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金曜班-色素増感太陽電池-
金曜班-色素増感太陽電池- 1.動機 酸化チタンの光触媒効果に関連したことを研究したいと思って題材を探していたとこ ろ、おまけ話のような感じで紹介されていたのを読んだのがこの電池との出会いである。 光触媒効果とはあまり関係はないようであったが、構造のシンプルさと光を当てるだけ で発電できるという魅力に惹かれて、研究してみることにした。 2、目的 太陽電池の光電変換率の高い値を追及するというのは資金的にも技術的にも難しいの で、私たちはさまざまな身近にある色素を用いて電池を作り、比較的高い性能を示すもの を探していく。 3、色素増感太陽電池の特性 利点 ・高い変換効率 現在の最高値が約 11%であり、一般的なシリコン太陽電池とほぼ同等 である。また理論限界太陽エネルギー変換率は 33%であり、シリコン太 陽電池の 29%よりも高くこれからの発展性が高い。 ・安い製造コスト 試算する条件によって様々であるが、シリコン太陽電池に比べて半額程度の値段 で製造できると報告されている。 ・原材料の資源的制約が少ない ・多種多様な色素増感太陽電池の製作が可能 多様な有機系増感色素や酸化物半導体の組み合わせで、電圧など自在に調節でき る。 ・環境適合性がいい 製造プロセスが簡単で省エネルギー的であり、高真空や高温が必要なく環境にや さしい。また、有機物を色素に用いているので、容易に脱離や燃焼除去でき電極は リサイクル使用が可能である。 課題点 ・セルの封止技術 電解質の揮発や空気水分の混入が問題となり性能低下に繋がる。 実用化達成のための壁になっている。 1 3.グレッツェル・セルの作動原理 ①:導電性ガラス基板(ITO・FTO)を通過して入射した太陽光は TiO₂表面または ZnO 表面に化学固定された増感色素に吸収される。光を吸収した色素は電子的な基底 状態(S⁰)から励起状態(S*)になる。 ②:励起状態から増感色素の電子は TiO₂または ZnO の導電体に注入される。その結果 増感色素は酸化され酸化状態(S⁺)となる。このとき励起電子の半導体への効率的 な注入のためには、色素の励起エネルギー準位が半導体の伝導帯エネルギー準位 よりも負でなければならない。 ③④:半導体に注入された電子は拡散によりバックコンタクト(SnO₂導電性膜)、結線を 経由して対極へ導かれる。 ⑤:酸化された色素(S⁺)はレドックスメディエーター(酸化還元伝達物質)の(I⁻)から 電子を受け取り基底状態の色素(S⁰)に戻る。 ⑥:酸化状態となったメディエーター(I₃⁻)は対極へ拡散する。 ⑦:対極にきた I3-は電子を受け取り還元状態のメディエーター(I-)に戻る。 2 上記のものが、電子のワンサイクルである。 この太陽電池の最大の発生電位は光電極半導体のフェルミレベル(TiO₂のn型半導体で は伝導帯準位に近い)とレドックスメディエーターの酸化還元電位との差で規定され、こ れでは TiO₂光電極のエネルギー準位は SCE(甘汞電極)に対して-0.7V、I⁻/I₃⁻メディ エーターの酸化還元電位は SCE に対して+0.2Vと評価されており、この組み合わせでは 0.9Vになる。 しかし、色素の励起状態の緩和や失活、③の過程で電子の色素酸化体との再結合、透明 酸化スズ電極で収集された電子とレドックス電解質の酸化体イオンとの再結合など逆反 応も正反応の過程で生じこれを抑える工夫が必要である。 4、作成手順 流れは以下のようになる。 ① ペースト・電解溶液の調整 ↓ ② ペーストの ITO への塗布 ↓ ③ 焼成 ↓ 光 ④ 色素溶液につける ↓ ⑤ 対極の作成 ↓ TiO2電極 ⑥ 組み立て 完成 対極 ① ペースト・電解溶液の調整 ペースト 酸化チタン(P25) 0.8g PEG20000 0.4g 水 2.0g 酢酸(原液) 0.5ml ペーストはすべてを混ぜ合わせた後、6 時間振とう処理を行うとあ るが、設備的に不可能であるので、その分乳鉢ですりつぶす。 3 それぞれの試薬の意味は、 TiO2 酢酸 半導体 ナノサイズの TiO2の等電点よりさらにpH を低く して粒子の表面を+状態にし、粒子同士が静電 反発してよく分散するようにするため。 PEG20000 増粘剤。混ぜて焼成することにより多孔質に なり、色素を染み込みやすくさせる。 電解溶液 PEG200 30ml ヨウ素 I2 0.05M 0.25g ヨウ化ナトリウム NaI 0.5M 1.50g 電解溶液に溶媒として PEG200 を用いたのは、bp が高く蒸気圧が低いため、 オープンセル(電解溶液を封止しない)で測定する場合には適しているため。 明記しない限りこちらの電解液を使う。 30ml アセトニトリル ヨウ素 I2 0.03M 0.228g ヨウ化ナトリウム NaI 0.3M 1.349g アセトニトリルは bp が低く測定はしづらいが、レドックスメディエーターの 溶媒としては性能が高いため用いた。 ② ペーストの ITO への塗布 右の図のように ITO に TiO2ペーストを、 スキージ法を用いて塗布する。 このとき、メンディングテープを重ねる などして膜厚を変え、効率と透明度を 調節する。 4 ③ 焼成 ガスコンロを用いる。目標は 450℃まで 30℃/mで上昇させ、全体として 30 分 ほど焼く。テフロン加工が 270℃付近で分解してしまうなどから、フライパンの ほかに銅板も用いる。温度調節はアルミホイルなどを敷くか火力を調節する。 ペーストが白から黒褐色に変化し、また白に戻れば出来上がり。温度を下げる ときには、銅板から動かさない。(割れる恐れがあるため) ④ 色素溶液につける。 植物やコーヒーなどから色素を煮出す。このときはなるべく濃いほうがよい 最初は増感色素としてエオシン Y を用いた。これをエタノールに溶かして、 3.0×10-4mol/l 以上の濃度にする。 (この値は Ru 増感色素での文献値なので、根 拠はない。 ) ある程度冷めた TiO2電極を浸し、両面同色に見えるまで放置する。金曜班で は1~2日ほど。 ⑤ 対極の作製 もう一枚の ITO・FTO の導電面を鉛筆でまんべんなく塗る。これにより電子 のやり取りを行いやすくするためである。 ⑥ 組み立て 色素に浸した TiO2電極と対極を5mm 程ずらして重ね、間に電解溶液を挟む。 固定にはクリップかエポキシ樹脂を用いる。性能を調べるのが基本なので、大抵 クリップを使う。 これが基本の作製手順になるが、安定して電気が流れるようになれば手順③と④の 間に塩化チタン TiCl4溶液を用いた処理を加え、光電変換効率を高めたり、対極に炭素 の代わりに塩化亜鉛 ZnCl2薄膜を焼き付けて電子の受け渡しをスムーズにするなどい ろいろ工夫することができる。 5 電析 もう一つの流れとして、以下のものがある。 ①´電解液の調整 ②´ZnO 光電極の電析 ③´加熱 ④´対極の作成 ⑤´組み立て ①´電解液の調整 200ml ビーカーに、硝酸亜鉛六水和物 Zn(NO3)2・6H2O 5.95g(約 0.1M)、エオ シン Y 0.0111g(約 80μM)をくわえ、よく溶かす。 ②´ZnO 光電極の電析 電源装置の陰極に ITO、陽極に炭素棒か亜鉛板を接続し、調整した電解液につ ける。これをホットプレートの上に置き、70 度程度に加温する。電圧を調整して -1.1V 程度にする。このようにして 10~120 分電析させる。 ③´加熱 100~150℃程度に熱したホットプレートの上に置き、表面の水分を飛ばす。 この温度にしたのは、ITO の抵抗値に影響を与えないためである。 ④´対極の作成 ⑤´組み立て 一つ目の流れの中にあるものと同様である。 この手順では多孔質の膜を作り、その隙間に色素を入り込ませ吸着させる代わり に、電析により色素の組み込まれた薄膜光電極を合成している。簡単に言うと、電 気めっきである。生じている反応は以下の通りである。 Zn2+ + NO3- + 2e- → ZnO + NO2Zn2+ + 1/2 O2 +2e- → ZnO この方法のメリットは熱処理が不要であること、膜厚の制御が容易であること、高 結晶の膜が得られることなどが挙げられる。そして、電圧をエオシンの還元電位より 6 も卑にすることで、エオシン Y 分子の還元体が亜鉛イオンを巻き込んで表面で安定な 錯体を形成し酸化亜鉛の結晶成長を部分的に妨害するが、結晶成長は連続的に起こる ので色素分子を避けるようにナノサイズの酸化亜鉛が相互に連結した構造を作り出す。 結果スポンジ状の酸化亜鉛結晶の表面にエオシン Y 分子が吸着した複合体が形成さ れるのである。 この方法により初めの手順ではネックになっていた抵抗値を上げてしまう焼成とい う過程がなく抵抗値を抑えられ、また膜厚を薄くするなどが期待できる。 5、前半の結果 参考文献を参考に、自分の実現できる範囲でペースト1のレシピを考え手順ど おりに 8 回実験を行った。膜厚を薄くすることや、ペーストのレシピを尐しずつ 変えて、なんとか色素であるエオシンを染み込ませ、発電させようと試みたが成 功しなかった。9 回目に、内田教授から教えていただいたペースト2のレシピを 試したところ電圧を測定することができた。しかし抵抗値が高すぎるため、電流 が測定不可になったため、後半では電流の測定が課題となった。 6、実験 上記に書かれた手順で実験を行った。TiO2 ペーストはレシピ2を用いた。測定は 太陽光かハロゲンランプを用いている。ハロゲンランプの場合は 5cm ほど離して測 定する。 実験10回目 目的:抵抗値を下げる。 条件:ITO をアセトンとメタノールで加熱洗浄した後、すべての工程をポリエ チレングローブを着けて行う。皮脂により抵抗値を上げないためである。 色素はエオシン水溶液を用いる。焼成は 20 分間とろ火で行う。 結果:グローブを着けないで行った場合と同様になった。電圧は 0.3V 程度で あったが抵抗が大きいため電流は測定できなかった。 実験11回目 目的:電析を試してみる。抵抗値を下げる。 条件:電析の工程を行う。電解溶液に PEG#200 ではなくアセトニトリルを用い る。対極には ITO を用いた。 結果:光電極はほぼ透明になった。電圧は調節が難しく2V 程度になった。ハロ ゲンランプに接近しなくても 110mV を常に測定できた。また、電池自体 の抵抗値が 23kΩにまで減尐した。アセトニトリルの電解液は揮発が激 しく測定に向いていなかった。次回から PEG#200 を用いる。 7 実験12回目 目的:条件を変えて電析を行う。性能を上げる。 条件:4V 程度と高い電圧で行ってみる。対極には乾電池から取り出した炭素棒 を用いる。30分間通電させる。 結果:24kΩ、120mV となった。また 30 分電析すると膜が厚すぎてしまい、 所どころ剥げてしまった。 実験13回目 目的:条件を変えて電析を行う。性能を上げる。 条件:12 回目の実験の結果を反省して、めっきは 10 分間、電圧は5V 以内と する。また、電極には亜鉛板を用いる。 結果:測定器を変えたことにより、電流がマイクロアンペアまで測定できるよう になった。 条件 ハロゲンランプ下 蛍光灯下 電圧(V) 0.35~0.40 0.27 電流(μA) 7.6 1.1 抵抗(MΩ) 6.45 実験14回目 目的:条件を変えての電析。 条件:電流のつまみを最大にする。電圧は fine のつまみのみで調節して、1~1.5V にする。電析は 20 分間行う。 結果:電流を最大にした場合、酸化亜鉛の析出が速すぎて、ITO 表面に白っぽい 膜はできたが、エオシン Y が入り込んでいる様子はなく、測定は失敗に 終わった。 途中、6 月 24 日に荒川先生にお話を聞く機会があり、そこで酸化亜鉛よりは 酸化チタンのほうが性能が高いと教えていただいたため、ITO ペーストを塗布し、 焼成する以前の工程に戻すことにした。また、FTO を 1 枚いただくことができた。 実験15回目 目的:FTO を用いた電池の作成。ハンダの使用可能性。 条件:光電極に ITO と FTO を一枚ずつ、対極はともに ITO を用いた。焼成時間 はともに 15 分間とし、ITO はとろ火で、FTO は強火で焼いた。 ハンダは電子を受け取るずらした部分につける。 8 結果:ハンダは ITO 表面で丸い球となり、ガラスに全くつかなかった。 条件 ITO+ITO(ランプ下) FTO+FTO(ランプ下) 電圧(mV) 24.3 85.0 電流(μA) 0.24 1.6 抵抗(Ω) 920 770 実験16回目 目的:植物色素を用いての電池の作成。 条件:温度計を買ったため、表面温度の測定が可能になった。FTO3枚を20分 間強火で焼く。色素には食用の紫色の菊、紫キャベツ、醤油を用いる。 結果:焼成温度は 300℃±15℃となった。屋外で行ったため一定にはならなか った。丸2日間吸着させたところ、菊とキャベツの溶液が腐敗していた。 3枚とも裏まで染まり、菊と紫キャベツはほぼ黒、醤油は薄い黄色であ った。対極はすべて FTO を鉛筆で黒く塗ったものを用いた。 条件 菊(曇) 電圧(V) 0.4097 電流(mA) 0.00525 抵抗(Ω) 874.7 菊(晴) 紫キャベツ(晴) 〃(ランプ) 醤油(晴) 0.442 0.42 0.280 0.046 0.104 0.020 0.015 770 730 890 659 *菊(曇り)は 9/22 の 12:30 に測定。 菊(晴れ)は 9/24 の 14:40 に測定 紫キャベツ(晴れ)と醤油(晴れ)は 10/4 の 12:00 に測定 実験17回目 目的:植物色素を用いての電池の作成。 条件:ITO に紅茶の色素、FTO2枚にコーヒーとぶどうジュースの色素を吸着 させる。紅茶は3包を使って煮出す。コーヒーは小びんを1本分、ぶど うジュースは濃縮還元 100%のものを煮詰めて半分程度の体積にしたも のを用いる。ITO は 15 分、FTO は 20 分焼成する。 結果:4 日間吸着させた。温度が強火にしても 300℃と低かったため、アスベ ストの板を切りとり、銅版の上に覆いをかぶせて焼成した結果、400℃を 測定した。対極はすべて FTO を鉛筆で黒く塗ったものを用いた。 条件 紅茶(ITO) コーヒー(FTO) 〃(ランプ) ぶどう J (FTO) 電圧(V) 0.40 0.485 0.47 0.342 電流(mA) 0.021 0.200 0.075 0.0290 抵抗(Ω) 992 680 861 650 *すべて 10/4 の 12:00 に測定した。 9 7、考察 各実験の考察を行う。 10 回目の実験では、洗浄したが、結果は変わらなかった。これは ITO に ST-01 を塗 布する時点で問題があったとも考えられるが、洗浄の方法に問題があった。皮脂を除 くためにアセトンやメタノールを用いたが、ITO を切断するときに直接触ってしまっ ているため、超音波洗浄が必要だったと思う。この作業を怠けてしまった。 11 回目から 14 回目の実験では電析を行った。これは全体としては失敗に終わったと 思う。これは抵抗値がkΩのスケールより小さくならなかったこと、電流が測定不能 であったことなどからわかる。原因として、まず、電源装置が小さな幅で調節できる ものではなかったこと、自分自身が扱い方を熟知していなかったことが挙げられる。 0.9~1.1V 程度で行いたかったが voltage、current のつまみを最小で一定にしたまま fine のつまみを尐々回すだけで 5V 程度まで簡単に振れてしまい、目的の電圧かどうか は大体しかわからなかった。尐しの電気的条件の違いで、生じる反応が異なってしま う電気化学反応においては、大きな要因になったように思われる。次に、この製法の 利点である単結晶性の薄膜が得られなかったと考えられる。ここでは単結晶はエピタ キシャル成長により、通常は基板に結晶構造が同一であり格子定数が極めて ZnO に近 い GaN 単結晶を用いる。しかし今回は ITO を用いており、導電膜が単結晶かどうか はわからないため、スポンジ構造ができただけで単結晶性薄膜になっていないようで あった。抵抗値が下がらなかった理由は、単結晶性の結晶にならなかったため、もと もと抵抗値の大きい ZnO の影響が大きく出たためである。 15 回目の実験では抵抗値を見る限り、FTO と ITO の違いが出ており、FTO が熱に 強いということが確認できた。しかし、電流をみると、どちらもハロゲンランプ照射 下でも2μA に届かなかったことから、 対極に ITO を用いたことが原因だと思われる。 以降の実験では対極にすべて FTO を用いており、その場合の測定値と大きく差がある からである。ITO の表面は凹凸がないのに対して、FTO は凹凸のおかげで尐し白っぽ くなっている。そしてこの凹凸があるおかげで鉛筆の炭素原子を表面に固定すること ができ、対極から電極から電解溶液中のメディエーターへの電子の受け渡しのロスが 尐なくて済むのである。反対に、ITO の場合は表面に固定できないため、うまく電子 が流れていないと思われる。ハンダは電子を効率よくサイクルさせるために検討した 方法であったが、ITO につけることができなかったのは、勉強不足だったからである。 16回目の実験では、まず焼成温度を測定できたことが大きかった。非接触型赤外 線温度計を用いたが、カセットコンロで強火にしても 300℃程度までしかなかったこと から、これまではペースト中の PEG#20000 を燃焼させ、多孔質にしただけでガラス 基板と TiO2 の焼結はできていなかったようであり、結果原理の③④の過程で大きなロ スが生じ、高い抵抗値の要因になっていたと思われる。色素に関しては、2 日間の吸着 の過程で、煮出した溶液が腐敗してしまったこと、膜厚が 60μm 程度と大きいことも 10 影響があるかもしれないが、裏表ともきれいに、ほぼ黒に染まっていたことから、吸 収波長の幅が Eosin-Y に比べて広いことが考えられる。 結果もエオシンの時よりよく、 植物色素のアントシアニンが主に働いていると思われる。アントシアニンは植物に多 く含まれ紫色系統の原因の物質であり、 pH により色を変化させる性質を持っている。 ちなみに、紫色は中性付近での発色であり、酸性に傾けば安定した明るい赤に、アル カリ性に傾けば不安定な暗い青色になる。紫色の補色は黄緑色であり黄緑色の波長は 550nm 程度である。下の図をみると、太陽光の放射強度は 500nm 付近の波長が最も 大きいため、この付近を吸収波長としてもつアントシアニンは色素増感太陽電池の色 素としてとても有用であるといえる。なお、ぶどうジュースは濃縮過程など、工場内 での製造過程でアントシアニンの構造が壊れてしまったと思われる。このことはぶど うジュースのpH を変化させても色が変わらないことからわかる。 図 紫色のアントシアニンの構造 G は糖である。 出所 :日本太陽エネルギー学会編 『太陽エネルギー読本』10 頁〔村井潔三〕(オーム社 1975) なお、今回大抵の測定に用いてきたハロゲンランプも、太陽光と同様に可視光では全 波長を放出していることが分光装置を用いて調べた結果わかったが、太陽光との違い は強度である。実験 16、17 で紫キャベツとコーヒーの電池を太陽光とハロゲンランプ の両者を用いて測定したところ、測定結果だけでも 3 倍から 5 倍太陽光のほうが強い ことがわかる。 また、コーヒーと紫キャベツの電池で、コーヒーのほうが性能がよかった理由は、 コーヒーに浸した FTO の焼成温度が紫キャベツの FTO に比べて 100℃程度高く、焼 結がうまくいったためロスが尐なかったと考えられる。一般的に考えるとアントシア ニンは黄緑色を吸収しているのに対し、黄色っぽいコーヒーの色素は紫色付近の波長 を吸収している。太陽放射を考えると黄緑色の波長のほうが紫色の波長より強度が大 きく、両者が同程度のロスを抱えていた場合紫キャベツの電池のほうが性能は高くな ると思われる。 TiO2 と ZnO ではどちらもn型半導体であるが、荒川先生に TiO2 のほうが性能が高 いと指摘された理由について考察する。一般にどちらも伝導帯準位は NHE に対して 11 0V 付近であり尐しだけ ZnO のほうが卑である。バンドギャップも両者ともに 3.2eV 程で性能的にも Eosin-Y を用いた電池の短絡電流は ZnO のほうが大きいなど、ZnO の ほうが優れているところもある。 では TiO2 のほうが優れている点を考えると、化学的・物理的に極めて安定なこと であると思われる。BG はともに同程度であるが ZnO は縮退型半導体であるため、ド ープの程度にもよるが 3.2eV よりも実際は BG が小さくなっていると考えられる。こ のため、水の中で光を当てると、光照射によって発生した正孔が自身を酸化すること で、金属イオンが溶け出してしまう自己溶解現象を起こす。電解液には有機溶媒を用 いているが、空気中で実験を行う以上、完全に水を取り除くことは不可能である。こ のように光溶解して生成した Zn2+が原理の電子のサイクルでの②や⑤、⑦の過程で電 子を奪い、循環を阻害すると思われる。また、ZnO 表面が溶けるために色素との化学 結合も切ってしまう可能性もある。 色素の安定性であるが、TiO2 がもつ光触媒作用により有機色素が分解されないかど うか考えてみる。これでは、屋内照射で 10000 時間安定であるなど、文献によれば 60℃ 以下では安定性は確立しているように思われるが、私が 20 時間ほど 375nm の紫外線 をぶどうジュースの色素を吸着させた ITO に照射し続けたところ、色素の色が薄くな っていた。このことから、太陽光に含まれる紫外線強度は上のグラフからもわかると おり 0.5 程度と低いが、何年も当て続ければ TiO2 が色素自体を分解してしまうことが わかる。これより、セルの封止技術とともに、この部分も課題となっていくだろう。 最後に 一年間やってみて、実験は一応成功したように思う。何もわからず、とりあえず文献 をいろいろ読み、できる限りの範囲で具体化さえてきた。しかし、先輩方や先生方に アドバイスや試料をいただいたり、企業からサンプルを分けていただいたりと、周り から助けていただき何とか太陽電池の形になった。0.2mA とまだ何も動かすことはで きないが、当初と比較すると抵抗値は 10000 分の 1 に、電流は測定できるようになっ てから 30 倍になり大きく性能が上昇した。P25 で試せなかったこと、超音波装置を用 いらなかったことなど、怠ってしまったことも多々思い当たるが、この結果には満足 している。 最後に、アドバイスをくださった先輩、先生方、ありがとうございました。 12 参考文献 ・岩波 理化学辞典 第 5 版 長倉三郎、井口洋夫、江沢洋、岩村秀、佐藤文隆、久保亮五 編 岩波書店 ・光触媒利用技術の現状と展望 羽田 肇 ・ 多田 国之 http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt021j/0212_03_feature_articles/200 212_fa03/200212_fa03.html ・色素増感太陽電池 荒川裕則 著 ・色素増感太陽電池 内田 聡 著 08/10/16 CMC 出版 http://kuroppe.tagen.tohoku.ac.jp/~dsc/cell.html 2007 年 08/10/16 ・ 「レインボーセル」テクノロジー http://apchem.gifu-u.ac.jp/~pcl/minourahp/special/frame1.htm 08/10/16 ・天然物化学-生合成反応の機構- K.B.G.トーセル 著 講談社 ・パートナー 天然物化学 海老塚豊、森田博史 著 南江堂 p119 13