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自動車レーダの基礎

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自動車レーダの基礎
自動車レーダの基礎
Introduction of Automotive Radars
桐本
哲郎
Tetsuo Kirimoto
電気通信大学
The University of Electro- Communications
〒182-8585 東京都調布市調布ヶ丘 1-5-1
TEL&FAX
: 042-443-5175
E-mail : [email protected]
Abstract
Millimeter-wave automotive radars finally enter a phase of practical applications.
Automobiles can keep the regular vehicular gap with radar data to avoid collisions. This
session gives a basic and consistent explanation of the principle and mechanism of
millimeter-wave automotive radars from the following view points: (1) General principle
of radars, (2) Frequency design, (3) Waveform design, (4) Signal processing, (5) Antennas.
1.まえがき
肉眼では直接見えない離れた場所の様子を感
じ知る能力を身につけることは人類普遍の願望
である.
「レーダ:RADAR[1],[2](Radio Detection
And Ranging」は電波を使って,まさにこの願望
を具現化した人類の大発明であろう.この発明
は不断の努力によって高度化され,今や昼夜・
天候に関係なく大空の果てから大地の下までを
も見通せるまで進化した.レーダは航法管制[3],
地球観測,気象観測等のリモートセンシング
[4],[5],地中埋設物の検出[6],移動体の速度計
測,障害物検出など多くの分野で活用され,現
代社会に深く浸透している.
レーダの動作原理を支える「波長程度以上の
大きさを持つ物体は電波を反射する」という物
理現象は,1886 年に Hertz が行った一連の実験
の中で示されており,人類がレーダを創造する
芽をここに見いだすことができる.1925 年,パ
ルス電波を用いて電離層の高度を計測する実験
が Breit と Tuve らによって行われ,この実験の
成功を契機に欧米諸国が一斉にレーダの開発に
乗り出した.1935 年,英国の National Physical
Laboratory の Watson-Watt らによって最初の実
験レーダが開発され,パルス電波を使って初め
て飛行機の探知に成功した.1941 年春には,米
国の Radiation Laboratory は最初のマイクロ波レ
ーダの開発に成功し,これを用いて海上の艦船
を有効に探知できることを示した.このマイク
ロ波レーダには,表示器として PPI
(Plan Position
Indicator)が装備されており,現代レーダの原
形がこのときにほぼ完成されたのである.
レーダに用いられた電波の周波数は最初
25MHz であったが,それがわずか 5-6 年後の
1940 年頃には GHz 帯の電波が用いられるよう
になった.現在では十数 GHz 帯のマイクロ波レ
ーダが多くの分野で活躍し, 30-100GHz 帯のミ
リ波レーダが実用化されている.このように使
用する電波の高周波化が進められた一つの理由
は,レーダの方位測定精度を得るために必要な
指向性の高いアンテナを電波の性質を光に近づ
けて,小型・軽量に実現するためであった.1950
年代では,高周波の高出力送信技術や高感度受
信技術が未熟であったため,レーダの探知能力
向上のための技術開発は,もっぱら高周波送信
機の大出力化および受信機の低雑音化を中心に
して行われた.
このようにレーダ開発の主題が「より遠くにあ
るより小さなものをより細かく詳しく観るレー
表1
表 2 ミリ波帯の周波数割り当て
ミリ波自動車レーダの実用化例[7]
発売時期
メーカ
システム
1998/11
ダイムラー
ACC
クライスラー
47GHz
60GHz
76GHz
59-66
76-77
94GHz
139GHz
94.7-95.7
139-140
日
本
1999/07
日産
ACC
米
1999/09
ジャガー
ACC
国
2001/10
BMW
ACC
欧
46.7-46.9
76-77
63-64
州
76-77
ダの実現」におかれてきたのは,レーダの進化
を要望するアプリケーションの主体が宇宙・防
衛にあったからであろう.その中にあって,1970
年頃から,
「より遠く」ではなく「よりコンパク
トに」,「より安全に」,
「より安価に」を開発の
主眼においた自動車用近距離レーダの開発が始
った.1990 年前後から快適で安全な車社会の実
現 を 目 指 す 高 度 道 路 交 通 シ ス テ ム (ITS:
Intelligent Transport Systems)の研究が活発化す
ると,ミリ波を用いた自動車レーダの研究が各
国で急速に進められた.電波法の整備とあいま
って,1990 年代後半には走行支援システム
ACC(Adaptive Cruise Control)に組み込まれた自
動車レーダが表1に示すように相次いで発表さ
れた.自動車レーダは,ACC,駐車支援,車線
変更支援等走行の利便性・快適性を高めるだけ
でなく,衝突被害軽減(プリクラッシュセーフ
ティ),ブラインドスポット等車の安全運転を支
2.自動車レーダと小電力ミリ波レーダ
自動車レーダには,距離百数十 m 内にある相
対速度-200km/h~200km/h で移動もしくは静止
している種々の物体を気象条件や時間帯によら
ず検出できる能力が求められる.また,道路の
状況によらず先方にある物体が車両制御に必要
な自レーン上に存在するのか否かを判定するた
めに水平方向の角度を測定することが要求され,
ビームを所定の角度範囲に走査する必要がある.
このような自動車レーダの実現にむけて,総
務省は「76GHz 帯の周波数を利用する小電力ミ
リ波レーダの技術的条件」を次のように示して
いる[8].
ア
無線周波数帯
76GHz 帯
イ
空中線電力
10mW 以下
ウ
空中線利得
40dB 以下
エ
指定周波数帯幅
1GHz 以内
える重要なアイテムとして,近い将来一気に普
及が進む可能性を秘めている.航空機や船舶と
同様にレーダが車に搭載される時代の到来であ
る.レーダが車にとって当たり前のものになる
ためには,あらゆる走行場面に対応できるよう
に一層の高性能化,高機能化および高信頼性の
確保を進めると共に低価格化の推進が必要であ
る.自動車レーダの実用化は途についたばかり
であり,まだまだ解決すべき課題は多い.自動
車レーダが社会に深く浸透することを願い,本
稿では,自動車レーダの方式技術についてその
基礎的事項を概説する.
3.ミリ波の特徴
前章で示したようにミリ波が自動車レーダに
有効と考えられている.欧米諸国でも同様に考
えられており,各国が自動車レーダに対してミ
リ波帯の周波数を表 2 に示すように割り当てて
いる.
ミリ波が有効とされるのは同波が有する次の
ような特徴に基づいている.
(1)大気伝搬特性
大気による減衰が大きく,伝搬距離が短い.
より遠くを標榜するレーダにとっては,この特
徴はマイナスであるが,探知距離が百数十 m 程
度の自動車レーダにとっては減衰が問題になる
レーダは内部で発生した電波を外部空間に向
ことは少ない.逆に遠くに届かないためレーダ
けて送信し,その一部が目標に到達して反射し
間の干渉が小さくなり,少し離れていれば同じ
た電波を受信することによって,目標-レーダ
周波数を繰り返し利用できることから,この特
間の距離 R と基準方位からの目標角度 θ を測定
徴を利点として活かすことができる.
する.得られた距離情報と角度情報に基づいて
(2)波長が短い
図1に示すように円形位置線と放射状位置線を
アンテナや回路の大きさは波長で規定される
ため,レーダの小型化に有効である.例えば,
描き,両位置線の交点を求めて目標位置を特定
する.
アンテナ開口長 D は波長を λ ,所要のビーム幅
距離情報は,送信信号の振幅,周波数あるい
を θ B として,概ね D ≈ λ θ B で与えられる.実装
は位相に適当な変調を与え,これと受信信号と
スペースが限られた自動車にとって,この特徴
の相関によって抽出される送受間の時間差から
は非常に有用である.
求められる.変調方法を異にするいくつかのレ
(3)帯域を広くとれる
ーダ方式が考案されている.
小型バイクなど物理的大きさが 1m 程度の小
角度情報は,アンテナビームを形成して電波
さい目標を高い精度で検出するために,自動車
の送受信を限られた方位に限定し,これを走査
レーダには高い距離分解能が要求される.レー
することによって得られる.ビームを形成して
ダの距離分解能は送信信号の帯域に逆比例し,
走査するアンテナ方式についてはいくつか方式
高い距離分解能を確保するためには,送信信号
が考案されている.
および受信機の広帯域化が必要である.一般に,
相対速度情報については,ドップラ効果によ
周波数を高くすることで比帯域が小さくなり,
り反射信号に生じる周波数偏移を抽出して測定
広い周波数帯域の占有が容易となる.
する方法が一般に用いられる.レーダのコヒー
レンシーが十分でなく,ドップラ周波数の抽出
4.レーダの原理
が困難である場合には,距離の時間変化率から
4.1 測位と測速
求める方法がとられる.
レーダに要求される基本機能は,位置測定機
能(測位)および相対速度測定機能(測速)の
二つである.図 1 に測位原理を示す.
4.2 レーダ方程式と受信電力[1],[2]
レーダが捉える目標反射信号の受信電力 Pr
は次のレーダ方程式によって求めることができ
放射状位置線
る.
Pr =
θ
R
円形位置線
2 2
PG
λσ
t
( 4π )
3
R 4 Ls
(1)
ここで,
Pt : 送信電力
G : アンテナ利得
λ : 波長
R :レーダー目標間距離
σ :レーダ断面積
Ls : 大気,降雨減衰等の損失
図1
レーダの測位原理
である.式(1)では送受両アンテナの利得は等し
いとしている.アンテナ利得 G はアンテナの有
距離ビン1
効開口面積を A とすると概ね次式で与えられる.
G=
LPF
A/D
フーリエ変換
2
・・N
パルス化
4π A
(2)
λ2
送信波発生
目標
距離・速度
算出
式(1)に示すようにレーダの受信電力は距離の 4
乗に比例して減衰し,遠方にある目標は探知で
きなくなる.この限界を最大探知距離と呼ぶ.
受信機の目標検出可能最小電力を Pr min とすると,
最大探知距離 Rmax はレーダ方程式により次のよ
送信パルス
時間
うに求められる.
Rmax
⎡ G 2 λ 2σ P ⎤
t
=⎢
⎥
3
⎢⎣ ( 4π ) Pr min ⎥⎦
τ
受信パルス
1
4
遅延時間
時間
(3)
パルス繰り返し周期
観測時間TC
受信機の目標検出可能最小電力 Pr min は信号処
理利得を含めた受信機等価雑音電力 Pne との相
・・・
対値 SNRmin = Pr min Pne から求められる.所要の
SNRmin はレーダの基本性能を規定するパラメー
タ目標検出確率および誤警報確率から決定され
図2 パルスドップラ方式
る.自動車レーダでは Rmax は百数十 m である.
分解能 δ R はパルス幅 TW で決まる.
δ R = cTW 2
5.レーダ方式
自動車レーダに要求される機能は,パルス方
式,CW(Continuous Wave)方式のどちらでも実現
できるが,同レーダの探知距離が~100m 程度
(5)
パルス幅 TW のパルスを受信するために必要な
受信機の帯域 B0 は次式で与えられる.
B0 = 1 TW = c 2δ R
(6)
の近距離であること,信号処理負荷が比較的小
速度は図1に示すように送信パルスを一定の周
さい等の理由から,実用化された自動車レーダ
期で繰り返し送信し,同一距離ビンにある受信
では CW 方式を採用している例が多い.以下,
パルスの位相の変化を信号処理して抽出される
代 表 的 な (1) パ ル ス ド ッ プ ラ 方 式 , (2)FM
ドップラ周波数から求めている.
(Frequency Modulated)CW 方式および(3)二周波
CW 方式について述べる.
v=
λ fd
2
(7)
また,速度分解能は観測時間 TC によって決まり,
(1)パルスドップラ方式
図2に示すようにパルス変調された短パルス
信号を送信し,反射信号が受信されるまでの遅
次式で与えられる.
δ v = λ 2TC
(8)
延時間 τ を測定して距離を求める. τ は電波が
ここに, λ は波長である.この方式で高い距離
目標までの往復距離を伝搬する時間であるから,
分解能を確保するために式(6)に示すように広
距離は次式で求められる.
帯域受信機を要し,高速の信号処理が必要とな
R = cτ 2
(4)
ここに,c は光速である.パルスレーダの距離
る.一方,この方式では距離ビンと周波数ビン
のそれぞれの領域において信号の弁別処理が施
されるため,CW 方式に比べて干渉に強く,信
号の分離性能が高くなる.
ビート信号
また, 最近注目されている UWB (Ultra Wide
LPF
A/D
Band)レーダも本方式の一つである.ただし,通
ているためドップラ効果を用いた速度計測はで
目標
距離・速度
算出
Down-sweep
フーリエ変換
VCO
常,信号の位相情報が利用できない構造となっ
Up-sweep
フーリエ変換
遅延時間
ド距離が極めて小さくなり,また,構成が非常
周波数
きない.極短パルスを送受することでブライン
送信
に簡単になる.
受信
f0
(2) FMCW 方式
Δf
時間
図3に示すように周波数が線形に増加するよ
ドプラシフト
うに周波数変調した up-sweep 信号と周波数が
Tm/2=1/(2fm)
線形に減少するように周波数変調した
down-sweep 信号を交互に目標に向けて送信す
図3
FMCW 方式
る.アンテナで捉えた目標反射信号を送信信号
の一部とミキシングしてビート信号を得る.
比べて小さくなり,従って,信号処理速度につ
up-sweep および down-sweep におけるビート信
いてもパルス方式に比べて低速でよい.ただし,
号の周波数はそれぞれ次式で与えられる.
複数の目標からの反射信号を同時に受信した場
合,この方式では同時に検出された複数の f up と
f up =
4 ΔfR 2v
−
cTm
λ
f down =
4 ΔfR 2v
+
cTm
λ
(9a)
f down の組み合わせを決定するアルゴリズムが
必要となり,信号処理が複雑になる.また,こ
(9b)
の方式では遠方にある小目標の受信信号が近く
にある不要物体からの反射信号に埋もれ探知が
ここに, Tm は変調繰り返し周期であり, Δf は
困難となるいわゆる CW 方式に共通の遠近問題
変調周波数幅である.距離 R と速度 v は式(9a)
を抱えていることに注意が必要である.
と式(9b)を解いて求めることができる.
(3) 二周波 CW 方式
この方式の距離分解能 δ R と速度分解能 δ v は
ように周波数 f1 の CW 信号とそれとわずかに異
それぞれ次式で与えられる.
δR =
δv =
c
2Δf
λ
Tm
ここでは,説明を簡単にするため図4に示す
(10)
(11)
なる周波数 f 2 の CW 信号をそれぞれ時間 TC の
間隔で時分割にて切り替えて送信する場合につ
いて述べる.目標で反射して受信された信号は,
送信周波数が f1 の区間は周波数 f1 のローカル
また,この方式で必要な受信機帯域は距離探知
信号でミキシングされ,送信周波数が f 2 の区間
幅および速度検知幅をそれぞれ ΔR および Δv で
は周波数 f 2 のローカル信号でミキシングされ
表すと次式で与えられる.
る.ミキシング後のビート信号はそれぞれ次式
B0 =
4 Δf ΔR 2 Δ v
+
cTm
λ
(12)
一般に,同じ距離分解能を得るために必要な
FMCW 方式の受信帯域はパルス方式のそれに
で得られる.
4π f1 R ⎞
⎛
B f 1 ( t ) ∝ cos ⎜ 2π f d t −
⎟
c ⎠
⎝
(13)
4π f 2 R ⎞
⎛
B f 2 ( t ) ∝ cos ⎜ 2π f d t −
⎟
c ⎠
⎝
(14)
る複数目標からの反射信号が同時に受信された
ビート信号
LPF
A/D
VCO
f1-フーリエ変換
場合,距離の測定はできない.また,目標との
目標
距離・速度
算出
f2-フーリエ変換
相対速度が零の場合にはビート信号が直流とな
って位相抽出が不可能となり,距離の測定がで
きない.さらに,この方式も FMCW 方式と同
様に遠近問題を抱えていることに注意が必要で
ある.
周波数
f2
f1
時間
TC
通常自動車レーダでは仰角(垂直)方向の角
TC
図4
6. アンテナ方式
度測定機能は必要とされないため仰角方向には
固定の狭ビームが用いられる.比較的広い角度
二周波 CW 方式
範囲を高い角度分解能で計測が必要とされる方
ここで,f d ( = 2v λ ) はドップラ周波数であり,f1
位(水平)方向測定機能実現のため,アンテナ
と f 2 の差が僅かであることから両ビート信号
方式として,(1)機械走査方式,(2)ビーム切り
におけるドップラ周波数は等しいとして問題な
替え方式,(3)フェーズドアレー方式,(4)ディ
い. 二周波 CW 方式では,両ビート信号をフ
ジタルフォーミング方式等が考えられている.
ーリエ変換してドップラ周波数 f d を検出し,つ
(1)機械走査方式
いで同周波数おけるスペクトルの位相差
機械的に走査
Δϕ ( = ϕ 2 − ϕ1 ) を抽出して,次式により距離と速
度を求める.
R=
v=
c Δϕ
4π ( f 2 − f1 )
λ fd
2
=
fd c fd c
≈
2 f1 2 f 2
受信機
(15)
モータ
図5
(16)
このとき,距離アンビギュイティが発生しない
ためには,
機械走査方式
図5に示すように波長に比べて開口の大きな
アンテナを用いてビーム幅の狭いビームを形成
4π ( f 2 − f1 )
Rmax < π
c
し,これをモータ等の駆動力を利用して走査す
(17)
る方式である.比較的簡単に鋭いビームを得る
を満足する必要がある.速度測定の分解能は
ことができるが,走査の機構が必要であり,後
FMCW 方式等他の方式と同様に時間 TC できま
述のフェーズドアレー方式に比べて走査速度が
り,
遅い.
δv =
λ
2TC
(18)
(2)ビーム切り替え方式
である.
Rmax が数百メートルの場合,式(17)から f 2 − f1
ビーム
ネットワーク
は数百 kHz となり,二周波 CW 方式では極めて
・
・
・
狭い周波数占有帯域で距離および速度の測定が
できることが分かる.ただし,速度が同じであ
図6
ビーム切り替え方式
受信機
図6に示すように指向方向が少しずつずれた
保存するため,演算により様々な形状を持つビ
ビーム幅の狭い固定ビームを複数形成し,電気
ームを形成できることが最大の特徴である.例
的に時分割でこれを切り替える方式である.走
えば,図8に示すようにマルチビームを形成し,
査範囲が広く,高い角度分解能が要求される場
全走査範囲を同時に観測して,近距離目標のデ
合には多数のビームが必要となり,ハードウエ
ータレートを高める等柔軟なレーダ運用を可能
アの規模が大きくなる.自動車レーダ用として
にする.
は 3 ビーム,9 ビームを切り替える開発例が報
(5)モノパルス方式
告されている.
ビームA
(3)フェーズドアレー方式
ハイブリッド
回路
移相器
電力
合成
受信機
Σ = A+ B
E
Σ
B
フェーズドアレー方式
角度
0
Δ
図7に示すように複数の素子アンテナを一定
の間隔で配列したアレーアンテナで構成される.
素子アンテナに接続された移相器で信号の位相
を制御することによりビームを高周波帯で形成
E=Δ Σ
モノパルス方式
A
図7
÷
B
ビームB
図9
・
・
・
Δ = A− B
A
E
図 10 角度誤差曲線
して走査する.ビームを高速で走査できること
が最大の特徴である.
パルスレーダにおいて 1 回のパルス信号の送
(4)ディジタルビームフォーミング方式
・
・
・
図8
受信機
A/D
受信機
A/D
受信機
A/D
受信で角度測定ができることからこのネーミン
グが与えられた.振幅モノパルス方式と位相モ
信号処理器
(ビーム
フォーマ)
ディジタルビームフォーミング方式
ノパルス方式があり,ここでは振幅モノパルス
方式について述べる.図9に示すようにパター
ンが同一の二つのビームの主軸を正面方向から
対称にずらしたアンテナを用いる.それぞれの
ビームで受信した信号をハイブリッド回路に入
フェーズドアレー方式と同様に複数の素子ア
力して和信号 Σ と差信号 Δ を出力する.受信信
ンテナを一定の間隔で配列したアレーアンテナ
号の受信方向とアンテナ正面方向との角度差が
で構成される.各素子アンテナで受信された信
図 10 に示すように和信号レベルと差信号レベ
号は受信機内で検波されてベースバンド信号に
ルの比 E = Δ Σ に比例することを利用して,受
変換される.ついでベースバンド信号は A/D 変
信角度を測定する.この方式ではビーム内に二
換器によりディジタル信号に変換され,信号処
つ以上の信号が同時に受信される場合には原理
理演算によりビームが形成される.この方式で
上角度測定できないことに注意を要する.
は受信信号の波形情報を数値データとして記憶
なお,(1)-(4)に示したアンテナ方式はビーム
文
形成とビーム走査を目的とするものであり,角
献
度測定精度はビーム幅程度である.これに対し
[1] Skolnik M. I. :“Introduction to Radar Systems
モノパルス方式はビーム内に捉えた信号の受信
(second edition)”, McGraw-Hill, New York
角度をビーム幅を超えた精度で測定することを
(1980).
目的しており, (1)-(4)のアンテナ方式と組み合
わせて用いられることが多い.
[2] Skolnik M. I. (ed.):“Radar Handbook (second
edition)”, McGraw-Hill, New York(1990).
[3] Stevents M. C. :“Secondary Surveillance Radar”,
7.むすび
Artech House, Norwood, MA (1988).
開発が始まってから 40 年近くの年月が経過
[4]“小特集:電波とリモートセンシング”,日本リ
し,自動車レーダはようやく実用化の途につき,
モートセンシング学会誌, 12, 1, pp.43-101
普及の兆しが見え始めた.自動車レーダが広く
(1992).
社会に受け入れられるためには,低価格化と共
[5] Doviak R. J. and Zrnic D. S. :“Doppler Radar
に,一層の高性能化・高機能化を進めることが
and Weather Observations”, Academic Press,
重要である.例えば,現状の自動車レーダでは
Orlando (1984).
人や自転車の探知は難しいとされ,このために
[6] 西村康:“遺跡調査と電磁計測”,資源・素
は 20cm 程度の距離分解能の実現とレーダの高
材学会,第2回地下電磁計測ワークショップ
感度化が必要である.これに対応するため総務
論文集,pp.1-6(1992-12).
省は 78-81GHz 帯ミリ波自動車レーダの開発構
[7]大槻智洋,田野倉保雄:“クルマで瞬き始め
想(ユビキタス ITS)を打ち出している[9].欧
る電子の「眼」”,日経エレクトロニクス,
州では同周波数帯域を利用して数十 cm にある
2003.8.4,pp.57-68(2003)
超近距離目標を探知できる UWB(Ultra Wide
[8]総務省 HP より
Band)レーダの開発を進めている.また,自動車
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/
レーダは今のところ自律型センサーに位置付け
pressrelease/japanese/denki/970526j601.html
られているが,今後は通信機能を取り入れてイ
[9]ITS 情報通信システム推進会議 HP より
ンフラ協調型センサーの性格を強めてゆくと思
http://www.itsforum.gr.jp/Public/J3Schedule/
われる.
P17/1mori070420.pdf
このように自動車レーダは,今後多くの関係
者の努力に支えられて,確実な進化を遂げてゆ
くであろう.本稿がこれから自動車レーダの開
発に関わる人達に少しでも参考になれば幸いで
ある.
Fly UP