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児童生徒の心の健康に関する調査報告書
児童生徒の 児童生徒 の 心 の 健康に 健康 に 関 する調査報告書 する 調査報告書 平成24年3月 北 海 道 学 校 保 健 審 議 会 目 第1章 次 児童生徒の心の健康に関する調査の概要 2 第2章 児童生徒の心の健康に関する調査の結果 1 抑うつ傾向について (1)簡易抑うつ症状評価尺度(QIDS-J)の結果について (2)項目別の状況について ア 項目別平均点 イ 自分についての見方 ウ 死や自殺についての考え 2 躁傾向について 3 自閉傾向について 4 ライフスタイルについて 4 4 4 4 5 5 6 7 8 第3章 調査結果の考察 1 本調査の特徴等について 2 抑うつ傾向について (1)これまでの様々な調査結果との比較について (2)項目別の状況について ア 項目別平均点について イ 自分についての見方について ウ 死や自殺についての考えについて 3 躁傾向について 4 自閉傾向について 5 ライフスタイルについて 6 抑うつ傾向、躁傾向、自閉傾向の相関関係について 9 9 9 9 9 10 10 10 11 11 12 第4章 13 調査結果から明らかになった課題 参考文献 14 資 料 「児童生徒の心の健康に関する調査報告」 (北海道大学大学院保健科学研究院 教授 「心の健康に関する調査用紙」 気分に関する調査 1 気分に関する調査 2 行動に関する調査 1 行動に関する調査 2 15 傳田健三 氏) 28 31 32 33 -1- 第 1 章 児童生徒の 児童生徒 の 心 の 健康に 健康 に 関 する調査 する 調査の 調査 の 概要 1 調 査 の 目 的 本道における児童生徒の心の健康に関する実態を把握し、今後の心の健康づくりの充実 に資する。 2 調 査 機 関 北海道学校保健審議会・北海道大学大学院保健科学研究院 (調査事務局 北海道教育庁学校教育局健康・体育課学校保健・体育グループ) ※本調査については、北海道大学大学院保健科学研究院において調査用紙の作成及び結 果の集計・分析を行った。本報告書については、北海道大学大学院保健科学研究院の 報告に基づき、北海道学校保健審議会において、学校における児童生徒の心の健康問 題への対応に関する具体的な提言を盛り込み、「児童生徒の心の健康に関する調査報 告書」として取りまとめたものである。 3 調 査 対 象 札幌市を除く全道の公立学校から無作為に抽出した80校の公立の小学校3年生及び5 年生、中学2年生、高校2年生(全日制)の児童生徒を対象に調査した。 札幌市を除く全 学校種 対象校 対象学年 配布数 回答数 回収率 道 の 児 童 生 徒 数 に占める割合 3年生 1,429人 650人 45.5% 2.2% 小 学 校 24校 5年生 1,416人 711人 50.2% 2.4% 中 学 校 28校 2年生 1,717人 847人 49.3% 2.8% 高等学校 28校 2年生 2,572人 1,527人 59.4% 4.1% 合 計 80校 7,134人 3,735人 52.4% 3.0% 4 5 調 査 期 間 平成23年7月~8月 調 査 内 容 及 び 方 法 次の内容について、「心の健康に関する調査用紙」を用い、無記名によるアンケート調 査を行った。 調査内容 調査方法または項目 抑うつ傾向 簡易抑うつ症状評価尺度(QIDS-J) (「気分に関する調査1」) (質問項目に「イライラする気持ち」を追加、ただし、 合計点からは除外) 躁傾向 躁症状評価尺度(MEDSCI) (「気分に関する調査2」) 自閉傾向 自閉症スペクトラム指数(Autism Spectrum Quotiー (「行動に関する調査2」) ent:AQ-J) ライフスタイル 睡眠時間、テレビの視聴時間、朝食の摂取状況 など (「行動に関する調査1」) 6 その他 本調査を実施するにあたって、児童生徒のプライバシーや人権に十分に配慮し、児童 生徒及び保護者に対して調査の目的を文書で説明するとともに、調査を実施する教員に -2- は以下のことを周知した。 (1)回答については本調査の目的以外に使用されるものではないこと。 (2)調査に協力するかどうかは、本人・保護者の意思で決定し、協力したくない場合 には、記入・提出しなくても構わないこと。 (3)設問の内容によって「答えたくない場合」、「答えにくい場合」などについては、 答えなくても構わないこと。 (4)本調査のアンケート調査用紙は家庭において記入することとし、児童生徒自身が 封筒に入れ、封をしてから学校において回収すること。 (5)回収されたアンケート調査用紙は、集計処理後、速やかに廃棄処分すること。ま た、集計は本道全体の状況を表すものとして、個人や学校、地域が特定される処理 は行わないこと。 -3- 第 2 章 児童生徒の 児童生徒 の 心 の 健康に 健康 に 関 する調査 する 調査の 調査 の 結果 1 抑 うつ傾向 うつ 傾向について 傾向 について( について (「 気分に 気分 に 関 する調査 する 調査1 調査 1 」) 抑うつ傾向については、「気分に関する調査1」として、「簡易抑うつ症状尺度(QIDS -J)」を用いて調査した。 ※ 「簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)」は、睡眠に関する項目や食欲・体重に関する項目、落ち 着きのなさや動作に関する項目など、全部で16の質問項目からなる自己記入式の評価尺度で、 うつ病の重症度を評価できるほか、アメリカ精神医学界の診断基準に対応しているという特長 をもっている。各項目の回答を0~3点で点数化し、睡眠に関する項目(第1~4項目)、食 欲/体重に関する項目(第6~10項目)、精神運動状態に関する2項目(第16、17項目)は、 それぞれの項目で最も点数が高いものを一つだけ選んで点数化し、それ以外の6項目は、それ ぞれの点数を採用し、全9項目の合計点数(0点~27点)で評価するものであり、点数によ るうつ病重症度の判定基準は、0~5点は正常、6~10点は軽度、11~15点は中等度、16 ~20点は重度、21~27点は極めて重度とされている。 ( 1 )「 簡易抑うつ )」 の 結果について 簡易抑 うつ症状評価尺度 うつ 症状評価尺度( 症状評価尺度 ( QIDS-J) 結果 について 平均点は、全体で5.24点であり、学年別では、小学3年生で3.07点、小学5年生で 3.58点、中学2年生で5.5点、高校2年生で6.78点となっており、学年が進むに従っ て高くなっている。 表 1 うつ症状評価尺度 うつ 症状評価尺度( 症状評価尺度 ( QIDSQIDS -J ) の 結果 人 数 学年 平均点 全体 正常 軽度 中等度 重度 極めて重度 0~5点 6~10点 11~15点 16~20点 21~27点 全体 5.24 ± 4.27 3712 2207 1051 367 81 10 (59.5 %) (28.3 %) (9.9 %) (2.2 %) (0.3 %) 小 3 3.07 ± 3.20 647 524 99 20 4 0 (81.0 %) (15.3 %) (3.1 %) (0.6 %) (0 %) 小 5 3.58 ± 3.23 706 540 140 27 1 0 (76.5 %) (19.8 %) (3.8 %) (0.1 %) (0 %) 中 2 5.54 ± 4.27 846 484 249 95 13 5 (57.2 %) (29.4 %) (11.2 %) (1.5 %) (0.6 %) 高 2 6.78 ± 4.44 1513 657 563 225 63 5 (43.4 %) (37.2 %) (14.9 %) (4.2 %) (0.3 %) ( 2 ) 項目別の 項目別 の 状況について 状況 について ア 項目別平均点 「簡易うつ症状評価尺度(QIDS-J)」項目別の平均点は、すべての学年で同じような 傾向を示しており、「自分についての見方」、「食欲増進」、「寝つきの悪さ」、「悲しい気 持ち」の項目が高くなっている。 落ち着かな い 動 きが 遅 くな った 気 が す る エ ネル ギー の レ ベル 一 般的な 興味 死や 自殺に つい ての 考え 自分 につい ての 見方 集 中 力 ・決 断 力 体 重 増 加 (最 近 2週 間 で ) 体 重 減 少 (最 近 2週 間 で ) 食欲 増進 食欲 低下 悲しい気持 ち 眠りすぎ る 早 く目 が 覚 め すぎ る 夜間の 睡眠 寝つき の悪 さ 0 .3 9 0 .2 2 0 .3 7 0 .2 9 0 .3 2 1 .0 9 0 .3 6 0 .4 0 0 .3 2 0 .6 8 0 .2 4 0 .4 5 0 .2 4 0 .3 0 0 .3 5 0 .5 1 0 0 .2 0.4 0 .6 0.8 1 図 1 Q ID S- J 各 項 目 の 平 均 点 ( 全 体 ) (各 項目 :3点 満 点 ) -4- 1.2 イ 自分についての 自分 についての見方 についての 見方 「うつ症状評価尺度(QIDS-J)」において、「自分についての見方」の項目は、児童生 徒の自己に対する無価値感または罪悪感を推測するうえで重要な質問である。選択した 回答の点数は、0点が「自分のことを他の人と同じくらい価値があって、他の人に助け てもらうに値する人間だと思う」、1点が「普段よりも自分を責めがちである」、2点が 「自分が他の人に迷惑をかけているとかなり信じている」、3点が「自分のいろいろな 欠点について、ほとんど常に考えている」となっている。 「自分についての見方」の項目の調査結果は、全体では、0点及び1点の児童生徒が 64.5%であり、学年別では、小学3年生で82.9%、小学5年生で77.1%、中学2年 生で63.1%、高校2年生で53.5%となっている。 一方、2点及び3点の児童生徒が全体で35.5%であり、学年別では、小学3年生で 17.1%、小学5年生で22.9%、中学2年生で36.9%、高校2年生で46.5%となって おり、学年が進むに従って高くなっている。 表 2 自分についての 自分 についての見方 についての 見方 学年 人 数 点数 小3 全体 小5 中2 高2 0 1462(44.8%) 369(73.2%) 365(62.5%) 317(41.0%) 411(29.3%) 1 644(19.7%) 49( 9.7%) 85(14.6%) 171(22.1%) 339(24.2%) 2 546(16.7%) 56(11.1%) 69(11.8%) 144(18.6%) 277(19.8%) 3 612(18.8%) 30( 6.0%) 65(11.1%) 142(18.3%) 375(26.7%) (% ) 100 80 7 3.2 6 2 .5 60 4 4 .8 4 1 .0 40 20 19 .7 1 8 .8 1 6 .7 1 1 .1 9 .7 6 .0 2 9 .3 2 4 .2 2 6 .7 2 2 .1 1 9 .8 1 8 . 3 1 8 .6 1 4 .6 1 1 .8 1 1 .1 0 全体 小 3 小 5 中 2 図 2 自 分 に 対 す る 見 方 ウ 高 2 0 1 2 3 死 や 自殺についての 自殺 についての考 についての 考 え 「うつ症状評価尺度(QIDS-J)」において、「死や自殺についての考え」の項目は、自 殺の危険性を推測するうえで重要な質問である。選択した回答の点数は、0点が「死や 自殺について考えることはない」、1点が「人生が空っぽに感じ、生きている価値があ るかどうか疑問に思う」、2点が「自殺や死について、1週間に数回、数分間にわたって 考えることがある」、3点が「自殺や死について1日に何回か細部にわたって考える、ま たは、具体的な自殺の計画を立てたり、実際に死のうとしたりしたことがあった」とな っている。 「死や自殺についての考え」の項目の調査結果は、全体では、0点及び1点の児童生 徒が91.8%であり、学年別では、小学3年生で97.2%、小学5年生で96.1%、中学 2年生で89.4%、高校2年生で88.9%となっている。 一 方、 2 点及 び 3点 の児 童生徒 が全 体で 8.1%で あり 、学 年別で は、 小学 3年 生で 2.8%、小学5年生で3.9%、中学2年生で10.6%、高校2年生で11.1%となってお り、学年が進むに従って高くなっている。 -5- 表3 死 や 自殺についての 自殺 についての 考 え 人 学年 点数 数 小3 全体 小5 中2 高2 0 2830(78.5%) 595(93.4%) 644(92.8%) 581(73.9%) 1010(68.0%) 1 480(13.3%) 24( 3.8%) 23( 3.3%) 122(15.5%) 311(20.9%) 2 202( 5.6%) 16( 2.5%) 21( 3.0%) 48( 6.1%) 117( 7.9%) 3 91( 2.5%) 2( 0.3%) 6( 0.9%) 35( 4.5%) 48( 3.2%) 100 80 (% ) 9 3 .4 9 2 .8 7 8 .5 7 3 .9 6 8 .0 60 40 1 3 .3 5 .6 20 2 .5 0 全 体 3 .8 2 . 5 0 .3 小 3 3 .0 3 . 3 0 .9 小 5 7 .9 3 .2 中 2 高 2 0 図 3 死 や 自 殺 に つ い て の 考 え 2 2 0 .9 1 5 .5 6 .1 4 .5 1 2 3 躁傾向について 躁傾向 について( 気分 に 関 する調査 する 調査2 について (「 気分に 調査 2 」) 躁傾向については、「気分に関する調査2」として、「躁症状評価尺度(MEDSCI)」を 用いて調査した。 ※ 「躁症状評価尺度(MEDSCI)」は、気分の高揚やいらだたしさ、多弁や注意散漫など、普段 とは異なった気分や行動の有無などについて、全部で13の質問項目からなる自己記入式の評 価尺度で、各項目を点数化しその合計点(0点~26点)で躁傾向の有無を判定するものである。 なお、躁傾向があるとする判断値は12点とされている。 「躁症状評価尺度(MEDSCI)」の結果、「最近1~2週間において躁傾向があった」 児童生徒の割合は、全体では6.5%であり、学年別では、少学3年生で2.7%、小学5年生 で4.9%、中学2年生で7.4%、高校2年生で8.3%であった。また、「過去に躁傾向があ った」児童生徒の割合は、全体で8.5%であり、小学3年生で2.6%、小学5年生で4.2%、 中学2年生で8.9%、高校2年生で13.2%であり、学年が進むに従って高くなっている。 (% ) 25 20 15 1 3 .2 8 .5 10 7 .4 6 .5 5 2 .7 2 .6 4 .9 8 .9 8 .3 4 .2 0 全体 小3 小5 図 4 躁 傾 向 の 学 年 分 布 -6- 中2 高 2 現在 過去 3 自閉傾向について 自閉傾向 について( について (「 行動に 行動 に 関 する調査 する 調査2 調査 2 」) 自閉傾向については、「行動に関する調査2」として、「自閉症スペクトラム指数(AQ -J)」を用いて調査した。 ※ 「自閉症スペクトラム指数(Autism Spectrum Quotient: AQ-J)」は、物事へのこだわ りや日常の行動などについて、全部で50項目からなる自記式質問紙であり、各項目を点数化(各 1点)し、その合計点(0点~50点)で自閉傾向の有無を判定するものである。正常知能の 人を対象とし、一般人にも存在する一定の自閉傾向を把握することを意図して開発された尺度 であるが、高機能広汎性発達障害のスクリーニング(選別)尺度としての機能も意図したもの である。なお、自閉傾向があるとする判断値は、研究者によって、30点以上、または33点以 上とされている。 「自閉症スペクトラム指数(AQ-J)」の平均得点は、全体では20.4点であり、学年別 では、小学3年生は18.5点、小学5年生は19.0点、中学2年生は20.7点、高校2年生は 21.7点で、学年が進むに従って高くなっている。 また、30点以上の児童生徒は、全体で210人(5.8%)であり、学年別では、小学3年生 で19人(3.0%)、小学5年生で22人(3.2%)、中学2年生で55人(6.6%)、高校2年生 で114人(7.8%)であり、33点以上は、全体で66人(1.8%)、であり、学年別では小 学3年生で8人(1.3%)、小学5年生で6人(0.9%)、中学2年生で17人(2.0%)、高校 2年生で35人(2.4%)であった。 表 4 自閉症スペクトラム 自閉症 スペクトラム指数 スペクトラム 指数( 指数 ( AQAQ - J ) の 結果 人 数 学年 平均点±SD 全体 AQ-J≧30(%) AQ-J≧33(%) 全体 20.4±6.1 3633 210人(5.8%) 66人(1.8%) 小3 18.5±6.5 637 19人(3.0%) 8人(1.3%) 小5 19.0±6.0 688 22人(3.2%) 6人(0.9%) 中2 20.7±6.0 838 55人(6.6%) 17人(2.0%) 高2 21.7±5.7 1470 114人(7.8%) 35人(2.4%) (% ) 25 20 15 10 7 .8 6 .6 5 .8 5 1 .8 2 .4 3 .2 3 .0 1 .3 2 .0 0 .9 0 全 体 小 3 小5 中2 高 2 AQ-J ≧ 30 図 5 自 閉 傾 向 の 学 年 分 布 -7- AQ-J ≧ 33 4 ライフスタイルについて ライフスタイル について( について (「 行動に 行動 に 関 する調査 する 調査1 調査 1 」) ライフスタイルについては、①睡眠時間は何時から何時までですか、②家の外で週に何 時間遊びますか、③1日のうちで何時間テレビを観ますか、④1日のうちで何時間ゲーム をしますか、⑤朝食を毎日とっていますか、の5つの質問項目について調査した。 表 5 ライフスタイルに ライフスタイル に 関 する調査結果 する 調査結果 学年 睡眠(時間) 外遊び(時間) テレビ(時間) ゲーム(時間) 朝食摂取(%) 全体 7.8±1.5 2.6±2.3 2.9±2.0 1.1±2.6 87.8 小3 9.3±0.7 4.3±2.1 2.6±1.6 0.8±1.0 96.7 小5 8.9±0.8 4.0±2.5 2.9±1.7 1.5±0.8 95.7 中2 7.7±1.2 1.8±1.8 3.2±2.0 1.7±1.2 90.3 高2 6.8±1.3 1.7±1.9 3.0±2.2 1.1±1.8 78.8 -8- 第 3 章 調査結果の 調査結果 の 考察 1 本調査の 本調査 の 特徴等について 特徴等 について 本調査で用いた自己記入式評価尺度は、本来、精神疾患のスクリーニング(選別)に用 いられることが多く、①対象者の数が圧倒的に多い場合、②自己評価でもある程度信頼性 のある情報が得られるような場合、③自己評価の方がむしろ正直に答えやすい場合(無記 名など)には、自己記入式質問票は非常に有用な手段となると考えられる。 しかし、一方では、①正常な人がうつ症状をチェックしてしまうことが多くなる傾向が あること、②社会的に望ましい回答に偏ってしまう傾向があること、③何らかの問題を抱 えている対象者ほど調査に協力するという偏りが生じる可能性があること、④症状の存在 を推測することはできるが、その苦しみの程度や生活上の機能障害の程度を判定すること は困難なこと、などの問題点がある。 本調査結果については、以上の点を十分に考慮して取り扱う必要がある。 2 抑 うつ傾向 うつ 傾向について 傾向 について (1) これまでの様 これまでの 様 々 な 調査結果との 調査結果 との比較 との 比較について 比較 について 「簡易うつ症状評価尺度(QIDS-J)」の結果について、「中等度」以上を「抑うつ傾 向あり(抑うつ群)」とすると、全体で12.4%、小学3年生で3.7%、小学5年生で3.9 %、中学2年生で13.3%、高校2年生で19.4%の児童生徒に抑うつ傾向が認められた。 参考までに、過去に行われた調査では、 ・北海道学校保健審議会が平成18年に、道内の公立小学3年生、5年生、中学2年生、 高校2年生1,691人を対象として行った調査結果では、不安感や身体症状の訴えな どから心の健康の良し悪しを判断する「気分の調節不全の疑いがある者」の割合は、 小学3年生1.8%、5年生3.7%、中学2年生7.4%、高校2年生15.2%であった。 ・北海道大学が平成15年に、札幌市、千歳市、岩見沢市内の小学1年生から中学3年生 までの3,331人を対象として行った調査結果では、全体では13.0%に、小学3年生 では6.6%に、小学5年生では9.3%に、中学2年生では23.2%に抑うつ傾向が認め られた。 ・筑波大学が平成16年に、東京、神奈川、埼玉、茨城、宮崎の5都県の小学4年生か ら6年生までの3,324人を対象とした調査結果では、全体の約12.0%に抑うつ傾向 が認められた。 ・東海大学が平成18年に、静岡県の中学1年生から3年生557人を対象として行った 調査では、全体の24.6%に抑うつ傾向が認められた。 との結果が報告されており、調査方法や調査対象が異なるため、それぞれの調査結果の 単純な比較は困難であるが、いずれの調査においても一定の割合で抑うつ傾向が認めら れている。このように、自己記入式の抑うつ評価尺度では、一定の割合で抑うつ傾向を 示す児童生徒が存在し、年齢が上がるごとに得点も増加することが多くの研究によって 示されている一方で、自己記入式質問票を用いたスクリーニング(選別)テストの特性と して、正常な人がうつ症状をチェックしてしまうことが多くなることを考慮する必要が ある。 青年期での抑うつ傾向は、精神医学で厳密に言う「うつ病」とは異なり、一時的に、 また繰り返し憂うつな気分が出てくるが、変わりやすいのが特徴である。悲しく、憂う つな気分はだれでも経験するもので、継続している期間や、症状の程度が著しい場合に、 うつ病と考えられるが、青年期にはそう多くはないとされている。 うつ病の診断は医師による直接の問診や視診により行われるものであり、北海道大学 が平成19年に、千歳市の小・中学生738人(小4~中1)に対して、精神科医が直接面 接を行い、気分障害の有病率に関する疫学調査を行ったところ、うつ病と診断された児 -9- 童・生徒の割合は、小学4年生1人(0.5%)、小学5年生1人(0.7%)、小学6年生4人 (1.4%)、中学1年生5人(4.1%)という結果であったことも参考にすると、本調査に おける自己評価尺度の高い点数の者の多くが、抑うつ傾向を示すものの、うつ病である ということではないことに注意する必要がある。 (2) 項目別の 項目別 の 状況について 状況 について ア 項目別平均点について 項目別平均点 について 「簡易うつ症状評価尺度(QIDS-J)」項目別の平均点は、すべての学年で同じような 傾向を示しており、「自分についての見方」、「食欲増進」、「寝つきの悪さ」、「悲しい 気持ち」の項目が高くなっている。 うつ病では、気分が落ち込み、思考力や集中力が低下して、勉強、運動、遊びのい ずれの領域でもやる気が出なくなるのに伴い、活動量の低下や引きこもりが見られや すい。ただし、児童生徒(特に小学生)の場合は、気分の落ち込みの代わりに、イラ イラや焦燥感が出現することがあり、これらの症状とともに、睡眠障害(不眠、稀に 過眠)と食欲・体重の減少(時に、成長に伴う増加の停滞)が見られ、稀に食欲亢進 (食欲が増す)、過食、体重増加が見られることもある。 一般的に子どもは大人のように抑うつ気分や症状を自覚し、言葉で表現することが 容易でなく、表情、態度、行動で表すことが多いことにも留意する必要がある。 イ 自分についての 自分 についての見方 についての 見方について 見方 について 一般的に、青年期は、自己への意識の高まりとともに、他者に対する意識も急激に 高まり、他者と自分を比較する中で、自己評価を下げることになり、様々な悩みの原 因にもなる。 本調査において、全ての学年で「自分についての見方(無価値感、自己評価の低さ)」 が最も高くなっており、「自分に対して自信がない」子どもや、「他者からの評価に対 して敏感である」子どもが学年が進むに従って多くなっていく状況が見られる。 文部科学省が平成11年度~13年度にかけて行った「児童生徒の心の健康と生活習 慣に関する調査」においても、「やればできる」とか「将来に夢がある 」、「学校には 自分の居場所がある」など自己肯定感や自己効力感(自分への信頼感、ストレスへの 抵抗力や対応の原動力になる資質)をもてている者は「不安傾向(言いようのない焦 燥や無気力、理由無き自己嫌悪等)が少なく、問題行動も少ない」ことが明らかにな っていることなどからも、児童生徒一人一人の自己効力感を高めることに努める必要 がある。 ウ 死 や 自殺についての 自殺 についての考 についての 考 えについて 一般的に、小学校高学年以降になると、周囲からの孤立・阻害、いじめ、虐待など を契機として自殺を考えるケースのほか、精神疾患(うつ病、躁うつ病など)や災害 ・事件・事故の精神的後遺症(PTSDなど)の影響で自殺願望が生じる場合がある。 また、高校生以降はうつ病や統合失調症など精神疾患を発症する割合が高くなり、そ れらの症状の中で自殺企図が見られることもある。 また、文部科学省「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」によると、「兵庫・ 死と生を考える会」が平成16年、小学5年生から中学2年生2,189人を対象に行っ た調査においては、「これまでに死にたいと思ったことがある」と答えた者は39.3% で、「実際に自分の体をカッターなどで傷つけたことがある」と答えた者は12.7%と いう結果が得られている。 本調査の「死や自殺についての考え」についての質問において、「自殺や死につい て、1週間に数回、数分間にわたって考えることがある」と回答した割合は、小学3年 生で2.5%、小学5年生で3.0%、中学2年生で6.1%、高校2年生で7.9%、また、「自 殺や死について1日に何回か細部にわたって考える、または、具体的な自殺の計画を 立てたり、実際に死のうとしたりしたことがあった」と回答した割合は、小学3年生 で0.3%、小学5年生で0.9%、中学2年生で4.5%、高校2年生で3.2%となっており、 - 10 - 児童生徒においては、様々な要因で死や自殺を考えることがあることを十分認識し、 自殺はある日突然、何の前触れもなく起こるというよりも、長い時間かかって徐々に 危険な心理状態に陥っていくのが一般的であることから、行動の変化に留意し、自殺 の未然防止に努める必要がある。 3 躁傾向について 躁傾向 について 躁状態の症状には、爽快な気分、頭にたくさんの考えが浮かぶ、何でもできそうな気が する、睡眠時間が短くても疲れを感じないなどがある。ただし、子どもの場合には、爽快 な気分ではなく、イライラや怒りっぽさ、衝動性などが現れやすく、問題行動が誘発され やすい。 本調査の「躁症状評価尺度(MEDSCI)」において、「最近1~2週間において躁傾向 があった」児童生徒の割合は、全体で6.5%、「過去に躁傾向があった」児童生徒の割合 は、全体で8.5%であり、その割合は学年が進むに従って高くなっている。健康な児童生 徒であっても修学旅行や運動会の前では躁状態に近い状態を示すこともあることや、前述 の平成19年に北海道大学が千歳市の小・中学生に対して行った疫学調査において、過去 に躁状態があったと判断された者は全体で8人(1.1%)であったものの、面接時に躁状 態であった児童生徒は皆無であったことにも考慮すると、疾病ではないものの、いつもよ り高揚している、あるいは開放的な気分を感じている児童生徒が一定の割合で存在するこ とを認識し、気分や行動の変化に留意する必要がある。 4 自閉傾向について 自閉傾向 について 自閉症とは、アスペルガー症候群などとともに広汎性発達障害の一種で、3歳くらいま でに現れ、他人と社会的関係の形成の困難さ、言葉の発達の遅れ、興味や関心が狭く特定 のものにこだわることを特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による 機能不全があると推定されている。自閉症に限らず広汎性発達障害は、対人交流や集団へ の適応に苦労し(対人性・社会性の障害)、こだわりや固執が強いのが特徴である。 文部科学省では平成14年に、「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児 童生徒に関する全国実態調査」を実施した。この調査は、学級担任がチェックリストをも とに児童生徒の観察を行い、回答したものであり、対象学年も異なっていることから、自 己記入式で行った本調査との単純比較は困難であるが、知的発達に遅れはないものの学習 面や行動面で著しい困難を示す児童生徒の割合は6.3%であり、このうち、学習面で著し い困難を示す児童生徒の割合が4.5%、行動面で著しい困難を示す児童生徒の割合が2.9 %、学習面と行動面ともに著しい困難を示す児童生徒の割合が1.2%という結果であった。 本調査の「自閉症スペクトラム指数(AQ-J)」の結果では、判断基準を30点以上とす ると、自閉傾向のある児童生徒の割合は、全体で5.8%、小学3年生で3.0%、小学5年生 で3.2%、中学2年生で6.6%、高校2年生で7.8%であり、33点以上とすると、全体で1. 8%、小学3年生で1.3%、小学5年生で0.9%、中学2年生で2.0%、高校2年生で2.4% という結果であり、各学年に3~7%の割合で、自分自身あるいは他者から見て学習面や 行動面における困難さや生きづらさを感じている児童生徒が存在する状況にある。 5 ライフスタイルについて ライフスタイル について 児童生徒のライフスタイルについては、これまでの多くの調査と、概ね同様の結果であ った。 本調査のライフスタイルと抑うつ傾向・躁傾向・自閉傾向との相関関係を検討した結 果、抑うつ傾向と「睡眠時間の減少」及び「朝食を食べないこと 」、躁傾向と「睡眠時間 の減少」、自閉傾向と「ゲーム時間の長さ」に統計的な関連が見られた。 文部科学省が平成11年度~13年度にかけて行った「児童生徒の心の健康と生活習慣に 関する調査」においても、心の健康状態が安定している子どもほど「すぐ眠りについた」、 - 11 - 「朝すっきり目が覚めた」、「朝食を食べてきた」と回答する割合が高く、「夕食の時刻が 決まっている」、「就寝時刻が決まっている」などの生活の規則性とも関連性が認められ ている。 一般的に、子どもは大人のように自分の気持ちや状態を認識し、言葉で表現すること が容易ではなく、「好きだったテレビ番組も見なくなった」、「友だちと遊ばなくなった」、 「朝早く目が覚めてしまう」など生活行動の変化として現れることにも留意する必要が ある。 6 抑 うつ傾向 うつ 傾向、 傾向 、 躁傾向、 躁傾向 、 自閉傾向の 自閉傾向 の 相関関係について 相関関係 について 抑うつ傾向、躁傾向、自閉傾向の相関関係を検討した結果、QIDS-J得点(抑うつ傾向)、 MEDSCI得点(躁傾向)、AQ-J(自閉傾向)には、いずれも相互に関連が認められた。 このことから、児童生徒が抑うつ傾向をもつ場合、友人関係や家族関係などの環境要因 だけではなく、自閉症や広汎性発達障害など様々な要因との関連も考慮する必要があると 考えられる。 - 12 - 第 4 章 調査結果から 調査結果 から明 から 明 らかになった課題 らかになった 課題 1 抑うつ傾向や躁傾向を示す児童生徒が一定の割合で存在することから、学校や家庭にお いて、児童生徒の身体症状や行動の変化を見逃さないようにするなど、心の健康問題の早 期発見に努め、必要に応じて専門医を受診させるなど早期対応に努める必要がある。 2 自分に対する価値観をもてずに低い自己評価の児童生徒が、学年が進むに従って多くな る傾向にあることから、共感的な人間関係をはぐくむ環境づくりに努める中で、児童生徒 が自分の良さを自覚し、自己肯定感や自己効力感を高めさせる指導に努める必要がある。 3 児童生徒においては、一定の割合で死や自殺を考える傾向にあることから、自殺予防に 関する具体的な取組を推進する必要がある。 4 自閉傾向を有する児童生徒が、対人交流や集団への適応に苦労し(対人性・社会性の障 害)、抑うつ傾向、躁傾向を示す場合もあることから、発達障害の有無など、様々な要因 を考慮し、児童精神科等の専門医や保健所、児童相談所などの関係機関等と連携した支援 に努める必要がある。 - 13 - 参 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 考 文 献 「教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の手引き」 文部科学省 「教職員のための子どもの健康観察の方法と問題への対応」 文部科学省 「心の健康と生活習慣に関する指導」 文部科学省 「生徒指導提要」 文部科学省 「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」 文部科学省 「児童思春期メンタルヘルス相談対応ガイドブック」 北海道 「子どものうつ病ー見逃されてきた重大な疾患ー」 傳田健三著 金剛出版 「子どものうつ」に気づけない! 傳田健三著 佼成出版社 「うつ病治療ハンドブックー診療のコツー」 大野 裕編 金剛出版 「うつ病の事典ーうつ病と双極性障害がわかる本ー」 樋口輝彦ほか編著 日本評論社 「こどものうつハンドブックー適切に見立て、援助していくためにー」 奥山眞紀子ほか編著 診断と治療社 - 14 -