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乳糖不耐症の病態発生に関する基礎的研究 - J-milk

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乳糖不耐症の病態発生に関する基礎的研究 - J-milk
乳糖不耐症の病態発生に関する基礎的研究
静岡県立大学環境科学研究所:桑原
厚和、唐木
晋一郎
はじめに(研究概要)
乳糖不耐症は、小腸におけるラクターゼ活性が低いために、摂取した乳糖が分解されずに大腸
に入り大腸内容物の浸透圧上昇がもたらされることによって発症する、と考えるのが一般的であ
る。しかし最近では、乳糖そのものによる浸透圧上昇ではなく、大腸の腸内細菌による乳糖の発
酵により産生される有機酸によって腸管粘膜が刺激されることが原因と考えられるようになって
きた。このことは、我々日本人を含む東洋人のラクターゼ活性不全が 70~100% に達するにもか
かわらず、
乳糖不耐症の発症率は極軽微な症状まで含めても 2 割程度にとどまる理由であるかも
しれない。すなわち、ほとんどの乳糖不耐症は乳糖そのものによる大腸内浸透圧上昇が原因とな
るのではなく、大腸における未消化乳糖の発酵により有機酸の大量産生が発生し、なおかつ大腸
粘膜の有機酸刺激に対する過敏症が存在した場合に発症する可能性があるのではないか、と我々
は考えた。我々はこれまでの研究によって、大腸の発酵作用によって産生される主要な有機酸で
ある短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)の刺激により惹起される大腸の生理反射(蠕動・
分泌反射)について、生理学的研究を行ってきた(Ono et al. 2004; Mitsui et al. 2005a, b; Karaki
et al. 2008b)
。
そして、
2003年に同定された短鎖脂肪酸受容体 FFA2(GPR43)および FFA3(GPR41)
(Brown et al. 2003; Le Poul et al. 2003; Nilsson et al. 2003)、さらに、短鎖脂肪酸をナ
トリウムとの共輸送によって細胞内に取り込む輸送体 SMCT1 (slc5a8)(Miyauchi S, 2004)の
腸管における発現・分布について、ヒトおよびラットの腸管組織を用いた免疫染色によって明ら
かにしてきた(Takebe et al. 2005; Karaki et al. 2006, 2008a, b; Iwanaga et al. 2006; Tazoe
et al. 2009)
。大腸において発酵を受け、短鎖脂肪酸を産生させる食物繊維をラットに与えるこ
とによって、結腸の生理機能に変化が現れることも報告してきた(Mitsui et al. 2006)。そこで、
本受託研究においては、これまで我々が蓄積してきた短鎖脂肪酸の大腸における生理作用と短鎖
脂肪酸受容体の発現分布に基づき、ラットを用いて、乳糖摂取により、これらの大腸粘膜におけ
る短鎖脂肪酸の受容と輸送に関連する分子の発現分布がどのように変化するか、調べることにし
た。しかし、受容体、輸送体の発現動態を調べる基礎として、それら受容体、輸送体のより精密
な発現分布が必要であったが、そのようなデータは存在していない。そこで、まずはラットにお
ける短鎖脂肪酸受容体の発現・分布の詳細を検討することから研究をはじめ、その後、実際にラ
ットの食餌に乳糖を添加して一週間の飼育を行い、ラットを解剖して標本を作製して解析を行っ
た(実験方法参照)
。さらに、モデル動物の結果をヒトに外挿するために、ヒトの手術検体を用い
て、腸管各部位における短鎖脂肪酸受容体の発現・分布の解析も行った。その後、ラクトースを
添加した食餌をラットに与え、飼育した後に解剖し、盲腸内容物中の有機酸濃度測定、糞便量測
定を行い、データを得たので報告する。同時に、タンパク質/RNA抽出用のサンプルを取り、形態
観察のために組織を固定したので、今後、解析を行っていきたいと考えている。
- 62 -
研究方法
(ヒト結腸組織の入手)
静岡済生会病院外科の協力を得て、主として大腸癌摘出手術により摘出された腸管組織から、
病巣周囲の正常組織部分を提供していただいた。なお、手術検体の提供に当たっては、静岡済生
会病院および静岡県立大学の倫理委員会での承認を得ており、執刀外科医による各患者及び患者
家族に対するインフォームドコンセントを得た上で組織を提供いただいている。摘出された腸管
より切り出された標本は、
ただちに氷冷したKrebs-Ringer液に浸漬して大学の研究室に輸送した。
(Western blot 法)
提供されたヒト大腸組織より粘膜を剥離し、マイクロチューブに入れて液体窒素により凍結、
-80℃で保存した。ラット腸管組織は、Wistar 系雄性ラット(日本SLC、浜松)をエーテル麻酔し、
ギロチンで断頭して放血、屠殺した。腸管を摘出し、シート状に開いてシリコンラバーを敷いた
ディッシュに固定した。腸管各部位の粘膜をマイクロチューブに採取し、液体窒素により凍結、
-80℃で保存した。
SKミル(SK-100, ㈱トッケン、柏)を用いて組織を凍結粉砕し、タンパク質抽出用緩衝液[50 mM
TRIS-HCl pH7.4, 150 mM NaCl, 0.05% Triton X-100, 1% protease inhibitor cocktail (P8340,
Sigma)]に溶解、10000 rpm で遠心、上清を取り、サンプルとしてタンパク定量を行った。Leamili
バッファー[2%SDS, 6%β-mercaptoehanol, 10% glycerol in 50 mM TRIS-HCl pH6.8]を加え、
65℃15分間インキュベートしてタンパク質を変性させ、-20℃で保存した。
腸管各部位のタンパク質サンプル溶液を10%SDS-ポリアクリルアミド・ゲルで電気泳動し、PVDF
メンブレンに転写した。メンブレンを0.3%スキムミルク-PBS(0.1%Triton X-100)に浸漬して室
温、1時間インキュベートしてブロッキングを行い、10000倍希釈したウサギ抗GPR43(FFA2)抗体
(RY1505)
、およびコントロールとしてウサギ抗βアクチン(10000倍希釈、Rockland)に4℃で一
晩反応させた。メンブレンをPBS-Tで洗浄し、HRPラベル2次抗体(30000倍希釈、Santa Cruz)を
室温、2時間反応させ、洗浄した。ECL反応を行い(Amersham ECL Plus, GE Healthcare)、LAS-3000
mini(富士フィルム)によって、バンド画像を取得した。
(蛍光免疫染色法)
ヒト組織はZamboni固定液に浸漬し、
4℃で一晩浸漬固定した。ラット組織は浸漬固定する前に、
次の通り潅流固定を行った。ラットをペントバルビタール腹腔注射により麻酔し、開腹・開胸、
ペリスタポンプを用いて左心室からPBSを潅流し、右心房を切開して放血させた。続いてZamboni
固定液を潅流した。潅流固定された腸管を摘出し、Zamboni固定液に浸漬して、4℃で一晩固定し
た。
固定した組織をPBSで洗浄(10分×3)し、30%ショ糖-PBS(含0.1%アジ化ナトリウム)に浸漬
して4℃で1日以上静置し、クリオプロテクションを行った。クリオプロテクションされた粘膜組
織片はOCTコンパウンド(Tissue Tek, サクラファインテックジャパン、東京)に包埋し、液体窒
素で凍結させて-80℃で保存した。
クリオスタット(CM1100、ライカ)を用いて10μm厚の凍結切片を作製し、APSコートのスライ
ドグラスに張り付け、乾燥させた。PBSで洗浄(10分×3)した後、切片に0.5%BSA, 10%正常ロバ
- 63 -
血清-PBSを滴下し、室温で30分間静置してブロッキングを行った。1次抗体をPBSで適当な倍率で
希釈し、ブロッキング済みの切片に滴下して、湿箱中、4℃、一晩静置した。1次抗体を反応させ
た 切 片 を PBS で 洗 浄 ( 10 分 × 3 ) し 、 Alexa594 標 識 ロ バ 抗 ウ サ ギ IgG 抗 体 ( 200 倍 希 釈 、
MolecularProbes)及び核染色用のDAPI(5μg/mL、同仁化学研究所、熊本)混合液を滴下して、
暗湿箱中、室温、1時間静置した。反応の終了した切片をPBSで洗浄(10分×3)し、マウンティン
グ・メディウム(DAKO)を滴下、カバーグラスをかけ、マニキュアを用いて封入した。蛍光顕微
鏡(IX70、オリンパス、東京)
、冷却CCDデジタルカメラ(AxioCam, Zeiss)及び画像取得ソフト
ウェア(Axiovision)により蛍光画像をコンピューターに取り込み、解析を行った。
(ラクトース添加食餌試験)
Wistar系雄性ラット(7週齢、20 匹、日本SLC、浜松)をコントロール食餌(表 1)にて1週間
馴化飼育した(自由摂食・飲水)
。馴化飼育後、各個体の体重の平均及び分散が等しくなるように
5匹ずつ4群に群分けを行った。内2群にはコントロール食餌を与え(コントロール群)、残りの2
群には20%ラクトース食餌を与えた(20%ラクトース群)。1週間飼育した後、コントロール群お
よび20%ラクトース群、それぞれ一方の群の動物を屠殺・解剖し、標本を採取した(
「コントロー
ル-1wks群」および「20%ラクトース-1wks群」)
。残りの群はさらに2週間、1週目と同じ食餌で飼育
して屠殺・解剖し、標本採取した。図 1に本実験のタイムコースを示す。体重は毎日測定し、6-7
日目二日間の糞塊を回収し、湿重量、及び凍結乾燥して乾燥重量を測定した。
表 1.コントロールおよびラクトース添加飼料の組成
Ingredients
Control
Cornstarch
652.5
20% Lactose
452.5
Lactose
0
200
Casein
250
250
Corn oil
50
50
Mineral mix.
35
35
Vitamin mix.
10
10
Choline bitartrate
2.5
- 64 -
2.5
0wk
1wk
2wk
Fecal sampling (2d)
3wk
Fecal sampling (2d)
Autopsy (n=5/group)
Autopsy (n=5/group)
図 1.ラクトース添加食餌実験プロトコル
(サンプリング)
動物をエーテル麻酔し、断頭・放血により屠殺した。開腹し、腸管を摘出、氷冷PBSに浸漬した。
盲腸の全重量および組織重量を測定し、盲腸内容物量を算出した。また、盲腸内容物をチューブ
に回収した。そして、回腸終末部、盲腸、近位結腸、中位結腸、遠位結腸より核酸/タンパク質
抽出用の小片を切り取り、核酸/タンパク質安定化剤(Allprotect Tissue Reagent, Qiagen)に
浸漬し一晩4℃に静置した後、-80℃で保存した。さらに、免疫組織化学に供するために、各部位
の組織片をZamboni固定液に浸漬した。以後の処理は(蛍光免疫染色法)に記したとおりである。
(盲腸内容物のpHおよび有機酸測定)
盲腸内容物はホモジナイズし、同量の蒸留水に溶解して、コンパクトpHメーター(Model C-1,
Horiba,
東京)を用いて盲腸内容物のpHを測定した。盲腸内容物中の有機酸(酢酸、プロピオン
酸、n-酪酸、コハク酸、乳酸、ギ酸)は、Shim-pack SCR-102H カラム (8 mm i.d. × 30 cm long,
島津, 京都)、および電気伝導度検出器(CDD-6A, 島津)を装着したHPLC(LC-6A, 島津)を用い、
内部標準法によって測定した(Hoshi et al. 1994)
。
300 mg の盲腸内容物を、0.5 g/L のクロトン酸を内部標準として加えた 10 m mol/L 水酸化ナ
トリウム水溶液 2 mL に溶解し、10,000 × g , 15 分間遠心した。この上清をHPLC分析に供した。
(統計)
本研究における結果および図表中のデータは、全て平均±標準誤差として示した。多群間の検
定には分散分析を用い、2群間の比較検定には始めにf検定による等分散性の検定を行った。等分
散の2群間の検定にはt検定を、非等分散の2群間の検定にはWelchのt検定を用いた。いずれの分
析・検定においても、P<0.05をもって統計的有意とした。
結
果
(Western blot法)
ヒト下部消化管における短鎖脂肪酸受容体GPR43およびGPR41タンパク質の発現を図2に示した。
GPR43、GPR41とも、腸管粘膜において最も強く発現していた(図2A)
。腸管各部位の短鎖脂肪酸受
- 65 -
容体発現を、β-アクチンで標準化すると、GPR43については、S状結腸において最も強い発現が見
られ、以下、上行結腸
> 直腸 > 回腸終末部という傾向があった(n = 5 – 7, P = 0.08 by ANOVA,
図2B)
。一方、GPR41に関しては、腸管部位による発現量の差はみられなかった。
ラット胃腸管粘膜においてもGPR43の定量的な解析を試みた。その結果 GPR43の発現量は、盲腸
= 遠位結腸 = 回腸終末部 > 近位結腸 >>(胃~空腸)であり(図3)、回腸終末部以下の下
部消化管に強く発現していた。なお、今回用いたウサギ抗GPR41抗体はラットGPR41には交差しな
T e rm in a l
ile u m
A s c e n d in g
c o lo n
S ig m o id
c olo n
R e c tu m
M ucosa
S ubm ucosa
M u s c le
W h o le w a ll
M ucosa
S ubm ucosa
M u s c le
W h o le w a ll
M ucosa
S u bm ucosa
M u s c le
W h o le w a ll
A
M uc o s a
S u b m u co sa
M u s c le
W h o le w a ll
いため、今回はGPR43のみを解析した。
G PR43
GPR41
B
図 2.ヒト下部消化管における短鎖脂肪酸受容体 GPR43 および GPR41 タンパク質発現
A: 腸管各部位の腸管壁各層における GPR43 および GPR41 タンパク質発現。
B: 腸管各部位の粘膜(mucosa)における短鎖脂肪酸受容体発現
GPR43 については分散分析によって群間に差のある傾向がみられた(P = 0.08、平均±
標準誤差、n = 5 – 7)
。
- 66 -
GPR43
β-actin
GPR43 / β-actin
2.0
1.5
1.0
0.5
cu
ro
m
xi
m
al
co
lo
d
n
is
ta
lc
o
lo
n
p
al
ce
m
ile
u
u
m
n
je
ju
en
od
du
te
rm
in
py
lo
ri
c
an
tr
u
u
m
m
0.0
図 3.ラット胃腸管における GPR43 タンパク質発現
P < 0.05 by ANOVA、平均±標準誤差、n = 3
(免疫組織化学)
我々の先行研究(Karaki et al. 2008)と同様、GPR43はヒト結腸において、腸内分泌細胞の細
胞質全体と(図4矢印)
、上皮細胞の管腔側細胞質中のゴルジ装置部分(図4)が免疫活性を有して
いた。一方、ラット回腸終末部および遠位結腸においても、同じく我々の先行研究と同様、腸内
分泌細胞と5-HTを含有する粘膜肥満細胞にGPR43の免疫活性が観察された。ラット盲腸では、他の
部位の陰窩では観察されなかった陰窩の中央部の管腔側細胞膜に強いGPR43免疫活性が観察され
た(図5)
。また、ラットの腸管粘膜固有層をさらに詳細に観察すると、分葉状の核を有する好中
球様の細胞にもGPR43免疫活性が観察された(図5B△)。
- 67 -
図 4.ヒト上行結腸における GPR43 免疫活性
- 68 -
A
50 µm
B
100 µm
図 5.ラット盲腸粘膜における GPR43 免疫活性
(ラクトース添加食餌試験)
飼育データ:
本試験に供したラットの飼育0日の体重は 168.7 ± 1.7 g (n=20)であった。飼育期間中、
コントロール群、および20%ラクトース群とも、ほぼ直線的な体重増加が測定されたが(図6)、飼
育1週間には、コントロール群の体重が 199.1 ± 2.5 g(体重増加:30.4 ± 1.4 g)であった
のに対して、20%ラクトース群では 187.9 ± 3.3 g(体重増加:19.1 ± 1.4 g)であり、20%ラ
クトース群の体重増加はコントロール群に比べて有意に小さかった(n=10, P < 0.001 by t-test)。
飼育3週目においては、コントロール群:251.2 ± 2.9 g(体重増加:84.0 ± 1.0 g)、20%ラク
トース群:226.0 ± 7.5 g(体重増加:57.8 ± 5.4 g)であった(n=5, P < 0.001 by t-test)。
飼育3週目までの体重増加曲線を図6に示す。20%ラクトース食餌飼育においては、飼育2 ~ 4 日
の間に、
過半数の動物に下痢・または軟便が観察されたが、
飼育6日目以降は全て通常便であった。
一方、コントロール群には下痢や軟便は観察されなかった。
- 69 -
ラットの摂餌量は、20%ラクトース群において、2日目に目立って減少し、その後、コントロー
ル群に比べて低い摂餌量が続いた(図7A)。累積摂餌量は飼育1週間目はコントロール群:102.6 ±
2.3 g に対して、20%ラクトース群 81.7 ± 1.7 g (P < 0.01 by t-test, n=10)、飼育3週間目
はコントロール群:320.7 ± 3.8 g、20%ラクトース群:261.1 ± 8.2 g(P < 0.01 by t-test, n=5)
であった(図7B)
。
A
B
図 6.ラットの体重増加曲線
3 週間飼育群の体重データを平均±標準誤差で示した(n = 5)。
- 70 -
A
18
Food intake [g/day]
16
14
12
Control
10
20% Lactose
8
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
Time [day]
B
360
Cumulative food intake [g]
310
260
210
160
110
Control
20% Lactose
60
10
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21
Time [day]
図7.ラットの摂餌量
3 週間飼育群の摂餌データを平均±標準誤差で示した(n = 5)。
糞便データ:
飼育6-7日目の2日間の糞便は、10匹のうち3例に下痢がみられ、コントロール群に比して20%
ラクトース群の含水率が有意に増加していた(表2, 1 week)。飼育3週目では、20%ラクトース群
に下痢は観察されなかったが、含水率、湿重量ともに有意に増加しており、乾燥重量も増加傾向
を示していた(表2, 3 weeks)
。
- 71 -
表 2.ラットの糞便データ
1 weeks
20% Lactose diet
1.30 ± 0.25
0.69 ± 0.10
44.5 ± 1.9*
P value
0.294
0.814
< 0.05
Control diet
20% Lactose diet
1.05 ± 0.07
1.43 ± 0.11*
Wet weight [g/2days]
0.72 ± 0.04
0.88 ± 0.07
Dry weight [g/2days]
Moisture content [%]
30.9 ± 2.2
37.8 ± 1.8*
P値はt検定による。平均±標準誤差 (1 weeks : n = 10 ; 3 weeks : n = 5)
* P < 0.05 vs Control diet
P value
< 0.05
0.068
< 0.05
Wet weight [g/2days]
Dry weight [g/2days]
Moisture content [%]
Control diet
1.01 ± 0.11
0.66 ± 0.06
32.9 ± 2.4
3 weeks
盲腸組織・内容物重量および盲腸内容物のpH:
飼育7日目および3週目に屠殺・解剖した動物より摘出した盲腸の組織重量および内容物量、内
容物のpHを測定した結果を表3 に示した。20%ラクトース群の盲腸は、組織重量・内容物量共に、
1週目・3週目共に有意に増加し、また、pHは有意に低下していた。
表3.ラット盲腸のデータ
1 weeks
20% Lactose diet
2.5 ± 0.2*
1.1 ± 0.1*
7.3 ± 0.2
P value
0.013
< 0.001
0.084
Control diet
20% Lactose diet
1.6 ± 0.1
3.9 ± 0.3*
Contents [g]
0.6
±
0.0
0.9 ± 0.1*
Tissue [g]
pH
7.8 ± 0.0
7.4 ± 0.1*
P値はt検定による。平均±標準誤差 ( 1 weeks : n = 10 ; 3 weeks : n = 5)
* P < 0.05 vs Control diet
P value
< 0.001
< 0.001
< 0.001
Contents [g]
Tissue [g]
pH
Control diet
1.7 ± 0.0
0.6 ± 0.1
7.6 ± 0.1
3 weeks
- 72 -
盲腸内容物中の有機酸濃度および盲腸内容量:
盲腸内容物中の有機酸(酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、コハク酸、乳酸、ギ酸)について、盲
腸内容物重量当たりの量(濃度)および盲腸内総量(プール・サイズ)を、飼育1週目、および飼
育3週目に屠殺したラットのデータを表4にまとめた。
1週目の有機酸データは、酢酸と酪酸を除く全てにおいて、コントロール群と20%ラクトース群
間でf検定の結果が有意となり、このことは個体差によるばらつきが大きくなったためと考えら
れる。さらに、20%ラクトース群において、コントロール群に比し、酢酸濃度が減少し、コハク酸
濃度が上昇していた。20%ラクトース群のプロピオン酸は、1例のみ高値を示していた(P < 0.05 by
t-test)
。また、乳酸については、1週目に解剖した20%ラクトース群5匹中、2匹がきわめて高値
(21.52 および 46.60 μmol / g 盲腸内容物)を示していた。ギ酸については、コントロール群
では0.14 ~ 1.34 [μmol / g 盲腸内容物]であったが、20%ラクトース群では、0.55 ~ 15.95
[μmol / g 盲腸内容物]と、個体によるばらつきが大きな傾向を示した。プールサイズについ
ては、コハク酸のみ有意に増加していた。プロピオン酸、乳酸は、濃度の高かった個体の値が大
きかった。また、トータルの短鎖脂肪酸濃度は、20%ラクトース群で、酢酸濃度の減少にともない、
減少している傾向が示された。
3週目の盲腸内容物では、プロピオン酸およびコハク酸においてのみ、f検定の結果が有意とな
った。さらに、コントロール群と20%ラクトース群の間に、短鎖脂肪酸濃度の有意な差がみられな
くなった。しかし、ギ酸の濃度は有意に増加しており、コハク酸も個体間のばらつきが大きいが、
増加する傾向を示した。プールサイズによって比較すると、全ての短鎖脂肪酸とギ酸は、盲腸内
容物の増加にともなって増加していた。コハク酸も増加傾向を示していた。
- 73 -
表 4.ラット盲腸内容物中の有機酸
P value
Control
20% Lactose
52.9 ± 2.5
30.3 ± 5.6
0.000
0.006
Propionate
n-Butyrate
17.8 ± 0.5
4.3 ± 0.9
20.2 ± 4.7
3.7 ± 1.0
< 0.001
0.000
0.642
0.653
Total SCFA
75.0 ± 2.7
54.2 ± 9.8
0.000
0.095
1.9 ± 0.3
8.7 ± 2.0
0.000
0.028
Lactate
0.1 ± 0.1
13.8 ± 9.2
< 0.001
0.209
Formate
0.5 ± 0.2
7.2 ± 2.9
< 0.001
0.082
f-test
t-test
1 wk
Concentration, µmol/g contents
Acetate
Succinate
Pool-size, µmol/cecum
Acetate
*
#
#
#*
#
#
88.6 ± 3.6
72.4 ± 9.9
Propionate
n-Butyrate
29.9 ± 0.6
7.4 ± 1.6
49.5 ± 10.0
8.9 ± 2.1
0.000
0.162
< 0.001
0.000
0.121
0.580
Total SCFA
125.9 ± 4.0
130.7 ± 18.4
0.000
0.808
#
#
#*
Succinate
3.3 ± 0.5
21.1 ± 4.5
< 0.001
0.017
Lactate
0.2 ± 0.2
40.2 ± 28.9
< 0.001
0.239
0.8 ± 0.4
17.4 ± 6.8
< 0.001
0.071
48.7 ± 3.9
17.3 ± 0.5
5.4 ± 0.7
71.4 ± 4.8
52.0 ± 4.6
15.6 ± 0.6
7.7 ± 1.2
75.3 ± 5.5
0.000
0.000
0.000
0.000
0.596
0.071
0.135
0.602
1.1 ± 0.3
0
14.6 ± 6.7
0
< 0.001
-
0.117
-
0.04 ± 0.04
1.1 ± 0.1
0.000
< 0.001
76.8 ± 6.9
195.7 ± 6.3
0.000
< 0.001
27.2 ± 1.2
60.2 ± 5.0
0.000
0.001
Formate
#
#
3 wk
Concentration, µmol/g contents
Acetate
Propionate
n-Butyrate
Total SCFA
Succinate
Lactate
Formate
#
*
Pool-size, µmol/cecum
Acetate
Propionate
*
#*
*
n-Butyrate
8.6 ± 1.2
28.6 ± 2.8
0.000
< 0.001
Total SCFA
112.6 ± 9.0
284.6 ± 7.7
0.000
< 0.001
1.8 ± 0.4
0
56.7 ± 26.8
0
< 0.001
-
0.110
-
0.07 ± 0.07
4.1 ± 0.2
0.000
< 0.001
Succinate
Lactate
Formate
*
#
*
データは平均±標準誤差 ( n = 5 ; # P < 0.05 by f-test and * P < 0.05 by t-test vs. control)
- 74 -
Organic acids (concentration)
µmol/g cecal contents
100
80
n-Butyrate
Propionate
60
Acetate
40
Formate
20
Succinate
Lactate
0
1 wk
3 wk
Control
1 wk
3 wk
20% Lactose
Organic acids (pool-size)
400
n-Butyrate
µmol/cecum
300
Propionate
Acetate
200
Formate
Lactate
100
Succinate
0
1 wk
3 wk
Control
1 wk
3 wk
20% Lactose
図 8.ラット盲腸内容物中の有機酸
データは平均±標準誤差(n=5)。
- 75 -
SCFA (concentration)
µmol/g cecal contents
100
80
n-Butyrate
60
Propionate
40
Acetate
20
0
1 wk
3 wk
Control
1 wk
3 wk
20% Lactose
SCFA (pool-size)
350
µmol/cecum
300
250
n-Butyrate
200
Propionate
150
Acetate
100
50
0
1 wk
3 wk
Control
1 wk
3 wk
20% Lactose
図 9.ラット盲腸内容物中の短鎖脂肪酸
データは平均±標準誤差(n=5)。
- 76 -
考
察
(Western blot解析)
本研究において、短鎖脂肪酸受容体タンパク質のヒト下部消化管における発現量は、GPR43にお
いては回腸終末部<(直腸)<上行結腸<S状結腸という発現量の勾配があったが、GPR41は、結
腸全域にわたってほぼ同じ発現量であった(図2)。一方、ラットのGPR43は、胃や空腸では発現は
低く、回腸終末部~遠位結腸にかけて発現していることが示された(図3)
。したがって、ヒトもラ
ットも短鎖脂肪酸受容体GPR43の発現は下部消化管において多いことで共通しており、ラットの実
験結果をヒトに外挿するために重要な所見であると思われる。GPR41については、本研究の実験遂
行中、ラットで使用可能な抗体が存在しなかったために、行えなかったが、最近、我々の予備検
討の結果、ラットでも使用できる可能性のある抗体が市販されたので、今後、同様の検討を行い
たいと考えている。
(免疫組織化学による解析)
免疫染色の結果、ラットにおいてもヒトにおいても、GPR43は腸内分泌細胞に発現していた。腸
内分泌細胞ではない、腸上皮細胞にも、陰窩の浅い部分から表面上皮にかけて、免疫活性が観察
されたが、特にヒトにおいては、上皮細胞のゴルジ装置部分に免疫活性が集中し、また、ラット
の盲腸陰窩では、陰窩中央部の上皮細胞の管腔側細胞膜に強い免疫活性が観察された(図5)。し
たがって、腸内分泌細胞だけではなく、盲腸・結腸の腸上皮細胞もGPR43/GPR41を介した短鎖脂
肪酸受容が行われている可能性がある。
(ラクトース食餌試験)
20%ラクトース食餌をラットに自由摂食させると、2日目から、摂餌量が顕著に減少し、おそら
くそのために、体重増加もコントロール群に比べて低くなったものと考えられる。さらに、20%
ラクトース群では、
特餌開始1~5日にかけて、ほとんどの動物に下痢または軟便が認められたが、
その後は通常便であった。したがって、本試験に用いられた動物は、乳糖不耐症とは言えないが、
ラクトース食餌は急性期には下痢を惹起させる作用のあることが示唆された。
下痢症状が消失した特餌1週目の解剖前、食餌量は減少していたが、糞便量の増加は有意ではな
いものの増加した傾向があり、乾燥重量の変化はなく、含水率が有意に増加していた。1週間20%
ラクトース食餌群の盲腸内容物は有意に増加しており、内容物からの水分の吸収が減少している
か、あるいは分泌が亢進している可能性がある。内容物の組成をみると、主に乳酸、コハク酸が
濃度、プールサイズ共に顕著に増加していたが、短鎖脂肪酸については、プロピオン酸はやや増
加するものの、酢酸の濃度は顕著に減少していた(図8、9)。また、ギ酸もばらつきが大きいもの
の増加傾向にあった。酢酸のプールサイズはコントロール群とほぼ同じであることから、盲腸内
での酢酸の産生量は変化せず、内容量のみが増加したため、酢酸濃度が減少したと考えられる。
したがって、20%ラクトース群1週目では、乳酸菌の中でも乳酸のみを産生するホモ乳酸菌のみが
増加しているのかもしれない。
3週目になると、20%ラクトース群の糞便量は有意に増加しており、糞便の乾燥重量も有意では
ないものの増加傾向を示した。含水量は、1週目よりもやや減少したが、コントロール群より有意
に増加していた。盲腸内容物量もコントロール群の2.4倍ほどに増加し、有機酸量も増加していた
- 77 -
が、その組成は食餌1週目とは異なり、短鎖脂肪酸の濃度は、ほぼコントロール群と等しくなって
いた一方、1週目で顕著に増加していた乳酸は消失した。乳酸が消失したのは乳酸利用性細菌の増
加によって乳酸が産生とほぼ同時に代謝されるようになったからかもしれない。コハク酸はさら
に増加する傾向にあったが、ばらつきが大きく、有意差は消失していた。
以上の結果から、20%ラクトース食餌を与えることによって、食餌1週間目までの急性期には、
乳酸が蓄積し、これが原因で下痢を惹起するのかもしれない。食餌1週を過ぎると、20%ラクトー
ス食餌において下痢の症状は治まるが、この理由が乳酸利用性細菌の増加による乳酸の減少であ
るとすると、乳糖不耐症は未消化のラクトースが大腸に到達することと、乳酸利用細菌が何らか
の原因で増殖しないことが重なった場合に、下痢症状が続き、発症するのかもしれない。
これまでに、ラクトースの腸内細菌による発酵作用によって短鎖脂肪酸が産生されることは、
糞便や盲腸内容物のバッチ培養等によって報告されているが、実際の食餌に添加されたラクトー
スによって、盲腸内容物の有機酸組成がどのように変化するのか測定された研究は無いように思
われ、本研究のデータは、今後の乳糖不耐症の発症原因に関する研究にとって、非常に重要なデ
ータであると考えられる。我々は、今後、ラクトース食餌によって増加した乳酸や短鎖脂肪酸に
よって、GPR43、GPR41などの短鎖脂肪酸受容体やSMCT1などの輸送体発現の変化を解析し、大腸内
環境の変化に加えて、さらに生体側の変化を解析することで、乳糖不耐症の発症原因の解明に寄
与したいと考えている。
引用文献
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