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免疫・アレルギー科学総合研究センター 免疫系構築研究チーム
腸管免疫応答に重要な細菌認識受容体を世界に先駆けて発見 効果的な感染症・アレルギーに対する経口ワクチンの開発に期待 免疫・アレルギー科学総合研究センター 免疫系構築研究チーム 私たちの体は、常にさまざまな異物にさらされています。これら異物から生体を防御する免疫システムの働きで、私たちは 健康を保っています。免疫システムには、脾臓や末梢リンパ節を中心とする全身免疫系に加えて、腸管で独自に働く腸管免疫 系があります。腸管には、食事などと共に侵入してくる病原性微生物を含む種々の外来微生物に加え、私たちの体を構成する 細胞数よりもはるかに多い数の常在菌がすみ着いており、常に異物にさらされています。そこで腸管免疫系が働いて、微生物 の働きを監視し、病原菌を排除したり腸内細菌のバランスを維持したりすることで、「腸管の免疫監視」を行っています。この システムでは、腸管免疫を担うリンパ組織を覆う上皮細胞層に存在する M 細胞が、異物情報をキャッチし腸管免疫を誘導して いると考えられていますが、そのメカニズムはナゾのままでした。 私たちは、この特殊な腸管上皮細胞として知られる M 細胞で発現する「GP2」というタンパク質が、大腸菌やサルモネラ菌 といった細菌を取り込み、腸管免疫応答の誘導に重要な役割を果たす細菌受容体であることを世界で初めて発見しました。つ まり、 「GP2」は腸管の免疫監視に重要な分子であることがわかったのです。(『Nature』11 月 12 日号に掲載) この「GP2」の性質を制御すると、いまだ成功していない、細菌・ウイルス感染症やアレルギーの予防に効果的な「経口ワクチン」 の開発が実現に近づくことになります。注射によるワクチンよりも安価でかつ強力な免疫治療を可能にすると注目されます。 単位面積当たりの細菌取込数 = 0.0463 70 60 50 40 30 20 10 0 図 2: 正常 GP2 欠損 ノックアウトマウスにおける大腸菌取り込み障害 図 1:マウス M 細胞特異的な GP2 の発現を示す組織染色像 上段:GP2(青)、UEA-1(赤)、大腸菌(緑)の 3 重染色像。 マウス小腸粘膜組織の GP2(緑)、UEA-1(赤)およびアクチン線維(青)の染色像。UEA-1 は植物由来の 下段:上段の写真の大腸菌(緑)のみを表示。 タンパク質で、従来マウス M 細胞を検出する唯一の手段として使われてきたが、矢印で示すように、粘液 正常マウスでは、腸管関連リンパ組織(白点線で囲われた領域)を覆う上皮部位に GP2 陽性の M 細胞が見 を産生する上皮細胞である杯細胞も強く染色することから、M 細胞特異的な試薬とはいえない。一方、GP2 られ、そこに大腸菌(緑)が付着している。一方、GP2 ノックアウトマウスでは、GP2 の染色は見られず は腸管関連リンパ組織を覆う上皮細胞領域(中央)だけで染色が認められ、その多くが UEA-1 の染色と重なっ (UEA-1 陽性細胞は見られるため、M 細胞は欠失していないことが分かる)、それに伴い大腸菌(緑)もほと ていることから(緑+赤=黄色)、GP2 は M 細胞だけで発現していると考えられる。アクチンは組織の輪郭 んど検出されない。 が分かるように用いた。 右のグラフ:複数のマウスにおける、腸管関連リンパ組織への大腸菌の付着数。 便中 IgA 8 10 P=0.0005 P=0.001 9 7 抗体価 血中 IgG 6 5 3.5 8 8 7 2.5 6 4 4 P=0.0455 2 5 1.5 4 1 2 3 0.5 1 2 0 3 P=0.012 2週 3週 2週 経口免疫 血中 IgG 3週 0週 9週 全身免疫 正常マウス GP2 欠損マウス 図 3: ノックアウトマウスにおける経口免疫応答の障害 図 4:研究で得た知見の模式図 M 細胞上に発現する GP2 と結合した大腸菌やサルモネラ菌などは、GP2 依存的に M 細胞に取り込まれ、さ 正常マウスと GP2 ノックアウトマウスに、サルモネラ菌を経口あるいは全身性(腹腔内)に投与し、経時的 らに腸管関連リンパ組織に存在する樹状細胞などの免疫系細胞に受け渡される。細菌は樹状細胞中で消化分 に糞便中 IgA や血中 IgG 抗体価を測定した。GP2 ノックアウトマウスでは経口免疫応答に障害が認められる。 解され、抗原としてリンパ球を活性化することにより、特異的な免疫応答が誘導される。