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ロールシャッテス ト研究の現在の動向

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ロールシャッテス ト研究の現在の動向
愛 知 教 育 大 学 教 育 臨 床 総 合 セ ン タ ー紀 要
第 3 号pp.
17∼24 (March, 2013)
ロ ー ル シ ャ ッ テ ス ト研 究 の 現 在 の 動 向
― 2011年 の 本 邦 の ロ ー ルシ ヤッ ハ 関 連 論 文 の 概 観 に よ る 考 察 −
福 岡 知 晴 犬山病院)
下 村 美 刈 (愛知教育大学)
Present
trend
in researches,
related
to the
Rorschach
Test
― Consideration by a review of articlesrelated to the Rorschach Test in Japanese ScientificJournals in 2011 ―
Tomoharu FUKUOKA
Mikari SHIMOMURA
(Inuyama
Hospital)
(Aichi University of Education)
要約 ロ ールシ ャッハ テスト研究の最新 の動向 の把握 のため に, 2011 年 に本邦で刊行さ れた計17編の論文を1編ず
つ要約して取 り上げ ながら概観す る文献研 究を試 みた。そ の結果,現在のロ ールシ ャッハテ スト研究は,その
対象 や領域が多様化,拡大化し てい ると同時 に精神医学 との強い結 びつ きも維持さ れているこ と,反応や指標
の意味づけ の改定が研 究におい て継続されてい るこ と,ロ ールシャッハ テストそ のものの特徴や歴 史的経緯に
触れる研 究が 見られてい るこ と, の3点 が現在の研 究の主な動向 とし て明らか となっ た。ロ ールシ ャッハテス
ト を実践 する臨床家 は,こ れらの特 徴を理解して実践 に臨むこ とが必要であ ると考 えられる。
Keywords : ロ ールシャッハテスト,レビュー, 2011 年
1。 問 題 と目 的
は 口 ・ テ ス ト を 用い る 臨床 家 に と っ て 実践 上 , 倫 理 上
ロールシャッハテスト(以下口・テスト)が「クラ
い ず れ に おい て も 必 要 な作 業 と な る と 思 わ れ る。
イエントを個人としてみて心理学的な記述を行うこと
そ こで 本研究で は, 口・ テスト を用い る臨床 家 に
が ア セ ス メ ン ト の 目 的 に 適 い , ク ラ イエ ン ト の 福 利 や
と っ て 必 要 と な る 現 在 の 口 ・ テ ス ト 研 究 の 動向 を把 握
ク ラ イエ ン ト に まつ わ る 問 題 の 解 決 に 役 立 つ だ ろ う と
し , そ の 特 徴 を 理 解 す る こ と を 目 的 と し て, 2011 年 に
考 え た 場 合 」(Exner, 2009) に 行 わ れ る もの で あ る な
刊 行 さ れた ロ ー ル シ ャ ッ ハ 関 連 論 文 の 概 観 を 行 っ た。
らば,口・テストは臨床実践において幅広く用いら れ
2. 2011 年 の ロ ー ル シ ャ ツ ハ 関 連 論 文 の 概 観
うる,重要な心理査定の方法となる。
とこ ろ で 口 ・ テ スト は, Herman Rorschach
方 法 を考 案 し た 後Beck,
2011 年 に 刊 行 さ れ た 計17 編 の ロ ー ル シ ャ ッ ハ 関 連 論
がこの
文 に つ い て , 内 容 の 主 題 や テ ーマ か ら 各 論 文 を 以 下 の
よう に 分 類 し て 概 観 し た 。
Kropfer, Hertz, Piotrowsky,
山
Rappaport ら に よっ て 複 数 の 異 な る ア プ ロ ーチ が 開 発
口 ・ テ スト の 既 存 の 解 釈 仮 説 を 用 い て , 特 定 の 臨
され, 日本で も片口 法, 名大 法,阪 大法 など のアプ
床群の特徴の詳細を明らかにした研究
ロ ーチ が開発 さ れて きている とい う歴史 的経緯 があ
こ こ に分 類 さ れる 論 文 は 計 5 編 で あ っ た 。
る。 Exner は 複 数 の 異 な る ア プ ロ ーチ を比 較 吟 味 し,
成 田 (2011 ) は DSM-IV- TR で 双 極I 型 障 害 と 診
包 括 シ ス テ ム とし て 口 ・ テ スト の アプ ロ ーチ を ま と め
断 さ れ, 長 期 間精 神 療 法 的 接 近 を継 続 し て い る28 人 を
上 げ たが , こ の シ ス テ ム も 今後 追加 や 修 正 が な さ れ る
対 象 とし て, 経 過 観 察 期 間 にお け る 初 期 の 病 相 間 歌 期
可 能性 があ る(Weiner I.B,
(気 分 障 害 の経 過に お い て み ら れ る寛 解 期 ) と約11 年
2005) と い う 指 摘 を 鑑 み
る と, 口 ・ テ スト は完 成 さ れ た一 つ の 査定 法 とい う よ
後 の病 相 間歌 期 に施 行 し た 口 ・ テ スト と, 心 理 的 ・ 社
り も 日 々 新 た に変 化 し ,改 定 さ れ 続け てい く とい う特
会 的 及 び 職業 的 な 機 能 を評 定 す る 尺 度 で あ る GAF 尺
徴 を 持つ 臨床 心 理学 的 査 定 方 法 であ る と 考 え ら れ る。
ま た 一 般社 団 法 人 日 本 臨床 心 理士 会 倫 理 綱 領 第 5 条
度 の デ ー タ を比 較 検 討 し た研 究 を発 表し てい る 。 こ の
研 究 は 口 ・ テ ス ト の デ ー タ か ら 人 格 水 準 を, GAF
尺
に 「 会員 は, 資 格取 得 後 も専 門 的知 識 及 び技 術 , 最 新
度の 結果か ら社会 適応 度 を判定す るとい う方 法を採
の研 究 内 容 及 び そ の 成 果 な ら び に 職業 倫 理 的 問 題 に つ
り ,11年 とい う時 間経 過 に よ る 結果 の変 化 を調 べ , 双
いて研鑽を怠らないよう自らの専門家としての資質の
極 性 障 害 の予 後 の特 徴 につ い て 考 察 し た も の と なっ て
向 上 に 努 め る 」 とあ る が , 日 々 新 た に 変化 し , 改 定 が
い る 。 Klopfer法 に よ る ス コ アリ ン グ, William. U ら
な さ れて い く と い う 口 ・ テ スト の 持 つ 特 徴 を 考 え る な
に よる 平均 形 態水 準 評定 値 , 人 格 の 統 合水 準 の 指標 で
らば,口・テストの現在の研究の動向を把握すること
あ る 片 口 に よ る 修 正 BRS に よ り 得 ら れ た デ ー タが 統
−17
−
福岡,下村:ロールシャッテスト研究の現在の動向 −2011 年の本邦のロールシャッハ関連論文の概観による考察−
計 的 分析 に用 い ら れ, そ の結 果 初 回 判 定 時 と比 べ て 最
かせる ようにすること,対 人関係の築 き方を習得させ
終 判 定時 にお い て反 応 数 (R ) の減 少 , 人 間運 動 反 応
るこ と, 自身 の感 情の生 起 に気 づけ る ようにす るこ
(M 反 応 ) の 減 少, 判 断 の際 に は思 考 よ り も感 情 が 大
と, の3点が重要 となる と考察している。 またこの研
きく影響す るとい う外 拡型 の体験型 は維 持,色 彩形
究で は,非行群内において年齢群 間の比較,非行早発
態 反 応 ( CF反 応 ) の 増 加 , 反 応 数 に対 す る 動 物 反 応
群 と後発群 間の比較,そし て暴力群 と非暴力群 間によ
の パ ーセ ンテ ージ ( A%) の 増 加 , 反 応 数 に 対 す る良
る比較 を通して非行 の特徴 の詳細 を明ら かにし てもい
形 態 反 応 の パ ー セ ン テ ー ジ (F+% ) の 減 少 , 良 形 態
る。
反 応 率 の 低 下 , 平 均 形 態 水 準 の低 下 , 修 正 BRS の低
前田 ,田中 (2011) は,20年 前に機 能性視 聴覚障
下 が認め られ, 反応 数に対 する 人間反応 のパ ーセ ン
害を持つ児 童の特徴 を「 過適応 タイプ」
「 前適応 タイ
テ ージ (H %) は 差 が 見 ら れ ない とい う も の と な り ,
プ」
「 不適応 タイプ 」の3つ に類型化 する研究 を報 告
GAF 尺 度 に よ る 社 会 適 応 度 も初 回 判 定 時 と 比 べ て 最
してい るが,前 回の研 究発表から現 在に至 るまでに3
終判定時にその数値が低下することが明らかとなった
つ の類型い ずれにも当 てはまらない 症例に出会うこと
とい う 結 果 か ら , 双 極 性 障 害 は 人 間 に対 す る 興 味 や 関
が多 くなったとい う印 象を著者らが臨床 場面におい て
心 は失 わ れな い が , 時 間 経 過 と 共 に 人 格 水 準 と 社 会 適
感じるようになっ たこ とと,子どものロ ールシャッハ
応 度 が 低 下 し 脱 抑 制 傾 向 か 示 唆 さ れる よう に な る と 考
反応には時代的な変化 が反映さ れるとい う報告がこの
察 して い る 。 そ し て , 病 相 聞 歌 期 に は 完 全 寛 解 に 至 る
間になされたことを鑑みて,同障害の子ど もの新たな
とい うKraepelin 以 来 の 感 情 障 害 の 定 義 に 沿 わ な い 症
類型化の可能性を検討する研究を発表している。対象
例 が 経験 さ れる とい う こ れ まで に 指 摘 さ れて きた 臨 床
は同障害を持つ小 学生83名であり,口・テストは阪大
的 事 実が 口 ・テ スト 研 究 に よっ て も明 ら か に な っ た と
法 にて スコ アリ ン グさ れた ものを クラス ター分析 に
述 べ , 双 極性 障 害 はリ ハ ビ リ テ ーシ ョ ン を必 要 とす る
よって4 クラ スターを抽出しABCD とグループ分け
慢 性 疾患 であ る と結 論 づ け てそ の予 後 につ い て 再 考 を
をして, そ れぞれの グ ループ の特徴 につい て,A グ
ループ は刺 激に対する統制が不十分で全体志向性が 強
促 し てい る。
浦 川 (2011) は , 統 計 に 基づ い た 包括 シ ス テ ム とい
い偏 りを示し,刺 激の認知,思考内容・ 過程には偏 り
う 口 ・ テ ス ト の ア プロ ー チ が 日 本 に紹 介 さ れ た こ と に
が ない ,B グル ープ は色 彩刺 激に対 する 統制力 が低
よっ て 非 行 領 域 にお け る 口 ・ テ ス ト の 関 心 が 再 び 高 ま
く,全体志向性が弱いが刺 激の認知, 思考内容 ・過程
りつ つ あ る とい う 現 状 と , 過 去 に 指摘 さ れ てい る 非 行
に偏りはない,C グループ は刺激に対 する統制力 が高
少 年 の デ ー タと 実 際 に 非 行 少 年 に 口 ・ テ ス ト を 実 施 し
く,全体志 向性 ,刺 激の認知,思考内容・過程に偏り
た時 の 手 応 え が 異 な る と い う 著 者 自 身 の 臨 床 的 な 実 感
がない ,D グル ープ は色彩刺 激 に対 す る統 制力 が 高
か ら,72 人 の 非 行 少 年 を 対 象 と し て 口 ・ テ ス ト を 実 施
く,全体志向性は偏りがないが,多 彩で複雑な刺激の
し, 包 括 シ ス テ ムの 諸 変 数 の 記 述 的 統 計 を 示 し た 研 究
認知を避ける偏りを示すと考察している。そしてこ れ
を 発表 して い る 。 非 行 少 年 群 と 日 本 人 の 標 準 デ ー タと
らのグル ープと対象者の背景情報との関連を調べ,A
を 比較 し た結 果 か ら , 利 用 で きる 心 理 的 資 質 の 指 標 で
グループ は「過適応 タ イプ」,B グル ープ は「 前適応
あ る EA と , 内 的 刺 激 要 求 の 指 標 で あ る esが 非 行 群
タイプ」と近似し,C グループは機能性視聴覚障害が
で 有 意 に低 く, 非 行 少年 は利 用 可 能 な資 質 の 乏 し さ を
あり ながら も日常的に目立った問題はないが発症 の事
補 う た め に 自然 な 欲 求 や不 安 を 感 じ ず抱 え ない こ と
実 を把握してお くこ とが重要である「サブ クリニ カル
で 心 の 安 定 を 保 と う と し てい る状 態 が現 れ てい る と 考
タイプ」 とし,D グループ は「不 適応 タイプ」 とみな
察 し て い る。 ま た , 複 雑 な状 況 が 感 情 や 思 考 に 大 きな
し,機能性視聴覚障害 は臨床 的に問題 の目立だない 群
影 響 を 与 え る こ と を 示 す 回 避 一 不 定 型 の対 処 ス タ イ
から問題が明確 な群 まで多 様性 を示 す症候群であ ると
ルが 大 半 を 占 め る , 複 雑 さ を 回 避 す る 傾 向 を 示 す 指 標
い う結論を述べ てい る。 そしてこの結果は,前回の研
であるハイラムダが多くみられる,青報の取り込み不
究から現在 までの約20年間の著者らの臨床場面におけ
足 が あ る, 公 共 的 な 反 応 で あ る と み な さ れる 平 凡 反 応
(P 反 応 ) の 出 現 頻 度 に差 は な い , 特 異 な 言 語 表 現 や
る経験と概 ね合致する ものであったとしている。
以上の3編の研究に共通して見ら れる特徴は,疾患
思 考 の 障 害 の存 在 の指 標 と なる 特 殊 ス コ ア の値 が 高 値
の既存の定義や,疾患の特徴や問題行動に関する過去
に な る , 思考 に柔 軟 性 はあ る, 感 情 表 出 は少 な く感 情
の口・ テスト の知見 と, 著者ら の体験 し た臨床 的事
刺 激 を 避 け る 傾向 が あ る , 自分 や 他 人 に対 す る現 実的
実, 臨床的実感の相異 を口 ・テスト によって明らか に
するこ とを試 みたところ にあ る。疾患 の定義 や問題行
な理 解は可 能であ るが 内省 に乏し く,特 に材 質反応
動に関する過去 の口 ・テスト知 見とは一致し ない と感
(T反応)の欠如にみられる親密さに対する慎重さが
み ら れる , 等 の 点 を 非 行 群 の 特 徴 と し て 描 き 出 し てい
じられる症例は臨床 におい てはしばし ば経験 するこ と
る 。 そ し て こ れ ら の 結 果 か ら 非 行 少 年 に対 す る 関 わ り
でもあ り,現在の口・テスト の研 究には,既存 の定義
とし て 外 界 か ら の 刺 激 や 内 面 か ら の 欲 求 や 不 安 に気 づ
や過去の研 究知 見と臨床 体験の間に存 在する相異の解
−18
−
愛 知 教 育 大 学 教 育 臨 床 総 合 セ ン ター 紀 要 第 3 号
以 上 2 編 の 研 究 は , 一 症 例 研 究 と複 数 の 症 例 を対 象
明 を 重 視 し て い る とい う 特 徴 が 含 ま れ て い る と 言 え
る。
とし て 統 計 を 用 い た 研 究 で あ る とい う 違 い が あ るが ,
荒 井 ら (2011 ) は , 著 者 ら が 体 感 症 と 呼 んで い る 異
両 者 と も特 定 疾 患 の 背 景 に あ る 病 態 水 準 や 人 格 傾 向 を
常 体感の 症状理 解 を試みる 一症 例研究 を発 表し てい
明 ら か に す る こ と を 試 み た もの で あ る 。 こ れ まで に も
る 。 著 者 は DSM-IV-TR で 疼 痛 性 障 害 と 診 断 さ れ ,
口 ・テ ス ト 研 究 に お い て 重 視 さ れて きて い た 特 定 の 疾
異 常 体 感 の 症 状 を 呈 し た 症 例 に対 し て片 口 法 に 準 拠 し
患の背景にある病態水準,人格傾向を理解する努力 は
て 施 行 し た 口 ・ テ ス ト の 量 的 分 析 と 継 列 分 析 に よる 反
現 在 の 口 ・テ ス ト の 研 究 に お い て も継 続 さ れて い る と
応 内 容 の 分 析 を 提示 し , 異 常 体 感 の 病 態 , 人 格 形 成 ,
言える。
症 状 形 成 に つい て 考 察 し てい る。 ス コ ア リ ン グ の 量 的
(2 ) 特 定 の 反 応 , 指 標 , 解 釈 仮 説 に 焦 点 を 当 て た 研 究
ここに分類される論文は計7編であった。
分 析 か ら は 要 求水 準 の 高 さ , 漠 然 と し た 認 知 , 内 向 傾
向 の 強 さ , 主 観 的 観 念 的 であ り 具 体 的 な対 応 能力 が 乏
阿 部 (2011 ) は2005 年 に 著 者 自 身 の 報 告 し た 研 究 結
しい ,色彩 反応 がな く情緒 の意識化 や 言語化 か難 し
果の追試を試みた論文を発表している。著者は,把握
い , 細 かい 刺 激 を 感 じ 取 る こ と が 出 来 る 指 標 と み な さ
型 (反 応 領 域 ) に つい て , 従 来 の 把 握 型 シ ス テ ムに は
れ る C反 応 が 散 見 さ れ てい る , 全 身 像 で は ない 人 間 の
図 版 を 構 成 す る 色彩 へ の 注 意 が 不足 し て い る と い う考
反 応 の 全 反応 数 (R ) にお け る パ ー セ ン テ ー ジ であ る
え か ら , 色 彩 領 域 の 一 部 を 切 り 取 っ た 反 応 をCutD,
Hd %が 高 く 現 実 的 な 人 間 関 係 を築 く こ と が 困 難 で あ
色 彩 領 域 に 従 っ た 反 応 をNon-Cut,
る , 片 口 に よ る 修 正 BRS か ら は 逸 脱 言 語 表 現 は 見 ら
か つ 部 分 反 応 で も あ る も の を Non-CutD と す る 新 た な
れ ない , とい う特 徴 が 描 き 出 さ れ てい る。 継 列 分 析 か
コ ー ド を 考 案 し, Non-Cut
ら は , 本 人 が こ だ わ っ てい る 身 体 部 位 が 言 及 さ れ てい
応 , Cut-D は 色 と い う 秩 序 に 沿 わ な か っ た 反 応 と 考 え
る 反 応 内 容 にお け る 内 閉 的 論 理へ の没 入 , 運 動 反 応 に
て , 口 ・テ ス ト と 認 知 的 完 結 欲 求 尺 度 と い う 尺 度 の 下
弛 緩 と 緊 張 とい う矛 盾 し た 表現 の 混 在 , 述 語 優 位 , 擬
位 尺 度 で あ る 「秩序 に対 す る 選 好 尺 度 」 と の 相 関 を調
態 語多 用 の 言 語 表 現 , 図 版 の 一 部 の 特 徴 か ら 全 体 の 反
べ , 反 応 数 に 対 す る Non-Cut の 割 合 と Cut-D の 割 合
応内 容が作 ら れるDW 傾向 の顔 反応が み られる, 空
が 秩 序 選 好 尺 度 と の 間 に 有 意 な 相 関 を示 す と い う 研 究
白 を 用い た 反応 ( S 反 応 ) が多 く 図 一地 が 区 別 さ れ な
結 果 を2005 年 に 報 告 し て い る 。 し か し こ の 結 果 の 追 試
い , とい う特 徴 を 見 出 し てい る。 こ の 結 果 か ら 症 例 の
と し て な さ れ た 今 回 の 研 究 結 果 は 前 回 と 異 な る もの と
病 態 水 準 につ い て , 神 経 症 圈 か ら 精 神 病 圏 の 特 徴 を 示
な り ,Non-Cut, Non-CutD , CutD の い ず れ に お い て
す 反 応 まで 一 症 例 の 中 で 散 見 さ れ る が 思 考 障 害 は 部 分
も秩 序 選 好 尺 度 と の 相 関 は 見 出 さ れ な い と い うこ とが
的 であ る とい う 点 で 統 合 失 調 症 と は 異 な る 特 徴 を 持 つ
明 ら か に な っ た と し, 2005 年 に 行 っ た 著 者 自 身 の 研 究
と 考 察 し てい る 。 また 人 格 傾 向 に つい て は , 異 常 体 感
結 果 の 利 用 に は 慎 重 さ が 必 要 で あ る と い う 結 論 を述 べ
の 症 状 を 示 す 症 例 にお け る 人 格 傾 向 と し て 既 に 指 摘 さ
ている。
色彩 領域 に従い
を色 とい う 秩 序 に 沿 っ た 反
れてい る 完 全 主 義 傾 向 , 自 己 観 察 傾 向 の 強 さ , 空 想 性
菊 池 (2011 ) は , 著 者 自 身 が 考 案 し た 口 ・ テ ス ト の
の 豊 か さ とい う 特 徴 が こ の 症 例 に もみ ら れた こ と , そ
デ ータにお け る性被 害指標 を さらに詳 細 に検証 し,
し て 情 緒 刺 激 に対 す る 反 応 の 表 出 の 経 路 を 持 た な い こ
口 ・テ ス ト に よっ て 性 被 害 の 分 類 を 試 み る 研 究 を発 表
と,を明らかにしている。そして以上の結果から異常
し てい る 。 こ の 研 究 で は ま ず 精 神 科 を 受 診 し , 口 ・
体 感 の 症 状 を引 きこ もり を 守 り な が ら 外 界 と の 関 係 を
テ ス ト を 施 行 し た195 人 の 女 性 患 者 を , 性 被 害 の 歴 史
保 つ と い う 逆 説 的 な あ り 方 を 可 能 に す る もの で あ る と
の あ る 患 者 を性 被 害 群 , 性 被 害 の 報 告 が ない 患 者 を対
理 解 で きる と まと め , また 疼 痛 の 訴 え は S反 応 の 多 さ
象 群 とし , 両 群 の 口 ・テ ス ト の 結 果 を比 較 し , 考察 し
が 示 唆 す る 潜 在 的 な 怒 り と関 連 す る 可 能 性 を 指 摘 し て
て い る 。Klopfer
いる。
Rorschach Hostility Scale
小 山 ら (2011 ) は , 肥 満 減 量 治 療 に 対 す る 心 理 的 ア
法 に よる ス コ ア リ ン グ の デ ー タ と ,
( RHS ) を 用 い て 測 定 さ れ
る 口 ・テスト におけ る破壊 的 な内容 の得 点の デ ータ
プ ロ ーチ の 必 要 性 を 指 摘 し , 肥 満 症 患 者 の 性 格 特 性 を
を 分 析 し た 結 果 , 性 被 害 群 で は 形 態 色 彩 反 応 ( FC 反
把 握 す る た め に42 名 の 患 者 を 対 象 に 実 施 さ れた 口 ・ テ
応 ) の 少 な さ , 色 彩 形 態 反 応 ( CF 反 応 ), 重 み づ け
スト を包 括 シ ス テ ムに よっ て コ ード し , 得 ら れ た各 指
さ れ て 得 点 化 さ れ た 色 彩 反 応 の 合 計 で あ る ΣC の 多
標 を健 常 成 人 の デ ー タ と比 較 し て 肥 満 症 の 患 者 の特 徴
さ, RHS
を明 ら か にし て い る 。 15の指 標 で 有 意 差 が 認 め ら れ た
生 物 運 動 反 応 (m 反 応 ), 性 反 応 の 高 さ に 有 意 差 が 得
が , そ の中 で も最 も影 響 が 大 きい 指 標 とし て 複雑 な刺
ら れ, 色 彩 反応 にお け る統 制 の ま ず さ ,破 壊 的 内 容 の
激 を回 避 す る 傾 向 を示 す ハ イラ ム ダ ス タ イ ル を取 り上
多 さ, 性 領 域 へ の m 反 応 , m 傾 向 や性 反応 , の 3 つ の
げ , こ れ を肥 満 症患 者 の性 格 傾 向 の 特 徴 と位 置づ け ,
特 徴 が性 被 害 指 標 と な り う る と し てい る。 し か し , 性
こ の特 徴 を踏 ま えて 同 疾 患 の治 療 に取 り組 む こ と の重
被 害 群 の 女 性 の24 % が こ れ ら の 指 標 を 示 し て い な か っ
要性 を述 べ て い る。
た こ と か ら ,性 被 害 群 に サ ブ グ ル ー プ が 存 在 す る 可 能
― 19 ―
得点の高 さ,性 領域へ の反応 を示 す率 と無
福 岡 , 下 村 : ロ ー ル シ ャ ッ テ スト 研 究 の 現在 の動 向 ― 2011年 の 本 邦 の ロ ー ル シ ャ ッ ハ 関 連 論 文 の 概 観 に よ る 考 察
性 を考え,性被害群を性被害指標を示す群と示さない
無反応群に群分けして分析した結果,色彩反応におけ
し,臨床群において展望・拡散反応に不安や抑うっ が
る統制の まずさを除 き,破壊的な内容や性反応,m反
るか,抑うつや不安 を怒りや非難 と共 に訴えたい場合
応も含めた口・テ ストの主要項目の多 くに有 意差が 見
であ るとしている。
表現さ れる としたら,そ れらがある程度意識さ れてい
佐 々木,武 野(2011)
は能力 開発の ため のサ イコ
ら れるという結果が得ら れた としている。そし てこ の
結果と,対象 となっ た患者 の被害内容 とを照合 したと
セラピ ーを受 けてい る, あ るプロ スポ ーツ選 手の パ
ころ,性被害指標 を示 さなかっ た群で はより重篤 な被
フ ォーマン ス向上 の前 後に 実施し た口 ・テ スト の 結
害 を近親者から 継続的 に受け てい るこ とが多い とい う
果を検討 し,パフォーマンス向上 後の口・テスト で無
こ とが明ら かになっ たとしてい る。 このため性被害指
生 物運動反応(m 反応 )が増加したとい う結果から,
標 は血縁 関係 のない 他者からの性 被害の鑑別を可能に
m反応の解釈仮説の再検討を試みた研 究を発表してい
するものであ るが,より重篤な性 被害である近親姦の
る。m反応は従来 より,主に不安,緊張,統制さ れな
被 害は性 被害指標によっては見出せないこと,後者の
い葛藤,苦難の経験の有無等様々な意味づけをなさ れ
方 が行 動化 等 により留 意 する必 要があ るこ とを 考察
て きた というこ れまでの研究の経緯を踏 まえ,被験者
し,性 被害指標を示さないことが性被害の事実 を否定
となった スポーツ選手のパフ ォーマ ンスの向上 という
するものとはならない という結論を述べている。
変化 と口・テ ストのm反応 との関 連を検討するこ とを
以上2編の研究は,新しいコ ードや指標 の開発, 精
通してm反応 の解釈仮説 の再考 を試 み,m反応 は統 制
錬化の試みである と同時 に,その困難さ を明ら かにし
されない葛藤 を表す もので はなく内的世 界との交流 を
た研究 とみなすこ とがで きる。口・ テスト のコード や
意味 してい るだけであ るこ と,特 に濃淡 を伴うm 反応
指標は既に数多 く開発 され実際 の臨床 に用い られてい
は何ら かの無 意識 的過 程と の交通 を意味 してい るこ
るが,対象 とす る問題 やテーマ によっ ては新 たなコー
と,そしてm 反応 の質として,生 産的でエ ネルギーの
ドの考案や指標 の開発 の必要性が求 められてい るとい
伴っ た内容のm 反応 が見られることは内的エ ネルギー
うこ とが口・ テスト の研 究に反映されてい るようであ
をパフォーマンスの向 上に生かせる可能性を意味する
る。後述 するように 口・テスト の対 象や領域の拡大
こと,とい う解釈仮説を提案してい る。著者らは,ど
化が,新 しい コード や指標の開発,精錬化の研究が試
ちらかといえばネガティブな意味づけで考えら れるこ
みられる理由 の1つとなってい るとも言える。
との多かったm反応の意味づけを,より中立的な意味
大貫 (2011)は口・テストの展望・拡散反応の解釈
を持つ ものとしてとらえることを提案しているが,同
は諸家 で一致度が低いという点を踏 まえて,展望・拡
時に実際の解釈にあたっては人間運動反応,動物運動
散反応の理論的考察を試みた研究を発表している。こ
反応をはじめとして,他の反応 も考慮してなさ れる必
の研 究ではまずOverholzerとSchneiderの論文の中に
要性 も述べている。
見られるHerman Rorschach に よる展望・拡散反応の
以 上2 編の研究 は,特 定の反応 (ここ では展 望・
解釈と思 われる部分を取り上げ, Herman Rorschachは
拡散反応 とm反応)の意味づけや解釈仮説 を, より明
展望・拡散反応を適応性,慎重で統制的 な性質,抑う
確化す るこ とを試 みた研究であ ると言え る。解 釈仮説
つ気 分 と関連づ け て考 えてい たと 考察し てい る。次
の明確化 は口・ テスト のプロト コルの誤解釈 を防 ぐこ
にBinder の紹介 してい る反応の うち展望 ・拡散反応
とにも役 立つこ とになるこ とから,こ の視点 を重 視す
とみなさ れる反応 を取 り上げ,拡散反応が 頻繁 に現 れ
る研 究がなされてい るのだろ う。 同時 に
る被験者はパ ーソ ナリ ティの核 に通常 みられない 感受
野(2011)の指摘 にあ るように,実際の口・テスト の
性がある とみなし,展望 反応 は不快 なト ーンを持つ 反
実践 にあ たっ ては,特定 の反応の解釈は他の反応との
応 と楽 しいト ーンを持 つ反応 と に分け ら れ, 前者 に
つながりで考慮されるべきものであ り,さらに特定の
おい て は不安 , 注意深 さ,入 念 な環境 への 適応 と関
反応の解釈は対 象となってい る被験者の臨床像や生活
連づ け てい た としてい る。 また展 望・ 拡散 反応 を3
歴とのつながりも考慮して解釈を行っていく姿勢は,
種 に分け たSchachtelの考えに も言及し, Schachtelは
展 望 ・拡 散 反応 を「 とら え どころ の な さ」「 よ りど
口・テストを用い る臨床家は常に堅持し続けておかな
こ ろ の なさ 」 と 表現 さ れ る不 安 の 現 れ であ り, 暗
福井ら(2011)はIV図版が父親像を, Ⅶ図版が母親
さ が伴 う展 望 ・ 拡 散 反応 は「 不 吉 な気 分」 を含 む
抑 うつ の表 現 で あ る と み なし て い た と し てい る 。
像 を反映 する という 父親 ・母 親図版解 釈仮 説につ い
て再 検討 する論 文 を発表 してい る。こ の論 文で は,
この他Piotrowski, Lerner, Willson, Rapaport,
父 親母 親図版 解釈仮 説に 関す る研究 を概 観し, この
Gill & Schafer ら に よる考 察 を取 り上 げ なが ら ,展
テーマ に関す る研究 は最 近な されてい ない とい う点
望・拡散反応の意味づけ について,そ れは抑うつや不
安の存在を示すが,抑うつや不安が存在す ればそれは
を踏 まえて, 解釈 仮説 の適切性 と, この テ ーマ に関
必ず展望・拡散反応 とし て表現さ れるわけで はない と
を行ってい る。 被験者 は大 学生233名, スコアリ ング
−20
佐々木,武
け ればならない。
する現 在の デー タを提示 する こと を目的 とし た研 究
−
愛知教育大学教育臨床総合センター紀要第3号
はKlopfer 法 を 採 用 し , 限 界 検 査段 階 でself, 父 親 ,
該当数の平均の差を検定したところ,高得点群が低得
母 親 , 他 の 家 族, Like, Dislike カ ード を 被 験 者 に 選
点群と比べて該当数が有意に高いという結果となり,
択 し て もら い , そ の 理 由 も聴 取 す る とい う 方 法 が 採 ら
2 点 と3 点 の 間にcut-off pointを設 定 す る と 両 群 間 に
れ, 得 ら れた デ ー タ を統 計 的 に 分 析 し て い る 。 結 果 は
有 意差 は ない とい う 結 果 と なっ た こ とか ら , 自 殺 の リ
IV 図 版 が 父 親 図 版 で あ る とい う 仮 説 につ い て は若 干 の
ス ク 評 価 にお い てSDS-Q19
根 拠 が 得 ら れた が , Ⅶ図 版 が 母 親図 版 で あ る とい う 仮
自 殺可 能性 を注 意深 く とら え る必 要 が あ る と考 察 し て
説 は妥 当 で は ない とい う 結果 と なっ た とし, IV = 父 親
い る 。 ま たSDS-Q19
図版 とい う 仮説 は慎 重 に 適 用 す るこ と と,VII= 母 親 図
位変 数 の 該当 率 と の統 計 的 な分 析 結果 から , 2 点 を 回
版という解釈仮説は速やかに棄却し, Ⅱ, Ⅲ, Ⅴ,
答 し た 人 の 中 に は希 死 念慮 につ な が る 感 情的 な 混乱 を
Ⅶ, VI, X
図 版 を「 母 親 図 版 群」 と す る 仮 説 を 提 唱 し
持 つ 大 が含 ま れ てい る可 能性 があ る こ と , 4点 を 回答
てい る。 こ の研 究 は 既存 の 口 ・ テ スト の 解 釈 仮 説 の 中
し た 人 の 中 に は切 迫 し た 傷 つ き や抑 うっ を擁 し てい る
で , 特 に 長 期 に 渡 っ て 再 検 討 が な さ れ てい な い 仮 説 の
大 が 含 ま れ てい る可 能性 が あ る こ と , 1 点 も し く は 2
中 に は 修 正 の 必 要 が あ る も の が 含 ま れ て お り , そ れを
点と回答した人の中には自分自身への関心が低下し,
そ の ま ま臨 床 に 用 い る こ と に 注 意 を 喚 起 し て い る 研 究
救 済 を 求 め る た め の 希 死 念 慮 の 表 出 が 抑 え ら れ てい る
で あ る と も言 え る 。 再 検 討 が 長 期 に 渡 っ て な さ れて い
大 が 含 ま れて い る 可 能 性 が あ る こ と , と い う 考 察 が な
な い 仮 説 を 取 り 上 げ て 修 正 の 必 要 の 有 無 を 調 べ る とい
さ れて い る 。
が2点 と回答し た人の
の 得 点 とS- CON を 構 成 す る 下
こ の研 究 は 包括 シ ス テ ム のS- CON がSDS
う テ ーマ も, 現 在 の 口 ・ テ ス ト 研 究 の 特 徴 に 含 ま れて
の回答の
解 釈 を詳 細 な もの に す る こ と を可 能 に す る こ と を 示 唆
いる。
す る も の で あ る と 同 時 にS-
松 本 ら (2011 ) は , 日 本 人 児 童 の 平 凡 反 応 ( P 反
CON と い う 1つ の 指 標
応 ) の特 徴 を性 差 と発 達 的 変 化 の 視 点 か ら 捉 え る ため
を構 成 す る該 当 変 数 を詳 細 に検 討 す る こ と を通 し て ,
に, 年 長 児84 名 , 小 学 校 2 年 生85 名 , 小 学 校 4年 生82
希 死 念 慮 の内 実 を詳 細 に把 握 す る必 要 性 を示 唆 し た も
名 ,小 学 校 6 年 生85 名 , 中 学 2 年 生100 名 を 対 象 に
ので あ る と言 える 。 自殺 の可 能性 も含 め て, 臨床 上 重
包括 シ ス テ ム に準 じ た施 行 法で 口 ・ テ スト を 実 施 し ,
大 な問 題 であ る ほ ど, 査 定 の 際 の 細 や か さが 必 要 で あ
3名 に 1 名以 上 出現 す る 反応 をP 反 応 , 6 名 に 1 名以
る とい う こ と をあ ら た め て提 唱 し た研 究 であ る と言 え
上 出現 す る 反応 を準 P 反応 と し て , 学年 と 性 別 を 要 因
る。
と し て 集 計 し た 資 料 を 発 表 し た。 結 果 は , 日 本 人 児 童
(3 ) 口 ・ テ スト の 歴 史 と 現 状 に 言 及 し た研 究
で は13 の P 反応 が示 さ れ , 性 差 に 関 し て は , 女 子 の 方
こ こ に 分 類 さ れ る 論 文 は , 計 2 編 であ っ た。
が男 子 よ り も多 く の P 反 応 が示 さ れ た こ と , Ⅲ 図 版 の
天 満 , 日 高 (2011 ) は 過 去10 年 の 口 ・ テ ス ト に 関 す
人 間 反 応 ,I 図 版 の 動 物 の 顔 反 応 ,X 図 版 の 人 間 の 顔
る 研 究 を 概 観 , 検 討 す る こ と を 通 し て , 口 ・ テ ス ト研
反応のいずれも女子において出現率が高いことが明ら
究 に 関 す る 今 日 的 な 動 向 を まと め た 論 文 を 発 表 し てい
か と な り , 女 子 は 同 学 年 男 子 と 比 べ て 公 共 的 な もの の
る。この論文では口・テストにおける既存のスコアリ
見方をする傾向が強いこと,女子においては人間認知
ングと解釈の妥当性,信頼性に関する研究の概観と,
の 早 熟 性 と 対 人 過 敏 性 が 示 唆 さ れる こ と , と い う 点 を
DSM に よっ て診 断 さ れ た 精 神 疾 患 と 口 ・ テ スト の 特
考 察 し て い る 。 性 別 の 要 因 が 各 年 齢 層 の P 反 応 に反 映
徴 との 関 連 に つ い て の 研 究 の 概 観 が な さ れて い る こ と
さ れてい るこ とがこ の 資料か ら明ら か になっ たとし
に 加 え て , 近 年 学 校 臨 床 の 現 場 で 関 心 が 高 まっ て い る
て , 臨 床 に お い て 子 ど も に対 し て 口 ・ テ スト を使 用 す
発 達 障 害 に関 す る 研 究 の 概 観 も なさ れて い る 。 そ し て
る 場 合 は 発 達 的 要 因に 加 え て , 性 別 の要 因 を考 慮 す る
口 ・ テ スト は病 院臨 床 に と ど まら ず 学 校 臨 床 にお い て
必 要 性 を述 べ て い る 。 こ の研 究 は , 特 定 の反 応 に こ
も活 用 さ れ てい る こ と, 色 彩 心 理 学 や ス ポ ーツ 心 理 学
で はP 反 応 ) の 解 釈 にあ たっ て も, 性 別 や発 達段 階 な
な ど の 領域 に も応 用 さ れ, そ の活 用 の幅 が 広 が っ て い
ど口 ・ テ スト デ ー タ以 外 の 情報 を考 慮 す る 必 要性 をあ
るこ と, とい う点 を ま とめ てい る。
中村 (2011 ) ら は口 ・ テ スト の歴 史的 経緯 を振 り返
ら ため て述 べ た も ので あ る と も言 え る。
水 野 ら (2011) は, 包括 シ ス テ ム にお け る , 自 殺 の
り な が ら , 包 括 シ ス テ ム の 理 念 と DSM の 理 念 と の共
可 能 性 の 指 標 で あ るS-CON と, 自 己 記 入 式 気 分 評 価
通点 を指摘 した論 文 を発表 してい る。 著者は まず,
尺 度 と し て 臨 床 に 用 い ら れ てい る 質 問 紙 法 のSDS
口 ・ テ スト を 考案 し たRorschach の 口 ・ テ スト に対 す
19 番 目 の 質 問 項 目 ( 以 下SDS-Q19)
の
であ る希死念 慮
る 考 え に 触 れ, Rorschach
は 初 め こ の テ スト は 診 断 に
頻度 との関 連 を検討し た研 究を報 告し てい る。対 象
寄 与 す る も の と し て捉 え てい た が , 晩 年 に 口 ・ テ スト
は総 合病 院精神 科外来 通 院中で, 著者 らが 口・ テス
を 精 神 分 析 学 に 寄与 す る 可 能 性 を 示 し , 精 神 診 断 学 か
ト とSDS
を 同 日 に 施 行 し た43 名 の 患 者 で あ る 。 SDS-
ら の 口 ・ テ スト の 脱 却 を示 唆 し た とい う 経 緯 に 言 及 し
Q19 の1 点 と2 点 の 間 にcut off pointを 設 定 し て 高 得
ている。次に複数のスコアリングシステムを統合し,
点 群 と低 得 点 群 と に対 象 の 群 分 け を行 い, S-CON
包 括 シ ス テ ム を 作 り 上 げ たExner
の
−21
−
の 口 ・ テ ス ト に対
福 岡 , 下 村 : ロ ー ル シ ャ ッ テ ス ト 研 究 の 現 在 の 動 向 ― 2011年 の 本 邦 の ロ ー ル シ ャ ッ ハ 関 連 論 文 の 概 観 に よ る 考 察 −
す る 考 え につ い て 触 れ, Exner
も初 め は 口 ・ テ スト を
況 に対する対処や適応 のあ り方が反映 される「現実適
精 神 医 学 の 診 断 基 準 で あ る DSM に よ る 診 断 の 補 助 と
応次元」 と,内的世界 の体験 のあ り方や自己 の体験 の
位 置 づ け てい た が, DSM
の診断 と口・ テストの特徴
安定,調整のあり方が反映 される「体験調整 次元」 の
と の 関 連性 が 見出 せ ない 事 実 を見 て 取 り, 口 ・ テス ト
2つ の次元から構成さ れる ものであり,両次元は各 々
を 個 人 のパ ー ソ ナリ テ ィ の叙 述 と位 置 づ け た とい う 経
意識可能な「意図的側面」 と意識化さ れてい ない「無
緯 を述 べ てい る 。 し か し , 著 者 ら は 口 ・ テ ス ト か ら 見
意図的側面」 を持つとしている。そして各種心理検査
出される特徴について, DSMのI軸の診断よりもⅡ
法の持つ特徴をこの4つ の領域からの理解 を試 みる中
軸 のパ ーソ ナリテ ィ特徴 と一致 する 印象 を持っ てい
で,口・テストは現実適応次元から体験調整次元 まで
る こ と, そ し て 特 定 の 理 論 的 背 景 を 持 た な い とい う 点
幅広 くとらえら れる検査法であるが, より体験調整 次
で 包 括 シ ス テ ム とDSM と理 念 が 共 通 す る こ と を 指 摘
元に より方向づけら れた検査法であると位置づけ,現
し , 特 定 の 理 論 に よっ て プ ロ ト コ ル の 解 釈 が 歪 め ら れ
実適応次元を より反映する検査法とバッテリ ーを組 む
るこ と を防 ぐ た め に , 口 ・ テ ス ト に お い て も特 定 の 理
ことで,クラ イエントの人格側面を より明確に理解で
論 的 背 景 を 持 た な い とい う, DSM
きるとしている。そして,現実適応次元を より反映す
と共通す る理念を
堅持していくことが必要であると述べている。
る検査法としてハンドテストを取り上げて,そのテス
口 ・テ ス ト の 対 象 や 領 域 の 拡 大 は , 得 ら れた プ ロ ト
トバッテリ ーについて詳細に論じている。
コ ルの 解 釈 の あ り 方 の 複 雑 化 , 多 様 化 を もた ら す 可 能
以上の2編の研究は口・テストの持つ性質,特徴を
性があるが,特定の理論的背景を持たないという包括
明らかにする ものであり,い わば口・テストの持つ守
シ ステ ムの 理 念 の 堅 持 は , 口 ・ テ ス ト の 対 象 や 領 域 の
備範囲の理解につながる研究であると も言える。この
拡 大 に 対 し て も, 一 定 の あ り 方 で プ ロ ト コ ル の 解 釈 を
理解は口・テストを用いる臨床家が適切にテストバッ
進め て い く 姿 勢 を 保 持 す る こ と を 可 能 に す る もの と な
テリ ーを組むことに加えて,口・テストの解釈を過度
る だろ う 。 む し ろ こ の 理 念 は , 口 ・ テ ス ト の 対 象 や 領
にクラ イエントに当てはめるという危険を防ぐことに
域 の幅 の 拡 大 と い う 現 在 の 動 向 に 対 応 す る た め に 必 要
もつながる ものとなるだろう。
と なる 理 念 で あ る と も言 え , こ の 両 者 に 等 し く 目配 り
(5)口・テストの学習をテ ーマとした研究
す る 必 要 性 が こ の 2 編 の 研 究 か ら 伺 う こ と が で きる 。
ここに分類さ れる論文は1編であった。
(4) 口 ・テ ス ト そ の もの の 性 質 , 特 徴 に 言 及 し た 研 究
駒屋ら(2011)は,口・テストの習得には多 くの学
こ こ に 分 類 さ れる 論 文 は , 計 2 編 で あ っ た 。
習体験と実践経験が不可欠であるが,大学院終了後の
小 川 (2011) は ロ ー ルシ ャッ ハ 図 版 の 製 作 , 誕 生 の
口・テストの学習方法や研修方法について実態があ ま
経緯 を振 り返 りな が ら 口 ・ テ ス ト の 持 つ 特 徴 に つ い て
り明 らか にされてい ない とい う問 題意識 から, 口・
述 べ て い る 。 ロ ー ルシ ャッ ハ 図 版 に 描 か れて あ る 絵 は
テストの学習に関する予備的調査を行った結果 を発表
Herman Rorschach
がインクのしみを潤色し,精緻化
している。臨床心理士 もし くは臨床心理士養成指定大
し た も ので あ る こ と, 口 ・ テ ス ト で 問 題 とし て い る の
学 院で臨床心理学 を学 んでい る大学 院生199名を対象
は視 知 覚 体 験 で あ り, 色 彩 反 応 は 視 覚 , 材 質 反 応 は 触
に アンケ ート調査を実施,分析した結果,口・ テスト
覚, 立 体 反 応 は 聴 覚 , 触 覚 に 認 め る もの で あ る こ と,
の学習内容に所見の書 き方やフ ィードバ ック等 の学習
そし て視知覚 は多 くの 感覚様 相を含 む ものであ り,
は 少な く,実践 に即 し た学習内 容 となっ てい ないこ
口 ・ テ スト は こ の よう な視 知 覚 の特 徴 を利 用 し て , ど
と,学習形態は大学以外 の機関でなさ れてい る勉 強会
の 様 相 に注 意 を注 い で い るか を明 らか にす る も ので あ
などが利用さ れているこ と,学習者自 身が学習 に必 要
る と し てい る。
な資 源を探し,活用してい るこ と,学習者 自身自らの
佐 々 木 (2011 ) は, 投 影法 の 1つ で あ るハ ンド テ ス
口・ テスト実践 に客観性 を必要 と考え てい るこ と, な
ト と 口 ・ テ スト の バ ッ テリ ー に よ る ク ラ イエ ント 理 解
どが明ら かになっ たとし てい る。そし て口 ・テスト の
の 実 践 か ら 「 投 影 次 元 」 と い う 新 し い 概 念 を 導 き出
学習 におい ては,与えら れた学習 だけ では不十 分であ
し , こ の 概 念 か ら 各種 の 心理 検 査 法 の特 徴 を 明 ら か に
り,多 くの学 習者 がそ の不足 を外 部の研 修会 や勉 強
す る こ と を 通 し て, 口 ・ テ スト そ の も の が持 つ 特 徴 の
会, スーパービ ジョンによっ て補填 してい るとい う事
理 解 を 著 者 の刊 行 し た 書 籍 の 中 で 明 ら か に し てい る。
実が示 さ れたとし てい る。口 ・テ スト の学習 とい う
心 理 検 査 を 「 意 識」「 前 意 識 」「無 意 識」 とい う “意 識
テーマが現 在の研 究の俎 上に上 がっ たとい うことは,
水 準 ” と い う 軸 で 分類 す る とい う 従 来 の 心 理 検 査 の 位
口・テスト の学習,習得 の困難さがあ らためて認識さ
置 づ け に疑 問 を 唱 えWagner
の構造分析 を参考にし
れてきてい るためでもあ ると思われる。
て 考 察 し た 「投 影 次 元 」 とい う 概 念 に よ っ て 口 ・ テ ス
3.考 察
ト の 位 置 づけ を 再 考 す る こ と を 提 唱 し てい る。 著 者 に
2011年に刊行 されたロ ールシ ヤッハ関連論文の概 観
よ れば 「投 影 次 元 」 と は , 心 理 検 査 法 に よ っ て 捉 え ら
から,口・テスト研 究の現在の動向の特徴につい て以
れる 人 格 領 域 を , 外 的 世 界 の 認 識 のあ り 方 や 現 実 の 状
下のようにまとめることができる。
−22
−
愛 知 教 育 大 学 教 育 臨 床 総 合 セ ン タ ー紀 要 第3 号
口・ テスト研究 の現在は対象や領域が多様化,拡大
以上, 2011 年の口・テ スト研究 の概観 から考えら れ
化 されており,新しい コードや指標の開発,精錬化 を
た現在の口・テスト研究の動向は,口 ・テスト を実践
目指す研究が見ら れていたの も口・テストの対象や領
域 の多様化,拡大化に対応する必要性の反映 とみなせ
する臨床家は反応や指標の 意味づけ も含 めた最 新の研
る側面 もある と思 われる。一方で,精神疾患の特徴の
精神医学の知識を学ぶと同時に対象や 領域 の拡 大に対
解明 をはじめ精神科領域における口・テ スト研究は複
応で きる ようにすること,そして口・ テスト の性 質や
数 みられ,かつDSM の理念 と口・テ スト のアプロ ー
歴 史への理解を深めるこ との必要性 を明ら かにしてい
チの1つである包括システ ムの理念との共通点を指摘
ると考えら れる。
究知見 を理解しておくこ と,口・テ スト の原点 であ る
する報告 もあることから,口・テストの原点と も言え
る精神医学と口・テスト研究との強い結びつ きは現在
も維 持さ れている と言え る。 そ のため,現 在 の口・
テ スト研究の動向は,その原点で もある精神医学を基
盤とする姿勢を堅持しながら も,その対象や領域を広
げつつあるという点を持っているということを,1つ
めの特徴として挙げることが出来る。口・テストの学
習をテ ーマとする研究 も見られていたが,口・テスト
の原 点 の1つ に精神医 学が 位置づ け られる なら ば,
口・テストの習得にあたっては精神医学の知識の習得
も重視する必要があるだろう。
また口・テストの既知の知見と臨床的事実や臨床的
実感との相異を解明する研究,反応や指標の意味づけ
の明確化,詳細化を試みる研究,既存の解釈仮説の修
正の必要性を唱える研究が見ら れており,臨床体験と
の照合の中であるいは過去の研究の追試や理論研究の
中で,知見や解釈仮説,反応の意味づけの修正や追加
が唱えら れているという点を現在の口・テスト研究の
動向 の, 2つ めの特 徴 として挙げ るこ とが 出来 る。
口・テストのシステムや アプロ ーチは変化,改定がさ
れて続けて きた歴史を持っているが,変化,改訂の必
要性は口・テストの既知の解釈仮説や反応や指標の意
味づけに も当ては まる ものであると も言える。先述し
た新たなコ ードや指標の開発,精錬化を目指す研究は
この延長線上に も位置づけら れると考えら れる。ここ
で明らかになった特徴は,口・テ ストを実践している
臨床家 に対して,口・テ ストの最新の研究知 見を理解
してお くことの重要性 をあらためて喚起する ものに も
なる だろう。
現在 の口・ テ スト 研 究の動向 の 3つめ の特徴 とし
て,口 ・テ スト そ の ものの性 質や その歴 史的 経緯 に
触 れた研 究がい くつ か 見ら れてい るとい う点 を挙げ
るこ とが出来る。こ れまで概観して きたように,現在
も口・ テスト の研究 は活発 に行 われ, その対象 や領域
も拡大 されつつあ るが,一方で口 ・テスト は, 臨床場
面 におい てそ の需要が 少なくなっ てい るとい う指摘が
2011 年 のロ ールシ ャッハ の講演記 録 の中 にあ り(馬
場, 2011) 現在口・ テスト は,臨床場面におい てはそ
の存 在意義 が問 われてい る状 況 にあ る と も言 える。
口・テスト の持つ性 質や歴史的 経緯 に触れる研究は,
口・テスト の存 在意義 を再確 認するためになされた研
究であ ると考えるこ とも出来るだろう。
−23
−
福 岡 , 下 村 : ロ ー ル シ ャ ッ テ ス ト 研 究 の 現 在 の 動 向 ― 2011年 の本 邦 のロ ー ル シ ャ ッ ハ関 連 論 文 の概 観 に よる 考 察 −
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