ある
の ト レ ー ナ ー と2人
そ の 同 僚 の 「groupe
「diagnosticgroup」
の観 察 者 か ら な る精
神 分 析 的 指 向 のTグ ル ー プ で あ る(Anzieu,1984)。
皿.仮
仮 説1
説
ス ケ ー プ ゴー テ ィ ン グ現 象 が 一 番 発 生 しや す い の は 、 闘争 基 底 的想 定 グ ル ー プ にお い て
で あ ろ う。
仮説2
グル ー プ にお い て ス ケ ー プ ゴ ー トに な りや す い の は支 配 的 原子 価 が 闘 争 原 子 価 以 外 の 人
で あ ろ う。
一234一
岡 島:グ ル ー プ に お け る ス ケ ー プ ゴー テ ィ ン グ現 象 の 心 理 力 動 に つ い て
】
〉.方
1.D一
グ ル ー プ の 実 施e、'
参 加 者 は 、 男 女 の 区 別 な く、10か
グ ル ー プ8)が
2.ア
法
ら12名 ず つ に 振 り分 け ら れ 、8つ
の グ ル ー プ(グ
ル ー プ1∼
構 成 され た 。
ンケ ー トの 実 施
D一 グ ル ー プ が始 まる前 に 、 機 会 を設 け 、 メ ンバ ー の原 子 価 を測 定 す るた め の 尺 度VATを
実施
した。 こ れ に よっ て メ ンバ ー の パ ー ソ ナ リ テ ィ類 型 が 測 定 され た 。 そ して、 セ ッシ ョ ン終 了 ご と
に3つ の 尺 度 を 実 施 した 。1つ 目に グル ー プの 基 底 的 想 定 を はか る た め にbaG尺 度(baGS)、
二
つ 目 に グ ル ー プ に お け るス ケ ー プ ゴ ー ト測 定 尺 度 、 三 つ 目 に ソ シ オ メ トリ ッ ク テ ス トを実 施 し
た。
V.結
ス ケ ー プ ゴー ト測 定 尺 度8項
果
目 に対 して 、 主 因 子 法 に よ る 因子 分 析(varimax回
2つ の 因子 が抽 出 され た 。 因 子1は
転)を
行い
、 項 目1「 グ ル ー プ に貢 献 し よ う と しな か っ た 。」 項 目4「 積
極 的 に発 言 しなか っ た。」 項 目5「 メ ンバ ー の話 を聴 こ う と しな か った 。」 項 目6「 み ん な と仲 良
くな ろ う と しな か っ た。」 項 目9「 グ ル ー プ と無 関係 で い よ う と して い た。」 で あ る。 こ れ らの項
目は、 本 人 が グ ル ー プ と どの よ う に関 わ ろ う と して い た の か を評 価 して い る。 こ れ に基 づ き、 因
子1を
「グ ル ー プへ の否 定 的 関係 性 の 評価 」 と名 づ け た。 因子2は
、 項 目2「 グ ル ー プ の雰 囲気
を悪 く して い た。」 項 目3「 退 屈 そ う だ っ た。」 項 目7「 批 判 的 な印 象 が あ った 。」 で あ る 。 この項
目は、 本 人 の グ ル ー プへ の 関 わ り方 とは 関 係 な く、 本 人 の否 定 的 な 印象 を評 価 してい る。 こ の こ
とか ら、 因子2を
「グル ー プへ の 否 定 的 印 象 の 評 価 」 と名 づ け た 。 この二 つ の 因 子 に基 づ き、 グ
ル ー プ にお い て もっ と も否 定 的 に評 価 さ れ て い た人 物 を ス ケ ー プ ゴ ー トと した 。
人 間 が 集 団 を作 っ た 時 に は 、 ス ケ ー プ ゴー テ ィ ン グ は不 可 避 の こ とだ と考 え られ て い る。 そ の
際 に、 現 在 起 こ っ て い る の は 、 ス ケ ー プ ゴー テ ィ ング だ と指 摘 し、 そ の 原 因 を探 索 す る こ とで 、
ス ケ ー プ ゴ ー テ ィ ング を した側 も受 け た側 も、 人 間 的 に発 達 で きる と考 え られ て い る。 い じめ を
な くそ う だ とか、あ っ て は な らな い こ とだ と強調 しす ぎる と、教 師 も子 ども もそ れ を隠 そ う と し、
親 もな るべ くそ れ を見 な い よ うに す る だ ろ う。 グ ル ー プ は常 に基 底 的想 定 を有 し、 闘 争 基 底 的想
定 グル ー プの 発 生 は不 可 避 で あ る。ス ケ ー プ ゴ ー テ ィ ングの 発 生 が 不 可 避 で あ る こ と を受 け 入 れ 、
み ん なが 共 有 して 、起 こっ た 時 に対 処 で き る よ う にす る よ う に方 向付 け られ るべ きで あ る と考 え
る。
一235一
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