Comments
Description
Transcript
井尻 ( いじり ) 小学校
いじり 井尻小学校 伯太川から学ぶ「ふるさと井尻」のよさ 伯太川から学ぶ「ふるさと井尻」のよさ ∼地域の自然は宝物∼ ∼地域の自然は宝物∼ 小規模校 クラブ 全校活動 ~伯太川・川遊び~ 所在地 〒 692-0213 島根県安来市伯太町井尻 859 番地 2 TEL 0854-37-1032 / FAX 0854-37-1095 E-mail i j i r i t.esc @ city.yasugi.shimane.jp 1 はじめに (1) 学校の概要 本校は児童数50名,1 年,2年,5年,6年の単式学級と3・4年の複式学級,並びに2つ の特別支援学級からなる学級数7つの小規模校である。 校区である伯太町井尻地区にはイザナミノミコトが祭られていると『古事記』に記されている 比婆山,清らかな流れを誇る伯太川を含め,多くの山々や川がある。夏には家の近くの小川でカ ニ獲りをしたり,野原で虫取りをしたりするなど,身近に多くの自然が残る地域である。また, 学校から程近い場所にはのどかな田園地帯も広がっており,毎年秋には金色に輝く稲穂が一面に 広がる。子どもたちはこのような四季折々の変化が 感じられる豊かな自然の中で日々の生活を送ってい る。その中でも,伯太川は校区を南北に縦断するよ うに流れているため,子どもたちにとっては大変身 近な存在である。 近年は,この地域も人口が年々減少し,子どもの 数も減少傾向にある。しかし,学校と地域との結び つきは強く,学校の活動に対して地域の人々は協力 的である。数年前から続けてきた米作りや,地域の 方との交流会など,地域ぐるみで子育てに取り組も 学校がある井尻地区 うと,いろいろな面で深いかかわりをもっている。 2 特色ある活動 (1) 伯太川遊び 本校は伯太川の中流域にあり,校舎のすぐ裏を伯太川が流れている。この場所は水深が浅く, 流れも穏やかである。校舎の窓を開ければ,すぐそこに伯太川があるため,1 年を通して川の流 れの音を聞きながら授業が進められるなど,子どもたちにとって伯太川は身近な自然の代表的な 存在として浸透している。子どもたちに「井尻のよいところはどんなところですか。」と質問す ると「きれいな伯太川が流れているところ。」と答える子がたくさんいるし,「みんなの住んでい る井尻で一番好きな場所はどこですか。」という質問をすると「伯太川が一番好き。」と答える子 もたくさんいる。このように伯太川は子どもたちにとって切っても切れない存在である。 しかし,それだけ身近な伯太川ではあるが,思いのほか子どもたちが接する機会は少ない。子 ‐26‐ どもだけで遊びに行くことは安全上 の理由から禁止されており,大人と行 く機会もそれほど多くないのが現状 である。身近にこれだけすばらしい自 然環境がありながら,なかなか接する ことができないのは大変残念なこと である。そこで本校では年に 1 度,次 のような活動をしている。 下記の活動計画は,今年度実施した 活動内容である。 校舎の裏を流れる伯太川 1.活 動 名 伯太川で遊ぼう 2.ね ら い ・集団で協力して活動を楽しみながら,特にひば班(縦割り班)での親睦を深め, 上学年は,下学年の世話をしながら,助け合う心や自らの主体性を身につけ る。下学年は,上学年の言動をお手本にしながら,判断力や行動力を高める。 ・学校裏の「伯太川」で,水遊びをしたり水生生物を探したりしながら,ふる さと井尻の誇りである「伯太川」に親しみ,ふるさとに対する愛情を育む。 3.期 日 平成20年7月2日(水) 13:30∼15:00 4.参加児童 全校51名 5.日 程 13:30 昇降口前集合 13:30∼13:40 諸注意 13:40∼14:40 活動 14:40∼15:00 ふりかえり 6.活動について 「ひば班」としての活動であることを意識し,事前の話し合いで内容を確認する。 ↓ 【6月25日(水)昼休み】 ↓《安全面・集団での行動・生き物は川に返す》 主な活動・・・班でまとまって活動し,自他のよさに気づく ○魚とり・生き物集め ↓ ○川遊び・水泳 ↓ ふりかえりや感想発表で認め合えるように ‐27‐ 7.服装・持ち物 水泳着・ぬれてもいい服(Tシャツ等)・タオル・ビニール袋(ぬれた水着入れ)・履物 (かかとのある履物・・ぞうりは不可) その他活動に必要なもの(ゴーグル,たも等) 【記名厳守】 8.安全上の配慮 ・石を投げない。飛び込まない。勝手な行動をしない。たもなどの用具の扱いに注意。 ・何かあったらすぐに先生に知らせる。 ・班で行動する。 ・範囲を守る。 ・捕まえた生き物は,最後に川に返す。 ・拡声器・電話等の準備 ・事前に川の水位・勢い等の確認 9.役割分担 ・全体監視・・・・教頭 ・各班の指導・・・各班担当 ・救護・・・・・・養護教諭 毎年同じ場所で行っている活動であるため,子どもたちはどれくらいの深さがあるかとか,ど れくらいの流れの速さかといったことはある程度知っている。しかし,川遊びは水泳学習と同様 に一歩間違えれば大きな事故につな がる活動でもある。そこで事前に十 分な時間をとり,全校児童がきちん と分かるように絵などを使い,決め られたエリアからは絶対に出ないこ と,危険な行動はとらないことなど, 安全面での注意事項を伝えた。また そのときに魚や生き物は獲ってもい いが,必ず最後に逃がすことを確認 した。こうして学習の一環であるこ とや環境への配慮が必要であること を意識させることで,ただ遊ぶだけ ではなく,ふるさとの自然のすばら しさを考えながらみんなで楽しもう 水遊びを楽しむ子どもたち とする行動がとれるようにした。 はじめに昇降口の前に班ごとに並び,担当教員が注意事項の確認をした。その後,学校裏の伯 太川へ移動し,班ごとの活動に入った。各班は,あらかじめ決めておいた計画に基づき,魚を獲っ ‐28‐ たり,水遊びをしたりした。このとき子どもたちは自然な形で井尻の自然に接することになった。 大人が「自然はすばらしいものです。」と口で言っても子どもの心にはなかなか響かない。しかし, 子どもたち自ら,伯太川で活動することで,知らず知らずの内にふるさとの自然のよさを体感で きたのである。 1時間ほど活動をした後は川岸に上がり,振り返りの時間をとった。各班で活動の反省をした り,感想発表をしたりして今日の活動を振り返った。「友だちと遊べて楽しかったです。」という 感想のほか「魚がたくさん獲れて楽しかったです。」とか「水がきれいで気持ちよかったです。」 といった自然環境についての感想もあった。 (2) ふるさとの川「伯太川」の学習(3・4年生の総合的な学習の実践) 中学年の総合的な学習の時間に「伯太川探検」という活動名で伯太川についての学習をした。 まず伯太川の何について調べるかを決めなければいけない。そのため,1 学期の初めに実際に何 度か伯太川へ行った。実際に現地へ行くことで,思っていた以上にいろいろな生き物がいるとい うことや,場所によって流れの速さに違いがあることや,その場所により生息している生き物が 違うことなど,いろいろな発見をすることができた。伯太川がどんなところであるかある程度分 かったら,次に何について調べるかを決めた。生き物に興味がある子どもたちが多い本校では, 伯太川に生息する魚について調べる子どもが多かった。 何について調べるか決めた後は,秋の井尻っ子祭(学習発表会)を目指して,実際に調べ学習 に入った。家族から伯太川の生き物についてさらに詳しいことを聞いたり,夏休みに家族と再 度伯太川へ行ってみたり,本やイン ターネットを使って生き物について 調べたりするなど,いろいろな形で 調べた。また,伯太川の生き物に詳 しい方をお呼びして,一緒に川に入 りたくさんの生き物について教えて もらう時間もとった。 2学期に入るとそれぞれが調べた 資料を基に,まとめの学習に入っ た。今年度の場合は同じ生き物を調 べる子ども同士で班を作り,模造紙 を使ってまとめた。井尻っ子祭では 大勢の地域の方の前で調べたことを 発表した。子どもたちは緊張してい 伯太川で生き物を探す子どもたち たが大変よい経験になった。 また,3・4年生では伯太川の学習に関連させ,さらに井尻の自然環境全体へ目を向けさせる ため,地域の方に協力していただき,EM活性液作りの活動に取り組んだ。秋と春の年に2回, 地域の方に指導していただき,一緒にEM活性液を作り,それをプールに投入した。このときに EM活性液をプールに入れると,藻の発生が抑えられ,洗剤を使わなくてもプール掃除ができる ことや,そこから流れ出る排水は伯太川に優しく,それはこの地域の自然すべてに繋がっていく ということを学習した。 ‐29‐ 春には,学校裏の伯太川で日野川水系漁業協同組合の方々と共に稚鮎の放流を行った。伯太川 のすぐ近くに住む子どもたちであるため,この川に生息する魚を川岸から見る機会はたくさん あったが,実際に自分たちの手で川に放流する体験をしたことはなかった。この体験から伯太川 に住む魚に興味をもつ子どもたちが,それまで以上に「もっと伯太川の魚のことを知りたい。」 と思うようになった。 学校裏の伯太川は水深が浅いということもあり,泳いでいる魚はもちろんのこと,川底の砂利 まではっきり見える透明度の高い場所である。子どもたちは「透明=飲めるくらいきれい」と思っ ていた。しかし,実際に川をよく見てみると,ゴミが沈んでいることを見つけた。この体験から 「伯太川の水は本当にきれいなのか。」という疑問をもつ子が出てきた。そこで,県が実施した「み んなで調べる中海流入河川調査」に参加し,伯太川の水質調査をすることにした。 年に5回,学校裏の同じ場所で透明度とCODの調査をした。子どもたちは毎回興味をもって 調査に参加した。年に1度全校で川遊びはするが,年間を通して何度も足を運ぶことを通して, 川の様子の変化に目を向け,調べたデータに関心をもち,環境に対する意識も変わってきた。 一年を通して調べた結果,比較的きれいな水質であることが分かったが,調査した日によって 透明度やCODに若干の違いがあることも分かった。これは,とてもきれいに見える学校裏の伯 太川でも,少なからず生活排水等が流れ込んでいることを示す結果であった。子どもたちはこの 結果から,「きれいな伯太川をこれ以上汚してはいけない。」という思いをもつことができた。 3 伯太川から学ぶふるさとの自然のよさ (1) 伯太川遊びを通して 伯太川遊びでは班ごとでの活動を通して,学年の垣根を越え,楽しく活動することができた。 それとともに,自分たちの住んでいる地域の代表的な「自然」である伯太川で遊ぶことで,多く の子どもたちは「自分の住んでいる町には,こんなに楽しい場所があるんだ。」という思いをもっ たり,「やっぱり伯太川で遊ぶと楽しいな。」と再認識したりすることができた。そして自然な形 で井尻の自然のよさを感じることができた。 (2) 伯太川の学習を通して 3・4年生の総合的な学習では,それまで身近にありながらなかなか接することができなかっ た伯太川を,時間をかけて調べることで,今まで知っていた伯太川とはまた違う一面を知ること ‐30‐ ができた。鮎の放流体験がきっかけとなり,鮎の生態について調べた子は,鮎はきれいな川に生 息することを知り,そこから伯太川の環境のよさや,これからもその環境を守っていくことの大 切さを考えることができた。井尻っ子祭で「いつまでもたくさんの魚が住む伯太川であってほし いです。」と発表した子は,井尻の自然のすばらしさを実感したことであろう。多くの子どもた ちはこの学習を通して,伯太川により親しみを感じ,その大切さ,そしてその環境をいつまでも 守っていかなければという思いをもつことができた。 4 おわりに 井尻の子どもたちにとって,伯太川は身近にある自然の中でも代表的な場所である。しかし,生ま れてからずっと井尻で生活している子どもたちでも,普段の生活の中で接する機会は少ない。そこで, 年 1 回ずつではあるが,井尻の自然に関わる体験をすることで,井尻の自然のよさを再認識する。伯 太川遊びを終えて「また遊びたいな。」という子どもの思いは,「また遊びたいから,ずっときれいな 伯太川であってほしいな。」という思いに繋がっていく。そして,子どもたちは、環境に対する関心 を高め,どうすればこの環境を壊さないで生活できるかということを考えるようになっていく。低学 年の段階では,「遊びたいから,きれいな川であってほしい。」と思う子も多い。しかし,その意識を もって生活している子は,何も意識しないで生活する子より間違いなく自然環境のことを意識した生 活ができるようになる。中学年で伯太川の学習をした子どもたちは,自然の大切やふるさとの環境を 守ることをより強く思うようになる。その思いは,高学年,中学生と年齢を重ねても忘れることはな いだろう。その思いをもち続けることで,決して大きなことはできなくても,小さなことの積み重ね を通して井尻の自然環境を守っていくことができるはずである。それは「洗剤の量を減らす」とか, 「ゴ ミを捨てない」など,誰でもいつでもできることである。このような行動は環境のことを考えていれ ば簡単にできることであるが,そういったことに無関心な人々にはできそうでできないことである。 簡単にできることを,するかしないか。ここが環境を守っていけるかいけないかの大きな分岐点であ ると考える。伯太川遊びや伯太川調べを通して,ふるさと井尻の宝物である自然のすばらしさを感じ 取り,ふるさと井尻に誇りをもつ大人になっていくことを願っている。 (文責 折坂 明彦) ‐31‐