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析 分 勢 情 東 中

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析 分 勢 情 東 中
中東 情勢分析
湾岸地域へのオイルダラー還流実態
ガルフ・リサーチ・センター
プログラム・マネジャー・エコノミクス
エッカート・ヴェルツ
石油輸出諸国の経常収支余剰規模と重要性
るが,当時世界石油市場の構造的変化から生じ
近年の仮借ない油価上昇の後では(6
0ドル以
た西側世界の膨大な経常収支不均衡を是正する
上に上げ留まっている)
,
1
9
8
0年代および9
0年代
ために,西側諸国政府や銀行は石油輸出諸国の
の大部分を通じて特徴的であった低油価,赤字
タナボタ的石油収入を西側諸国の市場に投資す
という悲惨な年月は,湾岸諸国および石油輸出
るよう求めた。他方,
極めて多様な金融産業(ヘ
諸国全般にとっては過去の出来事である。世界
ッジファンドや金融派生商品市場など)
,ユーロ
のその他の国々はオイルダラーを巡って争って
の到来とより多様な地域経済の進展により,シ
おり,日本や中国というアジア諸国と共に石油
ナリオや選択肢は1
9
7
0年代の状況とは全く異な
輸出諸国は,再度米国の経常収支赤字を資金的
るものとなった。
に補填するのに決定的役割を果たすようになっ
米国の経常収支赤字は今や9,
0
0
0億ドルに近
てきた。
付いており,世界経済を著しく不均衡にしてお
オイルダラー還流は確実に議題に戻ってい
り,どこか制御不能となってきた。通常の方法
る。その重要性は1
9
7
0年代より一層高まってい
で対処するには大き過ぎるし,突き刺すには危
Current Account Balances
400
Billion US$
200
United States
0
-200
Total GCC
2002
2003
2004
2005
-400
2006
(f)
2007
(f)
Other oil exporters*
China
Japan
-600
Germany
-800
Total
-1000
Source:IMF
*Russia,Norway,Venezuela,Algeria,Libya,Iran,Angola,Brunei.Iraq data not available
7
9
中東協力センターニュース
2
0
0
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険過ぎるバブルなのである。膨張を続けるため
要な一部となったのである。
には,自国の経常収支赤字を調達するために米
諸外国に流れるオイルダラー
国は世界中の預貯金のほとんどを注入する必要
があるのである。一方,OPEC 諸国の純石油輸出
オイルダラーの流れを追うことは,以前より
収入は2
0
0
6年には5,
0
0
0億ドルに近付いており,
遥かに難しくなった。
2
0
0
5年には BIS(国際決済
2
0
0
5年時点での累計経常収支余剰は米国の経常
銀行;Bank for International Settlements)は石油
収支赤字の4
1%となったが,これは米国の赤字
輸出諸国の累計投資可能資金の7
0%を追跡する
の4
7%になったアジア諸国に若干及ばないだけ
ことができなかったが,1
9
7
8∼8
2年の前回石油
である。高油価状況が続けば,この規模の順序
資金還流ではこの数字は5
1%であった"。ひと
は2
0
0
6年には逆転し,石油輸出諸国は4
6%を占
つの理由は,BIS に報告する銀行に預ける当座
!
預金が減少する一方,海外口座やヘッジファン
めアジアが4
1%となって2番目となる 。
ドや私募ファンドなどの代替投資手段が重要に
なってきているのである。対照的にそういった
投資手段は1
9
7
0年代には存在しなかった。外貨
準備高は単一で最も決定的に変わったものであ
るが,1
9
7
0年代には無視できたものが,今では
投資可能資金総額の1
9%を占めるまでになって
いる。金融市場の発展と軌を一にして,石油輸
出諸国のポートフォリオ投資行動(有価証券の
買い付けによる間接投資)は益々複雑になって
きた。
ヘッジファンド業界とは別に高利回り社債や
Source:EIA
特約債が株式投資と共に人気を集めてきた。銀
行当座預金や普通国債の相対的重要性は低下し
状況は1
9
7
0年代を強く思い起こさせる。石油
た。海外直接投資については,過去数年間にわ
ショックの後,OPEC 諸国には現金が溢れ,米国
たり自国経済の戦略的方向転換に役立てるた
の赤字を補填する有力候補であった。とくにサ
め,湾岸諸国による一連の戦略的投資があった。
ウディアラビアは米国政府から米国債を買うよ
2
0
0
2年にはサウディアラビアの巨大石油化学企
う求められ,通常の入札手続きを経ない短期国
業である SABIC がオランダの DSM の石油化
債の特別割当てを与えられた。1
9
8
0年代には低
学部門を買収したし,クウェイトと共にアラム
油価により OPEC 諸国の経常収支余剰は過去
コは中国や韓国の製油所に投資している。この
の出来事となり,ドイツと日本がその間隙に入
ことは長期にわたり顧客との関係を強化し,サ
り,日本は1
9
7
0年代にサウディアラビアが享受
ワー原油(高硫黄原油)を処理できる製油所の
していた特別割当を獲得することになった。ド
処理能力を引き上げることに繋がるが,中東地
イツ統合および日本の不景気により,米国の財
域の石油生産のかなりの部分を占めるサウディ
務当局者は再度転換し,その役割の一部は中国
アラビアの余剰生産能力の大部分はこのサワー
および新興市場が担うこととなった。近年油価
原油である。他方,ドバイはサービス産業や観
の復活に伴い石油輸出諸国が今一度方程式の重
光産業面での多角化に寄与できるような,例え
8
0
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2
0
0
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Currency Composition of Assets of Major
Oil‐Exporting Countries with BIS Reporting Banks
ば P & O,Tussaud グループおよび他の中東・北
アフリカ諸国やパキスタンでの Emaar 社の各
種不動産プロジェクトのような,企業の買収と
いう買い漁りに走った。
通貨および換算率問題
米国債については比較的良く報告されている
が,それを見れば米国経常収支赤字補填に果た
す石油輸出諸国の重要性が高まっていることが
判る。外貨準備高をドルだけでなく他の通貨へ
も多様化したい,との声明を時々出しているに
もかかわらず,2
0
0
5年および2
0
0
6年を通じドル
Source:BIS ,Quarterly Review,December 2
006
を浮揚させていたのは石油輸出諸国であった。
2
0
0
5年6月から2
0
0
6年9月までの間に,米国債
の最大保有国であった日本は6,
6
7
0億ドルから
上述の数字を見れば,保有通貨をドルから多
6,
3
8
0億ドルへと減らし,一方2番目の保有国で
様化したいとの GCC 諸国の声明は単なる誇張
ある中国は2,
9
8
0億ドルから3,
4
2
0億ドルへと一
であり,ドルからの完全離脱を求めるのは時期
貫して増やし続けたが,通貨多様化を求める高
尚早のように思われる。2
0
0
6年5月のクウェイ
官達の声の中で渋々そうしたのであった。
トの連動通貨の1%変更はかなり穏健なもので
他方,石油輸出諸国と英国は保有額を大幅に
あったが,サウディアラビアやオマーンやバハ
増やし,それぞれ6
9
0億ドルから1,
0
3
0億ドル,
レーンのような他の GCC 諸国は,現状を変え
!
5
9
0億ドルから2,
0
8
0億ドルとなった 。英国自
るつもりはないと即座に否定した。通貨準備高
体は6
1
0億ドルの経常赤字(2
0
0
6年)を抱えてお
全体に占めるユーロの比率を,たったの2%か
り,米国債を買う資金は無かった。英国保有額
らほんの1
0%にまで引き上げるという UAE 中
の増加は,大半がロンドンからのアラブの購入
央銀行の計画は何度も延期され,まだ実現には
によるものだった。BIS 報告銀行に保有する石
至っていない。本件についての声明は,米国が
油輸出諸国の資産額もまた彼等の総資産の通貨
P & O 買収に伴う Dubai Ports World 社による米
"
9
9
0年代半
構成について示唆を与えている 。1
国港湾管理を拒否した直後に行われたことか
ばにはドル建て資産は約8
0%であったが,2
0
0
4
ら,声明は報復警告以上のものではなかったの
年末には6
0%にまで低下した。2
0
0
5年にはドル
かも知れない。外貨準備高の4
0%までをユーロ
建て証券の相対的比重が再度高まり7
0%以上と
で保有し,9
0%までをドルで保有するというカ
なった。その後低下したが,引き続き2
0
0
4年末
タールの立場は,これまでで最も勇敢なもので
以上の水準を保っている。2
0
0
6年第4四半期に
あるかのように思えるかも知れないが,総じて
はドル建て資産は6
7%から6
5%に低下した。
米国と湾岸諸国との特別な関係がまだ健在であ
ユーロがドルの代替通貨であるが,ドルと逆行
ることは証明できる。最も重要なことは,GCC
する関係で上がったり下がったりしている。一
統一通貨を2
0
1
0年には米ドルと連動させるとい
方アジアの諸通貨とくに円はこれまで主要準備
う計画が生きていることである。ユーロ寄りの
高通貨としての地位を確立していない。
多様化を明言して止まず,また米国外交政策の
8
1
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2
0
0
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承認を得られない国として知られている隣国の
欧州の GDP と人口は,米国に匹敵するかある
イ ラ ン で さ え,2
0
0
6年 初 め の カ ラ カ ス で の
いはそれ以上であり,取引領域という点でドル
OPEC 総会で,ヒューゴー・チャベスが提案し
は初めて本当の競争にさらされている。以前は
た油価のユーロ設定案を退け,代わりにキッシ
円やスイスフランやドイツマルクのような強い
ュ島(Kish island)で計画している石油取引の油
通貨や金の市場は小さかったので,ドルからの
価設定をドルで行うと表明した。
離脱は限られていた。欧州の政治力や軍事力が
GCC 諸国の輸入に占める米国の割合が1
0%
限られていることはさておき,ユーロはまだ代
に過ぎないのに対し,約3分の1ずつをそれぞ
替通貨として十分な大きさとなっていない。債
れヨーロッパとアジアが占めている。一方中東
券や株式市場といった資本市場はまだ米国に遠
地域のエネルギー輸出の3分の2はアジア向け
く及ばない。従って,
ノーベル経済学賞のロバー
である。従って,貿易重視の観点からはドルと
ト・マンデルが予想するように,2
0
1
0年までに
の排他的連動は意味をなさず,GCC 諸国のドル
ユーロが国際準備通貨としてドルと同等の地位
への忠誠は経済的理由ではなく,GCC 諸国が不
を獲得できるかは疑問である。このことは中国
安定な地域の安全保障を米国に深く依存してい
については一層確実である。すなわち仮に中国
るので政治的意図を勘繰ってしまう。もちろん
が過熱経済のハードランディングを避けること
ドルに固守する経済的理由は多々あるが,主流
ができ,増大するエネルギー問題を解決するた
派経済学の教科書的英知が示唆するようなもの
めの政治的軍事的決定打を放つことができるな
とはかなり違っている。第一にドルは調子が悪
らば,中国は1
0年後か2
0年後にはドルに代わる
いかも知れないが,他の諸通貨がもっと良く見
第2の通貨となることができるかも知れない。
える訳ではない。GDP と比較してみれば,EU
しかしこれまでのところ中国元は完全には兌換
の財政赤字は平均して米国と同等であり,日本
的ではなく,中国の不透明な資本市場の規模は
は実際にはもっと悪い。唯一の違いは EU と日
米国市場の小さなひとかけらほどに過ぎない。
本の方が輸出入のバランスが良いことである。
ドルと密接に関係したり連動している日本円や
その他のアジア諸国通貨への関心は,実際には
Selected GCC Trade Partners(Exports and
Imports Combined,2
0
0
5 billion US$)
石油輸出諸国の側では薄れてきている。通貨多
様化という点では,主にユーロと英ポンドが考
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
えられている。こうしてドルは溢れているが故
に流動性がない。多様化したい国々にとっては,
その他の通貨で表示される資産が単に十分にな
いか,または契約義務や交易場がドル表示で確
立されているのでドルに引き寄せられることに
なるが,このことは米国経済やその奈落の赤字
とは全く関係のないことである。その上ドル負
a
In
di
a
Ch
in
a
Si
ng
ap
or
e
Pa
ki
sta
n
or
e
U
EU
S
K
Ja
pa
n
債という不可抗力が世界経済を動かしており,
誰もドルから離れたくないように見え,GCC
諸国もそうである。この結果,明確な代替通貨
Source:Gulf Research Center,based on the respective national trade statistics
もなく,その他諸国やそれらの通貨の財政的健
全さは米ドルの赤字支出に深く依存することに
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なる。もしドルが下落すれば彼等は付いて行き,
はイラクを駆逐する多国籍軍の費用を拠出した
囚人のジレンマのように誰も最初の一歩を踏み
のである。
出すことを恐れている。すなわち最初の国がド
Propensity of Oil‐Exporting Countries to Invest in
Foreign Assets
ルを放棄すれば,連鎖反応を起こし,しっぺ返
しを受け,皆に影響を及ぼすことになろう。従
って誰も損な役回りを避けようとするので,ド
ルの没落には,常識が教えるところよりいま少
し時間が掛かるかも知れない。しかしドルの没
落は不可避であり,それが GCC 諸国が早めに
その他の通貨や金への多様化を考える必要があ
ると考える理由である。このことはオイルダ
ラー投資の海外直接投資の面では,アジアやそ
の他中東・北アフリカおよびヨーロッパ向けの
現在の流れを今後共続けることを意味してい
る。
Source:BIS ,Quarterly Review,December 2
005
Investable Funds:Current Account Surpluses plus Financial Inflows,cumulated since197
8
Investement Rate:Flow of Investable Funds/Net Oil Revenues
増えてはいるが比例しない国内投資の伸び
GCC 諸国の財政政策はこれまでのところ健
全なものであり,予算上の油価見通しは控えめ
GCC 域内投資の傾向
であり,タナボタ的石油収入のかなりの部分が
対 GDP 比で危機的規模になっていた公的債務
1
9
7
0年代の石油資金還流の時とは異なり,湾
の早期償還に使われ,1
9
7
0年代のような野放図
岸諸国の資金吸収力は途方もなく拡大し,経済
な支出は避けられている。GCC 諸国内の各種投
をますます多角化させている。IMF は,今後5
資は,伝統的な海外でのオイルダラー投資と競
年間に石油から不動産,重工業にわたる各種プ
うように行われると考えられがちである。しか
ロジェクトへの投資は7,
0
0
0億ドルになるだろ
し詳しく調べてみると,絶対額では大きく増加
うと予測している。投資の多く(3,
9
5
0億ドル)
したものの,国内投資の相対的重要性は1
9
8
0年
は,石油の上流部門および石油化学部門に行わ
代および9
0年代に比し明らかに減少している。
れるであろう。戦略的投資部門として以下があ
近年の石油収入の流入規模は国内・海外市場双
げられている。
方で増え続ける投資を賄えるだけのものである
a)石油およびガス上流部門の近代化,石油回
が,海外市場での増加比率が高く,今では投資
!
9
8
0年
可能資金総額の約5
0%に達している 。1
収率増進
代および9
0年代においてはこの比率は格段に低
b)石油化学産業および石油精製,石油生産に
く,大体0%から2
0%の間であり,時にはマイ
連なる産業(value chain)の拡大
ナスであったが,当時石油収入は国内投資の手
c)エネルギー集約型産業:アルミニウム,鉄
当をするのにも十分ではなく海外資産の売却に
鋼,肥料,採鉱
1年のクウェイトへ
よって賄われてきた。
1
9
9
0/9
d)
「ドバイモデル」
:不動産,貿易およびサー
のイラク侵攻の際は特にそうであり,GCC 諸国
ビス
8
3
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2
0
0
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e)基盤整備:発電,輸送,水処理
可欠となっていることから,ガスは注目を集め
るようになった。ガス不足が明らかとなり,域
石油およびガス上流部門の近代化,石油回収率
内での,とくにカタールおよびイランから近隣
増進
諸国へのガス供給が必要になっている。ドルフ
全世界の石油生産の3
0%に過ぎないが埋蔵量
ィ ン・パ イ プ ラ イ ン は ガ ス を2
0
0
7年 ま で に
の6
0%を占める湾岸産油国(イラン,イラクを
UAE に,以後オマーンに配送する予定になって
含む)が,将来の世界石油供給にとって重要で
いる。クウェイトとバハレーンもまた,将来の
あるのは自明である。湾岸での増産は,他の地
ガス供給についてカタールとの間でそれぞれ
域(北海,北米など)の生産減退を補填するた
2
0
0
0年と2
0
0
2年に覚書に調印したが,その後交
めに重要であろう。湾岸諸国は,増産のための
渉は進展していない。世界最大の非随伴ガス田
各種計画を立てている。例えばサウディアラム
であるノースフィールドガス田への追加掘削お
コは2
0
0
9年までに生産能力を現在の9
0
0万バレ
よび再評価作業が中断している状況では,カ
2
5
0万バレル/日までに引き上げた
ル/日から1,
タールは現時点では将来のガス販売を拡大する
いと考えている。既存成熟油田で将来の生産目
ことも計画していないし,またカタールのガス
標を達成するためには膨大な投資が必要となろ
供給能力はそれほど大きくないのかも知れな
う。
アラブ石油投資公社(Arab Petroleum Invest-
い。元々2
0
0
7年までに終了する予定であった再
ments Corporation;APICORP)は,
上流・下流合
評価作業は延期され,カタール石油はノースフ
わせて石油・ガス部門には2
0
0
7年から2
0
1
1年ま
ィールドの新規開発に2
0
1
0年以前に着手するこ
での間に3,
9
5
0億ドルの投資が必要であろうと
とはないと発表した。更に2
0
1
0年以降もカター
考えている。この数字は前年比5
2%の増加であ
ルの国内産業プロジェクトおよび海水淡水化事
るが,増額はプロジェクトによるものではなく,
業の所要量の方が輸出計画より優先されること
主に経費上昇によるものである。上流部門が留
が強調された"。このことはドルフィン・プロ
保所得からこれらの投資額を拠出できるのに対
ジェクトの第2段階を延期することになるかも
し,過大な借入金を抱えた下流部門は更に借金
知れない。一方イランは,昨今のガス価格高騰
に頼らざるを得ず,その資金の約7
0%にもな
を考えれば,当初合意したガス価格は安過ぎる
!
る 。国営企業が支配的な GCC の石油産業へ
ので,シャルジャのクレッセント石油/ダナガス
の外国石油会社の参入は,UAE やカタールでは
社(Cressent Oil/Danagas)へのガス輸出をする状
追加資金およびノウハウ導入のための慣行とし
況にはないと発表した。イランは世界第2位の
て既に確立されている。サウディアラビアにお
ガス生産国ではあるが大消費国でもあり,ガス
いては外国企業の参入は,ライセンスが発行さ
資源に恵まれた国でさえガス輸出と自国需要と
れた2
0
0
3年以降にガス部門だけに認められてい
のトレードオフ(trade‐offs)は高まっているの
る。一方クウェイトでは,
「プロジェクト・クウ
で あ る。こ れ ま で に イ ラ ン−シ ャ ル ジ ャ 間
ェイト」は生産能力の引き上げのために外国石
2
7
0km のパイプラインのうちの8
5%が6億ド
油会社の参入を想定しているのであるが,国会
ルの費用で建設されている#。
サウディアラビアもまた,国内ガス需要の拡
ではサウディアラビアと同様の議論が延々と続
大を賄うのが段々難しくなっている。UAE 同様
けられている。
石油に加えて,地域の野心的な開発プロジェ
2
0
0
6年には,数基のガス火力発電所がガス不足
クトへのエネルギー供給にとってガスが益々不
のため燃料油に転換せざるを得なかった。この
8
4
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
ためサウディアラビアにとっては,とくに石油
いう十分に考え抜かれた戦略の一環であり,
とは無関係に生産できる非随伴ガス田の新規発
GCC 諸国は単なる原油ではなく,ガソリンのよ
見が鍵となっている。アラムコは「ガス探査が
うな精製品の輸出を増やしていくだろうと考え
十分に行われた」のは国土の1
5%に過ぎないと
られている。
石油化学産業の民間部門(NAMA,
推定しており,7月には東部地方で新規発見が
Zamil グループなど)への投資の拡大,
海外事業
あったと発表した。UAE もまたガス上流部門の
の拡大,石油精製と石油化学プラントとの連携
!
拡張計画を発表した 。こういった拡大する自
の拡大およびナフサを原料とする製品であるこ
国需要に加えて液化天然ガス(LNG)市場の急
とが多い高付加価値の追求が主流である。サウ
速な拡大に伴い,世界の他の地域も中東地域の
ディアラムコは,6
0億ドルかけてヤンブーとジ
ガスを益々求めるようになった。2
0
0
6年には
ュベイルに2基の4
0万バレルの処理能力を持つ
LNG の世界最大の輸出国はインドネシアから
重質油完全改質製油所(full conversion refiner-
カタールに替わり,ドバイ多商品取引所(Dubai
ies)を建設する計画である。フランスのトター
Multi Commodities Exchange;DMCC)と LNG
ルと米国のコノコフィリップスがそれぞれの共
IMPEL は1
0億ドルの LNG 取引と貯蔵の中継基
同事業パートナーである。拡大事業はまた海外
地を展開し始めた。
でも展開されてきた。サウディアラビアの巨大
石油化学会社である SABIC は2
0
0
6年9月に7
石油化学産業および石油精製,
価値連鎖(Value
億ドルで英国 内 の ハ ン ツ マ ン 石 油 化 学 会 社
(Huntsman Petrochemicals)を買収したし,中国
Chain)の拡大
GCC 諸国は世界の石油化学製品の1
0%以上
では将来5
0億ドルの投資を予定している。製品
を生産しており,石油化学製品市場では既に主
生産コストは世界的にはまだ最も安いものの,
役である。サウディアラビアとその巨大石油化
切迫するガス 供 給 問 題 と 高 騰 す る 建 設 費 は
学会社である SABIC が,製品の7
5%を生産して
GCC 内の主にエタンを原料とする石油化学産
いる。下流部門の拡大は価値連鎖を拡大すると
業に影響を与えている。
Table:Cost Overruns of Selected Petrochemical Projects
Project
Client
Final estimated
cost($ million)
% over budget
Rabigh integrated refinery
PetroRabigh
9.
9
0
0
1
0
0
Pearl GTL
Royal Dutch/Shell
1
2.
0
0
0
1
0
0
AFK development
Saudi Aramco
5.
0
0
0
1
0
0
OGD‐3/AGD‐2
Gasco/Adco/Takreer
4.
5
0
0
5
0
Flowlines replacement
KOC
1.
2
0
0
1
0
0
Qarn Alam
PDO
1.
7
0
0
1
0
0
Umm Shaif gas injection
Adma‐Opco
1.
7
0
0
1
0
0
Source:MEED
8
5
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
エネルギー集約型産業:アルミニウム,鉄鋼,
ばならないであろうと発表した。地域の建設費
肥料
用が高騰していることが慎重にさせているので
経済の多角化に励む GCC 諸国がエネルギー
ある。カナダのアルミニウム製造会社である
集約型産業を選ぶのは,当然のことである。彼
Alcan は,オマーンの Sohar にあるアルミニウム
等には安価なエネルギーが手に入り易いので競
精錬所の権益の2
0%を獲得したが,残りの8
0%
争上有利であるし,石油化学産業や肥料産業の
はオマーンおよび UAE 両政府の共同所有とな
場合,石油やガスはエネルギー源として使われ
っている。最後に,サウディアラビアの鉱山会
るだけでなく,原料としても使われる。このた
社 Maaden は,自 国 北 部 の Al
めこれらの産業は湾岸諸国の炭化水素生産の価
ボーキサイト採掘と湾岸の Ras al Zor に6
2万3
値連鎖を拡大すると共に,地域内に雇用と収益
千トンのアルミニウム精錬所を建設するという
を留めておくのに役立つ。経費超過やインフラ
採掘・精錬一貫プロジェクトに着手している。
能力上の制約に対する懸念が高まるものの,
このプロジェクトは,地域での最初のアルミニ
2
0
0
6年にはこれらの産業の大拡張計画が発表さ
ウム一貫生産会社となるであろう。他の競合他
れた。なお,安価な石油やガスが手に入り易い
社と異なり,独自の供給源を持つことにより原
ということは,GCC 諸国が競争上明らかに有利
料確保に悩まなくて済むであろう。国際商品市
であることであり,この産業からは最後まで撤
場での品不足により,近年容赦のない価格騰貴
退しないであろう。
に直面しているので,他社にとっても一貫生産
Zabirah に あ る
というのは関心事となっていた。アルミニウム
アルミニウム
価格は2
0
0
2年以降2倍となった。アルミニウム
2
0
0
6年には大拡張計画が発表された。アルミ
精錬所の主要投入費用は燃料で4
0%を占める
ニウム産業においては4つの新規プロジェクト
が,原料もまた採算に影響を及ぼす。カタール
が発表され,2
0
1
0年までに生産開始する予定で
とオマーンはアルミナ供給については共同事業
ある。これらのプロジェクトのうちで最大のも
パートナーの外資に頼ることができるであろう
のは,ドバイ・アルミニウム(Dubai
し,Dubal は上流部門の買収により対応した。カ
Alumin-
ium;Dubal)とアブダビ国営投資会社である
ナダの Global
Alumina の2
5%権益と同社のギ
Mubadala との6
0億ドル合弁事業である。年産
ニア精錬所で生産されるアルミナの権益を2億
1
2
0万トンの能力を持つ精錬所の建設を予定し
ドルで獲得したのである。更に Dubal は Larsen
ている。更に,Dubal にはドバイ現地精錬所の拡
& Toubro との間で,インドのオリッサ州に年産
張計画もある。アブダビでは,オーストラリア
1
5
0万トンの能力を持つアルミナ生産工場と隣
の鉱山会社である Rio Tinto が7
0万トンの能力
接する精錬所を3
6億ドル掛けて建設することで
を持つ精錬所を計画している。カタールでは,
合意した。ただこれらのプロジェクトだけでは
ノルウェーの Norsk Hydro とカタール石油会社
Dubal の所要量には届かないので,将来更に上
との折半出資の合弁企業が,2
0
1
0年までに5
8万
流部門の確保に向かう可能性がある。このよう
5千トンのアルミニウムを製造する精錬所を建
な投資への関心が高まっていることは,ドバイ
設する予定である。第2段階が完了した後は,
で1
0月に開催され,多くの北米鉱山会社も参加
能力は1
4
0万トンに拡大される予定である。しか
していた投資家向けの2つの鉱山関連会議にも
し両社は2
0
0
6年9月に最終的な投資決断をする
反映されていた!。
前に,初期費用見積りの再計算を実施しなけれ
8
6
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
GCC Aluminum Production as % of
World Demand
上の優位性は,またしても安価なガス供給にあ
る。というのも湾岸の製鋼所は石炭燃焼精錬法
20%
に基づく伝統的な溶鉱炉方式ではなく,大量の
15%
ガスを使用する直接還元製鉄方式(direct
10%
re-
duced iron processing;DRI)を使っているから
5%
0%
2006
2007
2008
2009
2010
である。ここでは原料の確保も重要である。直
2015
Source:Gulf Research Center
接還元鉄鉱石ペレット需要は,
2
0
1
2年には5
0
0万
トンから2,
4
0
0万トンへ伸びると予想されてい
新しいアルミニウム精錬所の多くは実績のあ
る。驚くには当たらないが,Hadeed はオースト
るアルミニウム生産者と国営事業との合弁事業
ラリアの Sphere Investment の1
4.
8%権益を取得
であるが,世界中で最大の規模となるであろう
したし,Qasco は同社の9%権益を購入した。
し,湾岸の企業は国際競争力のある企業となる
Sphere Investment はモーリタニアにある鉄鉱山
であろう。彼等の市場占有率は,現在の5%か
の5
0%権益を所有している"。
ら2
0
1
0年までに1
0%以上となり,2
0
1
5年までに
最後に,最近進出してきたオーストラリアの
は1
8%にまで上昇すると予想されている。世界
鉄鉱石生産業者である Grange Resources は,共
のアルミニウム市場はまだ年率4%で拡大して
同事業の可能性につき地域の企業と協議した。
はいるものの,アルミニウムの最大消費国であ
湾岸投資公社(Gulf Investment Corporation;
る中国経済が冷え込む場合には,過剰生産問題
GIC)が,
最近鉄鋼および鉄鉱石ペレット生産業
もあり得ないことではない。
者である湾岸産業投資会社(Gulf Industrial Investment Company;GIIC)を接収したのも原料
鉄鋼
問題が背後にあったかも知れない。GIC は共同
鉄鋼分野でも大拡張計画が発表された。この
事業パートナーであるブラジルの CVRD を完
分野での主要企業はサウディアラビアの
全支配下に置くために同社の5
0%権益を買収し
Hadeed,カタールの Qasco,それにオマーンの
たが,消息筋によれば全世界の鉄鉱石ペレット
Shadeed であり,野心的な拡張計画を抱えてい
市 場 の9
0%を 占 め,い わ ば 独 占 状 態 に あ る
る。Hadeed だけで鉄鋼生産量を2
0
1
5年までにほ
CVRD が共同事業パートナーに高過ぎる対価
ぼ2倍の1千万トンにしたいと考えている。地
を要求したとのことである。
元建設市場の需要は飽くことを知らず,石油化
Indicative Demand of Direct Reduction Iron
Ore Pellets
学やアルミニウム産業と異なり,湾岸諸国は輸
出を行っていない。彼等は生産された鉄鋼をす
35
べて自分達自身で消費しているばかりでなく,
30
25
20
SE Asia
15
Gulf
Mt
純輸入者でもある。湾岸工業化諮問機構(Gulf
Organization for Industrial Consulting;GOIC)に
10
よれば,鉄および鉄鋼製品の輸入は2
0
0
1年から
5
0
2
0
0
5年の間に2倍となり,GCC 諸国の需要は
2005
2008
2012
Source:Grange Resources
2
0
0
8年までには更に3
1%伸び1,
9
7
0万トンにま
で達する見込みである!。鉄鋼価格は昨年だけ
で2
0∼2
5%上がった。GCC 諸国製鐵業者の競争
8
7
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
肥料
新規公開(IPO)により貴金属ユニットを民営化
肥料産業もまた原料としてのガスの競争上の
する計画であったが,現在では2
0
0
7年半ばまで
優位性に与っている。サウディアラビアの Al
に Maaden のすべての事業の IPO が予定されて
Jalamid 採鉱プロジェクトでは原料面の優位性
いる!。
に燐鉱石が付け加わっている。公表1
6億トン,
サウディアラビアでの実際の採鉱は,これま
推定1
5億トンの埋蔵量を持つ世界最大の燐鉱山
でのところ金と銀とに限られていた。Maaden
のひとつである。公共投資基金(Public Invest-
には現在採鉱中の金鉱山が4つあり(Mahd Al
ment Fund;PIF)の資金を使って産業都市であ
Dhahab,Al Sukhaybarat,Bulgha および Al Ha-
るジュベイルまで鉄道を敷く予定である。ジュ
jar)
,
新たに2鉱山(Al Amar と Al Duwayhi)が
ベイルでは3
2億ドルの複合処理施設が各種化学
それぞれ2
0
0
6年と2
0
0
8年に採鉱開始する予定で
製品,洗剤,飼料および年産3万トンの燐酸肥
ある。これらの新鉱山開発により金生産量は現
料(diammonium phosphate;DAP)を生産する予
在の6.
9トンから2
0
0
9年までには2倍になる予
定である。サウディアラビアは世界第3位の燐
定である。年約1
5
0トンの取引を行う国の金市場
酸肥料生産国となり,世界の DAP 市場の1
0%確
への国内産供給を増やすことは重要であろう。
保を目指している。鉱物資源に恵まれ,安価な
金とは別に Maaden は貴金属採鉱で1
4.
2トンの
ガスエネルギーと硫黄原料が利用できるため,
銀を産出している。サウディアラビア北部の Al
世界で最もコストの安い生産国となっており,
Jalamid および Al
またアジア市場が隣接していることはもうひと
よび燐鉱石採鉱プロジェクトにより,サウディ
つの競争上の利点となっている。
アラビア鉱山業は飛躍的発展を遂げようとして
Zabirah でのボーキサイトお
おり,その成長率は年9.
1%まで加速されると予
鉱山および採鉱
想されている。恩恵は採鉱に留まらず,新規雇
GCC 域内の鉱山および採鉱業の歴史は非常
用創出も伴う。つまり新規雇用創出を伴うかな
に浅く,ほとんどがサウディアラビアに集中し
りの規模の下流部門産業が既に計画されている
ている。サウディアラビアでは国営鉱山会社
のである。このことは非常に重要である。とい
Maaden が1
9
9
7年に設立され,1
9
9
9年には地質
うのも下流の転換部門の雇用創出は,一般的に
調査が行われた。鉱物資源庁の技術図書館には,
ばら荷商品(bulk goods)生産より大きいからで
サウディアラビアの潜在鉱山についての評価を
ある。例えばサウディアラムコでは,ばら荷石
含む4,
0
0
0以上の報告書と地図が所蔵されてい
油化学製品への1億ドル投資毎に3
0から5
0の雇
る。サウディアラビアでは約3
0種類の鉱物が見
用が創出されるのに対し,転換産業では3
0
0から
付かっており,うち1
5種類は商業的に採掘可能
6
0
0の雇用が創出されると試算されているので
である。2,
0
0
0箇所以上の卑金属および貴金属
ある。
の埋蔵地点が特定されているが,中でも金,銀,
Al Jalamid および Al Zabirah の野心的なプロ
ボーキサイト,燐鉱石,鉄鉱石,銅,およびタ
ジェクトに加えて,サウディアラビアには銅,
ンタルが最も重要である。2
0
0
4年には鉱山部門
亜鉛,マグネシウムおよび鉄鉱石のような小規
への投資を奨励する新鉱山規則が承認され,国
模産業鉱物鉱床がいくつかあり,商品価格の上
は Maaden を4つの戦略的ユニット(貴金属,
燐
昇に伴い,注目を集めるようになるかも知れな
鉱,アルミニウムおよび産業鉱物)に再編する
い。そう遠くない将来に,サウディアラビア北
戦略に乗り出した。元々は2
0
0
6年末までに株式
部の石膏および大理石鉱床もまた活況に沸く自
8
8
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
国の建設部門への重要な供給源となるかも知れ
動産業と建設業のブームを招き,ドバイの GDP
ない。Ghurayyah のタンタル鉱床は,同鉱床が世
の2
0%以上を占めるドバイ経済の最も重要な分
界 最 大 の 鉱 床 の ひ と つ と い う だ け で な く,
野のひとつとなっているのである。ドバイおよ
Maaden ではなく民間採鉱会社に認可されてい
びバハレーンの自由保有権法(Freehold laws)に
る探査現場のひとつであるという点で特別の注
より,まだ未解決の問題はあるものの,所有権
意を払う価値がある。2
0
0
2年に英国の Tertiary
規則の法的明確さは改善された。ドバイの成功
Mineral Plc は同鉱床の5年間排他的探査許可を
が明らかになるにつれ,他の GCC 諸国は発展
取得した。同鉱床の埋蔵量は9万5千トン以上
モデルにつき競い合うようになった。最高級豪
とされ,現在世界のタンタルの5
3%を産出する
華不動産プロジェクトや Palm 島のような人工
オーストラリアの Greenbushes および Wodgina
島は,今ではバハレーンやカタールのような国
鉱山以上の埋蔵量が見込まれているが,タンタ
でも開発されているし,2
0
0
3年にはサウディア
ルはコンピューターや携帯電話製造に不可欠の
ラビア観光最高評議会(Saudi Arabian Supreme
金属である。全体として鉱山部門はサウディア
Council of Tourism;SCI)は2
0
2
0年までに観光
ラビア経済の重要な一部になり始めていると言
業で2
3
0万の新規雇用を創出するとの幾分野心
うことができる。鉱山業は石油収入への依存軽
的過ぎる方針を発表した#。サウディアラビア
減に役立ち,主に下流転換産業で期待される雇
はまた新たに開発した King Abdullah 経済市に
用創出は増大する失業問題を抱えるサウディア
特別経済区モデルを採用したが,それはドバイ
ラビアの雇用市場にとって,とくにプロジェク
の巨大不動産会社 Emaar が主導するコンソー
トの多くが北部や Asir という不便な辺境地域
シアム(資本家連合)が建設することになろう。
にあるので,歓迎すべき救済策となるであろう。
「Emaar 経済市」
(Emmar the Economic City;
ECC)がサウディアラビアで7月に株式公開さ
「ドバイモデル」
:不動産,貿易およびサービス
れると応募が殺到した$。ドバイ経済に占める
貿易業,サービス業および観光業の拡大は
重要性は,石油でさえ低下した。石油プロジェ
GCC 域内では比較的新しい多角化戦略であり,
クトはサウディアラビアやロシアやイランのよ
ドバイが先鞭を付けてきた。ドバイ首長国では
うな諸国やアブダビのような他首長国から流入
純石油収入は1
9
9
0年の3
3%から今日ではほんの
する,主に石油が生み出した投資資金に大きく
!
6%にまで下落した 。このことは首長国内で
依存している。貿易・サービス中継拠点は定め
多角化が強力に進められたことと石油生産減退
られた支柱の間をすり抜けるようなもので,ド
が進んだことを反映している。観光業に重点が
バイの成功もまた隙間モデル(niche model)であ
置かれ,観光客数は現在の6百万人から2
0
1
0年
り自由に真似できるものではない。とくに同じ
までに1千万人に増加すると期待されている。
地域においては,やがて出て来る同様の不動産
新しい巨大プロジェクトが進行中であり,定期
にとって需要は十分ではなく,またサービス提
的に発表されている。Bawadi ホテルの滑走路が
供業者が GCC 全体のサービス提供に乗り出す
好例である。5月に発表されたが,ラスベガス
場合には問題となり得る。ドバイのすぐ後で,
にある滑走路より長くなるであろうとのことで
クウェイトとバハレーンがそれぞれ1,
0
0
1m と
"
ある 。観光業に加え,ドバイは各種免税特区や
1,
0
0
2m に達する世界一高い塔を建てると発表
投資刺激策を備えた貿易・再輸出中継基地とし
したが,合理的でない時は過度に悲観的になら
て位置付けようとしている。これらすべてが不
ないものである。ただ新規プロジェクトが出尽
8
9
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
くしているので,過熱した不動産市場は今後2
模なプロジェクトとなる予定である。エネル
年間は冷めるであろうと,多くの人が予想して
ギー分野でのもうひとつの大きなプロジェクト
いる。クウェイト市場での販売は,2
0
0
6年第3
は,2
0
1
0年までの完成が見込まれている GCC
!
四半期の間に既に7.
9%下がった 。需要と供給
域内電力網の整備である。第1段階として6
0億
との間の不適合もある。豪華邸宅が主に造られ
ドルかけサウディアラビア,クウェイト,
カター
ているが,地元市場はもっと買い易い住宅を求
ル,バハレーンを結び,第2段階で UAE とオ
めている。リヤド銀行が1
1月の経済概観で書い
マーンが組み込まれることになっている。輸送
ている。
「金持ちで有名な人には職が無く事務職
の分野ではサウディアラビアは鉄道網を大幅に
"
や店員には職はあっても家が無い」。とくに過
延長し,東西軸上のジェッダからリヤドを経由
熱する市場が莫大な社会費用を借主に転嫁する
してダンマンに至るすべての主要都市を結ぶ計
のであれば,価格レベルを是正することこそが
画である%。ドバイは悪名高い渋滞道路への公
健全であると考えられる。今年初めの GCC 株
共交通対策として地下鉄網を建設中である。第
式市場停滞の際に見られたようなブームがいつ
1段階は3
9億ドルで2
0
0
9年までに,また第2段
か市場調整に耐えられず,危険な資金調達計画
階は2
0
1
2年に完成する予定である。加えて GCC
を引き起こすかどうかはまだ判らない。
域内の自動車志向交通(automobile‐oriented traffic)に合わせて道路および橋梁の拡張も計画さ
基盤整備:輸送,電力網,発電
れている。GCC 域内の水消費量の約7
0∼8
0%は
GCC 域内経済の活況と人口増加によりイン
海水蒸留水が賄っている。驚くには当たらない
フラ能力は限界に達し,交通渋滞は日常化し,
が,この分野でも大拡張計画がある。GCC 域内
発電所および送電網は増加する需要に追い付か
では総額1
0
9億ドル投じて約3
5基の海水蒸留プ
ないことがある。2
0
0
6年にはジェッダやマナマ
ラントを新設することが計画されている。
やクウェイトのような都市で電力不足が起こっ
結論
た。加えて差し迫ったガス不足は主にガス火力
発電所を圧迫し,数基のガス火力発電所が燃料
GCC 諸国は,今や中国や日本より重要な米国
油に転換しなければならなかった#。一方,サウ
経常赤字の単一で最も重要な補填者である。従
ディアラビアと UAE は民生用核エネルギーの
って,国際金融システムの安定に果たす GCC
獲得に関心がある旨表明し,また石炭火力発電
諸国の重要性は決して過小評価できない。ドル
所も検討されている。1
2月にはオマーン石油開
騰貴,需要増および供給不安により油価は持続
発(Petroleum Development Oman;PDO)は南部
可能なパラダイムシフト(枠組転換)を遂げた
の Raysut 石 炭 火 力 発 電 所 の フ ィ ー ジ ビ リ テ
ので,GCC 諸国の重要性は続くであろう。非
ィ・スタディ(実行可能性検討)に着手したと
OPEC のいくつかの国々からの供給が増え,ま
発表し,一方アブダビ国営エネルギーの CEO
た経済成長および石油需要の鈍化により2
0
0
7/
は,石炭火力発電所は UAE の差し迫ったガス
0
8年には油価は多少下落するかも知れないが,
$
不足の解決策になり得ると指摘した 。アブダ
5
0ドル以下への下落は一時的なものであろう。
ビの国営投資会社 Mubadala の Masdar 太陽エネ
経常黒字は,今後数年間は高止まりするであろ
ルギープロジェクトにも関心が集まってきた。
うが,急増する消費による輸入の増加および現
この7億5千万ドルプロジェクトは再生可能エ
地の投資ブームのため,記録的な2
0
0
6年水準か
ネルギーの技術と企業を獲得し,UAE では大規
らは下がると考えられる&。政府は予算作成の
9
0
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
&
ためには前年油価を用いるので,油価上昇は予
算を膨らませる一方,輸入の増加が遅れる傾向
ARICORP Research,Economic Commentary,
Volume 1,No.
1
0,October2
0
0
6.
'
にある。ドルからの離脱はこれまでのところは
限られたものであるが,将来的には恒常的にド
MEED,Vol.
5
0,No.
4
7,November2
4
‐
3
0,
2
0
0
6,pp.
7
1.
ルが弱いため弾みが付くかも知れない。ユーロ
(
0
0
6,p.
3
7
Gulf News,October 9,2
および英ポンドによるポートフォリオ投資(有
)
See US Department of Energy,Country
価証券の買い付けによる間接投資)に加え,
Analysis Brief Saudi Arabia,available at:
GCC エネルギー輸出の3分の2が向かうアジ
http://www.eia.doe.gov/emeu/cabs/saudi.
アへの海外直接投資の重要性が増す。しかし円
html and AMEinfo,July 6,2
0
0
6.
や人民元のようなアジア通貨はまだ多様化のた
* “Going for Gas.Abu Dhabi Unveils New Up-
めの通貨としては見なされていない。石油およ
stream Plans”MEED,Vol.
5
0,No.
2
5,June
びガス,石油化学,重工業,不動産並びに基盤
2
3
‐
2
9,2
0
0
6,p.
6.
+
整備分野の項で概述したような巨大プロジェク
トにより,域内投資ブームには弾みが付きそう
See www.
minelle.
com and
www.
value‐
relations.
de.
であるが,過剰投資および需要不足のため修正
,
The Peninsula,October 4,2
0
0
6
もないとは言えない。インフレ傾向とプロジェ
-
Grange Resources,Shutdown Magnetite and
クト費用超過も問題となっている。域内投資は
Kemaman Pellet Project,Project Presentation,
絶対額では増加したものの,海外へ流れるオイ
March2
0
0
6.
.
ルダラーと比較すると,石油収入が膨大である
June1
0,2
0
0
6
ために,その相対的重要性は実際には低下した。
/
海外投資と域内投資との関係が今後どのように
Saudi Gazette,March1
0,
2
0
0
6;Gulf Times,
S.
‐Saudi Arabian Business Council,
See U.
“The Mining Sector in the Kingdom of Saudi
動くかについては,まだはっきりしたことは言
Arabia,
”November2
0
0
5;www.
maaden.
com.
えない。
sa;“MAADEN:Tapping Potential,
”MEED,
(注)
!
April 2
8,2
0
0
6;Interview with Maaden Presi-
Saleh M.Nsouli,
“Petrodollar Recycling and
dent and CEO Dr.
Abdallah E.
Dabbagh,November3
0,2
0
0
6.
Global Imbalances”
,IMF Presentation,Berlin
0
2
0
0
6,p4.
"
BIS,Quarterly Review,December 2
0
0
5,
Economy figures.
1 “Bawadi Project will be‘Bigger than Las
p.
2
1.
#
Vegas,
’
”Gulf News,May1
3,2
0
0
6.
US Treasury,“Major Foreign Holders of
Treasury Securities”available at http://www.
2
Monica Malik,Tim Niblock,
“Saudi Arabia’s
Economy:The Challenge of Reform,
”in Paul
txt.
ustreas.
gov/tic/mfh.
$
Dubai Chamber of Commerce and Ministry of
See Graph and BIS,Quarterly Review,March
Aarts,Gerd Nonneman(ed.
)
,Saudi Arabia in
2
0
0
6,p.
1
6 and Quarterly Review,December
the Balance.Political Economy,Society,For-
2
0
0
6,pp.
1
7.
eign Affairs(Hurst:London2
0
0
5)pp.
8
5
‐
1
1
0,
%
ARICORP Research,Economic Commentary,
p.
8
7
3 “Alternative
Volume 1,No.
7‐8,July‐August2
0
0
6.
9
1
subscription
channels
boost
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
“it may be full steam ahead for coal‐fed power
Emaar the Economic City IPO,
”available at:
emaar.
com/MediaCenter/
http://www.
plants in the UAE,
”Gulf News,December 2,
PressReleases/2
0
0
6July3
0.
asp.
2
0
0
6.
%
! “Real Estate Market in Kuwait drops7.
9Per"
See
http://www.saudirailexpansion.com/
SaudiRailExpansion / inner .aspx ? parent =4
4
4&
cent,
”Kuwait News Agency,
October1
4,
2
0
0
6.
secsemo=4
4
5
MEED,Vol.
5
0,No.
4
6,1
7
‐
2
3 November
&
2
0
0
6,p.
7.
# “Watt Crisis.Why the World’s Biggest En-
Malcolm Easton,Brad Setser,
“Peak Petrodollars in2
0
0
6?”RGE Monitor,May2
0
0
6,available at:http://www.
rgemonitor.
com.
ergy Producers are Running Out of Power,
”
MEED,Vol.
5
0,No.
4
0,October 6‐
1
2,
2
0
0
6.
$ “Muscat Studies Coal Power,
”MEED,
(この報告は,競輪の補助金を受けて作成された
4
7,November2
4
‐
3
0,
2
0
0
6,p.
3
5,
Vol.
5
0,No.
9
2
ものです)
中東協力センターニュース
2
0
0
7・2/3
Fly UP