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はじめに - 愛媛県

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はじめに - 愛媛県
はじめに
本県の窯業を代表する砥部焼と菊間瓦は、数百年の歴史を有する伝
統産業であり、産地独自の魅力を活かした技法や技術により創作され
る陶磁器や粘土瓦は、消費者から広く愛され、我々の生活に潤いと豊
かさを与える、本県が誇る伝統的特産品であるとともに、地元の経済・
文化・観光の発展にも大きく寄与してきた。
しかしながら、近年、競争力の源泉となる産地技能の伝承や後継者
の確保が課題となっている一方、消費者ニーズの多様化やライフスタ
イルの変化、景気の低迷等により、両産地とも売上げの減少傾向が続
いており、他産地との競合激化も懸念されるなど産地を取り巻く環境
はますます厳しいものとなっている。
こうした状況のもと、両産地が将来にわたり持続的に発展するため、
原料の安定的供給や消費者の心を掴む新商品開発、産地を支える人材
育成、新たな流通ルートの開拓など産地が抱える課題解決に向けて、
本県窯業のモノづくり機能の高度化の拠点として窯業技術センターが
先導的役割を果たす必要があり、業界からも産地を支える拠点として
の機能強化が強く求められている。
窯業技術センターあり方検討委員会では、砥部焼や菊間瓦の振興を
図るため、築後 50 年以上が経過し老朽化・狭隘化が著しいセンターの
機能強化の方向性や地元との連携・役割分担等について検討を重ねて
きた。
本報告書は、今後、窯業技術センターの機能強化を図るに当たって
の指針として取りまとめたものである。
1
Ⅰ
本県窯業の現状と課題
1
本県窯業の概況
(1)本県を代表する伝統産業
<陶磁器産業(砥部焼)>
陶磁器産業は、その大部分が砥部町に集中。伝統工芸品である『砥
部焼』は約 240 年の歴史を有し、やや厚手の清らかな白磁に藍の呉
須染付が特徴。
「手造り・手描き」の味わいと実用的なデザインで暮
らしの器として広く受け入れられている。
平成 23 年工業統計等によると、
○事業所数
90 事業所
235 人
○従業者数
○製造品出荷額 約 7.7 億円
となっており、四国一の生産額を誇るが、
「多品種・少量生産」であ
るため、瀬戸・美濃・有田といった全国の一大産地と比較すると生
産額は高くない。
(昭和 51 年に国伝統的工芸品、昭和 55 年に県伝統的特産品※に指定)
<粘土瓦産業(菊間瓦)>
粘土瓦産業は、その大部分が今治市(旧菊間町)及び松山市(旧
北条市)に集中。
『菊間瓦』は 700 年余りの歴史を持つ伝統的特産品
の一つ。美しい光沢が魅力で、いぶし銀に輝くことから“いぶし瓦”
とも呼ばれ、住宅はもとより、日本建築を代表する神社仏閣にも多
数使用され、御用瓦として皇居にも納めている。
平成 23 年工業統計等によると、
○事業所数
31 事業所
○従業者数
101 人
○製造品出荷額 約 6.4 億円
となっており、粘土瓦全体では三大産地(三州、石州、淡路)で全
国生産額の約9割を占めるが、いぶし瓦の生産では、兵庫県、愛知
県、岐阜県に次いで第4位の産地となっている。
(昭和 55 年に県伝統的特産品※に指定)
※愛媛県伝統的特産品
県内で長い年月を越えて受け継がれた伝統的な技術・技法により製造され、愛媛の風土の中で育ま
れてきた郷土色豊かな伝統性のある工芸品・民芸品。大量生産される画一的な商品に比べて、生活に
豊かさと潤いを与えてくれるものであるとともに、地域に根差した地場産業として地域経済の発展に
寄与する大きな役割を果たしている。
2
(2)縮小する市場規模と厳しい経営環境
<市場規模>
日本陶磁器工業協同組合連合会及び全国陶器瓦工業組合連合会の
資料によると、
○全国陶磁器生産額
約 1,434 億円
(平成 24 年度)
○全国粘土瓦生産額
(平成 24 年度)
約 495 億円
となっており、それぞれ6年前の6割程度まで減少し、国内の市場
規模は急速に縮小。
その背景として、▽安価な海外製品への顧客シフト、▽一般家庭
における「中食」
「外食」の増加、▽住宅着工数の減少、▽家屋の洋
風化・小型化による生活様式の変化 が考えられる。
本県の「砥部焼」
「菊間瓦」も同様に、ピーク時からは、
○砥部焼生産額
▲61.5 % (昭和 63 年頃は約 20 億円)
▲84.0 % (平成2年頃は約 40 億円)
○菊間瓦生産額
と、著しく落ち込んでおり、両産地とも、その振興に向けた“力”
が試されている時期に置かれている。
<経営環境>
◆砥部焼
○窯元数は横ばい傾向であるが、製品出荷額が減少傾向のため、
窯元当たりの出荷額が激減しているものと推測され、零細化
が進行している。
○家内工業的規模の事業者がほとんどで、従業員数 10 名以上の
事業所は3社程度にとどまる。
○「手造り・手描き」による多品種/少量生産で、成形から焼
成までを一つの窯元で行っている。
◆菊間瓦
○菊間町窯業協同組合の組合員数は、ここ 20 年で約4分の1の
15 軒まで減少し、職人の担い手不足や高齢化が深刻である。
○従来の販売圏域に他産地が攻勢を仕掛けてくるなど厳しさが
増してきている。
○分業体制はなく、自社で全ての瓦を一貫生産し、施工も手掛
ける。
○製造以外にも販売施工も手掛ける事業者や屋根瓦以外の外装
タイルやインテリア用品などの新たな用途開発を積極的に行
う事業者が存在する一方で、休業状態の工場もあるなど、二
極化が顕在してきている。
3
<県内陶磁器製造業及び粘土瓦製造業の企業数・製造品出荷額等>
※数値は工業統計等を基にした窯業技術センター調べ
①
企業(窯元)数の推移
粘土瓦製造業
陶磁器製造業
②
製造品出荷額の推移
粘土瓦製造業
陶磁器製造業
③
従業者数の推移
粘土瓦製造業
陶磁器製造業
4
2
産地の取組みと新たな動き
(1)地方発から全国区のブランドへ
<産地ブランドの確立>
両産地とも、地場産業振興のために、産地ブランド確立に向けた
取組みを推進。
◆砥部焼
○砥部焼の魅力を発信する『砥部陶街道』(平成 17 年~)
砥部焼モニュメントの設置をはじめ、焼き物の歴史や文化に
触れる陶街道五十三次など町全体がアートに彩られた砥部焼
の里としてPR。
○砥部焼まつり(昭和 59 年~)
県内外から毎年 10 万人を超える砥部焼ファンを集客し、平成
19 年からは秋にも開催され、日本を代表する焼き物産地とし
て成熟。
◆菊間瓦
○地域団体商標『菊間瓦』取得(平成 19 年)
菊間町窯業協同組合、菊間瓦工業協同組合が更なる知名度向
上や販売促進に取り組む地域ブランド戦略の一環として推進
し、地場産業の競争力を強化。
※地域団体商標
地域の特産品等を他の地域のものと差別化を図るための地域ブランド作りが盛
んになっている中、
「地域名と商品名」からなる商標が地域ブランド育成の早い段
階で商標登録を受けられる制度。
○JAPANブランド育成支援事業(平成 20 年)
越智商工会が実施主体となり、産地組合や今治市等との連携
により、高級建築資材としての用途開発とともに、関連業界
とのネットワーク化を図り、世界的な瓦製品の生産とブラン
ド普及を図る『菊間瓦ブランド・いぶし銀プロジェクト』を
実施。
※JAPANブランド育成支援事業
経済産業省の補助事業で、地域が一丸となって、地域の伝統的な技術や素材な
どの資源を活かした製品等の価値・魅力を高め、
「日本」を表現しつつ、世界に通
用する「JAPANブランド」を実現していこうとする取組みを総合的に支援す
るもの。
5
(2)若手・女性作家による新たな潮流の創造
<伝統への新しい風>
伝統的手法を用いつつ、若手・女性の斬新な感性も取り入れた発
想豊かな商品開発。
◆砥部焼
○若手作家を招き入れる「窯業団地 陶里ヶ丘」が整備され、
花柄や子供向け食器など実用的な部分も残しながら、作家の
主張や個性を出した作品創作。
○女性作家グループ「とべりて」に代表される新たな砥部焼フ
ァンの獲得に向けて、女性ならではのアイデア商品の開発。
◆菊間瓦
○菊間瓦の可能性を広げるため、デザイン性の高いコースター
や置物などの工芸品や瓦の特性を活かした室内用タイルの製
作など本物の良さを身近に感じさせる新たな魅力の掘り起し。
○『鬼師』である女性職人が瓦の美しさを知ってもらえる活動
として、地元ゆるキャラ「バリィさん」の置物を製作するな
ど観光客等に人気。
(3)異業種とのコラボレーション
<新たな発想でのモノづくり>
異業種間での連携を基に、生活シーンに合った商品開発や消費者
を惹きつける商品提案を行い、手しごと製品の新たなジャンル展開
による実需の創出。
◆砥部焼
○絵柄やデザインを砥部出身建築家、製作を地元窯元、販売を
県産品販売企画会社が行うオリジナルブランド立ち上げ。
(2015 年度グッドデザイン賞受賞)
○砥部焼柄の媛ひのき食器や県産真珠をあしらったブローチな
ど県産品とのコラボレーションによる砥部焼の可能性を追求。
◆菊間瓦
○菊間瓦に桜井漆器で使われる金箔や蒔絵を施した花器、置物
やコースターといった芸術性の高い商品製作。
○バイクコラボプロジェクトと称し、桜井漆器の蒔絵を施した
フレームと、菊間瓦のタイヤ止めを製作し、最先端の技術で
作られた自転車と「和の美」という斬新な組み合わせに挑戦。
6
(4)新たな事業展開の模索
<新規需要獲得へ本腰>
企業の「稼ぐ力」を高めるため、独自の魅力を活かした差別化さ
れた付加価値の高いモノを創造することにより、消費者の評価(ブ
ランド力)を獲得する動き。
◆えひめが誇る「すごモノ」
○愛媛県が誇る特産品の伝統に培われた優れた技法や市場価値
の高い商品の魅力を「すごモノ」として紹介し、県内外へ積
極的かつ効果的にPRすることで販路拡大。
砥部焼:19 社 26 商品
菊間瓦:2社3商品
◆各種展示会等への出展・マーケティング活動
○商品開発段階から消費者・バイヤーのニーズを取り入れるた
め、大都市圏でのインテリア関係展示会・販売会等への出展
やマーケティングアドバイザー等を招聘した「売れる商品」
開発。
◆新分野開拓・新事業展開研究会
○これまでに、砥部焼・菊間瓦の産地活性化を目的に、意欲あ
る窯元、販売業界関係者や支援機関等を中心に研究会を発足
させ、業界の現状把握をもとに、意見交換を実施。
(主な研究事項)
販路開拓、ブランディング、PR活動、新分野製品開発、
技術継承、新規原料確保 等
7
3
本県窯業の課題
(1)安定的な原料調達と品質安定化
<産地存続の要>
◆砥部焼
砥部陶石は豊富に存在するが、砥部で採掘される陶石は1業者
が採掘する陶石のみで、十分な成分調整を行うことができず、安
定した坏土供給が課題。
◆菊間瓦
粘土採取業者の廃業や高齢化等の問題により、継続的な供給が
不透明な状態であり、新規原料の調達が課題。
⇒そのため、
○良質な原料(陶石・粘土)の安定的な確保
○原料成分の品質安定化方法の確立
○安定的な原料配合の調整
が産地存続のために業界にとっては最も重要。
(2)産地独自の魅力を活かした商品開発
<本物で価値ある逸品>
全国的に陶磁器や粘土瓦の産地がある中で、生産規模も大きくな
く、価格で競争力を保持することは困難であることから、
「用」と「美」
を兼ね備え、産地独自の魅力を活かした生活に潤いと豊かさを与え
てくれる本物の良さをアピールし続けていくことが重要。
◆砥部焼
消費者の嗜好や食文化が急激に変わってきている中、食卓を彩
る器のデザインやアイテムの多様化への対応
○伝統の白磁に手描染付を基調としつつ、実用性が高く、現
代のライフスタイルにも適合した陶磁器の追求
○新たなジャンルや若年層にも受け入れられる商品への挑戦
◆菊間瓦
環境に配慮した快適な居住空間が求められている中、日本の風
土に適した屋根材に必要とされる機能への対応
○いぶし瓦の美観と粘土瓦の特長(耐久性・耐震性・耐風性・
耐水性・耐火性・耐寒性・耐候性・断熱性・防音性・快適
性・環境性)が他産地に負けない証明と意匠性の追求
○調湿特性に優れるタイルなど瓦以外の建築資材等への応用
8
(3)伝統的技術・技法の伝承
<産地内での人材育成>
伝統的工芸品が注目されている一方で、職人による手作りが基本
の産地では、小規模零細な事業者が多く、職人が熟練者であるがゆ
えの高齢化という問題を抱え、技能伝承が危ぶまれている状況にあ
るため、産地存続に向けた若手職人の育成・確保が急務。
そのため、
○職人の伝統的技術も地域資源として捉えた「砥部焼陶芸塾」
のような産地内での人材育成
○個々の技能の高度化や深化を図るための熟練者から若手職
人へのスムーズな技能伝承
が産地振興、地場産業としての競争力を維持するために業界にとっ
て必要。かつ、需要(仕事量)の安定的な確保が求められる。
※砥部焼陶芸塾
平成 14 年に県が後継者育成のために開始した「えひめ陶芸塾」を、平成 16 年からは砥部町
が「砥部焼陶芸塾」として、プロの陶芸家を目指す人またはプロの陶芸家で知識・技術の向上
を目指す人を対象に引き続いて実施。既に約 50 名が修了し、窯元への就職や独立をしている。
(4)情報発信力・営業力の強化
<ブランド価値の創造>
両産地とも他産地との競合など産地を取り巻く環境は厳しく、そ
のブランド価値をより高めていくことが求められるが、砥部焼・菊
間瓦の本質を次の4つの視点で捉え、
モノの価値…機能等が他産地商品と比較して優れているという
事実を文章等で明確に示し、
地域の物語…商品に地域との関連性が物語として表現されて、
消費者に訴求できるものとなっており、
デザイン価値…消費者に訴求するパッケージデザインやマーケテ
ィングなどの売り方が工夫されて、
品質の保証…消費者の信頼を裏切らないブランドとして産地全
体で取り組む
ことが必要であり、地域ブランドの産地としてのPR活動において、
最も重要なキーワードは「発信力」と「営業力」であることから、
○消費者ニーズの的確な把握を通じた、商品をライフスタイ
ルに取り入れる積極的な提案を行うなど情報収集・発信力
の強化
○県内に留まらず、新規販売先を確保するために県外へ積極
的に展開する営業力の強化
を産地の生き残りをかけて、現状分析の上に成立させることが重要。
9
4
他産地の試みに見る実需の創出
全国的にも産地の立て直しが急がれる中、他産地では熱意のある事
業者を中心とした新機軸商品の開発・提案による産地ブランド再構築。
(1)伝統の技術を活かした新たな市場への挑戦
<新規需要創出する攻めの姿勢>
◆陶磁器
茨城県笠間市周辺を産地とする「笠間焼」は、産地直売の現状
を変えようと国内外の販路拡大を目的に業務用に合った焼物(デ
ザイン性・丈夫さ・重ねやすさ)を研究し、和食器市場へPR。
◆粘土瓦
国内瓦の三大産地の一つである「淡路瓦」では、瓦技術を活か
した和風・洋風にもマッチする高強度で高級感のあるエクステリ
ア材を開発し、根強い人気のある高級タイル市場への進出。
⇒「業務用」・「個人用」双方の需要を見込める分野に着目した事
業展開を図るために、産地の技術と魅力を発揮できる、市場規
模の大きい事業領域への新規参入を図ることが必要。
(2)伝統に現代性・先進性を取り入れた新製品の創出
<商品企画・開発力の強化>
◆陶磁器
創業 400 年を迎えた「有田焼」では、新しい可能性を示すため
に、建築家等の感性やアイデアを取り入れたコラボ商品の開発へ
の乗り出し、全国シェア上位の「美濃焼」でも、著名デザイナー
を招いてのブランド化や現代風へのアレンジ、デザインを限界ま
で研ぎ澄ました、今あるものの見直し。
◆粘土瓦
いぶし瓦の生産量トップの座を「三州瓦」と競う「淡路瓦」で
は、建築設計者の要望(軽量でスマートな屋根材)に応えるべく、
現代住宅にも対応できる付加価値の高い平板瓦を開発し、建築士
や大手ハウスメーカーからも注目。
⇒現代のライフスタイルに適合したものづくりを目指して、消費
者に提案できる産地への転換を果たしていくためには、他産業
や専門家など他者との多様なコラボレーションによる新たな価
値の創造と差別化された商品開発にも取り組むことが必要。
10
Ⅱ
窯業技術センターの現状と課題
1
施設・設備の現状と課題
(1)老朽化・狭隘化の著しい進行
窯業技術センター(以下「センター」という。)は、昭和 37 年の
建築後 50 年以上が経過し、現行の耐震基準(昭和 56 年)に基づく
施設ではなく、特に、本館はコンクリートブロック造で大規模修繕
も不可能で、耐震性に不安を抱えている。
また、鉄骨造の工房及び試験室についても老朽化が進行し、雨漏
りも多発する状況であり、分析機器をはじめとした精密機器等への
影響が懸念されている。
◆施設・設備の老朽化・狭隘化の影響
⇒機器等の非効率な配置により、十分な作業スペースが確保で
きない。
⇒老朽化により、依頼分析・分析等への迅速かつ適切な対応に
支障を来たすことがある。
(2)合理化されていない研究開発・技術支援環境
公設試験研究機関として、企業のニーズにきめ細かに対応できる
レベルの高い技術支援を行うための環境が十分に整っておらず、産
地振興の一翼を担う信頼感のあるセンターへの体制整備が求められ
ている。
◆手狭で効率性に欠ける研究開発環境
⇒築後 50 年以上が経過し、当時のままのセンター環境であるこ
とから、複雑で高度・多様化してきた試験研究内容への円滑
な対応に支障を来たしている試験研究室配置。
⇒陶磁器や粘土瓦に関する試験研究機器を狭小なスペースへの
混在を余儀なくされている非合理的な作業動線。
◆技術相談室等の未整備
⇒技術相談に対応できるスペースがなく、企業の秘密情報の管
理が困難となっている。
⇒センターが保有するノウハウ、各種分析データや収集された
技術情報等の整理や釉薬テストピース等の閲覧スペースが整
備されていない。
11
[センター全景]
[工房]
[工房(外壁補修)]
[工房(外壁亀裂)]
[化学試験室]
[開放試験室]
[焼成室(狭隘化)]
[焼成室(狭隘化)]
[焼成室(鉄骨錆、植物繁殖)]
[焼成室(狭隘化)]
[開放試験室(狭隘化)]
[絵付・成形室(狭隘化)]
[製土室(狭隘化)]
[成形室(狭隘化)]
[成形室(雨漏りシミ発生)]
12
2
ものづくり支援の現状と課題
(1)高度で複雑な技術課題への的確な対応
産地に立地している試験研究機関として、何百年もの間、受け継
がれてきた「砥部焼」
「菊間瓦」といった伝統産業を次の世代にも継
承していくことが使命の一つであるが、成熟した伝統産業が抱える
悩みは、原料配合技術をはじめとした様々な要因が内包されており、
一朝一夕には解決できないものもある。
そういった産地の悩みを具体的な課題へと集約し、その課題を解
決していくためにも、
○製品の根幹である原料の配合調整や不具合対応能力の向上
○新素材の利用といった製品開発への技術力の向上
○焼成・加工方法などの製造工程の改善提案力の向上
というセンター本来の機能である『試験研究開発機能の強化』が強
く求められる。
(2)要求される技術支援への迅速な対応
センターが対応している企業の大部分は、家内工業規模の中小零
細企業であるため、センターが安心して頼れる身近な相談窓口とし
て、小規模な企業では対応しきれない製造・製品トラブルへの分析
対応を強化して、ものづくりの可能性を広げる必要がある。
◆不具合・劣化の原因解析
⇒問題の発生原因を探求し、製品への異物の混入・付着や貫入、
変色といった不具合に対する分析結果を品質安定化につなげ
る『分析力』
◆信頼性の評価
⇒白色度、反射率、強度などの製品品質を決める重要要素や、
耐震性、耐候性といった商取引に必要となる性能を試験する
『評価力』
「窯業技術センターのあり方に関するアンケート」より抜粋
[平成 27 年 7 月実施]
【センターとして強化すべき機能(自由記述)
】
(1)研究開発・技術支援
①陶磁器(回答 39 事業所)
多数意見…優良原料(陶石)の確保及び開発(43.5%)
、坏土の品質安定化及び調査研究(43.5%)
上記以外…砥部独自の特色を活かした研究、原料の特性把握及び利用方法 等
②粘土瓦(回答 9 事業所)
多数意見…粘土瓦原土の確保、開発及び安定化に関する研究(88.9%)
、瓦製造の新技術及び瓦の
新製品開発(55.6%)
(2)企業へのきめ細やかな支援
陶磁器(回答 20 事業所)及び粘土瓦(回答 8 事業所)とも
多数意見…研究・分析データ等の情報提供(46.4%)
13
Ⅲ
窯業技術センター機能強化の基本的考え方
1
機能強化の基本方針
消費者の嗜好の変化や市場規模の縮小など県内窯業を取り巻く環
境が厳しく、産地としての力が試されているなか、センターの機能
強化に当たっては、
◆県内の窯業における中核的試験研究機関として、
⇒常に業界の目線に立った、窯業界が抱える技術的問題やニー
ズに対応した研究開発
⇒産地で培われた高い技術や産地独自の魅力を活かした製品の
評価
◆産地立地型支援機関の特長を活かして、
⇒産地の抱える日常的なトラブルや原料、素地、焼成技術など
の基本的な問題解決
に加えて、
⇒新しい技術の導入や異分野への展開など新技術の積極的提案
に取り組むなど、本県窯業のモノづくり機能の高度化の拠点
として、業界をリード・支援していかなければならない。
また、砥部焼や菊間瓦といった伝統産業の将来的な発展を牽引す
る機関として、伝統産業の独自性や良さを維持しつつも、新しい視
点を取り込みながら、長期的に業界全体の活性化につなげていくた
め、産地を担う人材の育成やブランド戦略PRの支援にも取り組ん
でいく必要があるが、
◆伝統産業支援拠点的機能は、
⇒地元市町や産地組合など他の機関・施設との役割分担を明確
にした上で、相互に有機的につながった強固な連携体制を形
成して機能させていく。
中
核
研究開発・評価分析機能の強化
産地立地
伝統産業
産地へのきめ細やかな技術支援の強化
産地振興に向けた地元との連携の強化
14
2
機能強化に不可欠な産地の取組み
センターの機能強化を産地活性化につなげていくためには、地場
産業でもある伝統産業を産地全体で支えるという動きのもと、産地
自体が、その存続に対する危機感を持って、産地内で意思統一を図
るなど本気で産地の将来を見据えて、ブランド力の構築・浸透など
の産地振興に取り組むことが必要不可欠である。
そのためには、他産地との競合、後継者育成など産地に内在する
諸般の問題を正しく客観的に把握したうえで、あるべき姿とのギャ
ップ解決に向けた攻守のバランスのとれた事業展開とブランド戦略
を立てることが求められる。
<産地に求められる取組み>
◆陶磁器業界(砥部焼)
○主に砥部焼に関しては、『伝統産業ブランドとしての砥部焼』
と『窯元ブランドとしての砥部焼』の両輪で、
「手造り・手描
き」の味わいを大切にするなど産地としての価値を上げてい
くことが必要と思われる。
○そのため、国内のみならず、海外にも目を向けたブランド戦
略や意匠戦略など将来に向けた事業展開を地元の砥部町と砥
部焼協同組合等が一体となって取り組むことが求められる。
◆粘土瓦業界(菊間瓦)
○主に菊間瓦に関しては、業況の悪化に伴う転廃業により、菊
間瓦という地場産業の存立が危ぶまれつつある中、産地の生
き残りをかけたブランドの確立やその良さ・凄さを消費者や
住宅建築業界に強く訴求していくことが必要と思われる。
○そのため、産地内での情報共有や技能伝承に向けた協力体制
を構築するなど、関係者一丸となった再興策に取り組むこと
が求められる。
真
の
産
地
振
興
窯業技術センターの機能強化
危機感を持ったブランド戦略
行政・産地組合の重層的取組
15
3
窯業技術センターの機能強化
真の産地振興を実現するには、研究開発、販路開拓、人材育成など
に対する取組みについて、センターと各産地が適切な役割分担と連携
により、その機能を発揮していくことが効果的と言える。
そのうち、センターが担う中核的試験研究機関としての役割を十分
に果たしていくためには、次の機能を強化していかなければならない。
産地ニーズに応える『研究開発機能の強化』
•将来にわたる優良原料の安定的な調達と品質安定化に関する研究強化
•釉薬安定化に関する研究強化
•高品質・高付加価値製品の製造技術に関する研究強化
•新たな用途展開の提案に対する開発サポート強化
•前進への意欲ある事業者との共同研究推進
産地の高い技術や魅力を評価する『分析機能の強化』
•新製品の開発につながる試験分析機能強化
•安心で快適な瓦屋根に関する試験機能強化
成功への手助けとなる『技術支援機能の強化』
•技術課題・技術相談への対応強化
•技術移転及び新技術紹介の促進
•機器の整備と利用促進
•産地との密接な関係づくり
モノづくりのヒントを得る『情報収集・提供機能の強化』
•情報収集・発信機能の強化
•図書資料室機能の強化
(1)産地ニーズに応える『研究開発機能の強化』
中小零細事業所が多い砥部焼や菊間瓦をはじめとした窯業界への
支援には、良質な原料の調達と安定的な品質の確保が産地にとって
の生命線となっているため、その研究に重点的に取り組むほか、現
場ニーズに基づいた研究開発の選択と集中により、小規模な事業者
では対応できない新技術・新商品・新用途の研究開発を産地ととも
に推進し、時代や消費者ニーズに合った姿への変化など、その出口
を指向した研究も進めていく必要がある。
産地が直面する課題解決に向けた短期的な技術移転に加え、産地
振興に向けた中長期的な事業展開につなげる視点での先導的かつ戦
略的な研究開発を目指す。
16
<将来にわたる優良原料の安定的な調達と品質安定化に関する研究強化>
原料の安定供給が将来にわたっての課題であるほか、原料成分の
更なる安定化に向けた取組みや地元産原料の新たな確保が求められ
ている中、原料事情に応じた坏土や粘土の配合研究を推進し、原料
成分の変動時においても安定した品質の坏土や粘土を長期的に供給
できる調整方法確立に向けた研究開発を充実強化することにより、
高品質な製品製造の維持につなげる。
<釉薬安定化に関する研究強化>
原料や坏土の変化には釉薬の管理が重要であり、坏土に適合した
砥部焼釉薬の開発が求められるため、現状に合わせた釉薬のより一
層の研究開発を推進することにより、製品品質の向上につなげる。
<高品質・高付加価値製品の製造技術に関する研究強化>
他産地製品との差別化を図るため、これまでの伝統を守りつつも、
消費者の嗜好や時代の流れを反映したものづくりへの取組み(作り
手優先の発想にマーケットインの視点をプラス)を推進し、産地の
特色を活かした従来にない優れたデザイン、機能性を有した陶磁器
や高機能で意匠性のある瓦の研究開発を充実強化する。
<新たな用途展開の提案に対する開発サポート強化>
窯業界を取り巻く環境変化を敏感に捉えた、産地からの新規需要
の開拓に向けた新たな用途開発や異業種との融合技術といった提案
に対して、市場に受け入れられる製品の実用化開発を支援する。
<前進への意欲ある事業者との共同研究推進>
公設試験研究機関として具体的な成果を求めるため、事業の成長
に向け製品開発等に意欲的に取り組もうとする事業者への支援を重
視して、センターが有する研究シーズやハード・ソフト両面の研究
開発資源と事業者の開発ニーズとのマッチング効率を高め、産学官
連携を通じた事業者の技術的課題の解決や商品化へのビジネス展開
に向けた共同研究の取り組みを推進し、事業者の競争力強化を図り
つつ、業界全体の活性化につなげる。
(2)産地の高い技術や魅力を評価する『分析機能の強化』
モノが溢れている中、単にモノを提供するのではなく、
「機能」を
提供するといった視点のもと、陶磁器や粘土瓦の素材分析、品質試
験、性能試験等の試験・分析能力を充実強化する必要がある。
17
ひいては、どういった機能が優れているか、どれほど品質が高い
モノであるかについて、しっかりとした市場アピールが可能となり、
新たなビジネス展開・取引に結び付けることができる。
<新製品の開発につながる試験分析機能強化>
窯業界における新しい焼成・製造技術や商品開発により依頼試験
に対するニーズが高度化しているため、試作品等の品質評価への取
組みを強化する。
<安心で快適な瓦屋根に関する試験機能強化>
高品質な瓦と優れた施工を確保するため、
「瓦屋根標準設計・施工
ガイドライン」に定める耐震・耐風試験等に対応できる機能を充実
させて、耐久性能や防水性能等の分析力向上に取り組む。
(3)成功への手助けとなる『技術支援機能の強化』
顕在化している原料問題や陶磁器・粘土瓦の緊急課題への対応や、
家内工業規模であるがゆえの解決できない特有の課題への丁寧な対
応を行うため、技術相談や機器利用などソフト・ハードの両面から
県内窯業関連事業所への支援に積極的に取り組み、製品トラブルな
ど技術相談の即時解決能力を強化する。
また、新しい技術の導入や異分野への展開など新技術の積極的な
提案に取り組むなど、寄り添い型の技術支援機能を発揮する。
<技術課題・技術相談への対応強化>
技術支援については、技術的な課題が解決に至るまでの継続的な
技術相談の実施や製造現場での現地支援の実施により、県内窯業事
業所が抱える様々な悩みに的確に対応していくとともに、技術相談
の内容を整理して現場ニーズの把握に努め、その結果を研究テーマ
に反映させていく。
特に相談が多い陶磁器の不具合対策については、釉薬等のデータ
ベース化を進めるなど技術情報の整理・共有化に取り組む。
<技術移転及び新技術紹介の促進>
技術移転の推進と研究成果の普及に当たっては、研究成果発表会
を通じて産地組合とも連携しながら、研究成果を着実に窯業関係者
に広く浸透させる。
新技術については、技術講演会等を開催して、最新技術や高度化
技術を普及啓蒙する。
18
<機器の整備と利用促進>
機器の整備は、窯業界のニーズを踏まえて、費用対効果を十分に
検討したうえで、計画的に導入するとともに、導入された機器は、
常時使用できるように保守点検に万全を期し、充実したサービスの
提供を図る。
機器の利用促進のために、実習を主体とした研修や定期的な機器
等使用説明会を開催することにより、各機器の利用方法や活用方法
等を広く周知し、利用促進につなげる。
<産地との密接な関係づくり>
県内窯業界や地元市町、産地組合が相談しやすい雰囲気のもと、
例えば、情報通信技術を活用した産地とセンターをリアルタイムに
つないだ双方向での情報交換ができる機能(バーチャル分室的機能)
を取り入れることも一つの有効な手法として、お互いの顔が見える
関係を構築しながら、業界が抱える課題を共有し、その解決に向け
た技術支援体制を充実させる。
密接な現場関係を構築していく中で、センターとして研究または
支援すべきところを見出し、研究開発に発展させていく。
(4)モノづくりのヒントを得る『情報収集・提供機能の強化』
国内の他産地の情報、技術・素材・デザイン情報など窯業に関す
る様々な情報を収集するとともに、文献や視覚的資料等を充実させ
て、新しいデザイン開発や商品企画、開発力の向上を支援する。
<情報収集・発信機能の強化>
窯業関係の他産地の最新技術情報などを収集し、定期的に業界に
発信できる体制を整える。
センターの研究開発成果、分析データや事業内容等の情報を提供
することにより、新商品開発を支援し、センターの利用実績のない
事業所の利用拡大を促進する。
<図書資料室機能の強化>
窯業に関する図書、文献、学会誌、研究報告書を整備し、業界関
係者の利用に供するとともに、センターの業務報告や研究報告を蓄
積し、技術情報の提供に資する。
釉薬に関するサンプルを活用しやすい情報としてデータ整理を行
うことで新商品の開発や商品の改良を支援する。
19
4
施設・運営体制のあり方
センターの機能強化を確実に実現させるためには、試験研究・技術
支援環境の改善や、より効率的で効果的な産地支援のための運営体制
の強化についても適切な対応が必要である。
(1)求められる施設設備の充実
現在のセンターは、築後 50 年以上が経過し、老朽化・狭隘化が進
行しており、機器等の非効率な配置や大型機械も多く、圧倒的な作
業スペース不足が見られるなど、他県の窯業系公設試験研究機関と
比較しても、産地振興に資する中核的な機関としては、理想的な研
究環境とは言い難い状況にある。
さらに、現場ニーズを把握するうえでも、悩みを抱えた窯元が利
用しやすく、身近に感じられる環境にあることも求められる。
このようなことから、機能強化を図る観点からは、研究環境及び
利用環境の双方の改善を含めた施設設備の充実は重要な要素である
ことから、現状では未整備あるいは不十分と思われる施設設備の整
備拡充が強く望まれる。
ただし、関係機関が一丸となった産地振興に取り組むことが重要
であることから、センターには過剰な機能を付加することなく、本
来発揮すべき研究開発分析部門に機能を重点化して、産地の基盤で
ある人材の育成や販路開拓は、地元市町や産地組合の役割として明
確に位置づけることにより、機能を分担し、かつ、緊密に連携でき
る体制を構築することが肝要である。
<未整備の施設設備>
▼窯元が相談を持ちかけやすくする守秘義務と秘密保持が配慮され
た『技術相談室』
▼釉薬の焼成サンプルの閲覧や釉薬調合・開発への活用ができる『釉
薬資料室』
▼陶磁器・粘土瓦関連の最新情報収集、研究・分析データの閲覧が
でき、窯元同士の情報交換も可能となる『情報図書室』
など
<不十分な施設設備>
▼大型機器が必要で製品試験への的確な対応が求められる『瓦専用
試験室』
▼製土・成形・加工・焼成の各製造工程への研究精度を高める『作
業室』
▼適切な環境で高い独自性や品質・機能優位性を評価する『分析室』
など
20
(2)全国窯業系公設試験研究機関との格差
◆センターの現有機能
全国の 15 窯業系公設試験研究機関と比較すると、現センターは全
国一古い建築年度の施設であり、その施設規模も分室規模の機関を
除けば、最小の敷地・建築面積。
▼敷地面積:全国平均は本県の約4.2倍
▼建築面積:
〃
約3.0倍
▼延床面積:
〃
約3.5倍
設備内容は、必要最小限の試験室等は備えているものの、数多く
の試験研究機器を適切に配置できるほどのスペースはなく、手狭と
なっているほか、デザインや技術情報に関する技術支援機能は窯元
等からの要望に応えられる規模となっていない。
設備
焼成室
製土室
成形室
絵付室
分析室
床面積
(㎡)
153.90
90.00
51.84
12.80
12.30
化学試験室
50.00
作業室
化学分析室
40.00
19.20
材料試験室
8.00
本館試験室
42.86
デザイン室
情報室
27.20
9.42
主な用途
電気炉及びガス炉による陶磁器や瓦の試験焼成
陶石原料などの粉砕加工及び瓦粘土や陶磁器坏土の調整
ロクロや鋳込み等による陶磁器試験体の成形
陶磁器に関する下絵付け、上絵付け作業
陶磁器や瓦の原料及び製品の測色、反射率、顕微鏡観察等の分析
陶磁器釉薬の調合及び泥漿の作製。陶磁器や瓦原料の熱膨張及び粒度
の測定
陶磁器や瓦に関する各種試験体の作製
陶磁器や瓦の原料及び製品の蛍光X線、X線回析等による成分分析
陶磁器素地や瓦製品等の強度測定
建材の圧縮成形や陶磁器の衝撃強度試験。陶磁器や瓦素地の電子顕微
鏡による拡大観察等
商品企画やデザインに関する相談対応。ポスター等の図案作成
研究報告、技術情報の資料保管
◆他の公設試験研究機関が保有する設備
現センターが有している上記設備は、ほぼ全ての機関で有してお
り、その規模は立地条件(敷地・建築面積)により異なる。
研究開発・技術支援機能以外の設備は、現センターは有していな
いが、複数の機関は保有しており、その必要性や使用用途によって
多岐にわたる。
設備
技術相談室
釉薬資料室
リファレンス室
展示スペース
創作工房
デザイン研修室
研修室
主な用途
企業等からの一般相談、技術支援の打合せ
釉薬の焼成サンプル・試験データ閲覧及び釉薬調合開発
窯業関連の文献情報の収集、発信及び関連図書の利用閲覧
試作品、研究成果、窯業(産地)関係の展示・発信
釉薬指導、ロクロ成形指導、成型技術実習、石膏型指導
各種デザイン開発、デザイン資料閲覧
各種講習、講演会、交流会及び研究発表会
⇒全国の状況を鑑みて、産地との役割分担を明確にした上で、セン
ターが今後果たしていくべき機能を備えることが求められる。
21
(3)必要とされる施設設備の内容
センターが中核的試験研究機関として機能を十分に発揮するため
には、少なくとも次の施設設備を備えて、産地から求められる役割
を責任もって果たしていくことが必要である。
◆研究開発機能
○原料粉砕室(拡充)
…陶磁器の品質安定化研究には原料粒子の調整が必要
○坏土作製室(拡充)
…陶磁器の品質安定化研究には原料配合の調整が必要
○成形室(拡充)
…新砥部焼坏土・瓦配合土開発には成形特性の調査が必要
○焼成室(拡充)
…品質安定化研究には試作品・試験体の焼成試験が必要
○絵付・施釉室(拡充)
…焼成後の発色状態確認には釉薬の調整が必要
○加工室(拡充)
…試験体の熱膨張などの物性評価が必要
◆分析機能
○瓦試験室(新規)
…屋根瓦の耐風性・耐震性等の性能評価が必要
○分析室(拡充)
…陶磁器の白色度、瓦の光沢度の測定分析が必要
○化学試験室(拡充)
…陶磁器の溶出試験などの化学分析が必要
◆技術支援機能
○技術相談室(新規)
…プライバシーに配慮した相談対応が必要
○恒温室(新規)
…瓦建材の調湿性能などの物性測定が必要
○物性試験室(拡充)
…試験体の強度や製品の衝撃強度の測定が必要
○X線分析室(拡充)
…原料中の鉱物組成解析のためX線による成分分析が必要
◆情報収集・提供機能
○釉薬資料室(新規)
…陶磁器のデザイン性を高めるための釉薬サンプルが必要
○情報図書室(新規)
…新商品開発支援のため窯業関連書籍・データの提供が必要
22
(4)理想とされる施設の規模と環境
老朽化・狭隘化している現状のセンターでは、上述(2)の機能
を満足させることができず、なおかつ、現在地でのセンターの施設
拡張は極めて困難と思われるため、機能強化には、改修・改築では
なく「移転建替」することが望ましい。
その規模については、本県が誇る「すごモノ」である砥部焼や菊
間瓦といった伝統産業を支える公設試験研究機関としてふさわしく、
かつ、センターの各機能を十分に発揮できる規模とすべきであり、
将来的な機器整備にも対応できる施設規模が必要である。
なお、センターは多くの事業者に利用されてこそ、その存在価値
が見出されるので、孤立した環境ではなく、規模自体は必要な機能
をコンパクトにまとめたものではあるが、機能強化内容やこれまで
の利用状況等を考慮した適切な立地環境にあることが望まれる。
(5)研究員のあるべき姿とノウハウの蓄積
センター研究員は産地振興への支援が最も重要な使命であり、産
地立地型の試験研究機関として、地域に密着した信頼されるプロフ
ェッショナルな「組織と人づくり」が求められるため、
○産地から信頼される研究員づくり
○技術相談に十分に対応できる提案力の高い研究員の育成
○研究員間の情報共有化を含めたノウハウの蓄積
○市町・大学等と巧みに機能する研究環境づくり
について、産地が研究員を育てる視点のもと、効果的に組み合わせ
て取り組んでいく必要がある。
<産地から信頼される研究員>
脈々と受け継がれてきた伝統的技法への理解、窯元ニーズの抽出、
信頼関係づくりや産地の実情把握には、相応の年数が必要であるほ
か、研究テーマの設定にも長い経験と専門知識が必要であるため、
長期的な視点で、組織的に研究員の在任期間を十分考慮した配置や
途切れることのない人材の養成に取り組むべきである。
<提案力の高い研究員の育成>
他産地の取組みの把握や、研究員自身の技能向上のため、他県の
研究員との研修・意見交換による高度専門的技術の習得や課題解決
能力の向上が必要であるほか、研究課題でのOJTによるスキルア
ップや産業支援機関と連携した市場を見る目の養成など、幅広い知
識を持ち、実用的な研究成果につなげられる研究員を育成する手法
を検討すべきである。
23
<情報共有化とノウハウの蓄積>
技術相談が多い不具合対策については、事例のデータベース化を
行い、研究員間での技術情報の共有化を推進するとともに、研究員
に蓄積された知見や技術シーズを技術相談や研究分析を通じて経験
の浅い研究員へ伝承し、蓄積された技術や研究成果を事業化に結び
付けるノウハウが継承できる仕組みづくりを進めるべきである。
<市町・大学等との協働>
産地との結束力を高め、情報共有を一層推進するため、市町職員
と協働して運営する体制づくりや、研究員の更なる資質向上のため
に、窯業分野への造詣が深い大学研究者や意匠専門職らが有する実
践的な技術力・指導力を活かす仕組みづくりを将来的に進め、外部
人材とも協働した産地振興を図るべきである。
5
地元市町・産地組合との連携のあり方
『センター機能のむやみな肥大化を避ける』といった視点から、産
地に存在する関係機関・施設との最適な役割分担を図り、それらとの
横の連携強化による産地振興体制を構築することが重要であり、以下
の機能は、まずは産地が主体となって果たしていくべきである。
(1)産地を担う人材の育成・受け継がれてきた技能の伝承
市場規模が縮小し、職人の高齢化が進行する中、若手技能者の育
成や後継者の養成・確保など円滑な技能伝承が求められており、各
産地においては、産地内で人材を育て続けていく視点のもと、現在、
◆砥部焼
砥部町において、新規参入者や砥部焼後継者等を対象に砥部焼
の技と文化を伝統工芸士から伝授する「砥部焼陶芸塾」の実施。
◆菊間瓦
菊間町窯業協同組合において、
「瓦の製造技術に関するマニュア
ル」の作成。
に取り組んでおり、今後も産地内で高度技能者から若手への技能伝
承、他産地にシェアを奪われない事業承継や後継者の確保を図るほ
か、実際に他産地の生産・販売現場を見て知って、産地の強みを活
かした稼ぐ力も育てていかなければならない。
⇒センターでは、産地単独では実施困難な産地課題に対応した外
部人材を招聘したデザイン・技術研修や他産地との意見交換会
等を必要に応じて開催するなど、その取組みを支援する。
24
(2)伝統産業の良さ・凄さを感じる機会の提供
本県が誇る特産品の伝統に培われた技法や生活に身近で、かつ、
市場価値の高い商品の魅力を広く知ってもらい、伝統的工芸品に抱
くイメージ向上とあわせて、その需要喚起と販路拡大への支援が必
要であり、各産地においては、現在、
◆砥部焼
砥部焼の歴史的資料や作品を展示している「砥部焼伝統産業会
館」や砥部焼体験ができる「砥部町陶芸創作館」
◆菊間瓦
菊間瓦の歴史紹介、作品展示や体験学習機能を備えた「瓦のふ
るさと公園・かわら館」
があるように、今後も広く一般向けに伝統産業への理解を深めるこ
とのできる機会の提供機能を果たすとともに、製造現場や産品を観
光資源とし、それらを通じた国内外との人的交流を深める産業観光
を推進することにより、更なる地域振興を図っていくべきである。
⇒センターには、同様の機能を付加することへの効果は限定的で
あるため、研究成果の紹介や試作品等の展示といった主に業界
関係者向けの機能を果たす。
(3)産地へアプローチするプラットフォームの形成
砥部焼や菊間瓦といった地域に根付いた伝統産業は、地元経済の
発展や雇用確保、観光、文化の面でも大きな役割を果たしており、
産地を取り巻く昨今の極めて厳しい状況下においては、産地一丸と
なった産業活性化に取り組むことが急務である。
そのため、関係機関が連携する場として、プロモーション力の向
上や販路開拓・新規需要獲得を目的に、地元行政・産地組合・商工
会を基軸とした産官連携による産地プラットフォームを形成し、
(公
財)えひめ産業振興財団、愛媛県中小企業団体中央会等とも連携し
ながら、マーケティングに精通した目利き力のある外部人材を招聘
し、砥部焼や菊間瓦の魅力に見合うビジネスが展開できるよう、そ
れぞれの市場での確固たる地位を獲得するとともに、商品だけでな
く産地の想いやストーリーも届けて、産地と市場を信頼でつなぐ仕
組みづくりが求められる。
⇒センターでは、技術的側面から製品分析を通じた品質を証明す
る機関として、また、幅広いネットワークを活かした人・モノ・
情報をつなげる橋渡し機能の一翼としての役割を果たす。
25
<産地振興に向けた重層的連携体系図>
≪窯業技術高度化推進≫
≪魅力ある売れる商品づくり≫
・戦略的な研究開発/技術支援
・信頼のおける評価分析
・研究成果等フィードバック
≪地場(伝統)産業支援≫
・地域ブランドの確立、推進
・消費者ニーズ把握
窯業技術
センター
地元市町
窯
元
産地組合
・商工会
・高機能/高付加価値商品開発
・強みを活かしたビジネス展開
≪産地競争力強化≫
・良質原料の安定的調達
・産品の紹介宣伝、販路開拓支援
・市場動向分析、新規需要/販路開拓
・知名度/イメージ向上戦略
・技能伝承、人材育成・確保
窯
元
窯業技術センター
産地組合・商工会
地元市町
企画立案
【研究成果等の提供】
◇高度な技術シーズの提供
◇研究成果フィードバック
◇他産地の技術情報提供
◇課題提起
【消費動向の分析】
◇市場動向/売れ筋商品の調
査分析
◇消費トレンドの予測
◇他産地の動向把握
【知名度向上への提案】
◇産地ブランドを象徴する
商品提案
◇地場産品のあるライフス
タイルの提案
【新技術の研究開発】
◇共同・受託研究
◇実用化指向の開発支援
◇品質安定化の研究
◇試験研究機器の整備
【新たな取組みの掘り起し】
◇独自の技術や技法を活用
した新たな用途展開
◇マーケティングによる新
商品開発企画
【地域資源とのマッチング】
◇地域内資源・異業種とのコ
ーディネート、コラボレー
ション提案
【製造技術への支援】
◇各種試験分析
◇不具合への相談対応
◇技術移転
◇知財化支援
【原材料対策】
◇良質原料の安定的供給
◇原料発掘調査・開発
◇技術・技法の改善
【地域と商品の関連付け】
◇地域と産品がストーリー
付けされた消費者への訴
求
【品質証明】
◇製品性能の分析評価
【経営力の向上】
◇県内外での販売促進
◇競合商品と差別化された
売り方の提案
◇取引条件の改善
【産地ブランドの確立】
◇観光と連携した産地ブラ
ンド浸透
◇営業戦略商品の紹介宣伝
◇積極的な情報発信
【業界向け普及啓蒙】
◇新製品・試作品の紹介
◇商品ブラッシュアップ支援
【販路の拡大】
◇消費者ニーズを満たす商
品構成での営業展開
◇県外の大消費地への新規
需要開拓
【販促フォローアップ】
◇県内外への営業ルート開
拓支援
◇地域と産品をセットにし
た売り込み
(消費者ニーズの
取り入れ)
商品開発
(産地独自の魅力
を活かした技法)
製
造
(高機能・高付加
価値化)
販
売
(儲けるビジネス
取引)
プロモーション
(商品ターゲット層へ
のアプローチ)
産地との連携
人材育成・技能伝承
産地 PR 機会創出
産地プラットフォーム
26
おわりに
両産地とも新商品の開発、消費者との交流など民間あげての取組み
や、様々な公的支援を活かした努力を間断なく重ねてきたにもかかわ
らず、極めて厳しい状況が続いている。
今回の窯業技術センターのあり方の検討を契機として、産地が抱え
る問題の根本的解決と、伝統を絶やさず長期的に安定した産地の発
展・振興につながることを期待するが、本格的な人口減少が待ち構え
ている中、本県が誇る伝統産業の存続をかけて、営業力の強化や国内
外の観光客への対応といった諸課題に対しても、産地のみならず、県・
地元市町が連携し、地域の経済・生活・文化を担う『県の顔』でもあ
る伝統産業をしっかりと支えていくことが重要である。
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