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PDF形式/3MB - 教育ファームねっと

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PDF形式/3MB - 教育ファームねっと
教育ファームネットワーク
生産者の願いから
農林漁業を守る運動を母体に地域を結ぶ
農林漁家が指導の中心となる教育ファームは、生産品目や立地条件などに応じてかたちこそ
さまざまですが、共通していることは生産=生活の場としての地域を愛し、これを次世代に引
きつぎたいという熱い思いです。ユニークな取組みをいくつか見てみましょう。
学校と地域で
「地域連携協定」
を結ぼう
さわ そこ
「薮田グリーンファーム」
(長野県辰野町)を含む、むらの 38 戸の農家で構成する「沢底福寿草
の里景観保全委員会」と、辰野東小学校との間に「地域連携協定」が結ばれたのは、2007(平成
むらの学校は「地域の宝」を受け渡す場
さ ぶみ
19)年 11 月のこと。この協定は、地域と学校が連携して農業体験や生活文化を子どもたちに
伝えるとともに、学校給食での地産地消の促進をめざすもので、委員会が伝統行事を子どもた
リーダーの思いをつなぐ
URL:http://edufarm.jp/zai/cku_a_05.html
*ワークシート『家畜を育てる
畜産全般
肉の品種と銘柄』参照
島根県津和野町の左鐙地区は、全校児童 7 人の左鐙小学校を中心に地域の結束を深めていま
ちに教えることや、学校行事に地域住民が参加できるようにするといった項目が盛り込まれて
す。昨今の小規模校の統廃合がすすむなか、左鐙小学校では過疎地の学校の存続に向け、地区
います。
の自然・教育環境の良さを、年間の体験学習を通してアピールしています。
協定の調印式では、辰野町教育長の立ち会いのもと、委員会の代表と校長が協定書に署名、
まずは 2006(平成 18)年、全校児童が 10 人となった小学校の将来を案じて、地域の有志
押印しました。
「農作業を体験するだけでも学びになると思うので、そうした場を提供してい
が
「左鐙の将来を考える会」を発足。肉牛を生産する京村牧場の京村まゆみさんをリーダーに、
きたい」
「学校が願っても実現が難しい地域教育の受け皿をつくってくれて大変ありがたい。地
2007(平成 19)年から夏期の宿泊体験の実施、2008(平成 20)年からは
「さぶみ牧童探検隊」
域活動を教育でも積極的に取り入れていきたい」と、互いに協定締結を喜びました。
として教育ファームに取り組んでいます。PTA、保育園、公民館も参加し、牛の世話や神楽舞
この協定により、教育ファームの取組みにぐんとはずみがつきました。締結後の最初の取組
などの地域学習、野遊びなど、メニューも豊富なのがここの教育ファームの特徴です。
みは、例年の凍り餅づくりへの 5 年生の参加。「子どもたちは地域の宝であり、地域が子ども
なかでも地域が盛り上がったのは、「メス牛の美人コンテスト」
ともいえる
「共進会」
へ参加し
たちを育てる」。協定の根底には、この理念を将来的にも貫いていこうという気概が込められ
たこと。子どもたちがシャンプー、ブラッシングした牛を
「さぶみ牧童探検隊」
の名義で出品し
ています。
たところ、そのうちの 1 頭が西いわみ共進会で 3 位に入賞し、県大会へとすすみました。10
2008(平成 20)
年 3 月には、地元の信州豊南短期大学との間にも「地域連携協定」を締結。短
月に行われた県の共進会では、入賞こそ
大側からは、
「農山村を学習のフ
逃しましたが懸命にアピールする子ども
ィールドにした積極的な農作業参
たちの姿もあってか審査員特別賞を受
加」
、委員会側からは「学生の農作
賞。子どもたち一人ひとりに記念のメダ
業体験等の機会提供」などが約さ
ルが贈られました。
れました。
暮らしの知恵や技といった〈地域の宝〉
これ以降、大学の幼児教育学科
が大人から子どもへと受けつがれていま
の全面的な協力を得ることで、教
す。京村さんたちは、「学校こそが地域
育ファームの取組み内容をより充
の宝を手渡す場だ」と考え、子どもを「か
実させています。
すがい」に地域と世代を超えたコミュニ
ティを紡いでいます。
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
56-a
地域の魅力の掘り起こしから「農の応援団」
づくりに
と やま
やりがい・生きがい 農村女性たちの教育ファーム
「はじめは、自分で自由に使える小遣いがほしかったんです」
8 戸が中心となって「砥山農業小学校」を開校しました。毎年、市内の小学生やその親を対象に
九十九里浜も近い千葉県山武市には、海と山に囲まれた地域ならではの郷土食「太巻き寿司」
50 名近くの参加者を募り、週末を利用して、農産物の生産現場の学習や栽培体験活動などの
の伝統が今なお残されています。(カード 40 参照)
受け入れを行っています。
子どもの頃から親しんできたこの太巻き寿司を、地元の朝市で売りはじめた鈴木和子さん。
代表をつとめる果樹専業農家の瀬戸修一さんは、U ターン農家。
「東京でサラリーマン生活
小遣い稼ぎによる農村女性の経済的自立の夢をきっかけに広がる、農産加工品の直売というわ
を終えて戻ってきたときには、地域にはわずか 8 戸の農家しか残っていなかった」と、当時を
けですが、鈴木さんの思いはそこで止まりませんでした。自身の経済的な自立だけでなく、こ
振り返ります。戦後札幌でリンゴ栽培が盛んになってくると、砥山地区でも果樹栽培が本格化
の太巻き寿司の伝統と地域の暮らしを支える農業をずっと残していくために、もっと何かでき
したものの、その後の都市化で離農や担い手の高齢化が進み、このままでは地域の農業が衰退
ないだろうか……そう考えた鈴木さんが目を向けたのは、子どもたちや親子などへの「体験の
するのではないかという思いが強まってきました。
場」
づくりでした。
「農家の当たり前の暮らしの良さをPRしていきたい」
「農村地域の伝統食づ
しかし、札幌という大都市を抱える砥山地区にとってみれば、
「魅力ある農業の可能性は十
くりを通じて、高齢者から子どもまで世代を超えた『食』の交流を広げていきたい」
分につくっていける」と、地区の専業農家に声をかけ、農業の勉強会や農道整備など、地域の
2004(平成 16)
年、
「食と農の体験工房よもぎかん」はこうした女性たちの思いを乗せてスタ
絆を深めながら、2000(平成 12)年、8 戸の農家で「砥山農業クラブ」を設立。瀬戸さん自身も
ートし、教育ファームの活動へとつながっていったのです。
中小企業同友会の農業部会に参加するなど、異業種の仲間と見識を深めてきました。
地域の子どもや遠くから家族連れも訪れて、田植えやイネ刈り、野菜づくりなどの農業体験、
2002(平成 14)年には地域の魅力を掘り起こそうと、地元農業者や有識者などを中心に市民
さらには太巻き寿司などの料理・農産加工体験を行います。参加者たちを迎えるスタッフは、
ボランティア団体「八剣山発見隊」を組織。農業クラブと互いに連携しながら砥山地区の魅力を
地元の農村女性たち。毎回 7 ~ 8 人が交代で指導に
掘りさげていくなかで農業小学校が
当たるのですが、
培ってきた経験を生かせることに、
誕生。教育ファームの取組みが始ま
みんなが喜びを感じています。「農村女性の小遣い
りました。
稼ぎ」
をきっかけに始まった活動が、「農村女性の生
農業体験だけでなく、どのような
きがい」
にまで広がりました。
場所と環境で食べものが生産されて
10 月、サツマイモや落花生を昼に収穫した子ど
いるのか、砥山農業小学校のカリキ
もたちの夕食に、
「今日は十三夜なんだよね。みん
ュラムのなかには、木登り体験や川
なでおだんごつくろうか」
遊び体験なども盛り込まれています。
よもぎかんの教育ファームは、女性ならではの暮
「砥山を丸ごと体験してこの地域を
らしの知恵や技が、いたるところで発揮されていま
好きになってもらいたい」と、瀬戸
さんらメンバーは考えています。
56-b
さん む
す。
リンゴの花びら摘み(カード 34 参照)
鈴木和子さん
(右)
と仲間の農村女性
リーダーの思いをつなぐ
砥山地区は札幌市南部に位置する南区の果樹地帯。2003(平成 15)
年、この砥山地区の農家
教育ファームネットワーク
農林漁業を守る運動を母体に地域を結ぶ
教育ファームネットワーク
学校・地域の願いから
さらに生き生き
「総合的な学習」
、住民活動
教育ファームには、地域内の連携と協力が不可欠。カリキュラムを活用した学校と農家、学
校同士、地域づくりを核とした市民活動グループ……特徴的な連携のあり方を紹介します。
「おにぎり」
をテーマに地域の特色を生かした学校間連携
「おにぎりプロジェクト」
農作物に手紙を添えて地域に届ける
校舎裏には用水路があり、学年ごとに区画分けさ
しん いち
は、とくしま総合的な学習研
お米
究会
(徳島県徳島市)が支援す
リーダーの思いをつなぐ
交流学習です
( カ ー ド 40 参
生と 2 年生は生活科でそれぞれキクとサツマイモ、
照)。県内の農家、栄養士、
3 年生からは「総合的な学習の時間」にアスパラガス
教師たちが中心となり、特産
(3 年生)、大豆(4 年生)、イネ(5 年生)、そして 6
品を取り上げたワークショッ
健康への
関心を高めたい
伊沢小学校
る、 食 材 の 物 々 交換による
れた農園を備える新市小学校(広島県福山市)。1 年
塩の流通・
食の安全
お米
地域や食への
関心を高めたい
価格・労働
の価値
林崎小学校
おにぎり
の具
塩
食材を通した
塩
交流学習
おにぎり
の具
市場小学校
食事をつくること
ができるように
*ワークシート『イネを育てる
表現・まとめ
お世話になった農家の方に、
絵手紙を書こう!』参照
URL:http://edufarm.jp/zai/ine_h_05.html
年生は特産品のクワイを育てました。
プの開催や講師の紹介、情報
教育ファームに熱心な山田和孝校長ですが、真意
提供など、各地の小学校の実
は
「農家を育てるのではなく、子どもたちが地域を
践をサポートしてきました。
誇りに思う心を育てたい」というところにあります。また、農業体験学習と併行するかたちで、
「おにぎりプロジェクト」では、3 校の子どもたちが教科、総合的な学習の時間のなかでお米、
年間 1 人 12 通、全校生徒で 3686 通の手紙を地域の人に書くという運動も、カリキュラムの
塩、具の物々交換を通じて地産地消おにぎりをつくります。 なかで展開されています。宛先は、農作業体験や地域学習の指導をしてくれた農家や公共施設
お米を担当する阿波市立伊沢小学校では、「せっかく米を送るなら買い物用のビニール袋に
など、子どもたちと面識のある方が中心。指導のお礼や学習発表会のお知らせなどをしたため、
入れるのではなくより本物に近づけたい」ということで、地域の米屋さんと連携。市販されて
下校の際に訪問し直接手渡しします。地域の人たちと実際に顔を合わせてコミュニケーション
いる米袋のような、がっちりとした白いビニール袋に入れて封をしてもらったうえで、子ども
する、そのきっかけとなるのが子どもたちの手紙です。
たちの描いた絵をシールプリント。オリジナルブランド米の完成です。
例えば 1 年生は数名で一組となり、「一生懸命育てました。飾ってください」という手紙を添
鳴門市立林崎小学校では、7 月の暑い日差しの中で海水からの塩づくりに挑戦。ミネラルた
えたキクを役場や病院、銀行へ届けました。各所からはお礼の手紙やプレゼントが届きました。
っぷりの塩を特性の箱に入れて送りました。
5 年生は、老人会のおじいさんやおばあさんを招いて、学習発表とおむすびパーティーを開き
阿波市立市場小学校では、地域の特産野菜のナスを使っ
ました。後日、しめ縄づくり体験を 5 年生と老人会で行いましたが、招待のお礼ということで
ておにぎりの具、漬物をつくりました。あわせて、「おに
5 年生の 53 人一人ひとりに、老人会からしめ縄がプレゼント。
ぎりマイスターになろう」と日本料理のプロから教わった、
「手が震えて、返事が書けんから……」。受け取った招待状
(手紙)を携えて、学校へ直に返
おいしいおにぎりの握り方を具のレシピといっしょに送り
事に来てくれたお年寄りもいて、「学校と地域との距離がグッと近くなった」
と、山田校長も手
ました。学校間で連携することで、おにぎりの素材の物々
応えを感じています。地域とつながることで、子どもたちは郷土に愛着と誇りをもつだけでな
交換が可能になり、子どもたちの意欲を高めながら、大き
く、手紙という手段を媒介させることで表現力・コミュニケーション力も高まっています。
な達成感を味わうことができました。
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
旬・地産地消
とくしまおにぎりプロジェクト
57-a
行政、学校、企業まで、地域が一体となった教育ファームのモデル的な取組みに注目が寄せら
公民館活動を核に広がる地域連携
れています。
「ふるさとの豊かな自然と歴史を守ろう、地域の人材(知恵・技術)を生かそう、地域の子は
地域で育てよう」という活動テーマを掲げる、「やきつべの里フォーラム」
(静岡県焼津市)は、
地元の東益津公民館で活動しているさまざまな団体が集まってできた、連合組織です。
愛情と笑いが育つ農業体験
社会福祉法人雀幸園
(埼玉県熊谷市)は、両親と死別したり虐待を受けたり、なんらかの事情
は竹細工や凧づくりなど、フォーラムの構成団体がそれぞれの得意分野を生かしつつ、講座を
で家庭での養育が困難となった子どもたちのための児童養護施設です。月に一度、子どもたち
主体的に運営しています。 はマイクロバスで 20 分ほどのほ場を訪れ、ジャガイモやミニトマト、コマツナを育てます。
焼津市内の学校区ごとに設置されている大村・焼津・港公民館とも連携し、四公民館合同地
また、ほ場だけでなく野菜を園に持ちかえって、ポット栽培にも取り組んでいます。
域交流講座として、Myライスづくり(年間 7 回の稲作体験)
なども行ってきましたが、
2008(平
「親の愛情をしっかり受けられなかった子どもたちに、いのちと食べもののたいせつさ、そ
成 20)年からは、農業体験だけでなく、海のまち焼津ならではの漁業体験も取りこんだ教育フ
れを巡る人たちとの関係を少しでも学んでほしい」と、園長の新木弘子先生は思いを語ります。
ァームへと、活動の幅を広げる試みが始まりました。
情緒の安定しない子が多いなか、指導農家の北岡美明さんは、記憶に残る思い出を子どもた
公民館は教育委員会の管轄部署なので、小学校の子どもたちと活動するときもスムーズに運
ちに残したいと、
「ジャンボかぼちゃプロジェクト」を実施。4 人がかりでやっと運べるくらい
東益津公民館
行政
四公民館合同
地域交流講座
農業指導
連携
やきつべの里
フォーラム
農業指導
講師派遣
東益津小学校
東益津中学校
「ジュニアカレッジ」
先生の
ボランティア
参加
総合学習等
農業体験における各団体との連携
57-b
社会貢献
人材および
場所提供
事務局
の設置
福利厚生
事業支援
社会貢献
人材提供
サッポロビール
静岡工場
従業員の
福利厚生事業
営できます。
「公民館だより」
にまで大きくなったカボチャを使って、子どもたちは大騒ぎしながら、重さ当てクイズで盛り
には、フォーラムの活動内容
あがりました。次の企画は、ハウスで栽培したサトウキビ
が掲載されています。
を使った黒糖づくり。皮を剥いて節をつぶし、しぼった汁
また、公民館で開かれたビ
を煮立てるというプロセスは、とても地道で時間がかかり
オトープづくりの講演会をき
ます。でも、子どもたちはびっくりするくらいの集中力で、
っ か け に、 地 元 の サ ッ ポ ロ
最後まで楽しみました。指ですくった黒糖の煮汁をなめて、
ビール静岡工場との連携も生
「甘~い!」
とうれしそうな声を上げます。
まれました。企業側は、田ん
普段はまったく笑わない子が、農作業をしているときだ
ぼでのホタルの観賞会への参
けは本当に生き生きとした表情を見せると、園長先生は言
加、フォーラム側は、工場敷
います。大人たちに面倒を見てもらえなかった気持ちを、
地内で従業員向けひょうたん
作物の栽培を通して面倒を見ることにつなげているのかも
づくり講座を開催、
などなど、
しれません。
二人三脚で体験活動を盛り上
ただ、園で育てている自分のポット野菜には、とにかく
げています。
世話をしたがって水をあげすぎる子も多いとのこと。これ
公民館を核に、一般市民、
もまた、雀幸園の子たちの教育ファームなのでしょう。
年上の子に手伝ってもらい、サトウ
キビの節つぶし
リーダーの思いをつなぐ
地元の小中学校との連携では稲作体験、地区の子どもたちを対象にしたジュニアカレッジで
教育ファームネットワーク
さらに生き生き
「総合的な学習」、住民活動
教育ファームネットワーク
自治体行政の願いから
個性豊かな自治体の宝を紡ぐ
行政が働きかけてスタートさせる教育ファーム。農業体験のサポート、地場産給食、ローカ
ルな教育、巡りめぐって自治体の宝となって返ってきます。
自給率 100%の給食で
〈継承される味覚〉
を子どもたちに
「地元の食材を使った給食を子どもたちにもっと食べてもらいたい !!」
行政と農家の二人三脚で、現場の農業体験
岩手県岩泉町の二升石小学校と町保健福祉課が「地産地消給食会」の話を給食センターに持ち
かけたのは、
2008
(平成 20)年 4 月のこと。
「給食センターも地元食材の利用をすすめたいので、
リーダーの思いをつなぐ
*ワークシート『ダイズを育てる
観 察・ 調 査
ダイズの自給率はどのくら
い?』参照
URL:http://efufarm.jp/zai/dai_k_01.html
「子ども農業体験塾」
(北海道旭川市)の中心を担うのは、市の農業活性化をめざす、
「旭川農
ぜひ地産地消給食会を成功させてほしい」と、それぞれの願いがピタリ一致。こうして、10 月
業 2 世紀塾」の農村リーダーたち。
「みんなのなかから出てきたテーマを掘り下げて実行へ移す」
から二升石小学校の「まめもり給食会(※)」
(計 5 回)がスタートしました。
をモットーに、収穫祭や直売会などのイベント活動をはじめ、農村婦人大学や旭川市民農業大
給食センターは、町内の 20 の小中学校に毎日約
学の設立といった取組みを通じて、生産者の意欲向上や消費者交流活動を進めてきました。
1000 食を提供していますが、「まめもり給食会」の日
「私たちの生産活動の現場に直接来てもらうことで、どういった場所で、どのような機械を
は 1 カ月前までに給食の数を連絡すれば、二升石小学
使って、どういう人たちが作物をつくっているか、子どもたちに知ってもらいたいという思い
校の分
(児童数 22 +教員で 31 食)だけ給食をストッ
がありました」。こうした思いを受け、旭川市農政課が事務局となり、市の事業として二人三
プしてくれます。そのかわりに、「まめもり給食会」を
脚で活動を進め、2000(平成 12)年、
「子ども農業体験塾」
が誕生。教育ファーム活動へとつな
担当するのは、地元の食生活改善推進員さんたち。公
がっていきました。
民館の調理室で地元食材でつくったアツアツの給食
体験塾は、毎年市内の小学 5 ~ 6 年生を対象に参加者
(30 名程度)を募り、5 月~ 11 月まで
を、歩いて 5 分の学校まで宅配してくれるという仕掛
の半年間、月に 1 回の農業体験受け入れを行います。体験内容は、受入農家が普段行ってい
けです。この日は、田んぼや畑でお世話になった地域の方や給食センターの担当者も招待、み
る営農活動の一部を一緒に体験する、ユニークな仕掛けが特徴。少人数ならではの深い交流、
んなで楽しく給食をいただきます。
実践的な体験ができます。これまでに卒業した子どもたちは 200 名以上。卒業後も農家との
「カボチャの天ぷらがおいしくて、2 個もおかわりしました」
交流を続ける子も少なくありません。年を重ねていくなかで、プログラムも充実してきまし
「朝採りのダイコンは、いつものダイコンよりも甘くておいしかった」
た。8 月には参加児童全員が集まるサマーキャンプや、収穫物を使った料理教室の開催。また、
こしあんにはっとうを入れた「あずきばっとう」という郷土料理から、豆乳に枝豆を入れてゼ
2005(平成 17)年からは北海道教育大旭川校の学生が体験活動に関わり、内容の企画をするな
ラチンでよせた
「豆乳ゼリー」といったデザートまで、給食の自給率は文字どおり 100%です。
ど、子どもと農家のパイプ役を担っていま
一人前 250 円という予算は、通常の一食分の給食費。事前に保護者から振りこまれた給食
す。2008(平成 20)
年には、シミュレーシ
費から、この分の費用を「まめもり給食会」に充てることで給食センターと折り合いをつけるな
ョン型の「農場づくりゲーム」を開催し、農
ど、
自治体側のサポートもバッチリ。関係者たちは各地域で教育ファーム推進協議会を組織し、
家の経営について遊びながら学びました。
今後、教育ファームで育てた食材をこの「地産地消給食会」に提供することを検討しています。
「次は何をしようか」と、受入農家同士、
日々活発な意見が交わされています。
※「まめもり」とは、まめ
(健康)
で、元気もりもりの意味。2004(平成 16)
年度から岩泉町で始まった健康づくり
ネットワーク事業から名付けられました。
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
58-a
地方発のカリキュラムづくりに教育ファームを据える
全国初! 構造改革特区小学校に
「農業科」
を新設
「小学校に農業を取り入れた教育特区の申請を検討するように」。福島県喜多方市教育委員
社会教育の今後 10 年間の教育の方向性が掲げられ、学校教育では、上越市の学校としての統
会は、市長から指示を受けた当初、本当に実現できるのだろうかと不安をぬぐえませんでした。
一性・共通性を大事にしながらも、各校の創意工夫や特色を生かした地方発のカリキュラムづ
それまでも、総合的な学習の時間を使って年間 10 時間ほど農作業活動に取り組んできた実績
くり=
「上越カリキュラム」が展開されています。
はありましたが、それだと農作業のほんの一部しか子どもたちは体験できません。年間を通し
2008(平成 20)年度は、教育委員会と農政企画課を中心に関係団体が連携して
「上越市教育
て一連の農作業を子どもたちに体験させたいという願いの実現に向けて、「農業科」設置の取組
ファームモデル事業推進協議会」を組織。4 つの小学校がモデル実証校として、教育ファーム
みがはじまりました。
活動を取りいれたカリキュラムをつくりました。
その際に大いに参考になったのが、近隣の耶麻農業高校での聞き取りです。農業高校のカリ
従来から農業体験学習を推進してきた北諏訪小学校では、5 年生
(9 人)が、500㎡の田んぼ
キュラムづくりや生徒たちの様子について教頭先生の話を聞くなかで、長期の休業期間中も当
で無農薬有機栽培の米づくりに挑戦。心の教育をコアとする上杉小学校では
「イネの心・田ん
番で作物や家畜の世話を責任をもってしていること、さらには、中学時代に不登校だった生徒
ひだ もり
ぼの心」をテーマに、餅つきなど家庭や地域を巻き込んだ実践となりました。また、美守小学
が一日も休まず高校に通い続けたことなど、農業の持つ教育的な効果に「これはいける」と手応
校ではアイガモ農法や有機栽培の水田が校区に広がることから、安全・安心な米づくりや環境
えを感じました。
負荷の軽減に子どもたちの関心が向けられました。周囲を 20ha、40ha という大規模水田に囲
こうして教育特区の認定を受け、2007(平成 19)年 4 月、全国で初めて小学校に「農業科」と
まれる里公小学校では、5 年生(21 人)が一人 6㎡の水田を耕して自力でイネを育て、収穫後に
いう教科を設置。教育委員会がリーダーシップを発揮する
は金沢市の農協へ出張してまで販売体験に取り組みました。
なかで年間 35 ~ 45 時間を充てて栽培活動に取り組むこ
子どもたちの学びには、地域の米
とになり、本格的な教育ファームがスタートしました。
づくりのあり方が反映されているこ
その主な特徴は、
(1)有識者や農業関係諸団体による「小
とから、一年の締めくくりとして互
学校農業科委員会」の設置、(2)系統的な指導のための『農
いの気づきを交流させる「子ども米
業科副読本』
の独自作成、
(3)地域の農家に「農業科支援員」
サミット」を開催。5 年生 70 人が、
を委嘱、
(4)農業高校の生徒を講師にして小学校の先生の
それぞれの地域に適した栽培方法は
指導力向上を目指す
「農業科研修会」の開催など、さまざま
何かなど、将来の米づくりの課題を
な事業が展開されていることです。その結果、取組み初
議論しました。米サミットにおける
年度は 3 校だった農業科の実践校が、2008(平成 20)年は
体験の振り返りは、地域の良さ、自
10 校へと広がり、
「豊かな心」
「社会性」
「主体性」の育成を
然
(農業)の良さ、自分の良さや可能
図る体験学習の裾野が確実に広がっています。
性への
「気づきの場」として、子ども
たちの成長に大変効果的です。
58-b
農業科の教科書を作成することで、取
組みが体系的に
※平成 21年度からは学習指導要領の改定にともない、
「農業科」
の内容を総合的な学習の時間に移して実施します。
リーダーの思いをつなぐ
新潟県上越市が、2007(平成 19)年に策定した「総合教育プラン」
では、学校教育・家庭教育・
教育ファームネットワーク
個性豊かな自治体の宝を紡ぐ
教育ファームネットワーク
ライフステージごとに
子育て時代・小学生の教育ファーム
教育ファームは、子どもから大人まで、あらゆるライフステージで楽しむことができます。
工夫次第で、可能性は無限にひろがります。
大豆と子ヤギ、園児もいっしょに
「育つ」
「季の野の台所」
( 愛知県美浜町)の森川美保さんは
子育てママさんの新しいコミュニティづくり
15 年前に新規就農、これまで都市住民を対象とした
味噌づくり体験や農業体験に取り組んできました。そ
子どもから大人まで
愛知県の「日進野菜塾」
(日進市、名古屋市)
うしたなか、自身も 5 歳の子どもをもつことから「食
の教育ファームのテーマは、「都会の中の親
については小さい頃からの体験の積み重ねが大切」と、
子のためのコミュニティ菜園」。近隣の子育
2008(平成 20)
年は保育園児を対象に、大豆づくりの
て中の若いママさんを対象とした菜園づくり
教育ファームに挑戦。しかし、小さな子どもたちの集
に取り組んでいます。
中力が続くのでしょうか……
平日の午前 10 時、新興住宅地の菜園に集
6 月末、森川さんの大豆畑に登場したのは、家畜の
まった参加者は、指導農家から夏野菜の管理
子ヤギ。畑の雑草をムシャムシャ食べてくれるし、お
作業や収穫、ハーブを使った調理方法なども
となしいので子どもたちに危害を加えることもありま
教わります。栽培から調理まで、約半年間の
せん。それより何より、理屈抜きでカワイイ!と大人
体験プログラムが用意されているので、ママ
わが子を背に鍬をふるママさん
気。大豆栽培とともに、一年を通して子ヤギの飼育に
大豆畑で子ヤギと園児はいつもいっしょ
さんたちも興味と期待感をもって毎回取組みに参加しています。
かかわることで、子どもたちに「いのちの育ち」を伝え
収穫したばかりの鮮烈な香りのバジルを見て、「これで今日もバジルソースをたくさんつく
ようというのがねらいです。
れる。『おいしいからまたつくって!』って、家でせがまれているのよね」
(笑)と、農作業の合
暑い日の畑の農作業も、大豆のためだけでなく、ヤギさんのためでもあれば、小さな子ども
間の会話も楽しそう。
たちの気持ちだって畑から離れることはありません。
やがて、知らない同士だった参加者がお互いに談笑しながら畑の草とりや試食をしたり、お
「ヤギさんはまだ小さくてそんなに歩けないから、台車に乗せていっしょに畑に行こうね」
茶を飲んだり……と、子育てや趣味、農作業の話をするなかで新しいコミュニティーづくりの
「ヤギさん今日朝ごはん抜きなの。お腹が減っているから、みんなで草をあげてね」
場となっています。本来は午前中での終了予定も、ついつい話が弾んで、午後 2 時を過ぎるこ
かわいい子ヤギのためならばと、一心不乱に大豆畑の草取りをする保育園児たちの姿が印象
ともしばしば。
的です。なんのために作業をするのか。子どもたちは、誰かに喜んでもらったり認めてもらえ
代表の熊谷正道さんは、「この地域は転入してくる子育て世代が多いので、育児ストレスの
ることがこのうえなく嬉しいのです。そうした「生きがい」や「やりがい」を子どもたちは体験を
発散もふくめて、子どもと一緒に土にふれたいという声が多いんです」と、子育て世代を対象
通して感じています。
とした取組みに手応えを感じています。
最後までこのエネルギーを保っていくかなめは、きっと子ヤギの存在。子どもも大豆も子ヤ
ギも、みんなで成長していこうと願う森川さんです。
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
59-a
教育ファームネットワーク
子育て時代・小学生の教育ファーム
教科学習にもどんどん広がる教育ファーム
書と田んぼでの生きもの観察を、子どもはしっかり
結びつけてとらえていたのです。
「サクラソウがタネを実らせるためには、トラマルハナバチがいなければなりません。トラ
「教育ファームは、ただほ場で作物を育てるだけ
マルハナバチが生きていくためには、サクラソウはもちろん、その他の花々、またネズミがい
でなく、教室の勉強にもつながるんだ!」
なければなりません。このように、生きものはみなつながり合っているのです。つまり、サク
先生は思わず、作文に花マルをつけました。
ラソウを絶滅から守るためには、サクラソウだけを保護するのでは不十分です。おたがいに、
その日からスイッチが入ったかのように、先生は
つながり合って生きている生きものたちの全体を守っていかなければならないのです」
教育ファームでの活動が楽しくてしかたなくなりま
(鷲谷いづみ著 光村図書「小学校国語 5 年」の教科書から)
した。一度そういう意識の目で見られるようになる
と、ほ場で子どもたちが体験するあらゆることが、
ラマルハナバチ」は、国語の教科書に載っているお話のひとつにすぎませんでした。先生には
いろいろな教科学習へとつながっていきます。
やらなければならないことがたくさんあります。ここの 5 年生たちが、2008(平成 20)
年から
例えば野菜の植えつけの日。指導農家の萩原知美
お米づくりや野菜づくりの教育ファームに本格的に取り組むことになり、校内でのバケツイネ
さんは、土の上にヒモを張りながら子どもたちに語
栽培だけでなくほ場までバスで学校から引率していくこと、田植えと収穫だけでなく間にも何
りかけます。
度か活動があることなどを聞いたとき、正直、あまり気持ちが入りませんでした。
「このヒモと平行に鍬の刃を当てて土に入れてい
6 月に田んぼで草取りと虫の観察を行ったとき、自然観察の指導に来ていた NPO 法人オリ
ってください、みんな
『平行』ってわかる?」
ザネットの古谷愛子さんが、子どもたちに言いました。
「はい、ヒモにまっすぐっていうことです」
「田んぼにはいろいろな生きものがいます。イネも生きものもみんなつながりあっています。
「お、すごいね、きみ、じゃあちょっとやってみ
みんながお米を食べないと、田んぼがなくなって、田んぼがなくなると田んぼの生きものもい
せて」
なくなってしまいます。だからみんな、お米
指示どおり、ヒモに
「平行」に土を掘っていく姿を見て萩原さんは、
食べようね」
「よおし、ちゃんと
『平行』わかってるね、みんなちゃんと算数勉強してるんだね」
子どもから大人まで
埼玉県さいたま市立仲本小学校 5 年生の担任の先生にとって、最初、この
「サクラソウとト
学校に帰って子どもたちに作文を書かせる
と、一人の子がこんな感想を記したのです。
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
先生は、ほ場作業用に長靴を新調しました。実はこ
4
「サクラソウとトラマルハナバチのように、
れが、先生にとって初めての長靴購入。
生き物はみなつながりあって生きているんだ
「教育ファームで一番変わったのは、わたしかもし
なと思いました。そして、生き物たちのた
れない」
めにごはんをたくさん食べたいと思いました
一年の活動が終わったとき、先生はしみじみとそう
……」
言いました。
先生のなかではバラバラだった国語の教科
59-b
田んぼの生きもの観察をする仲本小 5年生
先生も生徒もみんな長靴
* ワ ー ク シ ー ト『 イ ネ を 育 て る
観 察・ 調 査
生きものたちのつながりを見
てみよう!』参照
URL:http://efufarm.jp/zai/ine_k_40.html
生きもの観察後の5年生女子の作文
教育ファームネットワーク
ライフステージごとに
中高生・大学生・親が楽しむ教育ファーム
技術家庭科で広がる中学生の教育ファーム
子どもだけでなく、親も夢中に
子どもから大人まで
栃木県都賀町では、地場産物にこだわった食
2008(平成 20)
年で開校 13 年目、
「おおやま
育を進めています。町内農産物を活用した給食
だ農業小学校」
(三重県伊賀市)には、大阪や名
や地元農家との交流などを通して、「自分でも
古屋など県外も含めて 20 組ほどの家族連れが
野菜をつくってみたくなりました」という声が
農業体験にやってきて、教育ファーム活動に取
都賀中学校の生徒たちからもれました。
り組んでいます。9 月と 10 月は、月 2 回の活
「じゃあ、やらせてみようか」
「でも、どこの
動日のうち 1 回は
「自由登校の日」。参加も自由
授業で?」。そこで、学校の先生たちが目をつ
となっていますが、2 回ともしっかり参加する
けたのが、2 年生の選択技術家庭科です。技術
親子が大半という人気ぶり。
科は「ものをつくりたい」男子生徒が選択し、家
庭科のほうは「料理をしたい」女子生徒が選択す
調理実習でかぼちゃプリンづくり
「
『家族で農業小学校に参加しよう』と言いだ
すのは、大抵はお母さん。でも活動がはじまる
ビンづき精米。
「おおー、
白いお米でてきたー」
と、
子どもたち以上に盛り上がるお父さん
み とま
* ワ ー ク シ ー ト『 野 菜 を 育 て る
遊 び・ 調 理
野菜の簡単料理にちょうせん
しよう!』参照
URL:http://edufarm.jp/zai/sai_c_02.html
る科目なのですが、それをいっしょにやることに。農作物を育てることも
「ものをつくる」
こと
と、いつの間にかお父さんの方が農業にハマってるんですよね」と、事務局長の三苫悟さんは
だし、それを食べるところまでつなげれば「料理をする」
ことにもなる。こうして、中学生の教
言います。
育ファームが、技術家庭科ではじまったのです。
秋口、田んぼでは集まった家族が稲刈りに精をだします。子どもとお母さん、お父さんが協
一緒に畑に集められて最初は「え?」という戸惑いの顔を隠せなかった男子生徒と女子生徒で
力して稲束をバケツリレーの要領で運び出すなど、作業中の親子の息はピッタリ! みんな張
すが、畑に入ってしまえばすぐに、初めてのカボチャの苗植えに夢中になりました。すくすく
り切っていますが、なかでも一番ハッスルしているのはやっぱりお父さんたち。
と育ったカボチャは大豊作で、7 月と 8 月の 2 回に分けて収穫。調理実習ではかぼちゃプリン
「農作業は、いざやりだすとけっこうおもろいんですわ。畑に来れへんと野菜がどうなって
をつくりました。そのあとは同じ畑でブロッコリーの苗植えです。虫取りをして草取りをして、
るか気になるし。そうしたら月 1 回の体験では少ないんですわ」と、参加したお父さんは子ど
無事収穫できたブロッコリーを、JA 直売所での販売体験にまでつなげました。
もたち以上に真剣そのもの。
「スーパーで売ってる野菜を自分で育てるのはとても楽しかった」
おおやまだ農業小学校には、家族ごとに約 5㎡に区画された「マイ畑」があります。この畑は
「自分で育てていると、病気で弱っている作物を見つけたとき悲しい」
家族で好きな野菜を植えられますが、ほったらかすとすぐに草がボウボウに。
「野菜を育てるのは手間のかかる仕事だったが、それを調理して食べるととてもおいしくて、
世話をしたらしただけの成果が返ってくる、そんな農業の世界が、お父さんたちにはたまら
今度自分で何かつくるときはていねいに手間をかけたいと思った」
ないようです。
こういった子どもたちの感想に大きな手ごたえを感じた先生たちは、新しい学習指導要領の
休憩時間に
「マイ畑」で育てたハーブをほかの家族にふるまいながら、畑の管理について語り
必修技術家庭科で、農業体験をさらに充実させていきたいと考えています。
(カード 42、50
合うお父さんの姿は、とても生き生きとしています。
参照)
教育ファームは、子どもが変わるだけでなく、子どもを通して親も変わる取組みなのです。
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
60-a
教育ファームネットワーク
中高生・大学生・親が楽しむ教育ファーム
未来の教師の卵 大学生たちの教育ファーム
いています。
一人の教師が食育を施すことになる子
「これからの学校教育を担う未来の教
どもの数は、教師人生のなかで数千人に
師たちに、農作業体験学習・食育指導の
ものぼるでしょう。ということは、食育
力を!」
の普及と発展にとって
「未来の教師の卵」
大分大学教育福祉科学部学生が、県内
あ
じ
たちの養成が、とても大事な鍵をにぎっ
む
3地区
(安心院町佐田地区・佐田小学校、
ているということです。いつか子どもた
ひがし はん だ
ちの前に立つようになったとき、体験学
地区・東飯田中学校)の教育ファームに
習やボランティア活動などを教える際に
補助員として参加しています。
も、この教育ファームでの貴重な経験が
小・中学生 5 ~ 6 人に 2 ~ 3 人の大学
持つ意義ははかりしれません。今後、ほ
生がつき、一緒に農作業を進めます。つ
かの大学においても広まっていくことが
まり 2 ~ 3 人の子どもに大学生 1 人の割
合ということになり、安全面で細かい目
各班に配属される「お兄さん、お姉さん」先生(佐田小学校)
九重町の特産・ナシの収穫では中学生と共同作業
(東飯田中学
子どもから大人まで
院内町・南院内小学校、九重町 東 飯 田
校)
期待されます。
URL:http://edufarm.jp/zai/kju_s_07.html
もの間に立ってやさしく翻訳する役割も担うので、農家からも小・中学校からも大歓迎されて
います。
3 つの学校のうち、すぐそばに田んぼ
小学生から大学生への手紙
がある南院内小学校では、実は学生たち
より子どもたちのほうが経験豊富。棚田
でイネ刈りをしたときには、慣れたしぐ
さで鎌を使いながら「兄ちゃん、もちょ
っと根元近くを刈らんと」と、子どもか
ら大学生に指示が出される場面も見られ
たりします。学生たちは、農作業以外に
大学生から小学生と農家への手紙
運動会や文化祭にも参加し、子どもたち
と
「ちゃん」づけで呼びあう仲になりまし
た。お互いの間で、手紙のやりとりも続
60-b
日本棚田百選の地で思い出に残る共同体験
(南院内小学校)
*ワークシート『果物を育てる
作業
育てたナシを収穫しよう!』参照
が行き届くようになるのはもちろん、言葉や指示がともすれば専門的になりがちな農家と子ど
教育ファームネットワーク
集まれ! 魅力ある人材
人のつながりを生かす
地域の人材を生かしながら人のつながりを広げ、参加者が通いつづけたくなる教育ファーム
高取町の教育ファーム 小学校 5 年生の体験指導の連携
をプロデュースしていきましょう。
栽培・収穫
食と農の名人登録で高齢者のマンパワーを生かす
大 豆
ご近所のおじいさんやおばあさんの力を借りることは、教育ファームの取組みを充実させ、
地域の宝を次世代に伝えていくうえで重要なことです。しかしいざ相談してみると、
「年寄り
だから」
「今さら教えてやることなどない」といった断りもしばしば……そんなとき、食と農の
もち米
知恵や技をもった地域の先達たちを「名人」として登録することが効果的です。
みんなの力で
「別俣農村工房」
(新潟県柏崎市)は、県の「なりわいの匠」
認定事業
(平成 18 年度)
を活用して、
別俣地区(久米、水上、細越の 3 集落)在住の高齢者に匠への登録を声かけしてまわった結果、
花いっぱい推進研究会
枝豆 黄粉
味噌づくり
ふれあい加工部
栽培管理
WMA(体験田の地区の農家グループ)
田植え・収穫
餅つき・
しめなわ
農畜連合会
農業委員会
高取町事業課:学校と指導団体の連絡調整
(1)自然観察体験の匠、(2)農林漁業体験の匠、(3)郷土文化
URL:http://efufarm.jp/zai/ine_s_14.html
*ワークシート『イネを育てる
作業
もちつきをしよう』参照
体験の匠、(4)農林水産物体験の匠の 4 つの部門で 493 名の
いっぽう、もち米のほ場管理は、体験水田のある上子島地区の農家グループ、WMA(集落
匠が誕生しました(柏崎市の匠の 3 分の 1 が別俣地区)。匠の
景観づくりや農産加工などの活動)が支援しています。そして、米づくりのメインイベント体
認定を受けることは、地域の高齢者たちにとっても大きな励
験、田植え・稲刈り・餅つき・しめなわづくりには、専業農家など町の農業の担い手からなる
みです。「笹団子づくり」や「炭焼き」、
「ぬか釜の飯炊き」
など、
「高取町農畜連合会」、農業委員会と上記団体が協力して指導にあたります。もちつきの日は、
それぞれの得意分野を生かして教育ファームの取組みをバッ
体育館に臼を 5 つ持ち込んで大餅つき大会です。白・黒・茶の3色の大豆をきな粉にして、つ
クアップする〈地域の応援団〉となっています。
きたての餅につけて、味比べ。全校児童にふるまうほか、5年生は3種のきな粉とともに家庭
へ持ち帰り。珍しい黒豆・茶豆の味に、若いお母さんから喜びの声が寄せられます。
いろいろな願いで町づくり活動する団体が連携
町の学校給食センターには、ふれあい加工
部が味噌を、農畜連メンバーが野菜や柿など
奈良県高取町の教育ファームでたかむち小学校 5 年生
(2 クラス)が体験するのは、大豆とも
を納めており、学校へ食材紹介にも出かける
ち米の 2 作物ですが、
指導には多くの団体が連携して当たっているのが特徴です
(カード 3 参照)。
おなじみの皆さんです。さらに数団体が協力
大豆栽培は「高取町花いっぱい推進研究会」。町の公共施設や学校、商店街に花苗を贈るな
して、町民の農業体験や、農業祭をサポート
ど美化活動をすすめる団体で、地区老人会の参加が多く、教育ファームでは孫世代とのふれあ
しています。このような取組みが重なり、若
いを楽しんで大豆を育てます。次いで、枝豆の試食や、きな粉・味噌づくりは、地産地消と特
い世代が地域産物の魅力に出会い、やがては
産品づくりに取り組む加工グループ「高取町ふれあい加工部」
の出番です。元食生活改善推進員
各団体の理解者・後継者が育っていくことが
たち中心の 10 名が、食の心と技を伝えて指導します。
期待されます。
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
体育館で餅つき大会
61-a
教育ファームネットワーク
人のつながりを生かす
頼りになる 都会の出前授業で同郷出身者の応援
「稲作体験の申し込みは大丈夫ですか?」
らイメージを広げます。
とにかく東京と山形ですから、学校との密な
連絡態勢は欠かせません。事前に作業行程を指
いい で まち
いのでしょう !?」と学校から寄せられる駆け込
も返事がなくあきらめかけたとき、新宿のある小学校から、まだ申し込みができるかをたずね
み寺的な問い合わせにも、メールを使ってしっ
る問合せの電話がかかってきました。
かり対応します。
そうして、同年 4 月から都内の複数の小学校で、タネまきから育苗・田植え・イネ刈り・収
さらに、飯豊町から首都圏に移り住んだ人た
穫祭までの出前授業がスタート。
ちで組織する東京飯豊会が、活動を強力にサポ
出前にやってきた JA おきたま青年部と東京飯豊会
事前に学校の先生を通じて、“みんなで「山形はえぬき」を育てよう”と題したプリント
(告知
ートしてくれます。出前授業当日のお手伝いは
の面々
版)
を子どもたちに配ってもらいます。
もちろん、田植え後の学校田の様子を見に訪れ、水管理のことや「そろそろ害虫に気をつけた
「はじめまして、私たちは、山形県飯豊町の農業青年の集まりです。今年 1 年間、稲作体験
方がいいですよ」と先生にアドバイス。都会で暮らす会のメンバーたちも、子どもたちとのふ
のご指導をさせていただきます。第1回目の授業は“山形はえぬき”
のタネまきです! 親子で
れ合いを楽しみ、何年ぶりかの農作業にふるさとを思い出します。
参加してみませんか?」。こうして、保護者をも巻き込んでの授業がスタートしました。
出前授業先のひとつ、杉並区立杉並第 6 小学校では、山形から農家に来てもらうばかりでな
子どもたちには、宿題が課せられます。
く、希望する親子たちが飯豊町を訪れ、“本物の田んぼ”でイネ刈り体験をします。
「良い種もみの選び方は?」
また、新宿区立落合第 2 小学校では、2008(平成 20)年 12 月から、飯豊産米の「山形はえぬき」
そうして子どもたちは、「未知の世界」である農業に導かれていきます。ただ言われたとおり
が学校給食に採用され、年間 2,400kg のお米が届けられることになりました。ここは実は、
「稲
に
「農作業をするだけ」でなく、子どもたちが興味を持って自ら考えながら取り組むプログラム
作体験の申し込みは大丈夫ですか?」という問合せを最初にしてきた学校です。「お米の出前授
になっていくのです。
業引き受けます」という 1 通の案内文をきっか
出前のおみやげには「びっくり箱」を持参しま
けに始まった出前授業交流が、とうとうここま
す。中身は田んぼの生きものや雪、ワラジなど、
でつながりました。
都会の子どもには珍しいモノばかり。目を閉じ
「米づくりを通して、環境や生態系のことを
た子がおそるおそる袋に手を入れて、「雪って
考えてもらい、さらに山形の農産物をアピール
(冷たいを通り越して)痛~い!」
「イナゴにかま
して、飯豊ファンを広げたい」
れた~!」と大騒ぎ。遠く離れた山形の自然や、
JA おきたま青年部メンバーたちの思いを乗
初めてふれる生きものを目の当たりにし、「お
せ、飯豊町を夜中の 2 時に出て車で 6 時間、山
兄さんたちの飯豊町ってどんなところなんだろ
形から東京への出前授業は続きます。(カード
う?」。子どもたちは五感をフルに働かせなが
61-b
びっくり箱「何が出てくるかな?」
8、11、19 参照)
山形から到着した出前カー
URL:http://efufarm.jp/zai/ine_s_03.html
引き受けます」という案内文を発送したのは、2004(平成 16)
年1月。10 日経ってもどこから
*ワークシート『イネを育てる
作業
いい種もみを選ぼう!』参照
示するのはもちろん、時には、「どうしたらい
みんなの力で
山形県飯豊町 JA 山形おきたま青年部添川支部が、都内の小学校 100 校に
「お米の出前授業
教育ファームネットワーク
効果測定
振り返りの手法
いろいろなドラマがあり、いろいろな体験をした教育ファームの活動。やりっぱなしではな
う!」というメインタイトルで、活動のたびにワークシートを書かせました。4 月のタネまき、
く、必ず振り返りの時間を設けるようにしましょう。子どもたちの変化、成長を見ることは、
5 月の間引き、6 月の観察、そして 7 月の収穫。このように時系列に沿ってまとめておくと、
親や先生、農家たちの変化、成長にもつながっていきます。
整理もしやすいし、子どもたちがどのように変わっていったか、その過程を追うのにも有効で
す。
感想文
(作文)
5 月 19 日間引き
オーソドックスな手法ですが、子どもにとっては文章を書
くことが、活動のときに感じたことや思ったことなどを改め
て思いだすきっかけになります。
変化を見る
子どもたちが書いたものを読むと、ほほえましいもの、え
7 月 14 日収穫前の観察
っ!と驚かされるもの、思わずうなってしまうようなもの、
さまざまな個性に出会うことができるでしょう。
子どもから教育ファームの感想をきいたお父さんお母さ
ん、家の人からも、ひとことコメントを書いてもらいます。
*ワークシート『イネを育てる
表 現・ ま と め
お世話になった農家の方に、
絵手紙を書こう!』参照 URL:http://efufarm.jp/zai/ine_h_05.html
親子の会話がふえ、また話をすることで、お互いに気づい
ていなかった発見があるかもしれません。
指導生産者への手紙
何か課題設定をする場合は、子どもが何を感じたのか、ど
ういうことに関心をもったのか、できるだけ子どもの感性
を大事に引き出せるようにしましょう。
ワークシート
お世話になった人たちへの手紙は、もちろん感謝や
上 2 点とも栃木県都賀中学校 2 年
生の作文
(カード 42、50、60 参照)
お礼を込めてのものですが、そういった言葉をつづる
こと自体が、子どもたちにとって大事な振り返りにも
なります。
絵を描いて簡単な文章を添えて、活動を記録します。デジタルカメラで写真を撮って、パソ
最初はできなかったことが、たくさんの人たちに助
コンの勉強と結びつけている学校もあります。
けてもらいながら、だんだんと楽しくなり、そして最
活動のときに、現場で作物の絵を描かせると、作物の背丈を測ったり花の数を数えたり葉っ
後にはちゃんとできるようになった喜びと感謝の思い
ぱの形をよく見たり、普段は見落としてしまいがちなことまで、子どもたちはびっくりするく
を、子どもたちは、みずみずしくストレートに書いて
らいの観察力で絵と文章にしていきます。
いきます。
大阪市で教育ファームに取り組んでいる東果大阪株式会社の食育プロジェクトチームは、ト
ウモロコシを育てた和泉市立黒島小学校の 4 年生に、
「野菜バリバリ トウモロコシ博士になろ
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
愛知県安城梨の里小学校5年生
が、指導農家に書いた手紙
(カー
ド 45 参照)
62-a
ウェビングマップ
7月
活動や学習を通して子どもたちがどのように成長したかを見る手法のひとつに、ウェビング
マップがあります。
例えば、「米づくり」というテーマで、
●どのようなことを知っているか
教育ファームネットワーク
振り返りの手法
●何に興味や関心があるか
そのつながりを子どもたちに自由に描かせます。すると、右のようなクモの巣状の図ができ
てきます。
変化を見る
ポイントは、活動初期の段階と、すべての活動終了後と、2 度同じように描かせてみること。
準備としては、中央に「米づくり」と書いた A4 用紙を配るだけです。
右に例をあげた埼玉県さいたま市立仲本小学校の 5 年生は、まず、7 月に田植えと草取りを
行ったあとに 1 度目のウェビングマップを描きました。それが上の図です。書かれている言葉
は、
「田んぼ、虫、草……」
そして、イネ刈り・収穫祭・調理実習と、すべての活動が終わった 12 月、同じ子どもに同
じテーマで描かせたのが、下の図です。書かれているのは、
「最初はとまどった」
「教えてもら
いながらやった」
「最後にはちゃんとできた」……
比べてみると、活動終了後には、実際に体験したことや感じたことなどを記した文章になっ
ているのに対し、7 月のものは、学校やテレビなどで見たり聞いたりしたことのある、ただの
「知
識の単語」を書きつらねているだけなのがわかります。
「知識の単語」は、本人でなくても書けるかもしれませんが、やったことや感じたことなどは、
体験した子ども自身でないと絶対に書けません。つまり、この子は教育ファームを通して自分
だけの
「生の体験の言葉」を手に入れたということが、このふたつのウェビングマップを比べる
ことでわかります。
この
「生の体験の言葉」は、「知識の単語」とは違い、時間が経ってもきっと忘れずに、子ども
のなかに残りつづけるでしょう。
62-b
12 月
教育ファームネットワーク
安全対策
計画段階と体験活動前のチェック
行政、引率側
(学校など)、受け入れ側の農林漁家が共通に確認・準備しておく
どに注意します。
ことを、以下にあげます。活動の内容や場所に応じて必要項目を抜き出しチェッ
危険が潜んでいる河川、水路を確認し安全処置をしましょう。
クリストをつくるなどして、活用してください。
・たとえ小さな用水路でも、コンクリートは滑りやすく、転倒することが
あります。流れの速い水路、特に暗渠入口、落差口付近は、フェンスや
体験計画時の検討事項
①事故など緊急時の対応についての確認
救急病院の電話番号と所在地の把握のほか、学校、保護者の連絡網リスト
安全・快適作業
を作成しましょう。
事故時に誰がどこに連絡するか、決めておきましょう。
搬送手段の確認をしておきましょう(誰が搬送、付き添うか)。
残った子どもの対応について確認しましょう(いつまで誰が見るか)。
滑落防止の処置のあるなしを確認しましょう。
・小さな子どもが入り込める場所や滑落・転落しやすい場所、大人の背丈
からは見えにくい場所などを確認しましょう。
崖などがないか、落石・崩落の危険がないか、確認しましょう。
道路状況の現地確認をしましょう。
・学校からの移動手段(徒歩・自動車)や経路を確認しましょう。
・自動車交通量を確認し、当日の対策を検討しましょう。
④作業内容やスケジュールの確認
体験時間は、子どもに無理のない、余裕のある設定としましょう。あせり
は事故を誘発します。農林漁家と先生とで体験活動の流れと所要時間をよ
②使用する器具・機械の使用法、安全のための注意点の確認
使用する農機具の現場での動き方と、子どもが安全に体験できる方法を確
認しましょう。
引率者は鎌、鍬、鋤、草かきなどの農具の扱い方の講習を受けましょう。
③危険箇所の現地確認
作業フィールド内および付近の状況確認をしましょう。古い肥だめや室(む
ろ)
、廃棄に使用した穴、しまい忘れた農具や落ちているガラス・金物な
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
く打ち合わせて時間設定をします。
徹底した教材研究が、良い体験活動になり、リスク軽減につながります。
指導者の人数や年齢・性別により、柔軟に体験を考えることが大切です。
子どもの状況やレベルに合わせ、安全に作業ができる内容としましょう。
体験活動時の子どもの服装や持ち物の確認をしましょう。
63-a
作業は、用意から片付けまでの手順を確認し、危険が隠れていないかを二
者で検討しましょう。手順表などを作成すると、子ども用教材としても使
用できます。また次年度以降の参考となります。
⑤天候・事故による作業変更や中止の方法の確認
フィールドにおけるトイレの状況を確認しましょう。体験する田畑の付近
雷・降雨・増水時の対応策を確認し合いましょう。特に、夏場の天候悪化
で借りられるトイレは、事前にお願いをしておきましょう。
は突然です。どの方面からの雷雨がどのくらいのスピードで来るかを確認
持ち物、服装、足支度などは再度、確認・点検しましょう。
しておきます。
・子どもが忘れ物をすることは、必ずあります。それを想定の上で、対応
落石・崩落から子どもを守るため、あらかじめ危険回避の手段を検討しま
しょう。
地震などの災害発生時の対応を検討しておきましょう。
⑥保険への加入
・前 日の連絡で服装や持ち物のチェック表を配布するようにしてくださ
い。帽子や軍手の有無、靴などの足支度、夏場の水分補給など、必要な
持ち物の有無による作業効率の差は大きく、ひいては安全性にも影響を
与えます。
②自然環境の確認(自然は常に変化している)
保険には必ず加入しましょう。その際に、加入する保険の保障などの内容
蜂の巣、毒蛇・毒虫・毛虫、ウルシなど、わかり得る危険の回避策を講じ
を確認しておくことが大切です。事故によっては、行政・学校などの組織
ましょう。
だけでなく個人の責任を問われることもあります。
フィールド付近に急流・崖地が存在する場合は現状を把握して、当日の指
導に入れましょう。
体験 1 週間前の打ち合わせ(引率側と受け入れ側、双方で)
天候により作業を変更、あるいは中止する場合があります。決定の時間や
決定者、および調整と連絡のし方を確認をしておきましょう。
①作業内容、スケジュール、手順の確認
その日の体験内容は農林漁家と引率者で共有しましょう。いつ、どこで、
③子どもの情報・状況の共有
何をする、という点を共有することで、さまざまなリスクは軽減できます。
子どもの状況は二者で共有しましょう。障害や病気・アレルギーの子ども
気になる点はすべて確認し合うことが大事です。
の情報を農林漁家が承知していることで、リスクが回避され、事故の可能
学校など出発地点から、作業を終了し解散地点に帰るまでのスケジュール
性を減らします。
を確認し合いましょう。出発地点からの交通量の確認を再度しておくこと
が、望ましいでしょう。
※
『農作業安全のための指針』
( 平成 14 年 3 月農林水産省通知)など、具体
例の多い参考資料に目を通しておきましょう。
63-b
安全・快適作業
その他、緊急事態の発生時における対応の確認をしましょう。
を整理しておきましょう。
教育ファームネットワーク
寒暖など気象や環境の体調への影響を考慮し、休憩時間を設けましょう。
教育ファームネットワーク
安全対策
活動当日のチェックと緊急対応
体験当日の確認事項について、行政、引率側(学校など)、受け入れ側(農林漁
もに関する状況を伝えましょう。
家など)に必要な安全確認点をあげます。活動の内容や場所に応じて必要な項目
学校、医療機関、保護者の連絡網は常に携帯するようにしましょう。
を抜き出しチェック表をつくるなどして、活用してください。
(※個人情報の持ち出しですので、絶対に手元から離さないよう注意する
こと)
引率者側の体験当日の確認事項
①子どもの状況確認
農林漁家など受け入れ側の体験当日の確認事項
安全・快適作業
学校の
「朝の会」など、集合時のミーティングの段階で、当日の服装や持ち
子どもたちは鎌や鍬の使い方をまったく知らないと想定して、けがをしな
物を確認しておきましょう。
い使い方の指導をお願いします。
フィールドに行く直前に、移動時・体験時の諸注意をしましょう。体験場
所では、指導者(農林漁家)に約束事を話してもらいましょう。
必ず子どもの健康チェックをしましょう。引率者自身が確認をします。
・体験ができるかどうかの判断や、全体のスケジュールに影響しそうな状
湧水や沢水を飲ませないでください。腹痛の原因となることもあります。
収穫物を食べる際には、手洗いなど衛生管理に十分注意しましょう。
況を把握することが大切です。一見、健康そうでも、指爪の確認、排便
子どもの行動は大人の想定する範囲から大きく飛び出します。そのことを
の状況、前日の睡眠時間、朝食の摂取などを確認しましょう。
頭に入れて指導してください。
・体調だけでなく、心的状態に起因する事故もあります。子どもの普段の
様子を把握し、その日の変調をつかんでください。
用水路やため池・農業機械・農具など、危険な場所や物はたくさんありま
す。体験前に、どのような行動をするとけがをするか、ときには命を落と
す危険がある、ということを子どもたちに必ず話してください。
②学校など、引率側の体制
養護教諭などの養護担当者に救急箱の用意をお願いし持参するとともに、
危ない行動を発見したら、その場で叱りましょう。
引率者は緊急時の対応について確認しましょう。
秋の収穫時期は、蜂や毒蛇、その他害虫と遭遇する機会が増えます。その
作業場所の地図は、引率者のほか、学校事務係や養護担当者に渡しておき
際の対処法や、踏み入れない方が良い場所などを先に確認し、体験を開始
ましょう。
する前に話してください。
朝、実施の確認連絡を農林漁家にしましょう(天候などにより中止・変更
の調整の可能性があります)。その際に、体験プログラムの再確認と子ど
農林水産省 平成 20 年度にっぽん食育推進事業「教育ファーム推進事業」 作成:(社)農山漁村文化協会
64-a
教育ファームネットワーク
事故発生時の処置
①迅速・的確な処置
事故が発生した場合、いかなる場合でも冷静に状況を把握して、迅速・的
確な処置をすることが、被害の拡大というリスクを軽減します。
事故状況を直ちに学校などに「いつ、どこで、誰が、どうした」
「どいう手
を打った」
と的確に報告しましょう。責任者の判断と指示によって対応策、
その役割分担を決めて行動します。
子どもの病気やけがに対して、安易に自分で重軽度の判断と指示をしない
ようにしましょう。子どもによってはその場で言わないケースもあるので、
常に気を配りましょう。
安全・快適作業
②緊急の連絡体制
関係機関などへの連絡は速やかにし、事故状況に応じた対処の手配・協力
を得ることをおすすめします。
ここまで見てきたとおり、かなり多くの確認事項があります。受け入れ側、引
率側としては、心配も準備も多く、気持ち的に負担が大きいと感じられるかもし
れませんね。
けれども、子どもたちが農林漁業のフィールドに飛び出していくこと、そして
平成 20 年度「教育ファーム推進事業」の詳細については、「教育ファームねっと」
(http://edufarm.jp)
をご覧ください。
そこで体験を重ねることは、私たちの想像をはるかに上回る、充実した学びの機
会となります。子どもたちの質の高い学びの機会をつくり継続させるためにも、
発行日:平成 21 年 3 月
しっかりと安全対策をして、楽しさと喜びに満ちた学びを体験させましょう。
発 行:社団法人 農山漁村文化協会 提携局
64-b
「教育ファーム推進事業」
事務局
〒 107-8668 東京都港区赤坂 7-6-1
TEL.03(3585)
1144 FAX.03(3585)
3668
E-mail:[email protected]
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