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プラスチック射出成形金型の一部非鉄金属化に関する研究
群馬県立産業技術センター研究報告(2012) プラスチック射出成形金型の一部非鉄金属化に関する研究 岩沢知幸・福島祥夫・黒岩広樹・鏑木哲志* Study on the application of nonferrous metal for plastic injection mold Tomoyuki IWASAWA, Yoshio FUKUSHIMA, Hiroki KUROIWA and Tetsushi KABURAGI プラスチック射出成形金型の加工時間及びコスト低減のため、金型の一部分をアルミ合金とした成形 実験を行い、型内における圧力及び温度測定、ウエルドラインを評価した。その結果、一部非鉄金属金 型の適用可能性を確認した。 キーワード:アルミ合金金型、型内圧力及び温度測定、ウエルドライン To reduce machining time and cost of plastic injection molding, we conducted a molding experiment with a part of the aluminum alloy mold. Then we evaluated the pressure and temperature inside the mold and the weldline. As a result, we confirmed the possibility of application of nonferrous metal for plastiv injection mold. Keywords: aluminum alloy mold, pressure and temperature measurement inside the mold , weldline 1 はじめに よるウエルドラインの比較を行い、アルミニウ ム合金金型がウエルドラインに及ぼす影響を調 プラスチック射出成形品は自動車部品から べた。 家電部品、生活用品まで様々な分野にて使用 されており、日常生活において非常に身近な 2 実験方法 ものである。プラスチック射出成形は複雑な 形状の製品を大量生産するのに適している一 2.1 試作金型と成形品 方、試作段階の数個から数百個というわずか 今回の成形実験で用いた金型の全景を図 1 に な生産個数には適していない。それは金型加 示す。使用した金型には金型用鋼材 NAK80 を 工にかかる時間とコストがかかり、金型費の 用い、コア側の入れ子にはアルミ合金 A7075 を 償却が困難なためである。近年では加工時間 使用した。尚、従来の入れ子部分の材質 NAK80 を短縮し、コストを下げる目的で金型の入れ と比較できるようにするため、入れ子部分を交 子部分を非鉄金属に代替えするという研究が 行われているが、成形時における成形特性に 関する報告は少ない。そこで本研究では金型 の入れ子部分にアルミニウム合金を適用した ときの、成形時における金型内の温度及び圧 力の製品成形特性を調査した。また、金型入 れ子部分の鉄鋼とアルミニウム合金の違いに 生産システム係 * 技術支援係 図1 -1- 試作金型 換できるような金型構造とした。射出成形金 表1 成形条件 型の一部非鉄金属化に関し、本研究ではコア 側の入れ子のみアルミ合金 A7075 とし、キャ ビ側の入れ子は従来の NAK80 としている。 非鉄金属材料としてアルミ合金 A7075 を採用 した理由はアルミ合金のなかで強度があり、 加工性の良い材料であるためである。 本研究で試作した成形品の形状を図 2 に示 す。ウエルドラインを意図的に形成させるた 2.3 測定方法 め、成形品形状を 2 点ゲートとし、且つ入れ 入れ子の材質違いで成形時における金型内部 子部分にピンを設け、中心に穴ができるよう の圧力及び温度の変化を確認するため、入れ子 な形状とした。本形状から製品の中心穴付近 部分に圧力・温度センサを設置可能な構造とし にウエルドラインが生じると予測することが た。圧力・温度センサ(キスラー製 p-T センサ できる。 6190CA)を入れ子に設置した様子を図 4 に示す。 尚、本センサは一つのセンサで圧力及び温度測 定の機能を備えている。計測箇所は 2 ヶ所であ り、一つはランナーから製品部に樹脂が流入す るゲート付近(以下、ゲート側)、二つ目はその まま樹脂が流れてピンに到達する直前の位置 (以下、ピン側)とする。圧力・温度のデータ 収集にはデータロガー(キーエンス製 NR-600) 図2 2.2 成形品形状 を用い、サンプリング速度を 50ms とした。 成形条件 ピン側 p-Tセンサ 図 3 に本研究で使用した油圧式射出成形機 ゲート側 p-Tセンサ ( 日 精 樹 脂 工 業 製 型 式 FS80S12ASE 最 大 型締め力 750kN)を示す。また、成形条件を 表 1 に示す。成形樹脂をプライムポリマー製 プライムポリプロ(以下、PP)とし、金型温 度を 30℃及び 70℃にて成形実験を行った。 図4 金型内部に p-T センサを設置した様子 3 3.1 実験結果 型内における圧力・温度測定 図 5 に金型温度 30℃及び 70℃におけるゲート 側及びピン側位置における圧力・温度測定結果 図3 射出成形機 を示す。まず温度に着目する。金型温度 30℃及 び 70℃のいずれの場合においてもアルミ合金 また、1 サイクルの成形時間は射出から保圧 の方が鋼材よりも温度が低く、およそ 10℃弱低 完了まで 10s、冷却時間を 10s とした。 いことがわかる。アルミ合金の方が低いのは鋼 材との熱伝導率の違いによるものと考えられる。 アルミ合金と鋼材と熱伝導率を比較した場合、 鋼材はおよそ 40(W/(m・K))、アルミ合金はお よそ 130(W/(m・K))であり、アルミ合金は鋼 -2- 材のおよそ 3 倍以上であり、金型内で溶融樹 コープの測定機能を用い、各条件におけるウエ 脂が流れている間に樹脂の熱が奪われてしま ルドラインの長さを測定した結果を図 8 に示す。 い、樹脂温度が低下してしまうことが原因で 金型温度 30℃及び 70℃のいずれの場合におい あると考えられる。次に圧力について考察す てもアルミ合金の方が鋼材よりもウエルドライ る。本実験では図中のおよそ 13 秒付近から保 ンは長いことがわかった。ウエルドラインの発 圧から冷却に切り替わるため圧力が低下する 生原因は溶融樹脂同士が合流した時、溶融樹脂 が、金型温度 30℃の場合、アルミ合金及び鋼 が十分に混合しないうちに樹脂が冷えて固まっ 材いずれもピン側の圧力波形が 10 秒付近か てしまうことにある。よって熱伝導率の大きい ら急激に低下している。これは金型温度が アルミ合金の方が鋼材よりも溶融樹脂温度が低 30℃と低いため、ゲート側から徐々に溶融樹 く、凝固までの時間が短いためにウエルドライ 脂が固化し始めてしまい、ピン側のセンサ位 ンが長く形成されると考えられる。 置まで保圧が伝わりきらなかったためだと考 えられる。入れ子の材質違いによる圧力波形 NAK80_圧力-ゲート側 NAK80_圧力-ピン側 A7075_圧力-ゲート側 A7075_圧力-ピン側 NAK80_温度-ゲート側 NAK80_温度-ピン側 A7075_温度-ゲート側 A7075_温度-ピン側 100 90 90 80 80 70 70 60 60 50 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 ウエルド長さ Temperature 【℃】 Pressure 【MPa】 の大きな差異は見られなかった。 図6 A7075_金型温度30℃ A7075_金型温度70℃ NAK80_金型温度30℃ NAK80_金型温度70℃ -10 0 5 10 15 Time 【sec】 20 25 30 (ⅰ)金型温度 30℃ NAK80_圧力-ゲート側 NAK80_圧力-ピン側 A7075_圧力-ゲート側 A7075_圧力-ピン側 NAK80_温度-ゲート側 NAK80_温度-ピン側 A7075_温度-ゲート側 A7075_温度-ピン側 100 90 90 80 80 70 70 60 60 50 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 図7 図8 -10 0 5 10 15 Time 【sec】 20 25 ウエルドライン長さ測定結果 30 4 (ⅱ)金型温度 70℃ 図5 各条件によるウエルドライン拡大写真 Temperature 【℃】 Pressure 【MPa】 ウエルドライン長さ測定 結 言 各金型温度における金型内の圧力・温度波形 成形金型の一部を鉄鋼からアルミ合金にし、 3.2 ウエルドライン長さ マイクロスコープ(キーエンス製 各種評価を行ったところ以下のことを確認した。 (1) VHX-500)にて図 6 のようにウエルドライン を観察し、当該機器の測定機能を用いること 融樹脂温度は鋼材の場合よりも低い。 (2) でウエルドラインの長さを簡易的に測定する こととした。 入れ子をアルミ合金にした場合、型内の溶 ウエ ル ド ライ ン の長 さ はア ル ミ合 金 のほ うが鋼材よりも長い。 (3) 入れ子をアルミ合金にした時、100 ショッ 図 7 に各条件におけるウエルドラインを倍 ト程度成形したところ、製品にバリなどは 率 20 倍で撮影した拡大写真を示す。金型温度 なく、入れ子にも大きな変形はなかった。 が同じときのアルミ合金及び鋼材で比較した 現時点においてアルミ金型の場合、ウエルド 場合、目視においてもウエルドラインの長さ ラインは長いが低コストで加工できるため、試 の違いを確認することができる。マイクロス 作段階では使用可能であることを見出した。 -3-