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『ニュートンの宗教』
Hosei University Repository 【図書紹介】 ンの神学者の側面に光を当てたのが、マーニエルであった。 の姿勢が読みとれる。一三-トンによれば、人間には超越 彼の著述から、宗教に対する驚くほど真筆な-ニートン フランク。E・マニュエル箸竹本健訳法政大学出版局二 的神(形而上学的神でなく人格的な父なる神)そのものを 『ニュートンの宗教』 ○○七年 (神による創造)についての研究と、聖書において言葉化 意志を知ろうとするならば、物的自然界における神の営為 と「聖書」を知ることができるだけである。だから、神の 知ることは決してできず、神の営為だけを、つまり「自然」 この本(’九七四年出版)で著者マニュエルは、従来の された神の戒律の記録についての研究との、二つの道だけ 大貫義久 の複雑な宗教事情をふまえながら、偉大な自然探究者一三 る。『ニュートンの宗教」では、このニュートンの聖書探究 が開かれており、彼はその二つの道を真剣に歩んだのであ 狭い科学史的アプローチを超えて、’七、八世紀イギリス -トンの、これまでふれられることのほとんどなかった宗 意図的に隠していた精神生活があった。その精神生活を垣 万有引力を発見した大科学者一三1トンには、彼自身が されて自然探究だけが応用されていく当時の状況への危倶 然探究に対する宗教的な恐れの感情や、聖書探究から分離 三位一体論の立場が明らかにされる。またさらに彼の、自 が紹介されている。そこでは、一三1トンの融和神学や反 間みることのできる膨大な量の手稿が二○世紀の半ばに陽 に読みにくい部分もあるが、巻末に丁寧な訳注が施され、 なども述べられており、大変に興味深い。特殊な内容だけ の反省がなされている今日において注目に値する。 教心情に迫ろうとしている。その試みは、狭い科学主義へ の目を見、一三-トンの錬金術師の側面が経済学者ケイン 内容の理解を助けてくれている。近代ヨーロッパの形成に ズによって明らかになったのだった。歴史上の大科学者が 錬金術師でもあったという事実は、当時の人々に衝撃を与 関心を持っている方には、分野を超えて、一読を勧めたい。 に留まらなかった。他の手稿の束(今日ヤフダ文書と呼ば えた。しかし、一三1トンの隠された精神生活はそれだけ れているもの)が、新たに神学者としての一三1トンを明 い宗教者ニュートンが見えて来たのである。このニュート らかにした。今日の人間から見れば、科学者とは相容れな 87