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プローブパーソンデータによる経路選択モデルのパラメータ推定
プローブパーソンデータによる経路選択モデルのパラメータ推定* 中西雅一**,羽藤 英二*** By Masakazu NAKANISHI, and Eiji HATO, 1.はじめに 表2 調査概要 2003 年 1 月 29 日(水)~2 月 28 日(金)の 31 日 間 松山都市圏域 調査地域 (松山市とその周辺の 2 市4町) 会社員 (男性) 41 (38) 人 会社員 (女性) 9 (9) 人 自営業 (男性) 8 (4) 人 自営業 (女性) 2 (2) 人 主婦 (女性) 25 (12) 人 被験者 学生 (男性) 1 (1) 人 学生 (女性) 1 (0) 人 無職 (男性) 2 (2) 人 無職 (女性) 6 (5) 人 計 95 (74) 人 調査期間 交通現象の分析には実際の交通データが重要であ る.従来は出発時刻や利用交通機関などの基礎的な トリップ特性把握のためにパーソントリップ調査や 道路交通センサス調査が用いられてきた.これらの 調査は道路整備計画など,ある程度長期の交通計画 を目的としたものである.一方,交通需要マネジメ ントや交通情報提供などのような動的な交通施策の 評価のためには,時間単位で変化する個人の交通行 動をより正確かつ詳細に測定したデータが必要であ ※ 括弧内は経路データが得られた被験者数 る. パーソントリップなどのアンケート調査では,被 2.データについて 験者の回答の負担を招くため,継続的な調査はでき ない.精度は,プローブ調査と比較して,被験者の 思い込みによる誤差などが生じるため,安定した質 を保てない. 本研究で使用する経路データは,「GPSを用い た交通行動の把握に関する松山プローブパーソン調 査(MPP 調査)」で得られたデータを基に作成され 経路に関する意思決定を取り扱う交通シミュレー ションでは,プローブ調査により安定した質の高い データを長期観測する必要がある.状況に応じてプ ローブデータを自動的に解析して交通シミュレーシ ョンに結合させるには,パラメータの自動推定が必 要不可欠である. 本研究では,松山都市圏でのプローブ調査で観測 された経路データを用いて,経路選択におけるパラ メータの推定方法を検討する. ている.表 2 に概要を示す. MPP 調査は,2 種類に大別できる.トラッキン グ・ダイアリー調査は,GPS 端末を介して被験者の 位置情報を 2 分間隔,もしくは被験者が施設に立ち 寄るたびに取得する.経路・立ち寄り場所調査は, 調査票に,移動経路と立ち寄り施設とその順番を記 入してもらう.これら 2 種類の調査から得られたデ ータ及び図 2 に示す松山道路ネットワークを用いて マップマッチングを行った.得られた経路データは, 1470 サンプル(被験者 74 人)である. *キーワーズ:プローブ,経路選択,パラメータ **学生員 愛媛大学大学院博士前期過程 環境建設工学専攻 (〒790-8577 松山市文京町3 Tel089(927)9829,[email protected]) ***正会員 工博 愛媛大学工学部 (〒790-8577 松山市文京町3 Tel089(927)9829,[email protected]) 松山道路ネットワークは,各リンクの幹線性を示 す幹線レベルを属性として有している.高速道路を レベル1,国道及び環状線をレベル2,県道をレベ ル3,市町村道をレベル4と定義している.本来, 車線数や幅員によって指標化することが望ましい. しかし,ネットワーク上に存在する全道路の車線数 ac19 1~5 6~10 11~15 16~20 21~25 26~ 3km リンクレベル1(高速道路) リンクレベル3(県道) 図2 3km リンクレベル2(国道・環状線) リンクレベル4(市町村道) 松山道路ネットワーク 図3‐1‐1 個人道路ネットワーク(ac19) や幅員等のデータの入手は困難であったため,上記 のように指標を定義した. なお,学生と無職(男性)は,サンプル数が少な いため,今後の分析対象から除外する. 3.経路選択肢集合の生成について 会社員(女) 22.1 49.7 28.2 自営業(男) 18.1 57.2 24.7 自営業(女) 17.4 43.5 39.1 主婦 21.7 48.0 30.3 無職(女) 17.5 47.9 34.7 会社員(男) 29.5 51.1 19.4 全体 31.4 49.6 19.0 (1)個人ネットワークの作成 被験者毎に,調査期間中に通過したリンクのみで 0% 構成される個人道路ネットワークを作成した.例を 20% 幹線レベル2 40% 60% 幹線レベル3 80% 100% 幹線レベル4 図 3-1-1 に示す.また,男女職業属性別の個人ネッ トワークの幹線レベル構成割合を図 3-1-2 に示す. (2)経路選択肢集合の生成方法 実際に選択した経路を Path1 とし,Screening 法 図3‐1‐2 幹線レベル構成割合(個人ネットワーク) 自身の個人ネットワークを用いて,経路選択肢集合 を生成させる. (k番目最短経路探索)で最短経路の 1.5 倍以下の 距離を満たす経路を,距離が小さい順に最大で 100 経路列挙する.列挙された経路に対して,Path1 を 基準とした経路重複率を算出し,経路重複率が0% (3)経路選択肢集合の分析 男女職業属性別の経路選択肢の幹線レベル構成割 合を図 3-2 に示す. に最も近い経路を Path2,50%に最も近い経路を Path1 では,会社員(男性)と自営業(男性)の Path3 とする.以上の方法で生成された 3 経路を経 幹線レベル4の占有率は 20%を超えている.これは, 路選択肢集合とする. 女性と比較して,男性が幹線性の低い道路を走行す 本研究では,Screening 法の対象となる道路ネッ トワークについて, る傾向があると考えられる.自営業(女性)と主婦 は幹線レベル3の占有率が高く,50%を超えている. ① 松山道路ネットワーク 一方で,幹線レベル2の占有率は低く 30%前後であ ② 個人道路ネットワーク+幹線レベル2 る. の 2 パターンを用いた.パターン②では,個人毎に 無職(女) 32.3 主婦 30.9 自営業(女) 53.7 54.7 27.0 10.5 主婦 48.9 43.0 7.9 16.1 自営業(女) 48.0 42.2 9.6 44.2 自営業(男) 48.1 会社員(女) 17.0 42.8 37.3 会社員(女) 26.9 13.9 21.8 45.5 32.7 自営業(男) 62.2 無職(女) 18.8 45.8 41.8 13.9 35.4 16.1 会社員(男) 32.7 44.4 21.1 会社員(男) 51.5 34.6 13.6 全体 32.9 46.1 19.3 全体 50.7 36.4 12.6 0% 20% 幹線レベル2 図3‐2‐1 40% 60% 幹線レベル3 39.5 36.3 自営業(女) 45.8 20% 40% 幹線レベル2 幹線レベル4 39.4 41.8 主婦 0% 100% 幹線レベル構成割合(Path1) 38.5 無職(女) 80% 図3‐2‐4 60% 幹線レベル3 80% 100% 幹線レベル4 幹線レベル構成割合(Path2-②) 49.1 21.6 無職(女) 18.9 主婦 39.3 17.7 自営業(女) 38.2 38.1 34.3 15.9 48.9 11.6 46.7 14.8 自営業(男) 33.8 42.5 23.9 自営業(男) 会社員(女) 35.5 40.7 23.6 会社員(女) 46.0 会社員(男) 33.2 44.5 22.5 会社員(男) 43.9 38.9 16.9 全体 35.1 42.9 22.2 全体 43.2 40.8 15.7 0% 20% 幹線レベル2 図3‐2‐2 40% 60% 幹線レベル3 80% 100% 0% 幹線レベル4 20% 41.8 39.7 40% 幹線レベル2 幹線レベル構成割合(Path2-①) 図3‐2‐5 20.1 60% 幹線レベル3 13.7 80% 100% 幹線レベル4 幹線レベル構成割合(Path3-②) Path2‐①では,会社員(男性)以外の幹線レベ 39.3 無職(女) 37.0 ル3の占有率が減少している.また,自営業(女性) 23.2 主婦 30.0 53.2 16.6 と主婦は,幹線レベル2の占有率が 10%前後増加し 自営業(女) 32.7 47.9 19.1 ている. 28.9 自営業(男) 42.6 会社員(女) 38.4 会社員(男) 36.7 全体 35.4 0% 20% 幹線レベル2 20.1 幹線レベル2の占有率は,約5%~30%増加してい 41.3 21.8 る.特に,Path2 の幹線レベル2の占有率は約 50% 43.1 21.3 41.0 40% Path2‐②,Path3‐②では,Path1 と比較して 28.8 60% 幹線レベル3 80% 前後まで増加している. 100% 幹線レベル4 4. 経路選択モデル 本研究では,3項のロジットモデルを経路選択モ 図3‐2‐3 幹線レベル構成割合(Path3-①) デルとする.説明変数は,距離(㎞)とトリップ長 に占める幹線レベル2の比率の2変数を用いた.推 定結果を表 4 に示す. 表4-1-1 距離(㎞) レベル2比率 サンプル数 2の比率の増加は,道路の視認性や走行性を向上さ 経路選択モデルの推定結果 パターン① パターン② 全体 全体 1.588 0.975 (20.044) (20.313) 0.753 -2.836 (3.041) (-11.102) 1470 1470 せる要因であると考えられる.したがって,幹線レ ベル2の比率の増加は効用を増加させるので,レベ ル2比率のパラメータの符号は正となるはずである. 符合が合致しないのは,選択肢集合を生成させる際 に,幹線レベル2のリンクを個人ネットワークに付 加しているため,Path2,3 の幹線レベル2の比率が 括弧内は t 値 Path1 と比較して相対的に高くなったことが要因と 表4‐1‐2 距離(㎞) レベル2比率 サンプル数 して挙げられる. 経路選択モデルの推定結果 パターン② パターン① パターン② 会社員(男) 会社員(男) 会社員(女) 会社員(女) 1.950 0.971 0.845 1.074 (14.331) (15.394) (6.760) (6.476) くなっている.Path2,3 の距離が平均で 0.4 ㎞~1.5 1.565 -2.931 0.025 -3.194 ㎞ 程 度パ ター ン ②の 方が 長 く, 選択 経 路で ある (-8.511) (0.044) (-4.360) 856 856 154 154 Path1 が最短経路である割合が平均で約7%増加し 表4‐1‐3 レベル2比率 サンプル数 会社員(女性)を除いて,パターン②のほうが小さ (4.009) 括弧内は t 値 距離(㎞) パターン①と②を比較して,距離のパラメータは パターン① ていることが要因として挙げられる. 5.まとめ 経路選択モデルの推定結果 パターン① パターン② パターン① パターン② 本研究では,プローブ調査から得られた経路デー 自営業(男) 自営業(男) 自営業(女) 自営業(女) 1.671 0.825 1.666 1.066 タを用いて,選択経路の分析及び経路選択モデルの (5.466) (5.576) (3.592) (3.839) パラメータ推定を行なった.その結果以下のことが 0.619 -2.270 -0.246 -2.484 明らかになった. (0.792) (-2.799) (-0.149) (-1.924) 96 96 51 51 括弧内は t 値 ① 男性は,女性と比較して,幹線性の低い道路 を走行する傾向があると考えられる. ② 個人ネットワークを用いることは,経路選択 表4‐1‐4 距離(㎞) レベル2比率 サンプル数 肢集合を生成する際に有効である. 経路選択モデルの推定結果 パターン① パターン② パターン① パターン② 今後の課題としては,経路選択肢集合の生成アル 主婦 主婦 無職(女) 無職(女) 1.465 1.010 2.026 0.753 ゴリズムの改良,右左折数や交差点形状などの説明 (7.297) (7.188) (4.277) (4.307) 変数を組み込んだ正確な経路選択モデルの構築,プ -0.559 -2.724 2.391 -3.436 ローブデータを自動的に解析して,パラメータの自 (-0.924) (-3.458) (1.601) (-2.817) 197 197 84 84 動推定を行なうツールの実装などが挙げられる. 括弧内は t 値 パターン①では,男女職業の区別に関わらず距離 のパラメータが全て正である.通常は,距離の増加 は効用を低下させるので,距離のパラメータの符号 は負となる.符合が合致しないのは,3経路選択肢 中で,選択経路である Path1 が最短経路である割合 が各々のサンプル数に対して約6%~21%でしかな いことが影響していると考えられる. パターン②では,男女職業の区別に関わらず幹線 レベル2比率のパラメータが負である.幹線レベル 参考文献 1) 土木計画学研究委員会:非集計行動モデルの 理論と実際,土木学会,1995.