Comments
Description
Transcript
エア・ウォーター株式会社に対する審決について
エア・ウォーター株式会社に対する審決について (エアセパレートガスの製造業者及び販売業者による価格カルテル事件) 平成25年11月21日 公 正 取 引 委 員 会 公正取引委員会は,被審人エア・ウォーター株式会社(以下「被審人」という。) に対し,平成23年10月5日,審判手続を開始し,以後,審判官をして審判手続を 行わせてきたところ,平成25年11月19日,被審人に対し,独占禁止法第66条 第2項の規定に基づき,被審人の審判請求を棄却する旨の審決を行った(本件平成2 3年(判)第81号審決書については,当委員会ホームページの「報道発表資料」及 び「審決等データベース」参照。)。 1 被審人の概要 所 在 地 事 業 者 名 エア・ウォーター 札幌市中央区北三条西一丁目2番地 株式会社 代 表 代表取締役 者 青木 弘 2 被審人の審判請求の趣旨 平成23年(納)第60号課徴金納付命令のうち,7億2782万円を超えて納 付を命じた部分の取消しを求める。 3 主文の内容 被審人の審判請求を棄却する。 4 本件の経緯 平成23年 5月26日 7月22日 10月 5日 11月15日 ↓ 平成25年 4月24日 7月 2日 16日 10月 3日 11月19日 排除措置命令及び課徴金納付命令 被審人から課徴金納付命令に対して審判請求(注1) 審判手続開始 第1回審判 第9回審判(審判手続終結) 審決案送達 審決案に対する異議の申立て及び直接陳述の申出 直接陳述の聴取 審判請求を棄却する審決 (注1) 被審人は,排除措置命令に対しては審判請求を行わず,同命令は確定している。 問い合わせ先 ホームページ 公正取引委員会事務総局官房総務課審決訟務室 電話 03-3581-5478(直通) http://www.jftc.go.jp/ 1 5 審決の概要 (1) 原処分の原因となる事実 被審人は,他の事業者と共同して,遅くとも平成20年1月23日までに,特 定エアセパレートガス (注2)の販売価格について,同年4月1日出荷分から,現 行価格より10パーセントを目安に引き上げることを合意することにより,公共 の利益に反して,我が国における特定エアセパレートガスの販売分野における競 争を実質的に制限していた。 被審人の本件違反行為の実行期間は,独占禁止法第7条の2第1項の規定によ り,平成20年4月1日から平成22年1月18日までであり,独占禁止法第7 条の2の規定により算出された課徴金の額は36億3911万円である。 (注2) 「特定エアセパレートガス」とは,エアセパレートガス(空気から製造される酸素,窒素及び アルゴン)のうち,タンクローリーによる輸送によって供給するもの(医療に用いられるものと して販売するものを除く。)をいう。 (2) 本件の争点 ア 本件違反行為に係る取引について,被審人の業種を小売業又は卸売業以外と 認定して10パーセントの課徴金算定率を適用すべきか,それとも,卸売業と 認定して2パーセントの課徴金算定率を適用すべきか。(争点1) イ 本件の他の違反行為者の業種を卸売業と認定したのに,被審人の業種を小売 業又は卸売業以外と認定して,異なる課徴金算定率を適用することは,憲法第 14条第1項に違反するか。(争点2) (3) 争点に対する判断の概要 ア 争点1について (ア) 課徴金の計算における業種の認定について 課徴金の計算に当たり,違反行為に係る取引について,小売業又は卸売業 に認定されるべき事業活動とそれ以外の事業活動の双方が行われていると 認められる場合には,実行期間における違反行為に係る取引において,過半 を占めていたと認められる事業活動に基づいて単一の業種を決定すべきで ある。 また,独占禁止法第7条の2第1項が小売業又は卸売業について例外的に 軽減した課徴金算定率を規定したのは,卸売業や小売業の事業活動の性質上, 売上高営業利益率が小さくなっている実態を考慮したためであるから,課徴 金の計算に当たっては,一般的には事業活動の内容が商品を第三者から購入 して販売するものであっても,実質的にみて小売業又は卸売業の機能に属し ない他業種の事業活動を行っていると認められる特段の事情(以下,単に「特 段の事情」という。)があるときには,当該他業種と同視できる事業を行っ ているものとして業種の認定を行うべきである。 (イ) 被審人と仕入先の株式会社クリオ・エアー(以下「クリオ・エアー」とい う。)との取引における特段の事情の有無について a 被審人とクリオ・エアーとの間の特定エアセパレートガスの取引は,外 形上,第三者から仕入れて販売する形式で行われている。 しかしながら,被審人はクリオ・エアーの45パーセントの議決権を保 有するとともに,クリオ・エアーにおける費用等の情報開示が被審人及び 共同出資者である株式会社リキッドガス(以下「リキッドガス」という。) に対して行われ,かつ,クリオ・エアーが製造する特定エアセパレートガ スの販売価格(単価)は,クリオ・エアーの費用とクリオ・エアーが当該 2 年度に期待する経常利益の合計を基に,被審人,リキッドガス及びクリ オ・エアー(以下「3社」という。)の間の協議により決定されていた。 また,被審人及びリキッドガスによるクリオ・エアーからの特定エアセパ レートガスの引取数量は3社間の合弁契約書等において,被審人が総量を 引き取る(ただし,当面の間リキッドガスも相応の量を引き取る)旨が決 められており,現実にも,クリオ・エアーが製造する特定エアセパレート ガスのほぼ全量を被審人が引き取っていた。 これらの事実を踏まえれば,クリオ・エアーは実質的に販売活動の自由 を有しておらず,同社を独立の事業主体とみることは困難であり,特定エ アセパレートガスの製造販売分野における事業活動について被審人の強 い関与が認められる。 b さらに,被審人が得ていた利益は,電力のみを使用する場合に比べて液 化天然ガスの冷熱の利用により低減したコスト相当額を含むものであり, この低減したコスト相当額はクリオ・エアーが製造する特定エアセパレー トガスの販売価格の低減として反映されているところ,被審人は,クリ オ・エアーが製造する特定エアセパレートガスのほぼ全てを引き取ること により,販売価格低減による利益のほぼ全てを享受していた。また,クリ オ・エアーは,被審人及びリキッドガスによる製品価格決定等の関与によ り,その利益が抑えられ,液化天然ガスの冷熱の利用によって見込まれる, 本来,製造業者として期待される利益を自らの意思に基づき獲得できない 立場に置かれていた。 c 以上のことから,特定エアセパレートガスの製造販売についてみれば, 被審人はクリオ・エアーと実質的に一体となって事業を行っていたものと 認められる。また,被審人とクリオ・エアーとの間の特定エアセパレート ガスの取引において被審人が得ていた利益は,クリオ・エアーを自己の製 造部門の一として位置付けた場合に近く,卸売業で得る利益にとどまらな いものといえる。したがって,本件でいう特段の事情の存在は十分認定す ることができるものというべきである。 d なお,独占禁止法第7条の2第1項が卸売業及び小売業について例外的 に軽減算定率を採用することにした趣旨は,事業活動の実態を反映させる ためであることに鑑みれば,本件における特段の事情の有無の判断におい て,利益構造のみならず,製造面での関与や製品の引取り等の業務内容, 仕入先の事業者としての実質的な独立性その他の要素を考慮し,事業活動 の実態を総合的に判断する必要があると考えられる。 (ウ) 被審人に対する課徴金算定率について 被審人が自ら製造した特定エアセパレートガスの数量と特段の事情が認 められる取引によることにつき争いのない被審人の子会社5社から仕入れ た特定エアセパレートガスの数量に前記(イ)のとおり特段の事情が認められ る取引によりクリオ・エアーから仕入れた特定エアセパレートガスの数量を 加えると,被審人における特定エアセパレートガスの製造数量及び仕入数量 の合計の過半に達する。 したがって,被審人に対する課徴金の計算に当たっては,被審人が小売業 又は卸売業以外の業種に係る事業活動を行っているものとして,10パーセ ントの課徴金算定率を適用すべきこととなる。 3 イ 争点2について 被審人と他の事業者が共同して違反行為に及んだ場合であっても,課徴金を 計算するに当たっては,それぞれの事業活動の実態に照らして,個別に業種を 認定した上で,独占禁止法第7条の2第1項所定の課徴金算定率を適用すべき である。すなわち,業種認定に当たって考慮すべき事業活動の実態が各違反行 為者によって異なる場合には,違反行為者ごとに異なる業種が認定され,それ ぞれに対応する課徴金算定率が適用されることも当然あり得るところである。 本件の争点は,被審人に対する課徴金の計算に当たり,被審人の業種を小売 業又は卸売業以外の他の業種(製造業)と認定した原処分(課徴金納付命令) の当否であって,その認定は相当であるから,他の違反行為者に対する業種認 定は無関係であり,他の違反行為者の業種認定を理由に原処分が憲法第14条 第1項に違反するとの被審人の主張は失当である。 4