...

細菌の pH 及び Na +恒常性を支配する Sha 輸送体の構造と機能

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

細菌の pH 及び Na +恒常性を支配する Sha 輸送体の構造と機能
[研究課題名] 細菌の pH 及び Na+恒常性を支配する Sha 輸送体の構造と機能
[研究課題名(英文)] Analyses of structure and function of multigene-encoded Na+/H+
antiporter system
[研究担当者(分担者も含む)] 古園さおり、小田切正人、梶山裕介、工藤俊章
[研究室] (工藤)環境分子生物学研究室
1.研究目的(500 字程度)
恒常性(ホメオスタシス)は、細胞が環境変化に柔軟に適応するために不可
欠な性質である。ある種の細菌は、高いイオン恒常性維持能力を持つことによ
って、高アルカリや塩環境変化に適応するロバストさを持つ。Sha 輸送体は、細
菌の pH および Na+イオン恒常性を支配する Na+/H+対向輸送体であり、他の対向
輸送体にはない 7(6)遺伝子にコードされる特徴を持つ。これまでの研究から、
Sha 輸送体は単に pH/塩環境適応だけでなく、細菌の定常期移行にも重要である
ことが明らかとなってきた。本研究では、マルチコンポーネント型 Na+/H+対向
輸送体である Sha 輸送体を対象として、イオン恒常性という内部環境が分子レ
ベルで及ぼしうる影響を踏まえて、どのように機能発現や細胞応答と関わりを
もつのかを理解することを目指す。
2.平成 19 年度の研究計画(500 字程度)
Sha 輸送体は、代表的な日和見感染菌である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
の Na+イオン恒常性を支配しており、また病原性に関与する。病原性に関与する
メカニズムを明らかにするために、Sha 輸送体欠損が定常期移行期の遺伝子発現
に 与 え る 影 響 に つ い て 昨 年 度 よ り 引 き 続 き 検 討 し た 。 Sha 輸 送 体 は 、
shaABCDEFG 遺伝子産物より構成されるマルチコンポーネント型のイオントラ
ンスポーターであることが明らかとなってきた。各サブユニットの組成比や他
の会合因子の存在を明らかにすることを目的として、大腸菌を宿主とした Sha
複合体の大量発現と精製を行った。
3.平成 19 年度の研究成果(1000-2000 字程度)
緑膿菌 Sha 欠損株では、定常期の遺伝子発現誘導に必須な定常期シグマ因子
RpoS とクオラムセンシング(Las 及び Rhl システム)の活性化が 0.3 M NaCl 添加
により顕著に阻害される。阻害を引き起こす NaCl 添加のタイミングを rpoS, lasR,
rhlR-lacZ 発現を指標に検討したところ、いずれも対数増殖期の終点(培養開始 4
時間後)の添加でも、最初から添加した場合と同等の阻害効果を示した。一方、
培養開始 6 時間後の NaCl 添加では、もはや阻害効果は見られなかった。この結
果は、対数増殖期から定常期へ移行する時期に NaCl の影響を受けやすい反応も
しくは分子メカニズムが存在することを示唆する。培養開始 4 時間後に NaCl を
添加した場合の主要シグマ因子 RpoD 及び定常期シグマ因子 RpoS の存在量をウ
ェスタン解析により調べた。NaCl 添加により Sha 欠損株における RpoS 蓄積は
起こらなくなるが、RpoD 存在量には影響が無かったことから、NaCl の影響は
RpoS 特異的であると考えられた。NaCl 添加が遺伝子発現に与える影響を網羅的
に調べるため、培養開始 4 時間後に NaCl 添加し、さらに 2 時間培養した菌体よ
り回収した RNA サンプルを用いて、GeneChip 解析を行った。その結果、lacZ
リポーター解析の結果と一致して、RpoS 及びクオラムセンシング制御下にある
多数の遺伝子の転写が低下していることを見いだした。その中には(リポ)多
糖合成、走化性、運動性と付着、分泌性酵素や毒素等の病原性遺伝子が含まれ
ていた。このほか、56 のうち 54 のリボソームタンパク質遺伝子、12 の tRNA な
ど蛋白合成に関与する遺伝子群の転写上昇が目立っており、一方、定常期リボ
ソームの貯蔵に関わる Rmf (ribosome modulation factor)の転写が大幅に低下して
いた。以上の結果を総合すると、Sha 欠損により定常期への移行期における Na+
恒常性が維持されない場合、RNA ポリメラーゼではシグマ因子が RpoD から
RpoS へ入れ替わりが起こらず、リボソームは対数増殖後も活発に合成され貯蔵
型へ移行しない、つまり、転写と翻訳装置が増殖型から定常期型へ変化しない
ことが示唆される。従って、Sha 輸送体による Na+イオン恒常性維持は、単に生
育における NaCl 耐性だけでなく、定常期移行にも重要であると考えられた。枯
草菌での機能解析から、「Sha 輸送体は胞子形成開始期に重要」という結論が導
かれており、一見関連なく見える胞子形成(枯草菌)と病原性(緑膿菌)への
Sha 輸送体の関与は、「定常期移行」という接点を持つと考えられた。
緑膿菌 Sha 輸送体は、PA1054~1059 の 6 遺伝子にコードされる。PA1054~1059
遺伝子産物の His タグ融合タンパク質を共発現させるプラスミドを構築した。上
記のプラスミドは、大腸菌主要 Na+/H+アンチポーター欠損株 KNabc の NaCl 感
受性を相補したことから、His タグを付加した遺伝子産物は全て機能を維持して
いると考えられた。上記プラスミドを用いて、大腸菌を宿主とした Sha 複合体
の大量発現と His タグによるアフィニティー精製を行った。現在、BN-PAGE、
ゲルろ過クロマトグラフィー、分析超遠心による Sha 複合体の分子量測定を行
っている。
4.目的と成果の要約(100-200 字程度.年報原稿用)
Sha 輸送体が緑膿菌の病原性に関与するメカニズムを明らかにするため、定
常期転写に注目して、Sha 輸送体欠損変異が与える影響を検討した。Sha 欠
損株では定常期への移行期に NaCl が存在すると、定常期の転写誘導に必須
な RpoS やクオラムセンシングの活性化が顕著に阻害され、それらの制御下
にある病原性遺伝子の発現が抑制されることを明らかにした。緑膿菌 Sha
輸送複合体を大腸菌において大量発現・精製を行い、複合体の分子量につ
いて検討した。
5.研究成果の概要(英文)
We performed transcriptome analysis to show that transcription of many virulence
genes, mostly RpoS and quorum sensing-dependent ones, was decreased in a
NaCl-dependent manner in a Sha antiporter-deficient mutant, which may cause the
attenuated virulence of the mutant.
6.平成 19 年度誌上発表(英文のみ)
(1) 原著論文
Kajiyama, Y., Otagiri, M., Sekiguchi, J., Kosono, S., Kudo, T. Complex formation by
the mrpABCDEFG gene products, which constitute a principal Na+/H+ antiporter in
Bacillus subtilis. J. Bacteriol. 189: 7511-7514 (2007).
(2) その他
7.メンバー(日本語および英語で)
(理研以外の方は所属機関の正式呼称を日
本語と英語で書いてください)
Saori KOSONO
古園さおり
Toshiaki KUDO
工藤俊章
8.共同研究者(同上)
(理研のデータベース登録に必要なので,誌上発表のみ
ならず,口頭発表でも名前を連ねている人をリストしてください)
Masato OTAGIRI
小田切正人
梶山裕介
Yusuke KAJIYAMA(信州大学
Shinshu University)
関口順一
Junichi SEKIGUCHI(信州大学
Shinshu University)
Fly UP