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博士(工学) 吉田 恭

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博士(工学) 吉田 恭
博士(工学)吉田
恭
学 位論 文 題 名
A Study on h/Ieasures for the Ix/I
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Environment in European Garden Cities: Roles of th
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Scheme of IVIanagement and the Non-Profit Bodies
( 欧 州田 園 都市 に お ける 居 住環境の 保全の仕組 みに関す る研究:
マ ネ ジ メ ン ト ・ス キ ーム と非 営 利団 体の 役 割)
学位 論文内 容の要旨
・ 拡 大成 長する都市 化社会か ら安定し た都市型 社会ヘ転 換しつっ ある今日、 我
が国 では良好 に形成さ れた居住環境の保全が大きな課題にな.っている。二十世
紀 初 頭に 建設が開始 された田 園都市の 中には今 日まで良 好な居住 環境を保全 し
て い るも のがあり、 その仕組 みを解明 すること は今後の 我が国に おける課題 を
考え る上で参 考となる 。
本論 戈は 、ベルギー とイギリ スの田園 都市を例 に採り、 良好な居 住環境の保
全 策 を明 らかにする ものであ る。ベル ギー田園 都市にお いては自 治的な「借 家
人 組 合」 が存在し、 土地住宅 の共有の もとで今 日まで居 住環境保 全に大きな 役
割を 果プこし てきた。 一方、イギリス田園都市に韜いては「マネジメント・スキ
ーム 」を使っ た居住環 境の保全が 行われて いる。
これ らの 事例を分析 し、居住 環境の保 全の仕組 みを考察 した上で 、結論とし
て 、 良好 な居住環境 を創造・ 維持して いくため には、@ 方法論と しては、一 般
的 を プラ ンニング権 限の活用 だけでは 困難であ り、時に は私権の 強い制限を 認
め る 自治 的なルール が必要で あること 、◎主体 としては 、一般の 公共団体で は
不 適 当で あり、居住 環境に高 い意識を 持ち住民 の支持を 得た非営 利組織が行 う
こと が望まし いことが 示される。
第1章 「 こ の研 究 の 目的 ・ 方法 ・構 成」では 、この研 究の目的と して、良 好
に 形成さ れた住宅 地の居住 環境の保 全が今後 我が国で は課題とな っていく こと
を 述べた 上で、欧 州田園都 市の中に は今日ま で良好な 居住環境を 維持して いる
も のがあ り、本研 究は、そ の仕組み を明らか にするこ とにより我 が国の課 題を
考 える上 で政策的 含意を汲 み取ろう とするも のである ことを述べ る。続い て、
こ の研 究 の 方法 と し て、 ベ ルギ ー 、イギリ スの田園 都市から具 体的に4っ の事
例 (ロジ 、ハムス テッド、 レッチワ ース、ウ ェルウィ ン)をとり あげて考 察す
ることを示し、さらに、以下の章の構成を概観する。
第 2章 「 ベ ル ギー に おけ る田 園都 市思 想の 受容 と建 設の 歴史 」で は、第 3章
で 詳し く見 る借 家人 組合 が登 場した 背景・歴史的文脈を明らかにするため、ベ
ル ギー にお ける 田園 都市 思想 の受容 と建設の歴史を概観する。その中で、ベル
ギ ーに おけ る田 園都 市建 設は 、政府 の政策として推進されたこと、共同体建設
の 理想 をか かげ てい たこ と、 政策担 当者と一般民衆との相互作用により実現し
た こと 、特 に借 家人 組合 の活 躍によ り良好な居住環境が創造されたことを説明
す る。
第3章「ブ リュ ッセ ルの 田園 都市 ロジ の建 設と 借家 人組 合の 役割」 では、個
別 の借 家人 組合 「ロ ジ社 」を とり あげ、 それがどのように田園都市を建設した
か 、そ こに はど のよ うな 特徴 が見 られる かを概観した上で、なぜ借家人組合が
良 好な 居住 環境 を創 造し 維持 でき たのか を考察する。結論として、ロジが公営
住 宅で なく 自治 組織 であ った こと 、土地 共有が基本的に維持されたこと、ロジ
の コン パク トさ から 来る 意思 決定 レベル の近さと結束の強さが住民のニーズに
応 える 機動 カと 政策 転換 に影 響を 受けな い継続性をもたらしたことを述べる。
ま た、 土地 の一 部売 却の 際に ロジ 社と買 取人との間に結ばれた覚書が後の英国
田 園都 市で 策定 され るマ ネジ メン ト・ス キームにっながる重要なポイント(私
権 の制 限) を含 んで いる こと を示 す。
第 4章 「イギ リス 田園 都市 にお ける 居住 環境 の保 護」 では 、英 国田園 都市の
歴史 及び 現状 は我 が国 でも よく 知ら れてい ることを前提に、居住環境保全に果
たす マネ ジメ ント ・ス キー ムの 役割 に絞っ て考察する。まず、マネジメント・
スキ ーム の原 型と なっ たハ ムス テッ ド・ガ ーデンサバーブのものについてその
内容 ・運 用・ プラ ンニ ング 権限 との 関係を 考察し、それが平均レベルより厳格
かつ 柔軟 な規 制を 可能 とし 、か っそ のため の安定した基盤を提供していること
を明 らか にす る。 続い てレ ッチ ワー ス及び ウェルウィンガーデンシティのマネ
ジメ ント ・ス キー ムを とり あげ 、そ の内容 ・運用・特徴を相互に比較しつつ明
らか にす る。
第 5章「 結論 」で は、 以上 を総 括し 、良好 な居 住環 境を 創造 ・維 持していく
ため には 、方法 とし ては 時に は私 権の 強い制限を認める自治的なルールが必要
であ るこ と、主 体と して は居 住環 境に 高い意識を持ち住民の支持を得た非営利
組織 が行 うこと が望 まし いこ とが 示さ れる 。
学 位論文審査の要旨
主
副
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査
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教
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学位論文題名
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(欧州田園都市における居住環境の保全の仕組みに関する研究:
マ ネ ジ メ ント ・ス キ ーム と非 営 利団 体の 役 割)
拡大成長する都市化社会から安定した都市型社会へ転換しつっある今日、良好に
形成された住宅地の居住環境の保全が我が国では大きな課題になっている。しかし
ながら、その具体的方策に関してはいまだ十分な研究の蓄積がなされていなぃ状況
にある。ー方で、二十世紀初頭に建設が開始された諸外国の田園都市の中には、今
日に至るまで良好な居住環境を保全しているものがあり、その仕組みを解明するこ
とは 今後 の我 が国 にお ける 上記の課題を考 える上で重要な意味を有している。
本論文は、ベルギーとイギリスの田園都市を例に採り、それらにおける良好な居
住環境の保全策を明らかにしたものである。ベルギーの田園都市においては自治的
な住宅組合が存在し、土地住宅の共有のもとで今日まで居住環境保全に大きな役割
を果たしてきた。一方、イギリスの田園都市においてはマネジメント・スキームと
呼ばれる法的枠組みを使った居住環境の保全が行われている。本論文は、歴史的文
書や法的文書の分析を行うとともに、住民や住宅地管理団体に対するインタビュー、
アンケート調査、現地調査を通してこれら欧州の田園都市における居住環境の保全
の仕組みを解明したものである。
第1
章「この 研究の目的・方法・構成」では、今日まで良好な居住環境を維持し
ている欧州田園都市における居住環境維持の仕組みを明らかにし、我が国における
政策的含意を汲み取ることが本研究の目的であることを示した。続いて、この研究
の方法として、ベルギー、イギリスの田園都市から具体的に4
つの事例(ロジ、ハ
ムステッド、レッチワース、ウェルウィン)をとりあげて考察することを示し、さ
らに、本論文の構成を示した。
第2
章「ベル ギーにおける田園都市思想の受容と建設の歴史」では、第3
章で詳
しく見る住宅組合が登場した背景・歴史的文脈を明らかにするため、ベルギーにお
ける田園都市思想の受容と建設の歴史を概説した。その中で、ベルギーにおける田
園都市建設は、政府による公的政策として推進されたこと、共同体建設の理想をか
かげていたこと、政策担当者と一般民衆との相互作用により実現したこと、特に住
宅 組 合 の 活 躍 によ り 良 好 な 居 住 環境 が創 造さ れた こと などを 示し た。
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第3章「ブリュッセルの田園都市ロジの建設と住宅組合の役割」では、個別の住
宅組合ソシエテ.コーポラティブ・ル・ロジをとりあげ、それがどのように田園都
市を建設したか、またその建設にはどのような特徴が見られるかを概観した上で、
なぜ住宅組合が質の高い良好な居住環境を創造し維持できたのかを考察した。結諭
として、ロジが公営住宅でなく自治組織であったこと、土地共有が基本的に維持さ
れたこと、ロジのコンパクトさから来る意思決定レベルの近さと結束の強さが住民
のニーズに応える機動カと政策転換に影響を受けなぃ継続性をもたらしたことがそ
の理由であることを明らかにした。また、土地の一部売却の際にロジと買取人との
間に結ばれた覚書が後の英国田園都市で策定されるマネジメント・スキームにっな
が る重 要な ポイ ン卜 、す なわち 私権 の制限を含んでいることを示した。
第4章「イギリス田園都市における居住環境の保護」では、それぞれ異なった歴
史・土地所有・管理形態を持っ著名な三っの英国田園都市を取り上げ、質の高い良
好な居住環境の保全に果たすマネジメント・スキームの役割を分析した。まず、そ
の原型となったハムステッドのものについて、その内容・運用・プランニング権限
との関係を考察した。続いてレッチワース及びウェルウィンのものをとりあげ、非
営利団体が開発会社を継承したハムステッドとレッチワースにおいては良好な居住
環境の保護が行われているのに対し、地方公共団体(行政)が承継したウェルウィ
ン に お い て は 困難 な 状況 が生 じてい るこ とを明 らか にした 。
第5章「結諭」では、以上を総括し、質の高い良好な居住環境を創造・維持して
いくためには、方法としては住民の私権の強い制限を認める自治的なルールが必要
であること、管理主体としては一般の地方公共団体(行政)では不可能であり居住
環境に高い意識を持ち住民の支持を得た非営利組織が行うことが望ましいことを示
した。
これを要するに、著者は、今後我が国で課題となる良好に形成された住宅地の居
住環境の保護に関して、その方法と運営主体のあり方の両面についての方向性を示
したものであり、都市計画学、公共政策学および建築都市学に貢献するところ大な
るものがある。
よって、著者は北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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