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海外工業団地事業調査 報 告 書 平成26年2月 経 済 産 業 省

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海外工業団地事業調査 報 告 書 平成26年2月 経 済 産 業 省
20130808財貿第1号
平成25年度インフラ・システム輸出促進調査等事業
海外工業団地事業調査
報 告 書
平成26年2月
経 済 産 業 省
委託先:新日本有限責任監査法人
平成25年度インフラ・システム輸出促進調査等事業
海外工業団地事業調査
報
告 書 目 次
はじめに .................................................................................................................... 1
1.
海外工業団地事業の概況 ...................................................................................... 2
1.1.
1.1.1.
日系製造業の海外進出の現状と今後の見込み ............................................. 2
1.1.2.
日系企業の海外進出と工業団地................................................................. 5
1.2.
2.
日系製造業の海外進出動向............................................................................. 2
工業団地事業の概要(デベロッパー概況) ........................................................... 6
1.2.1.
主要日系デベロッパーの海外工業団地展開状況........................................... 6
1.2.2.
主要海外デベロッパーの工業団地展開状況 ................................................10
工業団地開発の現状把握 .....................................................................................12
2.1.
各国の工業団地状況、日系企業進出状況 .........................................................12
2.1.1.
日本企業の進出が多い、もしくは今後多くの進出が見込まれる地域における工業団
地の開発状況 .....................................................................................................12
2.1.2.
対象各国工業団地における日本企業の進出状況 .........................................52
2.1.3.
工業団地以外への日本企業の進出実績 .....................................................74
2.2.
2.2.1.
タイ .......................................................................................................75
2.2.2.
ブラジル ................................................................................................81
2.2.3.
メキシコ .................................................................................................96
2.2.4.
カンボジア ........................................................................................... 107
2.3.
海外工業団地開発・運営事業におけるビジネスモデル/収益構造の整理 ............... 114
2.3.1.
海外工業団地の開発・運営事業におけるビジネスモデル/収益構造の整理 ..... 114
2.3.2.
他国の主要な類似事業者の選定 ............................................................. 124
2.3.3.
競争力比較分析 ................................................................................... 127
2.4.
3.
海外現地調査 ...............................................................................................75
国別レンタル工場の状況整理 ........................................................................ 131
2.4.1.
対象各国におけるレンタル工場の状況 ...................................................... 131
2.4.2.
レンタル工場の動きの活発な国における詳細な状況 .................................... 133
2.4.3.
レンタル工場へのニーズ、活用のメリット..................................................... 134
2.4.4.
レンタル工場に関するデベロッパー側の見解 ............................................. 135
進出要因分析 ................................................................................................... 137
3.1.
アンケート調査実施方法・結果概要................................................................. 137
3.1.1.
アンケート調査実施に係る概要 ................................................................ 137
3.1.2.
3.2.
拠点選定判断要因分析 ................................................................................ 139
3.2.1.
過去の拠点選定判断にかかるアンケート結果 ............................................. 139
3.2.2.
過去の拠点選定における判断要因の分析 ................................................. 144
3.3.
4.
アンケート結果概要 ............................................................................... 138
海外進出判断における重要事項の調査 .......................................................... 145
3.3.1.
今後の海外進出判断における重要事項に関するアンケート結果 .................... 145
3.3.2.
今後の拠点選定における重要事項の分析 ................................................. 157
有望地域の選定 ................................................................................................ 159
4.1.
工業団地需要推計(国別)............................................................................. 159
4.1.1.
先行研究及び課題 ................................................................................ 159
4.1.2.
データセット ......................................................................................... 159
4.1.3.
データの状況 ....................................................................................... 160
4.1.4.
仮説 ................................................................................................... 161
4.1.5.
工業団地需要の地域別定量的推計(現状)................................................ 163
4.1.6.
工業団地需要の地域別定量的推計(将来)................................................ 167
4.2.
海外工業団地事業の課題整理、推進に向けた対応策検討 ................................. 170
4.2.1.
海外工業団地事業の課題整理 ................................................................ 170
4.2.2.
海外工業団地事業推進に向けた対応策の検討 .......................................... 173
4.3.
今後多くの日本企業の進出が見込まれる有望工業団地開発案件の選定 ............... 174
4.3.1.
今後多くの日本企業の進出が見込まれる有望国における工業団地開発案件の選
定
174
4.3.2.
その他今後多くの日本企業の進出が見込まれる国・地域に関する工業団地開発の
考察
198
はじめに
2013 年 5 月、経協インフラ戦略会議において、「インフラシステム輸出戦略」が決定された。同
戦略においては、面的・広域的な取組への支援や中小・中堅企業等の海外展開等を後押しするこ
ととしている。これらの観点から、海外工業団地は非常に重要な分野であり、インフラシステム輸出
の主要分野の一つとして位置付けられている。
工業団地とは、一定区画の土地を工業区画として整備した地域のことで、工場がその区画内に
入居することで、工業が集積した地帯のことである。海外における工業団地は、特に新興国の場合
にはインフラ整備状況のよい団地だけではなく課題の多い団地も多く見られるが、インフラが整備
された団地においては、日系企業が海外で製造拠点を設けるにあたってスムーズな事業開始に寄
与するものである。このため、日系製造業の海外展開促進に向けては、インフラが整備された工業
団地の存在が重要である。
係る状況下、日本企業による海外工業団地事業の展開は、日系デベロッパー企業による事業投
資の拡大、周辺インフラへの関与を通した日本企業による機器の輸出等の促進、現地に進出する
日本企業への良質なビジネス環境の提供等の意義を有し、政策的に重要である。
本事業では、海外における工業団地開発の状況を調査し、現状ではアジアに偏重している日本
企業による海外工業団地事業について、アジアでの更なる拡大の可能性や他地域への展開の可
能性などを検証した。また、海外工業団地事業の課題を整理し、その対応策を検討した。
1
1. 海外工業団地事業の概況
1.1. 日系製造業の海外進出動向
1.1.1. 日系製造業の海外進出の現状と今後の見込み
1.1.1.1. 日系製造業の海外進出の現状
日系製造業の海外進出の現状について確認を行うにあたり、経済産業省の「海外事業活動基本
調査」に基づき、日系製造業の海外進出動向の整理を行った。
まず、日系製造業の海外展開状況を確認するために、海外現地法人数の推移をみると、2002 年
には海外現地法人数が大企業・中小企業を合わせた全体で 6,918 社だったが、2011 年には 8,684
社へと 25%増加している。2008 年にはリーマンショックの影響で海外現地法人数は一旦減少した
ものの、その後すぐに回復しており、期間全体を通して増加基調にあることがわかる。なお、直近
10 年間での中小企業の海外進出数の増加は 18%であり、大企業の 28%の増加率には及ばない
ものの、確実に進出件数は増えている。
図表 1 日系製造業の海外現地法人数推移(規模別 1)
10000
9000
8000
7000
6918 7127
6000
5000
4145 4295
8287 8318 8147 8399 8412
7786 8048
8684
4977 5003 5027 5026 5084 5311
4650 4785
中小企業
4000
不明
3000
2000
1000
0
大企業
3257 3208 3054 3303 3241 3273
2758 2818 3111 3243
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
(出所)経済産業省「海外事業活動基本調査」より新日本有限責任監査法人作成
さらに、日系製造業の進出先を地域別で見てみると、全現地法人の約7割がアジアに集中して
いる。アジア内では中国が圧倒的に多く、タイ、インドネシア、マレーシア、台湾、ベトナムの
順で多くなっており、中国のほか、ASEAN及びNIES各国に集中していることがわかる。近年進出
の増えているインドは、拠点数ではこれらASEAN/NIES各国には及ばない状況である。
1
資本金 3 億円を超える企業を大企業、3 億円以下の企業を中堅・中小企業として分類している。
2
図表 2 日系製造業の現地法人設置地域
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
6404
1075
795
247
106
47
10
(出所)経済産業省「海外事業活動基本調査」より新日本有限責任監査法人作成
図表 3 日系製造業の現地法人設置国(アジア内訳)
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
3219
864
415
366
348
286
266
224
209
164
43
(出所)経済産業省「海外事業活動基本調査」より新日本有限責任監査法人作成
1.1.1.2. 日系企業の海外進出に関する今後の展望
JBIC(2013)「我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」によると、中期的有望事業
展開先国・地域として、2013 年にインドネシアが初めて 1 位に浮上している。これまで 1 位を占めて
きた中国が大きく順位を落とすなか、インド、タイ、ベトナムも堅調である。また、中南米のブラジル、
メキシコも引き続き注目を集めている。
前項に見た通り、既存の進出先(現在の現地法人数)としては中国が圧倒的に多いものの、今
後は ASEAN 各国、南米等が新たな進出先として検討をされ始めていることがわかる。
3
図表 4 中期的(今後 3 年程度)有望事業展開先国・地域
(出所)JBIC(2013)「我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」
4
1.1.2. 日系企業の海外進出と工業団地
日系製造業の海外進出が増加する一方、これら企業の進出先として選択されることも多いのが工
業団地である。特に、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン等のアジアの工業団地では、現在多
くの日系企業が集積をしている。
また、中小企業の海外進出ニーズが増加するなかで、ここ数年は初期費用が安くてすむレンタル
工場が人気である。ベトナム、タイ、インドネシア等では、日系工業団地の中に設けられたレンタル
区画は、需要に対して供給が不足しており、新たなレンタル工場を建設する動きも活発化している。
こうしたなか、日系中小企業向けの小区画のレンタル工場を提供する事業者も出てきている。
工業団地は、日系製造業の海外進出のうえで、多くのメリットがあるとされて、進出先として積極
的に検討されることも多い一方、デメリットとされている点もある。企業によってはそのデメリットを重
視し、あえて工業団地外に進出することもあるという意見が聞かれた。
工業団地に入居するメリット・デメリットをまとめると下表のとおりである。
図表 5 工業団地立地のメリットとデメリット比較
メリット
デメリット
・
・
土地の造成や、電力・水等のインフラが整
備されているなど、自前で一から工場を立
ブホッピングが起こりやすい)
ち上げるより楽に事業開始可能
・
・
・
既に日系企業が集積している場合、顧客に
手厚いサポート、充実したインフラの反面、
コスト高となる
近い立地が可能
・
広大な土地の確保が難しい
ワンストップサービスがある場合、初期立ち
・
将来的な拡張時に近隣の土地での拡張が
上げの手間が省力化できる
・
労働者が他社に容易に転職してしまう(ジョ
難しい(他企業が入居済のため)
団地によっては日本人が常駐している場合
もあり、日本語によるサポートが受けられる
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人整理
5
1.2. 工業団地事業の概要(デベロッパー概況)
1.2.1. 主要日系デベロッパーの海外工業団地展開状況
我が国においては、海外工業団地事業はこれまで商社を中心にアジアにおいて推進されてきた。
デベロッパー毎にその展開状況を概観すると以下の通りである。
図表 6
関連
国
日系各社の関与する海外工業団地事業
工業団地名
運営企業
日本企業
住友商事
企業名
ベトナ
ム
株主(比率)
タンロンインダストリ
Thang Long Industrial
住友商事 58%
アルパーク(TLIP)
Park Corporation
ドンアインメカニカルカンパニ
開発面
設立
積(ha)
年度
273
1997
年
ー42%
ベトナ
タンロンインダストリ
Thang Long Industrial
住友商事 80%
ム
アルパークⅡ(TLIP
Park II Corporation
タンロンインダストリアルパ
Ⅱ)
フィリピ
ン
346
2006
年
ーク 20%
ファーストフィリピン
First Philippine
First Philippine Holdings
工業団地
Industrial Park, Inc.
Corp. 70%
349
1996
年
住友商事 30%
インドネ
イーストジャカルタイ
PT. EAST JAKARTA
住友商事 60%
シア
ンダストリアルパー
INDUSTRIAL PARK
インドネシア資本 40%
プノンペン経済特区
Phnom Penh SEZ Co.,
Local 78%
(販売代理)
Ltd.
株式会社ゼファー22%
スルヤチプタ工業団
PT. Suryacipta
PT. Surya Semesta Internusa
地(販売代理)
Swadaya
スルヤインターヌサグループ
カラワン工業団地
PT. Maligi Permata
伊藤忠商事 50%、シナルマス
Industrial Estate (略称:
グループ 50%
320
1990
年
ク
カンボ
ジア
インドネ
シア
伊藤忠商事
インドネ
シア
360
2006
年
1,400
1991
年
1,400
1995
年
MPIE) PT. Harapan
Anang Bakri & Son's (略
称:HAB) PT. Karawang
Tatabina Industrial
Estate (略称:KTB)
ベトナ
ム
アマタベトナム工業
Amata Vietnam Co.,
AmataCorp.:60.78%、
団地
Ltd.
Sonadezi Vietnam: 30.00%
6
700
1994
年
関連
国
工業団地名
運営企業
日本企業
企業名
タイ
株主(比率)
アマタ・ナコーン工業
Amata Corporation
The Kromadit Family 27.88%
団地
Public Company
Thai NVDR Co., Ltd.
Limited
STATE STREET BANK AND
開発面
設立
積(ha)
年度
2,400
9.91%
1989
年
TRUST COMPANY FOR
AUSTRALIA 6.02%
ITOCHU MANAGEMENT
(THAILAND) CO.,LTD.
4.69%
タイ
アマタ・シティ工業団
Amata City Co., Ltd.
Amata Corp.: 83.67%
1,360
地
中国
1995
年
日中合弁大連工業
大連工業団地開発管
(大連工業団地投資株式会
団地
理有限公司
社)
大連工業団地投資株
ITOCHU(29.375%)
式会社
OECF(40%)
217
1992
年
大連経済技術発展公
司
双日
インドネ
グリーンランドインタ
PT.PURADELTA
双日 25%
シア
ーナショナル工業団
LESTARI 及び 双日株
シナルマス 75%
地(GIIC 工業団地)
式会社
ロテコ工業団地
The Long Binh
双日株式会社 60% Thai Son
Industrial Zone
Corporation 40%
ベトナ
ム
1,300
1996
年
100
1996
年
Development Limited
Liability Company
インド
日鉄住金物
タイ
産
双日マザーソン工業
Motherson Auto
双日 33%
115
団地
Solutions Ltd.
マザーソン 64%
ロジャナ・アユタヤ工
Rojana Industrial Park
VINICHBUTR GROUP
業団地
Public Co., Ltd.
32.119%
1,648
-
1989
年
SUMIKIN BUSSAN
CORPORATION 23.094%
MASAHIRO PROPERTY
CO.,LTD.
タイ
8.266%
ロジャナ・ラヨン 1 工
Rojana Industrial Park
VINICHBUTR GROUP
業団地
Public Co., Ltd.
32.119%
7
430
1995
年
関連
国
工業団地名
運営企業
日本企業
企業名
株主(比率)
開発面
設立
積(ha)
年度
SUMIKIN BUSSAN
CORPORATION 23.094%
MASAHIRO PROPERTY
CO.,LTD.
タイ
8.266%
ロジャナ・ラヨン 2 工
Rojana Industrial Park
VINICHBUTR GROUP
業団地
Public Co., Ltd.
32.119%
240
-
960
2012
SUMIKIN BUSSAN
CORPORATION 23.094%
MASAHIRO PROPERTY
CO.,LTD.
タイ
8.266%
ロジャナ・プラチンブ
Rojana Industrial Park
VINICHBUTR GROUP
リ工業団地
Public Co., Ltd.
32.119%
年
SUMIKIN BUSSAN
CORPORATION 23.094%
MASAHIRO PROPERTY
CO.,LTD.
丸紅
インドネ
MM2100 工業団地
シア
フィリピ
リマ工業団地
PT. MEGALOPOLIS
丸紅株式会社…60%
MANUNGGAL
PT. BEKASI FAJAR
INDUSTRIAL
INDUSTRIAL ESTATE 他 2
DEVELOPMENT
社…40%
Lima Land, Inc.
丸紅 40%
ン
三菱商事
フィリピ
ム
937
ラグナ・テクノパーク
Laguna Technopark Inc
三菱商事 25%
465
VSIP
ベガメックス(ベトナム) 49%
ル工業団地1
セムコープ工業団地運営会
(VSIP-1)
社 51% (シンガポール;三菱
1995
年
450
アヤラ・ランド 75%
ベトナム・シンガポー
1990
年
Alson Land Corp 60%
ン
ベトナ
8.266%
1989
年
500
1996
年
商事が間接出資(3.4%))
ベトナ
ム
ベトナム・シンガポー
VSIP
ベガメックス(ベトナム) 49%
ル工業団地 2
セムコープ工業団地運営会
(VSIP-2)
社 51% (シンガポール;三菱
商事が間接出資(3.4%))
8
2,045
2006
年
関連
国
工業団地名
運営企業
日本企業
企業名
ベトナ
VSIP-Bac Ninh
ム
株主(比率)
VSIP Bac Ninh Co.,
ベガメックス(ベトナム) 49%
Ltd.
セムコープ工業団地運営会
開発面
設立
積(ha)
年度
500
2007
年
社 51% (シンガポール;三菱
商事が間接出資(3.4%))
ベトナ
VSIP-Hai Phong
ム
VSIP Hai Phong Co.,
ベガメックス(ベトナム) 49%
Ltd.
セムコープ工業団地運営会
500
2010
年
社 51% (シンガポール;三菱
商事が間接出資(3.4%))
ベトナ
VSIP-Quang Ngai
ム
VSIP Quang Ngai Co.,
ベガメックス(ベトナム) 49%セ
Ltd.
ムコープ工業団地運営会社
600
2012
年
51% (シンガポール;三菱商
事が間接出資(3.4%))
大和ハウス
インドネ
工業
シア
大成建設
インドネ
シア
ダイワマヌンガル工
ブガシ・ファジャール・イ
PT.Argo Manunggal Land
業団地
ンダストリアル・エステ
Development
ート社 (BEAT)
大和ハウス 10%
インドタイセイ工業団
インドタイセイ・インダ
P.T.Besland Pertiwi(51%),
地(BUKIT INDAH
ー・ディベロップメン
大成建設(46%),三井物産
INDUSTRIAL PARK)
野村證券
ベトナ
ム
豊田通商
インドネ
シア
1,350
1989
年
700
1992
年
(3%)
野村ハイフォン工業
Nomura Hai Phong
Haiphong’s People
団地
Industrial Zone
Committee 30%
Development
Nomura Asia Investment
Corporation
(Vietnam) Pte Ltd. 70%
豊田通商テクノパー
P.T. TT Techno-Park
豊田通商 75%
ク(KIM)
Indonesia
P.T. Toyota Tsusho
153
1994
年
15
2011
年
Indonesia 25%
みずほ銀行
日揮
インド
チェンナイ総合工業
アセンダス
団地
日揮
みずほ銀行
9
600
-
関連
国
工業団地名
運営企業
日本企業
企業名
双日
ベトナ
大和ハウス
ム
株主(比率)
ロンドウック工業団
LONG DUC
Long Duc Investment Pte.,
地
INVESTMENT CO.,
Ltd.
LTD.
(双日株式会社 50.2%m、大
工業
開発面
設立
積(ha)
年度
270
2012
年
和ハウス工業株式会社
39.9% 、・株式会社神鋼環境
ソリューション
9.9% )88%
ドナフード(国営食糧公社)
12%
住友商事
ミャンマ
三菱商事
ー
ティラワ工業団地
Myanmar Japan Thilawa
エム・エム・ティラワ事業開発
Development Ltd
株式会社(住友商事、三菱
丸紅
2,400
商事、丸紅) 49%
ミャンマー民間 SPC 41%
ミャンマー政府 10%
(出所)各社ホームページ等に基づき新日本有限責任監査法人作成
1.2.2. 主要海外デベロッパーの工業団地展開状況
海外のデベロッパーとしては、シンガポールのセムコープ、アセンダスが海外にて多くの工業団
地開発を手掛けた実績を有している。両社ともに、日系企業との連携の実績も見られる。
なお、セムコープは、シンガポールのユーティリティ大手で、エネルギー・水・海洋・都市開発の4
分野を展開しており、このうち都市開発部門において海外工業団地の開発・運営を行っている。ま
た、アセンダスは、シンガポール国内およびアジア各国において、サイエンス・ビジネス・ITパーク
等の設計、開発、管理、マーケティングを行う総合不動産開発企業である。
一方で、タイのアマタコーポレーションのように、タイ国内にて工業団地開発に携わり、国内にて
身に付けたノウハウを他国で展開する事例も見られる。今後は、これまで多くの実績のあるシンガ
ポール系だけではなく、アマタのように新興国にて地場工業団地開発で実力をつけたデベロッパ
ーの海外展開も増えてくることが予測される。
10
2013
年
図表 7 諸外国デベロッパーの自国外での工業団地事業
関連海外企業
国
セムコープ
インドネシア
工業団地名
Bintan Industrial Estate
Batamindo Industrial Park
Kendal Industrial Park
Karimun Marine & Industrial Complex
ベトナム
Vietnam Singapore Industrial Park Bac Ninh(三菱商事出資)
Vietnam Singapore Industrial Park Hai Phong(三菱商事出資)
Vietnam Singapore Industrial Park Quang Ngai(三菱商事出資)
Vietnam Singapore Industrial Park Bing Duong I(三菱商事出資)
Vietnam Singapore Industrial Park Bing Duong II(三菱商事出資)
中国
Wuxi-Singapore Industrial Park
Sino-Singapore Nanjing Eco High-tech Island
Singapole-Sichuan Hi-tech Innovation Park(アセンダスと合弁)
アセンダス
ベトナム
中国
Ascendas-Protrade Singapore Tech Park
Ascendas Linghu Industrial Square
Ascendas Xinsu, Suzhou
Beijing Economic & Technological Development Area, Beijing
Singapole-Sichuan Hi-tech Innovation Park (セムコープと合弁)
フィリピン
インド
アマタ
ベトナム
Carmelray Industrial Park II
Chennai Integrated Industrial Township(日揮、みずほ銀行出資)
アマタベトナム工業団地(伊藤忠出資)
(出所)各社ホームページ等に基づき新日本有限責任監査法人作成
11
2. 工業団地開発の現状把握
2.1. 各国の工業団地状況、日系企業進出状況
2.1.1. 日本企業の進出が多い、もしくは今後多くの進出が見込まれる地域における工業団地の
開発状況
2.1.1.1. 対象地域の選定
本調査対象地域の選定にあたっては、現状、日系製造業の進出が多い国、及び今後の進出先と
して有望と思われる国を選定した。日系製造業の進出数としては、ジェトロが地域別に発行してい
る「日系製造業の経営実態調査」を採用した。また、今後の進出先有望国としては、JBICの「我が
国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(2012)」において、有望事業展開先国として順
位が高く位置づけられている国を用いることとした 2。 本調査結果からもわかるとおり、今後の有望
事業展開先としては、アジア・南米に注目が集中しているものの、各地域から最低 2 カ国ずつ入れ
る形で抽出を行う方針で選定を行った。
その結果、各地域より、以下の計14カ国を選定した(選定国は図表 8 にて赤字で表示)。
(1) アジア地域
アジアについては、多くの日系企業の進出実績があるが、特に製造業が集積し、今後の展開先
として有望視されているタイ、ベトナム、マレーシア、インド、インドネシアの 5 カ国に加えて、今後の
注目の展開先であるミャンマーの計 6 カ国を対象として選定した。
(2) 南米地域
日系製造業の進出数が多く、また今後の展開先として有望視されている国として南米においては
圧倒的にブラジル・メキシコの 2 カ国が注目を集めていることから、これら 2 カ国を対象として選定し
た。
(3) 中東
中東においては、日系企業が既に一定数進出しており、有望事業展開先としても 12 位のトルコ
に加えて、日系製造業の進出数が同じく一定数見られたサウジアラビアを選定した。
(4) アフリカ
日系製造業の進出数が突出している 2 カ国(南アフリカ共和国、エジプト)を選定した。
(5) 東欧
2
本報告書作成時点での最新版は 2013 年版であるが、有望国選定を行った 2013 年 9 月時点では 2012 年版が
最新であったことから、2012 年版を基準としている。なお、図表 8 においては、2012 年版の順位に加えて 2013 年
版での順位も参考までに付記しているが、2013 年版の順位を基準とした場合においても、本事業にて調査対象と
して選定された今後の有望事業展開先国 14 カ国が選定されることがわかる。
12
製造業の進出先は、ロシア、チェコ、ポーランドの 3 カ国に集中している。さらにロシアは今後の
事業展開先国にも 8 位で入るなど企業の展開先として注目されていることから対象国として選定し
た。もう 1 カ国として、チェコについては進出がひと段落するなか、近年はポーランドへの進出が成
長しているため、ポーランドを選定した。
図表 8 対象国の選定
日系製造業進出数
有望事業展開先国
有望事業展開先国
(2012 順位)
(2013 順位)
<アジア>
中国
532
1
4
タイ
441
4
3
ベトナム
167
5
5
マレーシア
160
11
12
インド
142
2
2
インドネシア
120
3
1
フィリピン
71
15
11
シンガポール
31
16
16
バングラデシュ
18
19
-
スリランカ
17
-
-
パキスタン
14
-
-
ラオス
13
-
20
カンボジア
11
17
17
ミャンマー
5
10
8
ブラジル
53
6
6
メキシコ
37
7
7
アルゼンチン
13
-
-
チリ
5
-
-
ベネズエラ
4
-
-
ペルー
3
-
-
コロンビア
1
-
-
ロシア
100
8
9
チェコ
94
-
-
ポーランド
80
-
-
<南米>
<東欧>
13
日系製造業進出数
有望事業展開先国
有望事業展開先国
(2012 順位)
(2013 順位)
ハンガリー
39
-
-
ルーマニア
19
-
-
スロバキア
16
-
-
ブルガリア
3
-
-
リトアニア
2
-
-
スロベニア
1
-
-
モンテネグロ
1
-
-
トルコ
17
12
14
サウジアラビア
15
-
-
南アフリカ共和国
22
-
18
エジプト
12
-
-
モロッコ
6
-
-
ナイジェリア
3
-
-
ケニア
2
-
-
<中東>
<アフリカ>
(出所)JBIC(2012、2013)「我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」、ジェトロ「日
系製造業の経営実態調査」に基づき新日本有限責任監査法人作成
14
2.1.1.2. 対象各国における工業団地開発の現状
本項では、前項にて選定した対象 14 カ国における工業団地開発の現状について概要をまとめ
る。
(1) タイ
工業団地数 3
73 4(うち日系 6 団地)
開発・運営主体
タイ工業団地公社、地場の民間不動産事業者、日系を含む国際事業者等
多様な主体による開発・運営が行われている。
インフラ整備状況
電力、水道等の工業団地インフラは整っており、港湾、道路等の団地外イ
ンフラについても国際標準の整備がなされている。
空き状況
アユタヤ、チョンブリ、ラヨン地域では比較的空きが少ない状況である一方
で、バンコク東部のプラチンブリ周辺は比較的空きがある状況である。特に
東部臨海地域は近年人気が高く、例えばチョンブリ地域に立地するアマタ
ナコン工業団地等では、開発すればすぐ売れる状況が続いており、拡張を
繰り返している。それに伴い、人件費の高騰、団地内での渋滞等の問題も
発生している。
販売価格
・バンコク近郊:360 万バーツ/ライ~1,040 万バーツ/ライ
・アユタヤ:300 万バーツ/ライ~425 万バーツ/ライ
・チョンブリ:195 万バーツ/ライ~450 万バーツ/ライ
・ラヨン:150 万バーツ/ライ~495 万バーツ/ライ
土地収用手続き・
制度
■タイにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
タイでは 1935 年の民法法典において、私人による土地の所有権および占
有権が規定された。
タイにおいて、土地は以下の 4 種類に分類される。
① 民有地 …土地局が管理。一般的な所有権概念に当てはまる土地。
② 農民占有地 …森林局等が管理。所有概念が曖昧。
③ 王室財産 …王室財産管理局が管理。
④ 寺院財産 …国又は各寺院が管理。他用途への転用はまず無い。
土地の売買の際は、契約を 2 段階で行う。まず、当事者間の合意を得て、
将来の売買を約束する契約を交わす。次いで、実際に売買する時には、土
地局の登記官の面前において、公式の契約書様式に売買契約をまとめ、
売り手と買い手が署名し、さらに登記官が署名して公印を押す。その直後
3
工業団地数は、各国政府機関ホームページやジェトロ等の公開情報にて記載されている工業団地の数を記載し
ており、小規模工業団地等すべてを網羅するものではなく、主だった工業団地数の記載となっている(以下、他国
についても同様)。
4
日本 ASEAN センター「タイの工業団地リスト」及び JBIC「タイの投資環境」に基づき算出。
15
に、登記官による所有権移転登記と土地代の授受が同時に行われる。
1979 年 の 工 業 団 地 法 に よ る と 、 工 業 団 地 に は 一 般 地 区 ( General
Industrial Zone : GIZ)と輸出加工区(Export Processing Zone :EPZ)の 2 種
類があり、必要な場合、タイ国工業団地公社(Industrial Estate Authority of
Thailand : IEAT)は勅令の定めにより土地収用法を適用することができると
規定されている(工業団地法 38 条)。
土地取引にまつわる税として、土地登記税、印紙税、土地の譲渡所得に
課税される所得税、特定事業税、土地家屋税・地域開発税等が課される。
■外国企業の土地利用の現状
外国人(外資比率 50%以上の法人、または外国人株主が全株式数の半
分以上の法人の場合を含む)による土地所有は、特別な法令で認められた
場合を除き、原則として認められていない(土地法 97 条)。
ただし、投資促進法、工業団地法など、特別な法令で認められる例外とし
て、タイ投資委員会(BOI)奨励企業や工業団地公社(IEAT)認定企業は、外
資の出資比率にかかわらず土地所有が可能。日系製造業の場合は概ね
BOI か IEAT の登録企業となっているため基本的に土地を所有できる。この
場合、工業団地等の整備された用地を購入するのが一般的である。非製造
業の場合は外資規制がかかることが多いため、タイ側が過半数を出資する
タイ法人として合弁会社を設立するケースが多い。
また、外国法人が商業・工業目的で土地を賃借する場合、100 ライ(16 万
㎡)以下の土地を借りることが可能である 5。
5
ただし以下の条件を満たす必要がある。
① 賃貸契約期間は契約日から 30 年超 50 年以下。同期間が終了する際、賃貸の合意の日から 50 年を超えない
期間内に契約を延長することができる。
② 賃貸期間は書面で担当係官に登記しなければならない。そうでない場合は、失効となる。
③ 貸主は、その不動産の所有者でなければならない。
④ 賃貸権は、借金の抵当の保証として使用してよい。
⑤ 賃貸権と賃貸義務は、遺産相続人に受け継ぐことができる。借主は契約書に他の条件が規定されない限り、又
貸しすることや、その賃貸権利を第三者に譲ることができる。
⑥ 賃貸登記をする不動産は、(i) 都市計画法に基づき商業・工業用地として指定されている区域、(ii) タイ国工業
団地法に基づき工業団地として指定されている区域のどちらかの場所に所在していなければならない。
⑦ 商業の場合は 2,000 万バーツ以上の投資、工業の場合は投資奨励法で投資奨励認可を受けることができる事
業(閣僚会議の合意がある場合はこの限りではない)
⑧ 外国人が賃貸の登記をしている商業・工業は、外国人事業法に基づき外国人が就業できる業種の企業でなく
16
税制優遇等の恩典
■特定産業に対する優遇措置
・2000 年 3 月の外国人事業法及び同年 8 月の投資奨励策の改正により、
製造業分野は原則として外資 100%の会社設立が可能。これらの投資奨励
対象業種にあたる製造業は、タイ投資委員会(BOI)の認可を受けることで
優遇措置を受けられる。
■BOI による進出先地域(ゾーン)毎の税制優遇措置
(※ただし現在タイ政府ではゾーン制の見直しを検討中)
【ゾーン 1】
・機械輸入関税 10%以上のものについて 50%減免。(100%免税の場合も
あり)
・条件により 3 年間法人税免除。
・輸出のために使用された原材料と資材に係わる輸入関税 1 年間免除。
【ゾーン 2】
・機械輸入関税 10%以上のものについて 50%減免。(100%免税の場合も
あり)
・3 年間法人所得税の免除、条件により 5 年間に延長。
・輸出相当分を生産するに必要な原材料あるいは資材の輸入関税を 1 年
間免除。(延長可能)
【ゾーン 3】
・機械輸入関税の免除。
・法人所得税 8 年間免除。立地条件により更に 5 年間 法人所得税の 50%
減免、輸送費・電気代・水道代の 2 倍までを収益を生じた日から 10 年の間
に、純利益から通常の減価償却費に加えて控除する事ができる。10 年の間
にどの年からでも、数年にまたがってもよい。
・輸出相当分を生産するに必要な原材料あるいは資材の輸入関税を 5 年
間免除。(延長可能)
(出所)JETRO(2012)「アジア主要国のビジネス環境比較」、公益社団法人 日本不動産鑑定士協
会連合会(2013)「アジアの不動産諸事情の調査結果」等に基づき新日本有限責任監査法人作成
てはならない。
17
(2) インドネシア
工業団地数
77 6(うち日系 8 団地)
開発・運営主体
ジャカルタ近郊及びジャワ主要都市近隣に位置する工業団地は民間による
開発が多い。実際に日系の工業団地は同エリアに集中。その他地方都市
は地方政府による開発が多いが、実際には資金不足などで開発の進捗は
思わしくない。
インフラ整備状況
ジャカルタ東部の工業団地周辺では、現地の民間電力業者の存在や
PLN との優先供給契約を締結しており電力不足・停電は深刻ではない。た
だし、時折電圧が不安定なため、企業によっては電源の安定化装置や非
常用電源装置を導入している。
主要な工業団地では既に光ケーブルが敷設されて高速インターネット環
境が整っており、複数のインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)を自由
に選択できる。国内の主要な ISP としては、Telkom、Indosat、BiZNET 等が
あり、様々な回線速度およびそれに応じた価格のプランが提供されている。
ジャカルタ近郊は渋滞が深刻な問題(特に朝夕や降雨時)であるが、国際
空港・国際港が近隣にあるため便利。工業用水の大量のくみ上げにより、
地盤沈下が続いている。ビルの傾きや、海抜ゼロメートル地帯の拡大による
洪水などが問題となっている。
インドネシア政府は首都圏を中心としたインフラ整備計画「首都圏投資促
進特別地域構想」などにより、港湾と主要工業団地間を結ぶ道路や、国際
空港、タンジュンプリオク港及び市内を結ぶ幹線道路などの構想を掲げて
いる。
空き状況
日系企業は、首都ジャカルタから東部の高速道路沿いの工業団地に多く
入居しているが、近隣の工業団地は不足しており、同地域の分譲価格は高
騰、すぐに受け渡しできる土地は少ない状況。また、日系工業団地の多くは
既に空き用地がなくなっており、工場用地の供給不足が発生している。今
後更なる造成計画を持つ日系工業団地もあるが、完工時期が決まっていな
いものもある。GIIC(双日)や KIIC などの工業団地では空きはあるものの、
造成は終わっておらず、引渡しは 2013 年以降の予定。一方で、地場企業
が管理する工業団地にはまだ空きがあるとされる。日系に比較すると維持
管理の質は落ちると言われるが、大企業が運営する工業団地では、概ね満
足のできる水準の管理が提供されている模様。
販売価格
西ジャワ州 70~115 ドル/㎡
バタム島 75~170 シンガポールドル/㎡
6
日本 ASEAN センター「インドネシアの工業団地リスト」に基づき算出。
18
土地収用手続き・
制度
■インドネシアにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
インドネシアの土地の基本法規は、「土地基本法」(1960 年)である。土地
基本法では土地に関する権利として、①所有権(永久に有効)、②事業権
(60 年+延長 35 年)、③建設権(50 年+延長 30 年)、④使用権(45 年+延
長 25 年)などが規定されている。
このうち、所有権が設定された土地を所有することができる者は「インドネ
シア国籍者のみ(二重国籍者は不可)」とされている。
国内外資本の別にかかわらず、一般の法人は、所有権が設定された土地
を所有することができない。そのため、一般の法人は事業権、建設権、使用
権が設定された土地を取得することとなる。
外国人または外国法人が所有できるのは、原則として使用権が付された
土地のみである。なお、外国法人とは外国の法に従って設立された法人を
指し、外国投資企業(PMA)は内国法人扱いとなる。
2012 年の土地収用法により、公共事業における政府の土地収用に関し
て手続きが明確になった。用地取得費用については政府と民間の双方とも
に負担する可能性が想定されており、政府による立退き補償を明示的に予
算に組み込むことが可能となった。なお、用地取得の際、実施に向けての
書類、補償の金額算定、交渉の実施等につき、基本的には国家土地庁
(BPN)を窓口として行う。(新土地収用法 27 条)
■外国企業の土地利用の現状
製造業の場合、原則として工業団地に入居することを求められ、工業団地
以外に工場を持つには相応の理由が必要となる。リース形態は一般的では
なく、通常は工業団地事業主から建設権が設定された分譲土地を購入す
る。また、空き土地の取得が困難になりつつある状況下で、レンタル工場の
計画が進みつつある。
税制優遇等の恩典
保税地域(輸出加工区)内の企業に対しては製造設備や原材料等の輸入
関税、付加価値税等の諸税が免除される。
製紙業、繊維業、石油精製業等政府の指定する優遇業種、および政府指
定の地域における特定業種に対して、法人税の減免や輸入の際にかかる
諸税の免除、減価償却期間の短縮等の優遇措置が与えられる。
(出所)JETRO(2012)「アジア主要国のビジネス環境比較」、JETRO(2013)「インドネシア共和国
PPP ハンドブック」、JBIC(2012)「インドネシアの投資環境」等に基づき新日本有限責任監査法人
作成
19
(3) ベトナム
工業団地数
304 7(うち日系 11 団地)
総面積
79,000ha
開発・運営主体
民間企業による開発・運営が多い。日系企業が多数進出する工業団地とし
ては、北部ではタンロン工業団地(住友商事)、野村ハイフォン工業団地
(野村證券)などが挙げられる。南部では、ベトナム・シンガポール工業団地
(三菱商事、セムコープ)、ミーフック工業団地(ビンズン省が出資するべカメ
ックス社が運営)、アマタベトナム工業団地(伊藤忠商事が出資するタイ企
業のアマタコーポレーションが運営)などが挙げられる。
インフラ整備状況
北部では、幹線道路に二輪車が多く、トラック輸送の妨げになっている。夕
方、ハノイ市内中心部の交通渋滞は深刻。大規模停電は発生していないも
のの、北部は水力発電中心のため、渇水時は電力不足が懸念される。通信
インフラも依然として不十分。中部では、特に電力は、水力発電に依存して
おり、天候の影響を受けやすい。南部では、サイゴン港が市内から約 10 分
という立地にあることから、トラック輸送の場合など、市内通過時には規制が
設けられている。また、マナーも悪く、交通事故が多い。
主要な工業団地では、既に上下水道、電力、ガス及び廃棄物運搬等の基
本的なインフラは整備済である。近年不足傾向にある労働者の住居を確保
するため、寮の建設や駐在員向けの滞在施設及び食堂などの付帯施設の
充実を図る工業団地も増加している。
なお、ベトナムでは厳しい環境規制の達成が求められるため、一般的には
排水は工業団地内で集約して処理を行う。環境規制に基づき各工業団地
が独自に環境基準を設け、進出企業に遵守を求めることもある。
空き状況
北部では、日系の工業団地は満杯状態だが、国道 5 号線、18 号線沿い
の地場系工業団地に進出する日本企業が増加しているほか、南部で展開
していた VSIP 工業団地が北部でも複数の工業団地を開設するなど、ハノイ
近郊の新規工業団地も多い。
販売価格
ハノイ 45~150US ドル/㎡
(※50 年等の長期リ
ハイフォン 70~90US ドル/㎡
ース価格)
ホーチミン 40~108US ドル/㎡
ドンナイ 40 ドル/㎡程度
ビンズオン 32~50 ドル/㎡
土地収用手続き・
制度
7
■ベトナムにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
ベトナムでは全ての土地は全人民の所有であるとして国有とされており、
Industrial Zone Vietnum HP に基づき記載。
20
個人による所有は一切認められていない。土地所有者である国は土地を統
一的に管理し、土地使用権(Land Use Right, LUR)を他の主体に割り当てで
きる。
土地は全て国有であるため、私人が土地を利用するには土地使用権を
取得する必要がある。ベトナム人や一定目的のベトナム内資企業等には永
久(安定的で長期)の土地使用権が認められているが、実際は有期の土地
使用権である場合も多い。土地法によれば、製造業目的等の場合は 50 年
を超えない有期限とされる。土地使用期限が完了した場合や国家が回収す
ることを決定した場合には、土地使用権を国家に返還することとされる。割り
当てられた土地使用権は、賃貸借・相続・担保化が可能である。使用期限
内でありかつ係争中でないなどの条件を満たせば、土地使用権の売買も可
能である。土地使用権料は、土地使用開始時に全額一括払いすることとさ
れる。
土地の収用に関する手続きや補償の規定が明記された改正土地法が、
2013 年 12 月に成立した。従来の土地法でも、政府が安全保障、経済発
展、国家利益などを目的として土地を収用する場合がある旨定めていた
が、改正法では、各省の人民委員会が土地使用者の権利を確保し、法律
に従って補償金が支払われるよう決定すると規定している。また、農地を収
用した場合、各省の人民委員会は、その土地の農民に対して職業訓練を
実施し、新たな職業に就けるまで支援することとされている。土地の価格に
ついては価格を公正に決定するため、地価評価評議会に価格査定の専門
家の参加が求められており、政府は5年ごとに土地価格の査定を行うよう義
務付けられている。この改正法により、土地収用に関する紛争が減少し、投
資家にとって投資計画の財政的な実行可能性が把握できるようになること
が期待されている。
■外国企業の土地利用の現状
外国人または外国企業は、原則として土地所有権を単独で取得すること
はできない。外国企業が土地使用権を使用するにあたっては、以下の方法
が挙げられる。
①工業区(工業団地、輸出加工区、ハイテク区)に進出し、(政府から土地
使用権を取得済みの)工業区の開発会社から土地をリースする方法。
②ベトナム企業との合弁で進出し、ベトナム側のパートナーが保有する土地
使用権を現物出資する方法。
外国企業が土地をリースする場合、リース全期間のリース料を一括で支払
21
えば、リース期間中は土地使用権(または土地に附属する資産)を譲渡・転
貸(サブリース)したり、土地使用権と土地に附属する資産を担保(または保
証)として使用したり、資本金として出資したりすることができる。しかし一括
の支払では初期投資額がかさむため、一般的には分割払いを選択する。
合弁企業形態を採る際に、ベトナム側のパートナーから土地使用権の現
物出資を受ける場合、使用権を得ている土地を現物出資することの許可を
申請し、各管理機関の承認を得て、合弁企業名義で土地使用権証明書が
発行されれば、土地による現物出資の手続きが完了する。ただし、土地の
整備費用、使用権満期後の立ち退き費用は現物出資額には含まれないの
で、その費用は外国企業側での負担となる点に注意する必要がある。
税制優遇等の恩典
2008 年法人税法の施行ガイドラインにより、投資奨励の対象となる企業に
対して、法人税に関する優遇措置が適用される。
・経済区およびハイテク区に投資する企業及び国家の重要なインフラ分野
の企業に対して、通常は法人税 25%のところ、10%の税率が適用される
(適用期間:15 年間、免税期間:4 年間、減税期間:9 年間)
・奨励投資区域に設立される新規企業(業種問わず)に対して、通常は法
人税 25%のところ、20%の税率が適用される(適用期間:10 年間、免税期
間:2 年間、減税期間:4 年間)
優遇税制の適用対象となるハイテク分野や科学技術分野、インフラ分野の
投資案件への該当又は非該当については、個別プロジェクトごとに判定さ
れる。
(出所)JETRO(2012)「アジア主要国のビジネス環境比較」、JBIC(2012)「ベトナムの投資環境」、
公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会(2013)「アジアの不動産諸事情の調査結果」、
JETRO(2013)「ベトナム北部・中部工業団地データ集」等に基づき新日本有限責任監査法人作成
(4) マレーシア
工業団地数
595 8(日系なし)
開発・運営主体
州政府公社により運営されるケースがほとんどであるが、一部民間による開
発事例も見られる。
インフラ整備状況
環境規制 1974 年・1985 年環境基本法に基づき、電力・水等の工業団地内
のインフラは基本的には整備されている。
空き状況
8
州経済開発公社、地域開発庁、港湾当局、地方公共団体など政府機関に
マレーシア政府 Economic Planning Unit に基づき記載。
22
よって開発された工業団地が国内に 200 以上存在する上、民間事業者によ
る工業団地開発も進められているため、供給は十分である。
レンタル工場についても主要工業団地に整備されており、団地の分譲かレ
ンタル工場かを選択できるのが一般的である。
販売価格
ジョホール州 27~130US ドル/㎡
ペナン州 60~223US ドル/㎡
セランゴール州 29~236US ドル/㎡
土地収用手続き・
制度
■マレーシアにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
マレーシアでは土地の所有権は永久所有として、個人や法人で自由に売
買が認められている 9。
1960 年の土地収用法によれば、マレーシア行政機関は、①公共目的で
必要な場合、②行政機関の意見により、マレーシアの経済もしくはその一部
の発展に有益な目的、又は国民全体もしくは国民のある階層に有益とされ
る目的で、個人又は法人が必要とする場合、又は③鉱業に関する目的、住
宅、農業、商業、工業もしくは娯楽に関する目的又はこれらの組み合わせ
により必要となる場合のいずれかに該当するときは、全部か一部かを問わ
ず、土地を収容する権限を有するとされている。
■外国企業の土地利用の現状
首都府経済企画庁が 2009 年 6 月に発表した不動産取得に関するガイド
ラインによると、基本的には外国人の不動産取得を推奨している 10。
なおマレーシアの土地は州の管轄となっており、外国企業による土地・不
動産の所有に関しては州当局の認可を得て、土地の登記を行う。住宅に関
しては外国人個人の登記も認められているが、商業物件、工業用地、及び
農業用地の場合は、現地法人を設立し、登記しなければならない。
日系企業はセランゴール州、マラッカ州、ジョホール州、ペナン州に多い。
9
但し、外国関係者(外国人、外国人または外国企業が議決権の過半数を保有する現地法人)が取得できない不
動産として、以下が挙げられる。
① 1 軒 25 万リンギ未満の住宅物件
② 50 万リンギ未満の非住宅不動産
③ 州政府が決定した低・中価格のカテゴリーに入る住宅物件
④ マレー人保留地に建てられた不動産
⑤ 州政府が決定した不動産開発プロジェクトにおいて、ブミプトラに割り当てられた不動産
10
ただし、以下の条件を満たす必要がある。
① 購入金額が 50 万リンギ以上であること(ペナン州では 100 万リンギ以上など、州によって異なる場合がある。)
② 物件が所在する州政府の合意を得ること
23
外資系企業が開発業者として参入することを規制しているため、マレーシア
国内での工業団地は、主に土地を所有している政府機関や地場民間開発
業者が開発の中心となっている。また、工業団地内にはレンタル工場が設
置されているケースが多い。
税制優遇等の恩典
・5 年間(最長 10 年間)のパイオニアステータス(実効法人税率 28%→9%)
・投資税額控除(ITA)の適用
・再投資控除
・原材料/コンポーネント、機器の輸入税の免除
(出所)JETRO(2012)「アジア主要国のビジネス環境比較」、JBIC(2009)「マレーシアの投資環境」、
公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会(2013)「アジアの不動産諸事情の調査結果」、
MIDA ホームページ等に基づき新日本有限責任監査法人作成
(5) ミャンマー
工業団地数
38 11(1)
開発・運営主体
ミャンマーの工業団地の多くは中央政府(建設省住宅局)及び州政府に
よって開発されたが、ミンガラドン工業団地のように民間企業が開発
した工業団地もある。実業家で構成される工業団地運営委員会
(Industrial Zone Management Committees)が、各工業団地を運営して
いる。その州/管区政府の産業部が、工業団地の監督を統括している。
ヤンゴン管区の 4 カ所の工業団地は 4 つの省庁が管轄している。他都
市では管区及び州政府の直接監督下に置かれている。
インフラ整備状況
ミャンマーは電力供給の約 75%を水力発電に依存している。11 月から 5
月の乾季にはダムの貯水量が減る一方、猛暑のため消費電力が増えること
から、構造的に電力供給が不足する。そのため工場経営上は、雨季の間は
瞬停を繰り返す一方、乾季は長時間の停電になるため、自家発電設備が
必須の状況である。
ミャンマーの主な港湾は、ヤンゴン市街地に近いヤンゴン港とそこから河
口に 23km 下ったティラワ港だが、いずれもヤンゴン川に面する河川港であ
る。そのため水深が浅く、大型船が寄港できない。通常、国際航路はシンガ
ポール又はマレーシアとの間をフィーダー船でつなぎ、そこで積み替えをし
なければならない。なお北西部のチャオピューで、タイと中国の計画により
深海港の整備が進められている。
複数の日系企業が進出しているミンガラドン工業団地は、上水道、排水
11
ジェトロ(2013)「ミャンマー工業団地調査報告書」に基づき記載。
24
設備、配電や 24 時間セキュリティまで完備している。一方、ヤンゴン州のシ
ュエピーター工業団地、ミャウンダカ工業団地、ヤンゴン工業団地は排水設
備が無く、水は管井戸、夏季は午後 5 時~午前 0 時まで電力供給が止まる
など、工業団地間のインフラ整備状況には差が大きい状況である。
空き状況
最もインフラが整っているミンガラドン工業団地には空きがない状況。その
他の工業団地の中は、地価高騰により空き地が目立つ場所もある。
販売価格
ヤンゴン管区 37,066~89,699Ks/㎡
工業団地の土地区画の価格は 1 ㎡あたり平均で約 5 万チャットであっ
たが、最近地価高騰が問題になっている。
従来は外国企業が工場を建設する場合などは政府の土地を利用する必
要があったが、外国投資法では民間が使用権を持つ土地も使用・賃借
できるようになり、ミャンマー企業が保有する土地も借りられるよう
になった。そのため投機目的で工業団地を買い占める動きが起きた上、
地主が今後の地価上昇を期待して売りを控えていることが、地価高騰
と外国企業を誘致する際の障害となっている。
建設省住宅局が開発した工業団地については、共通の借地料が適用さ
れる:
・
工業団地短期借地料(外国籍):3 ドル/㎥/年
・ 管理費:0.06 ドル㎥/年
海外投資を優先するミンドラゴン工業団地では、外国人投資家に 58
ドル/平方フィートで土地を賃貸しているが、売却はしていない。
土地収用手続き・
制度
■ミャンマーにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
2008 年憲法によると、国が全ての土地の最終的な所有者である旨が定め
られており、私人(自然人及び法人)による土地の所有は認められていな
い。一方で、私有財産制に基づく土地利用権(占有、使用、賃貸等を行う権
利)は認められており、これらの権利は譲渡や担保設定をすることができる。
土地の所有権が最終的に国に帰属する中で、ミャンマーの私人がとり得る
最も強力な土地利用形態は、当局から許可を得て土地を利用する方法で
あり、このような土地は許可利用地と呼ばれる。農業用以外の許可利用地
は、許可の範囲内であれば譲渡することも可能である。許可利用地につい
て許可を受けた私人は、当該許可利用地を第三者に賃貸することができ
る。この場合、私人間の合意に基づいて行われるものであるが、別途、土地
行政局へ通知が必要とされている。
財産移転法は、財産の売買、担保設定及び賃貸等の財産の移転に関し
25
て包括的に規律している。財産移転法によると、100 チャット以上の価値の
不動産の売買は、登記証書によってのみ行うことができ、義務的な登記の
対象となる。また、1 年以上の期間の不動産の賃貸も、登記証書によっての
み行うことができ、義務的な登記の対象とされる。賃借人は、原則として、賃
貸不動産の全部又は一部を転貸することができる。
ミャンマーの登記法においては、不動産の権利変動に関する一定の文書
が登記の対象となるというシステムを取っており、日本のように各不動産の
物理的現況や、権利関係それ自体を登記の対象とするわけではない。
実務上は、ミャンマーの政治体制が変わることが多く制度の安定性が低か
ったこと、当事者が登記に伴う費用の負担を避けたかったことから、登記を
行わない例が少なくないようである。この場合、不動産に所有権を有するも
のとして記録された者全員と、未登記の前所有者とを被告として訴訟を提起
し、勝訴すればその判決を根拠として不動産の前所有者の名義を変更し
て、登記を行うことがあるようである。
1894 年土地収用法は、制定から 1 世紀を過ぎてもなお国が使用している
法律である。同法に基づく取得の手続きは、以下の通りである:
①事前調査
土地収用法 4 条に基づき、連邦大統領はある地域の土地が必要と思わ
れる場合に、その旨を Notification として公表することができる。これにより、
大統領から権限を与えられた担当官が当該土地に立ち入り、心土の掘り起
こし/ボーリングを含むあらゆる行為を行う事が認められる。この事前調査
により影響を受ける人は、これにより生じた損害に対して賠償の支払いを受
けられる(土地収用法 5 条)。また、Notification の対象となっている土地に
対する権益を持つ人は、収用官(Collector)に対して反対意見を提出でき
る(同法 5 条 A)。収用官はこれらの反対意見を聴取した後、当該事案を勧
告とともに大統領に提出しなければならない。この後大統領は、土地の取得
を進めるべきかどうかについての最終決定を行う。
②取得の公示
事前調査の後、取得を進めることとなった場合、大統領はその旨の布告
を行うが、当該土地に対する権益を持つ人に対して賠償がされない限り、こ
の布告は行われない(土地収用法 6 条)。収用官は適切な調査の後、取得
対象の土地に対する権益を持つ人に賠償をする必要がある(同法 9 条~15
条)。
③賠償および占有
16 条によれば、収用官が賠償を与えた後、収用官は土地を占有すること
26
ができ、これにより当該土地はいかなる物権負担もなしに国に全面的に帰
属する。ただし、「緊急の場合」には、収用官は、賠償が与えられていなくて
も、物権負担なしに土地を占有できるとされている。(17 条)
取得対象の土地に対する権益を持つ人は、与えられる賠償金額につい
て争うことを望む場合、収用官に対し、当該事項を決定のため裁判所に付
託するよう求めることができる(18 条)。実務上、紛争および請求は、通常こ
れを解決するため、地域政府に付託される。
④民間企業と土地の取得
土地収用法は、国が民間企業のために土地を取得できる仕組みを定め
ている。土地収用法 38 条は、大統領は、自社の目的のために土地の取得
を望む任意の会社の任意の役職員に対し、土地に立ち入り、土地を調査す
る権限を与えることができるとしている。かかる事前調査のために必要な手
続きは、前述の手続きと同様である。
調査の後、大統領は土地収用法 5 条 A に従って収用官が提出した報告
書を検討し、取得を進めるべきであるという確信を得た場合には、土地収用
法 41 条に従い当該会社に国との契約を締結させ、これにより取得が進めら
れる。取得に関連する前述のその他の規定は、会社のための取得に対して
も同様に適用される。
■外国企業の土地利用の現状
外国人又は外国企業による土地取得については、不動産譲渡制限法
(1987 年)により制限を受ける。不動産譲渡制限法によると、他の法律の規
定にかかわらず、以下の行為を行ってはならないとされる。
①外国人又は外国人が保有している会社
12
に対し、不動産を、売却、贈
与、担保提供その他の形で譲渡すること(不動産譲渡制限法 3 条)
②外国人又は外国人が保有している会社が、不動産を、売却、購入、贈与
する、贈与を受ける、担保提供する、担保提供を受けるといった形で譲渡す
ること、またその他の形で譲渡を受けること(4 条)
さらに、不動産譲渡制限法によれば、1 年を超えて外国人に不動産を賃
貸または外国人から不動産を賃借することが禁じられている(5 条)。
しかし、2012 年 11 月に成立した外国投資法により、ミャンマー投資委員会
(MIC)は、投資家に対し、その事業、産業の種類および投資額に応じて、
12
不動産譲渡制限法において、「外国人が保有している会社」とは、会社又は組合で、その経営又は支配がミャン
マーの市民に属していない、あるいはミャンマーの市民がその過半数の株式又は持ち分を保有している会社又は
組合に属していないものを指すと定義されている(2 条 2 項)。
27
土地を賃借または使用する権利を、実際に必要とする期間、最長で当初の
50 年間まで認めることができる(外国投資法 31 条)。さらに、10 年の延長が
2 回認められている(32 条)。
投資委員会は、国が経済発展を遂げるよう、土地を賃借または使用する
権利を有する者から予め同意を得ることにより、予め連邦政府の許可を得
て、当該土地に対する投資を許可することができるとされる(33 条)。
従って、外国人又は外国企業であっても、外国投資法が認める範囲で土
地を利用することは可能である。
税制優遇等の恩典
外国投資法に基づいて認可を受けた法人は、生産又は役務の提供開始か
ら 5 年間の法人所得税が免除されている。さらに MIC は、外国企業からの
申請を受けて以下の優遇措置を決定することができる(外国投資法 27 条)。
(なお、優遇措置を認める条件について規定はなく、MIC が個別に判断す
る。)
・ 開業から 5 年間の所得税免除期間の経過後、免税又は軽減期間を延
長。
・ 業務上の利益が 1 年以内に再投資される場合、当該利益に対する所
得税を減免。
・ 業務上使用される設備、機械、器具、建物、その他有形固定資産の加
速償却。
・ ミャンマーで生産され輸出される場合、50%を限度として輸出から生じる
利益に対する減税。
・ 外国人雇用者の個人所得税の支払税率をミャンマー居住者の税率で
適用すること。
・ ミャンマーにおいて発生した業務に関わる研究開発費用の当該年度課
税所得からの控除。
・ 欠損金の 3 事業年度の繰越。
・ 工場などの立ち上げにおける機械設備、部品、スペアパーツおよび原
材料の輸入関税、その他国内の諸税の減免措置。
・ 工場などの立ち上げ完了後、営業生産開始から 3 年間の原材料の輸
入関税、その他諸税の減免措置。
・ 投資金額の増額、事業拡大に係る機械、物品、道具など対する輸入関
税、その他諸税の減免措置。
・ 輸出向け財貨についての商業税の免除。
(出所)JETRO(2013)「アジア新興国のビジネス環境比較」、JBIC(2013)「ミャンマーの投資環境」、
経済産業省(2012)「平成24年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(ミャ
ンマー進出検討企業等に関する基礎調査)調査報告書」、JETRO(2013)「ミャンマー工業団地調
28
査報告書」等に基づき新日本有限責任監査法人作成
(6) インド
工業団地数
48 13(うち日系 2 団地)
開発・運営主体
各州政府公社が開発するケースが多いが、一部民間開発の実績もあり。
(双日マザーソン、チェンナイ総合工業団地(アセンダス、みずほ、日揮)
等。)
インフラ整備状況
一部の工業団地を除けば、インド全体では一般にインフラはほとんど整備さ
れていないため、敷地内造成に加えて、上下水道・大型発電機は自前で整
備する必要がある場合がある。従って、企業は、インフラ不備に起因する費
用負担(自家発電設備の設置・維持管理費、物流コスト、用地整備・建設コ
スト等)を事業可能性調査の段階で正確に見極め、費用負担を最小化する
事業計画を構築する必要がある。一方で、例えば日系企業の進出数の多
いハリヤナ州のバワルやマネサール工業団地では、上水道及び排水設備
が整備されている。外資系企業が多く進出する工業団地の中には、近隣に
発電所を有し水道設備の普及しているところも多い。
空き状況
優良な工業団地は不足しており、日系企業が進出するような主要な工業団
地では空きがあまりない状況。
販売価格
チェンナイ 1,235~8,648 ルピー/㎡
ニューデリー 2,500~12,500 ルピー/㎡
バンガロール 1,482~2,225 ルピー/㎡
ムンバイ 520~3,706 ルピー/㎡
土地収用手続き・
制度
■インドにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
インドでは土地(及びその上の建物)の私有が認められている。ただし、イ
ンドでの土地取得には様々な困難が伴う。その主な理由として、以下が挙
げられる。
① 土地所有者が容易に特定できない
② 土地利用と不動産権利に厳しい制限が設けられている
③ 不動産売買に伴い、高額の取引コスト(印紙税)が発生する
①について、インドでは 1908 年の登記法で土地の取引に関する書類を
州・地方の登記所へ登録する制度を設けたが、それ以前の所有関係は曖
昧である。そのため過去の取引事例のデュー・デリジェンスを行っても、「こ
の土地は私の一族が 300 年前から所有していた」などと主張する者が現
13
ジェトロ(2013)「日系企業が進出している主要工業団地及び今後進出が有望視される工業団地」より作成。
29
れ、長期にわたる訴訟となる例もある。
②について、例えば用途変更規制のため土地を取得しても自由に土地
を使用することができず、用途変更手続に長い期間を要するため、土地取
得後も長期間利用できない土地になってしまうケースが挙げられる。
③について、印紙税は各州法に基づいて課されるが、非常に高率であ
る。例えば、デリー州では 13%、ウッタルプラデシュ州では 14.5%、ハリヤナ州
では 12.5%である。
憲法上、土地の収用は中央政府と州政府の双方が管轄している。州政府
は、土地に関するその他の立法権限を有している。
インドの土地収用法(Land Acquisition Act)は、1894 年に施行され、2007
年及び 2009 年に改正された。これは、政府が民間企業によるインフラや住
宅の整備のために土地収用を行う際の根拠となる法律である。政府が公共
目的のため土地を収用できるとされるが、「公共目的」の定義が明確でな
い、土地の価格評価の明確な方法を定めていない、収容された土地の住
民に対する救済策がないなどの問題がある。
なお、2013 年 11 月に新土地収用法がインド国会を通過し、大統領の承認
を得た。補償金が増額され、代替居住地の手配が義務化されることで、土
地所有者や住民への補償を手厚くし、土地収用を円滑に進めることを狙っ
ている。
上述の土地収用法のような中央法に加えて、インド各州の多くの州法が
関係するため、土地取得に際してはこれら関連法規へのコンプライアンスが
必要となる上、膨大な行政手続が必要となる。
■外国企業の土地利用の現状
外国企業のインド法人または支店による自社事業のため、外国企業が用
地及び不動産を購入することは可能である。ただし、転売や賃貸借目的で
の取得は認められない。一方、駐在員事務所あるいは外国人個人が土地
を所有することは認められていない。
外国企業のインド法人または支店が不動産を取得した際は、取得日から
90 日以内に所定の様式で、インド準備銀行(Reserve Bank of India: RBI)へ
その旨の通知書を提出しなければならない。
外国企業がインドで事業用地を確保する場合、政府の収容権を利用した
用地を取得する(州政府が買収し、商業・産業目的に用途変更手続を済ま
せた土地を購入)、もしくは合弁相手の現地企業が保有する土地を利用す
るパターンが大部分である。
30
現行の土地収用法では、「州政府が公共目的に土地を買収する場合、妥
当な金額の補償金支払いを条件に、いかなる用地も優先的に買収する権
利が与えられる」と規定されている。そのため、製造業向けの工業団地の場
合、土地収用法に基づく権限により州政府がまず用地を買収し、州政府の
開発公社を通じて企業向けに直接分譲(一般的には 99 年リース)するか、
民間の工業団地開発・運営主体に転売する形態が取られている。
税制優遇等の恩典
・2006 年特別経済区法(SEZ 法)により、SEZ 入居者には、製造・販売活動
開始から最初の 5 年間は 100%免税、続く 5 年間は 50%免税、収益を再
投資することを条件に、さらに 5 年間の 50%免税、という最大 15 年間の法
人税減免措置がある。ただし実態としては、日系企業の進出先として検討
に値する SEZ は少ない(大半は未稼働もしくは入居余地なし)。
・インフラ開発、電力開発・送電、再生可能エネルギー、科学研究開発など
の分野に対する投資には各種の優遇措置はある。ただし実態としては、こ
れらの優遇措置を受けている企業はほとんどない。
(出所)JETRO(2012)「アジア主要国のビジネス環境比較」、JBIC(2008)「インドの投資環境」、公
益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会(2013)「アジアの不動産諸事情の調査結果」等に基
づき新日本有限責任監査法人作成
(7) ブラジル
工業団地数
66 14(日系はなし)
開発・運営主体
政府機関が開発・運営主体となる場合もあれば、民間企業が開発・運営主
体となる場合もある。
インフラ整備状況
ブラジルの輸送手段は道路が中心で国内に広く道路網が整備されてい
るが、場所によっては老朽化している道路や路面状態の悪い道路がある。
鉄道網は、南部、南東部、北東部の海岸に近い地域に集中しており、主
要鉄鉱石等の貨物輸送に利用されている。ブラジル国内の鉄道は、線路
幅が 4 種類混在しているため、鉄道の乗り入れは容易ではない。
ブラジルにおける港湾事業の民営化後、主要な海上港湾の設備やシス
テムの改善が図られているが、急拡大する取扱量に、インフラ設備と対応す
るサービスの両面で供給が追いついていないようである。
航空運賃の値下がり等によりブラジル国内の航空旅客は増加している
が、航空貨物の取扱量は減少している。
電力については、ブラジル国内の経済発展に伴い、電力需要が急速に
14
現地調査、工業団地ホームページ等に基づき情報を入手できた団地数を記載。
31
伸びているが、その需要に供給が追いついていない状態にある。ブラジル
では水力発電の占める割合が高く、発電量は季節的変動の影響を受ける。
なお、工業団地内のインフラについてみると、サンパウロ州やパラナ州の
工業団地では、道路・街灯、上下水、電力、保安等の、インフラ及び付帯設
備への接続がある工業団地も一部見られるが、その数は非常に少ない。
空き状況
インフラ等の整備された工業団地は非常に少なく、これらの工業団地にお
ける空きは少ないと考えられる。
販売価格
・リオデジャネイロ:150R$/㎡(サンタクルス地区)
・サンパウロ:600R$/㎡(都市圏)
・その他地域:35~130R$/㎡
土地収用手続き・
■ブラジルにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
制度
土地収用について、特に課題は聞かれなかった。ただし、地方部において
は土地の登記制度が整っていないといわれる。ブラジルの有力経済誌であ
る Exame は、工業団地等の区画分けされた土地を購入する際の最重要事
項として、登記確認を挙げている。
■外国企業の土地利用の現状
外国企業による土地所有は、一定の制限があるものの可能である。外国
人は、海岸地帯、国境周辺、および国が安全地帯として指定する場所でな
い限り、個人、法人(企業)を問わず国内の個人、法人(企業)と同様に土地
不動産の所有が認められる。
ブラジル国内居住の外国人個人、もしくはブラジル国内の外国企業の土
地不動産取得規則は、1971 年 10 月 7 日付法令 5,709 号(1974 年 11 月
26 日付大統領令 74,965 号で発効)で定められている。この中で、外国企業
が地方の土地を取得する場合の規制として、それが農牧畜事業または工業
製造事業の導入、開発を目的としたものであり、かつそれらの事業が、その
企業の社会的責任を果たすのに即したものであると考えられる場合にのみ
許可が与えられるとの規定がある。事業内容によって、農務省または開発
商工省の認可を要する。
なお、ブラジル国内に法人を持たない外国企業は土地を取得することは
できない。
また、外国人個人が取得可能な面積は、国立植民農地改革院 INCRA が
定める MEI と呼ばれる基準単位を用い、50MEI を超えてはならないと規定さ
れている。外国企業についての取得可能な面積の制限は規定されていな
いが、1993 年 2 月 25 日付法令 8,629 号によれば、100MEI 以上の土地を
32
購入する場合、国会にて承認される必要が生じる。
この MEI の 1 単位あたりの面積は、当該の土地がある自治体によって 5
〜100 ヘクタールと異なって設定されていることから、例えば外国人個人の
場合は 250 ヘクタールから 5,000 ヘクタールが土地取得の上限面積となる。
また 1971 年 10 月 7 日法令 5,709 号 12 条にて、1 つの自治体の面積の
4 分の 1 を超える土地を外国籍の個人・法人(単数・複数を問わない)が所
有することが禁じられ、また同一国籍の個人・法人(単数・複数を問わない)
によって自治体の面積の 4 分の 1 の制限の 40%以上を所有することはでき
ないと規定されている。言い換えると、自治体の面積の 25%以上を外国籍
の個人・法人によって占有することはできず、また同一国籍の個人・法人に
よって 10%以上が占有されることがあってはならない。
1971 年 10 月 7 日付法令 5,709 号の解釈に関してブラジルでは長年議
論があり、外国企業傘下のブラジル現地法人で法令制限を越えた土地取
得をする事例が見られた。しかし中国や米国などの外国企業や、外国人が
ブラジル農村部の土地を購入する事例が増えたため、2010 年 8 月に法令
5,709 号に関して政府としての見解を意見書〔国家総弁護庁(AGU)2010 年
8 月 19 日付け意見書(Parecer)No.LA-01〕として発表し、その後国立植民
農地改革院 INCRA より公布された 2011 年 12 月 6 日付け基本通達 70 号
に意見書の内容が反映、外国企業や外国人の農村部の土地購入に関して
厳密な法令適用を行い、政府が外国企業、外国人による土地購入状況を
チェックする体制を強化した。
なお、ブラジルでは工業団地のインフラがあまり整備されていないため、
日系企業が進出する場合は、工業団地外の立地を選択することが多い。
税制優遇等の恩典
辺境開発のため、連邦政府及び州政府による下記の税制恩典がある。当
恩典については、内外資の区別はない。
■マナウス・フリーゾーンの税制恩典
開発商工省の管轄下に置かれているマナウス・フリーゾーン監督庁
(SUFRAMA)の認可を受けた場合、輸入税(II)及び工業製品税(IPI)が免除
される。アマゾナス州企画・経済開発庁(SEPLAN)内の同州開発審議会
(CODAM)の認可を受けた場合、州税である商品流通サービス税(ICMS)が
免除される。この他、法人所得税、社会統合計画・社会保険融資負担金
(PIS/Cofins)、市税であるサービス税(ISS)などにも減免措置がある。
■アマゾン地域・ブラジル北東部における税制恩典
アマゾン川流域の各州において、アマゾニア開発監督庁(SUDAM)又は
北東部開発監督庁(SUDENE)の認可を得ることで、法人所得税(IRPJ)、商
品流通サービス税(ICMS)、商船更新追加税(AFRMM)の減免を受けること
33
ができる。
また、特定業種向け恩典もあり、例えば情報通信法により、情報通信機器
製造に際し、工業製品税(IPI)の減免措置も適用される。
(出所)JETRO「ブラジル進出に関する基本的なブラジルの制度」ホームページ、JBIC(2011)「ブラ
ジルの投資環境」等に基づき新日本有限責任監査法人作成
(8) メキシコ
工業団地数
260 15(日系はなし)
開発・運営主体
Prologis や FINSA などの現地の民間不動産開発業者が開発・運営主体とな
っているケースが多い。
インフラ整備状況
高速道路、鉄道、港湾等の国内インフラ網は良く整備されている。
多くの工業団地で、上下水道、雨水排水設備、電気、天然ガス、照明、電
話、保安及び廃棄物収集等の、インフラ及び付帯設備が整っている。
空き状況
メキシコシティに近いケレタロ州や、日系企業の進出ラッシュの続くグアナフ
アト州、アグアスカリエンテス州、サン・ルイス・ポトシ州を中心に需給ひっ迫
が見られる。ただし、土地供給は豊富であり、新規開発も続いていることか
ら、空きは増えていくと考えられる。
販売価格
・ケレタロ地域:638.73~766.47ペソ/㎡
・アグアスカリエンテス地域:514.81~572.30ペソ/㎡
・メキシコシティ:1,149.71~1,213.58ペソ/㎡
土地収用手続き・
■メキシコにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
制度
メキシコにおいて不動産を取得する手続きは以下の通り 16。
(1)物件の選定
(2)所有者との交渉、及び予約の締結
(3)公証人の選定
(4)公証人による調査並びに公正証書の準備
(5)当事者による売買契約公正証書の署名
(6)登記
憲法 27 条 1 項の規定に従い、「外国人排除条項」を有するメキシコの会
社、または当該規定に言及される協約を取り決めたメキシコの会社は直接
不動産を取得することができる。なお、協約を取り決めたメキシコの会社は、
規制地帯(憲法 27 条 1 項に言及される国境沿い 100 キロメートルおよび沿
岸 50 キロメートル以内の地帯)については、居住以外を目的とする場合不
15
16
AMPIP(The Mexican Association of Industrial Parks)ホームページに基づき記載
JETRO「メキシコにおける会社設立・清算手続き」(平成 21 年)
34
動産の取得は可能であるが、外務省に報告する必要がある。(外資法 10
条)
■外国企業の土地利用の現状
外国企業による不動産の取得は、一部規制はあるものの、原則として可
能である。
外国法人または自然人が規制地帯以外で不動産を取得する場合、憲法
27 条 I 項の規定に言及される協約を取り決めた書状を事前に外務省へ提
出し、当該許可を取得しなければならない。(外資法 10−A 条)
外国法人・自然人、および「外国人排除条項」を有しないが憲法 27 条 1
項の規定に言及される協約を取り決めたメキシコの会社は、規制地帯にお
ける不動産につき信託方式を通じて使用することが可能である。信託先の
金融機関には、外務省の許可が必要である。なお信託期間は、最高 50 年
で更新可能。(外資法 11、12、13 条)
日系企業の多くは、地場デベロッパーの開発した工業団地に入居してい
る。特に、日系自動車 OEM メーカーが集積するバヒオ地区やアグアスカリ
エンテスでは、日系サプライヤーが多く入居する工業団地も存在する。ま
た、自動車サプライヤー以外の日系企業においては、リース工場(レンタル
型団地に近いもの)の活用も見られる。
税制優遇等の恩典
1994 年の新外資法の下、(ごく一部の例外を除き)外資系企業を積極的に
受け入れてきたメキシコには、外資のみに適用される優遇措置は存在しな
い。以下の税制優遇措置は、内外資の双方に適用される。
産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)を利用することで、在メキシコの
製造業者は必要な部品・原材料、機械等を 0%、3%、5%等の優遇関税で
輸入することができる。
PROSEC 指定業種のリストに記載される完成品をメキシコ国内で製造する
場合で、それを製造するにあたり必要な原材料・部品および機械・設備(含
む工具類)が優遇関税の適用を受ける品目に指定されている場合に、経済
省に申請して許可を受けることで、優遇関税の適用を受けることができる。
PROSEC による優遇関税の決定は、HS コードごとに行われるが、そこでは
同一の HS コードに複数の異なる品目が該当する場合がある。一部の品目
については優遇関税を定めることに合理性があると認められたとしても、他
の品目についてはそうでないこともあるため、当該 HS コードを PROSEC の
35
対象とすることが好ましくない場合がある。
そのようなケースにおいて、当該優遇関税を適用しても問題がないと考えら
れる品目についてのみ、「レグラ・オクターバ」に基づく特別輸入許可によっ
て、個別に優遇関税の適用を認めるようにしている。
レグラ・オクターバに基づく特別輸入許可は経済省に対して申請し、それが
認可されれば、PROSEC の優遇関税の対象になっていない品目であって
も、関税率 0%〜5%で輸入できる。そのため現在のレグラ・オクターバは、
PROSEC を補完する制度として機能している。
制度としては存在しないが、進出規模次第では、進出先の州政府との個
別交渉を通じて優遇措置を受けることができる場合がある。
(出所)JETRO ホームページ「メキシコ進出に関する基本的なメキシコの制度」、在メキシコ日本大
使館(2013)「メキシコ経済・自動車産業概観」、在メキシコ日本大使館(2014)「日系企業によるメキ
シコへの投資案件(製造工場・プラント等/2011.6-2014.1)」等に基づき新日本有限責任監査法
人作成
(9) トルコ
工業団地数
277 17(日系はなし)
開発・運営主体
現地の民間企業が開発・運営主体となっている。
インフラ整備状況
増加する輸出入量に対し、港湾や鉄道の整備が遅れている。都市を中心
に道路網は整備されているものの、港湾の規模は小さく、効率性の低さが
指摘されている。エネルギー価格の高さも課題の1つ。
また、イスタンブールでは 1999 年に大地震が発生しており、地震対策も必
要となる。
空き状況
空きあり
販売価格
3 トルコリラ/㎡~1,618 トルコリラ/㎡
土地収用手続き・
■トルコにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
制度
トルコの土地収用法(No.2942)は、1983 年 11 月に施行された。
土地収用法では、トルコの公的機関が所有する土地の利用を要求する投
資家のために、国と民間の土地所有者間での交渉における実質的な仕組
みを定めている。収用法に基づき、トルコにて公共事業と認められる事業に
従事する民間企業は、国有の土地の利用権を取得するため、あるいは当該
事業に関して民間の土地を収用するために、関連する公的認可が適用さ
17
OSBBS ホームページに基づき記載。
36
れる場合がある。
トルコにおける土地収用制度の基本原則は決済である。当事者同士は、
裁判所主導で行われる収用の前とその過程の間において、収用代金の決
済金額につき交渉すべきである。また、民間投資家の収用プロセスのゴー
ルは、目的とする土地の利用権を取得することだということも重要である。
土地収用に関する政府と土地所有者間の問題として大きいのが、土地価
格がどのように評価されるかという点である。双方が合意しないために法廷
で争うケースも多く見られる。「土地の価値」を示すものとして、市場価額や
公示価格、不動産課税標準額、収用価額、法廷で決定された価格等、
様々なものが存在している。これらは、土地評価のための明確な基準が定
められていないことやデータの不足が要因になっている。
トルコには、土地登記制度が存在する。トルコの不動産部門の競争力を
高めるために、土地登記法や不動産担保法の改正も今後予定されている。
トルコでは電力・ガス事業の民営化や道路建設等のインフラ・プロジェクト
が進んでいるが、企業側が負担するリスクが増しつつあるというケースもあ
る。例えば、橋や道路建設では本来国や自治体が行うべき土地収用も、民
間企業に要求する場合がある。
■外国企業の土地利用の現状
2006 年 1 月 7 日付官報(No.26046)公示(Law No.5444)により、外国人・
外国企業による土地・不動産購入に制限を課す法律が施行された。同法に
よれば、外国人・企業が購入できる土地・不動産は 2.5ha 以下と定められ
た。ただし、閣議決定によって 30ha までは拡大が認められる。
また、トルコ各県において総面積に占める外国人の土地保有は 0.5%以
下でなければならない。同法は 2005 年 7 月 25 日へ遡及して適用された。
現在、最大 60ha まで認める法案が審議されている。
なお、トルコ政府に認可された外国企業は土地を購入することができるが
(Law No.2644)、その他の外国法人(財団・協会等)は土地を購入すること
ができない。
トルコでは外国人の投資について、FDI 法(Foreign Direct Investment
Law)No.4875 により定めている。FDI 法の中で、収用についても説明がなさ
れている。
外国企業による投資については、公共目的あるいは相応な法的手続に従
った補償の場合を除いて、収用または国有化されない。
税制優遇等の恩典
OIZ では、トルコの投資奨励策 (一般的な投資奨励策、大規模投資奨励
策、地域別および部門別奨励策、雇用奨励策、研究開発支援など) に加
37
えて、投資家は以下の特典を享受する。
・土地取得に関する付加価値税を免除
・建物建設後 5 年間は固定資産税を免除
・水道、天然ガス、通信料金
・区画の統合、分割に関する税の免除。建物の建設および使用に関する地
方税を免除
・OIZ が地方自治体サービスを受けない場合、固形廃棄物に関する地方
税を免除
(出所)JETRO ホームページ、トルコ政府ホームページ、トルコ首相府投資促進機関ホームページ、
海外投融資情報財団(2009)「トルコへの直接投資動向」等に基づき新日本有限責任監査法人作
成
(10)
サウジアラビア
工業団地数
36 18(日系はなし)
開発・運営主体
サウジアラビア工業用地公団(MODON)が開発・運営主体であるケースが
ほとんどである。
インフラ整備状況
各工業団地において、道路、電力供給、水供給、通信ネットワーク、清掃等
の基礎的なインフラは整備されている。工業団地の中には、高度な通信ネ
ットワークを構築してスマートシティ化したところもある(ダンマーム工業団地
等)。
空き状況
空きあり
販売価格
MODON が運営する工業団地については、下記の賃貸料及び諸経費が請
求される。
・年間賃貸料: 1 サウジアラビア・リヤル/㎡
・賃貸準備費用: 50 サウジアラビア・リヤル/㎡(支払は 1 回のみ)
・ 図 面 承 認 費 用 : 1 サウジアラビ ア・ リ ヤ ル/ ㎡ ( 当 費 用 の 金 額 は、
5,000~25,000 サウジアラビア・リヤルの範囲内とする)
土地収用手続き・
制度
■サウジアラビアにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
サウジアラビアでは土地の登記制度が存在する。当該制度は「不動産登
記法」(2004 年公布)により定められている。サウジアラビア政府は、サウジ
アラビアの全ての土地(及び特定の土地区画に対するすべての財産権)を
特定し、これらの情報を欠く指定不動産区域の不動産登記簿に組み込むと
いう課題に取り組んでいる。
18
サウジアラビア工業用地公団(MODON)ホームページ等に基づき算出。
38
具体的には、所定の異議申立期間の経過後、指定地域の各区域につい
て、その所在地・法的ステイタス、所有権及び義務が登記されることとなる。
これらの登記は 2 段階にて行われる。第 1 段階では指定地域の土地に関連
する権利を文書化し登記簿に記載され、第 2 段階では登記簿記載後に行
われた取引が記録され、登記料が必要となる。
■外国企業の土地利用の現状
外国企業のサウジアラビアの不動産売買については、「非サウジアラビア
投資家の不動産所有及び不動産投資に関する法律」(2000 年 10 月施行)
及び「外国投資法」により規律されている。また、外国投資法に関連する法
律として「商業的隠匿防止法」が存在する。
外国企業は、以下のいずれかの利用目的のためであれば、ライセンス当
局(内務省)の承諾を得ることを条件に、サウジアラビアの不動産を購入す
ることが認められている。
・ 専門的、技術的、または経済的事業活動を実施するための利用
・ SAGIA の外国投資ライセンスを取得したプロジェクトに従事する従業員
の個人住宅用不動産としての利用
・ 適法な滞在許可証(イカーマ)を有する個人の住居のための利用
また、非サウジアラビア投資家の取得した外国投資ライセンスが不動産
開発に関連するプロジェクトを目的とするものである場合、当該プロジェクト
の費用総額(土地取得費用と建築費用の双方)は 3,000 万サウジ・リヤル以
上でなければならない(なお、閣議はこの額を変更することができる)。この
ような不動産開発は、不動産の購入から 5 年以内に投資を完了させる必要
があるとされている。
なお、外国投資家はサウジアラビアにおいて不動産売買の仲介業務を
行うことができない(外資参入禁止業種を定めた「ネガティブ・リスト」の対象
事業に含まれているため)。
税制優遇等の恩典
1.税制:法人所得税は一律 20%。製造業のための資本財や原材料の輸
入に対する輸入関税は免除(但しサウジ国内での工業生産に使用され、か
つサウジ国内での調達が困難な場合に限る)
2.インフラ:土地+関連インフラの提供、安価な電力・ガスの提供
3.融資:低利融資(SIDF:サウジ工業開発基金)
(出所)JETRO ホームページ、西村あさひ法律事務所(2010)「サウジアラビア進出に必要なビジネ
ス法ガイド」、JETRO(2010)「サウジアラビア『非サウジアラビア投資家の不動産所有及び不動産投
資に関する法律』『日本企業の対サウジビジネスに関連する主な条文』」等に基づき新日本有限責
任監査法人作成
39
(11)
南アフリカ共和国
工業団地数
4 19(日系はなし)
開発・運営主体
現地の民間企業が開発・運営主体となっている。
インフラ整備状況
2010 年のワールドカップを機に空港・道路整備などの大型プロジェクトが
実施されたものの、急激な経済成長にインフラ整備が追いついていないと
いう課題もある。なお、近年数年間は電力危機に見舞われており、電力公
社エスコムは 2014 年までに 2 基の原子力発電所を建設予定である。
2012 年に発表された産業政策行動計画(IPAP)には、経済開発区(SEZ)
の概念が初めて織り込まれた。広大な工業団地の建設と経済インフラの提
供が今後なされていくと見られる。
個別工業団地についてみると、イーストロンドン工業団地においては、水
供給、電源、道路のインフラは整備されている。
空き状況
空きあり
販売価格
・Coega IDZ:200ZAR/㎡
・その他(Freeway Business Park)
土地収用手続き・
制度
700ZAR/㎡
■南アフリカ共和国における土地収用の手続き及び関連法制度・規制
南アフリカにおける土地収用手続は、収用法(No,63、1975 年制定、最終
改正 1992 年)にて定められている。また、新しい収用法案が 2013 年 5 月に
公開されている。当該収用法案は、既存の法律に置き換わるものである。
当該収用法案によると、収用とはあくまでも公共の目的及び利益のために
行われるものであり、収用に際する補償の額は双方の合意・決定あるいは
裁判所により承認されなければならないものである。収用は、大臣や法によ
り定められた国や地方自治体の機関等に権限が与えられている。また、収
用の対象には一時的に土地を使用するための権利も含む。その他、当該
法案では収用に関する手続が定められている。
一般的な収用法と比較して南アフリカの収用法にて特徴的なのは、土地
以外の資産も収用の対象となることや、上記に記載したように公共投資だけ
でなく公共目的の権利についても収用が可能であること(国民への再分配
が目的の一つでもある)が挙げられる。
また、収用の際の補償は必ずしも市場価値によらず、また直ちに支払わ
れなくともよいとされていることも特徴的であり、これらが明確に定められて
いないことから、収用による土地取得が進まないことがあると考えられる。
19
ジェトロホームページ(南アフリカ共和国)に基づき記載。
40
■外国企業の土地利用の現状
外国企業が土地を所有することは可能であり、特段の制限は設けられて
いない。土地の売買は全て土地譲渡法にて規制されている。
税制優遇等の恩典
1. 産業開発特区(Industrial Development Zone:IDZ)
産業開発特区(IDZ)は国際空港または港湾に接続した工業団地で、装置
および資産に対する関税や付加価値税、輸入税の適用が免除される保税
区域(CCA)が設けられている。現在4カ所の産業開発特区が設定されてい
る。
2. 自 動 車 産 業 開 発 プ ロ グ ラ ム ( MIDP : Motor Industry Development
Programme)
南アフリカで生産を行う自動車製造業者に対して、国内で組み立てた自動
車の輸出額に応じ、一定の比率で自動車・同部品の輸入関税を免税する
優遇措置。2013 年 1 月からは MIDP に代わり自動車生産開発プログラム
(APDP)が導入される。APDP では南アフリカ国内で年間 5 万台以上の乗用
車を生産する自動車メーカーを対象に、輸入部品の関税を相殺するクレジ
ットが政府から発給される。クレジットは、生産した乗用車の合計金額や、国
内での付加価値分(現地調達)の割合に応じて発給される。
3. 自動車投資スキーム(AIS:Automotive Incentive Scheme)
南アフリカで生産を行う自動車・同部品製造業者の国内投資に対して、投
資額の 20%に相当する助成金(課税対象)を支給。南アフリカ貿易産業省
(DTI)が戦略的と認める投資案件については、さらに追加で 5%または
10%の助成金が支給される。助成金は 3 年間均等割りで支払われる。
4. 繊維衣料産業開発プログラム(TCIDP:Textile and Clothing Industry
Development Programme)
繊維および衣料品の輸出業者に対して,その輸出額に応じて原材料の輸
入が免税となるリベートクレジットが発給される。
5. 製造業投資プログラム(MIP:Manufacturing Investment Programme)
南アフリカ貿易産業省(DTI)が実施する企業投資プログラム(EIP)のひと
つ。プログラムの有効期間は、2008 年から 2014 年までの 6 年間。MIP は小・
中・大規模製造プロジェクトの支援を目的とし、対象は国内企業および外国
企業で、対象となる投資コストの最大 30%までの補助金が支給される。対
41
象となる投資コストには、機械類・設備機器、商用車、土地・建物が含まれ
る。生産施設の新規建設、既存の生産施設の拡張、既存の繊維衣料生産
施設での生産能力アップ案件が対象となる。また、MIP には外資を対象とし
て機械類および設備機器の輸送コストを補償する外国投資補助金(FIG)か
らの追加支援がある。追加の補助金は、輸入機械類および設備機器の価
値の 15%、または、実際の輸送コスト(最高 1000 万ランド)のどちらか少ない
方を選択する。
6. クリティカル・インフラストラクチャ・プログラム(CIP:Critical Infrastructure
Programme)
CIP は重要なインフラ開発に対して、投資コストの 10~30%を補填する現金
支給による補助金である。そのインフラがなければ投資が発生しないと考え
られる場合や、投資の減少、質の低下、投資の遅れが発生すると考えられ
るプロジェクトが対象になる。CIP は投資そのものを支援するものではなく、
このため予定されるインフラ開発のコストを投資主体が確保できることが条
件となる。CIP の補助金は民間部門および公共部門の企業、ならびに官民
パートナーシップ(PPP)事業に支給される。適格インフラは、輸送、電気、
水、衛生、公衆衛生および通信などの基礎的サービスで、一般の人々や開
発者以外の投資家が広く受益できること、所在地が開発者の私有地内でな
いこと、特定の投資プロジェクト単独で必要なインフラでないことが条件にな
る。
7. 産業政策プロジェクト(税控除による奨励)
所得税法のセクション 12(i)項(Section 12i of the Income Tax Act)は、資本
投資と人材育成を支援することを目的に、税控除による奨励策を規定する。
適格企業は課税所得から当プロジェクトによる割当金を控除されることによ
り納税義務の負担を減らせる。新規の「グリーンフィールド(未開発の土
地)」プロジェクトおよび「ブラウンフィールド(環境汚染された土地など)」プ
ロジェクトの拡張やアップグレードに割当金を利用できる。
8. 産業イノベーション支援プログラム(SPII)
産業開発公社(IDC:Industrial Development Corporation)が DTI に代わっ
て SPII を管理運営している。SPII は、革新的な製品や生産プロセスの開発
につながるプロジェクトを支援して、技術開発を推進する。新製品や生産プ
ロセスにおけるアイディアを商品化するまでにはいくつかの準備段階がある
が、SPII は開発段階に重点を置く。開発段階とは、基礎研究が完了した時
42
から始まり、生産開始前に試作品が完成するまでの期間を指す。SPII は小
規模企業から大企業まで幅広い層を対象とし、製造業、サービス業または
ソフトウェア開発における開発活動を支援する。当初、エレクトロニクスおよ
びソフトウェア部門が中心だったが、その後、範囲が広げられ、化学、製
薬、食品、自動車および自動車部品も対象となった。
(出所)JETRO ホームページ、南アフリカ土地収用法案等に基づき新日本有限責任監査法人作成
(12)
エジプト
工業団地数
127 20(日系はなし)
開発・運営主体
現地の民間企業が開発・運営主体となっている。
インフラ整備状況
6th of October、10th Ramadan にある工業団地はインフラが整備されてお
り、少なくとも電気、水道、ガス等は整っている。インフラの整備は近年進み
つつある。一方でエジプトでは、政情不安による地政学的リスクが課題。
個別の工業団地を見ると、ギーザ県(旧 10 月 6 日県)の工業団地(CPC,
Engineering Square 等)については、上下水、電気、ガス、電話だけでなく、
病院や研修施設、警察や郵便局などの施設を備えているところも見られる。
空き状況
詳細不明だが、ホームページを設けている工業団地では全て募集をかけて
いるため、空きはあるようである。
販売価格
・産業開発公社(IDA)管轄の全国指定の全国工業地区の土地価格帯(カ
イロ以外): 50~165EGP/㎡
・6th オクトーバー地区 :375~600EGP/㎡
土地収用手続き・
制度
※Zone によって異なる
■エジプトにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
エジプト・アラブ共和国憲法の第 1 部「国家」第 34 条において、「私的所有
は保障され、法律で定められている場合および裁判所の判決による場合を
除いては、収用されない。公共利益の目的以外、また法律に従った補償な
しに、土地が収用されることはなく、また相続権は保障される」と定められて
いる。
■外国企業の土地利用の現状
外国企業の土地保有については、投資保護・優遇措置法(以下、投資
法。1997 年法律 8 号)にて定められている。出資者の国籍・居住地出資比
率にかかわらず、建物、土地を所有し、不動産を開発する権利を有する。
シナイ半島およびその他の国境に存在する土地については例外となっ
20
エジプト政府(General Authority for Investment: GAFI)ホームページに基づき記載。
43
ており、土地を所有することは禁じられているが、以下の要件を満たせば土
地を賃借して使用する権利を有することができる(2007 年 350 号首相令)。
(1) 土地を所有する企業との間で 1 年から 99 年の定められた期間につ
いて、当事者間の合意で更新が可能な契約を締結していること。
(2) 関係県に加えて関係当局からの承認を取得していること。
(3) 使用権に基づき土地に建設されたすべての建物、施設および店舗は
使用権の期間終了後に元の所有企業に返還されること。
不動産登記については、公証人役場は、登記のための必要書類一式を
受領した日から 10 日以内に当該不動産の登記をしなければならないとさ
れている(2005 年 548 号首相令)。加えて、当該首相令に基づき、外国人
は、所有権を取得した日から取得した不動産の所有権を処分することがで
きる。
また、投資法により、会社の活動に 必要な土地所有権の登記に係る税
金及び費用免除が規定されている。
税制優遇等の恩典
1. 対内投資
・不毛地・砂漠地の開懇・耕作、動物・家禽・魚類の生産分野:所得税 10 年
間免除
・生産活動に必要な機械・装置の輸入に係る関税:一律 5%(輸入者登録
不要)
・輸出義務なし
2. Investment Zones
・生産に係る輸入の通関手続きは(空港・港ではなく)投資ゾーン内で行わ
れる。
・機械・設備輸入に係る関税、販売税は 5~10 年以内に収める(輸入者登
録不要)。
・輸出品は免税扱い。
3. SEZ
・国内市場へのアクセス(販売税は輸入部品の価格のみに賦課。輸入者登
録不要。)
・所得税:一律 10%(法人、個人、土地所得、非居住建築)
・給与等への課税:一律 5%
4. Free Zones
44
・すべての税、関税免除
・事業目的に必要な設備、機械、輸送機械(乗用車除く)に係る関税、輸入
税、販売税など免除
・低賃貸料
工業プロジェクト:年間 3.5 ドル/平方メートル
倉庫保管・サービスプロジェクト:年間 7 ドル/平方メートル
(出所)JETRO ホームページ、JETRO(2011)「エジプトビジネス法規ハンドブック」、西村あさひ法
律事務所(2009)「Doing Business in エジプト」等に基づき新日本有限責任監査法人作成
(13)
ロシア
工業団地数
304 21(日系はなし)
開発・運営主体
連邦政府による SEZ、地方政府による工業団地が主要。一部民間事業者に
よる開発案件もある(マリィノ工業団地)。
インフラ整備状況
工業団地としてのユーティリティが整備された工業団地は少ない。
空き状況
立地等条件のよい工業団地のみ埋まってきている状況であり、多くの工業
団地には空きがある。実態としては、全く入居企業がおらず原野状態の工
業団地が過半数である。
販売価格
・モスクワ地域:カッシーラ街道沿い(モスクワ環状自動車道から8km) 79
ドル/㎡、キエフ街道沿い(モスクワ環状自動車道から22km)152ドル/㎡
・サンクトペテルブルク地域:30~80ドル/㎡
・カルーガ地域:48 ドル/㎡
土地収用手続き・
制度
■ロシアにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
2001 年 10 月に採択された土地基本法(土地の取引に関する一般的なル
ールを定めている)では、外国人にもロシア国民と同様の土地を購入して保
有する権利を認めている。(2011 年 1 月 9 日付大統領令第 26 号で定める
国境隣接地、港湾用地を除く)。
土地基本法の主な内容は次のとおり。
・土地の所有権者は「国」と「地方自治体」と「民間」の三通りに区分。土地に
関する権利は、所有権、相続権が付帯した個人の生涯にわたる占有権、賃
貸権、一定期間の無償利用権、地役権などが定められている。
・個人、法人とも同等の土地購入権が与えられている。
・連邦構成体行政府が所有する土地は、個人や法人に売却することができ
る。建物の権利を有している個人や法人は、その建物が合法に建てられて
21
Ernst & Young “Industrial Parks in Russia”に基づき記載。
45
いる土地の私有化を申請する権利を有する。建造用地の売却は、連邦法
で私有化が禁止されている場合や連邦構成体行政府の特殊な用途のため
に所有されている土地である場合を除き、自由に行われる。
・土地は連邦の登記機関に登記することが義務づけられる。
・農地については、外国人(個人)、外国法人、ならびに外国人(個人)・外
国法人の出資が 50%を超えるロシア法人は、賃借して使用することのみ認
められる(農地取引法 3 条)。
ただし、外国人(個人)や外国法人には、土地の無償交付は認められな
い。
なお、土地基本法の施行規則や登記制度が未整備なことから、実際には
まだ土地の売買には難しい側面があると考えられる。
ロシア民法 279 条から 287 条に、国または地方公共団体が土地を収用す
る場合の規定が置かれている。
土地は、国または地方自治体の必要のために買収により所有者から収用
することができる。土地の収用がいずれの必要のために行われるかに応じ、
買収はロシア連邦、相当するロシア連邦構成主体または地方自治体が実
施する(民法 279 条 1 項)。国または地方自治体の必要のために行う土地の
収用に関する決定は執行権力機関、ロシア連邦構成主体の執行権力機関
または地方自治体の機関が行う(同 2 項)。
土地の収用に関する決定を行った機関は収用の 1 年前までに、土地の所
有者にその旨を文書で通知しなければならない。土地の所有者が通知を
受理した日から 1 年以内に行う土地の買収は、所有者の同意を得た場合に
限り認められる(同 3 項)。
国または地方自治体の必要のために収用される土地の所有者は、土地
の収用に関する決定の国家登記時から土地の買収に関する合意が達成さ
れるまで、または裁判所の決定まで自己の判断により土地を占有、利用お
よび処分し、土地の指定用途に基づいてそれを使用するための必要な支
出を行うことができる。ただし、所有者は民法 281 条の定めにより土地の買
収価格が確定された場合、上記期間内に行った建物および建造物の新
築、拡張および建替えに関わる支出および損失の危険を負担する(民法
280 条)。
国または地方自治体の必要のために収用される土地の代金(買収価
格)、買収の時期およびその他の条件は、土地の所有者との合意により定
める。合意にはロシア連邦、ロシア連邦構成主体または地方自治体が収用
する土地の買収価格を支払う義務が含まれる(民法 281 条 1 項)。
46
買収価格を定める場合、土地およびその土地上にある不動産の市場価
額、逸失利益を含む第三者に対する自己の債務の期限前の消滅に伴い被
る損害を含め、土地の収用により所有者が受けるすべての損害を含める
(同 2 項)。
国または地方自治体の必要のために収用される土地に代えて、所有者と
の合意により、他の土地を買収価格と相殺した上で供することができる(同 3
項)。
国または地方公共団体の必要のために収用する場合の他に、指定用途
に従った使用が行われていない土地の収用(民法 284 条)や、法令に違反
して使用されている土地の収用(民法 285 条)、不適切な使用による土地の
収用(民法 286 条)についても定められている。
■外国企業の土地利用の現状
I. 外国企業の土地購入の可否
外国企業の土地所有については、土地基本法の 5 条第 2 項に規定さ
れ、原則として認められている 22。
II. 土地購入の契約手続きについて
土地基本法では、土地の売買契約に当たって必要な条件について、次
のように規定している。
・土地の売買記録が国家土地台帳に記載されること。
・売る側は買う側に対し、取引対象となる土地に付随する抵当の有無を通
知すること。
・土地の所有を証明する文書には、必ず当該土地の区画図を添付すること
また、土地基本法は、土地売買契約は必ず文書で行われること、売買が
行われる地方の登記院で登記されることを規定している。購入後の土地所
有権は、これら手続きの完了により発効される。
III. 購入できる土地について
外国企業が購入できる土地は、ロシア連邦で土地の所有権が合法的に
登記されている個人および法人からである。土地基本法(28 条 5 項)では、
然るべき国家機関が土地を外国企業に有償で供与できる場合を定めてお
22
ただし、次のような例外がある。
・国境地帯の土地の購入・所有は不可(土地基本法 15 条第 3 項)。
・農地の購入・所有は不可(賃借は可能。2002 年 7 月 24 日付連邦法第 101FZ 号農地取引法 3 条)。
47
り、具体的には、以下の購入方法が挙げられる。
・地方政府や市町役場に公式に依頼し斡旋してもらう
・公的または民間のブローカーに斡旋を依頼する
・不動産業者を通じて売りに出ている物件を購入する
・民間デベロッパー等が建設・整備した工業団地に入居する(賃借のケース
もある)
工場など建設目的のための国公有地の「所有権」は、競売もしくは入札を
経てのみ取得できるが、施設配置計画の事前承認を関係当局から得ること
により、直接交渉で「賃借権」を取得することも可能である(第 30 条)。ロシア
の地域事情の多様性などもあり、どのような方法や可能性があり得るか、利
点・欠点を十分に事前調査することが必要となる。
IV. 土地の用途別カテゴリー
土地基本法では、その土地の機能別にいくつかのカテゴリーを設定して
いる(7 条)。工場用地として購入する場合には、「工業用地」(88 条 1 項)の
カテゴリーに属する土地でなければならない。ただし、同法は、購入後のカ
テゴリー変更の可能性を認めている(8 条)。カテゴリー変更手続きは、2004
年 12 月 21 日付連邦法第 172-FZ 号「土地及び用地のカテゴリーの再分類
について」並びに地方政府条例等で規定されている。
V. 土地の価格設定
土地を購入する場合、1.本来の土地所有者から購入する場合と、2.一
度、他者が購入した土地を売ってもらう場合の2つの方法がある。
1.本来の土地所有者からの購入とは、国公有地を国や地方から直接に
購入することを意味する。この場合には、公認独立鑑定人が、法令(1998 年
7 月 29 日付連邦法第 135 号「評価活動に関する法」)に基づいて土地の価
格を設定する。
2.の場合は、私有地になるため、価格は所有者が一方的に設定するか、
需給関係に応じて形成される市場価格で決まる。その土地の状態や最寄り
の道路からの距離、既存のインフラ整備状況などにもよる。
VI. 土地の登記手続き
土地基本法では、土地の所有権は然るべき国家機関によって認証され
なければならない、と規定されている(26 条第 1 項)。
1997 年 7 月 21 日付連邦法第 122FZ 号「不動産に関する権利の国家登
48
記に関する法(不動産登記法)」にて、土地の所有権に関する手続が定めら
れている。
土地所有者による登記申請に当たって必要となる文書が存在する。
不動産登記法(第 9 条第 1 項)は、国家統一権利登記簿の登記について、
購入した土地が存在する地方における国家登記院が行うと規定している。
例えばモスクワ州の場合、モスクワ州登記院に登記申請する。
VII. 抵当権設定の可否について
1998 年 7 月 16 日付連邦法第 102FZ 号「不動産の抵当に関する法」(抵
当法)は、その土地が連邦法により取引の対象外とされている場合を除き、
土地は抵当契約の対象となり得るとしている 62 条 1 項)。
また同法(63 条 2 項)では、土地の一部に対して抵当権を設定することも
可能としている。ただしその場合には、その土地の面積はロシアの連邦構
成体(州・地方・共和国、特別市等)における法令によって規定された最小
面積以上であることが義務付けられる。
VIII. 外国企業が土地を購入しようとする場合、その土地の抵当権を確認
する方法
不動産登記法では、抵当権が設定された場合には、その旨が国家登記
されなければならないと規定している(4 条 1 項)。不動産に関するあらゆる
権利関係、その取引に関する事項および抵当権に関する情報はすべて統
一国家権利登記簿に記載されている。この登記簿に記載された情報を入
手するには、文書による申請書、申請企業の登記証明書(代理申請を行う
場合は代理人に対する委任状)、手数料の支払い証明が必要となる。
外国投資家および外資参加営利組織の資産は、連邦法などによって定
められた場合および事由を除いて、国有化や強制収用の対象とならない。
収用された場合、その資産額が支払われる。国有化に当たっては、資産額
に加えて他の損失が補填される。
税制優遇等の恩典
企業利潤税の減税、資産税、土地税の免税、 輸出入関税及び付加価値
税の免税(一部の場合のみ)。
(出所)JETRO ホームページ等に基づき新日本有限責任監査法人作成
49
(14)
ポーランド
工業団地数
14 23(※経済特区(SEZ)の合計。SEZ内に複数のSub Zoneがある。)
(日系はなし)
開発・運営主体
SEZ は全国 14 の自治体に設置されており、各自治体が設立した管理会社
によって運営されている。
インフラ整備状況
各 SEZ が広範囲にわたっているため、全域でインフラが整っている SEZ は
存在しない。Subzone によっては、インフラを整備している所もある。
空き状況
工業団地の残面積はどの SEZ にもあり、用地にまだ空きはある。
販売価格
・ブヴォニエ工業団地
・ルブリン地域
土地収用手続き・
制度
70ドル/㎡
133 ドル/㎡
■ポーランドにおける土地収用の手続き及び関連法制度・規制
現在のポーランド法の下では、公共機関のみが収用を行うことができる。
また収用の場合の取得には公的な目的が必要となる。また、公共機関及び
収用に全面的に協力する不動産の所有者については、財政上のインセン
ティブを与えている。
1997 年、ポーランド憲法は収用の法的根拠及び条件の規定に先駆けて
財産権を保護している。特定の手続は土地管理法(2007 年)及び不動産に
関する法律(2007 年)に基づく。特に、道路建設のための収用についての
法律が存在する。
まず土地の所有者との交渉を開始し、収用が決定した場合には所有権が
国に移転する。収用の決定から 14 日以内に代金が支払われる。なお、不
動産の所有者は裁判所に収用の決定を上訴することが可能である。
収用の補償は、現金または代理の土地にて行われる。当該金額は、専門
家の評価に基づく市場価値によって決定する。もし市場価値が無い(あるい
は不明)な場合には、売手の当該土地の取得コスト又は似たような条件の
土地の価格により評価する。所有者は木材や農作物から得ていた利益を回
収する権利を有する。収用が決定してから 30 日以内に土地を引き渡さない
場合には収用の該当箇所が 5%増加する。逆に支払が行われない場合に
は、利息分を受領する権利を有する。
実際には、強固な法的枠組みによる土地開発行為が、ポーランドの収
用に対する能力を上回っている可能性がある。法的要件に従うためには土
地所有者も公共機関も財政的に困難な状況があった事例が存在する。現
在も未解決の事例があるが、当該状況を解決するためには資金や代替の
土地が不足しているのが現状であると考えられる。
23
KPMG(2009) “A Guide to Special Economic Zones inPoland” に基づき記載。
50
■外国企業の土地利用の現状
外国人および外国企業の土地取得が可能。ただし、内務省の許可が必
要。不動産、土地の永久貸借権を持つ会社を買収する場合も内務省の許
可が必要。なお、ポーランドの現地法人や支店が土地を取得する場合、内
務省の許可は不要。また、EEA 諸国(EU、ノルウェー、アイスランド、リヒテン
シュタイン)、スイスの市民、企業は、内務省の許可は不要。
SEZ においては、土地の所有者が単一(経済特区・郡当局・農地庁のい
ずれか)であるため、権利関係が複雑にならないというメリットがある。その
他、SEZ では法人所得税の控除や投資額の 50%までの課税控除が受けら
れる、固定資産税の減免が受けられる(特定の経済特区のみ)等のメリットも
ある(ただし一定の条件は存在する)。
不動産購入の際には、土地の用地区分(農地・工業地・住宅地)の確認
や、不動産の売主が本当に所有権を有しているか、また国あるいは地方自
治体が不動産に対して第一専売権その他の権利を有しているか等を確認
する必要がある。
税制優遇等の恩典
1. 法人税率(19%)の減免
・ 大企業:投資予定額(有形固定資産取得にかかる支出)又は新規雇用
労働者の 2 年間の見積給与費用総額の 30%~50%
・ 中企業:投資予定額(有形固定資産取得にかかる支出)又は新規雇用
労働者の 2 年間の見積給与費用総額の 40%~60%
・ 小企業:投資予定額(有形固定資産取得にかかる支出)又は新規雇用
労働者の 2 年間の見積給与費用総額の 50%~70%
2. 固定資産税(地方税)の減免
(出所)・JETRO ホームページ、「Expropriation of Europe」(※Legal memorandum)(2013)、KPMG
(2009)「A Guide to Special Economic Zones in Poland」等に基づき新日本有限責任監査法人作成
51
2.1.2. 対象各国工業団地における日本企業の進出状況
2.1.2.1. 対象各国工業団地における日本企業の進出状況
(1) タイ
【自動車】日系部品メーカーの進出先としては、顧客である完成車メーカー近隣の工業団地が選
ばれることが多い。このため、日系だけでなく欧米メーカーの組立拠点もある東部臨海地域一帯へ
の進出が増えている。それ以外では、ホンダの立地するロジャナ工業団地近郊の中部アユタヤ地
域に、ホンダを顧客とする部品メーカーの集積が見られる。
【電気電子】電子部品メーカーは、中部アユタヤ地域一帯の工業団地、バンナー・トラッド沿いに多
く立地しているほか、北部チェンマイにも電子部品メーカーが集積している。しかし全般的には、電
子電機の生産拠点は特定地域に偏らず広く集積する傾向がある。
【その他】アユタヤ付近はチャオプラヤ川上流に当たることから、味の素等の飲料関係企業が立地
している。ラヨン南部の湾岸地域のマプタプット港付近は、石油化学工業の拠点であり、大手化学
メーカーの工場が集積している。
(2) インドネシア
インドネシアにおける経済活動はジャワ、特にジャカルタに集中しているため、ジャカルタに進出
する日系企業は多い。日系進出企業の 45%がジャカルタに拠点を有しているとする統計がある。
インドネシアに進出する日系企業のうち主な業種は、製造業(106 社)、卸売(61 社)、運輸(30
社)、鉱業・建設(28 社)、金融・不動産(25 社)などである。
工業団地の分布については、特にジャカルタ東部(西ジャワ州)のジャカルタ・チカンベック高速
道路沿いに多数立地しており、製造業の進出が多い。これは BKPM の申請状況と対応する。また、
シンガポールに近いバタム島にも多数の工業団地がある。工業団地のうち日系企業が特に多い工
業団地として、西ジャワ州の MM2100 工業団地(日系企業 117 社)、東ジャカルタ工業団地(同 76
社)、ジャバベカ工業団地、カラワン工業団地、バタム島のバタミンド工業団地などが挙げられる。
最近中小企業も多数進出を検討しているが、工業団地内に小規模の用地が用意されておらず、
またレンタル工場も限定的で募集をかけるとすぐ入居企業が決まる状況。
(3) ベトナム
ベトナム北部(中心都市はハノイ)の工業団地(ノイバイ工業団地-進出日系企業数 25 社、タンロ
ン工業団地-同 98 社等)に進出した日系企業の業種を調べると、7 割弱が製造業で構成される。
製造業の内訳では電気機器が全体の 3 割、輸送機器が 2 割を占める。この背景には、進出済みの
大手組立メーカーによる第 2、第 3 工場の展開に加えて、新たな大手メーカー及び関連部品メーカ
ーの進出が後押しされている点がある。
52
日本からベトナム中部(特に中心都市のダナン)の工業団地(ホアカイン工業団地-日系企業進
出数 6 社等)への直接投資については、木材や水産物など、現地の原材料を利用する加工系メー
カーやソフトウェア開発等の投資が見られる。
ベトナム南部(中心都市はホーチミン)は他の ASEAN 諸国に近く、海上輸送も活発である。早期
から工業団地が整備され海外投資を受け入れてきたこともあり、ベトナム内では最も産業集積度が
高い。ベトナムに進出する日系企業の 6 割が、ホーチミン近郊に進出している。ベトナム南部の工
業地帯(タントゥアン輸出加工区-進出日系企業数 63 社等)に進出している日系企業の内訳を見る
と、製造業が 6 割超を占めている。製造業の中では電気機器が 2 割、化学・医薬品 2 割、繊維・
衣服 1 割、食料品 1 割と続いている。電気電子では、日本でも有数の大手電気電子メーカーが進
出しており、これら大手組立メーカーの進出に伴って電気電子系部品メーカーの進出もみられる。
(4) マレーシア
日本からの投資は電気・電子分野が最も多く、1980~2008 年の累積投資額では 46%を占めた。
そのほかの製造業では、非鉄金属、石油製品、化学品、輸送機器分野向けが多い。州別の製造
業投資認可動向をみると、件数ではセランゴール、ジョホール、ペナン向けが多く、3 地域だけで
全体の約 7 割を占める。
クアラルンプールを擁するセランゴール州の工業団地(シャーアラム-進出日系企業数 37 社、ハ
イコム工業団地-同 47 社、バンギ-同 23 社等)には、家電や電子部品を扱う日系企業が多く進出し
ている。ジョホール州(パジール-進出日系企業数 32 社等)には、化学、総合商社、石油関連等の
日系企業が進出している。ペナン州(プライ工業団地-進出日系企業数 61 社等)には、自動車、家
電、電子機器等を扱う日系企業が進出している。
日系企業の進出時期を年代別にみると、1990 年代に集中しており、2000 年代に入ると新規進
出企業は減少傾向にある。
進出企業数が頭打ちとなる一方で、日系企業による投資認可額は増加している。この背景には、
①新規企業による 1 件当たりの投資額が増加している、②既進出企業による追加・拡張投資が行
われている、という 2 点が主な要因と推測される。
(5) ミャンマー
日本企業の進出は 111 社。ミャンマー進出は初期の段階にあり、現時点で進出している業種は
限られる。既進出企業の業種の比率を見ると、縫製・衣料が最も多く 20%で、建設 16%、物流 16%、
サービス 12%、医療・医薬品 12%、機械 8%、及びその他の業種となっている。
現状で工場進出を検討する場合は、既進出の日系企業が多いヤンゴン周辺の工業団地が主な
候補になると思われる。例えばミンドラゴン工業団地(進出日系企業数 8 社)には、衣類アパレル業
を中心として日系企業が進出している。
53
(6) インド
日系企業 926 社の進出状況は以下の通り。デリー首都圏及びバンガロール・チェンナイに大半
の企業が進出している。
・デリー首都圏:430 拠点
・ニムラナ:28 拠点
・アーメダバード近郊:54 拠点
・ムンバイ・プネ:262 拠点
・バンガロール・チェンナイ:511 拠点
・ハイデラバード:72 拠点
・コルカタ近郊:70 拠点
このうちデリー首都圏は家電・機械などのメーカーの販売会社や、商社、駐在員事務所が多く置
かれている。一方で製造拠点は、デリー近郊の諸都市に展開している。中でもハリヤナ州のバワル
(進出日系企業数 19 社)やマネサール(同 36 社)は上水道及び排水設備が整備されており、スズ
キやホンダ等の自動車関連メーカーや家電メーカー等が進出している。
ムンバイに置かれているのは販社や商社・金融・海運といったサービス部門が中心で、製造拠
点は内陸部のプネなどに展開している。
バンガロールやチェンナイには、輸送機械や食品加工業などの製造拠点が多数展開している。
(7) ブラジル
日本のブラジル向け直接投資残高を見ると、鉱業(残高総額の 30.9%)、卸売業・小売業(同
21.1%)、鉄・非鉄金属(同 11.3%)、金融・保険業(同 10.9%)、輸送・機械器具(同 6.9%)と続き、
ブラジル向けの直接投資において日系の製造業が占める割合は低い。
これは、日本においてはブラジルを鉱物資源の産出国として捉える意識がある一方で、ブラジル
を製造拠点として捉える意識が低かったことを示唆している。
(8) メキシコ
在メキシコ日本大使館が把握している 2011 年から 2014 年の日系企業の投資案件リストを見ると、
全投資案件 140 件のうち、自動車会社が 5 件・自動車部品会社が 113 件と、圧倒的に自動車関係
の進出件数が多い。うち 7 割がメキシコに初進出の会社とのこと。
自動車会社の進出が多い理由として、メキシコは世界最大の自動車市場であるアメリカ合衆国と
NAFTA により市場統合している上、陸続きで輸送コストが安いこと、さらに最近自動車需要が急増
している中南米市場に近いことなどが要因として挙げられる。
日系企業の入居数が多い工業団地として、メキシコ中央部にあるグアナファト州の Parque
Industrial Santa Fe I(進出日系企業数 8 社)、Parque Industrial Santa Fe II(同 14 社)、及び Parque
Industrial Amistad Bajio(同 7 社)等が挙げられる。
54
(9) トルコ
トルコに進出している日本企業としては、トヨタ自動車、本田技研工業、いすゞ自動車や自動車
部品会社である矢崎総業、デンソー、アイシン精機など多くが自動車関連企業であり、その拠点は、
主にイスタンブール(İSTANBUL)県のトゥズラ(Tuzla)付近、コジャエリ(KOCAELİ)県のゲブゼ
(Gebze)やチャユルオヴァ(Çayırova)付近、サカリヤ(Sakarya)県のアリフィア(Arifiye)付近、テ
キルダー(Tekirdağ)県のチェルケスキョイ(Çerkezköy)付近とトルコ北西部のマルマラ地方に集
中している。
自動車については、主要外資企業が進出欧州への輸出拠点(輸出の 9 割が欧州)としてトルコに
進出している。日系以外の外国企業ではフォード(コチ閥)、ルノー(OYAK)、フィアット(コチ財閥)、
HYUNDAI(キバル財閥)等がトルコに進出している。
自動車部品工業については、サプライヤーの 75%がマルマラ地域に集中している。特にゲブゼ
(TAYSAD)、ブルサ工業地域に多く、全国(イスタンブール、ブルサ、サカルヤ、コジャエリ、テキル
ダァ、イズミルなど)では約 1300 社が同部門に従事している。また、自動車部品メーカーの多くは、
トルコの工業団地である Organize Sanayi Bölgesi(以下、「OSB」)に入居しており、そのうち日本
企業の 5 社は自動車産業に特化した工業団地であるコジャエリ(KOCAELİ)県の TOSB に入居してい
る。
(10)
サウジアラビア
日系企業のサウジアラビアへの進出については、住友化学等の石油化学系の企業のほか、ユ
ニチャーム(紙おむつ、衛生用品)、クボタ(鉄鋼製品)、いすゞ自動車(トラック)等の製造業が進出
している。進出先は、Al-khobar、ジュベイル、リヤド、ジェッダ、ダマン等に立地している。
(11)
南アフリカ共和国
日系企業の南アフリカへの進出数は少ないが、進出した日系企業のうち主な業種としては、総
合商社、自動車メーカー、家電メーカー、及び建設業が挙げられる。
(12)
エジプト
1970 年代から進出している東芝等の家電メーカー、蒸気タービン発電機を受注した日立・三菱
重工等の重電メーカー、スズキやいすゞなどの自動車メーカー、水関連機器等を販売する一般機
械メーカー、そして製薬、化学、総合商社等が進出している。
(13)
ロシア
自動車産業は、トヨタ、日産(ボロブレボ工業団地)、三菱ふそう(マステル工業団地)等が進出し
ている。
SEZ には、自動車、金属加工等の日系企業の進出が多い。地方政府による工業団地では、ヴォ
ログダ州では鉄鋼、バイオテクノロジー、メッキ加工、食品添加物等。カルーガ州では自動車、家
55
電、一般機械等の日系企業が進出している一方、ウリャノフスク州では機械設備、プラスチック製
造、飲料製造、自動車部品等の日系企業が進出している。
(14)
ポーランド
日系企業のうち、自動車産業としては、いすゞ(ポーランド南部のカトヴィツェ工業団地)、トヨタ
(ポーランド西部のヴァウブジフ工業団地)が進出している。
その他、ブリジストン(ポーランド北部のポモジェ工業団地)、東芝(テレビ関連に特化した子会社
が、ポーランド南部のタルノブジェグ工業団地に進出)等もポーランドに進出している。
2.1.2.2. 対象各国の代表的な工業団地への日系企業数一覧
本項では、対象各国における代表的な工業団地への日系企業進出状況について概観する。な
お、各国について、特に進出数が多い団地については赤字で表示した。
(1) タイ
タイの主な工業団地について、日系企業の入居数の多い工業団地として、バンコク周辺ではナ
ワナコン工業団地(104 社)、アユタヤではロジャナ工業団地(147 社)、チョンブリのアマタナコン工
業団地(360 社)、ラヨンのヘマラート・イースタンシーボード工業団地(100 社)等が挙げられる。こ
れらの工業団地では、運営事務所に日本人を設置する所も多く、日系企業を手厚くサポートする
体制も整っている。
図表 9 タイの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
バンコク周辺
アユタヤ
工業団地名
開発・運
入居企業
日系企業
日系入居
営事業者
数
数
率
Bangchan Industrial Estate
83
20
24%
Gemopolis Industrial Estate
130
2
2%
Nava Nakorn Industrial Zone
190
104
55%
Lad Krabang Industrial Estate
235
44
19%
42
35
83%
218
147
67%
37
9
24%
23
2
9%
7
2
29%
Saha Ratanna Nakorn Industrial
Estate
住金物産
Rojana Industrial Park
サラブリ
Hemaraj Saraburi Industrial
Land
ラチャブリ
Ratchaburi Industrial Estate
シンブリ
Indra Industrial Park
56
地域
工業団地名
チェチェンサ
Gateway City Industrial Estate
オ
TFD Industrial Estate
チョンブリ
Amata Nakorn Industrial Estate
開発・運
入居企業
日系企業
日系入居
営事業者
数
数
率
60
26
43%
9
4
44%
600
360
60%
34
8
24%
150
30
23%
220
100
45%
16
5
31%
13
6
46%
Asia Industrial Estate
8
4
50%
IPP Industrial Park
6
3
50%
26
16
62%
Kabinburi Industrial Zone
70
19
27%
304 Industrial Park
88
34
39%
HI-TECH KABIN INDUSTRIAL
17
1
6%
4
3
75%
75
30
40%
19
1
5%
アマタ
(伊藤忠)
Hemaraj Chonburi Industrial
Estate (Hemaraj CIE)
ラヨン
アマタ
Amata City Rayong
(伊藤忠)
Eastern Seaboard Industrial
Estate(Rayong)
Rayong Industrial Land
Rojana Industrial Park (Rayong)
住金物産
Hemaraj Eastern Seaboard
Industrial Estate (Hemaraj
ESIE)
プラチンブリ
PARK
ナコンチャラ
Nava Nakorn Industrial Zone
シマ
Nakhon Ratchasima
ランプーン
Northern Region Industrial
Estate
ソンクラ
Southern Industrial Estate
(Chalung)
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(2) インドネシア
インドネシアの主な工業団地について、日系企業の入居の多い工業団地としては、西ジャワ州の
MM2100 工業団地(117 社)、ジャバベカ工業団地(110 社)、イーストジャカルタ工業団地(76 社)、
カラワン工業団地(114 社)、コタブキット工業団地(51 社)、バタム島のバタミンド工業団地(39 社)
57
となっている。日系が開発した工業団地のほか、ローカル開発の工業団地への入居も多く、特に西
ジャワ州においては近隣工業団地含めてサプライチェーンが形成されているため、同地域に集積
する傾向が多く見られる。
立地としては、西ジャワ州の工業団地のなかでも、よりジャカルタに近い工業団地から空きが埋ま
って行っている状況であるが、MM2100 工業団地等においては空きがほとんどなくなっているなか、
立地もより遠くに行く傾向となっている。
図表 10 インドネシアの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
工業団地名
開発・運営
入居企
進出日系
日系入
事業者
業数
企業数
居率
14 以上
14
Cilandak Commercial Estate
4 以上
2 以上
Soewarna Integrated Business
37 以上
4 以上
3 以上
3 以上
84
4
190
8
4%
1,500
110
7%
ジャカルタ首
Jakarta Industrial Estate
都特別州
Pulogadung
バンテン州
Park
Kawasan Industri Terpadu MGM
Cikande
西ジャワ州
Krakatau Industrial Estate Cilegon
Modern Cikande Industrial
Estate
Jababeka Industrial Park
MM2100 Industrial Town
丸紅
171
117
68%
East Jakarta Industrial Park
住商
103
76
74%
136
114
84%
37%
(EJIP)
Karawang International Industrial 伊藤忠
City (KIIC)
Suryacipta City of Industry
住商
75
28
Greenland International
双日
17 以上
17 以上
Lippo Cikarang Industrial Park
500 以上
20 社以上
Kota Bukit Indah Industrial City
85
51
中部ジャワ
Cilacap Industrial Estate
1 以上
1
州
Kawasan Industri Tugu
1 以上
1 以上
Industrial Center
Wijayakusuma
東ジャワ州
Surabaya Industrial Estate
300
58
60%
地域
工業団地名
開発・運営
入居企
進出日系
日系入
事業者
業数
企業数
居率
2 以上
2
74
39
3 以上
3
2 以上
2
Puri Industrial Park 2000
32
1 以上
Tunas Industrial Estate
37
Union Industrial Park
33
Citra Buana Centre Park I
65
1 以上
ビンタン島
Bintan Industrial Estate
23
6
26%
東カリマンタ
Kaltim Industrial Estate
14
0
0%
ン州
Kariangau Industrial Estate
10
0
0%
北スマトラ州
Medan Industrial Estate
1 以上
1
南スラウェシ
Makassar Industrial Estate
150
7 以上
Rungkut
Pasuruan Industrial Estate
Rembang(PIER)
バタム島
Batamindo Industrial Park
53%
(BATAMINDO)
Bintan Industrial Park
Kawasan Bintang Industri II
州
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(3) ベトナム
ベトナムの主な工業団地について、日系企業の入居の多い工業団地としては、ハノイのタンロン
工業団地 I(98 社)、タンロン工業団地 II(39 社)、ハイフォンの野村ハイフォン工業団地(53 社)、ホ
ーチミンのタントゥアン工業団地(63 社)、ドンナイのアマタベトナム工業団地(49 社)、ビンズオンの
VSIP-1,2 工業団地(92 社)となっている。ベトナムにおいても、日系が開発した工業団地に日系企
業が集積する傾向が強く見られており、タンロン工業団地等、入居率が 90%を超える工業団地も
見られる。
59
図表 11 ベトナムの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
ハノイ
工業団地名
開発・運営
進出企
進出日系
日系入
事業者
業数
企業数
居率
住商
Thang Long I Industrial Park
105
98
93%
Noi Bai Industrial Zone
40
25
63%
Ha Noi - Dai Tu Industrial Zone
28
8
29%
Hoa Lac Hi-Tech park
54
3
6%
Quang Minh Industrial Zone
95
13
14%
Thach That-Quoc Oai Industrial
24
3
13%
40
39
98%
VSIP Bac Ninh Industrial Zone
34
15
44%
Que Vo I Industrial Zone
63
11
17%
Tien Son Industrial Zone
118
12
10%
Yen Phong Industrial Zone
31
3
10%
Phuc Dien Industrial Zone
29
22
76%
Dai An Industrial Zone
40
6
15%
Nam Sach Industrial Zone
24
10
42%
Tan Truong Industrial Zone
27
23
85%
ハナン
Dong Van 2 Industrial Zone
31
23
74%
ハイフォン
Nomura Hai Phong Industrial
61
53
88%
Dinh Vu Industrial Zone (DVIZ)
35
9
26%
Do Son Industrial Zone
22
2
9%
フンイエン
Pho Noi A Industrial Zone
89
13
15%
ダナン
Da Nang Industrial Zone
23
3
13%
120
6
5%
Hoa Cam Industrial Zone
47
6
13%
クアンニン
Cai Lan Industrial Zone
34
1
3%
バクザン
Dinh Tram Industrial Zone
68
7
10%
ニンビン
Khanh Phu Industrial Zone
23
1
4%
トゥアティエ
Phu Bai Industrial Zone
38
1
3%
カインホア
Suoi Dau Industrial Zone
45
1
2%
クアンナム
Chu Lai Open Economic Zone
72
2
3%
Zone
住商
Thang Long Industrial Park II
バクニン
ハイズオン
野村證券
Zone
Hoa Khanh Industrial Zone
ンフエ
60
地域
ホーチミン
ドンナイ
工業団地名
開発・運営
進出企
進出日系
日系入
事業者
業数
企業数
居率
Tan Thuan EPZ
165
63
38%
Linh Trung Ⅲ EPZ & IP
128
3
2%
Tan Binh IZ
27
2
7%
Vinh Loc IZ
31
1
3%
Quan Trung Software City
54
Saigon Hi-Tech Park
35
3
9%
130
49
37%
50
13
26%
アマタ
AMATA IZ
0%
(伊藤忠)
LOTECO IZ (Long Binh Techno
双日
Park)
ビンズオン
Nhon Trach I IZ
72
0%
Nhon Trach II IZ
52
0%
Nhon Trach III IZ
52
2
4%
Go Dau IZ
22
2
9%
240
59
24%
129
33
25%
27
1
4%
ミーフック工業団地(MPIP)
380
41
11%
Dong An ⅠIZ
120
3
3%
95
3
3%
109
4
4%
Vietnam - Singapore Industrial
セムコープ
Park I
(三菱商
事)
Vietnam - Singapore Industrial
セムコープ
ParkⅡ
(三菱商
事)
Nam Tan Uyen IZ
Song Than II IZ
Dong An ⅡIZ
ロンアン
Long Hau Indsutrial Park
94
23
24%
バリア・ブン
My Xuan A IZ
20
2
10%
Tra Noc Industrial Park(チャーノ
I:102
1
1%
ック I、II 工業団地)
II:17
タウ
カントー
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
61
(4) マレーシア
マレーシアの主な工業団地について、日系企業の入居の多い工業団地としては、ジョホール州
の Pasir Gudang 工業団地 I(32 社)、ペナン州の Prai 工業団地(61 社)、セランゴール州の Shah
Alam Section 15, 21, 22, 23 工業団地(37 社)、Hicom Industrial Valley, Shah Alam 工業団地(47
社)となっている。
図表 12 マレーシアの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
工業団地名
進出日系企業数
ジョホール州
Pasir Gudang Industrial Estate
1
Tanjung Agas
ケダ州
マラッカ州
Kawasan Perindustrian Senai
12
Kawasan Perindustrian Tebrau
15
Bakar Arang
12
Tikam Batu
4
Kulim
8
Darulaman
4
Kulim Hi Tech Park
4
Tangga Batu
4
Batu Berendam Free Zone
ネグリセンビラン州
Senawang
セランゴール州
10
7
Nilai
ペナン州
32
13
Tuanku Jaafar Industrial Estate
4
New Senawang Industrial Park
15
Prai
61
Mak Mandin
5
Bayan Lepas
19
Selat Kelang Utara
4
Bukit Raja
8
Shah Alam Section 15, 21, 22, 23
37
Telok Panglima Garang(General & FZ)
9
Bangi ( Section 10, 13 ( 1 & 2 ), & 16 )
23
Baranang
4
Cheras Jaya
4
Sungai Buloh
4
Subang Hi-Tech Industrial Park, Subang Jaya
62
10
地域
工業団地名
進出日系企業数
Hicom Industrial Valley, Shah Alam
47
Lion Industrial Park, Shah Alam
4
Subang Jaya Industrial Estate
5
Bangi IV-Bandar Baru Bangi
23
Sungai Way FZ
12
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(5) ミャンマー
ミャンマー進出に日系企業の注目が集まるなか、水や電力、廃水処理等のインフラが十分に整
備されている唯一の工業団地であるミンガラドン工業団地は、既に空きがない状況である。同工業
団地には日系企業 8 社が進出をしている。その他の工業団地への進出事例としては、ハニーズが
ヤンゴン工業団地に、スズキがサウスダゴン工業団地に進出している。このような状況において、今
後は我が企業が開発を担うティラワ SEZ が、新たな企業の進出先として注目されている。
図表 13 ミャンマーの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
ザガイン管区
工業団地名
Kalay Industrial Zone
進出企業
進 出 日 系 日系入居率
数
企業数
34
Monywa Industrial Zone
596
タ ニ ン ダ ー リ Myeik Industrial Zone
8
管区
バゴー管区
Pyay Industrial Zone
132
マグウェ管区
Yaenan Chaung Industrial Zone
121
Pakokku Industrial Zone
272
マンダレー管
Mandalay Industrial Zone
1379
区
Meiktila Industrial Zone
295
Yandanarpon Cybercity
16
Myin Gyan Industrial Zone
265
モン州
Mawlamying Industrial Zone
ヤンゴン管区
Shwe Pauk kan Industrial Zone
244
North Okkalapa Industrial Zone
94
Dagon Seikkan Industrial Zone
102
86
East Dagon
45
63
地域
工業団地名
進出企業
進 出 日 系 日系入居率
数
企業数
South Okkalapa Industrial Zone
95
South Dagon Industrial Zone(1)
137
South Dagon Industrial Zone(2)
661
South Dagon Industrial Zone(3)
1280
Shwe Pyi Thar Industrial Zone(2,3,4)
North Dagon Industrial Zone
1
1%
1
3%
8
44%
108
0
Thaketa Industrial Zone
90
Thadukan
7
Wataya
3
Yangon
31
Myaungtaga
22
Thilawa
3
Shwe Pyi Thar Industrial Zone(Zone-1)
Mingalardon Industrial Zone
132
18
Hlaing Thar Yar Industrial Zone
164
(Zone5)
Hlaing Thar Yar Industrial Zone
519
(Zone1,2,3,4,6,7)
Shwe Than Lwin
10
Anawrahta
5
Shew Lin Pan Industrial Zone
203
Taunggyi Industrial Zone
767
エ イ ヤ ワ デ ィ Hinthada Industrial Zone
9
ー管区
9
シャン州
Myaun Mya Industrial Zone
Pa Thein Industrial Zone
54
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(6) インド
インドにおける日系の進出先としては、ニューデリー近郊地域のニムラナ工業団地(43 社)、IMT
マネサール工業団地(36 社)、Noida/Greater Noida 工業団地(32 社)となっており、ジェトロが日系
専用の工業団地として誘致を進めているニムラナ工業団地は日系企業の集積に成功していると見
られている。また、チェンナイ地域において日系工業団地 2 団地の開発が進められており、双日マ
64
ザーソン工業団地、チェンナイ総合工業団地の 2 団地への今後の日系企業の集積も期待されて
いる。
図表 14 インドの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
工業団地名
アーメダバード
SANAND Industrial Estate
1
HALOL Expansion Industrial Estate
2
HAJIRA
1
SRI CITY
7
GUMMIDIPOONDI
1
IRUNGATTUKOTTAI
2
PILLAIPAKKAM
1
SRIPERUMPUDUR
2
ORAGADAM
6
MAHINDRA WORLD CITY
6
チェンナイ
ニューデリー
進出日系企業数
Neemrana
43
Chopanki/Tapukara
4
Bawal
19
Rohtak
4
IMT Manesar
バンガロール
ムンバイ
36
IMT Faridabad
8
Rai
1
Bahadurgarh
1
Noida/Greater Noida
32
Bidadi Industrial Area
6
Electronics City
4
Narsapura
2
Doddaballapura P-III
1
Harohalli P-III
1
Hosur
1
CHAKAN
3
KASURDI
1
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
65
(7) ブラジル
ブラジルの工業団地において国籍問わず入居企業数が多いのは、アマゾナスのマナウス工業団
地(600 社)、バイーアの Centro Industrial de Aratu(147 社)、Centro Industrial do Subaé(189 社)、ペ
ルナンブーコ州の Complexo Industrial Portuário de Suape(150 社)等である。
図表 15 ブラジルの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
工業団地名
入居企業数
進出日系企業
数
アクレ
ZPE do Acre
アマゾナス
Zona Franca de Manaus
600
バイーア
Polo Industrial de Camaçari
120
Centro Industrial de Aratu
147
Centro Industrial do Subaé
189
セアラー
2
ZPE do Ceará / Complexo Industrial e
31
2
Portuário do Pecém (CIPP)
エスビリドサン
Complexo Gás-Quimico de Linhares
1
Distrito Minero Industrial de Catalão
38
ト
ゴイアス
Distrito Agroindustrial de Anápolis
ミナスジェライ
Parque Indústrial de Betim
ス
Complexo Industrial de Sete Lagoas
パラナ
Parque Industrial de Curitiba
ペルナンブーコ
Complexo Industrial Portuário de Suape
126
6000
1
5
16
Polo Automotivo Pernambucano
150
11
Polo Vidreiro Goiana
6
リオデジャネイ
Volkswagen Caminhões e Ônibus
8
ロ
(Volkswagen Trucks and Buses)
Parque industrial Nissan
4
Parque industrial de Resende
6
Distrito Industrial de Queimados
Comperj
30 以上
1
Distrito Industrial de Santa Cruz
Polo Industrial de Macae - Cabiunas
Polo Industrial Macaé
1
- Bellavista
66
14
5
15
1
4
地域
工業団地名
入居企業数
進出日系企業
数
Rio Grande do
Polo Petroquímico do Sul
Sul
Complexo Industrial Automotivo de Gravataí
15
サンタカタリー
Parque industrial em Joinville
26
ナ
Perini Business Park
5
100 以上
Bianchini Business Park
1
Interpolos Condomínio Industrial
11
Polo Automotivo de Piracicaba
29
Distrito Industrial de Rio Claro
47
Polo Petroquímico do ABC paulista
120
Polo petroquímico de Paulínia
4
Faz Gran Empresarial
サンパウロ
25
Condomínio Empresarial Atibaia
1
9
Condomíno Empresarial Barão de Mauá
23
Espaço Gaia Jarinu
29
Condomínio Empresarial Master Offices
13
CondoVille
7
Associação Condomínio Industrial Barão de
80
Mauá
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(8) メキシコ
メキシコの主な工業団地について、日系企業の入居の多い工業団地としては、グァナファトに
集中しており、Parque Industrial Amistad Baijio(7 社)、Parque Industrial Santa Fe I, II(22 社)、
Parque Tecno Industrial Castro del Río(5 社)となっている。
図表 16 メキシコの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
アグアスカリ
工業団地名
入居企業
進出日系
日系入居
数
企業数
率
FINSA Aguascalientes
1
Parque Tecno Industrial Castro del Río
5
エンテス
グアナファト
NOVOPARK
22
67
2
9%
地域
工業団地名
入居企業
進出日系
日系入居
数
企業数
率
Parque Industrial Amistad Bajio
10
7
70%
Parque Industrial Santa Fe I
23
8
35%
Parque Industrial Santa Fe II
25
14
56%
Parque Industrial Santa Fe III
2
1
50%
Parque Industrial Santa Fe IV
6
2
33%
30
3
10%
117
3
3%
FINSA Queretaro
26
1
4%
バハ・カルフ
FINSA Tijuana
15
1
7%
ォルニア
Parque Industrial Cachanilla
6
1
17%
Parque Industrial Las Californias
22
1
5%
Parque Industrial Mexicali I
16
1
6%
9
2
22%
Parque Tecno Industrial Castro del Río
ケレタロ
Parque Industrial Querétaro
Parque Industrial Mexicali IV
ヌエボレオン
FINSA Guadalupe
14
3
21%
Nuevo Leon
FINSA Monterrey
22
2
9%
チワワ
Parque Industrial Aero Juárez
34
1
3%
4
2
50%
Parque Industrial Amistad Ramos Arizpe
23
1
4%
Parque Industrial Amistad Acuña
21
2
10%
Parque Industrial La Angostura
15
1
7%
Supra Industrial Park
コアウイラ
ハリスコ
Parque Industrial San Jorge
4
1
25%
サン・ルイス・
Parque Industrial Millennium
23
1
4%
ポトシ
WTC Industrial
22
3
14%
タマウリパス
Administracion Portuaria Integral de
56
1
2%
5
3
60%
FINSA Nuevo Laredo
14
1
7%
Oradel Industrial Center
10
2
20%
Parque Industrial Del Norte
43
4
9%
Altamira
Del Norte Industrial Center
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
68
(9) トルコ
トルコにおける工業団地のうち、日系企業が進出している工業団地としては、Kocaeli 地域の
GEBZE 工業団地(1 社)、TOSB OTOMOTİV YAN SANAYİ İHTİSAS 工業団地(5 社)、İstanbul 地域の
İSTANBUL ANADOLU YAKASI 工業団地(2 社)、Sakarya 地域の SAKARYA I.工業団地(3 社)、
Tekirdağ 地域の ÇERKEZKÖY 工業団地(1 社)などである。
図表 17 トルコの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
工業団地名
進出日系企業数
İstanbul
İSTANBUL ANADOLU YAKASI
2
Kocaeli
GEBZE
1
TOSB OTOMOTİV YAN SANAYİ İHTİSAS
5
Sakarya
SAKARYA I.
3
Tekirdağ
ÇERKEZKÖY
1
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(10)
サウジアラビア
サウジアラビアの工業団地で国籍問わず入居企業数が多いのは、リヤド地域の Ryadh 2nd 工業
団地(1,050 社)、ジェッダ地域の Jeddah 1st 工業団地(552 社)、ダンマン地域の Dammam 2nd 工業
団地(298 社)等である。
図表 18 サウジアラビアの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
工業団地名
入居企業数
進出日系企
日系入居率
業数
ダンマン
リヤド
Dammam 1st
80
Dammam 2nd
298
Riyadh 1st
54
Riyadh 2nd
18
22%
27
50%
約 30
5%
1,050
Obaikan Private Industrial City
9
Water and Energy Private
9
Industrial City
Al-Ajaimi Private Industrial City
8
ジェッダ
Jeddah 1st
メッカ
Makkah Al-Mukarrama
60
アルメディナ
Al-Madina Al-Munawwara
10
552
69
地域
工業団地名
入居企業数
進出日系企
日系入居率
業数
アルハサ
Ahsa 1st
52
アルハルジュ
Al-Kharj
2
アルガシーム
Al Qassim 1st.
タブーク
Tabuk
ハーイル
Hail
11
アシール
Assir
35
ジュベイル
Jubail Industrial City
19
43
9
ヤンブー
8
42%
・一次産業 14
・二次産業 20
・軽工業 70
(建設中 19)
ラービグ
3 以上
Rabigh Complex for Plastic
3
Technology
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(11)
南アフリカ共和国
南アフリカ共和国には East London IDZ と Coega IDZ があり、それぞれ国籍問わずに入居企業
は 21 社、22 社となっている。いずれも日系の進出はまだ見られない。
図表 19 南アフリカの主な工業団地における日系企業入居状況
工業団地名
入居企業数
進出日系企業数
East London IDZ
21
0
Coega IDZ
22
0
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(12)
エジプト
エジプトの工業団地への進出企業数を国籍を問わずに見ると、6th October City に立地する
Engineering Square (E Square)Ph1,2 において、35 社が進出している。また、10th Ramadan 工業団地に
立地する Pyramids Industrial ParksIndustria West 工業団地には、15 社以上の企業が進出している。
70
図表 20 エジプトの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
工業団地名
入居企業数
進出日系企業数
6th of October
Engineering Square (E Square) *Phase
35
0
city, Giza
1 (Zone 3)
governorate
Engineering Square (E Square) *Phase
同上
同上
2 (Zone 4)
10th Ramadan
Pyramids Industrial ParksIndustria
15 以上
West
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(13)
ロシア
ロシアにおける工業団地への日系企業の進出状況は、特定の団地に集中することもなく、各地
域に点在している状況である。国籍を問わずに入居企業数の多い工業団地を見ると、Taldomsky
District の Dubna 工業団地(88 社)、モスクワ地域の Zelenograd 工業団地(35 社)、Republic of North
Tatarstan 地域の Alabuga 工業団地(34 社)等である。
図表 21 ロシアの主な工業団地における日系企業入居状況
地域
工業団地名
Voronezh Region
RusLandGroup
5 以上
Maslovsky
7 以上
Vorsino
4 以上
Grabtsevo
1 以上
Detchino
1 以上
Kaluga-Yug
1 以上
Kaluga Region
入居企業数
進出日系企業数
(Kaluga-South)
Lipetsk Region
Lemminkainen
1 以上
Rosca (Rosva)
2 以上
1 以上
Dankov
1 以上
1 以上
Lipetsk
1 以上
1 以上
Terbuny
1 以上
Chaplyginskaya
1 以上
Republic of
Building materials of
Bashkortostan
Bashkortostan
Republic of North
Alabuga
8
34
71
1 以上
地域
工業団地名
入居企業数
進出日系企業数
Tatarstan
St.Petersburg
Maryino SPb
5 以上
Tver Region
Borovlevo-1,2
6 以上
Redkino
4 以上
Tomsk Region
Tomsk
1 以上
1 以上
Ulyanovsk Region
Zavolzhye
3 以上
1 以上
No data(based on facilities of
7 以上
1 以上
OJSC DAAZ)
3 以上
Ulianovsk
Volokolamsky District
Volokolamsky
6
Dmitrovsky District
Bely Rast
4
Orudievo
3
Podosinki
1
Domodedovo
Yuzhnye Vrata
6
Klinsky District
Spas-Zaulok
1
Kolomensky District
Amerevo
1
Leninsky District
M4
3
Mozhaisky District
Rylkovo
2
Moscow(including new
Zelenograd
35
Noginsky District
Dega Cluster Noginsk
19
Ozersky District
Ozery
8
Podolsky District
Koledino(M2-Podolsk)
1
Serpukhovsky District
Puschino
10
Taldomsky District
Dubna
88
territories)
1 以上
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
(14)
ポーランド
ポーランドの主な SEZ についてみると、国籍をとわずに入居企業が多いのは、ポーランド西部の
Kostrzyn-Słubice SEZ(224 社)、ポーランド南部の Katowice SEZ(約 200 社)、ポーランド中央部の Łódź
SEZ(224 社)となっている。
72
図表 22 ポーランドの主な工業団地における企業入居状況
地域
工業団地名(SEZ)
入居企業数
Kamienna Góra
51
Kostrzyn-Słubice
224
Legnica
54
Katowice
約 200
Krakowski Park Technologiczny
127
ポーランド中央部
Łódź
224
(ワルシャワ近郊)
Starachowice
147
Pomorska (Pomeranian)
84
Suwałki
71
Warmia-Mazury
54
ポーランド西部
(ヴロツワフ周辺)
ポーランド南部
ポーランド北部
(バルト海沿岸)
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人整理
73
2.1.3. 工業団地以外への日本企業の進出実績
2.1.3.1. 工業団地外進出理由
ヒアリング調査により、工業団地外への進出理由について確認を行ったところ、以下のような回答
が多く聞かれた。

工業団地内よりも団地外の方が安価
平米あたり単価は一般的に工業団地内よりも団地外の方が安価のため、特に海外展開に慣れた
企業等では、コスト削減を重視して工業団地外に進出するという声が聞かれた。

インフラについては団地外でも問題がない
一般的に新興国においては、電力供給等のインフラが安定しておらず、工業団地内ではこれらの
供給が安定していることが工業団地への進出メリットとして認識されている。しかし、タイ等の中進国
では、工業団地の内外でこのようなインフラ面での差異はほとんどなくなっており、インフラ面での
団地内進出メリットはなくなりつつある。

団地内だと人材確保で競争が発生する、ジョブホッピング
積極的に団地外を選ぶ企業が理由として挙げるのが団地内の人材獲得競争であった。実際、団
地内に進出している企業も従業員が定着せずジョブホッピングを繰り返すことには頭を痛めており、
工業団地進出の一つのデメリットであるとも言える。

団地内では広大な敷地の確保が困難、団地内では将来的な拡張時の用地確保が困難
自動車等の製造業が組立工場建設のために広大な土地を必要とするのに対して工業団地では広
大な土地の確保が困難であるケースも多い。また、将来的な拡張時には近隣地への拡大を企業
側は希望しているものの、工業団地に進出した場合には周りの土地は他社が進出して埋まってし
まうため、
従って、工業団地内外のインフラ面での整備状況にほとんど差がないような中進国においては、
工業団地内への進出へのインセンティブは必ずしも高くなく、より安価で人材確保面での競合も避
けられる工業団地外への進出については、特に海外進出経験も豊富で広大な土地を必要とする
大企業において積極的に検討を行う傾向が見られた。
74
2.2. 海外現地調査
2.2.1. タイ
2.2.1.1. 調査の趣旨
(1) タイへの日本企業の進出状況
1954 年に 30 社しか存在しなかった盤谷日本商工会議所会員数は、2000 年に入ってからも増え
続け、2013 年には 1458 社にまで増加している。業種別にみると進出日本企業の過半数が製造業
であり、東南アジア最大規模の生産拠点となったタイは、アセアン各国への中継点として今後も重
要な役割を担う存在である。
また、タイへの対外直接投資はインドネシア、ベトナムと共に着実に増加傾向にあり、今後も日
本からの投資が継続されるものと予想できる。
図表 23 日本からの直接投資の推移
対外直接投資
インドネシア
ベトナム
タイ
百万ドル
百万ドル
タイ
対外直接投資
8,000
7,000
6,000
インドネシア
ベトナム
35,000
30,000
25,000
5,000
20,000
4,000
15,000
3,000
1,000
5,000
0
0
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
10,000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2,000
(出所)JETRO「対外直接投資統計」
(2) 工業団地事業の観点からのポイント
タイの工業団地は、電力や水、通信などの整備が一定レベルまで整っているところが多く、特に
軽工業が進出する際にはインフラ整備状況について特段懸念すべきポイントはないといえる。また、
労働力も豊富であり、国としての成長性も有望視されるタイは、日本企業にとっては進出しやすい
場所であり、海外拠点地域としては成功事例といえる。今後日本企業が海外への進出を検討する
上で、タイの状況を把握することは不可欠であると考え、現地調査の対象国として選択した。
75
2.2.1.2. 調査期間・訪問先
平成 25 年 9 月に、タイへの現地調査を実施した。その概要は以下の通りである。
図表 24 タイ調査期間・訪問先
都市
日
訪問先
バンコク 、
9/18
Industrial Estate Authority of Thailand (IEAT)、工業団地運営事
チョンブリ
パトムタニ、
業者、工業団地入居企業 2 社
9/19
工業団地運営事業者、工業団地入居企業 3 社
9/20
JETRO、工業団地運営事業者、工業団地入居企業 2 社
アユタヤ
バンコク
2.2.1.3. 調査項目
現地調査において、以下のような項目につきヒアリングを実施した。
図表 25 現地調査のヒアリング項目
調査先
ヒアリング項目
政府・政府系機関
・工業団地入居企業の現状
・今後の工業団地建設計画
・今後誘致したい業種
・日系企業誘致に関する希望、戦略
工業団地運営事業
・主な入居企業の業種、国籍、規模等
者
・今後誘致したい企業の業種、国籍、規模等
・今後の展開計画(国内での拡張、他国展開等)
・日系企業誘致に関する希望、戦略
・誘致対象外の業種(あれば)
・競合デベロッパーの状況と自社の強み
・工業団地事業の収益性
・工業団地事業の課題、日本政府への要望等
工業団地入居企業
・進出工業団地選択の理由
・進出先の選定にあたって重視する点
・工業団地内・外進出を選定する際の決定要因
・工業団地に求める要件
・現在の進出団地における現状、課題(恩典、インフラ等)
・タイ+1に関する考え方(近隣国への展開計画の有無)
日本政府機関
・タイの工業団地の現状
・工業団地内外への進出日系企業の傾向(業種、規模等)
76
・タイ工業団地の強み、進出企業への規制等の有無
・レンタル工業団地へのニーズ、需給状況
・今後の展望
2.2.1.4. 調査結果
(1) 対象国の工業団地事業の現状
タイにおける工業団地の種類は以下のように大別される。
図表 26 工業団地の種類
種類
概要
事例
タイ工業団地公社
タイ工業団地公社(IEAT)が運営している工業団地で
ラートクラバン工
(IEAT)が運営する工
あり、Industrial Estate と呼ばれている。工業団地内で
業団地、レムチ
業団地
はワンストップサービスを提供している。
ャバン工業団地
民間が運営する工業
民 間 が 運 営 し て い る 工 業 団 地 で あ る が 、 Industrial
アマ タナコン工
団地(IEAT 傘下)
Estate と呼ばれている。工業団地内ではワンストップサ
業団地、イース
ービスを提供している。
タン・シーボード
工業団地
民間が運営する工業
民間が運営している工業団地であり、Industrial Park な
ナワナコン工業
団地(IEAT 傘下外)
どと呼ばれている。工業団地内ではワンストップサービ
団地(パトムタ
スを提供していない。
ニ)、ロジャナ
(アユタヤ)工業
団地
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
タイ工業団地公社(IEAT)の役割
IEAT の役割 としては認可した工業団地に対して、ワンストップサービスを提供することである。
また、通常は土地取得にあたって BOI への申請が必要だが、認可した工業団地内に入居する場
合は IEAT に対する申請で足りる。
しかし、実際のところは、IEAT の傘下であることに関して大きなメリットを感じていない企業がほと
んどであった。理由としては、進出時以外は政府機関への許認可取得手続きなどがほとんど発生
していないことに加えて、日系製造業はほとんどの企業がいずれにせよ BOI の投資奨励認定を受
けるために BOI への申請を行うことが挙げられる(BOI の投資奨励認定をうけることによって、法人
所得税の減免等を受けることができる)。
タイ工業団地公社(IEAT)の戦略
IEAT の国内における今後の戦略として、これまでのいわゆる製造業中心の工業団地から脱却し、
77
よりサービス業やハイテク産業に特化した工業団地の建設に注力する方針である。具体的には、
Air Craft MRO Center Industrial Estate (IE)、プラスチックパーク IE、廃棄物管理 IE、中小企業 IE、
エンターテインメント IE、サービス IE 等を展開していくことである。
サービス IE としては、ロジスティクス、トレーニングセンター、レクリエーションセンター、リハビリ施
設、病院等のサービス提供産業が集積する工業団地を検討している。 併せて Economic Corridor
Linkage IE を支援する計画があり、特定地域の IE の支援も行う方針である。特に中小企業 IE、
Economic Corridor Linkage IE を対象として、1 千万バーツもの巨額補助金を出して民間プロジェク
トを広く公募することも計画している。
海外戦略としては、IEAT International Co., Ltd というホールディングカンパニーを設立申請中
であり、2014 年 1 月には承認見込みである。この持株会社は、タイ企業の海外展開を支援すること
を目的としており、まずはミャンマー・ダウェイにおける工業団地プロジェクトについて支援する予定
である。加えて、中国・雲南省におけるロジスティクスパークプロジェクトにも関与することを計画し
ている。
(2) デベロッパーの概況
タイには政府が運営している工業団地と民間が運営している工業団地があるが、民間デベロッ
パーとして現在上場しているのは下記の 4 社である。いずれも国内に複数の工業団地を展開して
おり、既にタイ以外の周辺国に工業団地を運営している場合の他、今後新たに周辺国へ工業団地
の展開を検討しているところもある。
図表 27 上場デベロッパー4 社と主な工業団地
デベロッパー
主な工業団地
Amata Corporation Public Company Limited
アマタナコン工業団地、アマタシティ工業団
地
Rojana Industrial Park Public Company Limited
ロジャナ工業団地(アユタヤ)、ロジャナ工業
団地(ラヨン)
Navanakorn Public Company Limited
ナワナコン工業団地(パトムタニ)
Hemaraj Land and Development Public Company
イースタン・シーボード工業団地、ヘマラート・
Limited
チョンブリ工業団地、
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
土地収用
原則、外国法人の土地所有はタイでは認められていない。そのため、外国法人がタイで土地を
所有するためには①外国資本が 50%未満の合弁企業を設立する、②投資委員会(BOI)からの
「投資奨励の認定」を受ける、③IEAT が運営もしくは認定している工業団地内に立地する、のいず
れかの方法をとる必要がある。
78
インフラ整備
電力や水などのインフラ設備は、デベロッパーが直接もしくは、デベロッパー関連会社が整備し
運営するケースが多く、例えば、より品質の高い電力の要望に応えるべく、工業団地内に発電所を
設け入居企業に供給している工業団地も多く存在する。
企画・マーケティング
日系企業の誘致に対して積極的であり、日系の商社に直接販売代理を依頼、また、日本語の出
来るスタッフを複数名配置して日本企業からの問い合わせに対応している。
サービス・維持管理
入居企業間の情報共有の場を設けることを目的として、定期的に会議を主催し、工業団地内に
おける問題の提起や従業員の雇用などにつき意見を聴取している。
デベロッパーとしての日本企業の参入状況・今後の参入可能性
既にデベロッパーとして参入している日本企業もあるが、現地デベロッパーが成長しており、ノウ
ハウが十分にあるうえ、これら現地デベロッパーでも日本人営業マンを採用している等、差別化が
難しくなっている。このため、新たに日本企業が参入するには、その強みを明確化する必要がある
ため、難しい市場である可能性はある。
(3) 入居企業の状況
人材確保について、地域によってばらつきがあるものの、ワーカーレベルの人材は豊富に供給
されている一方で、管理職レベルの人材は依然として需要が上回っている状態である。企業によっ
ては、離職率の高さを課題に挙げているところもある。
タイの工業団地の課題の一つに工業団地内及び周辺地域での渋滞問題が挙げられる。大規模
な工業団地では、特に交通量が増える通勤時間などのピーク時に工業団地外の周辺エリアまで渋
滞が広がっている。また、工業団地内の企業が増加していく中で、工業団地内企業間におけるワ
ーカーの取り合いが発生していることが問題となっている。
近隣国への展開計画として、賃金の上昇が懸念されるタイ国内においては、今後より付加価値
の高い製品にシフトし、労働集約的な業務を近隣国へ移管していく企業がますます増加していくと
考えられる。
79
図表 28 入居企業の状況及びニーズ(ヒアリング内容まとめ)
工 業 団 地 に進 出
入居当時、バンコクは比較的土地が高かったため、周辺の地域を検討し、
する際の立地の
現在の場所を選択した経緯がある。
選定について
取引先との近さ、労働者の集めやすさ、バンコクからの近さで決めた。
入居当時関係のあった日系商社から紹介をしてもらったことがきっかけであ
る。
人材確保につい
人材確保についてワーカークラスは困難ではないが、管理職クラスになると
て
募集しても中々見つからない状況である。
従業員の定着率について、管理職レベルは比較的安定しているが、ワーカ
ーレベルにおいては流動性があり、まだまだ離職率が高いことが課題であ
る。
工業団地におけ
工業団地内の入居企業が増え、工業団地内で渋滞が生じており、ピーク時
る課題ついて
には工業団地内から出るだけでも 1 時間以上かかってしまう。
工業団地内において一部ワーカーの取り合いが発生しており、新規採用す
ると一から教育を行わなければならない。
工業団地内においても突発的に生じる停電が課題である。
洪水が発生し、製品の製造が困難になるリスクがあることが課題である。
今後の展開につ
東南アジア諸国へ、新たに工場を展開することは未だ検討していない。
いて
周辺国への移転について検討すべく早急に情報収集をしているところであ
る。
(出所)現地調査
80
2.2.2. ブラジル
2.2.2.1. 調査の趣旨
(1) ブラジルへの直接投資の状況
日本企業のブラジルに対する直接投資は、特に 2008 年のリーマンショック後に急増している。こ
れは、ブラジルの内需にけん引された成長や、豊富な鉱物資源に注目が集まったものと考えられ
る。メキシコとの関係では、2005 年頃までは残高ベースで両国は拮抗していたものの、2006 年以
降に大きく差が開く状況となっている。
図表 29 日本からメキシコ・ブラジル・その他中南米地域への直接投資の推移
直接投資残高
対外直接投資
メキシコ
ブラジル
メキシコ
その他中南米
ブラジル
その他中南米
90,000
80,000
25,000
70,000
各年末時点、百万ドル
20,000
15,000
10,000
5,000
50,000
40,000
30,000
10,000
2012
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
0
2001
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
0
(5,000)
60,000
20,000
2001
国際収支ベース、ネット、フロー、暦年、百万ドル
30,000
(出所)JETRO「対外直接投資統計」
とりわけ、内需に対する注目の高さから、ブラジルへの自動車メーカーの進出が加速している。
日本企業の現地法人数の内訳をみると、輸送機械が製造業の中では最大の企業数(32 社、製造
業全体の 3 割以上)となっている。
81
図表 30 業種別現地法人企業数(2011 年度、社)
ブラジ ル
231
99
8
7
1
10
3
5
1
3
4
5
5
4
5
32
6
132
12
1
3
5
11
62
2
18
18
合 計
製造業
食料品
繊 維
木材紙パ
化 学
石油・石炭
窯業・土石
鉄 鋼
非鉄金属
金属製品
はん用機械
生産用機械
業務用機械
電気機械
情報通信機械
輸送機械
その他の製造業
非製造業
農林漁業
鉱 業
建設業
情報通信業
運輸業
卸売業
小売業
サービス業
その他の非製造業
メキシ コ
197
96
4
2
7
1
4
3
2
3
3
3
6
12
38
8
101
1
1
1
11
48
3
20
16
中南米
948
247
15
13
3
26
3
1
11
4
5
9
10
8
11
20
84
24
701
29
16
5
7
204
195
11
82
152
注. 「操業中」と回答した企業を集計
(出所)経済産業省「海外事業活動基本調査」
近年では、大手自動車 OEM メーカーの新工場設立が注目されている。下表に見られるように、
トヨタ(サンパウロ州ソロカバ、7 万台、2012 年~)、日産(リオデジャネイロ州レゼンデ、20 万台、
2014 年~)、ホンダ(サンパウロ州イチラピーナ、12 万台、2015 年~)で新工場の投資が行われて
いる。
また OEM メーカーの進出に後押しされる形で、関連する部品メーカーも、OEM の拠点が集まる
サンパウロ州・リオデジャネイロ州や、税制恩典の手厚いマナウスを中心に、進出が始まっている。
大手 OEM メーカーと、近隣の工業団地における部品メーカーの立地状況は下表の通りである。
82
図表 31 日系自動車産業の進出状況
トヨタ自動車
立地
近隣の工業団地及び日系企業の集積状況
ソロカバ(サンパウロ州、工業団地外)、
ソロカバのサプライヤーパーク内に、一部部品メ
ーカーが進出。
サンベルナルド・ド・カンポ(同上、工業
周辺の立地に一部部品メーカーが進出(工業
団地外)
団地外)。
インダイアツーバ(同上、工業団地外)
周辺の立地に一部部品メーカーが進出(工業
団地外)。
ホンダ自動車
四輪:スマレ(サンパウロ州)
スマレ周辺には目立った工業団地集積はない
ものの、一部部品メーカーが進出。近隣のサン
パウロ州内都市においては、工業団地内を含
めて部品メーカーが進出。
二輪:マナウス(アマゾナス州)
マ ナ ウ ス ・ フ リ ー ゾ ー ン ( Zona Franca de
Manaus)は、日本企業も多く進出する SEZ/工業
団地であり、部品関連も一部進出。
日産自動車
レゼンデ(リオデジャネイロ州、工業団地
日産はレゼンデ工場隣接地にサプライヤーパ
外)
ークを建設し、一部の部品メーカーが既に進出
している。
三菱自動車
カタラン(ゴイアス州、工業団地外)
-
ヤマハ発動機
マナウス(アマゾナス州)
マ ナ ウ ス ・ フ リ ー ゾ ー ン ( Zona Franca de
Manaus)は、日本企業も多く進出する SEZ/工業
団地であり、部品関連も一部進出。
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
日系 OEM メーカーの工場新設・拡張は引き続き計画され(スズキ自動車が発表したゴイアス州
のイツンビアラ工場新設や、三菱自動車のカタラン工場拡張など)、外資系もフィアット(ペルナン
ブーコ州スアペ市、2015 年~)、現代自動車(サンパウロ州ピラシカバ市)、チェリー(サンパウロ州
ジャカレイ市)が進出しており、これらに伴う部品メーカーの進出ニーズも高いと考えられる。
(2) ブラジルの産業立地政策
ブラジル政府は、自動車国産化政策を進めており、そのことが近年の大型投資に結びついたと
考えられている。例えば、自動車、トラック、シャーシー、車体の輸入に関しては 35%、自動車部品
には 14%~18%の関税が賦課され、メキシコからの乗用車輸入に関しては、2012 年から 2014 年ま
でメーカーごとに枠が設けられている。また、2012 年 10 月には、一定の条件 24をクリアしない企業
24
政府提示 4 要件(研究開発投資/生産技術投資/燃費ラベル/指定工程)のうち、3 要件達成など。
83
に対しては、自動車製品税を 30%に引き上げる政策(Inovar-Auto:自動車産業に関わるイノベー
ション・科学技術・すそ野産業振興プログラム)が導入されている。これらの施策により、ブラジルに
自動車を輸入することのコストが上がり、ブラジル内での生産が促されていると考えられる。
(3) 工業団地事業の観点からのポイント
現時点で、ブラジルに進出している製造業の多くは輸送機械関連だが、部品メーカーは比較的
大手のティア 1(一次サプライヤー)が中心である。これまで進出した企業は、自社で現地政府等と
交渉し、工業団地外の土地確保、恩典の受給や許認可取得等の手続きを進める人的・財務的余
力があったと考えられ、工業団地ニーズが特に大きいわけではなかったとみられる。
しかし、今後大手メーカーが生産を拡大していく中で、中堅・中小のサプライヤーの進出も求め
られてくるものと考えられ、工業団地事業はより有望になる可能性がある。上記の観点から、現地調
査の対象国としてブラジルを選定した。
自動車産業における日系企業の進出状況(生産拠点)は、下表の通りである。
図表 32 自動車産業における日系企業の進出状況(生産拠点)
州
工業団地内の進出企業数
工業団地外の進出企業数
10 社以上
7 社以上
(Distrito Industrial Manaus)
(ヤマハ発動機含む)
2 社以上
1 社以上
(Distrito Minero Industrial de Catalao)
(三菱自動車含む)
5 社以上
18 社以上
(トヨタ・ソロカバサプライヤーパーク、Faz Gran
(トヨタ自動車、本田技研工業含む)
アマゾナス州
ゴイアス州
サンパウロ州
Empresarial)
1 社以上
バイーア州
(Polo Industrial de Camacari)
パラナ州
4 社以上
ペルナンブーコ州
1 社以上
3 社以上
ミナスジェライス州
(スズキ<予定>含む)
5 社以上
1 社以上
(日産レゼンデサプライヤーパーク等)
(日産自動車含む)
リオデジャネイロ州
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧」(2012 年)などをもとに新日本有限責任監査法人
整理 25
25
「海外進出企業総覧」及び各社ホームページの住所等から判断し掲載したものであり、網羅的なものではない
84
2.2.2.2. 調査期間・訪問先
平成 25 年 12 月に、ブラジルへの現地調査を実施した。その概要は以下の通りである。
図表 33 ブラジル調査期間・訪問先
都市
日
訪問先
リオデジャネイロ州
12/2
CODIN(リオデジャネイロ州産業振興局)、日系メーカー
12/3
日系メーカー、市政府
12/4
JETRO、日系企業
12/5
日系メーカー、市政府
12/6
SUFRAMA、日系メーカー
サンパウロ州
アマゾナス州
2.2.2.3. 調査項目
現地調査において、以下のような項目につきヒアリングを実施した。
図表 34 現地調査のヒアリング項目
訪問先
ヒアリング項目
政府・政府系
産業集積の現状・トレンド
機関
今後誘致したい業種
今後集積を期待する(奨励する)地域
政府の工業団地事業への関与(政府関連機関による開発事業への参画等)
政府の工業団地開発に関する政策(土地収用の支援、許認可発給の条件、外資系デベロッパ
ーに対する制約等)
日系企業誘致に関する希望、戦略
業界団体
業界団体の役割
産業集積の現状・トレンド
今後誘致したい業種
今後集積を期待する(奨励する)地域
政府の工業団地開発に関する政策(土地収用の支援、許認可発給の条件、外資系デベロッパ
ーに対する制約等)
工業団地の現状(需要と供給、強み・課題、進出企業への規制等の有無)
工業団地入居企業の現状(業種、国籍、規模等)
工業団地デベロッパーの現状(主要企業、競争力等)
日系企業誘致に関する希望、戦略
85
訪問先
ヒアリング項目
工業団地 運営
主な入居企業の業種、国籍、規模等
事業者
今後誘致したい企業の業種、国籍、規模等
今後の展開計画(国内での拡張、他国展開等)
立地選定・誘致対象企業選定の方法、マーケティング方法
工業団地と他の立地との比較(工業団地への進出理由)
日系企業誘致に関する希望、戦略
誘致対象外の業種(あれば)
競合デベロッパーの状況と自社の強み
工業団地事業の収益性、課題
日本のデベロッパーとの提携可能性 等
工業団地 入居
進出国・進出工業団地選択の理由
企業
進出先の選定にあたって重視する点
進出(入居)時の判断との相違点
工業団地内・外進出を選定する際の決定要因
工業団地に求める要件
現在の進出団地における現状、課題(恩典、インフラ等)
今後の拡張/撤退等の計画 等
日本政府機関
両国の産業集積の現状・トレンド
工業団地内外への進出日系企業の傾向(業種、規模等)
両国の工業団地の現状(需要と供給、強み・課題、進出企業への規制等の有無)
両国の工業団地入居企業の現状(業種、国籍、規模等)
現地政府の工業団地開発に関する政策(土地収用の支援、許認可発給の条件、外資系デベ
ロッパーに対する制約等)
現地政府の日系企業誘致に関する希望、戦略
レンタル工業団地へのニーズ、需給状況
今後の展望
2.2.2.4. 調査の結果
(1)対象国の工業団地事業の現状
ブラジルにおける工業団地は、以下のように大別される。
86
図表 35 工業団地の種類
種類
概要
事例
特区型団地
輸出振興特区(ZPE)・フリーゾーン等、政府の
マナウス・フリーゾーン(Zona Franca de
設定する区域に企業誘致を行う団地
Manaus)
バイーア輸出振興特区(ZPE Bahia)
サプライヤーパーク/
核となる企業と、そのサプライヤー・関連企業
日産工業団地(レゼンデ市、リオデジャ
産業コンプレックス型
が集積する団地。自動車産業(サプライヤーパ
ネイロ州)
団地
ーク)、石油化学産業(コンビナート)で見られ
Pólo Petroquímico do Sul(リオグランデ・
る
ド・スル州)
民間開発・分譲型団
民間企業(デベロッパー)が一定の敷地を開発
Faz Gran Empresarial(ジュンジャイ市、
地
し、区画ごとに分譲する団地
サンパウロ州)
民間開発・レンタル
民間企業(デベロッパー)がレンタル工場の区
Parque Industrial Betim(ミナスジェライス
型団地
画をリース(レンタル)する団地
州)
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
特区型団地
ブラジルにおける特区としては、アマゾナス州に設けられたフリーゾーンと、北部および北東部
からの輸出を促進する目的で設けられた特区「輸出振興特区(ZPE)」とが挙げられる。
前者は、1967 年に設立された特区であり、連邦開発商工省の管轄下にあるマナウス・フリーゾー
ン監督庁(SUFRAMA)により、各種税制恩典が与えられている。当初 30 年間の時限付であったが、
その後 2073 年まで延長されている。フリーゾーン内に 2 つの工業団地が立地しており、多くの日本
企業が立地している。ただし、フリーゾーン内に立地し、SUFRAMA が認可するプロジェクトであれ
ば、工業団地内外を問わず恩典が与えられる。
後者は、製造品の 80%以上を輸出、または他 ZPE エリアへの販売することを条件に税制恩典が
与えられる区域であり、区域内では区画整理された分譲エリアが用意されていることが多い。
サプライヤーパーク/産業コンプレックス型団地
ブラジルのサプライヤーパークとしては、1996 年に開発されたフォルクスワーゲンの団地(レゼン
デ市、リオデジャネイロ州)、2002 年に開発されたフォードの団地(カマサリ市、バイーア州)などが
挙げられる。これらが一定の成果を収めたとの評価があり、日系メーカーにおいても、トヨタのソロカ
バ新工場・日産のレゼンデ新工場において、隣接地のサプライヤーパークが建設されている。
サプライヤーパークの開発は、原則として OEM メーカーが行っているが、インフラの接続・構内
敷設や造成、工場建設については、OEM メーカーとサプライヤーとの間の分担は個別ケースによ
るようである。例えば、フォルクスワーゲンの団地においては、工場の所有権まで OEM メーカー側
が有している。また、運営・維持管理については、外部運営会社に包括的に委託するか、個別業
務ごとに団地オーナー会合で意思決定をして委託するといった形態が見られるようである。
87
民間開発・分譲型団地
ブラジルにおいては、民間デベロッパーが一定規模の区画を開発し、分譲するスタイルの工業
団地は少ないとみられる。その理由として、本来工業団地のメリットであるインフラや許認可等の付
加価値をつけづらく(後述)、結果として工業団地外の立地と差別化がしづらいためであると考えら
れる。
民間開発・レンタル型団地
一方、民間デベロッパーがレンタル工場を建設し、リース(レンタル)をするタイプの工業団地は、
サンパウロ州・リオデジャネイロ州を中心に比較的多く開発されている。これは、デベロッパー側も
単体の建物であれば造成や許認可等の管理を行いやすいこと、また入居企業側も土地・建物を所
有する必要または余力のない事業者であることにより、双方のニーズが相対的に合致しやすいた
めと考えられる。
(2)デベロッパーの概況
政府系
上述のように、フリーゾーンや ZPE のケースでは、工業団地の開発を行うのは公共側(フリーゾー
ンや ZPE の実施機関)である。具体的に工業団地開発を行っている公共デベロッパーとして、例え
ば以下が挙げられる。これらの公共系プレイヤーは、一般的に、区画を分譲するだけでサービス終
了となるケースが多いとみられる。
図表 36 公共デベロッパーの種類
種類
事例
フリーゾーン/ZPE
SUFRAMA(マナウス・フリーゾーン監督庁-連邦政府)
ZPE Bahia
ZPE do Ceara
ZPE de Bataguasu
産業・投資誘致関連官庁
CIS(サバエ産業センター:SISM(商工・鉱業部―バイーア州)の下位機関)
Sufic(商工業開発監督庁-バイーア州)
Goias Industrial(ゴイアス州政府機関として設立)
Codemig(ミナスジェライス経済開発公社-ミナスジェライス州経済開発部管轄)
Codesc(サンタカタリーナ州開発公社-サンタカタリーナ州機関として設立)
Codin(リオデジャネイロ産業振興局-サンタカタリーナ州政府)
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
88
自動車メーカー
上述のように、ブラジルにおいてはフォルクスワーゲン、フォード、トヨタ、日産等がサプライヤー
パークを開発している。
運営会社はケースにより異なるが、いわゆるワンストップ・サービスを提供するプレイヤーはなく、
清掃・セキュリティ等の個別のサービスごとに外部委託をすることが多いと考えられる。
ゼネコン
ブラジルの大手ゼネコンは、財閥の中核企業として多様な産業に進出しており、経済界に大き
な影響力を有している。しかしながら、工業団地への進出は大手ゼネコンの間では見られず、一部
の中堅・中小ゼネコンの参画が確認できる程度である。
その背景として、大手ゼネコンの主領域である大規模インフラ等と比べ開発規模が小さいこと、
そもそも工業団地開発において造成やインフラ敷設等が含まれないことも多いこと、そのために利
益の源泉が土地代の差益にほぼ限定されてしまうことが考えられる。
なお、日系企業の工場・プラント建設等は、日系企業に強い特定のゼネコンが引き受けることが
多いとみられる。これらのゼネコンが、造成やインフラ敷設など、実質的に工業団地開発の一部の
工程を(入居企業の側に立って)引き受けているケースもある。
不動産会社
不動産会社として工業団地事業を展開する事例としては、サンパウロ州を中心に複数のコンドミ
ニアムを開発・運営する Brazilian Business Park 社が挙げられる。
地元有力者・有力企業
各地方において、地場の企業・企業家などが、工業団地開発を担っているケースがある。例え
ば、日系企業も入居する工業団地 Faz Gran Empresarial(ジュンジャイ市、サンパウロ州)は、サン
パウロ州立銀行(現在は Santander に吸収合併)で役員を務めた後、Telesp 社(ブラジル電信電話
公社を分割し Telefonica 社の資本参加を得て民営化した会社)や地場大手養鶏場の役員として招
かれた経歴のある地元サンパウロ内陸部の有力者がオーナーとなっている。また、日産工場にほ
ど近いレゼンデ市では、有力化学企業であったセルバティス社が、自社工場の周囲にコンドミニア
ム等を開発する計画を立てている。
(3)工業団地開発の課題
土地収用
土地収用について、特に課題は聞かれなかった。ただし、地方部においては土地の登記制度
が整っていないといわれる。ブラジルの有力経済誌であるExameは、工業団地等の区画分けされ
た土地を購入する際の注意点として、以下の 10 点を挙げており 26、その中でも登記確認が最重要
26
“10 cuidados para comprar terreno em loteamento”(2012 年 10 月 2 日)
89
事項として挙げられている。

分譲に責任を持つ企業の履歴をよく調べること。過去に分譲された区画を照会し、訪問し
てみること。

どのような主要サービスが提供されているか、誰が管理するか、区画は閉鎖型か開放型か、
といった点も確認し良い事業者を選ぶこと。

現場を訪問し、道路、電気、セキュリティ等のインフラを確認、隣地境界を検証すること。

区画の不動産登記及びプロジェクトの許認可取得について確認すること。環境当局、水
道・電力供給者にも確認すること。

地区不動産仲介業者評議会(Creci)に照会し、不動産ブローカーの適格性を確認するこ
と。

取引前に、誰が分割払い分のファイナンスを行うか、どのような書類が必要かを確認するこ
と。

支払の際は、小切手に署名し、領収書を受領し、契約に調印しなければならない。

区画に関する書類を注意深く確認すること。書類が不十分な場合、水源や環境保護区域
の近くに立地していると無効になることがある。

非常に低価格な場合は疑問を持つこと。住民の団体の代理で売り出されているか、不規則
な土地である可能性がある。

最重要事項として、登記を確認し、不法占拠によるものではないことを検証すること。これに
よって、土地収用に係る問題の 95%を回避することができる。
また、外国人による土地取得についても、特段の問題は見られない。制度上、外国人は、海岸
地帯、国境周辺、および国が安全地帯として指定する場所でない限り、個人、法人(企業)を問わ
ず国内の個人、法人(企業)と同様に土地不動産の所有が認められる。外国企業が地方の土地を
取得する場合の規制として、それが農牧畜事業または工業製造事業の導入、開発を目的としたも
のであり、かつそれらの事業が、その企業の社会的責任を果たすのに即したものであると考えられ
る場合にのみ許可が与えられるとの規定がある。事業内容によって、農務省または開発商工省の
認可を要する。なお、ブラジル国内に法人を持たない外国企業は土地を取得することはできな
い 27。
企業が工業団地外の土地を取得する際も、市政府等の恩典として土地の無償供与が行われる
ことがあり、取得そのものについて大きな課題は聞かれなかった。
許認可
一般に、ブラジルで工業団地事業を行う際も、またそこに立地する企業が操業を開始する際も、
許認可の取得が大きなハードルになっているとの指摘が聞かれた。
特に課題として指摘されたのは環境ライセンスである。環境ライセンスは、①事前許可、②設置
27
以上、JETRO ホームページより引用(http://www.jetro.go.jp/world/cs_america/br/invest_02/)
90
許可、③操業許可の 3 つの段階から構成され、州または連邦政府の環境当局から許可を得る必要
がある
28
。水源の近くや特殊な植生のある場所、及び森林伐採を行うような場合は、許可される水
量や植物伐採に制限がかかったり、環境補償の請求が生じたりする場合がある。
これらの許認可対策のために、専門コンサルタントの起用が必要となるなど、コストや手間の問
題を指摘する声も聞かれた。
造成・建設
造成・建設については、予期せざるコストアップを指摘する意見があった。工業団地において、
造成が入居者持ちになるケースも少なくないと言われ、その背景として造成・建設に係るコストコン
トロールが難しい点も想定される。
この点では、工業団地内外の差はほとんどないと考えられる。
インフラ整備
インフラ整備は、工業団地開発の最大の課題との指摘があった。道路、電気、水道など、自治体
やユーティリティ会社との個別交渉が必要であり、工業団地側でコントロールできない要素が多い。
そのため、インフラが整備されないために操業が遅延するといった現象も頻発している。
そのため、工業団地内に立地することによるインフラアクセス等のメリットはあまりないと考えられ
る。
企画・マーケティング
企画・マーケティング面での課題として入居リスクが挙げられるが、国際的な水準の工業団地が
極めて少ない状況において、より大きい課題は需要より供給であると考えられる。
サービス・維持管理
ブラジルの工業団地において、提供されるサービス・維持管理は最小限であり、維持管理、清掃、
セキュリティ等が一般的である。ユーティリティ(変電所、汚水処理等)やワンストップ・サービス等は、
上述のインフラ・許認可の困難さから、入居者自身が手当てすることが多いようである。また、日本
企業の進出数がまだ少ない中、欧米企業等と同じ団地に入居すると、日本企業が望むような水準
のサービスに対し対価を払うことについて合意がまとまらないことが多いとの指摘も聞かれた。
(4)デベロッパーとしての日系企業の参入状況・今後の参入可能性
上述のような課題、特にインフラ・許認可の課題があり、日本企業にとって開発自体が困難であ
るうえ、運営時も日系工業団地の強みであるワンストップ・サービス等の提供も困難である。そのた
め、デベロッパー・運営会社としての参画は難易度が高いと考えられる。
28
JETRO「ブラジルで外国企業が直面するビジネス・リスク」(2006 年 7 月)
91
ただし、インフラ・許認可は政治的な要素で解決される場合もあると言われ、自治体によって政
治的な関係を構築している企業であれば、リスクをコントロールしやすいとの指摘も聞かれた。従っ
て、各企業が比較的優位性のある地域(自治体)において工業団地事業を行うことは想定される。
(5)入居企業のニーズ(拠点選定要因)
入居企業の状況及びニーズ
現地調査で確認された入居企業の状況及びニーズは、下表の通りである。
図表 37 入居企業の状況及びニーズ(ヒアリング内容のとりまとめ)
進出工業団地の選
(工業団地外)
定理由

州の各種インセンティブ(ICMS 等の税制恩典、土地の無償供与、インフラへの無償
アクセス等)をもとに立地を決定した
(工業団地内)

OEM メーカーからのオファーがあり、サプライヤーパークへの入居を決定した(複数
社)

既に団地外に工場を有していたが、第二工場については OEM メーカーからのオファ
ーがあり、サプライヤーパークへの入居を決定した

OEM メーカーから適度な距離で、幹線道路沿いの立地のため入居を決定した

マナウス・フリーゾーンの各種恩典のため進出を決定した(複数社)

マナウスは消費地までの物流コストが高いため、恩典がなければ立地する意味は
ない
(団地内→団地外)

当初はマナウスの工業団地内に入居し(1 ㎡ 1 レアルで販売されている)、その後団
地外に移転した。その新しい土地は、マナウス市からの紹介を受けた
工業団地内・外進出

工業団地内外よりも、進出する先の市の恩典や、投資誘致姿勢が重要
を選定する際の決定

複数の OEM メーカーに納入する方針であり、また労賃も OEM メーカーとは差がある
要因
ため、サプライヤーパーク外にメリットを感じる

工業団地側がインフラ整備をするわけではないので、入居するメリットはあまりな
い。メリットは、他のテナントと共同で自治体・公社等とインフラ等の交渉をできる点
ぐらいである。

マナウスでは多くの企業が、当初数年間は工業団地内に入居し、ノウハウをつけた
後に団地外でより大きい自社工場を建設するというステップを踏んでいる

マナウスの工業団地内の土地代は 1 ㎡ 1 レアルだが、造成費用が高いため、結果
的にあまり安くない
92
進出(入居)時の判

断との相違点
当初合意された恩典の不履行・履行遅滞がある(インフラへの無償アクセスは履行
されず、土地の無償供与も進展なし)

自治体の手続きが遅れ、インフラの接続の目途が立っていない(道路、インターネッ
ト等)

インフラ敷設・接続は他の入居企業と共同で進めることも検討したが、足並みが揃
わず、結局各社個別に行うこととなった

水・電気・道路の全てが計画より遅延している。建設についても予定していたコスト
の 1.2 倍になっている

インフラについては問題が多い。電気は急に契約条件が変わり、水道は地下水利
用が禁止された
現在の進出団地に

おける現状、課題
(恩典、インフラ等)
未造成かつインフラ未整備の団地であり、ある程度自社負担で整備せざるを得な
い。特にインターネットのコストが高く、課題となっている

入居企業向けに、インフラ接続のために市から助成金が供与されるといった当初の
インセンティブは、立ち消えになった

工業団地内への進出に際し、インセンティブは特になし

団地の共用部の維持管理等について、入居企業で共同化しコストを抑える方針とし
ている

団地内のインフラについては、特段の課題なし。水・電気は、工業団地ではなく市及
び電力公社から直接供給。下水は雨水を含め処理業者に委託し、処理したものを
排水する

団地外で進出している先の市は産業が比較的集積しており、特段の課題なし。団地
に入居しても大きなメリットはない

OEM メーカーが土地を無償貸与・仮造成し、敷地外までのインフラ(水・電気・道路)
を整備している

商社がブラジルで工業団地運営の検討もしたと聞くが、その団地の入居企業には
日系・外資系・地場が混在し、ニーズをまとめることが難しく断念したようだ

工業団地によるワンストップ・サービスは不可能だろう。役所との手続きには、分野
ごとに何人ものコンサルタントを雇わざるを得ず、その都度非常にコストがかかる

ブラジルでは、時間がかかるだけではなく、「約束されていることが履行されない」と
いうリスクがある。工業団地デベロッパーとして開発を行うことは非常に困難ではな
いか
93
人材確保

進出先の市では労働供給は豊富で、組合問題も一部の州ほど深刻化していない。
ただし労賃は極めて高い

労務費が毎年 7~8%上昇し、ストも常態化している

人件費が急上昇し、人集めには苦労している

労組対策は深刻な課題。労賃は毎年 10%上がり、組合の要求も理不尽と感じるよ
うになってきた

労賃は他地域と比べても低くはない。5 年で 2 倍になるという上昇率となっている

労賃の上昇幅が異常と感じる。労働者・組合関連に気を遣って経営している

マナウスでは技術や専門性のある労働者はサンパウロ等他の地域から雇わざるを
得ないため、コストがさらに上がる傾向がある

進出先の市では労組はそれほど強くないと言われていたが、近年は深刻化してきて
いる

多くの企業が労働者からの訴訟を何件も抱えており、企業側が敗訴することがほと
んどと聞く
今後の拡張/撤退等

拡張のための用地を確保済み(複数社)
の計画

拡張の意図なし。あまり魅力的な市場とは感じていない(複数社)
(出所)現地調査
納入先との距離
進出する製造業の一定以上は自動車メーカー等のサプライヤーであるため、納入先の立地に
近いことは最重要である。ただし、サプライヤーパークのような形で隣接地に立地することが最善で
あるとは限らず、他の納入先と取引を行うことや、納入先や他のサプライヤーの賃金水準に影響さ
れないようにするといった点では、一定程度の距離があることも重要との指摘も聞かれた。
消費地との距離
最終消費者向けの商品を製造している企業の場合は、消費地との距離が重要である。
各種恩典
上記のような観点で、一定範囲のエリアを同定したうえで、具体的な立地は各自治体の提供す
る恩典によって意思決定が行われる。
代表的な恩典としては以下が挙げられるが、このうち商品流通サービス税(ICMS、州税)の減免
競争については訴訟も起きており、不透明な状況である。また、インフラ整備についても、実際に
は履行されないケースが見られる。

商品流通サービス税(ICMS、州税)の減免

土地の無償供与

周辺インフラの整備
94
なお、前述のように、工業団地内外の差は実質的にあまりないため、企業としても立地選定の際
に工業団地かどうかという点はあまり意味を持っていない。
95
2.2.3. メキシコ
2.2.3.1. 調査の趣旨
(1) メキシコへの直接投資の状況
前節でも示したように、日本からメキシコに対する直接投資全体はあまり伸びていない。しかし、
近年大手自動車 OEM メーカーによる工場拡張が相次いでいることから、注目が高まっている。日
系では、日産(アグアスカリエンテス州アグアスカリエンテス、18 万台、2013 年~)、ホンダ(グアナ
フアト州セラヤ、20 万台、2014 年~)、マツダ(グアナフアト州サラマンカ、18 万台、2013 年~)等の
新規投資が行われている。また外資系では、アウディ(プエブラ州サンホセチアパ、15 万台、2016
年~)、フォード(ソノラ州エルモシージョの改装)、GM(シラオ、トルーカ、サン・ルイス・ポトシの拡
張)、フィアット(コアウイラ州)などの投資が計画されている。
2011 年度に 96 社あった日系メーカーの現地法人のうち 38 社が輸送機械であり、ブラジルに比
べても輸送機械への集中度が高い。今後、この集中はさらに強まっていくものと考えられる。
大手 OEM メーカーと、近隣の工業団地における部品メーカーの立地状況は下表の通りである。
図表 38 日系自動車産業の進出状況
トヨタ自動車
ホンダ自動車
立地
近隣の工業団地及び日系企業の集積状況
ティフアナ(バハ・カリフォルニア州、工
ティフアナ近郊に工業団地集積はあり、日本企業
業団地外)
も進出するも、自動車関連の集積は無し
グアダラハラ(ハリスコ州、工業団地外)
グアダラハラ近郊に工業団地集積はあり、日本企
業も進出するも、自動車関連の集積は無し
日産自動車
セラヤ(グアナフアト州、工業団地外、
セラヤ及びグアナフアト州近郊に大型工業団地
2014 年~)
が開発され、日系自動車関連メーカーが多く進出
レルマ(メキシコ州、工業団地外)
目立った工業団地集積なし
(ただし外資系自動車メーカーはメキシコ州に多く
進出)
クエルナバカ(モレーロス州、工業団地
目立った工業団地集積なし
外)
アグアスカリエンテス(アグアスカリエン
日産は、地場デベロッパーVesta と提携し、敷地
テス州、工業団地外、2013 年~)
内にサプライヤーパークを建設。部品メーカーが
進出
マツダ
サラマンカ(グアナフアト州、工業団地
グアナフアト州に工業団地集積あり、日系自動車
外、2013 年~)
部品メーカーも多く進出
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
特に注目されるのは、中部(バヒオ)地区へのホンダ・マツダ進出に刺激され、日本企業の集積
が急速に進んでいることである。かつては米国境沿いの工業地帯(ティフアナ、メヒカリ等)が注目さ
96
れていたが、治安問題や投資誘致姿勢の弱さ等により、中部に投資がシフトしている。中部地区の
自治体が、積極的な投資誘致施策を打ち出していることも背景にある。
(2) メキシコの産業立地政策
国としての特定産業誘致策は特段なく、NAFTA 等の FTA 政策(世界最多の 44 カ国と締結済
み)によって産業を誘致している。
(3) 工業団地事業の観点からのポイント
2013~14 年にかけての日系 OEM メーカーの新規投資ラッシュにより、ティア 1 部品メーカーの
進出も進み、現在は一段落した状況と考えられる。
バヒオ地区での日本企業の進出は、アパセオ市のアミスタッド・バヒオ工業団地とシラオ市のサン
タフェ工業団地に集中している。前者の第 1 期及び後者の第 2 期の開発は、時期が日系サプライ
ヤーの進出時期にちょうど重なったため、多くの日系企業が進出した(現在第 3 期の開発中)。これ
らの開発が成功したため、近隣で他のデベロッパーによる開発案件も計画されている。
従って、当面(今後 5 年間程度)の需給は落ち着いた状況となっているが、①トヨタの新工場建
設計画の報道等が出ていること、②既存工場での生産拡張等により、未進出のティア 1 企業やティ
ア 2 企業等、より裾野の広いサプライヤーの進出が求められる可能性があること、等の状況から、中
期的には工業団地市場が再度盛り上がっていく可能性がある。この点を踏まえ、メキシコを調査対
象国として選定した。
自動車産業における日系企業の進出状況(生産拠点)は、下表の通りである。
97
図表 39 自動車産業における日系企業の進出状況(生産拠点)
州
アグアスカリエンテス州
工業団地内の進出企業数
工業団地外の進出企業数
9 社以上
3 社以上
(Parque Industrial del Valle de Aguascalientes,
(日産自動車含む)
Parque Industrial de San Francisco 等)
イダルゴ州
2 社以上
グアナフアト州
30 社以上
数社以上
(Parque Industrial Castro del Rio, Parque Industrial
(本田技研工業、マツダ含む)
Amistad Bajio, Parque Industrial Santa Fe 等)
ケレタロ州
5 社以上
4 社以上
(Parque Industrial Queretaro 等)
コアウイラ州
4 社以上
4 社以上
(Parque Industrial Amistad Acuna 等)
サカテカス州
3 社以上
(Parque Industrial La Zacatecana 等)
サン・ルイス・ポトシ州
6 社以上
(WTC Industrial 等)
ヌエボレオン州
11 社以上
2 社以上
(FIINSA Guadalupe, Parque Industrial la Silla
Apodaca 等)
タウマリパス州
7 社以上
(Parque
Industrial
Del
Norte,
Administracion
Portuaria Integral de Altamira 等)
チワワ州
5 社以上
バハ・カリフォルニア州
6 社以上
1 社以上
(Parque Industrial Mexicali 等)
(トヨタ自動車含む)
ハリスコ州
2 社以上
(本田技研工業含む)
メキシコ州
2 社以上
3 社以上
(Parque Industrial Lerma 等)
(日産自動車、ヤマハ発動機含む)
モレーロス州
1 社以上
(日産自動車含む)
ドゥランゴ州
1 社以上
(出所)東洋経済新報社「海外進出企業総覧」(2012)等を基に新日本有限責任監査法人整
98
理 29
2.2.3.2. 調査期間・訪問先
平成 25 年 12 月に、メキシコへの現地調査を実施した。その概要は以下の通りである。
図表 40 メキシコ調査期間・訪問先
都市
日
訪問先
メキシコシティ
12/9
JETRO、デベロッパーA、デベロッパーB
12/10
Promexico、工業団地協会(AMPIP)、デベロッパーC
12/11
デベロッパーD、日系メーカー
12/12
デベロッパーE、日系メーカー
12/13
デベロッパーF
グアナフアト州
バハ・カリフォルニア州
2.2.3.3. 調査項目
現地調査の調査項目は、前節に示したブラジルの項目と同様である。
2.2.3.4. 調査の結果
(1)対象国の工業団地事業の現状
メキシコでは、工業団地の開発許認可の条件として一連の「基準」が設けられている。それによる
と、工業団地とは面積 10ha 以上の敷地であり、それ未満のものは「工業コンプレックス」に分類され
る。
メキシコにおける工業団地を物件の種類によって分類すると、以下のように大別することができ
る。
図表 41 工業団地の種類
種類
概要
事例
産業不動産型団地
物流施設等のリース施設を主体とした工業
CPA Corporate Properties(メキシコシティ、
団地。リース施設は、物流目的がメインで、
モンテレー他)
工場のラインを敷設することも可能。分譲
Prologis(Del Norte Industrial Center 等)
用の用地も一部用意されるケースもある。
大規模分譲型団地
29
数百ヘクタールに及ぶ大規模な開発を行
Parque Industrial Santa Fe(シラオ市、グア
い、大型の工場向けに分譲するタイプの工
ナフアト州)
業団地。敷地の一部にリース施設が付帯
Parque Industrial Amistad Bajio(アパセオ
しているケースも多い。
市、グアナフアト州)
「海外進出企業総覧」及び各社ホームページの住所等から判断し掲載したものであり、網羅的なものではない
99
政府開発型団地
州政府等が産業・雇用政策の一環として
COFOIN, Gobierno del Estado de Hidalgo
設立する団地。現在はあまり見られない。
FIDEPAR, Gobierno del Estado de México
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
産業不動産型団地
産業不動産型団地は、物流施設や小規模のレンタル工場等を中心に開発された工業団地であ
る。メキシコ工業団地協会(AMPIP)加盟の工業団地のほとんどは、これに該当する。リース事業に
よる安定したキャッシュフローをもとに、機関投資家(生保・年金等)から資金調達をするケースが多
い。
リース施設の場合、以下のような類型がある。主に物流施設としての利用を想定したものだが、
工場としてラインを設置することも可能である。面積は 3,000 ㎡~10,000 ㎡程度が一般的で、契約
期間は 5~15 年である。

スペックビル(spec buildings, speculative buildings, inventory buildings):予め設計・建設し、
その後に入居者を募集しリースする物件

セール&リースバック(sale & lease back):デベロッパーが入居企業から物件を買い取り、そ
れをただちにリース物件として賃借する物件

ビルド・トゥ・スーツ(build-to-suit):特定の入居者向けに設計・建設し、完工後にリースする
物件

買い取り型(acquisition)
なお、敷地内に相当規模の分譲区画を有する団地もあることから、下記「大規模分譲型団地」と
の差は相対的なものである。
大規模分譲型団地
大規模分譲型団地は、数万㎡(以上)の敷地に工場を建設する等、リース施設では充足できな
いニーズに対応した分譲型の団地である。日系企業が多く入居する工業団地は、これに該当す
る。
このような団地は、自動車メーカー等向けのサプライヤーパークとして機能していることが多い。
また、もともとサプライヤーパークとして開発された団地も存在する。例えば、日産のアグアスカリエ
ンテス工場向け(アグアスカリエンテス、Vesta 社:開発中)、ボンバルディア向け(ケレタロ、Vesta
社)、GM 向け(サン・ルイス・ポトシ)、フォルクスワーゲン向け(プエブラ、Finsa 社)などが挙げられ
る。
政府開発型団地
州政府等が開発した団地は、かつて数多く存在していたとされるが、多くのものが失敗したと言
われ、現在ではイダルゴ州・メキシコ州等で一部見られる程度である。
100
(2)デベロッパーの概況
公共デベロッパー
上述のように、公共デベロッパーとして有力なプレイヤーは、イダルゴ州・メキシコ州等の一部の
州政府に限られる。民間に比べ競争力に乏しく、直接参入は減る傾向にある。
一方で、州政府・市政府等が、民間のデベロッパーと合弁で工業団地を開発する事例が出てき
ている。最も成功した事例は、日系企業の多く入居するサンタフェ工業団地であり、グアナフアト州
政府が出資している。
図表 42 主要な公共デベロッパー及び開発団地
開発・運営主体
COFOIN, Gobierno del Estado de Hidalgo
FIDEPAR, Gobierno del Estado de México
地域
Hidalgo
Hidalgo
Hidalgo
Hidalgo
Hidalgo
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
工業団地名
Microparque MPyMES de Sahagún
Parque Industrial Metropolitano
Parque Industrial Sahagún
Parque Industrial Tula
Parque Logístico Tizayuca
Parque Industrial Ixtlahuaca
Parque Industrial Jilotepec
Parque Industrial San Cayetano
Parque Industrial Santa Bárbara
Parque Microindustrial Cuautitlán Izcalli
(出所)メキシコ工業団地協会(AMPIP)データより新日本有限責任監査法人作成
産業不動産デベロッパー
産業不動産デベロッパーとしては、地場及び外資の不動産・物流施設開発会社が参入している。
複数の団地を開発・運営しているデベロッパーの例として、以下が挙げられる。このうち、Logistics
や Industrial Center 等の名称が冠されたものは、工業団地というより、物流や簡易な工場向けのリ
ース施設である。
101
図表 43 主要な産業不動産デベロッパー及び開発団地
開発・運営主体
American Industries
Amistad Desarrolladores Industriales
CPA Corporate Properties
FINSA
GP Desarrollos
Iamsa Development Group
VESTA
地域
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Nuevo León
Nuevo León
Coahuila
Coahuila
Coahuila
Coahuila
Coahuila
Coahuila
Coahuila
Guanajuato
Baja California
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Jalisco
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Baja California
Coahuila
Distrito Federal
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Puebla
Querétaro
Tamaulipas
Tamaulipas
Tamaulipas
Tamaulipas
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Tamaulipas
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Chihuahua
Estado de México
Estado de México
Querétaro
San Luis Potosí
工業団地名
American Industries Kimco Ind Park
Industrial Building (Bermudez Ind. Park)
Las Americas Industrial Park
Las Américas Juárez
Huinala Industrial Park
Regioparque Industrial Park
Parque Industria Amistad Saltillo Sur
Parque Industrial Amistad Aeropuerto Ramos Arizpe
Parque Industrial Amistad Ramos Arizpe
Parque Industrial Amistad Acuña
Parque Industrial Amistad Piedras Negras
Parque Industrial Amistad Sabinas
Parque Industrial Amistad Torreón
Parque Industrial Amistad Bajio
CPA Business Center Mexicali
CPA Logistics Center Cuautitlán
CPA Logistics Center San Martín Obispo
CPA Logistics Center Tepozotlán
CPA Logistics Center Tlalnepantla
Guadalajara Technology Park
Apodaca Technology Park
CPA Business Center Apodaca
CPA Business Center Guadalupe
CPA Logistics Center ADN
CPA Logistics Center Escobedo
FINSA Tijuana
FINSA Coahuila
FINSA Iztapalapa
FINSA Guadalupe
FINSA Monterrey
FINSA Santa Catarina
FINSA Puebla
FINSA Querétaro
FINSA Maquilpark
FINSA Matamoros Norte
FINSA Matamoros Oriente
FINSA Nuevo Laredo
Apodaca I
Apodaca II
Monterrey Business Park
Tecnocentro
Reynosa Industrial Center
Las Californias III
Parque Industrial Cachanilla
Parque Industrial El Bajio
Parque Industrial El Dorado
Parque Industrial Las Californias
Parque Industrial Palaco
Parque Industrial Valle Bonito
Promotora
El Potrero Vesta Park
La Mesa Vesta Park
Megaregion Vesta Park
Rosarito Vesta Park
Los Bravos Vesta Park
El Coecillo Vesta Park
Toluca Vesta Park
Parque Aeroespacial Querétaro
WTC Industrial
開発・運営主体
Prologis
地域
Baja California
Baja California
Baja California
Baja California
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Chihuahua
Distrito Federal
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Estado de México
Jalisco
Jalisco
Jalisco
Jalisco
Jalisco
Jalisco
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Nuevo León
Sonora
Sonora
Sonora
Sonora
Tamaulipas
Tamaulipas
Tamaulipas
Tamaulipas
Tamaulipas
Tamaulipas
Tamaulipas
Tamaulipas
工業団地名
Frontera Industrial Center
Otay Sur Industrial Center #2
Pacifico Industrial Center
Tijuana Otay Industrial Center
Bermudez Industrial Center #1
Bermudez Industrial Center #2
Centro Industrial Juarez #10
Centro Industrial Juarez #11
Centro Industrial Juarez #12
Del Norte Industrial Center #1
Del Norte Industrial Center #2
Del Norte Industrial Center #3
Independencia Industrial Center #1
Independencia Industrial Center #2
Independencia Industrial Center #3
Independencia Industrial Center #4
Independencia Industrial Center #5
Los Aztecas Industrial Center #1
Los Aztecas Industrial Center #2
Ramon Rivera Lara Industrial Center #1
Ramon Rivera Lara Industrial Center #2
Salvarcar Industrial Center #1
Salvarcar Industrial Center #3
Salvarcar Industrial Center #4
Salvarcar Industrial Center #5
Salvarcar Industrial Center #6
Salvarcar Industrial Center #7
Iztapalapa Distribution Center
Fresno Distribution Center
Prologis Park Carrizal
Prologis Park Ladero 1
Prologis Park Ladero 2
Prologis Park Piracanto
Prologis Park Izcalli
Prologis Park Cedros
Prologis Park Agave
Prologis Park Alamos
Prologis Park Encino
Prologis Park Laurel
Prologis Park Mezquite
Prologis Park Toluca
Prologis Park Tres Rios
Periferico Sur Parque Industrial
Prologis Park Arrayanes
Prologis Park El Bosque Distribution Center
Prologis Park El Salto
Prologis Park Jalisco
Prologis Park Los Altos
Agua Fria 1
Agua Fria 2
Agua Fria 3
Agua Fria 6
Agua Fria 8
Monterrey Airport Ind Center 1
Monterrey Industrial Center 1
Monterrey Industrial Center 10
Monterrey Industrial Center 11
Monterrey Industrial Center 13
Monterrey Industrial Center 4
Monterrey Industrial Center 5
Monterrey Industrial Center 6
Monterrey Industrial Center 7
Monterrey Industrial Center 8
Ojo de Agua Industrial Center 1
Prologis Park Apodaca 1
Prologis Park Apodaca 11
Prologis Park Apodaca 2
Prologis Park Apodaca 3
Prologis Park Apodaca 4
Dynatech Industrial Center #1
Dynatech Industrial Center #2
Dynatech Industrial Center #3
San Carlos Industrial Center #1
Colonial Industrial Center
Del Norte Industrial Center
Laredo Industrial Center
Matamoros Industrial Center
Parque Industrial Villa Florida
Prologis Park El Puente
Prologis Park Pharr Bridge
Reynosa Industrial Center
(出所)メキシコ工業団地協会(AMPIP)データより新日本有限責任監査法人作成
民間工業団地デベロッパー
日本企業の入居の多いサンタフェ、アミスタッド・バヒオを始めとする大規模分譲型の団地は、工
業団地専業に近い民間または官民合弁デベロッパーが開発・運営している。なお、サンタフェはゼ
ネコン(Lintel 社)と州政府の合弁、アミスタッドは家族経営の企業である。他の官民連携の例として
は、州政府等が進出大手メーカーとデベロッパーとに働きかけ、サプライヤーパークを設立する
(政府は出資や土地の無償供与等を行う)といったケースも見られる。
これらの大規模開発は、産業不動産のような安定したキャッシュフローを生まないため、上記の
産業不動産プレイヤーのビジネスモデルに乗りづらく、プレイヤーが異なっている可能性もある。
ただし、サンタフェ工業団地は、もともとは「グアナフアト内陸港」の付設物流団地として開発され
た色彩が強く、現在のような工業団地となったのはホンダ・マツダの進出によるものである。
102
メキシコ工業団地協会(AMPIP)
メキシコには工業団地協会があり、54 社の工業団地デベロッパーが加盟し、全国で約 250 の工
業団地をカバーしている(同協会によると、これはメキシコの全工業団地の 90%に相当する)。1986
年に設立され、業界の代表として、団地紹介や啓蒙活動、ロビイング等を行っている。
(3)工業団地開発の課題
土地収用
土地収用は、権利関係の確定に時間を要することを除くと、特段の問題はないとみられる。
許認可
許認可としては、環境操業許可・環境建設許可・建築許可等の取得が必要だが、特段の課題と
しては認識されていない。
造成・建設
造成は、工業団地側が行う。デベロッパーの提携する(または傘下に抱える)ゼネコンが実施す
るケースが見られる。入居者における工場の建設も、これらのゼネコンがあっ旋される場合がある。
インフラ整備
上述の工業団地に関する「メキシコ基準」においては、インフラについて以下のような基準が定
められている。
図表 44 主要な産業不動産デベロッパー及び開発団地
サービス内容
最低限の水準
推奨される水準
民生・産業用水:毎時最大消費量
0,5 l/s/ha
1 l/s/ha
電力(中電圧)
150 kVA/ha
250 kVA/ha
通信
排水:非常最大排水量
10 回線/ha または音声・データサ
光ファイバーバックボーン及び各
ービスを各区画で使えるようにす
区画で音声・データ・ビデオ通信
るための同等の通信システム
を使えるようにするための接続
0,5 l/s/ha
雨水排水
0,8 l/s/ha
5 年分以上の水文調査の結果を
踏まえて決定すること
(出所)メキシコ工業団地協会(AMPIP)
103
工業団地のインフラとしては、大規模団地においては、敷地内の変電所、浄水・汚水処理施設
などが設置されていることが多い。新規開発物件の場合に整備遅延は見られるものの、一定水準
のものが供給されている。
企画・マーケティング
産業施設型の工業団地の場合、不動産エージェント経由で案件紹介が行われることが多い。ま
た、入居が埋まるまでの期間も短いと考えられる。一方、大規模分譲型団地の場合は、企業が州
政府・市政府や他の進出企業等の紹介を受けて検討するケースが多くなり、入居が埋まるまでの
期間も長期化する。
また、日産は、アグアスカリエンテスの新工場操業に際し、大手産業不動産デベロッパーの
Vesta 社と提携して、敷地内にサプライヤーパークを開発している。このような OEM メーカーとの提
携により、需要リスクを減じることが可能である。
なお、進出企業向けの立地・会社設立コンサルティング業務を行う工業団地もあるが(例:アミス
タッド・バヒオ)、日本企業の活用実績は少ないようである。
サービス・維持管理
サービス・維持管理は、開発・運営会社が(提携するセキュリティ会社等を通じて)提供している。
通常、サービス内容はセキュリティ、清掃等である。ワンストップ・サービスの提供は見られない。
また、工業団地によっては、商業施設、オフィススペース等が付設される大規模開発も存在する。
サンタフェ団地においては、病院、託児所、消防署も併設されている。
(4)デベロッパーとしての日系企業の参入状況・今後の参入可能性
メキシコの工業団地事業には、外資を含む多様なプレイヤーが参入し、業界団体である AMPIP
(メキシコ工業団地協会)による情報整備も行われており、オープンな市場であると考えられる。日
本のデベロッパーも、単独進出・合弁含めて可能性がある。
現地側でも、物流施設のリースを中心にしたビジネスモデルと比べ、分譲を主体とする大規模団
地の経営にはリスクが高く、資金力や運営ノウハウの面で日本のデベロッパーが協力するといった
ニーズは存在すると考えられる。
一方、日系企業が多く進出するバヒオ地区においては、土地が豊かにあり、販売価格が低く抑
えられがちな点を課題として指摘する声もあった。
(5)入居企業のニーズ(拠点選定要因)
入居企業の状況及びニーズ
現地調査で確認された入居企業の状況及びニーズは、下表の通りである。
104
図表 45 入居企業の状況及びニーズ(ヒアリング内容のとりまとめ)
進出工業団地の選定理由

OEM メーカーから適度な距離で、幹線道路沿いの立地のため入居を決定

10ha 規模の敷地を確保できる工業団地は非常に少ないため、入居を決定

土地販売価格がリーズナブルだったため、入居を決定

メキシコ大使館商務部経由で、工業団地を 10 程度回ったうえで、(加工工
程に必要な)大量の水を確保できる団地を選定

比較的安全で、欧米資本のプレゼンスが高くない地域を中心に工業団地
を探していた。その中で、州政府の対応が良く、インセンティブも魅力的だ
った州を選定
工業団地内・外進出を選定す

工業団地内で土地が見つかったため、団地外は想定せず(複数社)

デベロッパー側の団地開発は、入居交渉と同時並行で行われたが、入居
る際の決定要因
進出(入居)時の判断との相違
点
する日本企業のニーズはあまり受け入れられなかった。ただし、地下水の
質があまりに悪かったため、その点だけは運営会社と交渉し井戸を掘りな
おしてもらった

農業用地を工業用に変更する許認可手続きが遅れたため、土地売買契
約の締結が非常に遅れた

電気・インターネットの接続まで時間がかかった

途中で政権交代があり、州の誘致担当者が変わり、当初のような手厚い
進出サポートは得られなくなった
現在の進出団地における現

状、課題(恩典、インフラ等)
インフラ(水道・電気・ガス)については州政府のサポートが得られた。ただ
し、実際の整備は遅れている

採用・教育に応じてキャッシュバックの恩典を受けている。また、団地内に
入居する専門学校からのインターン受け入れ等の事業も市で実施してい
る

水の利用が多いため、大量の地下水利用が可能な現団地を選定した

地下水が硬水であり、軟水装置を導入して加工している企業もある

州からの恩典枠は OEM メーカー向けに全て出されてしまい、当社向けに
はもう残っていなかった

労働者の試用期間の給与は州が負担する等のインセンティブを受けてい
る

インフラについては特段の課題なし
105
人材確保

工業団地に日本企業が集積してきており、労働供給は以前と比べてタイト
になっている

労働者の定着率が低いことが課題

労働者の定着率は、以前は悪かったが、研修を重ねることで改善してきて
いる
今後の拡張/撤退等の計画

拡張余地確保済み(複数社)
(出所)現地調査
納入先からの距離
メキシコの自動車産業は、出身国別のクラスターに集中し(日本企業はバヒオ~アグアスカリエン
テス~サン・ルイス・ポトシなどの集積地域がある)、多くは国道 45 号・150 号線上に分布している。
そして、部品メーカーの場合、納入先からの一定距離内で、州・市政府の恩典や工業団地の環境
等で最も好条件の立地を選定することが一般的である。
なお、工業団地は造成やインフラ接続がなされており、産業地域でも分譲価格がそれほど高騰
していないことから、工業団地外を選ぶ部品メーカーはあまりない。
各種恩典
州・市政府の恩典としては、以下が一般的である。

土地の無償供与、工業団地等の紹介

労働者の雇用・研修に対する補助・キャッシュバック等
自動車 OEM メーカー等の大手企業では土地の無償供与が行われることはあるものの、部品メ
ーカー等は、雇用・研修に対する補助のみというケースが多いようである。
106
2.2.4. カンボジア
2.2.4.1. 調査の趣旨
(1) カンボジアへの日本企業の進出状況
カンボジアは国際河川であるメコン川が流れ、西側にタイ、東側にベトナムを見据える場所に立
地していることからも、メコン地域の物流を考える上で最も重要な地域といえる。国内情勢の影響に
より、周辺国に比べ日本企業の進出が遅れているカンボジアではあるが、直近のカンボジア日本
商工会の正会員数は 2010 年から 2012 年にかけて倍増しており、今後も日本企業の進出が増加す
ることが見込まれる。
また、日本企業からカンボジアへの直接投資はまだまだ拡大傾向にはないが、着実に増加して
おり、今後日本からの投資がますます増加していくことが期待される。
図表 46 日本からカンボジアへの直接投資認可状況
直接投資額 (単年)
直接投資額 (累計)
百 120
万
ド 100
ル
80
百
万
ド
ル
60
200
150
100
40
50
20
0
0
2006 2007 2008 2009 2010 2011
2006 2007 2008 2009 2010 2011
(出所)JBIC(2013) 「カンボジアの投資環境」
(2) 工業団地事業の観点からのポイント
今後中国やタイにおける人件費が高騰していく中で、チャイナプラスワン、タイプラスワンを考え
たときに、特に人件費の安さ、物流の観点から最も魅力的であるのがカンボジアであるといえる。カ
ンボジアの工業団地の中でも、特にプノンペン SEZ への日本企業の進出が著しく増加しており、工
業団地内のインフラ整備状況もタイの平均的な工業団地と比べても引けを取っておらず、周辺環
境は整いつつある。既にアジアに進出している企業だけでなく、これからアジアへ進出しようと考え
ている企業も含めカンボジアを進出先選択肢のひとつとする可能性が高いことから、現地調査の
対象国として選択した。
107
2.2.4.2. 調査期間・訪問先
平成 26 年 1 月に、カンボジアへの現地調査を実施した。その概要は以下の通りである。
図表 47 カンボジア調査期間・訪問先
都市
日
訪問先
プノンペン
1/14
カンボジア開発評議会(CDC)、工業団地運営事業者、工業団
地入居企業 2 社
プノンペン
1/15
カンボジア開発評議会(CDC)、JETRO
2.2.4.3. 調査項目
現地調査において、以下のような項目につきヒアリングを実施した。
図表 48 現地調査のヒアリング項目
調査先
ヒアリング項目
政府・政府系機関
・工業団地の現状(需要/供給、強み/弱み、地域・サイズ)
・主なデベロッパー(国内/海外)
・入居企業の現状(産業、国籍、投資規模)
・工業団地事業における課題
・今後の工業団地開発計画、政府支援策
・外資企業の工業団地開発参入に対するポリシー
・土地収用の手続き・規制
・デベロッパーへのインセンティブ、支援策
・入居企業にとってのメリット
・官民のすみ分け、役割分担・調整についての考え方
・SEZ 開設までのプロセス確認(官主導か民主導か)
・今後誘致したい業種(製造業について)
・デベロッパー誘致に関する希望、戦略
工業団地運営事業
・今後の展開計画(国内での拡張、他国展開等)
者
・団地入居企業のメリット(インフラ、サービス等)
・誘致対象外の業種(あれば)
・主な入居企業の業種、国籍、規模等
・今後誘致したい企業の業種、国籍、規模等
・開発に関する特徴(土地収用の手続き・規制、許認可取得)
・管理運営に関する特徴(ユーティリティの維持管理等)
・財政面での特徴(工業団地事業の収益性)
・工業団地事業の課題、日本政府への要望等
108
・日系企業誘致に関する希望、戦略
・官民のすみ分け、役割分担・調整についての考え方
・SEZ 開設までのプロセス確認(官主導か民主導か)
・競合デベロッパーの状況と自社の強み
・事業展開におけるメリット(政府のインセンティブ等)
・日系デベロッパーとの連携可能性、実績、メリット
工業団地入居企業
・カンボジアでの事業の状況
・現在の進出地(国・地域・団地)選択の理由
・進出(工業団地入居)時の判断との相違点、進出後の課題(現地固有事
情等)
・今後の拡張/撤退等の計画
・泰越等近隣国とのオペレーション連携の有無
・工業団地内・外進出の判断基準
・工業団地選定・入居判断の際に重視する基準(インフラ、サービス、維持
管理等の水準、賃料・管理料、関連企業の入居状況、その他)
・上記に関し、現在の進出団地における現状、課題
・入居時に比較検討した他の工業団地・地域
・他の入居企業の動向
日本政府機関
・カンボジアの工業団地の評価(整備・開発状況、主要な工業団地の評価
(品質等)、国内主要デベロッパーの評価(レベル等)、工業団地開発時の
課題)
・カンボジアの工業団地の入居企業の状況(業種、国籍、規模等)
・レンタル工場のニーズ、需給状況
・政府(国・地域)の工業団地開発に関する政策(インセンティブ等)
・外資の工業団地事業参入に関する政府の考え方(規制等)
・日系デベロッパーの進出可能性、地場企業との連携可能性
・今後の展望
2.2.4.4. 調査結果
(1) 対象国の工業団地事業の現状
図表 49 工業団地の種類
種類
概要
経済特別区(SEZ)
カンボジア開発評議会(CDC)の認可を受けた工業団地
その他の工業団地
カンボジア開発評議会(CDC)の認可を受けていない工業団地
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
109
カンボジア国内の工業団地には、政府機関であるカンボジア開発評議会(CDC)の認可を受け
ている経済特別区(SEZ)とそれ以外に区分される。経済特別区(SEZ)は、カンボジア国内に 32 箇
所存在し、うち現在稼働している工業団地は 8 箇所である。JICA の円借款事業であるシハヌークビ
ル港 SEZ を除き、稼働しているすべての工業団地は民間事業として運営されている。
SEZ 以外の工業団地として、”Industrial parks”などと呼ばれているものがある。これはカンボジア
開発評議会(CDC)に登録されていない完全に民間の事業で行われているものであり、工業団地
内に入居するだけでは特段政府からインセンティブは供与されず、ワンストップサービスも得られな
い。ただし、別途投資適格プロジェクト(QIP)として承認を得ることにより、税優遇等のインセンティ
ブを受けることが可能となる。
図表 50 現在稼働中の経済特別区(SEZ)
工業団地名
面積
立地
プノンペン経済特別区
360ha
プノンペン国際空港から 8 ㎞、プノンペン市
中心地から 18 ㎞
マンハッタン経済特別区
310ha
ベトナム国境(バベット)から 6 ㎞、ホーチミン
市まで 86 ㎞、プノンペン市まで160㎞
タイセン経済特別区
125ha
ベトナム国境(バベット)から 6 ㎞、ホーチミン
市まで 86 ㎞、プノンペン市まで160㎞
シハヌークビル港経済特別区
70ha
シハヌークビル港に隣接、シハヌークビル空
港から 15 ㎞、プノンペンから 230 ㎞
シハヌークビル経済特別区
1,113ha
シハヌークビル港から 12 ㎞、シハヌークビル
空港から 3 ㎞、プノンペンから 212 ㎞
コッコン経済特別区
350ha
バンコクから 470 ㎞、プノンペンから 297 ㎞
レムチャバン港から 370 ㎞、シハヌークビル
港から 233 ㎞
ポイペト経済特別区
386ha
ポイペト国境から 10 ㎞、バンコクから車で 3
時間、レムチャバン港から 250 ㎞
ドラゴンキング経済特別区
200ha
ベトナム国境(バベット)から 12 ㎞、ホーチミ
ン市まで 92 ㎞、プノンペン市まで154 ㎞
(出所)JETRO 資料
官と民の役割分担として、カンボジア開発評議会(CDC)などカンボジア政府主導の経済特別区
(SEZ)開発は現在行っていない。理由としては、工業団地に活用できるような広大な土地はほとん
どが民間所有であり政府が十分な土地を保有していないこと、政府に工業団地事業の運営ノウハ
ウがないことが挙げられる。
110
経済特別区(SEZ)を申請するには最低 50ha 以上の土地が必要であるが、土地収用に関して政
府のサポートがないため、土地収用に関しては民間事業者が自分で行う必要がある。よって、現地
にて経済特別区(SEZ)を開発するためには、現地パートナーと組んで土地を収用していくことが必
要である。
(2) デベロッパーの概況
カンボジアでは、外資も含めた民間デベロッパーによる開発が一般的であり、政府による開発は
1か所しか事例がない。ローカルによる開発も多いため、品質的には近隣 ASEAN 諸国よりもかなり
劣るところが多い。
複数ある稼働中の経済特別区(SEZ)の中でも、入居企業が継続的に増え続ける工業団地と、入
居企業がなかなか増えない工業団地とに色分けされ始めている。デベロッパーは工業団地内の土
地を販売するだけでなく、販売後の入居企業に対する各種手続きに関するサポートを行うことや、
入居企業間のコミュニケーションをとるために定期的に会合を開くなど、入居企業からの求めに対
していかに対応していくかが重要である。特に、日本企業がカンボジアへ進出する場合、工業団地
において日本語でのサポートの有無を重視する企業も多い。
土地収用
土地所有に関して、土地の所有関係は民間の問題であり、国としてコントロールする範囲ではな
いため、カンボジア政府から何らかの支援を受けることはできない。
許認可
50ha 以上の土地を工業団地の土地として使用するなど、工業団地事業者としての形式的な要件
を満たしていれば、基本的には経済特別区(SEZ)として認可される。
造成・建設
造成・建設共に民間にて行う必要があり、現地のゼネコンによってなされる。将来の拡張計画も踏
まえ、事前に広大な土地の確保が有益となる場合がある。
インフラ整備
工業団地内の電力や通信等のインフラ整備に関して、オーバースペックとなって管理費が高額に
なるのでは入居企業からして好ましい状態とは言えない。そこで入居企業の業種をある程度絞り、
最低限必要なレベルのインフラを整備することが必要となる。現地のエンジニアが維持管理でき、
機器も近隣国から調達可能なもののみを使うことが望ましい。
111
企画・マーケティング
工業団地を開発してから企業を誘致するというよりは、事前に核となる企業の進出を見込んで開
発する場合がある。将来的に増加するであろうサプライヤー企業の進出を想定することで、工業団
地事業としてのシナリオを描いている。
サービス・維持管理
経済特別区(SEZ)においては、工業団地内に各省庁の出張所があり、各種手続きにおいて、ワ
ンストップサービスの提供が行われている。
デベロッパーとしての日系企業の参入状況・今後の参入可能性
現在稼働している経済特別区(SEZ)については、基本的に財閥系などの地場のデベロッパー
によって開発されているケースが多く、一部で日本企業と合弁して運営されている工業団地が存
在する。
カンボジアでは、既存の工業団地の品質は他の ASEAN 諸国と比較して見劣りするところが多い
ため、高品質の工業団地開発が可能な日系企業による参入余地の大きい市場であると言える。例
えば、日系が開発・運営に関与しているプノンペン経済特区の売れ行きは好調であり、日系を中心
とした外資企業の投資が盛んである。
また、未だ稼働まで至っていない工業団地のデベロッパーの中には、事業運営のノウハウがなく、
外資パートナーを探しているケースも存在していることから、日系企業がデベロッパーとして参入で
きる余地はあると考えられる。
(3) 入居企業の状況
カンボジアの工業団地の中でも、比較的インフラが整備されている工業団地に入居している企業
によると、設備面での苦労は特に生じていないようである。カンボジアにおける大きな課題の一つ
に、役人に対する領収書の出ない余分なフィーが発生することが挙げられる。以前よりも改善され
ているようではあるがまだまだ残っており、進出企業にとってはリスクとして認識すべきポイントであ
る。タイを拠点にカンボジアへ進出している企業も多く、タイからミャンマー、ラオスへの進出を検討
しているようである。
112
図表 51 入居企業の状況及びニーズ(ヒアリング内容まとめ)
工 業 団 地 に進 出
周辺国と比較し労働力が安いという視点と、インフラが整備された工業団地
する際の立地の
の有無に焦点をおいて検討した。加えて、工業団地内を選択した理由は、
選定
各種申請に関するサポートが受けられるワンストップサービスというメリットを
享受することができる点を上げることができる
カンボジアにある工業団地の中でも日本企業をサポートしてくれるデベロッ
パーの存在は入居の決め手として大きな割合を占めている。
タイの生産拠点で製造している製品の一部を移管することを目的として、人
件費の安い場所として近隣国のカンボジアを選定した。
初期投資コスト、工場建設までの期間を節約するために、工業団地内のレ
ンタル工場への入居を決めた。
人材確保
プノンペン市内においては、管理職レベル、ワーカーレベル共に人材確保
に苦労はない。
定着率を上げるために、日本よりも従業員に対して手厚いケアを行ってい
る。
工業団地
人件費は安いが、物流コストは周辺国と比較して高い。また、税関で突然ス
トップさせられ、法外なフィーを請求されたことがあった。
違法な労働争議(ストライキ)が発生することがリスクの一つである。
輸出入の各種手続きの際に、領収書の出ない経費がかかる点が問題であ
る。
今後の展開
現上維持を予定しているが、今後の人件費の上昇や様々なカントリーリスク
を考慮し、他国への進出可能性は否定できない。
今後規模拡大を計画しており、現在のレンタル工場では手狭になるため、
他の工業団地への進出を検討している。具体的にはタイに近いという点を
重視し、電力が安定しているカンボジアとタイとの国境付近への進出を考え
ている。
(出所)現地調査
113
2.3. 海外工業団地開発・運営事業におけるビジネスモデル/収益構造の整理
2.3.1. 海外工業団地の開発・運営事業におけるビジネスモデル/収益構造の整理
2.3.1.1. 調査対象各国における工業団地開発・運営事業の事業範囲(スコープ)及びビジネスモ
デル類型
工業団地ビジネスは、開発事業と運営事業という、性質の全く異なる事業の組み合わせである。
両者ともに収益性の確保が難しいため、工業団地事業は「ハイリスク、ローリターン」と言われること
がある。一方、ビジネスモデルの工夫により、一定以上のリターンを実現している例もある。
以下のような要素が工業団地の収益性に影響を与えると考えられ、それぞれをいかにコントロー
ルするかによって、ビジネスモデルのパターンが分かれてくる。
図表 52 工業団地の収益性に影響を与える要素
(1) 開発事業
工業団地の開発事業は、土地を収用し、許認可を得て造成・建設・販売/リースを行う事業であ
る。一般的に、不動産事業としてみると付加価値をつけづらい一方で、許認可取得や販売にどの
程度の期間がかかるか予測の効かない事業である。しかし、(マクロ情勢の変化や大規模製造業
の投資等により)立地としての魅力度が上がり、急に販売に弾みがつく事例もあり、一定のアップサ
イドを見込むことができる。
開発事業の収益性には、以下のような要素が影響を与える。
A.原価と販売価格
工業団地事業の原価は、主に土地価格と造成費用(インフラ・ユーティリティの敷設・接続含む)
である。
土地価格については、国による差が著しい。工業用地としての条件を満たすためには、数百ヘ
114
クタールのまとまった規模で、インフラや労働者へのアクセスがしやすく、造成しやすい地形の土地
が必要である。しかし、国によってその確保が難しく、例えば農地等として使われていた細かい区
画を収用する場合は、収用を進めるうちに価格が大きく上昇してしまうことがある。
造成費用は、地形等の要因のほか、物流アクセスにも大きく影響される。資材を輸入する港湾か
ら遠い等、物流面での利便性が低い立地であればコストが上がる。従って、一般的には土地代と
のトレードオフになる。
収益性を確保するためには、両者をあわせて、販売価格の 6~7 割程度に抑える(粗利率 3~4
割)ことが一般的と考えられる。
ただし、販売価格、土地価格、造成費用いずれも一定の相場が存在することから、比較的コント
ロールの難しい要素である。従って、最初の立地選定段階で、採算の見合わない立地を除外して
いくアプローチになると考えられる。
また、工業団地に入居する企業は、入居意思決定をする際、国や都市をまたいでコストの比較
検討を行うことも一般的である。従って、他の不動産のタイプと比べ、相場の上昇に伴うアップサイ
ドも相対的には得られにくいと考えられる。
B.開発・完売までの期間
開発事業において最も振れ幅が大きい要素は、開発・完売までの期間である。開発期には、土
地収用や許認可取得、インフラ整備等に想定外の時間がかかり、その間には経費が発生する。少
ない区画数でも成約のあった年は、そのキャッシュフローで支出をカバーできると考えられるが、新
規販売のない年は赤字が続くビジネスである。また、毎年の収支やキャッシュフローを黒字化でき
たとしても、販売が遅れるほど回収期間は長期化し、IRR も低下する。
このリスクを抑えるためには、核となる入居者を確保してから開発を行うことが理想的だが、常に
それができるとは限らない。そのため、原則として「高単価による利ざやよりも、(ある程度単価を下
げても)販売(入居)スピードを早めることによって利益率を上げる」アプローチが優先されることとな
る。
C.拡張余地
上記のように、開発事業は、アップサイドが限定されている(一定の相場の範囲内の単価×販売
面積に限られる)一方、赤字化するリスクの大きい事業であり、「ハイリスク、ローリターン(ミドルリタ
ーン)」になりがちである。その中で、最も安定的な収益を見込めるのが既存工業団地の拡張事業
と考えられる(新規開発に比べ、需要を読みみやすく、その他のリスクも抑えられるため)。従って、
工業団地開発の際には、将来的な拡張可能性を想定して立地選定・土地収用を行うことが一般的
である。
またその派生系として、拡張開発の際に、工業用だけでなく住宅や商業用の余地も含めることで、
アップサイドをより大きくできる可能性がある。例えば、海外の事業者の中には、「まとまった規模の
土地収用を行い、その用途は需要を見ながら徐々に意思決定し、開発を進めていく」という事例も
115
見られた。
もう一つの派生系として、特定の国で、当該国のパートナーと複数の団地開発事業を展開し、そ
れぞれの団地間でシナジーや補完関係を持たせるというパターンも見られた。これは、各国のパー
トナーの力や、その国における事業ノウハウを活かすことができ、既開発の団地を拠点にして企業
の入居需要も探りながら事業展開を行うことができるという点で、「既存団地拡張」の派生系と考え
られる。
(2) 運営事業
工業団地の運営事業については、敷地共用部分の維持管理を行うことが最小限の範囲であり 30、
これにレンタル事業やインフラ(ユーティリティ)事業も含めることで収益を向上させることが一般的
である。維持管理収入は年 1 米ドル/㎡程度の収入であり、多くの事業者において、この収入だけ
では赤字と考えられる
31
。事業者としては、極めて長期間にわたる運営事業からエグジット(株式売
却)するニーズも大きいと考えられるが、運営事業の利幅の薄さや、入居企業との関係維持などの
観点から、実現は困難である。
運営事業の収益性には、以下のような要素が影響を与える。
A.ユーティリティ事業の可否
運営事業の収益源として重要なのがユーティリティ事業だが、国によって実施可能な範囲が異
なる。例えばタイにおいては、SPP (Small Power Producer)の制度を活用して発電所を運営し、それ
を団地内及び発電公社(EGAT)に売電することが可能である。また水道についても、工業団地に
おいて地下水の取水権(水利権)を取得し、入居企業に対し卸売できる場合は、これを収益事業
化することができる。
B.レンタル事業の事業性
運営期に安定収益を確保する方法として、レンタル事業が挙げられる。ただし、レンタル工場は
多くの中小企業が進出する国でしか成り立たないため、事業性確保のハードルは高いと考えられ
る。
C.その他付随ビジネスの可能性
デベロッパーは工業団地入居企業との永続的な関係を築くことができるため、入居企業との付
随ビジネス(工場建設、物流、コンサルティング、アウトソーシング等)を目的に工業団地事業を行う
ことも考えられる。ただし、ヒアリング等によると、安定的な収益源とすることは難しいようである。
30
ただし国によっては、この部分も入居者の管理組合が自主的に行い、開発・運営業者が関与しないこともある。こ
の場合は、ほぼ完全に「売り切り型」の開発事業である。
31
大規模工業団地では、維持管理期にも最低限 10 名程度(日系デベロッパーの場合は、日本人 1~2 名を含む)
の従業員を雇用する必要があり、常時一定の費用が発生する。
116
以上のパターンをもとに、工業団地事業のモデルと、それぞれに強みのある企業について整理
すると、以下のようになる。
開発で回収するパターンで事業展開を行う企業は、新規または拡張開発を一定サイクルで展開
することで収益性を確保する傾向にある(運営・維持管理期の収益は限定的と考えられる)。一方、
運営で回収するパターンで事業展開を行う企業は、既存団地の運営期における収益を最大化す
る傾向が高いと考えられる。前者は分譲物件のデベロッパー、後者は賃貸・収益物件のデベロッ
パーにより近いと考えられる。なお、日本の商社は、一般的に開発事業のノウハウがより強いと考え
られる。
図表 53 ビジネスモデル/収益構造の整理
類型
説明
代表的な企業
開発で回収す
既存事業での入居企業との接点をもとに入居ニーズを見極
日本のデベロッパー(商社等)
るパターン
め、販売スピードを早めるパターン
隣接地に開発余地を残し、(潜在)入居者ニーズをもとに拡張
(原則として、多くのデベロッパ
していくパターン
ーが拡張を想定して用地を取
得・選定)
【派生系】拡張用地において、工業団地に限らず、ニーズに
Ascendas(シンガポール)
応じて住宅・商業不動産を開発していくパターン
Sembcorp(シンガポール)
【派生系】(潜在)入居者ニーズをもとに、同一国の別立地に、
Sembcorp(シンガポール)
既存現地パートナーと新規開発をしていくパターン
運営で回収す
ユーティリティ運営事業により、運営期の収益安定化を図るパ
Amata(タイ)
るパターン
ターン
Rojana(タイ)
レンタル、リース不動産運営事業により、運営期の収益安定化
Rojana/タイコン(タイ)
を図るパターン
【派生系】レンタル、リース不動産の比率が高い場合、REIT 等
Prologis(米)
に売却しエグジットするパターン
Finsa(メキシコ)
物流・流通・金融・サービスなど、工業団地入居企業を対象に
日本の商社・金融機関の一部
安定的な対顧客ビジネス(手数料ビジネス等)を獲得するため
に開発するパターン
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人整理
2.3.1.2. 上記事業のビジネスモデル毎の収益構造及び事例調査(4~5事例)
2.3.1.2.1. Sembcorp(シンガポール)
シンガポールのユーティリティ大手・Sembcorp(セムコープ)は、エネルギー・水・海洋・都市開発
の 4 分野を展開する企業であり(株主は、Temasek Holdings: 49.5% 上場株主: 50.5%)、都市開発
部門において海外工業団地の開発・運営を行っている。
117
同 社 は 、 イ ン フ ラ 開 発 企 業 Singapore Technologies Industrial (STIC) 及 び 船 舶 企 業
Sembawang の 2 社が、1998 年に合併して設立された会社である。Sembcorp の初代会長のフィリッ
プ・ヨー氏は EDB(シンガポール経済開発庁)長官も務め、現在の幹部クラスにも EDB 出身者が含
まれているなど、EDB との関わりが深い企業と考えられる。海外工業団地開発においても、EDB(シ
ンガポール経済開発庁)がシンガポールに外国企業を誘致した際の考え方に準じて、アジア地域
の開発資産を、直接投資を行う企業のために提供していくことを基本的な考え方としている。
工業団地事業のビジネスモデルとしては、「開発で回収するパターン」と考えられる。特に、「(潜
在)入居者ニーズをもとに、同一国の別立地に、既存現地パートナーと新規開発をしていくパター
ン」に該当すると考えられる。ベトナム、中国、インドネシア等の特定国に資源を集中し、G-to-G の
関係を築きながら、補完関係のある複数の立地に工業団地及び商業・居住地区(タウンシップ)を
開発していくサイクルで事業を行っている。
図表 54 企業概要
概要
売上高
10,189 (2012), 9,047 (2011), 8,764 (2010)
(百万シンガポールドル)
(売上高の構成比)
ユーティリティセグメント:5,615 (2012), 4,893 (2011), 3993 (2010)
海洋セグメント:4,428 (2012), 3,957 (2011), 5,723 (2010)
都市開発セグメント:12 (2012), 9 (2011), 16 (2010)
営業利益
1,266 (2012), 1,272 (2011), 1,396 (2010)
(営業利益の構成比)
ユーティリティセグメント:607 (2012), 421 (2011), 314 (2010)
海洋セグメント:599 (2012), 793 (2011), 1,045 (2010)
都市開発セグメント:44 (2012), 46 (2011), 40 (2010)
進出国
(都市開発セグメント)ベトナム、中国、インドネシア、シンガポール
(出所)2012 年アニュアルレポート
海外での事業は、原則として地場・国際企業との合弁がとられる。これらの合弁において、
Sembcorp はマイノリティ出資の立場で参入している。
118
図表 55 海外での事業主体
ベトナム
中国
Vietnam Singapore
Industrial Park JV Co
47.4%
Vietnam Singapore
Industrial Park & Township
Development Joint Stock
Co
45.2%
VSIP Bac Ninh Co
45.2%
VSIP Hai Phong Co
45.2%
VSIP Quang Ngai Co
47.4%
インドネシア
Wuxi-Singapore Industrial
Park Development Co
45.4%
Sino-Singapore Nanjing Eco
Hi-tech Island
Development Co
21.5%
PT Kawasan Industri
Kendal
49%
シンガポール
Sino-Singapore (Chengdu)
Innovation Park
Development Co
Gallant Venture
23.9%
25%
(出所)Sembcorp ウェブサイト
個別の工業団地の開発事例は、以下の通りである。特徴としては、工業団地のみならず複合的
な開発を志向していること、及びベトナム・中国・インドネシアの 3 カ国に特化し、地場及び国際的
なパートナーと提携し、各国国内で複数の団地を開発していることである。

インドネシア・Bintan Industrial Estate(ビンタン島、Gallant Venture 社経由)

インドネシア・Batamindo Industrial Park(バタム島、合弁、Gallant Venture 社経由)

インドネシア・Kendal Industrial Park(中部ジャワ)

インドネシア・Karimun Marine & Industrial Complex(カリムン島)

ベトナム・Vietnam Singapore Industrial Park Bac Ninh

ベトナム・Vietnam Singapore Industrial Park Hai Phong

ベトナム・Vietnam Singapore Industrial Park Quang Ngai

ベトナム・Vietnam Singapore Industrial Park Binh Duong I

ベトナム・Vietnam Singapore Industrial Park Binh Duong II

中国・Wuxi-Singapore Industrial Park (無錫、江蘇省)

中国・Sino-Singapore Nanjing Eco Hi-tech Island(南京、江蘇省)

中国・China-Singapore Suzhou Industrial Park(蘇州、江蘇省)

中国・Singapore-Sichuan Hi-tech Innovation Park(成都、四川省、Ascendas と合弁)
2.3.1.2.2. Ascendas(シンガポール)
シンガポールの不動産開発大手・Ascendas(アセンダス)は、シンガポールを含むアジア各国に
おいてサイエンス・ビジネス・IT パーク、ハイテク・スペース、インダストリアル・スペース、オフィス・コ
マーシャルスペース、ロジスティック・流通スペース等の設計、開発、管理、マーケティングを行う企
業である。
Ascendas はシンガポールの産業インフラ開発公社である JTC の完全子会社であり、JTC はシン
ガポール通商産業省(MTI: Ministry of Trade and Industry)傘下の機関であるため、Sembcorp と比
べて公共性の強い組織となっている。
119
多様な種類の不動産を手掛けているが、工業団地事業の比率は売上高の 10%であり、展開し
ている国はベトナム、中国、フィリピン、インドである。
工業団地事業のビジネスモデルとしては、「開発で回収するパターン」と考えられる。特に、「拡
張用地において、工業団地に限らず、ニーズに応じて住宅・商業不動産を開発していくパターン」
に該当すると考えられる。
なお、Sembcorp とややフォーカスが異なり、Ascendas はオフィスや IT パークといったレンタル系
の事業にも強みがある。このような事業構成にすることのメリットとしては、ある国に最初に進出する
際には工業団地よりも規模やリスクの小さい上記の事業から入り、現地でのノウハウや信頼、パート
ナーとのネットワークを確立しながら、企業立地の需要や有望案件に関し現地で情報を蓄積してい
けるという点にあると考えられる(その点で、「(潜在)入居者ニーズをもとに、同一国の別立地に、
既存現地パートナーと新規開発をしていくパターン」の一種とも言える)。また、工業団地の回収期
間は長期にわたるため、他事業の収益(オフィスや IT パークのレンタル収入、手数料収入等)によ
り収益を平準化させる効果もあると考えられる。
図表 56 企業概要
概要
売上高
322 (2012), 330 (2011), 316 (2010)
(百万シンガポールドル)
(売上高の構成比)
レンタル収入:22% (2012), 24% (2011), 28% (2010)
処分益:33% (2012), 30% (2011), 21% (2010)
手数料収入:22% (2012), 22% (2011), 24% (2010)
不動産売却益:0% (2012), 5% (2011), 9% (2010)
提携・合弁先からの収益:15% (2012), 9% (2011), 9% (2011)
その他:8% (2012), 9% (2011), 10% (2012)
営業利益
43 (2012), 90 (2011), 102 (2010)
進出国
管理・運用資産残高:14,214 百万シンガポールドル
(構成比)
国別:中国 11.6%、インド 13.6%、韓国 8.1%、フィリピン 0.4%、
シンガポール 58.7%、ベトナム 0.6%、豪州 5.5%、日本 1.5%
施設種別:CBD オフィス 12.2%、ハイテク 11.1%、工業 10.1%、IT パーク 5.7%、
物流 10.5%、MD リテール 1.7%、SP/BP23.7%、病院 8.2%、空地・開発中 16.8%
(出所)2012 年アニュアルレポート
個別の工業団地の開発事例は、以下の通りである。工業団地事業は、企業におけるインフラ・労
働力・内需/輸出のニーズに対応する戦略を取り、進出は大市場国に集中する傾向がある。

ベトナム・Ascendas-Protrade Singapore Tech Park(ビンズオン省)
120

中国・Ascendas Linghu Industrial Square(江蘇省)

中国・Ascendas Xinsu, Suzhou(江蘇省)

中国・Beijing Economic & Technological Development Area, Beijing(北京)

中国・Singapore-Sichuan Hi-tech Innovation Park(成都、四川省、Sembcorp と合弁)

フィリピン・Carmelray Industrial Park II

インド・Chennai Integrated Industrial Township(Ascendas・日揮・みずほ CB 工業団地;タミ
ル・ナードゥ州)
2.3.1.2.3. Amata Corporation(タイ)
Amata Corporation(アマタコーポレーション)は、1987 年に設立されたタイの工業団地デベロッ
パーであり、1997 年にタイ証券取引所に上場された(ただし、現在でも筆頭株主は創業一族)。同
社のタイの物件である Amata Nakorn/Amata City は、日本企業が多く入居する工業団地であり、そ
のノウハウを活用しベトナムにも進出を始めている。
図表 57 企業概要
概要
売上高
6,047 (2012), 3,924 (2011), 3,178 (2010)
(百万タイバーツ)
(売上高の構成比)
工業団地(Amata Corporation):1,945 (2012), 1,463 (2011), 1,296 (2010)
工業団地(Amata City):2,087 (2012), 970 (2011), 645 (2010)
ユーティリティ:1,235 (2012), 1,075 (2011), 934 (2010)
レンタル:480 (2012), 404 (2011), 363 (2010)
純利益
1,445 (2012), 901 (2011), 696 (2010)
進出国
タイ、ベトナム(ベトナム政府との合弁)
(出所)2012 年アニュアルレポート
個別の工業団地の開発事例は、以下の通りである。工業団地事業は、日本の商社と提携し、そ
のノウハウや販売力を活用している。

タイ・Amata Nakorn Industrial Estate

タイ・Amata City Industrial Estate

ベトナム・Amata City Bien Hoa Industrial Park
また、ユーティリティ事業としては、以下を手掛けている。工業団地エリアでの発電事業などによ
るユーティリティ事業の収益も大きいことが、Amata のビジネスモデルの特徴である。

Amata B. Grimm Power Limited (13.77%出資)。タイ及び国外に電力を販売する事業

Amata Water Co., Ltd. (100%出資)。工業需要家向けに水関連商品を製造・販売する事
121
業

Amata Natural Gas Distribution Co., Ltd.(20%出資)。天然ガスを販売する事業

Amata B. Grimm Power 3 Limited(10%出資)。熱電供給事業

Amata B. Grimm Power (Rayong) 1 Limited (15.23%出資)。熱電供給事業

Amata B. Grimm Power (Rayong) 2 Limited (15.23%出資)。熱電供給事業
2.3.1.2.4. Prologis(米国)
Prologis(プロロジス)は、米国の物流不動産デベロッパーであり、世界 21 カ国で事業を展開して
いる。
自社保有不動産のリース事業と、出資パートナーとの共同保有不動産のアセットマネジメント・プ
ロパティマネジメント・リース等の事業とを主に展開。新興国においては、出資パートナー(年金基
金等)と合弁で進出し、自らは 15%程度の出資にとどめるスタンスを取っている。
新興国での開発はメキシコが最多である。メキシコにおいて、Prologis の不動産のほとんどは物
流用のリース施設だが、工場としても活用できる施設も積極的に展開している(ティア 2・ティア 3 メ
ーカー等のアセンブリー工場として使える施設としている)。
またメキシコにおいて、REIT により保有資産の一部を流動化している点も、新興国の工業団地
のモデルとして注目される。
図表 58 企業概要
概要
売上高
2,006 (2012), 1,451 (2011), 840 (2010)
(百万米ドル)
(純収益の構成比)
不動産運営セグメント:1,347 (2012), 931 (2011), 502 (2010)
民間資本セグメント:63 (2012), 83 (2011), 82 (2010)
営業利益
108 (2012), 104 (2011), ▲614 (2010)
進出国
北米(米国:1,430 施設、カナダ:14 施設、メキシコ:85 施設、計 232,650 平方フィート)
欧州(14 カ国、273 施設、計 65,127 平方フィート)
アジア(中国:7 施設、日本:21 施設、シンガポール:5 施設、計 16,218 平方フィート)
(出所)2012 年財務報告書
Prologis の開発案件のうち、日系企業の進出実績のあるメキシコの Monterrey Industrial Center
を例にとると、以下のような状況である。同工業団地は、同社の案件の中でも製造業テナントの比
率が高いとされている。
122
図表 59 開発事例
概要
名称
Prologis Monterrey Industrial Complex
立地
モンテレー市(ヌエボレオン州)
面積(設立年)
30ha
リース/分譲区画
N/A
インフラ・サービス等
下水、街灯、雨水管、飲料水、電話、セキュリティ、歩道、舗装、デジタル工事、都
市交通、内規、変電所、ゴミ収集、緑地、電気設備
入居企業数
13 社
(うち日本企業)
(豊田通商、ゼブラペン)
(出所)AMPIP 等より新日本有限責任監査法人作成
123
2.3.2. 他国の主要な類似事業者の選定
2.3.2.1. 他国の主要な類似事業者のリストアップ
日本の工業団地デベロッパーは複数国・複数地域で工業団地事業を展開しているが、同じよう
に多地域・多国展開するデベロッパーは非常に少ない。例えば、今回の調査対象国内において、
複数地域(都市)にまたがって工業団地事業を展開する事業者は、以下の通りである(◎印は、海
外展開を行う事業者)。
図表 60 各国内で多地域展開をする工業団地デベロッパー
国
企業名
タイ
◎AMATA CITY/ Amata Corporation
タイ工業団地公社(IEAT)
Rojana Industrial Park/住金物産
ミャンマー
なし
マレーシア
なし
インドネシア
◎住友商事
◎伊藤忠商事
◎大成建設
◎Sembcorp
ベトナム
◎Sembcorp/三菱商事
Becamex IDC(省人民委員会傘下公営企業)
インド
Mahindra Group
サウジアラビア
サウジアラビア工業用地公団(MODON)
ジュベイル・ヤンブー王立委員会(Royal Commission for Jubail and Yanbu)、サウジ
基礎産業公社(SABIC )
ポーランド
なし
南アフリカ
なし
ブラジル
なし
メキシコ
American Industries
Amistad Desarrolladores Industriales
CPA Corporate Properties
FINSA
GP Desarrollos
Iamsa Development Group
VESTA
Prologis
(出所)各国工業団地資料をもとに新日本有限責任監査法人
124
各国の工業団地デベロッパーのほとんどは、地場の企業や地方自治体であり、全国レベルで事
業展開を行うケースさえ多くないと言える。これは、工業団地事業の優位性や収益性のポイントが、
ローカルな要素(例えば土地収用や地方自治体・地場ユーティリティとの交渉など)に依存している
ことを示すものと考えられる。
2.3.2.2. 上記企業のビジネスモデル等の整理
上記のような多地域展開をするデベロッパーを、前節のビジネスモデル分類で整理すると、以下
のようになる。
図表 61 各国内で多地域展開をする工業団地デベロッパーのビジネスモデル類型
類型
1.
説明
該当する企業名
①
既存事業での入居企業との接点をもとに
既存事業での入居企業との接点をもとに入居
収するパ
入居ニーズを見極め、販売スピードを早
ニーズを見極め、販売スピードを早めるパタ
ターン
めるパターン
ーン
隣接地に開発余地を残し、(潜在)入居者
隣接地に開発余地を残し、(潜在)入居者ニ
ニーズをもとに拡張していくパターン
ーズをもとに拡張していくパターン
【派生系】拡張用地において、工業団地
【派生系】拡張用地において、工業団地に限
に限らず、ニーズに応じて住宅・商業不
らず、ニーズに応じて住宅・商業不動産を開
動産を開発していくパターン
発していくパターン
【派生系】(潜在)入居者ニーズをもとに、
【派生系】(潜在)入居者ニーズをもとに、同一
同一国の別立地に、既存現地パートナー
国の別立地に、既存現地パートナーと新規開
と新規開発をしていくパターン
発をしていくパターン
開発で回
②
③
④
125
類型
2.
説明
運営で回
①
収するパ
ターン
②
③
該当する企業名
ユーティリティ運営事業により、運営期の
ユーティリティ運営事業により、運営期の収益
収益安定化を図るパターン
安定化を図るパターン
レンタル、リース不動産運営事業により、
レンタル、リース不動産運営事業により、運営
運営期の収益安定化を図るパターン
期の収益安定化を図るパターン
【派生系】レンタル、リース不動産の比率
American Industries
が高い場合、REIT 等に売却しエグジット
Amistad Desarrolladores Industriales
するパターン
CPA Corporate Properties
FINSA
GP Desarrollos
Iamsa Development Group
VESTA
Prologis
④
物流・流通・金融・サービスなど、工業団
-
地入居企業を対象に安定的な対顧客ビ
ジネス(手数料ビジネス等)を獲得するた
めに開発するパターン
(国策型)
国策によって団地開発をしており、必ずしも収
タイ工業団地公社(IEAT)
益化が必要とされないパターン
Becamex IDC
サウジアラビア工業用地公団(MODON)
(出所)各国工業団地資料をもとに新日本有限責任監査法人
2.3.2.3. 中国・韓国・台湾等の企業
中国・韓国・台湾等の企業が、東南アジアや中国で工業団地の開発を行うケースが見られる。し
かし、ほとんどが当該工業団地開発のみを行っている企業であり、本国や他国の事業と関連付け
て実施している事例は以下の 2 例しか見られなかった。
図表 62 韓国デベロッパーの事例
企業名
開発工業団地
Korea Land & Housing Corp(韓国土
ベトナム・Vietnam Bac Giang Province Industrial Park(バクザン省)
地住宅公社)
※韓国内の工業団地等多数
Hyundai Corporation
インドネシア・Indonesia Industrial Complex(ジャワ島、Lippo Group と合
(現代総合商事)
弁)
(出所)各国工業団地資料をもとに新日本有限責任監査法人
126
2.3.3. 競争力比較分析
2.3.3.1. 収益性の比較分析
工業団地事業の収益性は、国や事業による個別性が非常に大きい。ただし、一般にIRRが二桁
に乗る事業は多くないとの指摘もあり
32
、優良案件(立地、現地パートナー等)を選定することが重
要な意味を持っている。
そのうえで、日本企業と類似企業の収益性を比較すると、以下のような傾向があると考えられる。
日本企業の強みは、多くの潜在的入居企業と強い接点を有しているため、他国企業に比べて「入
居が埋まらない」状況は回避しやすいと考えられる(より具体的には、核テナントの誘致等を効率的
に行う等の方法を取りやすい)。販売が数年遅れるだけでも、IRR への影響は大きいため、収益へ
の貢献もあると考えられる。また外資系デベロッパーにおいても、日本のデベロッパーと提携して、
日系企業の誘致を行うケースがある。
一方、工業団地の開発・販売以外への事業範囲の拡大については、日本企業の取り組みはま
だ低調と言える。その背景として、日本のデベロッパー(商社等)においては開発(及び拡張)が工
業団地事業の範囲と考えられており、運営事業は入居企業との関係性の中で(消極的に)持続す
る位置づけとなっていることが挙げられる。そのため、運営事業は収益がほぼゼロ、または赤字とい
うケースもあると言われる。
ただし、日本のデベロッパーが海外の工業団地企業に出資している一部のケースにおいて、ユ
ーティリティやレンタル事業に取り組んでいる場合がある。
32
必要とされる IRR の水準は国や事業の性質によって異なるものの、一般的に最低限 10~15%は求められると考
えられる。
127
図表 63 収益性の比較分析
日本企業と類似企業の比較
入居率・入居企
日本
○:日本の入居企業とのアクセスがあり、一般に日本企業としての信頼
業数
企業
感もあることから、類似企業が開発する場合より有利。
類似
△:一般に、製造業の顧客の広がりが限られるため、チャネルを持つ事
企業
業者と提携をする必要がある。既存開発団地の入居企業の新規展開
やサプライチェーンに従って拡張するパターンもあり。
販売価格/リー
日本
○~△:一定程度のプレミアム価格は可能。ただし、競争の激しい市
ス料/賃料
企業
場においては困難な場合あり。
類似
○~△:日本の事業者と同程度のプレミアム価格は可能。
企業
コスト/リスク
日本
△:日系団地においては、より高水準のインフラ整備や日本人担当者
企業
の常駐が求められ、コストは高い。
類似
○~△:日系企業を主要ターゲットとしない団地においては、低コスト
企業
でのオペレーションも可能。
他の事業からの
日本
△:他事業からの波及は小さい。ユーティリティ事業は一定程度実施。
波及収益
企業
レンタル事業は近年取り組みが始まっている。
類似
△~○:ユーティリティやレンタル事業を専業で手がける企業を子会社
企業
として有する、または工業以外の不動産開発を平行して実施する、等
事業範囲は広いケースがある。
(出所)各社へのヒアリング等
2.3.3.2. 競争力の比較分析
日本企業と類似企業の競争力を比較すると、以下のような傾向が見られる。
日本企業の強みは顧客企業との接点であり、開発の面では強みを発揮しやすいと考えられる。
一方で、類似企業のほうが開発面・運営面ともに事業範囲が広く、収益の多様化を図りやすい側
面がある。
128
図表 64 競争力の比較分析
日本企業と類似企業の比較
開発
土地・許認可
日本
×~△:土地の仕入れや許認可取得のための交渉などは、提携
の取得
企業
する現地デベロッパーが行うことが一般的。
類似
×~△:土地の仕入れや許認可取得のための交渉などは、提携
企業
する現地デベロッパーが行うことが一般的。
事業企画・ソ
日本
○:日系企業と事業上の関係が深く、他国企業より正確にニーズ
フトマーケテ
企業
をつかむことが可能。
ィング
類似
△~○:潜在的な入居企業とのチャネルが限られるため、企画を
企業
行う際の情報源が限られる。一方、一つの国で多様な開発案件
を展開し、現地でのノウハウ・ネットワークを確立することで、企業
ニーズ等を早期に把握している事業者も存在。
造成・建設
日本
△:日系企業が開発する場合、日系ゼネコンに造成・建設を発
企業
注することも想定されるが、コスト面の制約等から必ずしも行われ
ていない。
類似
△:日系・地場企業に対し、特段の優位性なし。
企業
インフラ整備
日本
△~○:日系企業が開発する場合、日系企業にインフラ整備・維
企業
持管理を発注することも想定され、一部で実施されている。品質
管理等の観点からは優位。
類似
△:日系・地場企業に対し、特段の優位性なし。
企業
運営
募集(ハード
日本
○:日系企業と事業上の関係が深く、販売に当たっても優位性
マーケティン
企業
あり。
グ)
類似
△~×:潜在的な入居企業とのチャネルが限られるため、チャネ
企業
ルを持つ事業者と提携をする必要がある。
日本
△~×:レンタルやユーティリティなど、日本企業の求める品質
企業
に合わせたサービス拡大は可能だが、まだ取り組みは少ない。
サービス
結果として、運営期間の収益性は低い(または赤字)のケースが
ある。
維持管理
類似
○~△:レンタルやユーティリティなどを専業で行う企業を子会
企業
社として有しているケースもある。
日本
△:類似企業に対し、特段の優位性なし。
企業
類似
△:日系・地場企業に対し、特段の優位性なし。
企業
129
(出所)各社へのヒアリング等
日本企業としては、①開発面に注力し、既存立地の(工業用途に限らない)拡張や同一国の別
拠点の開発を進めるなど、常に開発収益をあげられる体制を確立するか、②運営面に注力し、ユ
ーティリティやレンタル等の収益源を常に確保できるモデルを確立する、といった方向性が考えら
れる。その際、開発・運営のフェーズごとに、①のプレイヤーから②のプレイヤーにバトンタッチでき
るような企業間連携を模索することも有望と考えられる。
130
2.4. 国別レンタル工場の状況整理
2.4.1.
対象各国におけるレンタル工場の状況
国別のレンタル工場整備状況について主に文献調査により確認を行った。文献にてレンタル工
場に関する情報のない国に関しては、不動産情報提供サイトMONDINION 33へのレンタル工場掲
載の有無について記載を行った。
国名
レンタル工場整備状況(全般)、近年の動向
タイ
タイではかねてより賃貸工場は存在していたが、近年の中小企業のタイ進出
に伴い需要が増加しており、新たなレンタル工場設立の動きも活発化してい
る。これまでは、タイコン、TDC 等の貸工場専門の会社が工業団地内外でレン
タル工場を建設していた。しかし近年はアマタ工業団地や 304 工業団地も自
前でレンタル工場ビジネスに参入を始めており、レンタル工場に関連するビジ
ネス・関連企業も広がりを見せている。しかしレンタル工場を希望する中小企
業では 400~1,000 ㎡程度の規模を希望する企業が多いなか、建屋の平均は
1000 ㎡~2000 ㎡となっており、企業とのニーズの間にミスマッチも起きてい
る。
インドネシア
インドネシアでは、かねてよりレンタル工場へのニーズはあったものの、これま
では供給がほとんどみられなかった。しかし近年になってレンタル工場が新た
に新設されている。また、以前は区画も 2000 ㎡~3000 ㎡程度となっており、
中小企業が希望するような 500~1000 ㎡程度の小規模区画が少ないのが課
題だったが、最近はフォーバル等の日系企業が中小企業向けに 300 平米弱
~の区画を販売するなど改善の兆しは見られており、同社のレンタル工場は
販売開始してすぐにほぼ埋まるなど好調である。その他、撤退企業の工場建
屋をレンタル向けに再利用するなど、レンタル工場拡大に向けた動きは活発
である。
ベトナム
2010~11 年頃の日系企業の進出増加に伴いレンタル工場に対する需要が増
加。以前は 2,000 ㎡程度のレンタル工場が多かったが、2009 年以降の中小企
業進出増加に伴い、500 ㎡程度の区画を提供するように変化してはいるもの
の、数としては 1000 ㎡以上が主流のようである。
また、地場企業が運営する工業団地のなかでサブリースのような形態で 1000
~2000 ㎡規模のレンタル工場を提供している事例もあるが、このようなところ
は 11 年頃から埋まり始めたと言われている。
33
http://www.mondinion.com/
131
国名
レンタル工場整備状況(全般)、近年の動向
マレーシア
外資による工業団地開発を規制しているため、工業団地開発は主に土地を所
有している政府機関や地場民間開発業者が中心であるが、これらの工業団地
内にレンタル工場も設置されている。また、18 カ所の FIZ 内にもレンタル工場
が設置されている。なお、政府系での主要工業団地運営業者の一つの MIDF
プロパティは、中小企業支援を目的に設立されたことから、工業団地入居者
の 7 割が中小企業となっている。また、MIDF プロパティは、ニーズに合うレンタ
ル工場物件がない場合でも、既に建設されている工場を買収・改築してレンタ
ルするサービスも行っている。
ミャンマー
現状ミャンマーでは企業側の需要に対して工場用地が全般的に供給不足で
あるなか、レンタル工場の供給については現時点では特に見られない。
インド
インドでは需要に対してレンタル工場が圧倒的に不足している。レンタル工場
が浸透しない背景には、高金利、州政府の複雑な規制、不動産業を禁じる外
資規制などがあると考えられている。
ブラジル
レンタル工場に相当するものは「コンドミニアム」と呼ばれ、数多くのコンドミニ
アムが存在。ただし、品質に課題のある団地も少なくないと見られる。日本企
業の入居事例は確認できていない(工場建設中の仮工場をコンドミニアムに
立地させている事例はあり)
メキシコ
ほとんどの大手工業団地デベロッパーはレンタル工場を中心に展開。外資系
(Prologis 等)の参入も見られ、高品質のものも存在。日本企業の参入事例あ
り。
トルコ
不動産情報提供サイト MONDINION にて、レンタル工場の供給情報が提供さ
れているため、レンタル工場の供給自体はあるようである。
サウジアラビア
不動産情報提供サイト MONDINION では、レンタル工場の供給情報が確認で
きなかったため、同国のレンタル工場の供給状況については不明。(あまり存
在していない可能性が高い。)
南アフリカ
不動産情報提供サイト MONDINION には、レンタル工場の供給情報が提供さ
れているため、レンタル工場の供給自体はあるようである。
エジプト
不動産情報提供サイト MONDINION には、レンタル工場の供給情報が提供さ
れているため、レンタル工場の供給自体はあるようである。
ロシア
ここ数年、沿ヴォルガ地域を中心に、地場自動車・同部品メーカーが遊休施
設を貸し出す例が出始めている。また、交渉次第でレンタルも可能になるケー
スも出てきている。
132
国名
レンタル工場整備状況(全般)、近年の動向
ポーランド
不動産情報提供サイト MONDINION では、レンタル工場の供給情報が確認で
きなかったため、同国のレンタル工場の供給状況については不明。(あまり存
在していない可能性が高い。)
(出所)ジェトロ(2012)「アジアのレンタル工場事情」、MONDINION ホームページ
2.4.2.
レンタル工場の動きの活発な国における詳細な状況
2.4.2.1. タイ
日本企業による整備状
タイでは、日系企業が運営に関わる工業団地としては、住金物産
況
の出資するロジャナ工業団地だけであるが、このロジャナ工業団
地系列でレンタル工場事業を行っているタイコン社はタイの大手
レンタル工場デベロッパーである。なお、タイコン、TDC など、ロー
カル企業が開発・運営するレンタル工場では、日本人営業マンが
配置されて日系企業誘致を行っている。これらのレンタル工場で
は日系企業の入居率が高く、タイコン社ホームページによると、同
社レンタル工場入居企業のうち 50%が日系企業とのことである。
入居企業数・空き状況
中小企業の進出が進む中でレンタル工場へのニーズは高く、造
ればすぐ売れる状況。満杯で入れないレンタル工場も多い。この
ようなニーズの増加に伴い、レンタル工場の建設の動きが加速し
ている。また、アマタ等の工業団地運営事業者も、自社工業団地
内に自前でレンタル工場を建設する動きが増えている。(これまで
は、アマタ工業団地の中にタイコン等の他のレンタル工場事業者
が建設していた。)
入居企業の業種、規模
業種は多岐に渡る。規模としては、中堅・中小企業が多い。
(出所)ジェトロ(2012)「アジアのレンタル工場事情」、タイコン社ホームページ 34
2.4.2.2. インドネシア
日本企業による整備状
豊通:カラワン工業団地にレンタル工場を設立。
況
伊藤忠:KIIC 工業団地にレンタル工場を設立。
双日:GIIC 工業団地内にレンタル工場を設立。
フォーバル:日本の中小企業向けのレンタル工場(Japanese SMEs
34
http://www.ticon.co.th/index.php/ticon/ticon-rbw
133
Center)を地場工業団地内に設立。
大和ハウス:MM2100 工業団地内にレンタル工場設立予定。
入居企業数・空き状況
インドネシアでは、近年の進出ラッシュに伴いジャカルタ近郊の工
業団地がほぼ満杯になり、生産拠点の設定が難しくなる中で、レ
ンタル工場にまで手が回らない状況にあったが、最近はようやくレ
ンタル工場の計画が進み始めた状況であり、タイ・ベトナムよりは
レンタル工場の建設は遅れている状況。
入居企業の業種、規模
・業種は多岐に渡る。自動車をターゲットとしているレンタル工場も
ある。規模としては、中堅・中小企業が多い。
(出所)ジェトロ(2012)「アジアのレンタル工場事情」
2.4.2.3. ベトナム
日本企業による整備状
・住商:タンロン工業団地内にレンタル工場設置
況
・野村ハイフォン工業団地内にレンタル工場設置
・フォーバル:北部、南部の 2 か所で地場工業団地内にレンタル
工場を設立。
その他、ローカル工業団地の一部区画をサブリースする形態での
レンタル工場提供事例も複数見られる。
入居企業数・空き状況
日系工業団地のほか、シンガポール(アセンダス、メープルツリ
ー)や現地系の運営する工業団地内にレンタル工場を建設する
計画が進んでいる。ロンハウ工業団地でも、募集して 1 年で全区
画契約完了となるなど、造れば売れる状況。
入居企業の業種、規模
・業種は多岐に渡る。規模としては、中堅・中小企業が多い。
(出所)ジェトロ(2012)「アジアのレンタル工場事情」
2.4.3.
レンタル工場へのニーズ、活用のメリット
文献調査、ヒアリング等に基づき、レンタル工場に対する入居企業側のニーズ・要望をまとめると
以下の通りである。
 初期投資の抑制
自ら土地を購入する場合には初期投資が多額となるが、レンタルの場合は月々の支払いで分散で
きるため、多額の初期費用を負担することが困難な企業にとっても進出拠点の開設が可能となる。
134
 短期間での操業開始 (タイムリーな進出可能)
レンタル工場を活用することにより、3 カ月以内程度での進出が可能。一方で、自前で工場を立ち
上げようとすると 1 年半程度の時間がかかるため、その期間中に経済情勢が変わってしまうリスクが
ある。また、自社工場を建設中に、従業員の研修等の目的でレンタル工場を活用する企業もある。
 撤退が容易、リスク軽減
レンタル期間は通常2~3年程度なので、2~3年経過したところで、買い取りまたは移転を考える
ことができるので、大企業であっても対象国における事業性の判断のためにお試し入居的に入居
することが可能。特にリスクの高い後発開発途上国(カンボジア、バングラデシュ等)に対して進出
検討を行う企業から多く聞かれた。その他にも、レンタル工場は撤退の容易さから足の速い製品の
生産に向いていると言われており、例えば、タブレットやスマホ等の比較的足の速い製品はレンタ
ル工場で生産しているという声が聞かれた。また、リスク軽減の観点からは、タイで生産している品
目を中国のレンタル工場でも生産する等によるリスク分散体制の構築を行っている企業もあった。
 小規模のレンタル工場を希望
中小企業の業務規模や資金力では小規模の貸工場から業務を開始したいという意向が強い。し
かし既存のレンタル工場は 1,000 ㎡以上が多く中小企業には広すぎるため、400~1,000 ㎡程度の
レンタル工場を希望する声が聞かれている。
2.4.4.
レンタル工場に関するデベロッパー側の見解
一方で、デベロッパー側の見解を聞いてみると、レンタル工場は、企業のサポートに手間がかか
る割には収益が薄いビジネスのため、海外工業団地事業を展開する日系デベロッパーもそれほど
積極的に事業展開していないという意見も聞かれた。特に、500~1000 ㎡程度の小規模の貸し工
場を求める中小企業は、比較的海外経験の豊富な大企業に比べて経験が浅いため、ワンストップ
サービスや日々の質問対応業務等でより手間がかかるという声もある。
実際、平米当たり月額レンタル料については、500 平米以下の小規模区画も 1,000 平米以上の
大規模区画も、月額の平米賃料としては同程度で販売しているという声が多く聞かれた。この月額
賃料の内訳としては、土地の賃料の他、維持管理費用、ワンストップサービス等ソフトサービス費用
の全てが込みであるケースが多いため、同じ広さの区画であれば区画を小さくして複数社に販売
するよりも、一つの企業に販売したほうがサービス面でのコストはかからない(企業数が増えるほど
コスト高となる)ことになる。このため、もともと土地販売事業を中心で実施している既存の工業団地
では、小規模のレンタル工場の取扱にはあまり積極的ではないようである。
一方で、中小企業にとって本当に必要な進出場所である小規模区画のレンタル工場が存在し
ていないというニーズに目をつけたのがフォーバル社である。フォーバル社は、中小企業の海外進
出支援を行っているコンサルティング企業であり、最近インドネシア及びベトナムで中小企業向け
135
のレンタル工場の提供を開始した。インドネシアは既にほぼ満杯となっており、拡張について検討
している状況である。また、ベトナムについては、北部・南部の 2 か所にてレンタル工場を展開して
おり、売れ行きはこちらも好調ということである。同社は、かねてより既にベトナムやインドネシアで
日系中小企業の進出支援業務をコンサルタント企業として実施してきた経験を有しており、今回レ
ンタル工場で提供しているワンストップサービスのようなソフトサービスにもノウハウがあること、現地
でその業務を実施できる現地人材が育っていたことが、今回自らレンタル工場事業を実施する方
針とうまくマッチしたものと考えられる。同社によると、現在は売れ行きも好調であり、中小企業向け
の小規模区画のレンタル工場であっても十分に収益化は可能であるとのことであった。
これまでは日系商社が中心となって実施してきた海外工業団地事業であるが、工業団地事業自
体は商社のビジネスモデルには必ずしもあっていないという指摘もある。商社等においては、開
発・拡張による販売が事業の中心と捉えられており、取得した土地を可能な限り早期に売却して資
本を回転させていくビジネスモデルが志向されている。それに対し、運営事業は資本効率が低い
傾向にあり、消極的に持続しているという位置づけにある。
係る状況下、商社以外の多様な事業者が参画し、これまで提供できていなかった中小企業向け
の工業団地というニーズを満たす商品が提供されてきていることは、日系企業の海外進出促進の
観点からも望ましいものであると言える。
136
3. 進出要因分析
3.1. アンケート調査実施方法・結果概要
3.1.1. アンケート調査実施に係る概要
進出要因分析の実施にあたって、現在海外に製造拠点展開している日本企業を対象に、既に
進出している海外拠点や今後進出しようとしている海外拠点についてアンケートを実施した。本調
査は、海外に展開する日本企業にとって、海外製造拠点選定のうえで重要となる項目を調査し、
現地に進出する日本企業に対して良質なビジネス環境を提供する上での対応策を検討することを
目的としており、海外拠点を選定する際に重視するポイントや、工業団地内外の選定基準、レンタ
ル工場の利用状況なども調査し、我が国企業の海外進出促進に資するべく日本企業のニーズを
分析している。
実施対象
東洋経済社「海外進出企業総覧(会社別編)」に掲載されている企業のうち製造業
等企業 2,698 社
実施時期
平成 25 年 12 月
実施方法
郵送配布、郵送回収
調査項目
※「4.3 アンケート調査票」参照
回収状況
回収数:428 票・回収率 15.9%(母数から回答辞退企業 19 件を除く)
137
3.1.2. アンケート結果概要
全回答 428 件について企業規模別にみると、大企業と中小企業からの回答がそれぞれ約半数
を占めた。また業種別にみると、一般機械や電機機械・電子機器関連企業が多く、次いで化学品・
石油製品、その他製造業と続いている。
図表 65 企業規模別内訳
大企業
49%
中小企業
50%
(不明)
2%
図表 66 業種別内訳
木材・木製品
2%
医薬品
紙・パルプ 1%
1%
衣服・繊維製品
2%
窯業・土石
3%
(不明)
1%
印刷・出版
1%
家具・インテリア製品
0%
医療機器
1%
一般機械
11%
ゴム製品
2%
繊維(紡績・織物・化学繊維)
3%
電気機械・電子機器
10%
精密機器
3%
非鉄金属
3%
化学品・石油製品
9%
鉄鋼(鋳鍛造品を含む)
4%
プラスチック製品
5%
輸送用機器(自動車、二輪
車)
5%
その他製造業
9%
金属製品(メッキ加工含む)
5%
輸送用機器部品
8%
電気・電子部品
6%
食品・農水産加工品
6%
138
3.2. 拠点選定判断要因分析
3.2.1. 過去の拠点選定判断にかかるアンケート結果
現在の進出先海外拠点について、10 社以上回答があった国を抜粋したものが下表である。中
国への進出数が圧倒的に多く、次いでタイ、米国、そしてインドネシア、台湾、韓国、ベトナム、シン
ガポールが続き、メキシコやブラジルといった南米や、ドイツやイギリスといったヨーロッパ諸国へも
数多く展開している。
図表 67 現在の海外拠点
0
中国
タイ
米国
インドネシア
台湾
韓国
ベトナム
シンガポール
マレーシア
ドイツ
イギリス
メキシコ
ブラジル
フィリピン
インド
フランス
オランダ
香港
オーストラリア
イタリア
スペイン
カナダ
チェコ
ベルギー
ロシア
ポーランド
トルコ
50
100
150
200
250
300
283
164
149
98
90
78
77
67
66
56
46
44
36
35
28
28
24
21
19
18
16
16
14
14
14
10
10
139
続いて、「直近の海外展開先 3 カ国」について、その拠点の選定理由等の調査を行った。ここで
選定された 3 拠点に関する回答対象国の内訳については下表の通り。中国、タイ、インドネシア、
ベトナム等の東南アジア諸国が主な対象国となっていることがわかる 35。
図表 68 現在の海外進出先回答対象国
0
50
100
150
200
250
300
269
中国
113
タイ
インドネシア
46
ベトナム
44
インド
31
米国
31
27
メキシコ
マレーシア
25
韓国
23
フィリピン
20
台湾
20
10
シンガポール
8
ブラジル
ドイツ
5
ロシア
5
香港
4
カンボジア
3
ポーランド
3
英国
3
次に、当該進出先国への進出目的を上位 10 ヶ国について国別に確認したところ、特にインドネ
シア、インド、米国においては内需向けに、ベトナム、フィリピンは輸出加工向けに進出している傾
向がある。
35
なお、アンケート回答票に、「製品販売のみの拠点及び北米・西欧の製造拠点は除く」と但し書きをつけておい
たことから、北米・西欧に対する回答数は少なくなっている。
140
図表 69 進出目的
中国
0
タイ
100
200
0
50
インドネシア
100
0
20
40
内需向け
輸出加工向け
輸出加工向け
、内需向け
ベトナム
0
米国
インド
20
40
0
20
40
0
20
40
内需向け
輸出加工向け
輸出加工向け
、内需向け
メキシコ
0
韓国
マレーシア
10
20
10
0
20
内需向け
輸出加工向け
輸出加工向け
、内需向け
台湾
フィリピン
0
10
20
0
10
内需向け
輸出加工向け
輸出加工向け
、内需向け
141
20
0
10
20
回答のあった既存の海外拠点に関する進出先種別を確認すると、「工業団地内」、「経済特区等
の特別な地域内」、「レンタル工場」の施設を活用しているケースが全体の 8 割を超えていることが
わかる。
図表 70 進出先種別
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
500
工業団地内
経済特区等の特別な地域内
工業団地・経済特区等の敷地外
レンタル工場
なお、工業団地・経済特区等の地域内(レンタル工場を含む)へ進出している企業がその拠点を
選択した理由として最も多いのは、「コストの低さ(人件費、土地代、運営費等)」となっており、次い
で「消費市場規模・今後の成長性」、「顧客への近接性」、「輸送・物流の利便性」、「労働者の質・
確保のしやすさ」、「周辺インフラ(港湾、空港、鉄道当)への近接性」、「工業団地内インフラ整備
状況(電力、水、廃水処理等)」等の理由が選択されている。
一方で、工業団地外へ進出している企業がその拠点を選択した理由として最も多いのは、「消
費市場規模、今後の成長性」となっており、次いで「顧客への近接性」、「コストの低さ(人件費、土
地代、運営費等)」、「労働者の質、確保のしやすさ」、「「輸送・物流の利便性」、「駐在員の生活環
境」となっている。
以上の通り、工業団地内か外かによる拠点選定要因には大きな違いはなかったが、工業団地外
に進出する企業の場合は、比較的生活環境も整っている地域に近接している可能性も高い工業
団地進出企業と比較して、駐在員の生活環境の確保の視点も含めた検討を行っている点が顕著
であった。
142
図表 71 拠点選定にあたって重視した項目(工業団地・SEZ 内企業)
工業団地・経済特区等の地域内(レンタル工場含む)
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積していること
顧客、同業企業、他の日系企業が近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ プサービス、 日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼性(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電力、 水、廃水処理、等)
その他
図表 72 拠点選定にあたって重視した項目(工業団地・SEZ 外企業)
工業団地・経済特区等の敷地外
0
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積していること
顧客、同業企業、他の日系企業が近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ プサービス、 日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼性(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電力、 水、廃水処理、等)
その他
143
10
20
30
40
50
60
70
3.2.2. 過去の拠点選定における判断要因の分析
3.2.1 においては、現在の展開先に対する拠点選定判断について確認を行った結果について
概観を行った。この結果より、これまでの拠点選定においては、工業団地内外問わず、以下の項
目を特に重視していることが判明した。
 コストの低さ(人件費、土地代、運営費等)
 消費市場規模・今後の成長性
 顧客への近接性
 輸送・物流の利便性
 労働者の質・確保のしやすさ
 周辺インフラ(港湾、空港、鉄道等)への近接性
上記項目に加えて、工業団地進出企業では、「工業団地内インフラ整備状況(電力、水、廃水
処理等」の項目が重視されており、また、団地外進出企業では、「駐在員の生活環境」が重視され
ていた。これは、工業団地内に進出する企業においては、他工業団地との比較の上で工業団地
内のインフラ整備状況を選定の上で重視される傾向があることを示している。また、工業団地外に
進出する企業においては、比較的生活環境も整っている地域に近接している可能性の高い工業
団地進出企業と比較して、駐在員の生活環境の確保の視点も含めた検討を行う必要がある点から
選定要因として重視される傾向がある可能性を示唆している。
また、内需向けか輸出加工向けかの進出目的については、進出先国別に相違が見られた。即
ち、内需の伸びの期待されるインドネシア、インド等の人口規模が大きい国に対しては、内需向け
の企業の進出が進んでおり、一方で内需はそれほど見込めないが、安価な労働力や物流面での
優位性、国としての安定性などで優れているベトナムやフィリピンなどには輸出加工向けの企業が
比較的多く進出していると考えられる。
144
3.3. 海外進出判断における重要事項の調査
3.3.1. 今後の海外進出判断における重要事項に関するアンケート結果
進出検討先としては、ASEAN5(インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシア)とする回答
が最も多く、次いで ASEAN 以外の東南アジア、中南米、南アジア、北東アジアという結果となった。
このように、アジアが継続して注目されているものの、中南米への進出には一定の注目が集まって
いることがわかる。
図表 73 今後の海外進出検討先地域
0
10
20
30
40
50
60
70
80
ASEAN5
ASEAN5以外の東南アジア
中南米
南アジア
北東アジア
西欧以外の欧州・ロシア
中東
アフリカ
具体的に検討している国としては、インドネシアが最も多く、次いでインドとタイへの注目が高い。
続いて、メキシコ、ブラジル、ベトナム、ミャンマーが続いており、中南米地域の内訳としてはメキシ
コ・ブラジルへの注目度が圧倒的に高いことが確認された。一方で南アジアについては、基本的に
はインドへの注目が集まる一方、他の国については具体的な名前は多くは上がらなかった。東南
アジアでは、ASEAN5 以外ではミャンマーへの注目が群を抜いており、カンボジアがそれを追う形と
なっている。
145
図表 74 今後の展開に向けて具体的に進出を検討している国
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
インドネシア
インド
タイ
メキシコ
ブラジル
ベトナム
ミャンマー
中国
カンボジア
フィリピン
UAE
マレーシア
トルコ
パラグアイ
ロシア
台湾
今後進出を検討する拠点については、工業団地の敷地内を検討予定とする企業が全体の半数
程度を占めている一方、工業団地内外にこだわらず検討している企業も半数程度を占めている。
既存の進出先は工業団地内の企業が多いことから、経験値が増すに従い、工業団地にこだわらず
に進出先を検討する傾向があると考えられる。また、工業団地の敷地以外を検討予定とする企業も、
数は少ないものの一定数存在している。
図表 75 今後進出を検討する拠点の種別
工業団地の敷地内を
検討予定
46%
工業団地の敷地以外
を検討予定
5%
146
工業団地内外にこだ
わらずに検討予定
48%
企業規模別に見ると、中小企業では「工業団地の敷地内を検討予定」が 56%と半数以上を占め
ているのに対し、大企業では同回答は 39%に留まっており、「工業団地内外にこだわらず検討予
定」(57%)と回答している割合が大きいことが分かる。従って、中小企業ほど工業団地進出のニー
ズが高いことがわかる。
工業団地以外の敷地を検討する理由としては、工業団地入居の際のコストが、工業団地外に進
出した場合と比較して高いという意見が多く挙げられた。
図表 76 今後進出を検討する拠点の種別(企業規模別)
大企業
工業団地の
敷地内を検討予定
39%
工業団地の
敷地以外を検討予定
4%
工業団地内外に
こだわらずに検討予定
57%
中小企業
工業団地の
敷地内を検討予定
56%
工業団地の
敷地以外を検討予定
8%
工業団地内外に
こだわらずに検討予定
36%
進出先でのレンタル工場の利用については、回答企業のうち約 10%が「希望あり/検討中」とい
う結果である一方、「希望なし」が 46%、「わからない」が 44%となっており、まだ積極的に検討を進
めている企業は少ないようである。一方で、レンタル工場の存在やメリット等について未だよく認知
されていない可能性もあるとも考えられる。
図表 77 レンタル工場の利用希望
希望あり
/検討中
10%
希望なし
46%
わからない
44%
147
レンタル工場への進出理由としては、「初期費用が抑えられる」、及び「建設等が不要で、早期に
立ち上げが可能である」といった回答が多かった。進出時のコストと時間をいかに抑えるかといった
問いに対する一つの解がレンタル工場の選択になるといえる。
図表 78 レンタル工場への進出理由
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
初期費用が抑えられるため
建設等が不要で、早期に立ち上げが可能であるため
通常の工業団地よりも小さい敷地が確保可能なため
レンタル工場にしか空きがないため
撤退が比較的容易なため
その他
今後の輸出加工向けの拠点選定にあたっては、「コストの低さ」を重視すると回答した数が最も
多かった。続いて、「輸送・物流の利便性」、「労働者の質、確保のしやすさ」、「原材料調達のしや
すさ」、「消費市場規模、今後の成長性」、「周辺インフラへの近接性」について、多くの企業が選定
理由として重視すると回答している。
このように、単に人件費の安い国に進出するというだけでなく、物流面、労働力の確保、市場規
模、周辺インフラ等、原材料調達等の複数の側面から、進出先の立地の評価を行っていることが
窺われる。
148
図表 79 今後の拠点選定に当たって重視する項目(輸出加工向け拠点)
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積していること
顧客、同業企業、他の日系企業が近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ プサービス、 日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼性(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電力、 水、廃水処理、等)
その他
さらに主な業種別に見たところ、どの業種においても「コストの安さ」、「輸送・物流の利便性」を
重視しているが、食品・農水産加工品、及び化学品・石油製品の業種においては、「原材料調達
のしやすさ」を最も重視している結果となった。
149
図表 80 今後の拠点選定に当たって重視する項目(輸出加工向け拠点):業種別
食品・農水産加工品
0
10
20
30
化学品・石油製品
10
0
20
プラスチック製品
30
0
20
10
30
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道
等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ
可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運
営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積しているこ
と
顧客、同業企業、他の日系企業が
近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ
プサービス、日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼
性(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電
力、水、廃水処理、等)
その他
一般機械
非鉄金属
0
10
20
30
0
10
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道
等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ
可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運
営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積しているこ
と
顧客、同業企業、他の日系企業が
近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ
プサービス、日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼
性(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電
力、水、廃水処理、等)
その他
150
20
電気機械・電子機器
30
0
10
20
30
電気・電子部品
0
10
20
30
輸送用機器部品
輸送用機器(自動車、二輪車)
0
10
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道
等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ
可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運
営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積しているこ
と
顧客、同業企業、他の日系企業が
近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ
プサービス、日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼性
(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電
力、水、廃水処理、等)
その他
151
20
30
0
10
20
30
今後内需向けの拠点選定にあたって重視する項目としては、「消費市場規模、今後の成長性」
が最も多く、次いで、輸出加工向けの拠点同様に「コストの低さ」、「輸送・物流の利便性」、「原
材料調達のしやすさ」、「労働者の質・確保のしやすさ」、「顧客への近接性」が挙げられている。
このように、輸出加工向けの拠点・内需向けの拠点ともに、選定に当たって重視する項目につい
ては大きな差がないことがわかった。
図表 81 今後の拠点選定に当たって重視する項目(内需向け拠点)
0
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積していること
顧客、同業企業、他の日系企業が近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ プサービス、 日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼性(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電力、 水、廃水処理、等)
その他
152
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
内需向けの拠点として、「消費市場規模、今後の成長性」を重視する企業が最も多かった。輸
出加工向けの拠点選定の場合と比較すると、周辺インフラへの近接性の優先度は低くなっている
ことがわかる。
図表 82 今後の拠点選定に当たって重視する項目(輸出加工向け拠点):業種別
食品・農水産加工品
0
10
20
30
プラスチック製品
化学品・石油製品
0
10
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道
等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ
可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運
営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積しているこ
と
顧客、同業企業、他の日系企業が
近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ
プサービス、日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼性
(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電
力、水、廃水処理、等)
その他
153
20
30
0
10
20
30
一般機械
非鉄金属
0
10
20
30
0
10
20
電気機械・電子機器
30
0
10
30
20
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道
等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ
可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運
営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積しているこ
と
顧客、同業企業、他の日系企業が
近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ
プサービス、日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼性
(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電
力、水、廃水処理、等)
その他
電気・電子部品
0
10
20
30
輸送用機器部品
輸送用機器(自動車、二輪車)
0
10
消費市場規模、今後の成長性
輸送・物流の利便性
周辺インフラ(港湾、空港、鉄道
等)への近接性
原材料調達のしやすさ
立上げ期間の短さ(早期立ち上げ
可能)
コストの低さ(人件費、土地代、運
営費等)
顧客への近接性
既進出企業の評価
日系企業が多く集積していること
同業種企業が多く集積しているこ
と
顧客、同業企業、他の日系企業が
近くに集積していないこと
駐在員の生活環境
労働者の質、確保のしやすさ
進出先で付与される恩典
災害への強さ、治安
親日度
工業団地提供サービス(ワンストッ
プサービス、日本語サポート等)
工業団地開発・運営企業の信頼性
(日系等)
工業団地内インフラ整備状況(電
力、水、廃水処理、等)
その他
154
20
30
0
10
20
30
拠点選定にあたっての具体的な目安として、港湾からの平均距離は 73 ㎞、平均所要時間は 2
時間、また空港からの平均距離は 60 ㎞、平均所要時間は 2 時間という結果になった。
図表 83 周辺インフラからの近接性評価の際の目安
項目
平均値
最寄の港湾から 最寄の港湾から 最寄の空港から 最寄の空港から 最寄の鉄道駅 最寄の鉄道駅 幹線道路から距
の所要時間(時 距離
の距離
の所要時間(時 から距離
からの所要時間 離
間以内)
(km以内)
(km以内)
間以内)
(km以内)
(時間以内)
(km以内)
4
7
73
2
60
2
19
拠点選定に当たり、ワンストップサービスの有無を「非常に重視する」及び「重視する」で全体の
44%を占めており、半数近くの企業において、拠点選定に当たってワンストップサービスが一定程
度重視されていることが分かる。一方で、「あまり重視しない」「ほとんど重視しない」と回答した企業
は 11%しかいなかったが、「どちらとも言えない」と回答した企業が半数近くに上った。
図表 84 ワンストップサービスの重要性
ほとんど重視しない
2%
非常に重視する
6%
重視する
38%
どちらとも言えない
46%
あまり重視しない
9%
企業規模別に見ると、「非常に重視する」もしくは「重視する」とした回答割合は、大企業で 42%、
中小企業で 47%と、中小企業の方比較的ワンストップサービスの有無を重視する傾向にあることが
わかる。
155
図表 85 ワンストップサービスの重要性(企業規模別)
大企業
ほとんど重視しない
1%
非常に重視する
5%
重視する
37%
どちらとも言えない
48%
あまり重視しない
9%
中小企業
ほとんど重視しない
2%
非常に重視する
7%
重視する
40%
どちらとも言えない
43%
あまり重視しない
8%
拠点選定にあたり、特に重視する恩典・サービスとしては、「税務面での優遇」が最も多く選定さ
れた。続いて、「外資 100%出資が可能等の外資規制緩和の適用」、「土地所有等の優遇」、「ビザ
発給等の許認可に係る外資規制緩和の適用」、「ワンストップサービス等のサービス」等、各項目へ
の票が集まった。一方で、恩典・サービスについては「特に重視しない」という回答があることから、
恩典・サービス等に関しては拠点選定の優先順位として高くないと考えている企業が存在すること
がわかる。
図表 86 拠点選定にあたり重視する恩典・サービス
0
50
税務面での優遇
土地所有等の優遇
外資100%出資が可能等の外資規制緩和の適用
ビザ発給等の許認可に係る外資規制緩和の適用
ワンストップサービス等のサービス
その他
特に重視しない
156
100
150
200
250
3.3.2. 今後の拠点選定における重要事項の分析
3.3.1 においては、今後の展開先を検討するに際して重視する項目について確認を行った結果
について概観を行った。この結果より、今後の拠点選定において、輸出加工向けの拠点・内需向
けの拠点ともに、以下の項目を特に重視していることが判明した。
 コストの低さ(人件費、土地代、運営費等)
 輸送・物流の利便性
 労働者の質・確保のしやすさ
 消費市場規模・今後の成長性
 原材料調達のしやすさ
ここで重視されている項目は、これまでの拠点選定とほぼ同様の項目であるが、「原材料調達の
しやすさ」については今後の拠点選定ではより重視されることがわかる。
また、上記項目に加えて、輸出加工向けの拠点では、「周辺インフラ(港湾、空港、鉄道等)への
近接性」が重視されており、また、内需向けの拠点では、「顧客への近接性」が重視されていた。こ
れは、いずれも顧客としての輸出先(海外)及び国内(内需)への物流面での利便性を考慮したも
のと換言することができ、いずれも顧客を意識した拠点選定戦略であると考えられる。
また、周辺インフラからの近接性に関する具体的な目安の数字に関する回答の平均値を見ると、
最寄港湾から 73km 以内(2 時間以内)、最寄空港から 60km 以内(2 時間以内)、最寄の鉄道駅か
ら 19km 以内、幹線道路から 7km 以内、という結果となった。
また、今後具体的に展開を検討している国としては、インドネシア、インド、タイ等の ASEAN 諸国
が引き続き多く、後を追う形で、ベトナム、ミャンマー、南米のメキシコ、ブラジルが続いている。一
方で中国はこれを追う形での 8 位となっている。
このように、引き続きインドネシア、インド、タイ、ベトナムが注目を集める一方、メキシコ、ブラジル、
ミャンマーのように今後の進出先として注目を集めている国も出てきていると言える。
なお、本アンケートは、本節冒頭に記載したとおり、「海外に生産拠点を有している製造業等企
業」を対象として調査を行っている。従って、「これまで一度も海外に生産拠点を設置したことのな
い製造業等企業」については、本調査においては調査対象外としている。このため、「海外に初め
て進出する企業が拠点選定にあたって重視する判断要因」については、本アンケート調査では捉
えきれていない。
このため、デベロッパー各社に対して、この点についてヒアリングを実施したところ、海外展開が
初めての企業ほど、ワンストップサービス等の進出時のサポートについては評価される傾向がある
という意見が大勢を占めた。また、日系企業が既に進出していることに対する安心感も、初めて海
外進出する企業ほど重視するということであった。実際に、既存の日系の工業団地は、価格的には
157
ローカルの工業団地よりも割高であるものの、品質の高い団地内インフラ、充実したサポート、日系
の団地という安心感への評価から、これまで実際に海外にて売れてきた実績もあるため、特に海外
展開に不慣れな企業を始めとした日系企業から選ばれてきた実績があると考えられる。一方で、既
に海外展開の経験がいくつかある企業からは、既に自前でノウハウも身に付けたので、よりコスト的
に安価となる工業団地外への展開も今後は考えたいとする声も聞かれている。今回のアンケート結
果も同様に、既に海外展開した企業は今後は必ずしもソフト面を重視はしていないという傾向が見
られている。このため、日系デベロッパーにとっては、海外展開が初めての企業に今後注力するの
か、もしくはこれまでの開発で回収するモデルから運用で回収するモデルにシフトしていくのか、今
後は戦略の転換が必要になっている可能性がある。
158
4. 有望地域の選定
4.1. 工業団地需要推計(国別)
4.1.1. 先行研究及び課題
本節では、世界各国における工業団地需要の推計を行う。本調査実施時点で調べた範囲では、
工業団地に関する国際的なマクロ統計や定量分析は存在しておらず、本報告書に掲載した情報
を元に、データを積み上げて独自に推計を行うことが必要である。
工業団地の定量分析がこれまで行われてこなかった背景として、いくつか理由があると考えられ
る。第一に、マクロ統計が得られる国が限られていることが挙げられる。今回の調査対象国の中で
は、タイ、インドネシア、ベトナム、メキシコに工業団地の当局・業界団体等があり、工業団地総面積
を集計・公表しているが、それ以外の国では統計は存在していない。そのため、データ整備自体が
非常に困難である。第二に、工業団地の販売状況は各企業の内部情報であり、公表されていない。
そのため、開発面積や開発年については情報を把握できても、販売実績については判明しないケ
ースがほとんどである。第三に、工業団地の開発・販売は、特定の時期に一気に(非連続に)加速
する性質を持っており、比較的連続性のある経済データとの相関が低い点が挙げられる。そのた
め、精度の高いモデルを構築することが難しい。
以下の調査では、第一の課題に対しては各国で工業団地データの積み上げを行い、第二の課
題に対しては一定の仮定を置いて販売面積を推計し、第三の課題に対してはモデルの形状を工
夫することで、それぞれ対応することとした。
なお、今回の推計結果は各国における潜在需要を推計したものであり、今後開発予定の工業団
地の想定需要を積み上げたものではない。そのため、足元の開発状況とは必ずしも整合しない。
また、推計に用いた説明変数が予測通りの推移を取らない場合、結果が大きく変化する。また、冒
頭に述べたように、工業団地のモデル構築そのものが非常に困難である(データ整備の難しさ、工
業団地需要の非連続な特性など)。さらに、今回のモデルは国をまたいで工業需要を説明すること
を目指しており、国による個別性が勘案されていないという課題がある(データの制約上、パネルデ
ータ等を用いて国ごとに分析を行うことが困難である)。特に、ミャンマーのようにこれから開発され
る国や、ロシアやポーランドのようにある程度開発される国ではモデルに相違があることも考えられ
る。
これらを踏まえ、本調査の定量分析は、あくまで一定の制約条件のもとで、目安となる想定数値
を推計する目的で行われるものである。
4.1.2. データセット
工業団地需要は、一定期間の間に販売された工業団地の面積または販売高として定義できる。
ただし、各団地で毎年販売された区画面積及び単価は公表されておらず、統計的に把握すること
は困難である。一方、工業団地の開発面積及び開発年のデータは、国によってはある程度網羅的
に入手可能なため、以下ではこれらのデータをもとに、年間需要を推計することとする。
開発された工業団地がどの程度の期間で完売するかは個別性が非常に大きいが、デベロッパ
159
ーへのヒアリングによると、一定規模(200 ヘクタール等)以上の面積の団地であれば数年程度かか
ることが一般的である。
そこで推計においては、開設から 4 年間にわたって販売が行われると仮定し、各年の販売面積
を「開発面積÷4」と定義することとする(完売まで 4 年以上かかるケースも多いものの、一般的に初
期 3~5 年程度の需要が大きいと考えられるため)。
ただし、多くの工業団地において開業年(販売開始年)と設立年(開発開始年)との区別ができ
ない、及びフェーズごとに開発された団地においては各フェーズの面積・開業(設立)年が公表さ
れていないケースも多い等の制約がある。そのため、今回の推計においては、両者を区別せずに
「開業または設立年から 4 年間」を需要の期間として考えることとする。
また、国によって、工業団地のデータが確認できる範囲が異なっているため(国によっては極め
て小規模の団地や、開発が確認できない団地等もあり、そのままでは比較が難しい)、今回は「主
要な工業団地」のみを検討対象とした。主要な工業団地として、一定面積(100 ヘクタール等)以上
であり、日系や外国企業の入居を確認できる団地を選定した(ただし、各国の個別事情により、一
部基準が異なっている場合がある)。そのため、データが比較的整備された国をサンプルとして選
び、これらのサンプル国のデータをもとに工業団地需要に関する仮説・推計ロジックを検討すると
いう手順を考える。
4.1.3. データの状況
今回の調査対象国において、データの整備状況は以下の通りである。これらのうち、タイ、インド
ネシア、ベトナム、ミャンマー、サウジアラビア、トルコ、南アの 7 カ国については、多くの主要工業
団地について面積・開設年のデータが入手可能であり、推計を行う際のサンプル国として活用が
考えられる。ただしミャンマーに関しては、ミンガラドンを除き国際的な水準の団地はないと考えら
れること、南アは団地数が 2 しかないことからサンプルから除外し、残りの 5 カ国を対象に工業団地
の開発・需要に関する仮説を検討することとする。
160
図表 87 工業団地のデータ整備状況
マクロ統計に
積み上げによる工業団地開発件数
積み上げによる工業団地開発
よる工業団地
面積
面積
総数
左記のうち、主
左記のうち、面
左記の団地総面
左記のうち、開設
要な団地
積が分かる団地
積
年が分かるもの
タイ
20,560
73
41
40
23,208
23,208
インドネシア
76,948
77
32
26
18,898
15,279
ベトナム
77,900
304
52
34
29,054
18,323
マレーシア
N/A
200
32
6
6,778
5,608
ミャンマー
N/A
59
38
37
11,341
11,117
インド
N/A
51
51
14
59477
23,466
ブラジル
N/A
66
40
19
70,179
58,448
メキシコ
N/A
260
30
5
5,884
860
トルコ
N/A
277
34
34
17,418
17,418
サウジアラビア
N/A
36
32
22
18,099
10,419
南ア
N/A
4
3
2
11,345
11,345
エジプト
N/A
127
17
5
47,422
47,422
ロシア
N/A
304
36
20
14,454
9,093
ポーランド
N/A
14
14
14
15,956
15,956
(注)面積の単位はヘクタール
(出所)各国資料より新日本有限責任監査法人整理
4.1.4. 仮説
上記の 5 カ国における工業団地開発状況は以下の通りである(上の図はオリジナルデータをグ
ラフ化したものであり、下の図は開設から 4 年間にわたり開発面積を平準化したもの)。
タイ、インドネシアにおいては 1990 年台半ば(及び 2010 年)に大型の投資が行われているのに
対し、ベトナムは 2000 年前後、トルコとサウジアラビアは 2000 年以降の投資が活発になっている。
また各国とも、これらのピーク期を除くと、工業団地の開設は低調な状況となっている。
161
図表 88 サンプル 5 カ国における工業団地開発状況の推移(オリジナルデータ)
(単位)ヘクタール
(出所)各国資料より新日本有限責任監査法人整理
開発面積を 4 年間にわたり平準化してみると(以下ではこのデータを販売面積として取り扱う)、ト
レンドがより明確化する。各団地における拡張(フェーズ別の開発)の状況は統計的に把捉できな
いものの、各国において開発のピーク期が過ぎると新規の大型開発はあまり見られなくなるため、
既存団地の拡張で需要を満たしている状況と考えられる。
図表 89 サンプル 5 カ国における工業団地開発状況の推移(4 年間にわたり開発面積を平準化したもの)
3,000
2,500
2,000
タイ
インドネシア
1,500
ベトナム
1,000
トルコ
サウジアラビア
500
0
(単位)ヘクタール
(出所)各国資料より新日本有限責任監査法人整理
162
上記の通り、工業団地開発(及び需要)には一定のブームの時期があり、その時期には数千ヘ
クタールの面積が一気に開発されるものの、ピーク時期以降は、開発自体は飽和するという状況が
伺える。これは、多くの企業が特定の数年間に進出すること(例えば、自動車産業などの投資ラッ
シュ)、及び一定の時期を過ぎると投資ラッシュが沈静化するとともに、インフラが整備され工業団
地外の立地が促されること、などが影響していると考えられる。
上記のうち、一定時期に企業立地が加速する背景としては、当該国の経済発展に対する期待が
醸成され、核となる大企業が進出し、続いてそのサプライヤー等が集積する、というサイクルが観察
されるためと考えられる。以下では、具体的にどのような指標により、このサイクルを説明することが
できるかを検討する。
4.1.5. 工業団地需要の地域別定量的推計(現状)
4.1.5.1. 説明変数の選定
工業団地需要を推計・予測するために考えられる要素として、デベロッパーへのヒアリング等をも
とに整理すると、①マクロ経済要因、②インフラ・事業環境要因、③産業・投資要因に大別される。
従って、これらに関連した統計指標を検討していくこととする。
なお③については、完全にこれらの指標が成熟されるまで待つのではなく、工業団地開発を通
じて条件を主体的に作り出していく側面もある。各国の公共系デベロッパーは、このような役割を担
っていると考えることもできる。
図表 90 工業団地需要を推計・予測するための要因
要因
①
②
③
内容
マクロ経済
内需による経済
人口規模が大きく、国民の所得水準が向上する国においては、多様な内
要因
成長
需向け産業の企業立地が促される
国際経済・産業
先進国の生産コスト上昇・競争力低下、国際分業の進展等により、有望な
要因
新興国における企業立地が促される
インフラ・
ハードインフラの
エネルギー、上下水、物流インフラ等の開発によって、輸出加工等を行う
事業環境
整備
企業の立地が促される
要因
ソフトインフラの整
法制度や各種事業環境等のソフトインフラの整備によって、企業の立地が
備
促される
低コスト・大規模
低コストで大規模な労働力を確保しうる地域においては、労働集約的な産
な労働力
業の立地が促される
産業・
大規模製造業の
自動車等の大規模製造業が進出すると、それ自身が工業団地内に立地し
投資要因
拠点立地
ない場合でも、裾野産業の立地が促される
既存の産業集積
既存の工業団地が存在し、産業集積ができている場合、新規進出の企業
にとっても近隣に立地するメリットがある
(出所)工業団地デベロッパーへのヒアリング
163
変数の選択については、上述の各要因の中から、それぞれ 1~2 程度の指標を選定することが
適切と考えられる。①マクロ経済要因に関しては、最も代表的指標である経済成長率が考えられる。
②インフラ・事業環境要因に関しては、工業団地にとって特に重要なインフラ関連の指標が考えら
れる。③産業・投資要因については、投資に関するマクロ指標などが考えられる。
下表は、上記各要因について国際比較可能なマクロデータを入手可能な指標を選定し、これら
と工業団地需要との相関を見たものである。相関係数が相対的に高いのは「総投資」、「一人あたり
電力消費増減率」、「実質 GDP 成長率の二乗」、「一人あたり電力消費量」、「一人あたり GDP」、
「先進国における輸出額/GDP」などの各変数である。これらは、①マクロ経済要因、②インフラ・事
業環境要因、③産業・投資要因のそれぞれに該当するため、モデルにこれらの変数を用いること
は適切と考えられる。
図表 91 工業団地需要を推計・予測するための経済指標(変数)候補
指標
想定される波及経路
相関係数
カテゴリー
変数
①
マクロ経済
実質 GDP 成長
経済が成長することは、投資・消費・輸出等の総合的な発
0.25
要因
率
展、及びその背景にある事業環境やインフラ等の改善を示唆
※二乗の場
し、企業の立地需要にも貢献する
一人あたり GDP
所得水準が上昇することは、内需を通じた事業機会が拡大
合は 0.38
-0.28
するため、企業立地が促される
または逆に、一人あたり GDP が高いことは、事業環境やイン
フラが整備済みであることを示唆し、工業団地内への投資ニ
ーズを縮小させる
国民総貯蓄(対
貯蓄率が向上すると、将来的な消費や投資の原資となり、内
GDP 比)
需主導の発展が促される
実質輸入成長
輸出が増えることは、その国の内需が拡大し、当該国内で生
率
産を行うニーズも増えていることを示唆するため、企業の立地
0.22
0.06
需要にも貢献する
為替レート増減
為替レートが下落すると(対米ドルレートのため、数値上は増
率
減率の上昇)、輸出競争力が増すため、企業立地が促される
先進国における
先進国の輸出が減少することは、先進国の輸出競争力の低
輸出額(対 GDP
下(為替や技術優位性等の要因による)を示唆するため、新
比)
興国への企業立地が促される
164
0.02
-0.31
指標
想定される波及経路
カテゴリー
変数
②
インフラ・
一人あたり電力
電力消費量が大きいことは、インフラが整備されてきているこ
投資環境
消費量
とを示唆し、工業団地需要を減退させる
要因
人口増減率
人口が増えるほど、生産年齢人口比率の向上を通じ、労働
相関係数
-0.32
-0.14
力及び内需を拡大させる効果があり、企業立地が促される
または、人口の増加率が高いと教育やインフラの整備が追い
つかない可能性があり、緩やかな増加率のほうが企業投資を
促しやすい
失業率
失業率が高いと、低コストで大規模な労働力を確保しやすい
-0.18
と考えられ、企業立地が促される
または逆に、失業率が高いことは経済に構造的な問題がある
ことも想定され、企業の投資意欲を減退させる
③
消費者物価増
物価上昇率が低いと、労働等のコスト増も抑制されると考えら
減率
れ、企業立地が促される
産業・
総投資(対 GDP
投資活動が活発化すると、その集積が他企業の立地を促す
投資要因
比)
等の波及効果が期待される
実質輸出成長
輸出が増えることは、一定の輸出競争力を有する産業が集
率
積してきていることを示唆し、その集積が他企業の立地を促
0.02
0.59
0.22
す等の波及効果が期待される
(注)各データの出所は、国内経済・労働・国際経済の各指標については IMF「World Economic
Outlook」(2013 年 10 月版)、インフラ指標については World Bank「World Development Indicators
2013」
モデルの構築にあたっては、上述のように一定時期にピークが立ち、その後飽和していくような
サイクルを説明できる変数を検討する必要がある。工業団地開発のピーク期は、各国において経
済成長や投資が加速している時期と重なると見られることから、説明変数としては対数や変化率等
を用いることが適切と考えられる。
①に関連する指標としては、国内経済指標である実質 GDP 成長率と、国際経済指標である先
進国の輸出額/GDP(対数)を採用する。
前者については、成長率が一定水準を超えると工業団地需要が大きく加速すると考えられること
から、二次関数を想定し、実質GDP成長率の二乗を変数として加える 36。後者については、先進国
における輸出/GDPの対数を変数として採用する。
②に関連し、インフラに関する変数である「一人あたり電力消費量」については、将来予測デー
36
なお、サンプル期間内にマイナス成長の時期が存在しているが、今回の推計は成長率プラス部分での加速を計
測することが目的であるため、マイナス成長部分については便宜的に 0 と置いた。
165
タがないため、代理変数として、同指標と相関係数の高い(0.92)「一人あたりGDP」を採用すること
とした。この指標については、絶対水準や変化率ではなく、インフラ未整備の国とある程度度整備
された国との間で需要に違いがあるかどうかを見るという目的で、ダミー変数を採用することとした。
具体的には、一人あたりGDPが 3,000 米ドルを超える場合は 1、それ以下の場合は 0 をダミー変数
として置いている。3,000 米ドルを閾値とした理由は、この所得水準に達すると、中間層が成長し、
自動車や家電等の国内消費が加速する
37
などいわゆる「中進国」入りするという点があげられる。
過去のトレンドを見ても、アジアでの工業団地開発のほとんどは、所得 3,000 ドル未満の国におい
て行われている。
また、「インフラ・事業環境」の指標の中で、インフラに加えて重要な要素である労働力に関する
指標としては、「人口変化率」を採用する。
最後に、③に関連する指標としては、総投資/GDP(対数)及び実質輸出成長率を変数として採
用することとした。
なお、上記の他に、国のビジネス環境を指標化する試みも行われている。例えば、世界銀行の
「Doing Business」調査は、「事業開始」、「建設許可」、「電力確保」、「不動産登記」など、工業団地
事業とも関連の深い項目を指標化している。ただしこれらの指標は長期での統計が得られないこと、
短期間では工業団地需要との相関があまり見られないことから、指標としての活用を見送った。
4.1.5.2. モデル
以上の検討を踏まえ、「実質 GDP 成長率の二乗」、「先進国輸出/GDP」、「中進国ダミー変数」、
「人口増加率」、「総投資/GDP」、「実質輸出成長率」の 6 指標を説明変数として採用し、重回帰分
析を行った(サンプル対象国に限りがあることから、固定効果モデル等のパネルデータ分析の手法
は用いていない)。なお、説明変数には 1 期分のラグをとった。
分析結果は下表の通りである。係数の符号の向きは相関係数と同様であり、事前の想定と整合
性のあるものであった。
37
例えば、平成 20 年版通商白書(「新たな市場創造に向けた通商国家日本の挑戦」)等を参照。
166
図表 92 工業団地需要(販売面積)の推計モデル
回帰統計
重相関 R
重決定 R2
補正 R2
標準誤差
観測数
0.63
0.40
0.37
518.35
115.00
分散分析表
自由度
回帰
残差
合計
変動
6
108
114
係数
切片
実質GDP成長率^2
先進国における輸出額/GDP(対数)
中進国ダミー変数
人口増減率
総投資/GDP(対数)
実質輸出成長率
2,281.38
4.03
-1,254.42
-60.67
-71.32
668.04
7.46
19,483,233
29,018,559
48,501,793
標準誤差
1,106.93
2.12
325.21
115.16
58.06
136.34
5.14
観測された分
散比
3,247,206
12
268,690
分散
t
0
下限 95%
P-値
2.06
1.90
-3.86
-0.53
-1.23
4.90
1.45
有意 F
0.04
0.06
0.00
0.60
0.22
0.00
0.15
87.25
-0.17
-1,899.04
-288.93
-186.42
397.79
-2.73
上限 95%
4,475.50
8.24
-609.81
167.59
43.77
938.30
17.64
下限 95.0%
87.25
-0.17
-1,899.04
-288.93
-186.42
397.79
-2.73
上限 95.0%
4,475.50
8.24
-609.81
167.59
43.77
938.30
17.64
なお、サンプル 5 カ国における工業団地販売面積の実績値と、上記モデルによる推計結果とを
比べると、下図のとおりである。
図表 93 工業団地需要(販売面積)の実績値と推計予測値との比較
4.1.6. 工業団地需要の地域別定量的推計(将来)
このモデルを用いて、対象各国における 2020 年までの工業団地需要を推計した。将来推計の
予測期間は、2014~2020 年とした。説明変数の将来値は、IMF「World Economic Outlook」の予測
値を利用した。ただし同予測は 2018 年までのため、2019・20 年については、成長率・変化率デー
タについては 2018 年の率と同様と仮定し、水準データについては過去 5 年間の平均成長率が持
167
続されると仮定した。IMF の予測は、下図のとおりである。
図表 94 経済指標の推移予測
実質GDP成長率
先進国における輸出額/GDP
タイ
8.0
40.0
インドネシア
7.0
35.0
ベトナム
マレーシア
6.0
30.0
ミャンマー
インド
5.0
25.0
ブラジル
4.0
20.0
メキシコ
トルコ
3.0
15.0
サウジアラビア
2.0
10.0
南アフリカ
エジプト
1.0
5.0
ロシア
0.0
0.0
ポーランド
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
2014
2015
2016
2017
2018
タイ
ベトナム
25,000
タイ
3.0
インドネシア
インドネシア
2.5
ベトナム
2.0
ミャンマー
マレーシア
マレーシア
ミャンマー
20,000
インド
インド
1.5
ブラジル
15,000
ブラジル
1.0
メキシコ
メキシコ
トルコ
トルコ
10,000
サウジアラビア
南アフリカ
5,000
0.5
南アフリカ
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
-0.5
ロシア
0
サウジアラビア
0.0
エジプト
2016
2017
2018
2019
ポーランド
-1.0
2020
実質輸出成長率
総投資/GDP
タイ
40.0
35.0
タイ
25.0
インドネシア
インドネシア
ベトナム
ベトナム
20.0
マレーシア
30.0
マレーシア
ミャンマー
ミャンマー
15.0
インド
25.0
インド
ブラジル
20.0
ブラジル
10.0
メキシコ
メキシコ
トルコ
15.0
トルコ
サウジアラビア
10.0
サウジアラビア
5.0
南アフリカ
エジプト
5.0
南アフリカ
エジプト
0.0
ロシア
0.0
2014
2015
ポーランド
2014
2015
2016
2017
2018
エジプト
ロシア
ポーランド
2015
2020
人口増減率
一人あたりGDP
30,000
2014
2019
2019
2020
2016
2017
2018
2019
2020
ロシア
ポーランド
-5.0
(出所)IMF「World Economic Outlook」(2013 年 10 月版)
なお、このモデルにおいては、推計結果がマイナスとなることがある。これは、説明変数のうち、
「先進国輸出/GDP」(先進国による全世界への輸出を見た変数であるため、全対象国で同一のデ
ータを利用)によって推計値が押し下げられている影響が大きい(IMF によると、先進国による輸出
は今後徐々に増えていく予測であることから、先進国輸出(対 GDP 比)成長率×係数の数値はマ
イナスとなる)。
これは経済的には撤退の需要を示していると考えられるが、現実的には工業団地で土地を購入
した入居者が撤退判断をすることは多くないと考えられる。従って、マイナスの結果について便宜
168
的に需要ゼロと考えることとする。
推計結果は以下の通りである。国別に見ると、将来需要が最も大きいのはインド、次いでミャンマ
ー、インドネシア、ベトナムという順番になっている。
図表 95 工業団地需要の推計結果(販売面積)
総計(2014~20)
年平均
インド
サウジ
タイ
ベトナム
マレーシア ミャンマー インド
ブラジル メキシコ
トルコ
南アフリカ エジプト
ロシア
ポーランド
ネシア
アラビア
1,818
2,288
901
687
2,269
2,941
-821
329
-564
395
-1,061
-2,894
834
-83
260
327
129
98
324
420
-117
47
-81
56
-152
-413
119
-12
これをもとに、工業団地需要の市場規模(金額)を予測した。上で算出した面積に対し販売単価
を乗じ、さらに累積開発面積に対し維持管理費を乗じ、両者を加算することで市場規模を求めて
いる(累計開発面積は、情報の比較的取りやすい 1990 年以降の累計とした)。
販売価格については、主要工業団地の一般的な水準が判明している場合はその数値を用い
(ただし地域差等が大きいため、工業団地の集積する地域の例から抽出した)、それ以外の場合は
一般的と考えられる 70 米ドル/㎡を用いた。また、維持管理費は、1 米ドル/㎡/年とした。また、これ
らの単価は 2020 年まで一定と仮定した(この単価と上述の 2014 年以降販売分の面積との積(2020
年までの 7 年間分)により維持管理市場規模を算出しており、2013 年以前の販売分に係る維持管
理費は含まない)。なお、日本円に換算するにあたっては、100 円/米ドルで計算した。
図表 96 各国の販売単価(米ドル/㎡)
タイ
インド
ベトナ
マレー
ミャン
ネシア
ム
シア
マー
N/A
N/A
100
170
50
インド
150
ブラジ
メキシ
ル
コ
N/A
50
トルコ
サウジア
南アフ
エジプ
ラビア
リカ
ト
N/A
N/A
N/A
N/A
ロシア
ポーラ
ンド
N/A
N/A
(出所)各国資料、ヒアリング
推計結果は以下の通りである。金額ベースでは、最大の市場はインド、次いでインドネシア、ミャ
ンマーの順番となっている。これは、インドネシアおよびインドの販売単価が相対的に高いことが影
響している。
図表 97 工業団地需要の推計結果(販売額・維持管理費)
販売額(百万円)
インドネシ
ベトナム マレーシア ミャンマー インド
ブラジル メキシコ
トルコ
ア
388,907
45,047
48,124 158,840 441,165
0
16,839
55,558
6,435
6,875
22,691
63,024
0
2,406
0
0
サウジアラ
南アフリカ エジプト
ロシア
ポーランド
ビア
27,655
0
0
58,365
745
3,951
0
0
8,338
106
7,397
1,057
インドネシ
ベトナム マレーシア ミャンマー インド
ブラジル メキシコ
トルコ
ア
9,049
4,276
2,924
8,248
11,435
0
1,210
1,293
611
418
1,178
1,634
0
173
0
0
サウジアラ
南アフリカ エジプト
ロシア
ポーランド
ビア
1,850
0
0
3,519
36
264
0
0
503
5
189,236
27,034
インドネシ
ベトナム マレーシア ミャンマー インド
ブラジル メキシコ
トルコ
ア
397,955
49,323
51,048 167,088 452,600
0
18,049
56,851
7,046
7,293
23,870
64,657
0
2,578
0
0
サウジアラ
南アフリカ エジプト
ロシア
ポーランド
ビア
29,505
0
0
61,884
781
4,215
0
0
8,841
112
タイ
総計(2014~20)
年平均
181,839
25,977
維持管理費(百万円)
タイ
総計(2014~20)
年平均
合計(百万円)
タイ
総計(2014~20)
年平均
169
4.2. 海外工業団地事業の課題整理、推進に向けた対応策検討
4.2.1. 海外工業団地事業の課題整理
これまでの調査結果に基づき、事業の各段階における課題を整理したのが下図である。各々の
課題に関しては、次項より詳述する。
図表 98 事業の各段階における課題の整理
事業企画・
ソフトマーケティ
ング
土地収用
・需要予測
・資金力
・現地パートナ
ー
・法制度
・国の収容
支援の有無
許認可
造成・
インフラ整
取得
建設
備
・取得困難
・取得にか
かる時間の
長さ
・煩雑な手
続き
・予期せぬ
コスト増、工
期延長
・各ユーティリ
ティ企業との
交渉による
割当確保
・周辺インフラ
への参画
募集(ハー
ドマーケティン
グ)
サービス・
・コア企業
の確保
・入居企業
の確保
・ワンストップサ
ービス提供
認 可 ( SEZ
認可)取得
維持管理
4.2.1.1. 事業企画・ソフトマーケティング
(1) 需要予測における課題

中長期的な需要予測の難しさ
企画段階~販売までは 10 年かかるとも言われており、息の長いビジネス。従って、今売れていると
ころにこれから事業をしようと思っても既に遅いことが多く、またなかなか売れないと思い撤退した後
に売れるケースも散見されるなど、予測が非常に難しく息の長いビジネスとの声が多く聞かれた。

筋道だった需要予測の不在
日系や現地デベロッパーの多くが、筋道だった需要予測を行って開発するというよりも、まずは開
発して顧客の入居を待つというスタンスが取られるケースが多い。一方でアセンダス等のシンガポ
ール系企業においては、独自ノウハウで将来的な需要の伸びを予測して開発地を選定していると
も言われている。
(2) 資金力における課題

出資してから回収までに時間がかかる
3.2.1.1.(1)ともからむ話となるが、土地購入時から実際に許認可を取得し造成が完了し入居企業
から回収するまでに数年の時間がかかる(入居が進まない場合はそれ以上。10 年越しのビジネス
という声もある。)点が厳しいと指摘される声が多く聞かれた。

融資調達の困難
融資による資金調達は、需要リスクの高さ等から困難であり、信用力の高い企業のコーポレート
ファイナンスの中で実施するしかない。
170
(3) 現地パートナー探しにおける課題
ヒアリングによると、金融・不動産ビジネスはどこの国でもたいてい外資規制がかかっていて、実質
的には現地企業でなければできない構造になっているとのこと。このため、現地との合弁で進出す
るケースが多い。企業によっては、新規にパートナーを探すのはたいへんであるため、既存の団地
の拡張、もしくは既存のパートナーとの第 3 国展開での工業団地ビジネスの継続を検討している先
もあった。
4.2.1.2. 土地収用における課題
(1) 民間所有の場合の土地所有において直面する困難性
一般的に、外国人の土地所有が認められていないケースが多く、また可能な際も収容の手続き面
については現地企業に任せた方が効率的との見方から、土地収用については現地企業に依頼す
るケースが一般的。通常は民間からの土地収用についてもそれほど困難ではないとされるものの、
インドのように、土地の所有者が容易に特定できない等の理由により、土地取得には困難が伴うと
ころもある。一方、ベトナムやミャンマー等、土地が国有の国については土地収用については問題
が少ないと言われている。その他、政府による土地収用が定められている国においては、政府が
収容した土地を工業団地開発業者が開発するというケースもある。
(2) 法制度の複雑性
インドにおいて顕著なように、土地取得においては、中央法・州法の双方へのコンプライアンスが
求められるうえ、膨大な行政手続きが必要となることも時間がかかる要因として指摘されている。
(3) 訴訟リスク
収用を行い何年もたってから、その土地に企業が入居し操業した後になって、元住民が政府買い
取り価格が不当に安いと訴訟を起こすケースがインドで見られており、当時の市場価格との差額に
加えてペナルティや金利を支払う話となっている。
4.2.1.3. 許認可取得における課題
(1) 許認可取得手続きが煩雑・時間がかかる
関連する政府機関が多数に渡る等、手続きが煩雑でわかりにくいうえ、実際に許認可が取得でき
るまでに時間がかかる。実際、売れている団地については、同団地を拡張することに加えて、許認
可取得の時間短縮のため、同じ地域に工業団地を建設する傾向もある。
4.2.1.4. 造成・建設における課題
(1) 予期せぬコスト増・期間延長
171
造成は入居企業待ちになるケースも多いと言われており、想定外のコスト増要因となることもあると
いう意見も聞かれた。また、新興国においては日本とは同じスケジュール感覚では進まないという
指摘もある。
4.2.1.5. インフラ整備における課題
(1) 電力・水等のユーティリティの割当確保
国内で安定供給されているタイ等の国ではほとんど問題になることはないが、電力事情が悪い国
においては、工業団地への安定した大容量の電力確保は重要。しかし実際にはカンボジアのよう
な後発開発途上国では、工業団地に対する電力会社(政府系公社)からの供給が十分ではなく頻
繁に停電するなどの事態も発生している。このように国内での電力供給に不安がある場合は、工業
団地によっては自前で発電所や自家発電装置を設ける等により対策を講じることも必要となるため、
コスト高となる。
(2) 遅延リスク・安定供給リスク
電力・水等を供給企業・公社・政府系機関と調整して確保することができずに、操業自体が遅延す
るリスクもあると指摘されている。また、入居企業の予想以上の増加等により当初計画していた割当
で間に合わないケースもある。このような観点から、大手日系企業のなかには、地元政府への交渉
力を検討要素としている企業も見られた。
4.2.1.6. 募集(ハードマーケティング)における課題
(1) コア企業の確保(特に特定産業集積型の団地の場合)
企画段階と実際の募集時との時間差により、実際の募集時に入居企業が確保できるかどうかは大
きなリスク。業種で言うと自動車産業は顧客企業の近くに集積する傾向が電気電子等他業種と比
較して高いので、自動車の組立工場の近くの団地への部品産業の集積を狙った工業団地開発の
事例も見られる。
(2) 初期入居企業の確保(特に複数産業集積型の団地の場合)
複数産業がまんべんなく入居するタイプの工業団地についても、初期段階で入居企業を一定数確
保できるかどうかにより、その後の入居動向が変わるという意見もある。即ち、既存の入居企業の進
出実績を見て、安心感を持つため、最初の数社の獲得が大事ということのようである。特に大企業
の入居があるとより安心感を与えるとのことである。
(3) 遅延リスク
団地を作ってから売れるまでに 10 年もかかるケースがあるなか、1 社でも入居企業がいれば止めら
れない。しかし入居が進まないと当初予定していた期間で資金回収できない恐れもある。
172
4.2.1.7. サービス・維持管理における課題

ワンストップサービス提供認可(SEZ 認可)取得
ワンストップサービス・SEZ 認可によるその他恩典付与等の付加的なサービス提供を行うにあたっ
ての許認可の取得。ただし、基本的にはそれほど認可における困難性があるとは聞かれていな
い。
4.2.2. 海外工業団地事業推進に向けた対応策の検討
以上の通り、海外工業団地事業においては数々の課題が存在している。そのような課題に対して、
日系デベロッパーは、現地工業団地とはハード・ソフト両面で差別化を行うことで、日系進出企業
のニーズを取り込んできた。一方で、開発当初から販売が必ずしも好調ではなく、実際に売れるよ
うになるまで数年かかる我慢のビジネスとも言われており、適切な需要予測の必要性についても認
識されている。また、土地収用や許認可等、時間がかかる等のリスクが大きいという声も多く、政府
支援への要望も大きい分野である。このような状況下で、官民の間での適切なリスク分担が行われ
ることで、我が国の海外工業団地事業が一層促進されることが期待されている。
173
4.3. 今後多くの日本企業の進出が見込まれる有望工業団地開発案件の選定
4.3.1. 今後多くの日本企業の進出が見込まれる有望国における工業団地開発案件の選定
4.3.1.1. 今後多くの日本企業の進出が見込まれる有望国の選定
前節では、今後の工業団地需要に関する推計を行い、下表の9カ国が本調査対象 14 カ国中で
の工業団地需要の高い国として抽出された。ただし、本推計結果は、日系企業に留まらず工業団
地自体の需要に関する推計であることから、今後多くの日系企業の進出が見込まれる有望国の選
定にあたっては、JBIC(2013)「我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」及び本事
業にて実施した調査において、今後の展開先として高い関心を得ていた国を活用して、有望案件
を抽出する「対象国」の絞り込みを行った。
図表 99 今後多くの日本企業の進出が見込まれる有望国の選定
推計にて抽出された国
JBIC調査
本事業調査
インド
○(2位)
○(2位)
インドネシア
○(1位)
○(1位)
ミャンマー
○(8位)
○(4位)
タイ
○(3位)
○(3位)
ベトナム
○(5位)
○(4位)
ロシア
○(9位)
-
マレーシア
-
-
メキシコ
○(7位)
○(4位)
(出所)JBIC(2013)「我が国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」等に基づき新日本有
限責任監査法人作成
以上の方針で、推計にて抽出された国のうち日系企業の関心の高い国を抽出した結果、インド、
インドネシア、ミャンマー、タイ、ベトナム、メキシコが抽出された。そこで、本項では、これら 6 カ国を
対象として有望案件の選定を行うこととした。
本項における有望案件の抽出は主に日系企業の進出ニーズの観点から行っている。デベロッ
パーの参入に当たっては、企業の進出ニーズ(顕在化したものと潜在的なものの双方)に加えて、
対象国のインフラ整備状況、ローカルデベロッパーの競合環境、既存の工業団地整備状況等の
様々な要因を考慮する必要があると考えられるが、なかでも進出企業のニーズが重要な位置づけ
を占めていると考えられる。このため、本項では進出企業のニーズを中心に分析している。
なお、デベロッパー側から見た有望地域については、次項「4.3.2. その他今後多くの日本企業
の進出が見込まれる国・地域に関する工業団地開発の考察」にて一例記載した。
次頁より、上記にて抽出した6カ国における有望工業団地案件の選定を行う。選定に当たって、
まずは各国の有望地域を選定したうえで、同地域の主な工業団地について評価を行い、有望案
件の選定を行った。
174
4.3.1.2. インド
4.3.1.2.1. 地域の選定
インドにおける日系企業集積の地域は、チェンナイ近郊(523 拠点)、ニューデリー近郊(500 拠
点)、ムンバイ近郊(397 拠点)、バンガロール近郊(299 拠点)、アーメダバード近郊(84 拠点)とな
っている。特にチェンナイ近郊はこの 2 年での進出数の伸びが著しく、2014 年 1 月にはニューデリ
ー近郊を抜いて 523 拠点とインド一の日系企業進出地となっている。
図表 100 インド各州における日系企業拠点数
600
523
500
500
454
400
397
344
300
299
277
228
200
100
84
54
0
2012年11月
ニューデリー
ムンバイ
2014年1月
アーメダバード
バンガロール
チェンナイ
(出所)インド日本商工会資料等より新日本有限責任監査法人作成
しかしながら、インドにおいては、1 社が同国内に複数拠点を展開する動きも多く、また自動車等
主要企業を中心とした企業集積が各地域において見られることから、具体的な案件の選定を行う
にあたって、特定の地域の選定を行うことはせず、チェンナイ近郊、ニューデリー近郊、ムンバイ近
郊、バンガロール近郊、アーメダバード近郊の主要 5 地域のいずれも今後の日系企業の進出先と
して有望な地域であるという位置づけとした。
一方で、地域ごとでの差として、日系企業が必要とするようなインフラがある程度整備された工業
団地については、既存の団地においては空きが厳しい地域が多々あることも確認された。特にニュ
ーデリー近郊では、日系企業が要求する団地内インフラ要件を満たすような団地では空きがほとん
どない状況となっている。また、チェンナイ近郊も、既存の優良な工業団地では空きがほとんどなく
なってきているが、日系企業の関与する工業団地を始めとして新設の動きも盛んであり、地域とし
ては新規団地により供給には当面は問題がなくなる見込みである。また、アーメダバード、バンガロ
ール近郊、ムンバイ近郊については、既存の団地でまだ空きがある状況である。
なお、地域毎のビジネス環境について比較すると下表の通りである。
175
図表 101 インドにおける地域別のビジネス環境比較
消費市場
日系企業の
工業団地
集積
の質
立地
労働力
空き状況
ニューデリー
○
○
○
○
○
△
ムンバイ
○
○
○
○
○
○
アーメダバード
○
○
○
○
○
○
バンガロール
○
○
○
○
○
○
チェンナイ
○
○
○
○
○
○
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人作成
4.3.1.2.2. 案件の選定
案件の選定時に使用する指標については、前項の進出要因分析にて抽出された項目のうち、
「周辺インフラへの近接性」「コストの低さ」「団地内インフラ」「企業(日系企業)の集積度合い」に加
えて、「工業団地内の空き状況」「面積」を採用し、以上の各項目に基づき各工業団地の評価を実
施した。
各項目の評価基準について概要を説明すると以下の通りである。
① 日系の集積度合い
工業団地入居企業の総数及び日系企業数を記載した。
② 周辺インフラへの近接性
前述のアンケート結果を勘案し、空港が 60km 圏内、及び港湾が 70km 圏内にある場合には○、
港湾しかない場合は△、空港しかない場合は▲、両方とも無い場合は×としている。なお、特に港
湾へのアクセスを重視し、案件選定にあたっては○もしくは△の団地を対象とし、▲及び×につい
ては対象外とした。
③ コストの低さ(人件費)
ワーカー(一般工職)の賃金をコストの低さを計る指標として採用し、相対的に賃金の高いバンガ
ロール及びチェンナイは×、低水準であるムンバイとアーメダバードは○とし、平均的なニューデリ
ーは△としている。
賃金の上昇率については、2010 年以降デリー地域での最低賃金が急激に上昇しており、今後も
さらに上昇していくことは避けられない状況である。
176
図表 102 各地域のワーカー(一般工職)賃金
都市
月額(米ドル)
ニューデリー
276
ムンバイ
188
アーメダバード
109~182
バンガロール
398
チェンナイ
324
(出所)JETRO
図表 103 デリー地域の1日あたりのもっとも低い未熟練労働者の最低賃金(ルピー/日)
400
300
200
100
0
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
(出所)独立行政法人労働政策研究・研修機構ホームページより新日本有限責任監査法人作成
④ コストの低さ(土地代)
平米あたりの販売価格について、大まかな価格が判明した工業団地については参考までにそ
の価格を記載した。
⑤ 団地内インフラ
工業団地内のインフラとして、電力、水、廃水処理等の設備が工業団地側で整備されている場
合に○、いずれか一つが欠けている場合は△、二つ以上整備されていない場合は×としている。
⑥ 工業団地内の空き状況
工業団地に空きがある場合、もしくは新規開発、拡張などが予定されている場合は○、空きがほ
とんど無い場合は△としている。なお、空きが全くない工業団地については、下表からは割愛した。
上記の選定方針に基づき案件選定を行った結果をまとめたのが下表である。
177
図表 104 インド工業団地評価
地域
案件名
日系の
面積
周辺イ
コスト
コスト
団地
空き
総合
集積度
(ha)
ンフラ
の低
の低
内イン
状況
評価
への近
さ(人
さ(土
フラ
接性
件費)
地代)
合い
アーメダバード
SANAND Industrial
1
1,500
△
○
$52
△
○
-
2
12,300
△
○
$13
△
○
○
Estate
アーメダバード
HALOL Expansion
Industrial Estate
アーメダバード
MUNDRA SEZ
0
13,500
○
○
$80
○
○
○
チェンナイ
SRI CITY
7
4,000
△
×
$28
○
○
○
チェンナイ
THERVOY KANDIGAI
0
320
△
×
$15
○
○
チェンナイ
IRUNGATTUKOTTAI
2
578
○
×
$32
-
△
-
チェンナイ
VALLAM VADAKAL
開発中
712
○
×
-
-
○
○
チェンナイ
ORAGADAM PhaseⅡ
用地買
246
○
×
-
-
○
○
収中
チェンナイ
Sojitz Motherson
開発中
112
○
×
-
-
○
○
チェンナイ
CHEYYAR
開発中
920
×
×
-
-
○
-
チェンナイ
Chennai
3/3
600
○
×
-
○
○
○
-
△
-
○
○
IntegratedIndustrial
Township
ニューデリー
Neemrana(日系専用)
43
926
×
△
$48
ニューデリー
Giloth(日系専用)
開発中
235
×
△
$48
ニューデリー
Chopanki/Tapukara
4
632
△
△
$58
-
△
×
ニューデリー
Mahindra World City
0
1200
△
△
$56
○
○
○
ニューデリー
Bawal
19
1346
×
△
$105
-
△
-
ニューデリー
Rohtak
4
1100
△
△
$80
-
△
-
ニューデリー
Jahjjar
0
5000
△
△
$120
-
○
○
ニューデリー
Kundli
0
409
△
△
$161
-
△
×
ニューデリー
Rai
1
300
△
△
$145
-
△
-
ニューデリー
Barli
0
132
×
△
$105
○
○
-
ニューデリー
Panipat
0
368
×
△
$105
○
○
-
バンガロール
Narsapura
2
1280
△
×
$34
-
○
-
178
地域
案件名
日系の
面積
周辺イ
コスト
コスト
団地
空き
総合
集積度
(ha)
ンフラ
の低
の低
内イン
状況
評価
への近
さ(人
さ(土
フラ
接性
件費)
地代)
400
△
×
$36
-
○
-
546
△
×
$36
-
○
-
1240
×
×
$24
-
○
-
248
△
×
$34
-
○
-
合い
バンガロール
Doddaballapura P-III
用地収
用中
バンガロール
Harohalli P-III
用地収
用中
バンガロール
バンガロール
Vasantha Narasapura
用地収
P-II, iii, iV
用中
Vemgal
用地収
用中
バンガロール
Malur P-iV
0
180
△
×
$28
×
○
-
バンガロール
Gauribidanur
開発中
240
×
×
$24
×
○
-
バンガロール
Hosur
1
800
△
×
$22
○
○
○
バンガロール
GMR Krishnagiri SEZ
開発中
1720
×
×
$34
-
○
-
ムンバイ
KASURDI
1
384
▲
○
$24
△
○
-
ムンバイ
KHED City
0
4500
△
○
$60
○
○
○
ムンバイ
SHENDRA SEZ
0
1146
△
○
$11
△
○
-
ムンバイ
MIHAN SEZ
0/55
2000
△
○
$24
○
○
○
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人作成
4.3.1.2.3. インドにおけるローカルデベロッパーの状況
インドにおいては、工業団地の数自体は多いものの、優良な工業団地の数は限られており、既存
の工業団地においても優良な工業団地には空きのないところも多い。しかし、ローカルのデベロッ
パーにはまだハード・ソフト面で日系企業の開発する工業団地のような優良な団地を開発できるレ
ベルにはまだないとされている。このため、日系のデベロッパーがインドで工業団地開発を行うこと
は、現地進出の日系企業の進出先に対するニーズを満たすうえでも有益であると考えられる。この
ため、現在日系企業が開発に従事している通り、新規参入による日系デベロッパーの参入は市場
から見るとやりやすいと言える。ただしインドにおいては、土地収用や許認可等、手続き面で難しい
点が多く存在しているため、デベロッパーにとっての工業団地開発の難易度は比較的高いと言え
る。
179
4.3.1.3. インドネシア
4.3.1.3.1. 地域の選定
地域選定にあたって使用する指標については、前項の進出要因分析にて抽出された各項目の
うち、「今後の成長性」「立地」「日系企業の集積」「工業団地の質(工業団地内インフラ)」「労働力
の確保」の5項目を活用した。さらに、地域毎の工業団地の「空き状況」についても加味した 6 項目
で見ることで、今後数年での進出余地の観点も加味して検討を行った。
インドネシア国内における日系企業の進出先を図示すると、製造業全 423 社のうち、ジャカルタ
首都特別州が 106 社(25%)、西ジャワ州が 221 社(52%)、東ジャワ州 31 社(7%)となっている。
図表 105 地域別に見た日系製造業の進出数(2010)
250
200
150
100
50
0
(出所)JBIC(2012)「インドネシアの投資環境」に基づき作成(元出典:東洋経済社「海外進出企
業総覧」)
しかし、ジャカルタ市内の工業団地においては既に空きがほとんどない状況であり、進出先を見
つけることが困難な状況となっている。一方で、日系企業が最も集積している西ジャワ州は、近年
の土地代の上昇は著しいが、ジャカルタからも近く、空きのない団地もみられるものの、まだ場所は
ある状況であり、今後数年の進出先としては引き続き注目される。消費市場としても、一大消費地
のジャカルタ近郊にあり、かつ国際港湾・国際空港へのアクセスも良好という立地にあり、労働力の
確保も容易であるため、日系の進出先の地域としては西ジャワ州は引き続き最有力である。
一方、東ジャワ州については、人口は 3,748 万人と西ジャワ州に次ぐ規模であり、さらにはインド
ネシア第二の都市スラバヤを有しており、東部経済の中心となっている。また、国際港のタンジュン
ペラク港を有しており、日系企業も 31 社進出する等、内需型・輸出型どちらの企業にとっても進出
メリットがある地域と言える。西ジャワ州の工業団地も急速に販売が進むなか、ジャカルタ近郊との
連携がそれほど必要がない場合には一考の余地のある地域と言える。
180
なお、中部ジャワ州については、消費市場から遠いこと、既存の工業団地の質が他地域と比較
して低いこと、日系企業の進出も少ないこと等から対象外とした。また、スマトラについては、バタム
島において日系企業が多く進出しているが、シンガポールへの輸出加工拠点としての位置づけに
ある。インドネシアにおいては、消費市場の大きさから将来的な内需を期待しての投資が目立つこ
とから、今回は内需向けの拠点とはならないことから対象地域からは外した。
以上のポイントについて整理したのが下表である。
図表 106 インドネシアにおける地域別のビジネス環境比較
消費市場
日系企業の
工業団地
集積
の質
立地
労働力
空き状況
ジャカルタ
○
○
○
○
○
×
西ジャワ州
○
○
○
○
○
○
東ジャワ州
○
○
○
△
○
○
中部ジャワ州
×
×
×
△
○
○
スマトラ
×
○
○
△
○
○
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人作成
4.3.1.3.2. 案件の選定
案件の選定時に使用する指標については、前項の進出要因分析にて抽出された項目のうち、
「周辺インフラへの近接性」「コストの低さ」「団地内インフラ」「企業(日系企業)の集積度合い」に加
えて、「工業団地内の空き状況」「面積」を採用し、以上の各項目に基づき各工業団地の評価を実
施した。
各項目の評価基準について概要を説明すると以下の通りである。
① 日系の集積度合い
工業団地入居企業の総数及び日系企業数を記載した。
② 周辺インフラへの近接性
前述のアンケート結果を勘案し、空港が 60km 圏内、及び港湾が 70km 圏内にある場合には○、
片方しかない場合は△、両方とも無い場合は×としている。
③ コストの低さ
インドネシアの工業団地においては、特に西ジャワ州においては販売価格はほぼ横並びである。
また、団地内のインフラについても、インドネシアでは地場の工業団地も西ジャワ州などに立地する
ところでは日系企業のニーズを満たせるような十分なインフラが整備されているところも多い。さら
181
に、現在は需要に対して供給が不足しているため、多少の品質の差ではあまり差がつかない状況
にある。
また、中長期的に見ると、企業のコストとして大きいのは人件費である。このため、本項ではコスト
の比較の指標として人件費(ワーカークラスの月額最低賃金)を採用することとした。即ち、月額最
低賃金が全国平均を下回っている州にある工業団地に原則的には○を付した。なお、前項にて選
定した地域(西ジャワ州、東ジャワ州)については、いずれも月額最低賃金が全国平均を下回って
いる。しかし、西ジャワ州については、近年賃金が急激に上昇中であり、また日系企業が集積して
いるようなブカシ県等では、州の最低賃金を大きく上回るなどの状況があることから、西ジャワ州の
工業団地については、下図においては全国平均を下回っているものの、△を付した。
図表 107 最低月額賃金(ルピア/月)(2011 年)
(出所)JBIC(2012) 「インドネシアの投資環境」
④ 団地内インフラ
工業団地内のインフラとして、電力、水、廃水処理等の設備が工業団地側で整備されている場
合に○、いずれか一つが欠けている場合は△、二つ以上整備されていない場合は×としている。
⑤ 工業団地内の空き状況
工業団地に空きがある場合、もしくは新規開発、拡張などが予定されている場合は○、空きがほ
とんど無い場合は△としている。なお、空きが全くない工業団地については、下表からは割愛した。
182
上記の選定方針に基づき選定を行った結果をまとめたのが下表である。「総合評価」欄に○を
付した工業団地については、団地内のインフラも十分に整備されており、また立地面でも利便性が
高く、空きも十分にある団地を選定している。コストについては、西ジャワ州の工業団地のほうが東
ジャワ州の工業団地より高いものの、西ジャワ州では周辺に日系を始めとした企業の集積が見られ
ることから、顧客への近接性において優位性があるため、総合評価においてはコストが△の団地に
ついても選定を行っている。
図表 108 インドネシア工業団地評価
案件名
日系の集
面積
積度合い
周辺イン
コストの
団地内
工業団地
総合評
フラへの
低さ
インフラ
内の空き
価
近接性
Krakatau Industrial Estate -
状況
4/84
700ha
○
△
○
○
○
8/190
1050ha
▲
△
○
○
-
110/1500
1570ha
○
△
○
△
-
建設中
1000ha
○
△
○
◎
○
MM2100 Industrial Town
117/171
955ha
○
△
○
△
-
East Jakarta Industrial Park
75/98
320ha
○
△
○
△
-
71/110
1139ha
△
△
○
○
○
28/75
1400ha
△
△
○
○
○
1300ha
○
△
○
○
○
20/500
1000ha
○
△
○
○
○
51/85
2000ha
×
△
○
○
-
0/300
245ha
○
○
○
○
-
2/2 以上
500ha
○
○
○
○
○
Cilegon
Modern Cikande Industrial
Estate
Jababeka Industrial Park
Cikarang
Jababeka Industrial Park
Cilegon
(EJIP)
Karawang International
Industrial City (KIIC)
Suryacipta City of Industry
Greenland International
Industrial Center
Lippo Cikarang Industrial
Park
Kota Bukit Indah Industrial
City
Surabaya Industrial Estate
Rungkut
Pasuruan Industrial Estate
Rembang(PIER)
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人作成
183
4.3.1.3.3. インドネシアにおけるローカルデベロッパーの状況
インドネシアにおいては、工業団地ニーズも高く空きが少なくなってきている状況である。係る状
況下、日系だけではなくローカルの工業団地も販売は好調であり、多くの日系企業もローカルの工
業団地に入居している。実際、日系工業団地とローカルの工業団地との差はほぼなくなっていると
言われており、価格的にもローカル工業団地と日系の団地とでほとんど差がない状態となっている。
従って、既進出デベロッパーによる既存の工業団地の拡張という形での事業拡大があったとしても、
新規のデベロッパーがこれから入る市場としては、難しい可能性がある。
4.3.1.4. タイ
4.3.1.4.1. 地域の選定
タイにおいて、日系企業の多くは東部臨海地域(ラヨン、チョンブリ)及び中部地域(アユタヤ)に
進出している。また、これら東部臨海地域、中部地域には、タイの有力な工業団地も数多くある。
しかしながら、中部アユタヤ地域は、先般の洪水被害以降、新規の企業の入居は増えてはいな
いのが実態である。他方で、東部臨海地域は、自動車産業の集積地でもあるが、その他の産業も
含めて入居は活発であり、同地域に立地する工業団地では拡張を繰り返すものの拡張した土地を
販売するとすぐに埋まるような状況が続いている。東部臨海地域に進出する企業としては、新規企
業の入居に加えて、中部地域に進出している企業のリスク分散を目的とした東部臨海地域への進
出も見られるようであるが、人件費等コストがかなり割高であることもあり、あまり多くはないと言われ
ている。実際、東部臨海地域への人気集中に伴い、同地域での土地代及び人件費は高騰してい
る。このため、東部臨海地域への進出はコスト高となる傾向がある。また、既存の団地には空きがな
く、拡張を待つ状況のため、進出までに時間がかかるという難点もある。
このような状況下、近年タイ国内で新たに工業団地開発が進んでいるのが、東部のプラチンブリ
である。ハイテク工業団地、ロジャナ工業団地等が、同地域に工業団地を展開している。プラチン
ブリは、バンコク、アユタヤ、レムチャバン港のいずれも車で 2 時間圏内にあるため、立地的にも悪
くないうえ、カンボジア国境の街のポイペトまでも 1 時間の立地であり、タイ+1として周辺国へのア
クセスも見据えた立地であるとも言える。
以上のような現状に鑑み、今回は既に自動車産業を中心とした産業集積があり、今後も引き続き
日系企業の集積が見込まれる東南部地域、新たに開発の進んでいる東部プラチンブリ地域を対
象として案件の選定を行った。
以上のポイントについて整理したのが下表である。
184
図表 109 タイにおける地域別のビジネス環境比較
消費市場
日系企業の
工業団地
集積
の質
立地
労働力
空き状況
中部アユタヤ
○
○
○
○
○
○
東部臨海地域
○
○
○
○
△
△
東部プラチンブリ
△
△
○
△
○
○
4.3.1.4.2. 案件の選定
案件の選定時に使用する指標については、前項の進出要因分析にて抽出された項目のうち、
「周辺インフラへの近接性」「コストの低さ」「団地内インフラ」「企業(日系企業)の集積度合い」に加
えて、「工業団地内の空き状況」「面積」を採用し、以上の各項目に基づき各工業団地の評価を実
施した。
各項目の評価基準について概要を説明すると以下の通りである。
① 日系の集積度合い
工業団地入居企業の総数及び日系企業数を記載した。
② 周辺インフラへの近接性
前述のアンケート結果を勘案し、空港が 60km 圏内、及び港湾が 70km 圏内にある場合には○、
港湾しかない場合は△、空港しかない場合は▲、両方とも無い場合は×としている。なお、特に港
湾へのアクセスを重視し、案件選定にあたっては○もしくは△の団地を対象とし、▲及び×につい
ては対象外とした。
③ コストの低さ(人件費)
ワーカー(一般工職)の賃金をコストの低さを計る指標として採用した。タイでは地域別の最低賃
金が定められており、東南部のチョンブリ(273 バーツ/日)、ラヨン(264 バーツ/日)は比較的高く、
東部のプラチンブリ(255 バーツ/日)は比較的低くなっている。そこで、賃金の高い東南部は×、
東部を○とした。
④ コストの低さ(土地代)
平米あたりの販売価格について、大まかな価格が判明した工業団地については参考までにそ
の価格を記載した。
⑤ 団地内インフラ
工業団地内のインフラとして、電力、水、廃水処理等の設備が工業団地側で整備されている場
合に○、いずれか一つが欠けている場合は△、二つ以上整備されていない場合は×としている。
185
⑥ 工業団地内の空き状況
工業団地に空きがある場合、もしくは新規開発、拡張などが予定されている場合は○、空きがほ
とんど無い場合は△としている。なお、空きが全くない工業団地については、下表からは割愛した。
上記の選定方針に基づき案件選定を行った結果をまとめたのが下表である。
図表 110
案件名
日系の
面
集積度
(ha)
合い
Amata Nakorn Industrial
積
タイ工業団地評価
周辺イ
コ ス ト
コスト
団地内
工業団
総 合
ンフラ
の低さ
の低さ
インフラ
地内の
評価
へ の近
( 人 件
(土地
空き状
接性
費)
代)
況
360/600
2,400
○
×
$87
○
△
○
Pinthong Industrial Estate
13/44
162
△
×
-
○
○
-
Hemaraj Chonburi Industrial
8/34
2757
△
×
$38
○
○
○
10/
1634
×
×
-
○
○
-
Siam Eastern industrial Park
2/
214
△
×
$64
○
○
○
Padaeng Industrial Estate
2/
86
×
×
-
△
○
-
Eastern Seaboard Industrial
100/220
1287
△
×
$50
○
○
○
7/
1134
△
×
$96
○
○
○
Rayong Industrial Land
5/16
568
△
×
-
○
○
Rojana Industrial Park
6/13
430
△
×
$29
○
○
○
Asia Industrial Estate
4/8
398
△
×
$93
○
○
○
IPP Industrial Park
3/6
80
△
×
-
○
○
-
Hemaraj Eastern Seaboard
16/26
408
△
×
$50
○
○
○
Kabinburi Industrial Zone
19/70
368
×
○
$28
○
○
○
304 Industrial Park
34/88
2000
×
○
$33
○
○
○
Estate
Estate (Hemaraj CIE)
Map Ta Phut Industrial
Estate
Estate(Rayong)
Eastern Industrial Estate
(Map Ta Phut)
(Rayong)
Industrial Estate (Hemaraj
ESIE)
186
案件名
日系の
面
集積度
(ha)
合い
HI-TECH KABIN
1/17
172
積
周辺イ
コ ス ト
コスト
団地内
工業団
総 合
ンフラ
の低さ
の低さ
インフラ
地内の
評価
へ の近
( 人 件
(土地
空き状
接性
費)
代)
況
×
○
-
○
○
○
×
○
-
○
○
○
INDUSTRIAL PARK
Rojana Prachinburi
開発中
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人作成
4.3.1.4.3. タイにおけるローカルデベロッパーの状況
タイにおいては、アマタやロジャナ、ヘマラート等、ローカルの工業団地事業者にも日系企業が
多く集積するような優良な工業団地開発を多く手掛けている企業が存在している。これらの工業団
地では、インフラ面でも日系のデベロッパーと遜色がなく、また日本人を常駐させている工業団地
も多くある等、ハード面だけではなくソフト面においても競争力のあるサービスを提供している。また、
タイでは、工業団地外においても電力供給等のインフラ面での問題がほとんどないため、自力で
団地外に立地する企業も多い。このため、日系デベロッパーが新規で工業団地開発を行う際の差
別化は難しい市場であると考えられる。
4.3.1.5. ベトナム
4.3.1.5.1. 地域の選定
ベトナムにおける日系企業の集積状況についてみるために、同国の地域別の日本商工会への
登録数でみると、ホーチミン日本商工会(南部)が継続して多く、続いてベトナム日本商工会(北
部)、ダナン日本商工会(中部)となっている。特に近年は北部への進出が増加し、南部に迫る会
員数となっていることが分かる。一方で、新たに中部に進出する動きもでているものの、近年の伸
びは北部・南部に比べるとやや鈍い。
187
図表 111 ベトナムにおける地域別の日系企業集積状況
(出所) JBIC(2012) 「ベトナムの投資環境」
このように、ベトナムにおいて順調に企業の集積が進んだ結果、ベトナムでは全国的に労働力の
確保が難しい状況が発生している。特に都市部では難しいため、近隣へのリクルート活動を行うケ
ースが増えている。また、工業団地の空き状況も、日系の工業団地では厳しく、また南部の工業団
地において空きが少なくなっている。この点、北部、中部の方が団地の空きには余裕がある。
以上の点を鑑みると、労働力の確保が懸念として残るものの、数年以内という範囲内ではベトナ
ムへの日系企業の進出はまだまだ増えることが予測される。地域的には、企業の集積している南
部と北部が引き続き中心になると思われる。このため、案件選定においては、北部・南部の工業団
地を対象とした。
以下のポイントについて整理したのが下表である。
図表 112 ベトナムにおける地域別のビジネス環境比較
消費市場
日系企業の
工業団地
集積
の質
立地
労働力
空き状況
北部
○
○
○
○
△
○
中部
△
△
△
△
△
△
南部
○
○
○
○
△
△
4.3.1.5.2. 案件の選定
案件の選定時に使用する指標については、前項の進出要因分析にて抽出された項目のうち、
「周辺インフラへの近接性」「コストの低さ」「団地内インフラ」「企業(日系企業)の集積度合い」に加
えて、「工業団地内の空き状況」「面積」を採用し、以上の各項目に基づき各工業団地の評価を実
施した。
188
各項目の評価基準について概要を説明すると以下の通りである。
① 日系の集積度合い
工業団地入居企業の総数及び日系企業数を記載した。
② 周辺インフラへの近接性
前述のアンケート結果を勘案し、空港が 60km 圏内、及び港湾が 70km 圏内にある場合には○、
港湾しかない場合は△、空港しかない場合は▲、両方とも無い場合は×としている。なお、特に港
湾へのアクセスを重視し、案件選定にあたっては○もしくは△の団地を対象とし、▲及び×につい
ては対象外とした。
③ コストの低さ
ワーカー(一般工職)の賃金をコストの低さを計る指標として採用した。ベトナムでは地域別の最
低賃金が定められており、特に北部・南部の都市部が高いものの、郊外に行くと賃金は下がる傾向
にある。そこで、もっとも賃金の高い北部・南部の都市部は×、近郊部を△、その他地区を○とし
た。
図表 113
地域別賃金表
都市
法定最低賃金
月額(米ドル)
北部(ハノイ市)
78
北部(ハノイ市郡部、ハイフォン市)
68
北部(ハノイ市郊外、ハイフォン市郡部)
59
北部(その他)
55
中部(ダナン)
59
南部(ホーチミン市:エリア 1)
78
南部(ホーチミン市郊外等エリア2)
68
南部(エリア3)
59
南部(エリア4)
55
出所:JBIC(2012) 「ベトナムの投資環境」
④ コストの低さ(土地代)
平米あたりの販売価格について、大まかな価格が判明した工業団地については参考までにそ
の価格を記載した。
⑤ 団地内インフラ
189
工業団地内のインフラとして、電力、水、廃水処理等の設備が工業団地側で整備されている場
合に○、いずれか一つが欠けている場合は△、二つ以上整備されていない場合は×としている。
⑥ 工業団地内の空き状況
工業団地に空きがある場合、もしくは新規開発、拡張などが予定されている場合は○、空きがほ
とんど無い場合は△としている。なお、空きが全くない工業団地については、下表からは割愛した。
上記の選定方針に基づき案件選定を行った結果をまとめたのが下表である。
図表 114
案件名
日系の
面
集積度
(ha)
合い
積
ベトナム工業団地評価
周辺イ
コ ス ト
コスト
団地内
工業団
総合評
ン フ ラ
の低さ
の低さ
イ ン フ
地内の
価
への近
( 人 件
(土地
ラ
空き状
接性
費)
代)
況
Noi Bai Industrial Zone
25/40
114
▲
△
$150
○
○
-
Hoa Lac Hi-Tech park
3/54
1586
▲
△
$60
○
○
-
Thang Long Industrial Park II
39/40
346
▲
△
-
○
○
-
VSIP Bac Ninh Industrial
15/34
500
▲
○
-
○
○
-
Que Vo I Industrial Zone
11/63
640
▲
○
-
○
○
-
Yen Phong Industrial Zone
3/31
665
▲
○
$40
○
○
-
Dai An Industrial Zone
6/40
603
△
○
$85
○
○
○
Tan Truong Industrial Zone
23/27
240
△
○
$62
○
○
○
Dong Van 2 Industrial Zone
23/31
360
▲
○
$75
○
○
-
Dinh Vu Industrial Zone
9/35
1463
○
△
$90
○
○
○
Do Son Industrial Zone
2/22
150
○
△
$65
○
○
○
Pho Noi A Industrial Zone
13/89
600
○
○
-
○
○
○
Dinh Tram Industrial Zone
7/68
127
▲
○
$35
○
○
-
Tan Thuan EPZ
63/165
300
○
△
$108
○
△
-
Linh Trung Ⅲ EPZ & IP
3/128
202
○
△
$40
○
○
○
Vinh Loc IZ
1/31
207
○
△
-
○
○
○
Quan Trung Software City
9/102
43
○
△
-
○
○
-
Saigon Hi-Tech Park
5/61
913
○
△
-
○
○
○
AMATA IZ
49/113
700
○
△
$40
○
○
○
Nhon Trach III IZ
2/52
446
○
△
-
○
○
○
Zone
(DVIZ)
190
案件名
日系の
面
集積度
(ha)
合い
Vietnam
-
Singapore
積
周辺イ
コ ス ト
コスト
団地内
工業団
総合評
ン フ ラ
の低さ
の低さ
イ ン フ
地内の
価
への近
( 人 件
(土地
ラ
空き状
接性
費)
代)
況
33/175
500
○
△
$50
○
○
○
Nam Tan Uyen IZ
1/27
26
○
△
-
○
○
-
ミーフック工業団地(MPIP)
41/380
6000
○
△
$45
○
○
○
Dong An ⅡIZ
4/109
235
○
△
$50
○
○
○
Long Hau Industrial Park
23/94
1836
○
○
-
○
○
○
Tra Noc Industrial Park(チャ
1/119
300
○
○
-
○
△
-
Industrial ParkⅡ
ーノック I、II 工業団地)
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人作成
4.3.1.5.3. ベトナムにおけるローカルデベロッパーの状況
ベトナムにおいては、ローカルの工業団地も多く存在しているものの、ハード面・ソフト面において、
日系企業やシンガポール企業等の海外企業の開発する工業団地とは差があり、それが価格的な
差にも繋がっている。このため、日系等海外デベロッパーは、ベトナムにおいて工業団地事業を行
う上で優位性を発揮することが可能である。なお、ベトナムには、タイのアマタコーポレーションも工
業団地開発・運営を行っており、日本、シンガポール、タイ等の外資の工業団地開発が盛んであ
る。
4.3.1.6. メキシコ
4.3.1.6.1. 地域の選定
メキシコの工業エリアは全国複数の地域にわかれているが、日本企業の進出が多いのは、メキ
シコシティ周辺(ケレタロ州)、バヒオ及び周辺地域(グアナフアト州、アグアスカリエンテス州)、国
境地帯(バハ・カリフォルニア州など)である。特にバヒオ及び周辺地域には日系自動車産業の集
積が進んでいるため、これらの地域を優先的に選定することとする。
4.3.1.6.2. 案件の選定
案件の選定時に使用する指標については、前項の進出要因分析にて抽出された項目のうち、
「企業(日系企業)の集積度合い」「周辺インフラへの近接性」「コストの低さ」「団地内インフラ」に加
えて、「工業団地内の空き状況」を採用し、以上の各項目に基づき各工業団地の評価を実施した。
各項目の評価基準について概要を説明すると以下の通りである。
191
① 日系の集積度合い
工業団地入居企業の総数及び日系企業数を記載した。
② 周辺インフラへの近接性
前述のアンケート結果を勘案し、空港が 60km 圏内、及び港湾が 70km 圏内にある場合には○、
港湾しかない場合は△、空港しかない場合は▲、両方とも無い場合は×としている。
③ 米国への陸路での接続性
一方で、メキシコは陸路で米国と接続しているという優位性を備えていることから、国境付近の工
業団地は○、国境から比較的遠くであっても主要な国道などの物流網が整っており、米国への接
続性がよい場所は△、それ以外は×とした。
④ コストの低さ
メキシコにおける最低賃金は 2001 年以降徐々に上昇し、2012 年には日給が 60.50 ペソ(約 454
円)まで至っている。最低賃金は低いものの、各地域のワーカー(一般工職)賃金を見てみると、比
較的高い傾向にあり、コストの低さというメリットは大きいとは言えない状況にある。
図表 115 最低賃金と消費者物価指数の推移
(出所)JETRO 「変化する中南米の労働・雇用環境」
192
図表 116 各地域のワーカー(一般工職)賃金
都市
月額(米ドル)
ティファナ
331.75~551.65
メキシコシティ
285.50~431.95
モンテレー
284.32~445.42
アグアスカリエンテス
258.33~391.40
ケレタロ
281.81~704.53
(出所)JETRO
また、各工業団地の販売価格についてみると、下記の通りであり、日系企業の集積が進むバ
ヒオ及び周辺地域は中程度の水準である。今後集積が進むとともに価格上昇はが予想されるもの
の、東南アジア比では依然として低水準であり、日本企業にとっては進出の魅力度が高い。
図表 117 各都市の工業団地販売価格
都市
US ドル/㎡
アグアスカリエンテス
40~45
グアナファト
32~46
ケレタロ
60~67
ヌエボレオン
32~90
ハリスコ
33~75
サン・ルイス・ポトシ
25~50
(出所)各種資料より新日本有限責任監査法人作成
よって、ケレタロについては、ワーカー(一般工職)賃金も各工業団地の販売価格も比較的高い
ため△とし、その他の地域については他国との競争力もあることから○とした。
⑤ 団地内インフラ
工業団地内のインフラとして、電力、水、廃水処理等の設備が工業団地側で整備されている場
合に○、いずれか一つが欠けている場合は△、二つ以上整備されていない場合は×としている。
⑥ 工業団地内の空き状況
工業団地に空きがある場合、もしくは新規開発、拡張などが予定されている場合は○、空きが無
い場合、もしくはほぼ無い場合は×としている。
193
上記の選定方針に基づき案件選定を行った結果をまとめたのが下表である。メキシコは陸路で
の米国および主要港湾への輸送が比較的スムースに行えることから、②以外の項目を中心に評価
を行った。
図表 118 メキシコ工業団地評価
地域
アグアスカ
案件名
FINSA Aguascalientes
リエンテス
日系
面積
周辺イ
米国へ
コスト
団地
空き
総合評
の集
(ha)
ンフラ
の陸路
の低さ
内イ
状況
価
積度
への近
での接
合い
接性
続性
▲
△
○
○
-
○
▲
△
○
-
-
○
▲
△
○
○
-
▲
△
○
○
-
○
▲
△
○
○
○
○
▲
△
○
○
×
-
▲
△
○
-
×
-
▲
△
○
-
×
-
▲
△
○
-
○
○
▲
△
△
○
-
-
▲
△
△
○
○
-
○
○
○
○
○
-
3/3
ンフラ
131
以上
アグアスカ
Parque Industrial del
3/3
リエンテス
Valle de Aguascalientes
以上
コルドバ
Parque Industrial de San
3/3
Francisco
以上
グアナファ
Parque Tecno Industrial
5/30
ト
Castro del Río
グアナファ
NOVOPARK
2/22
183.70
270
2.2ha
ト
グアナファ
Parque Industrial Amistad
ト
Bajio
グアナファ
Parque Industrial Santa
ト
Fe I
7/10
8/23
74.79
フェー
ズ合計
で 650
グアナファ
Parque Industrial Santa
ト
Fe II
14/25
フェー
ズ合計
で 650
グアナファ
Parque Industrial Santa
ト
Fe IV
2/6
フェー
ズ合計
で 650
ケレタロ
Parque Industrial
3/117
680
Querétaro
ケレタロ
FINSA Queretaro
100.66
1/20
バハ・カル
FINSA Tijuana
1/15
34.6
フォルニア
194
地域
案件名
バハ・カル
Parque Industrial El Vigia
フォルニア
I
バハ・カル
Parque Industrial Las
フォルニア
Californias
バハ・カル
Parque Industrial Mexicali
フォルニア
I
バハ・カル
Parque Industrial Mexicali
フォルニア
IV
バハ・カル
Tijuana Otay Industrial
フォルニア
Center
連邦区
FINSA Iztapalapa
連邦区
Apodaca Technology
日系
面積
周辺イ
米国へ
コスト
団地
空き
総合評
の集
(ha)
ンフラ
の陸路
の低さ
内イ
状況
価
積度
への近
での接
合い
接性
続性
▲
○
○
○
-
-
▲
○
○
○
○
-
▲
○
○
○
-
-
▲
○
○
○
-
-
○
○
○
-
-
-
▲
△
○
-
-
-
▲
△
○
○
-
-
▲
△
○
○
○
-
▲
△
○
○
○
-
▲
△
○
-
-
-
▲
○
○
○
-
-
▲
○
○
-
-
-
▲
△
○
○
-
-
▲
△
○
○
-
-
▲
○
○
○
-
-
×
△
○
○
-
-
1/13
1/22
1/16
2/9
ンフラ
17.4
20.4
41.16
52.54
1/11
1/27
1/11
35
11.641
Park
ヌエボレオ
FINSA Guadalupe
3/14
140
ン
ヌエボレオ
FINSA Monterrey
2/22
ン
(Apodaca)
ヌエボレオ
Parque Industrial la Silla
3/3
ン
Apodaca
以上
チワワ
Parque Industrial Aero
1/34
86
174
Juárez
チワワ
チワワ
コアウイラ
Parque Industrial Antonio
2/2
J. Bermudez
以上
Supra Industrial Park
2/4
Parque Industrial
1/23
48.51
44.58
Amistad Ramos Arizpe
コアウイラ
Parque Industrial Amistad
2/21
164.6
Acuña
イタルゴ
Parque Industrial
1/13
169
Atitalaquia
195
地域
案件名
サン・ルイ
Parque Industrial
ス・ポトシ
Millennium
サン・ルイ
WTC Industrial
日系
面積
周辺イ
米国へ
コスト
団地
空き
総合評
の集
(ha)
ンフラ
の陸路
の低さ
内イ
状況
価
積度
への近
での接
合い
接性
続性
▲
△
○
○
-
-
▲
△
○
○
-
-
○
×
○
○
-
-
▲
○
○
○
-
-
▲
○
○
○
○
-
▲
○
○
○
○
-
▲
○
○
○
○
-
▲
○
○
-
-
-
1/23
3/22
ンフラ
85
300
ス・ポトシ
タマウリパ
Administracion Portuaria
ス
Integral de Altamira
タマウリパ
Del Norte Industrial
ス
Center
タマウリパ
FINSA Nuevo Laredo
1/56
3/5
1/14
2044
2
56
ス
タマウリパ
Oradel Industrial Center
2/10
978
ス
タマウリパ
Parque Industrial Del
ス
Norte
タマウリパ
Reynosa Industrial
ス
Center
4/43
317
1/12
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人作成
4.3.1.6.3. メキシコにおけるローカルデベロッパーの状況
メキシコにおいては、ローカルの工業団地が数多く存在しており、さらに外資を含む多様なプレイ
ヤーが参入している。インフラについても一定水準は確保されている等、既存のローカル工業団地
は一定の水準を保っていると言える。一方で、ローカルの事業者から見ると、分譲を主体とする大
規模工業団地の経営にはリスクが高く、資金力や経営ノウハウの面で日系デベロッパーが協力す
る余地は存在していると考えられる。
4.3.1.7. ミャンマー
4.3.1.7.1. 案件の選定
ミャンマーについては、既存の工業団地においては、日系企業の必要とする団地内インフラ要
件を満たしている工業団地が、ヤンゴンのミンガラドン工業団地 1 カ所しか存在していない。しかし、
ミンガラドン工業団地は既に満杯である。その他の既存の工業団地については、団地内インフラに
ついて国際的な標準を満たせる団地がないことから、これらのローカル工業団地に対する日系企
196
業の進出が一部見られるものの、多くの日系企業が集積できる環境にはない。
そこで、現在我が国が日系デベロッパー3 社とともに推進しているティラワ経済特区は、日系企業
の将来的な進出先として大きな注目を集めている。ミャンマーについては、既存の計画において、
日系企業が集積する可能性のある工業団地として、ティラワ経済特区は現時点では唯一の工業団
地であると言える。
図表 119
案件名
ティラワ SEZ
日系の集
積度合い
開発中
ミャンマー工業団地評価
面積
(ha)
周辺イン
フラへの
近接性
コストの
低さ
団地内
インフラ
○
○
○
2,400
工業団
地内の
空き状
況
○
総合評
価
○
(出所)各種資料に基づき新日本有限責任監査法人作成
4.3.1.7.2. ミャンマーにおけるローカルデベロッパーの状況
ミャンマーにおいては、ローカルの工業団地も存在しているものの、ハード面・ソフト面において、
海外企業の開発する工業団地とは差がある状況である。このため、日系等海外デベロッパーは、ミ
ャンマーにおいて工業団地事業を行う上で優位性を発揮することが可能であり、我が国が推進し
ているティラワ SEZ を始めとして、日系企業やその他海外企業によるミャンマーでの工業団地開発
について模索する動きが盛んである。
197
4.3.2. その他今後多くの日本企業の進出が見込まれる国・地域に関する工業団地開発の考察
4.3.2.1. タイ+1による影響
前項に記載したとおり、JBIC(2013)の「我が国製造業の海外事業展開に関する調査報告」及び
本事業にて実施した日系製造業に対する今後の展開拠点に関するアンケート調査のいずれにお
いても、タイへの関心は高かった。タイには ASEAN の中でも早くから日系企業の集積が行われてき
たが、現在でも引き続き強い関心があることが確認された形となった。
一方で、当法人が実施したタイ現地調査においては、同国での最低賃金引き上げの影響
38
から、
人件費増がコスト高に繋がっており、日系製造業にとっても厳しい状況にあることが確認された。特
に労働集約的産業にとっては痛手であり、企業によっては労働集約的な工程を、より人件費の安
い国に移管させることを検討しているという声が聞かれた。また、同国では、アユタヤ地域での洪水
被害の教訓から、生産拠点についても数カ所設置しリスクを分散する動きも見られており、この観
点からも近隣国も含めた分業体制を進めていきたいという声が聞かれた。
このような、「タイ+1」の動きであるが、現地ヒアリングによると、タイとのオペレーションの連携の
観点から、タイから「一歩だけ」出た近隣国の国境沿い地域が注目されている。即ち、カンボジア、
ラオス、ミャンマーの 3 国のタイ国境地帯が、進出先として注目をされている。しかしながらこれらの
地域では、まだ日系企業のニーズを満たせるようなインフラの整備された工業団地が必ずしも整備
されていないことから、今後新たに工業団地開発を行うことで潜在的なニーズを獲得していくことが
可能になると考えられる。
図表 120 タイ国境沿いの既存の SEZ の状況
国名
地域
現在の状況
カンボジア
ポイペト
工業団地が 1 か所ある(ポイペト SEZ)ものの、工業団地までのア
クセス道路の整備状況も悪く、インフラ整備もされていない。
カンボジア
コッコン
工業団地が 1 か所ある(コッコン SEZ)。電力はタイからの供給で
あり、安定した電力供給が可能。廃水処理施設はないが、現地
財閥企業が運営会社であり、団地内は整備されている。
ラオス
サバナケット
PPSEZ 社がサバナケット SEZ の運営に入っており、同 SEZ には
日系企業も入居する等、特にタイにて稼働中の企業の業務移
管先として期待されている。
ミャンマー
ティキ
タイ・アマタ社が、タイ国境沿いのティキにて工業団地開発を行
う方針を表明している。
(出所)各種情報に基づき新日本有限責任監査法人作成
タイ周辺国の人件費について、ミャンマー、ラオス、カンボジアはいずれもタイよりも半分以下の
人件費であり、ミャンマーにいたっては、タイの 6 分の 1 以下の水準である。
38
タイ政府は 2013 年に全国一律で最低賃金を 1 日あたり 300 バーツまで引き上げている。
198
図表 121 タイ周辺国のワーカーの月額賃金比較
ワーカー(一般工職)の月額賃金(米ドル)
0
50
100
150
200
250
300
350
400
345
バンコク(タイ)
132
ビエンチャン(ラオス)
74
プノンペン(カンボジア)
53
ヤンゴン(ミャンマー)
(出所)ジェトロ資料より新日本有限責任監査法人作成
さらに、これらの国が属する地域は、東西経済回廊、南部経済回廊の整備が進められているとこ
ろである。物流面が整うことにより、今後一層タイ国境付近への進出が見込まれるといえる。
実際にタイに拠点を有する企業が、タイとカンボジアとの国境であるポイペト地域やコッコン地域、
タイとラオスとの国境であるサバナケート地域に展開を始めている。カンボジアとラオスについては、
マザー工場があるタイを中心に、電気代が安いラオスと、労働力が確保しやすいカンボジアで住み
分けがなされつつある。特にタイとの国境付近ではタイ語が通じる場所も多く、タイで育てた管理職
人材をそのまま移管することも可能である。
図表 122 タイとの物流網
東西経済回廊
南部経済回廊
出所:ADB 資料、Google Map より新日本有限責任監査法人作成
199
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