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はじめに 1.流出油事故を発見したら - 公益財団法人 海と渚環境美化・油
はじめに 近年、油流出事故は減少傾向で推移していますが、それでも毎年数百件発生し、その一 部で油が沿岸や漁場に襲来して漁業をはじめ産業、観光等に多くの被害を生じさせていま す。 油流出事故が発生した場合、被害を防止ないし軽減させるためには、適切な初期防除が 特に有効です。海で働き被害を受ける人々には、海岸や漁場を自衛することが求められま す。また防除の現場では、そこに居住し、仕事の場とし、さらにその海域に精通した、海 で働く人々の活動が常に期待されています。このため、流出油、防除資機材、防除方法に ついて知識を広め、事故発生時の防除体制を整えておくことは非常に重要なことになりま す。 本書では、主に少人数で簡単に作業できる油防除手法について説明します。 本書により流出油に即応するための基礎知識の涵養と手軽な資機材の共同備蓄が推進 されるとともに、適切な防除訓練に貢献することを期待します。 なお、海面での防除資機材の実際の使用法については、当基金で作成したビデオ「油の種 類と防除資機材/簡単で効果的な油防除・回収の方法(平成16年3月発行)」を参照して 下さい。 1.流出油事故を発見したら (1)通報 ◆ 通報内容 ◎ いつ、どこで ◎ どうして ◎ どんな油が ◎ どれほど ◎ どの方向へ ○時○分、目標物、海岸位置、河川、運河等 給油中、船舶から、内陸企業、原因不明等 油種、軽質油、重質油、廃油、食用油等 流出油拡散範囲 幅×長さ 流れ方向(風または潮流) ◆ 油の種類(参考1参照) 原油を精製して作られた油でよく使用されるものは、粘度の低い(粘りけが少ない) 方からガソリン、灯油、軽油、A重油、潤滑油、C重油です。 このうち、ガソリン、灯油、軽油(非持続性油といいます。)及び原油は引火点が低 く火災発生のおそれや健康に被害をもたらすことがあるので、危険範囲を定めて立ち入 りを禁止し蒸発を待ちます。 重油、潤滑油及び蒸発が終わった原油(持続性油といいます。 )は、海岸や養殖施設 に漂着すると環境被害が発生するので、漂着のおそれがある場合は適切な防除が必要で す。 ◆ 通報先 海上保安部(署)、港湾・漁港・河川管理者、県、市、町、村、消防署、漁業協同組合 (2)引火性流出油への対応 ① 大声で油流出船舶及び岸壁周辺に流出油事故発生を知らせ、注意を喚起します。 ② 風向、潮流を判断し、可能であれば風上からガス検知を行います。 ③ 携帯電話等で引火性事故発生を通報先へ知らせます。 (3)注意事項 ◆ 確認 原因者が船舶である場合、タンカーや貨物船等の船種、P&I(船主責任)保険の加 入の有無を確認します。 また、事故対策本部から作業要請があるか、船主等と(独)海上災害防止センターと の間で油防除等の委託契約がなされているかどうかの確認も必要です。作業に当たって は、処理作業費請求に備えるため、使用資機材の明細と証拠書類及び写真を整備してお きます。 ◆ 現認書と記録(参考5参照) ◎ 相手船の加入しているP&Ⅰ(船主責任)保険等から連絡が無い場合に、現場 で実行すべきことは、相手船の船長から現認書を取り付けることです。船長は、 国外においては、船主を代理する権限を有しています(商法第713条)。 当該現認書は、「油濁事故発生の確認」及び「事故の責任が当該船舶にあることの 確約」をさせるものですが、その場で後者について認めさせるのは困難と考えられま すので、事故発生の事実確認だけでもさせます。 ◎ 現場の写真、ビデオ等を撮ったり事故状況のスケッチ等をしておきます。この場合、 撮影日時・撮影場所・撮影者を記録しておきます。 事故発生当初から事故に関する資料は、全て保存しておく必要があります。い うまでもありませんが、人間の記憶は時間の経過と共に薄れてしまいます。事故 当初に、はっきりした記憶があったのに、時間の経過とともに散逸してしまうこ とはよくあります。油防除に出動した船舶数・人数及び被害の程度・数量等を具 体的に記録しておいて下さい。 ◆ (財)漁場油濁被害救済基金の支援(参考6参照) 漁場油濁被害が発生し、原因者が不明の場合や、原因者による防除措置・清掃作業等 が行われず原因者による被害救済などが行われない場合、被害漁業者等は(財)漁場油 濁被害救済基金から支援を受けることができます。 原因者が不明の油濁事故 漁場油濁被害救済金の支給、防除措置または清掃事業に要した費用の支弁 原因者による防除措置及び清掃作業が行われない油濁事故(平成18年度末まで) 漁場油濁の拡大の防止及び汚染漁場の清掃に要した費用の支弁 (限度額:1事故1都道府県当たり1,500万円) 2.簡単な流出油防除・回収法 (1)防除資機材の種類と使用法 ◆ 低粘度油(A重油)用 ◇ 長尺型油吸着マット(帯状油吸着マット) 流出した低粘度油の回収に適しているのは油吸着マットです。軽くて容積も小さい ので軽トラックでも大量に積載することができます。1∼2名で現場まで急行し、マ ット先端を6mmロープで固縛して小型船で後進して曳航するか、対岸から人が引き 寄せ展張します。 ロール型 (重量1巻17kg 長さ65m 幅65cm 厚さ4mm) 65cm 油 50cm 6mmロープ 油吸着マットは高粘度油には効果を発揮することができません。水温が23,4℃ 以上であれば多少は吸着しますが、12,3℃以下ではほとんど吸着せず、たとえ付 着しても波浪で剥離してしまいます。 マットの端どうしを縛ったり、カッター で切断すれば必要な長さのマットを簡 単に作ることができます(講習会)。 油吸着マットの展張(講習会) 油 油 6mmロープ 棒等の一端を電柱に縛って人が保持する方法 6mmロープ ロール型のまま海面に投入する方法 Z型 (25m×2束 8mmロープ10m×4本 幅65cm 厚さ4mm) 長尺型油吸着マットをジグザグに折り畳んだものがZ型油吸着マットです。海面に投入 し、ロープまたは小型船で展張すると風速15m程度までなら飛ばされずスムーズに展張 できます。 Z型 マット連結部 ロール型 油吸着マットを船が曳航(講習会) Z型油吸着マットを展張しているところです。 Z型は多少の強風でも飛ばされません。 Z型油吸着マットの作り方(講習会) Z型油吸着マットが入手できない場合はロール型油吸 着マットを事前にジグザグに折り畳んで作製しておくと 便利です。 Z型油吸着マットの展張方法 ◇ シート型油吸着マット(50cm四方または65cm四方の正方形) 正方形の油吸着マットです。ポリプロピレン製と植物製の2種類があり、ポリプロピ レン製の方が多く使用されています。 油吸着率は、製品により多少異なりますが、岸壁上または船上から回収するため、強 度のあるものが望まれます(鈎棒で引き揚げる際、弱いと切れて岩場やテトラの間に入 り、回収できなくなることがあります)。 シート型油吸着マットは、風や潮流で飛ばされたり流されたり、油を吸着して海面と 見分けがつきにくくなる等して、回収が困難になります。また、テトラ等に入ると、軽 質油分で溶けて団子状になり、回収不能になり二次汚染源になることもあります。 シート型油吸着マットを使用する場合、回収もれを無くして二次汚染を防ぐために、 原則としてオイルフェンスや長尺型油吸着マット等で包囲した中へ散布します。 この場 合、オイルフェンス等と護岸等との間が離れないよう留意します(P22参照)。また、 潮流や波浪によりオイルフェンス等の上下から流出することがあるので、油を吸着した らできるだけ早く回収します。既に広い海域にシート型油吸着マットが散布されている 場合は小型船2隻で油回収ネットやシースイーパーをU字型に曳航して回収します。 散布したシート型油吸着マットを長尺 型油吸着マットで包囲縮小して回収 石油会社でオイルフェンス内にシート 型油吸着マットを散布(宮城沖地震) 満潮時河川に逆流した漂着油をシート 型油吸着マットを使って回収している 例。オイルフェンス等で包囲していな いためシート型油吸着マットの回収が 困難 シースイーパー 細かい目の網地 フロート 漁網 油回収ネット シート型油吸着マット 油回収ネット 曳航方向 散布したシート型油吸着マットの曳航回収 ◇ 万国旗型油吸着マット シート型油吸着マットを10ミリロープに連結したもので、展張と回収が容易です。 1ケース 6.5m×4本=26m 13m×2本=26m 52m シート型油吸着マットの両角をロープで固縛したり、上部を折り返してから大型ホ チキスで固定して、万国旗型油吸着マットを作成する方法もあります。 しかしながら、 油を吸収するとロープからちぎれることがあるので注意が必要です。また、風や波の 影響を受けやすいので静穏な水域での使用に適しています。 ロープで固縛 大型ホチキスで固定 シート型油吸着マットとロープを使った万国旗型油吸着マットの作り方 風により個々のシート型油吸 着マットが左右バラバラにな り、ここから油が漏れること があります。 ゆ と ◇ 杉の油取り(商品名) 杉の樹皮を細かく砕き、不織布製の袋に詰めたもので、環境に配慮して製品化された ものです。(大分県産業科学技術センター・(独)海上災害防止センター共同開発) マットタイプ 万国旗タイプ オイルフェンスタイプ 450mm×450mm 厚さ:15mm 50枚/1箱 (9.5kg) 6枚をロープで連結 8組/1箱 22枚をロープで連結 2組/1箱 (12kg) 450mm×5m・10m・15m・20m 20m/1箱 B重油では自重の9.3∼9.7倍の油吸着能力があります。天然素材なので焼却 時、有毒ガスを発生しません。また、使用後、回収した 杉の油取り を微生物によ り油ごと堆肥化する研究が進められ、実験では1ヶ月で96%のC重油が分解されて います。 中身 また、これと同様のものとして、トドマツの間 伐材から作られた「もりの木太郎(商品名)」 等があります。 杉の油取り ◆ 高粘度油(C重油) 、ムース化油用 ◇ 吹流し型油回収資材(幅広タイプ) 厚い油層の高粘度油やムース化した油の拡散防止と付着回収に適しています。 ナホトカ号流出油事故の際、漁港内の厚いムース化油回収に効果を上げました。取扱 いが容易であることもあり、急速に普及しましたが、初期のムース化程度以下の粘度で は付着効果が低いので、油の状態を確認して使用することが必要です。 シングル 材質 ポリプロピレン ロープ ロープ径 7mm 引っ張り強度 508kg 長さ 15m のロープに 30 個のシングルを取り 付けたものです。(7.7kg/1本) 吹流し型油回収資材で厚い油 層を包囲し、引き寄せた状態 ◆ 平成 14 年 7 月 25 日 志布志湾に 座礁したコープベンチャー号 波浪で油が外部へ流れ出ない ように浮力の大きい油回収ネッ トに吹流し型油回収資材を固縛 しました。 ムース化した油は吹流し型油 回収資材の外へ漏れません。 広範囲の粘度の油に対応 ◇ 油回収ネット(低粘度∼高粘度油に対応) (独)海上災害防止センター・坂本由之氏の共同開発 4mm角のネットに油吸着材を詰めたもの 長尺型油吸着マット(中に浮力材が入っている) 20cm 30cm 10m 10mm ロープで上部網袋内を貫通させ連結 チェーン 長さ 重量 10m/1本 ポリプロピレン製 油吸着マット 13kg 植物繊維製 油吸着マット 11.5kg 容積 2本連結して1梱包 0.391m3 材質 ネット 4mm角ポリエチレン 浮体 発砲ポリエチレンシート 錘 4mmチェーン ロープ 10mmロープ 油回収ネットは ・ 長尺型油吸着マットと同じ様に油の拡散防止と吸着回収ができます。浮力が大 きいので3ノット(1ノット≒1.9km/分)程度の流速でも沈みません。 ・ 軽量で浮力が大きく波浪に追随しやすいので、油を上下から逃がすことがほと んどなく、大量の油の回収やテトラ等の前面に展張して油の漂着を防止するのに 適しています。 ・ 0.8ノット以下の流速であれば渦流を生じないので油を水面下から逃しませ ん。上部の網に包まれた油吸着マットでA重油等を吸着、ネットでC重油等を付 着します。 ・ 容積がB型オイルフェンスの1/5、重量が1/3なので、取扱いが容易で産 業廃棄物として焼却するときに必要な経費が少なくなります。 オイルフェンス 油 渦流 油回収ネット 油 海水 油回収ネットの使用例(ビデオ) 写真は青色ですが現在はオレンジ色です。 ◇ 吹流し型油吸着材(極細タイプ)(油膜∼高粘度油の広範囲の油に対応) 油回収ネットより流速が大きい河川や海域でも使用できます。 10m 1m 1m 8m 50cm 20cm 間隔で 41 束 重量 4kg/1本 (油吸着材 約 3.8kg、ロープ 約 0.2kg) ロープ径 引っ張り強度 8mm 700kg 備考 1ケース2本入り 小型船 1 隻と岸壁上 1 名で吹流し型油吸着材をU字型に曳航して岸壁の隅に向かって浮流 油を追い込んでいる様子(講習会) 吹流し型油吸着材は素材全体が極細の網状にな っているため、薄い油膜も毛細管現象で吸着しま す。引っ張ると網目が大きくなります(講習会) 軽量なので作業員 1 人で船上に揚収できます (講習会) ◆ 油吸着後の油回収ネット等の回収 海上からの回収 ◎ 油回収ネットや長尺型油吸着マットは軽いので手で引っ張って陸上に回収する ことができます。このとき、岸壁を汚さないようビニールシート等を敷いておきま す。 ◎ クレーン車やフォークリフトが使用できる場合は、まず油を吸着した油回収ネッ トや長尺型油吸着マットを岸壁上から鉤棒で2∼3mの長さに折り畳みます。 陸上から先端に軽い錘(例えば16mmシャックル)を付けたスリングロープ(吊 掛けロープ)を岸壁真下に下ろし、同時に小型船からは折り畳んだ油回収ネット等 の下に鉤棒を差し込んで、このスリングロープに引掛けて引き寄せ、大回しに掛け ます。これを陸上クレーンのフックに引掛け、徐々に引き揚げ、トラックの荷台ま たは岸壁に敷いたビニールシート上に回収します。(写真 参照) ◎ 油回収ネット等をビニールシート上にいったん回収し仮置きする場合は、クレー ンで簡単にトラックに積み込めるよう、スリングロープをそのまま掛けておきます。 ビニールシートの周囲をおが屑入り麻袋で固め、ビニールシートから油が漏れな いようにします。岸壁・護岸が油で汚れたらおが屑をまいて清掃します。 クレーンを使って引き揚げ 鈎棒を使って回収ネット等の 下にスリングロープをまわし ます。 トラックへの回収 岸壁上からスリングロープ の先端を引き揚げます。 フォークリフトを使って引き揚げ 現場での仮置き ◎ 組み立てタンク(数名で簡単に組み立て可能)の中へ油吸着後の長尺型油吸着マ ットや油回収ネットを入れておくと、トラック等へ簡単に積み込むことができます。 ◎ 引き揚げに使用したスリングロープを焼却場へ運び込むまで付けたままにして おけば、効率的に作業できます。組み立てタンク内に長尺型油吸着マットを何本も 入れる場合には、かさばらないよう交互に直交させて積みます。 ◎ 作業の都合等で、長尺型油吸着マット等を現場付近の陸上や台船上に仮置きして おく場合は、 タンクに雨等が入らないようビニールシート等でふたをするのを忘れ ないようにします。また、二次汚染のおそれもあるので、できるだけ早く焼却処分 します。 油回収ネット等 スリングロープ ビニールシート 組み立てタンク ◆ その他の防除資機材 ◇ 油回収器具(すくい金網、柄杓等) 木の柄のものは重くて扱いにくいので、アルミパイプ直径30mmの柄のものが適し ています。水に落としても沈まないように柄の末端付近にフロートを付けておきます。 また、末端に木栓を差し込めば浮力をもたせることもできます。 すくい金網(8メッシュ*の金網 350mm×250mm) 木栓 岩場、水際などの低いところからすくい揚げるのには長さ2m 前後のものを使用します。 (高いところから引き揚げる場合でも柄の長さが4m以上のも のは使いこなすことが困難です。) フロート 岸壁、船上等、比較的高いところからのすくい 揚げには、柄に対し金網が傾斜しているものが適 しています。 差し込み式(持ち運びに便利) 小型油回収枠用金網 引き揚げ補助用6mmロープ 920mm×920mm (16∼20メッシュ*) 高粘度油の場合は重くなりがちなので垂直に引き揚げま す。引き揚げる際は補助ロープを使用します。 柄杓 水抜きの穴を開けておけば高粘度油の汲み揚げに適します。 差し込み式 4点ロープ(6mm) で引き揚げる方式です。 耐荷重は25kgです が、油を入れすぎると作 業効率が悪くなります。 鈎棒 補助作業用の鈎棒を携帯します。 差し込み式 *メッシュ :25.4mm(1インチ) 中の網目の数 水抜き穴から 水が落ちている 平成 14 年 10 月 1 日 大島波浮港外に座礁したファル・ヨーロッパ号からの流出油回収 ◇ 小型油回収枠 FRP製 1.3m×1.3m 重量23kg (独)海上災害防止センター、油濁基金及び坂本由之氏の共同開発 小型油回収枠 油回収枠は油混じりの水を枠内にすくい集め、油膜を厚くした後、油を回収する道 具です。枠内に油混じりの水を入れると比重の差で水は油回収枠の下から流れ出て油 が濃縮されます。 ① ② ③ ④ ⑤ 回収 小型油回収枠を使用した回収法 油回収ネット等により集めた油を、 柄杓を使って直接護岸上のドラム缶へ油を汲み 入れるのは、長い柄の柄杓を扱うので柄杓から油が漏れ護岸を汚しやすく、また、回 収時に含まれる水の量が多くなり、保管に必要なタンクの量が増えます。 そのため薄い油混じりの水を小型油回収枠に柄杓やポンプで汲み入れて油層を厚 くしてから処理する方法が有効です。 岸壁は油で汚れすべりやすく非常に危険な状態 になります。 油回収枠を使用すれば狭い護岸上の作業でも足 場を汚さないため安全です。 小型油回収枠用金網 (16∼20メッシュ金網) 油付着ゴミも同時に 引き揚げ回収ができます。 130cm 15cm 50cm 油回収枠と金網 スカート 1mに切った油吸着マットをロープ で縛ったもので油を吸着 柄杓 護岸 海面 海水 油回収枠を使用した油の回収例 手鉤で回収 油吸着マットを使用する場合(講習会) ① ② 水槽内へ油(赤く着色)を散布し、柄杓で油回収 枠内に汲み入れます。 ③ 汲み入れ終了 ④ 油吸着マットを投入し、油を吸着 回収終了、枠内の油がなくなりました。 小型油回収枠の特徴は ・ 軽量なので1∼2名で取り扱うことができます(ライトバンにも積載できます) 。 ・ 柄杓やフローティングサクションで油混じりの水を汲み入れれば、枠内の油が 厚くなり、効率的に回収することができます。 ・ 小型油回収枠上部に金網(920mm×920mm)をのせれば、ごみと油を 仕分けることができ、枠内の油と金網上の油付着ごみとを分別して回収すること ができます(金網には25kgまで積載可能) 。 ・ 横へ柄杓を動かすだけで汲み取りができるので、作業が非常に簡単になり護岸 や身体を油で汚すことがありません。 ・ 厚くなった油はロープを付けた1m位の油吸着マットで簡単に回収することが できます(前頁図参照) 。 ・ 拡散防止を兼ねて一時的貯油ができます。 (約300リットルの貯油が可能) ・ 小型油回収枠上部に小型ポンプを積載すれば、護岸上や船上のタンク等への油 回収が容易になります。 高粘度油の回収(次頁参照) 高粘度油は、 小型油回収枠上の小型油回収枠用金網へすくい金網や柄杓で汲み入れ、 重さが10kg程度になったら、護岸のビニールシート上に引き揚げます。 引き揚げた金網は約45度に傾斜させ、油をスクレイパーで掻き落します。すくい 金網は8メッシュ程度の粗いものを使用し、目詰まりを避けます。 ① ② 柄に直角に取り付けたすくい網で水を切ります。 ③ すくい網ですくったC重油を小型油回収枠用金網上に落とし ます。 ④ このように回収枠上にすくい入れれば効率良く回収でき、岸壁を汚しません。 ⑤ 狭い足場でも安全にすくい入れることができます。 ⑥ ⑦ 小型油回収枠用金網をビニールシート上に引き揚げ45度に傾斜させスクレイパーで掻き出します。 (2) 海上での流出油の回収 ◆ 事前準備 ◎ 流出油事故は、いつどのような状況下で起こるか予測できません。日頃から地形、 海況、海面の利用状況等を考慮した効果的な防除方法を考えておきます。 ◎ 生簀全周、漁港入り口、防波堤間の距離を確認し、封鎖等に必要な長さの長尺型油 吸着マットや油回収ネットをあらかじめ準備しておくことが望まれます。 ◆ 基本的な防除回収の考え方 タンカーや貨物船の載貨または燃料のC重油が海面へ流出すると、 海水により冷却さ れ、波浪にもまれながら徐々に水分を含みエマルジョン化し、更に時間経過によりムー ス状となり、沿岸のごみ・砂礫等が付着し、容積が数倍∼10倍にふくれ上がることが あります。また、砂浜などに漂着した場合は一潮ごとに層をなして浸透することもあり ます。従って流出油は海上に漂流している間に全て回収することが理想です。 砂浜に浸透した油 油回収ネット等による回収 油回収ネットや長尺型油吸着マットを2隻の小型船でU字型に曳航し、油を回収しま す。 長尺型油吸着マットによる浮流油の追い込み曳航は0.5ノット以下とし、中央部が 水圧により沈まないようにします。油回収ネットによる曳航は2ノット以下とします。 また、広範囲に多量の高粘度油が流出し、油の影響を受け易い生簀や取水口等に接近 した場合は、小型船で船隊を編成し重点的・組織的に防除します。 伊豆大島波浮港外で座礁したファル・ヨーロッパ号(56,835 トン)から流出した浮流油を小型 船2隻で油回収ネット(40m)をU字型に曳航包囲して効果的に回収しました。 油回収ネット 浮流油が多い場合には船隊を編成して回収します。 古漁網による流入防除 古漁網をテトラの前面や港の入り口等に展張すると、油が付着したごみ等の流入を防 止することができます。 長尺型油吸着マットによる少人数での防除法と作業手順 ◎ 長尺型油吸着マットを2∼3名で展張し、流出油の拡散を防止しながら吸着回収 します。 ◎ 油の流れる方向を中心に包囲しますが、時間の経過により長尺型油吸着マットは 水を吸い、流速や風圧抵抗等によりU字型の中央部が沈むことがあるので注意しま す。 ◎ 油が広範囲に拡散している場合は、長尺型油吸着マットを小型船2隻でU字型 に曳航し、包囲しながら回収します。 ◎ 長尺型油吸着マットで浮流油を包囲し、油層が厚くなった中へ小型油回収枠を 投入して油水を汲み入れてさらに油を濃縮し、効率的に油回収を行います。 ◎ 油吸着後の長尺型油吸着マットは油回収ネットの回収と同様の方法(P9参照) で回収します。 (3) 陸岸への油漂着の防止 ◆ 海岸前面での油吸着マット等の展張 テトラポッドや砂浜等、海岸に油が漂着するおそれがある時は、海岸線に平行に長 尺型油吸着マットや油回収ネットを展張します。 大量の油が漂着するおそれのある場合や波の高い場合は複数のマット等を平行に 展張すると効果的です。 長尺型油吸着マット等が風浪で砂浜に打ち上げられても、その場所で油の防除回収 に役立ちます。 長尺型油吸着マットを 8 条展張し、 漂着油を防除 ◆ エンドレスロープの利用(参考4参照) 港外から油が接近して来るときは、防波堤の入り口等を必要に応じてすぐに封鎖で きるようにします。 防波堤入り口の幅が 100m以下なら、エンドレスロープを設置すれば、長尺型油吸 着マット等の展張と開放及び回収を1∼2名で行うことができます。 腰の高い位置で固縛 エンドレスロープ エンドレスロープを使った 長尺型油吸着マットの展張 エンドレスロープを使った 長尺型油吸着マットの開放・回収 エンドレスロープで長尺型油吸着マット等を展張し、防波堤の入り口等から流入する油を防ぐことができます。 流出油 ① ② エンドレスロープ 長尺型油吸着マット等を展張します。 停泊中の 船舶 護岸、岸壁等 ③ ④ 流出油の襲来防止を目的としたエンドレスロープの使用例 (4)港内での油流出事故時の対応法 ◆ 岸壁、桟橋に繋留中の船舶からの油流出 油の流出が継続している場合 ① 流向が一定の場合 流れが1∼2ノット程度の場合 7m 約 2m 65cm 長尺型油吸着マットを船首または船尾から流れる方向に吹き流し状に取り付 けます。 流れが0.5ノット程度の場合 下流側に竹棒等を張り出し両端に油吸着マット等を固縛します。 ② 流向が変化する場合 潮替わりにより変化する油の流出方向に対応するため、油の流出している船の全 周または潮下側を長尺型油吸着マットで包囲します。 護岸・岸壁または桟橋・ドルフィン 護岸・岸壁または桟橋・ドルフィン 油流出船舶 油流出船舶 下げ潮 下げ潮 上げ潮 上げ潮 流速が速かったり流出油量が多い場合は、油の吸着状況に応じて張り替えや多重 展張する必要があります。 油の流出が止まっている場合 ① 流れが0.5ノット程度の場合 油流出船は油が流れる先の岸壁(A点) に行き、長尺型油吸着マットを海面に投入 し、陸上と毎分15m(0.5ノット)程 度の速度で U 字型に油を包囲しながら、 B点へ向い、包囲縮小してから陸上へ回収 します。 流れ 油流出船 事故現場B点 ② 流れが1ノット以上の場合 曳航速力を含む対水速力が1ノット 以上の場合は、U 字型中央部が水圧抵抗 により水面下に沈み込み、浮流油を逃が してしまうので、油流出船はC点で、陸 上はA点でマットの端ロープを保持し、 待ち受け回収します。 流れ 油流出船 岸壁A点 ビニールシート C点 岸壁A点 ビニールシート 油回収ネットを使えば、流速2ノット程度でも油を回収することができます。 ◆ 錨泊等の場合 長尺型油吸着マット 船尾より漏れた油 長尺型油吸着マットを、吹き流し状に流します。 竹または鈎棒 船尾より漏れた油 長尺型油吸着マット等 長尺型油吸着マット等の両端に6mmロープを固縛し、U 字型に包囲します。 (5)桟橋内部等への漂着油の処理 ◎ 桟橋やドルフィンのように内部に海水が流入する構造に流出油が接近した場合 は桟橋前面に長尺型油吸着マット等を展張し、油の流入を防ぎます。 長尺型油吸着マット等 油 ◎ 油が桟橋の下に入った場合は、 消防ポンプを積んだ小型船で干潮時に桟橋の内側 と裏側を放水して清掃し、流れを作り、徐々に外側へ追出して回収します。 油 長尺型油吸着マット等 放水 ◎ 曳船または高馬力小型船のスクリューで流れを作り、外側へ追出して回収します。 油 長尺型油吸着マット等 (6)テトラ内の浸入漂着油回収 油 放水 ◎ 長尺型油吸着マット等 日数が経過し、テトラポッド面に油が固着している場合は、漁業に影響の及ばな いことを確認の上、油処理剤の原液を農薬等の散布機で散布し、高圧放水します。 また高温水はその場の生態系に悪影響を及ぼすので海水を汲み上げて放水するよ うにします。柄杓で油処理剤を散布すると必要以上に撒いてしまうので勧められま せん。 ◎ テトラポッド内から流れ出した漂着油の拡散を防ぐため、長尺型油吸着マット等 をテトラポッド前面に張り包囲回収します。 (7)油回収ネット等の端末処理 油回収ネット等を岸壁等に固定して展張した場合、その端末が岸壁や陸岸、船の舷 側等から離れやすく、その隙間を油がくぐり抜けてしまいます。このため、ネット等 の端末の処理が必要になります。 岸壁での端末処理法 ① ネット等の端をロープで固縛したらネット等を4∼5mたぐり寄せ折り返しま す。ネット等の端をロープで固縛する場合、潮汐による水面からの高さの変化を考 慮してロープの長さを決めます。 ② 流れに負けない重さの重錘をつけたロープを投入して折り返したところをおさ えます。 ③ 必要に応じて折り返した油回収ネット等の中央あたりにもう1本の重錘付きロ ープを設置し、密着させます。 川岸や船からの端末処理もこれに準じて行います。なお、油の下流への流出を完全に くい止めるためにはスライディングジョイントが有効です。(参考3参照) ① 油回収ネット等 ② 重錘付きロープ ③ 必要に応じてビット間にロープ等を張って、 ここに重錘付きロープをもう1本設置します。 (8)陸上での小規模流出油事故対応時の留意点 タンクローリーの事故等陸上においても多くの油流出事故が発生しています。 油流出事故対応全てにいえることですが、まず流出した油が可燃性かどうかを確認しま す。可燃性の場合はできるだけ近づかない様にしますが、必要な場合は風上側から慎重に近 づきます。 陸上での流出油事故に対応する場合、油や油処理剤等で処理した処理油水は水系に放出 せず、必ず全量回収すると云うことが最も重要です。このため、事故が発生したときは、手 近にある砂などで堰をつくったり、 排水溝を封鎖したりするなど使えるものを利用して流出 を防ぎ、その後油を回収します。 アスファルト道路等地下に浸透しない場所での処理・回収 ◎ 木質系油吸着材をそのまま、あるいは袋から出して油を吸着させ処理します。こ のほかにもゼオライト、セラミックス、活性炭、綿花セルロ−ス、再生綿、珪藻土、 ピートモス等多くの吸着素材が販売されていますので、これらを活用します。 この他手軽なところでは、おが屑にしみこませたり、ゲル化剤で固めたりして回収 する方法もあります。 吸着後は、産廃処理します。 ポリプロピレン等の吸着マットは、こすると繊維が路面に付着することがありま すので、油を吸収させるだけにして、最後はウエス(ぼろ布)等で拭き取ります。 ◎ どうしても水洗いが必要な場合は油処理剤を原液で噴霧し、ブラシでこすった後 水で洗い流します。処理油水はウェス等にしみこませるか、全て容器に回収します。 処理油水は産廃として処分します。 土砂等地下に浸透するおそれのある場所での処理・回収 ◎ 油の染みた土砂を掘り出し、産廃として焼却します。 ◎ 油の染みた土砂を掘り出し、容器に入れ油処理剤と接触させた後水洗いし、土砂 は埋め戻し、処理油水は産廃処理します。 土砂上の油を油処理剤で直接処理すると、処理油水が浸透して地下水を汚染するお それが大きいことから、絶対に行わないようにします。 ◎ 時間はかかりますが、油の染みた土砂を掘りだして空気を吹きつけ(エアブロー) 自然分解を促進させたり、処理業者に委託して、科学的分解処理、微生物分解処理、 土壌洗浄や加熱による油分除去処理を行なったりすれば土砂を埋め戻すことができ ます。 (9)河川での油流出事故時の対応 河川における油流出事故は、一般的に小規模ですが、流れがあること、水道、農業、 その他の用水として影響が大きいこと、人家等に近いことから火災や健康被害が発生す るおそれがあること等、海面での事故とはまた別の観点から深刻な問題です。 このため、海面等での油流出事故の場合、軽油、灯油、ガソリンなどは大抵は放置し て蒸発を待ちますが、これらの軽質油についても健康被害や火災に留意しながら迅速な 対応が必要になることがあります。 一般的な回収法 長尺型油吸着マット、油回収ネット、吹流し型油吸着材(以下「油吸着マット等」 といいます。 )を両岸に展張します。 ロープ 橋 油 油吸着マット ◎ 橋などを使って両岸をロープで連絡し、油吸着マット等を対岸に引き寄せます。 ◎ 両岸の水際は、隙間の生じないようにします。(P22参照) ◎ 長尺型油吸着マットは0.5ノット(0.9㎞/h)程度までの水流が弱く油の量が 少ない時に使用します。 油回収ネットは水流2ノット程度で比較的大量の油を吸着で きます。吹流し式は水流3∼4ノットまで使用できます。 ◎ 回収しきれない場合は、川下側に2重、3重に展張します。流速が速い場合にも多 重展張で対応できます。 (下図参照) 流れの速い場合の回収法(川全体に展張) ◎ 適当な長さ(2m程度)に切断した長尺型油吸着マット等を何本もロープに縛り付 け、吹流し状に流れに乗せて吸着させる方法 下図のように多重に展張すると効果的です。 2m 程度に切断した長尺型油吸着マット をロープを利用して吹流し状にしたも のを橋から垂らす 吹流し型油吸着材等 油吸着マット等を斜めに展張する方法 ◎ 油吸着マット等を斜めに張り、見かけの流速を減少させます。 ◎ 川下側の水際の油吸着マット等の取り付け部は、油が隙間から逃げないよう 端末処理(P22参照)をしたり油吸着マットや吹流し式を束ねたものでふさ いで回収します。回収場所は足場の良いところを選びます。 ◎ 油回収枠(P39参照)の前面(川上側)の水面付近に開口部を開けたもの(板 や大きめの箱を利用して製作できる。)があれば、効果的に待ち受け回収ができ ます。 油回収枠を使用する場合は油吸着マットでは強 度が足りないので、油回収ネット(P38参照) を使います。 河川での包囲回収法(橋の活用) ① 流出油の川下側(A)に長尺型油吸着マットを用意します。 橋などを利用して、油吸着マット等1本に対し6mm ロープ2本の片方の端を持っ た作業者 a、b を両岸に一人ずつ配置します。 ②(A)で作業者aは1本のロープにマットの先端を縛ります。 ③ 作業者bはロープを(B)の方向に引っぱります。 ④ bは引き寄せに使ったロープを外し、もう1本のロープを油吸着マット等の先端 に縛りつけます。 ⑤ bは(B)から油を囲むことのできる(C)まで移動します。 ⑥ aは手に持っているマットを縛ったロープをどこか適当なところに固定します。 ⑦ aは(A)から足場の良い陸揚げ地点(D)までマットの反対の端をもって移動 します。a は油を囲い込むため、(D)で手元に残ったロープを引き寄せます。 ⑧ 川岸を汚さないようシート等の上に揚収します。 ◎ 軽質油に対応する場合は、火災とガスの吸入に十分注意する必要があります。 ◎ 河川での流出油回収は、橋を活用すると効率よく作業ができます。 ◎ 強風時の油吸着マット展張には Z 型油吸着マットを使用します。マットが風にあおら れにくく簡単に展張できます。 作業者b ビニールシート 作業者a 6mm ロープ ロール型油吸着マットに木棒を通した物 (強風時はZ型の利用をお勧めします。) 油吸着マットの端をロープで縛ります。 3.油処理剤 (1)油処理剤の使用 流出油の防除は、漁業等への影響を考えると機械的、物理的な方法が望ましいのですが、 荒天時や沖合では、油処理剤を使用する方が効果的な場合もあります。 ◎ 油処理剤は、油がタール状になっていると効果を発揮しません。関係者が協議し ている間に時間が経過して使用時期を失することのないよう油処理剤を使用する 水域や場所等をあらかじめ協議して定めておくことが望まれます。 ◎ 油処理剤は必ず原液のまま散布器(ガーデニング用でも代用可)を使用して散布 します。 ◎ 水深10m以浅で潮流が弱く滞留している水域や生簀の近くで魚介類等に影響 を与える可能性のある水域及び取水口等での使用は避けなければなりません。 ◎ 油処理剤は適応する油の粘度が決まっていますので、使用に当たっては、ビーカ ー等でその油に効果があることを確認しておくことが重要です。 ◎ 処理剤を散布すると油吸着マットには吸着しなくなりますので併用は避けます。 事前テスト 現場のサンプル油を3種類の油処理剤 で効果テスト実施 海水9℃、気温3℃ (ナホトカ号事故。 現在はテスト専用のキットがある) (2)法律上の位置づけ 油処理剤は、 「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」 、「同施行規則」により、その 使用基準、規格等が定められた薬剤で、これらの法規を受けて型式承認の基準が作られ、型 式承認のない薬剤の海洋での散布(家庭用洗剤を含む)は禁じられています。 (3)種類 現在、我が国では、在来型と自己攪拌型(セルフミキシング)の2グループの油処理剤が 市販されています。 在来型は、粘度3,000cSt※程度までの油に効果があり、散布量は流出油の20%、 散布後の攪拌が必要であるのに対し、自己攪拌型は、更に高粘度油に効果があり、散布率4% 程度、攪拌は不要です。 ※ cSt(センチストークス)は粘度の単位で、数値が大きいほど高粘度になります(JIS 規格、50℃)。 A重油 20cSt以下 B重油 50cSt以下 C重油 1,000cSt以下 粘度の指標 1,400∼1,500cSt 4,000∼5,000cSt 約20,000cSt 約50,000cSt 約100,000cSt コンデンスミルク イチゴジャム、ハチミツ ソフトマーガリン、グリース 固いグリース、ゼリー 水あめ (4)国の指導 運輸省から通達(昭和48年2月)により次の基準が示されています。 ◎ 油処理剤は次のいずれかに該当する場合を除き、使用してはならない。 a 火災の発生等による人命の危険等重大な損害が発生し、または発生のおそれが あるとき b 他の方法による処理が非常に困難な場合であって、油処理剤によりまたは油処理 剤を併用して処理した方が海洋環境に与える影響が少ないと認められるとき ◎ 次のいずれかに該当する場合には、前述のa、bに該当する場合であっても油処理 剤を使用してはならない。但し特別な事情がある場合はこの限りでない。 a 流出油が軽質油(灯油、軽油) 、動物油、または植物油であるとき b 流出油がタールまたは油塊となっているとき c 流出油が水産資源の生育環境に重大な影響があるとされた海域であるとき ◎ 使用に際しては、下記の事項に留意しなければならない。 a 原則として散布器を使用すること b 散布量に注意し、特に過度の散布にならぬこと c 散布後は、直ちに十分な攪拌を行うこと(自己攪拌型を除く。) d できる限り風上から散布し、特に風が強い場合には、油面の近くで散布するなど により、油処理剤の散逸を防ぐこと e 散布作業員は、顔面その他の皮膚の露出を避けること ◎ 有害液体物質の流出による海洋汚染については、特別な事情がある場合を除き使用 が禁止されている。 参考1.油の種類・性状と油吸着材・処理剤等による防除の仕組み 1.油の種類と性状 私たちが利用しているガソリンや重油、潤滑油などの石油製品は、いろいろな種類の炭 化水素の集合体である原油を蒸留して製造されます。最初に蒸発する軽い炭化水素がナフ サやガソリンで、最後に蒸発するのが軽油です。この後蒸発しない油分(残査油)とアス ファルトなどの固体分が残ります。この(一番粘り気が強く燃えにくい)残査油に10% 程の軽油(カッター材といいます。 )を混ぜたものがC重油です。逆にA重油は軽油に残 査油を10%程混ぜたものです。 これらの油のうち、軽油、灯油以下の軽い油は白物といって殆ど蒸発してしまうので、 それほど大きな油濁被害は発生しません。むしろ、引火して火災発生の危険があることや 吸引による健康被害への留意が必要です。 実際に防除活動をしなければならないのは、 黒物といわれる重油や潤滑油それに重油成 分を含む原油です。 A重油は常温ではさらさらしており、水に入れると広がる感じですが、C重油は粘り気 が強く、水の上でも固まった感じとなります。 A重油(左)とC重油(右) なお、これらの水に接した油は、時間とともに粘度が高まっていくことがありますので、 その粘度にあった防除法を選択することが重要です。 2.油吸着マット (P2∼5、36、37参照) 現場では流出した油に合った防除資機材を選ぶ必要があります。 A重油などの粘り気が 少ない油には油吸着マット(以下、マットと呼ぶ。)などの油吸着材の使用が効果的です。 マットは、ポリプロピレンや植物繊維で製造され、性能は型式承認で定められています が、使用には型式承認の有無は問題とされておらず、承認を得ていない資材の使用も認め られています。 水より油の方をよく吸収します。 (1) 乾燥状態のマット 水中のA重油に切断したマットを投入するとマットは自重の8∼9倍の油を吸着 します。 A重油を吸着する 乾燥状態の油吸着マット (2)吸水状態のマット ① マットに水を十分吸収させる(自重の約6∼8倍の水を吸収)。 ② 水中のA重油に水を吸収したマットを入れる ③ マットに吸収されている水がA重油と置換する(吸着率は自重の12∼3倍) 。 水に濡れた状態のマットの方が乾燥したマットよりも吸着力が大きいという結果にな ります。マットを使用する時は、マットが水で濡れることを恐れず思い切って使用してく ださい。 但し、吸水状態のマットで油を吸着させた場合は、乾燥状態のマットを使用する場合よ り油が剥離しやすいので、できるだけ早く引き揚げます。 A重油を吸着する吸水状態の油吸着マット 吸着率は自重の約8.5倍 乾燥状態 実験用に切断 した油吸着マット 吸着率は自重に12∼13倍 吸水状態 吸水していた水と 油が置換する 3.粉末ゲル化剤 ゲル化剤は油を凝固させるものです(凝固のメカニズムは異なりますが家庭の天ぷら油 を固めて処理するのと似ています。 )。ゲル化剤もやはり油の性質によって使い分ける必要 があります。 また、ガスの発生を抑制するので船上や陸上で揮発性の油が流出した場合の引火防止に 有効です。 ゲル化剤は風で飛ばされやすく、回収も困難なので、海面の流出油には直接散布せず、 ドラム缶等に回収した油混じりの水から油分をマットで吸着回収した後の最後の仕上げ に使うと、残った海水を海に戻すことができる程きれいになります。 なお、型式承認を取得していないゲル化剤の海面での使用は禁止されています。 ① 水中のA重油に粉末ゲル化剤を撒きます。 − 理論上は流出油の重量比16%のゲル化剤 で凝固します。 ② 軽く表面を撹拌するとA重油は凝固します。 − 温度が10度位以下になると凝固率が低 下します。 ③ ④ 凝固した油を目の細かい網で掬い揚げます。 水は透明になり濃度も15ppm以下になる ので海洋汚染防止法上も海に排出が可能です。 4.C重油の回収 C重油などの重質油には絡めてとる方法が有効です。 伊豆大島の自動車運搬船の事故や帆船海王丸の事故等での油回収に最近よく利用され ている資材に油回収ネット(P7、38参照)があります。この油回収ネットは長尺型油 吸着マットを4mmメッシュのネットでくるんだもので、油をマットで吸着し、ネットに 付着させるものです。油吸着マットを使用しているのでA重油も効率よく吸着します。 水面のC重油に油回収ネット(写真はミニチュア)を差し込むと瞬時に付着します。 − 水温が10℃前後まで下がると、油吸着マットはC重 油を殆ど吸着しなくなるので、油回収ネットの使用が効 果的です。 油吸着マットに浸透しない C 重油 突発的な事故などで資材が手近にない場合、高粘度油については古漁網を使って油を絡 め取ることができます。 港に放置された古漁網 10ミリメッシュ程度の漁網でC重油を引き寄せ回収する。 吹流し型(P8、37参照;極細タイプ)の油吸着材は油回収ネットと同様にA重油から C重油まで広く対応します。 また、軽いので流速のある河川などにも有効です。 C 重油とA重油の混合したものを切断 した吹流し型吸着材で吸・付着する。 5.油処理剤(P28、29参照) 油処理剤は火災等による人命に危険が及ぶおそれがある場合や他の方法による処理 が非常に困難な場合を除き使用してはならないと定められており、いろいろな制約が課 されていますが、使い方によっては非常に有効です。 油の種類、状態に応じて使用する処理剤が決まっており、使用に当たっては、絶対に 水で薄めないこと、自己攪拌型(セルフミキシングタイプ)を除き散布後の攪拌が必要 なこと、大量に撒きすぎないこと等の注意が必要です。 型式承認を取得していない油処理剤の海面での使用は禁止されています。 油処理剤の有効な範囲は、油膜の厚さが0.004mm(くすんだ褐色)から1.1mm(黒 い茶色または黒色の油膜)です。 (1) 油処理剤の使用法 A重油の入ったビーカーに処理剤を噴霧(理論上は油の約20%)すると油は微粒 子状に分散します。 A重油と油処理剤との反応 (2)絶対にやってはならないこと 以下の様な流出油対応は、混乱している油濁事故現場でよく見受けられますが、誤った 手法ですので、絶対に行わないようにします。 ① 水を混ぜた処理剤の散布 − 処理剤が油より先に水と接触すると水と反応 して白濁し、処理効率が非常に低下します。 (海水等で希釈しない、また、ピックアップノズ ル〈放水銃〉による撒布は絶対行わないようにし ます。) ② 水面の油に処理剤をどぼどぼと入れること − 処理剤が表面の油膜を突き抜けて油膜の下の水と反応してしまいます。 (現場では散布器を使用し、柄杓等で撒かない。) 柄杓 散布器 少量 大量 油面 油面 油面 有効面積 油膜を突き抜けてしまいます ③ 処理剤と油吸着マットの併用 − 処理剤を散布すると油はマットに吸 着せず、吸着していた油も剥離します。 処理剤の入った水に油吸着後の油吸着マット を入れると吸着していた油が剥離します。 ④ 家庭用洗剤の使用 − A重油の入ったビーカーに家庭用洗剤を散 布すると微粒子状の分散状態にならず、固ま って沈降しいつまでも分解しないで底に滞留 します。 家庭用洗剤は、見た目には一瞬のうちに綺 麗になります。しかし、毒性が格段に強く(一 般に処理剤の100倍以上)、沈んでその場に 留まり汚染が継続しますので絶対に使用しな いで下さい。 水にA重油30ccを入れたメスシリンダーに油処理剤または洗剤を霧吹きで散布した実験 左から順に、 「油処理剤6cc(油の20%)を散布後攪拌した場合」 「家庭用洗剤を散布後攪拌した場合」 「油処理剤6cc(油の20%)と水の混合液を散布後攪拌した場合」 (実験で見やすくするため油送圧を大きくしています。) ⑤ 作動油等への使用 − 油圧機器用の作動油や、エンジンオイル、ギアオイルは内部に添加物が含まれてい るので、処理剤に反応しないものもあります。重油・原油以外の油流出には吸着マッ トなどを使用するようにします。 なお、食用油等は、原則として油吸着マット等で対応します。 参考2.油防除資機材一覧 油吸着マット 油吸着マットは水に浮かんだ油を吸着するための資材です。 一般的に①自重の10倍以上の油吸着力、②水に沈まない(比重が0.9程度) 、③水分 をほとんど吸わない、④燃焼しても有毒ガスを出さない 等の特徴があります。 油吸着マットの種類 素材 化学繊維 (ポリプロピレン) 天然素材 (綿、古紙、木等) 形状 ① シート型 長尺型油吸着マットを展張した内側にシート 型油吸着マットを投入しています。 65cm または50cm 四方に裁断した吸着材の基本形ともいえるものですが、回収もれ があると二次汚染を引き起こすおそれがあるので、オイルフェンス等で囲まれた中で使用す る等して全量回収が鉄則です。 ② 長尺型(帯状) 油の拡散防止や吸着回収に適しています。カッターで切ったり、マット同士を結ぶこ とにより必要な長さにして使うことができます。 ロール型 65cm×65m のものが一般に よく使用されます。 Z(ジグザク)型 つづら折りに折り畳んでいるの で風の影響を受けにくくなってい ます。 ③ 万国旗型 シート型を連続的につないだもので展張 と回収が容易ですが風に吹かれると連結 部から油が漏れるおそれがあります。 吹流し(ボンボン)型 ① 極細タイプ 軽量で広い範囲の粘度の油に対応。隙間からの油漏れが少ないので流れのあるとこ ろでも使用できます。 ② 幅広タイプ 高粘度の油、特にムース化した油に有効で大量の油回収ができます。 油回収ネット 油回収ネットは、4mm 角のポリエチレン網に油吸着マットを詰めたもので、高粘度 から低粘度の油の回収ができます。また、浮力が大きく大量の油を捕捉できます。 2ノット程度の流れや曳航でも油を逃がしません。容積が小さく重量も軽いので取り扱 いやすく、油回収後の焼却が簡単です。 オイルフェンス 固形式オイルフェンス 充気式オイルフェンス オイルフェンスは一時的に油の拡散を防ぎ、回収するために使用されるもので、展張方法 には誘導、包囲、待ち受け等があります。 展張上の注意 ① 十分にアンカー(アンカーロープ、ブイを含む)を取り付ける ② まっすぐねじれないように展張する ③ 荒天前に撤去する オイルフェンスの種類 大きさ 湾内用 外洋用 構造 固形式 充気式 ついたて式 A 型 海面上20cm 以上、海面下30cm 以上 B型 海面上30cm 以上、海面下40cm 以上 C型 海面上45cm、海面下60∼70cm D型 海面上60∼80cm、海面下80∼90cm 浮体に発泡スチロールを使用、充気式に比べて容積が数倍に なる。 運搬が容易だが破損すると浮力を失う。 固形式に比べて容積が小さいが風の影響を受けやすい。 油回収枠 柄杓 油混じりの水を枠内に汲み入れて、油膜を厚くして回収する器具です。汲み入れは柄杓、 ポンプの他、 前面に開口部を入れた回収枠の両端にオイルフェンスや油回収ネットをV字型 に展帳し風潮流等を利用してて導入する方法があります。 エンドレスロープ 防波堤入り口等を連絡して長尺型油吸着マット等を簡単に開閉したり張り替えたりする ための器具です。(参考4参照) シースイーパー 吸着材、ゴミ等海上浮遊物を短時間にしかも広範囲にわたって回収する器具です。 曳船 フロート 回収袋 漁網 油 参考3.運河や港口の封鎖装置(スライディングジョイント)について 流出油の襲来や拡散を防ぐためには、迅速に油回収ネットや長尺型油吸着マットを展張し て封鎖することが重要ですが、これらを非常に簡単に展張するための装置がスライディング ジョイントです。 特に運河等に設置された油取扱施設等の両側に設置すると万一の場合に有効です。 スライディング ジョイント 流出油 油吸着マット等 流出油の拡散防止を目的とした運河等の封鎖 1.スライディングジョイントとは スライディングジョイントとは、 油回収ネット等を簡単に装着するため両側岸壁等に設置 する装置をいいます。干満等水位変化に追随し、油回収ネット等を岸壁等に密着させること ができるので非常に有効なものです。ステンレス製のH型鋼で作製します。 スライディングジョイント フロート 油回収ネット 高潮時 低潮時 水位変化に追随する油回収ネット 吊揚用ロープ 固縛用ロープ H 型鋼 固縛用ロープで 油吸着マット等を固縛する (材質は全てステンレス) 油吸着マットや油回収ネット等を使用する際のフロートとH型鋼 2.固定式 岸壁等にボルトで固定するか、海底に打ち込んで設置します。設置する場合は港湾や漁 港の管理者の許可を要します。 ボルト止め 低潮面 スライディングジョイントの岸壁への恒久的設置方法 恒久的に設置する場合は岸壁の垂直面にボルト止めします。 溶接 H型鋼 75H (ステンレス) L型鋼(亜鉛メッキ) (50×50×5mm) 500mm ボルト 止め 岸壁に敷いた亜鉛メッキ鉄板 溶接 400mm 300mm 溶接 岸壁にボルト止め(ステンレス) 簡易固定式スライディングジョイントの岸壁への一時的設置方法 岸壁へのボルト止めなので着脱が簡単です。 岸壁への固定法 ① ホールインアンカーの直径と同じ直径の穴をドリルで開けます。 ② ホールインアンカーを差し込みます。 ③ ホールインアンカーの頭部をたたき込みます。下部が開いて固定されます。 ④ 付属のナット、ワッシャーで固定します。 * 前頁の岸壁の垂直面に固定する場合も同様の方法でホールインアンカーを使用します。 ホールインアンカー ① ナット ② ③ ④ ワッシャー 岸壁 ドリルで開けた穴 4つに分かれて いる下部が開い て固定されます。 3.可搬式 鋼矢板岸壁等コーピング(鋼矢板を打ち並べて作る護岸、岸壁、堤防において、鋼矢板 の頭部を包み込んで打設したコンクリート)により、下部に段差がある場合は、必要な時 だけ敷設できる可搬式が便利です。なお、長さが4m以上の場合は下図のように2本の H 型鋼をボルトで止めて連結します。 高さを調節する ボルト止め 岸壁側 海側 岸壁側 海側 穴 ボルト止め 溶接 ボルト止め 穴 (材質は全てステンレス) 可搬式スライディングジョイントの仕組みと連結方法 4.スライディングジョイントを使った油防除資機材(油回収ネット等)の展張方法 スライディングジョイントを使った油防除資機材の展張方法 油回収ネットや長尺型油吸着マットを展張する場合には、 船やリーディングロープで対岸 に渡します。 スライドさせます 吊揚用ロープ H 型鋼 フロート この固縛用ロープに油吸着 マット等を固縛します 設置した可搬式スライディングジョイントのH型鋼にフロートをスライドさせ海面に降 ろした様子。 このフロートに付いた固縛用ロープに長尺型油吸着マット等を取り付け上図の ように展張します。 280mm 参考4.エンドレスロープ及び 格納リール作製要領 100mm 一般に使用されているFRP製電気溶接棒巻取り リール(直径 約280mm×幅 約116mm)を2 個使用。(右図) *鉄工所または造船所等で入手可能 135mm 40mm 格納リールの作製 ① 金鋸で切り込みを入れ、サンダーを用いて滑 らかに仕上げる。 232mm 16 mm 8mm 100mm 100mm ② リールを 2 個合わせて 4 点でビス止めする。 竹棒または 塩ビ管 ③ エンドレスロープ展張時の回転軸として竹棒ま たは塩ビ管等を差し込む。また、リールが移動し ないよう手元側のみ「つば」をつける。 つば エンドレスロープの作製 アイスプライスを入れた 6mm ロープを図のように 4 箇所で滑車 (SUS 30mm シーブ、スイブル付)に通してエンドレスの状態を作り 滑車の先に木丸棒(直径 約 25mm)を取り付ける。 エンドレスロープの 格納 エンドレスロープの展張 油回収ネット (1 本 10m) エンドレスロープは格納リールに巻取り、 木丸棒を切込みにはめ、この状態で保管する。 両端の木丸棒にロープをつけ、これを引っ張って エンドレスロープを展張する。 6mm ロープ (約 2m) フロート カラビナ 参考5.油濁事故・賠償請求のための初期対応について 目 次 1.相手船についての情報収集 2.相手船関係者についての情報収集 3.現認書の取付け・資料の保存 4.弁護士の起用の検討 5.保証状(LETTER OF GUARANTEE) 6.相手船サーベーヤーへの対応 7.損害額の取り纏め 8.請求書の送付 9.示談交渉 10.示談協定書の作成 11.示談金の受領 資料5−1.現認書 資料5−2.英文現認書(CONFIRMATION) 資料5−3.英文保証状(LETTER OF GUARANTEE) 油濁事故・賠償請求の為の初期対応について 「港に停泊中の船舶から重油が流出した。」このような緊急事態が発生したとき、どう対 応したらよいのか。相手船とはどう折衝したらよいのか。 相手船が地元の漁船であれば、加入している漁船保険組合(全国の49箇所に漁船保険組 合があります。)が対応することになりますが、その他の船舶、特に外国船で船主の特定が できないような場合にはとまどうことになります。 今回、(財)漁場油濁被害救済基金から、油濁事故が発生した場合の初期対応について執 筆するよう依頼を受けました。私は、現在、漁船保険中央会・賠償審査部に所属しておりま して、漁船P&I保険の再保険審査業務を主に担当しています。このため、商船・外国船舶 との衝突事故に関して、 損害保険会社やP&Ⅰクラブ側と数多く賠償交渉を重ねてきました。 本文は、そのような経験に基づいて、油濁損害事故が発生した場合に、漁業協同組合が初期 において対応すべき適切な措置について取り纏めたものでありますことを、ご了承願います。 1.相手船についての情報収集 相手船に関する情報をできるだけ多く収集することが、後々の交渉の重要なポイント となります。このため、油濁事故が発生した場合、漁業協同組合は、速やかに漁連へ事 故状況等を連絡することが必要です。また、海上保安部への通報も忘れてはなりません。 相手船から船舶国籍証書(写)を取付けると共に、漁連、保安部を通じて相手船に関す る情報の収集に努めるべきです。 万一、それができない場合には、少なくとも相手船につき、次の情報は早急に収集す る必要があります。 ① 船名(外国船の場合には、正確なスペル) ② 船籍港 ③ トン数 ④ 船種(貨物船、タンカー、コンテナ船等) これらの情報を基に、大抵の船舶は漁船保険中央会において、ロイズレジスター (Register of Ships, Lloyd’s Registers)により、その詳細が分かります。最寄りの漁 船保険組合を通じて漁船保険中央会・賠償審査部に照会戴ければ、調べることができま す。 上記レジスターに載っていない船舶や載っていても船主の住所・連絡先が不明の船舶 については、関係先とも協議の上、専門の弁護士に相談することをお勧めします。 2.相手船関係者についての情報収集 相手船船主及び保険関係についても、知っておく必要があります。 ① 船主(住所、電話番号、FAX番号) 船籍がパナマとかリベリアのようなときは、便宜置籍船でありますから、実質的な 所有者が日本にある場合が多いことも覚えておいて下さい。 外国船との衝突事故の場合、レジスターには加入保険会社のデータは載っていない ので、漁船保険では、速やかに相手船主宛FAXにて「加入保険会社名、保険内容及 び保証状発行(後記5参照)の可否」を知らせるよう連絡しています。 大部分のケースでは、保険会社から「保証状を発行するので、本船の差押をしない でほしい。円満に話合いで解決したい。」旨の回答があります。油濁損害に係る賠償責 任は、当然のことながら、法律上は加害者たる相手船主が負う訳ですが、実際は、加 入保険会社が対応することになります(保険会社から依頼を受けたサーベーヤーの場 合もあります)。従って、以後の賠償交渉は、回答のあった当該保険会社との間で行う ことになります。 ② 保険会社、保険代理店(住所、電話番号、FAX 番号) 船主の油濁賠償責任をカバーする保険は、P&I保険と云われる保険であります。 その主な保険会社(P&Ⅰクラブと呼ばれる。 )は、次の通りです。 英国のP&Ⅰクラブ ブリタニア、ロンドン、ノースオブイングランド シップオーナーズ、スタンダード、スチィームシップ ユーケイ、ウエストオブイングランド ノルウェー ガード、スクルド 日本 日本船主責任相互保険組合(ジャパン・ピーアイ) 外国のP&Ⅰクラブの場合、日本(東京・神戸)に保険代理店を設置しているとこ ろもあります。 なお、最近、損害保険会社の中には、P&I保険の引受を行う会社もでてきました し、韓国においてもP&Ⅰクラブが創設されたとのことであります。勿論、漁船保険 組合においては、漁船に係るP&I保険の引受を行っており、全国で22万隻余の加 入を戴いております。 3.現認書の取付け・資料の保存 ① 相手船の加入しているP&Ⅰクラブ等から何も連絡が無い場合に、取敢えず現場で すべきことは、相手船の船長から現認書を取付けることです。船長は、船籍港外にお いては、船主を代理する権限を有しております(商法第713条参照)。相手船の責任 に具体的に言及した現認書を参考までに別掲します(資料5−1、2)。 当該現認書は、 「油濁事故発生の確認」及び「事故の責任が加害船舶にあることの確 約」をさせるものですが、その場で後者について認めさせるのは困難を伴いますので、 事故発生の事実確認だけでもさせることができれば満足すべきです。 ② 現場の写真、ビデオ等を撮ることや事故状況のスケッチ等を心掛けて下さい。この場 合、撮影日時・撮影場所・撮影者を記録しておくべきです。 事故発生当初から事故に関する資料は、全て保存しておく必要があります。いうま でもありませんが、人間の記憶は時間の経過と共に薄れてしまいます。事故当初に、 はっきりした記憶があったのに、これが散逸してしまうのは自然の理であるからです。 油防除に出動した漁船数・人数及び被害の程度・数量等を具体的に記録しておいて下 さい。 4.弁護士の起用の検討 ① 油の流出量が膨大な場合であって、重大な損害(防除費用・海産物損害)を伴うと き、相手船にP&I保険の裏付けのないときなどには、弁護士の起用を検討します。 ② 特に、相手船がP&I保険未加入船の場合で二度と日本に入港することの無いよう な船舶のときには、弁護士を起用し、相手船の差押を早急に検討すべきであります。 そうしないと賠償金の回収がはかれないケースもでてきます。 なお、差押に関して付言すると、船舶の運航に伴って生ずる債権には、船舶先取特 権が付与されております(船舶の所有者等の責任の制限に関する法律第95条、油濁 損害に基づく債権については油濁損害賠償保障法第40条参照。)。先取特権者は、当 該船舶が現存している限り、その換価金につき優先弁済権を持ち、競売の申立をする ことができます。但し、この先取特権は、事故発生後 1 年を経過したときには消滅し ますので、注意が必要です。 ③ 油濁損害を惹起した外国船舶の船齢が古くて船の価値が無い場合や当該船舶が座 礁又は沈没した場合などは、相手船舶を差押さえたくとも、それができない悲惨な結 果となります。又相手船主が当該座礁船舶の所有権を放棄するというような強硬手段 に出てくることもあります。そのような場合には、防除費用・海産物損害の回収の他 に、「船骸撤去」(所謂放置艇の問題)についても頭を悩ませられることになります。 何れの場合にあっても、専門家の手をかりて時間をかけて粘り強く交渉を続けるこ とを覚悟せざるを得ません。 ④ 実務上、相手船舶を差押さえても、競売まで手続が進むケースはほとんどありませ ん。差押の目的は、あくまで相手船舶側から保証状を取付けることにあることを知っ ておいて下さい。 5.保証状(LETTER OF GUARANTEE)の取付け ① 相手船側が外国船の場合には、賠償を確実にするためにP&Ⅰクラブが発行する保 証状を取付けるのが一般的であります(資料5−3)。保証状は、加害船主に代わって P&Ⅰクラブが賠償金の支払いを保証するものであり、その他、管轄裁判所、保証金 額(保証の限度額であって、支払額で無いことに注意下さい。)、責任制限・防衛権の 留保等々について記載されています。万一、P&Ⅰクラブからの保証状が取付けられ ない場合には、銀行の保証状を要求することになります。 ② 被害者の数が多く、損害額の取り纏めに日数を要する場合には、相手船主によって は回収できない事態も考えられるので、P&Ⅰクラブなどに賠償請求できるようにす るわけです。 6.相手船サーベーヤーへの対応 ① 事故後、サーベーヤー、弁護士、P&Ⅰクラブの担当者など様々な人間が事故に関 する調査の為、来訪することがあります。これらの人と面談する前に、その者が事故 とどのような関係にあるか、来訪の目的は何か、はっきり確認しておかねばなりませ ん。相手方の身元を名刺などで確認すべきであります。 ② サーベーヤーは、P&Ⅰクラブの依頼を受け、油流失現場に赴き、事実確認、損害 の調査・鑑定、乗組員からの事情聴取などを行います。サーベーヤーは、加害船舶側 に立って油濁損害の算定をするものです。P&Ⅰクラブは、損害認定に当たってその 作成する鑑定書を重視しますので、サーベーヤーとはいたずらに敵対すること無く、 資料の提供をすることが肝要であります。 ③ 又サーベーヤーに対しては、損害の説明を具体的に充分時間をかけて行うようにし ます。損害額が確定するまでは、安易に数字を出すのは避けるべきです。まして損害 を過少に申告することは絶対に避けるべきであります。 又、サーベーヤーは何時から何を調査したのか、何の資料を提出したのか、必ず記 録しておく必要があります。 7.損害額の取り纏め 出来れば交渉窓口を一本化し、交渉担当者が損害の取り纏めを行います。その際、状 況に応じてサーベーヤーと適宜連絡を行い、情報交換することも必要です。 8.請求書の送付 損害額の取り纏めが完了したら、速やかに相手船側へ請求書を送付します。 なお、損害賠償請求権の時効は、3年であります(民法第724条、油濁損害賠償保 障法第10条参照)。因みに、船舶間衝突によって発生した債権は、1年の短期時効にか かります。 9.示談交渉 損害額について示談交渉を進めます。 10.示談協定書の作成 示談交渉の結果、当事者間で合意した内容を文書化します。示談協定書には次の項 目を盛り込む必要があります。 ・当事者の表示 ・事故の特定 ・示談条件(損害の種別・賠償金額・支払条件) ・請求権放棄条項、債権債務消滅条項 11.示談金の受領 支払条件に従って、示談金の入金があります。 (漁船保険中央会賠償審査部の小川卓視氏による記事です。) 資料5−1 現認書 ○○○漁業協同組合及び組合員 殿 200×年 12 月 5 日、○○○市○○港に停泊中のXXX号が燃料油を流出させ たことを現認し、今回発生した事故に関するあらゆる損害及び経費の補償に応 ずることを確約します。 200×年 12 月 日 XXX号 船主 船長 資料5−2 CONFIRMATION TO: ○○○ Fisheries Cooperative Association and members We ,on behalf of the owners of the “ XXXXX”, hereby confirm and acknowledge that the “XXXXX“ spilt the fuel oil at the berth in ○○ Port, ○○○ City on December 5, 200×. We, on behalf of the owners of the “XXXXX”, further confirm and undertake that the owners of the “ XXXXX” are fully responsible for any loss and damage sustained by you and/or your members . December By , 200× 資料5−3 Date TO: ○○○ Fisheries Cooperative Association and Members LETTER OF GUARANTEE In consideration of your refraining from arresting or otherwise detaining the "XXX " or any other vessel or property belonging to her Owners or Charterers or Managers of the “ XXX ” in connection with your claims for loss and damage including interest and costs arising out of the oil pollution which took place on (事故月日) at (場 所) , we, The(P&I クラブ) , on behalf of(船主) . Ltd., the Owners of the "XXX ", hereby agree that the question of liability and assessment of loss and damage shall be submitted to the jurisdiction of the Tokyo District Court; and, also, we hereby guarantee to pay to you on behalf of the Owners of the "XXX ", any sum or sums which may be agreed to by amicable settlement between the said parties or which may be awarded as a final conclusive judgement by the above court or by the Appellate Court or courts if an appeal or appeals is or are taken, to be due and payable to you from the Owners of the " XXX " in respect of the above mentioned claims provided however that the total liability under this guarantee shall not exceed the sum of Japanese Yen (保証金額).- or the amount to which the "XXX " and her Owners or Managers may be found to be entitled to limit its or their liability in respect of your claims as mentioned above under and in accordance with Japanese Law, whichever shall be the lesser. We further warrant that the "XXX " was solely owned by (船主). Ltd., and was not under bare boat charter by any party at the time of the accident and that if the “ XXX ” was time chartered to any party, the said Owners will not raise a defense that not the Owners of the " XXX " but the Time-Charters thereof at the time of the accident should be liable by virtue of the Japanese Commercial Code, Article 704. We ,on behalf of the Owners of the "XXX ", further undertake if and when called upon to do so to irrevocably appoint a Japanese attorney at law in Tokyo, within 14 days upon notice and to have him advise the court of his appointment to accept service of any proceeding issued on your behalf out of the said court or courts. We on behalf of the Owners of the "XXX ", further undertake if and when called upon to do so to notify you of the address of the Owners of the "XXX ", together with the full names of its representative director within 14 days upon notice and further to furnish you with a certified company registry of the Owners of the "XXX ". This Letter of Guarantee is wholly without prejudice to the defense and rights available to the Owners of the "XXX " in respect of the above mentioned accident including the right or rights to limit their liability under the Japanese Law and is not to be construed as any admission of liability. By (P&Iクラブ 代表者) 参考6.漁場油濁被害救済制度 1.漁業被害救済、防除・清掃事業 対象:原因者不明事故 内容:漁業被害救済金支給、防除・清掃費支弁 2.特定防除事業(平成19年3月31日までの時限措置) 対象:原因者判明事故 内容:防除・清掃費支弁(1事故1都道府県あたり1,500万円まで) 3.調査、知識の啓発普及、指導事業等 漁業被害救済、防除・清掃事業(原因者不明事故)の仕組み 補助・拠出等関係 国 被害申請、支払関係 審査・認定関係 (指定) 拠出 団体 防除事業資金補助 管理運営事業費補助 基金造成費補助 防除事業資金拠出 救済事業資金拠出 基金造成費拠出 検討結果報告 中央 審査会 油濁 基金 被害額等の諮問 現地調査 基礎資料収集 被害額等の検討 検討結果報告 地方 審査会 都道府県 防除事業資金負担 基金造成費拠出 基金造成費拠出 被害発生報告 被害申請 救済金の支給 防除費の支弁 漁協 被害漁業者 都道府県 漁 連 ○ 救済等の対象となる事故 原因者(賠償の責を負う者)が不明の油濁事故 漁業被害を受け、又は受けるおそれのある油濁事故 漁場油濁の拡大の防止及び汚染漁場の清掃を実施した油濁事故 ○ 救済等の対象 1.対象者 組合員資格を有する漁業者、漁協等 2.被害救済 生産物の被害(廃棄、品質低下、緊急処分等) 漁船、漁具、養殖施設の被害(残存価格) 休漁被害 漁業種類や漁場の変更による被害 3.防除、清掃費の支弁 油の漁場流入の防止(資材費、作業費) 浮遊油、漂着油の除去(資材費、作業費) 漁具、養殖施設等の避難 4.救済等の対象にならないもの 漁場油濁でない油濁(レクレーション目的、環境美化運動等) 漁協の行う会議等の費用、常勤役職員の出張費等 被害金額が50万円以下の場合の救済(防除、清掃には下限規定なし) 5.その他 申請書の提出は油濁事故発生後原則として60日以内 ○ 拠出団体 * 船舶(漁船を含む)関係団体等 (社)日本船主協会、日本内航海運組合総連合会、(社)日本旅客船協会、日本財団、 (社)大日本水産会 * 陸上施設に係る事業関係団体等 石油連盟、電気事業連合会、(社)日本鉄鋼連盟、(社)日本経済団体連合会、(社) 日本電機工業会、(社)日本自動車工業会、(社)日本貿易会、(社)日本産業機械工 業会、石油化学工業協会、日本肥料アンモニア協会、日本化学繊維協会、(社)セメン ト協会、(社)日本ガス協会 特定防除事業の仕組み ○ 原資 (国からの補助金及び関係 都道府県からの負担金を積 み立てた)繰越防除清掃費助 成資金造成費のうち都道府 県分 ○ 特定防除事業の対象と なる事故 原因者が判明しているが、 原因者による防除措置及び 清掃作業が行われない油濁 事故であって漁業者等がや むを得ず防除措置及び清掃 作業を実施した油濁事故 ○ 支弁等の対象 1.対象者 組合員資格を有する漁業 者、漁協等 2.防除、清掃費の支弁 油の漁場流入の防止(資材 費、作業費) 浮遊油、漂着油の除去(資 材費、作業費) 漁具、養殖施設等の避難 3.支弁等の対象にならないもの 緊急時以外の油の抜き取り 漁場油濁でない油濁(レクレーション目的、環境美化運動等) 漁協の行う会議等の費用、常勤役職員の出張費等 4.その他 支弁の額は、1事故1都道府県当たり1,500万円を限度 申請書の提出は油濁事故発生後原則として180日以内 参考7.海上防災事業者・防除資機材紹介(平成17年12月 調査) 目 次 (1) 海上防災事業者名簿 (2) 防除資機材製造販売事業者名簿 (3) 防除資機材リスト ① ② ③ ④ ⑤ 油吸着材 油ゲル化剤 油処理剤 オイルフェンス その他