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教育講演抄録 - UMIN大学病院医療情報ネットワーク

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教育講演抄録 - UMIN大学病院医療情報ネットワーク
教育講演 1
10月14日(木) 15:00 1 16:00 第3会場(橘)
J-START の現状と今後の展開
東北大学大学院医学系研究科腫瘍外科学分野
大内 憲明
1.はじめに
歳未満の定期的なマンモグラフィ検診を行うにあた
WHO の提言にもあるように、がん検診の利益
っては、対象者個人ごとの利益と不利益に関する価
(Benefit)は死亡率減少である。一方で、昨年 11
値判断を考慮すべき」と修正されているが、グレー
月 に 米 国 予 防 医 学 専 門 委 員 会 (US Preventive
ドCの判断は変わっていない。BからCに変更され
Services Task Force, USPSTF)がガイドライン修
た理由として、マンモグラフィ検診による利益(死
正において重要視した不利益(Harm)についても十
亡率減少効果)は 40 歳代でも 15%程度認められる
分に検討する必要がある。本講演では、まず、乳が
ものの、不利益(要精検率が高いこと、がんではな
ん検診の現状を欧米とわが国のマンモグラフィによ
かった人に対する不必要な検査等)が存在し、利益
る乳がん検診を例に概説し、最近話題の 40 歳代を
と不利益のバランスを考えた場合に、40 歳代ではネ
対象としたがん戦略研究(J-START)について触れ、
ット利益(利益-不利益)が小さいとされている。
次世代の乳がん検診を展望する。
4.J-START とは?
2.マンモグラフィ検診の評価
マンモグラフィ検診の有効性が 50 歳以上に限定
マンモグラフィ検診の有効性については、1960
的であることは以前から我々が指摘していたことで
年代の米国 HIP Trial から最近の英国 Age Trial ま
ある。一方、国は国民の大局的課題となっている疾
で多くのランダム化比較試験(RCT)を基に今でも検
患等について成果目標を設定し、戦略的に大型資金
証が続けられている。日本でも Miyagi Trial から
配分を行い、確実に課題解決を図る目的で「戦略的
20 年が経過し、地域がん登録と照合したデータによ
アウトカム研究」を立上げた。そこで、がん対策の
り一定の評価が得られつつある(Cancer Science,
ための戦略研究「乳がん検診における超音波検査の
99: 2264-67, 2008)
。これらのデータから云えるこ
有効性を検証するための比較試験(Japan strategic
とは 50 歳以上においては死亡率減少効果が十分に
anti-cancer randomized trial; J-START)が採択さ
認められること、しかし、49 歳以下においては感度、
れた。
特 異 度 が 低 下 す る こ と ( Cancer Science, 100:
1479-84, 2009)である。
3.USPSTF によるガイドライン修正の波紋
USPSTF は、プライマリケアや予防医学に関する
科学的根拠をシステマティックにレビューした上で
推奨を行う独立した専門委員会である。その推奨ガ
イドラインはアドバイザリー的ではあるものの、広
く臨床予防サービスの場で活用され、しばしば標準
医療あるいは保険診療の基準として用いられる。
USPSTF は、40 歳以上の女性に対して、
「1~2 年
に 1 回の定期的なマンモグラフィによる乳がん検診
を推奨する」としていた推奨(グレードB)を、
「マ
ンモグラフィによる定期的な乳がん検診を推奨しな
い」とした(推奨グレードC)
。その後、表現は「50
図1.がん対策のための戦略研究 J-START の概略
教育講演 1
10月14日(木) 15:00 1 16:00 第3会場(橘)
本研究では、40 歳代女性の乳がん検診の方法とし
診精度管理中央委員会(日本乳癌検診学会、日本放
て、1」超音波による乳がん検診の標準化を図った
射線技術学会、
・・・から構成される)が開催する講
上で、2」マンモグラフィに超音波検査を併用する
習会を修了した診療放射線技師が乳房撮影を行うこ
群と併用しない群との間で RCT を行い、プライマ
とが望ましい」と明記されているところであり、こ
リ・エンドポイント(感度・特異度及び発見率)
、セ
のことが現在のわが国のマンモグラフィ検診の精度
カンダリ・エンドポイント(累積進行乳がん罹患率)
管理の要になっている(現在は健発第 0331058 号、
を2群間で検証する(図1)
。
平成 20 年 3 月 31 日、厚生労働省健康局長)
。
標準化に関しては、既にガイドラインと教育プロ
超音波による乳がん検診はいつから導入されるの
グラムを策定し、全国的な講習会を実施している。
か?その応えは、第1に超音波検査技術の標準化プ
これまでの実績で受講者は現在、医師、技師それぞ
ロセス、第2に RCT による有効性評価に懸かって
れ 1,500 名を超えたことから、大きな前進が見られ
いる。第1の標準化に関しては、診療放射線技師の
る(図2)
。
みならず、臨床検査技師に期待される役割が極めて
大きい。現在、JABTS を中心とした乳房超音波講
習会が展開されているが、マンモ精中委のように中
央化された組織が必要となり、既にその検討に入っ
ている。
6.終わりに
USPSTF の今回の動きは乳がん検診のみならず
全てのがん検診あるいは診療にも影響を与えよう。
死亡率減少効果
(利益)
が実証されていたとしても、
その検査や治療に伴う Harm(不利益)が存在する
ことを我々、
医療従事者は十分に認識すべきである。
その上で、がんの検査や治療を受ける患者さんに対
してその不利益についても判りやすく説明する時代
が到来したといえる。
Talk about benefits and harms, then, make
図2.超音波による乳がん検診の標準化
informed decisions・・・今後のがん検診・診療を
展望する上で重要な言葉である。
RCT による大規模臨床試験に関しては、登録者数
が平成 22 年 6 月で7万人に達している。わが国の
臨床試験で7万人を超えた例はなく、正に画期的と
いえる。乳房超音波検査はマンモグラフィで見えな
い乳がんを検出でき、特に若年者の高濃度乳房での
検出率が高い。しかし、最大の問題は死亡率減少効
果が未だ示されていないことである。科学的根拠な
くして乳がん検診への導入はあり得ないとするのが
世界の常識である。
5.診療放射線技師、臨床検査技師への期待
乳がん検診への診療放射線技師の役割は、平成 12
年度に厚生労働省から通達された「がん予防重点教
育及びがん検診実施のための指針について」の「乳
房エックス線検査の留意点」に「マンモグラフィ検
略歴(プロフィール)
1978 年:東北大学医学部卒業
1984 年:東北大学大学院医学研究科卒業(医博)
1984 年:米国国立がん研究所(NCI)フェロー
1987 年:仙台市立病院外科医長
1999 年:東北大学教授に就任
2001 年:第 1 回朝日がん大賞を受賞
2002〜04 年:東北大学病院副院長
2006 年:第 16 回日本乳癌検診学会総会会長
2011 年:第 19 回日本乳癌学会学術総会会長
専門は乳がん、ナノ・バイオ、がん検診など
現在、国の第 3 次対がん総合戦略研究事業「がん対策のため
の戦略研究リーダー」を努める。
教育講演 2
10月14日(木) 15:00 1 16:00 第5会場(桜2)
臨床研究の倫理
放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター 主任研究員
栗原 千絵子
臨床研究の倫理に関する国際規範は、第二次世界
1)
自律の原則:被験者からはインフォームド・コ
大戦中のナチス・ドイツによる過酷な人体実験を裁
ンセントを得る。同意能力の弱い人の場合には
くニュルンベルク裁判において 1947 年の判決文の
意思決定を代行できる人からの同意を得る。
中に示された「ニュルンベルク綱領」が端緒とされ
2)
善行の原則:研究計画についてリスク・ベネフ
る。これ以前にも人を対象とする実験をめぐる倫理
ィット評価を行う(益を最大化、害を最小化す
的な議論、
国や地域における規範は存在していたが、
る)
。
国際的に標準とされる考え方はここからスタートし
3)
正義の原則:研究によるリスクとベネフィット
ている。ナチス・ドイツのみならず日本が中国にお
の公平な分配(立場の弱い人々が被験者となっ
いて行った 731 部隊による人体実験は広く知られ、
てその結果の恩恵を強い人々だけが得ること
また戦後の米国においてもタスキギー梅毒研究(梅
があってはならない)
。
毒に罹患したアフリカ系米国人に対し治療法が確立
された後も治療を提供せず長期間比較対照群として
さらに、ヘルシンキ宣言の近年の改訂では、研究
観察し続け、30 年継続の後 1972 年にスキャンダル
者の利益相反の開示、研究仮説が検証されなかった
により終了した)など、非倫理的な研究をめぐる議
場合のネガティブな結果も論文公表すること、臨床
論は繰り返されてきている。
試験の開始前に計画に関する情報を公開登録サイト
非倫理的な人体実験は許されないが、一定の条件
を守った上で被験者の危害を最小限にとどめて行わ
に登録すること、などの義務が課されるようになっ
ている。
れる臨床研究は、医学の進歩のためには必要不可欠
以上が研究倫理規範の発展過程であるが、医薬
である。ニュルンベルク綱領はそのような立脚点に
品・医療機器の開発を目的とする臨床試験について
立って、許される人体実験の条件として、被験者の
は、日米 EU の規制当局と製薬企業による協議の場
同意、危険の評価と管理の必要性などについて述べ
である ICH
(日米 EU 規制調和国際会議)
において、
ている。その後、1964 年に世界医師会が初版を採択
1996 年に ICH-GCP と称する国際スタンダードが
した「ヘルシンキ宣言」では、同意能力のない人に
採択されている。これは、研究審査やインフォーム
ついての同意の代行、倫理委員会による研究計画の
ド・コンセントなどのルールに加えて、大量生産す
審査などの条件を追加し、ニュルンベルク綱領を発
る可能性のある医薬品の有効性・安全性データの信
展させている。
頼性保証のため、データに対するモニタリングや監
上述のタスキギー研究を受けて米国で設けられた
査、有害事象報告なども規定されている。
国家委員会の検討結果として 1979 年に公表された
日本では、研究倫理の規範を国内法令化する動き
「ベルモント・レポート」では、
「研究」
(一般化可
は諸外国に遅れて、国際的ハーモナイゼーションの
能な知識の生成を目的とする行為)と、
「診療」
(目
必要性に対応して検討されてきた。医薬品の製造販
の前の患者の治療を目的とする行為)の論理的な区
売承認申請を目的として行われる「治験」について
別を明確にした上、研究倫理の三原則として広く知
は、上述の ICH-GCP を国内導入する必要性から、
られる以下の三つの原則を明らかにした。
1997 年から 98 年にかけて GCP 省令が薬事法に基
づき定められた。承認申請を目的としないアカデミ
教育講演 2
アで行われる臨床研究については、2003 年に「臨床
研究に関する倫理指針」が厚生労働省より出され、
2007 年に改正(2008 年改正版施行)された。ここ
へきてようやく、先進国において標準とされる研究
倫理規制が概ね整備されたことになる。ただし「臨
床研究に関する倫理指針」は、行政当局の管理する
法規制ではなく、研究実施施設に管理を委ねられて
いるため、被験者の保護の点においても、将来の保
険診療に向けての研究データの活用についても課題
は多く、現在さまざまな取り組みがなされている。
本講演では、こうした研究倫理の発展過程を概説
した上、放射線防護の枠組みと研究倫理の関係、今
後の望ましい方向性などについて、議論したい。
10月14日(木) 15:00 1 16:00 第5会場(桜2)
教育講演 3
10月14日(木) 15:00 1 16:00 第6会場(白橿1)
ディジタル X 線画像の画像処理 -基本から見直そう!-
大阪府立急性期・総合医療センター
船橋 正夫
1.はじめに
実際にはディジタルデータであるため f(x+1)-
医用X 線画像がディジタル化されることの意義に
f(x) で計算され、濃度変動の勾配(グラディエント)
は、保管や転送にかかわる費用や時間的・空間的節
を表している。画像関数 f( x , y )の x 方向の2次微
約などの社会的側面と、2次的な付加価値を有効利
分は同様に以下の式で求められる。
用するという臨床的側面がある。共に患者の被ばく
という“負”の行為の代償として病状の回復・種々
の負担軽減という利益を還元することが前提となっ
ている。本稿では臨床的側面として利益のベースと
なる、2次的な付加価値を生む画像処理の基本的な
動作特性について解説する。
2.CR や FPD に用いられている画像処理
全方向の 2 次微分はラプラシアン演算で求められる。
ディジタルX 線画像に用いられている画像処理と
しては、階調処理、周波数処理、ダイナミックレン
ジ圧縮処理、粒状性改善処理等が一般的であるが、
本稿では鮮鋭度を操作する周波数処理を中心として
解説する。講演では臨床的な効果や使用時のポイン
トを交えて他の処理についても解説する予定である。
画像工学では∇2をラプラス演算子(ナブラ)と
よんでいる。これを原画像から差し引くと画像内の
3.周波数処理の背景
エッジを強調することができる(Fig.1)
。画像内の
画像内で濃度が急に変化するところは物体の輪郭
構造物の大きさに係わらず両端のエッジのみが強調
を形成する。画像処理においてこの輪郭を抽出する
され、2次微分データに重み係数(K)を掛けるこ
ことを「輪郭抽出」、「エッジ抽出」とよび、抽出され
とでエッジ部の強調度を調節することが出来る
た輪郭やエッジを強調すると輪郭が鮮明となり鮮鋭
(Fig.1‐c,d)。
化されたと表現される。画像内の輪郭抽出や鮮鋭化
には関数の変化分を取り出す微分演算とボケマスク
処理が多く利用されている。
3.1 ラプラシアンとボケマスク処理
3.1.1 微分演算
微分演算には1次微分(グラディエント)と2次微
分(ラプラシアン/ラプラス演算子)があり、エッジ
の強調にはラプラシアンがよく用いられている。画
像関数 f( x , y )の x 方向の1次微分は画素間隔が微
小であればこれを⊿x とみなして、隣接画像との差
分として計算する。
Fig.1 ラプラス演算子の処理効果
教育講演 3
3.1.2 ボケマスク処理
10月14日(木) 15:00 1 16:00 第6会場(白橿1)
トを変えながら複雑に入り組んで存在している。こ
ボケマスク処理は、入力画像の任意の点の近傍の
のため、エッジ部分(高周波数成分)の強調しかでき
データを用いる方法で、平滑化するデータ数とその
ないラプラス演算子ではその使用に限界があるので
範囲を n×n というようなマトリクス様の画素列で
ある。前項で示したマスクサイズより小さな構造物
表している。この n×n 内の画素値の平均をマトリ
(信号)では信号そのものが強調される場合がある
ックスの中央の値として出力することで平滑化が行
が、通常のボケマスク処理ではアンダーシュート/
われる。この n×n の画素列を空間フィルタと呼ぶ。
オーバーシュートなどの影響を排除できない上、特
このフィルタを画像内のデータ配列に沿って順次移
定の周波数領域しか強調できず構造物そのものの自
動しながら積和計算し、出力画像の画素値が求めら
然な状態での強調は困難であった。近年、このボケ
れる。このフィルタ(マスク)サイズが大きくなる
マスク処理を進化させた周波数処理が開発され、多
に従って画像は大きく“ボケ”てゆく。高周波数成
くの装置に搭載されるようになった。
分をボカすには小さなフィルタサイズが用いられ、
低周波数成分を“ボカす”には大きなフィルタサイ
4. マ ル チ 周 波 数 処 理 ( Multiple Frequency
ズが用いられる。こうして得られたボケマスク像を
Processing)
原画像から差し引くことでエッジ部分を抽出(差分
マルチ周波数処理(以下 MFP)は、画像の周波
画像)することが出来る。このエッジ像を原画像に加
数成分を強調する処理と不可視領域を減少し可視領
算することでエッジを強調することが出来る(Fig.2)。
域を広げるダイナミックレンジ圧縮処理より構成さ
差分画像に重み係数を掛けることでエッジ部の強
れている。
調度を調節することも出来る(Fig.2‐c,d)。通常構造
MFP の特徴は、原画像に対して複数の大きさの
物の両端のエッジが強調されるが、マスクサイズよ
異なるマスクサイズの平滑化処理を行うことにある
り小さい構造物の場合にはエッジ部分というより結
(Fig.3)。MFP ではこのフィルタのサイズを変えな
果としてその信号そのものを強調する場合がある
がら平滑化画像を順次作成し、フィルタサイズの小
(Fig.2‐c)。
さな順に各々の平滑化画像間の減算を行い、その差
分データに対して非線形変換処理を行っている。非
線形変換後の差分画像の総和を最終的な加算画像と
し、従来の濃度依存係数処理を経て原画像に加算さ
れる。差分画像はレスポンス関数におけるバンドパ
ス画像であり、個々のバンドパスデータに重みを付
加して強調の大きさを変更できるため、小さな領域
のバンドパスデータを組み合わせて、自由にレスポ
ンスを設計することが可能となる。ステレオのイコ
ライザーをイメージすればよい。
Fig.2 ボケマスク処理の効果(マスクサイズ一定の
場合)
3.2 なぜ医用 X 線画像にはボケマスク処理がよく
使われているのか?
ラプラス演算子とボケマスク処理の相違は、前者
がエッジ部のみの処理であるのに対し、後者がマス
クサイズを変えることで周波数成分を操作すること
が出来るところにある。
医用X 線画像には、
線構造、
面構造、点構造の各々が大きさ・形状・コントラス
Fig.3 マルチ周波数処理の原理
教育講演 3
10月14日(木) 15:00 1 16:00 第6会場(白橿1)
実際の MFP の平滑化処理には2種類の特徴的な
技術が導入されている。第1の技術はフィルタに重
み付けを行う平滑化である(Fig.4)。図左側の単純平
均を行うフィルタ(従来の周波数処理で使用)と異
なり、重み付け平均を行うことでエッジ部分に発生
する境界像を回避し、滑らかな平滑化に成功してい
る。この技術と相乗的に効果を発揮するのが第2の
技術であるコントラスト依存非線形関数変換である。
従来の単純平均を行うボケマスク処理では、金属や
骨のエッジ部に強いアンダーシュート/オーバーシ
ュートを生じ、読影に支障が生じる場合があった。
シューティングの範囲や大きさはフィルタサイズと
Fig.5 コントラスト依存非線形関数変換
画像処理パラメータに依存し、低周波数領域の強調
には特に注意が必要であった。ここでエッジ部に生
じた2つのコントラスト成分について検証する
MFP は以下の式で計算される。
(Fig5)。コントラスト依存非線形関数変換を用いる
Sproc=Sorg+β(Sorg)×Σfm(SBm)+D(Sorg-Σgm(SBm))
と、高コントラストのバンドパスデータ②は抑制さ
但し
れ、微細部のコントラスト①はそのまま同じコント
Sorg:原画像
ラストで出力される。この処理を用いることで強い
Sproc:処理画像
アーチファクトが発生していた低周波数領域の強調
β( )
:濃度依存強調関数
が可能となり、アンダーシュート/オーバーシュート
D( )
:DR 圧縮フィルタ関数
を抑制しながら自然な周波数強調を実現することが
fm( )
:周波数強調用非線型関数
出来るようになった。
gm( )
:DR 圧縮用非線型関数
SBm:差分画像(SBm=Susm-Susm+1:バンド
パス信号)
Susm:空間周波数特性の異なる平滑化画像(但し、
Sus0=Sorg:原画像)
M:利用する平滑化画像の数
実際に画像内のどのような成分が強調されている
のかを調べるため、原画像(処理なし)と処理後の
画像を減算し差分画像を求めた(Fig.6)。こうするこ
とで画像内のどのような領域や構造が強調されたか
画像処理の効果を知ることができる。前述したよう
に低周波数領域強調によって胸部内の構造物そのも
Fig.4 重み付け平均による平滑化処理
のが全体に浮き上がるように強調されていることが
分かる(Fig.6-a)。中周波数領域では肺野血管が良
く描出され(Fig.6-b)、高周波数領域では末梢の肺
血管影や骨梁のエッジ部が強調されている(Fig.6-
c)。これらのことから低周波数成分が画像コントラ
ストに強い影響を与えていることがわかる。逆に高
周波数成分の強調はコントラストへの影響は少なく、
エッジを中心とした画像の鮮鋭度の向上に寄与して
いることも確認できる。
教育講演 3
これらの結果からラプラス演算子や単純平均の周
波数処理と異なり、MFP ではエッジ部の強調だけ
ではなく、周波数成分の強調がある程度可能となる
ことがわかる。
Fig.6 MTP の効果(強調周波数領域の違い)
5. おわりに
日常で使用されている多くの画像処理の中から周
波数処理のみを取り上げ、
「なぜボケマスク処理なの
か?」に焦点を当てて記述した。他の画像処理や周
波数処理の詳細については、参考文献と拙著を参照
していただきたい。前述したが講演では、画像処理
の臨床的な効果やパラメータの実践的な操作法にも
触れてみたいと思う。
このような講演機会を与えていただいた、画像分
科会長石田隆行先生を始め分科会委員の皆さんに深
謝いたします。
参考文献
長谷川伸:改訂画像工学.コロナ社,1997
岡部哲夫,瓜谷富三:医用画像工学.医歯薬出版株
式会社,1997
近藤啓介,田畑慶人,笠井俊文:医療画像処理実践
テキスト.オーム社.2006
岩崎信之:FCR 画像処理解説書.富士写真フィルム
株式会社,2004
船橋正夫:CR 撮影の考え方と注意点
2004,
日本放射線技術学会誌 Vol.61 No.1
船橋正夫:ディジタル画像に求められる画像処理技
術 前編・後編
2007.10.20,2007.11.20
Vol.63 No.10、11
日本放射線技術学会誌
10月14日(木) 15:00 1 16:00 第6会場(白橿1)
教育講演 4
10月15日(金) 9:20 1 10:20 第2会場(萩)
機能するシステムを導入するための院内体制と業務の可視化
-システムは生きている東北大学病院 メディカル IT センター副部長
國井 重男
保険診療が求める数々の証拠書類に対応した稼働
テムへ IT の利用が広がる。いずれも検査箋、処方
の増大、医療費のあいかわらずの抑制政策の中、医
箋、食事箋、撮影依頼箋等々、診療側が部門に業務
療人の疲弊が叫ばれ、何かと山積された問題に対し
を依頼する情報(思考結果)を伝票に記載した。そ
て、多くの医療機関は IT 化により打開をもとめ電
の伝票を入力源に部門内の業務が円滑にながれアウ
子カルテ・電子パスを導入する。しかしシステムを
トプットとして検査結果、薬剤払い出し、撮影依頼
導入した病院の実態は、導入費を押さえるためノン
に沿った画像の提供など各々の部門業務の最適化が
カスタマイズで導入しシステムに合わせて、導入推
図られた。
進班(選ばれた一部の医師たち)は何とかこのシス
伝票記載の課題解決として患者情報の重複記載解
テムを使いこなそうと努力する。しかし、出来上が
消や情報伝達の迅速化を目的に発生源から各部門へ
ったシステムは導入前の紙ベース運用より効率性・
情報伝達するオーダリングシステムへと進化する。
医療安全性からも遥かに劣る。かえって入力作業な
しかし、発生源入力によりこれまでコメディカルが
どの手間が増えてシステムを使うのではなく、シス
サポートしてきた業務が「医師自らが情報入力する
テムに使われてしまう状況に陥り大変苦労されてい
ことになり、医師の負担は増大しオーダリングは医
る病院の話をよく聞く。
師の負担で医事課を楽にさせているだけのシステム
本来、パスを始め病院業務の電子化は本来業務の
で医師には何のメリットもない」
とクレームの嵐 の
効率性や医療安全の向上を目的としているのだが、
時代が始まった。伝票入力するクラークを導入し医
なぜ目的を果たせない現状となるのか、医療現場と
師負担を回避する病院。またワークフローを解析し
システム構築に長年携わった経験をもとにその要因
表面的な医療人の業務の流れを取り入れシステムを
と対策について言及する。
発展させた病院が 2000 年ごろからフルオーダ、ペ
ーパレスを目指す電子カルテシステムを構築した。
それはオーダ情報に加えて画像、グラフ情報、入院
患者経過記録(温度版、指示簿、看護記録)
、患者プ
ロファイル、
(アレルギー、感染症、既往歴、手術歴、
輸血歴、家族歴)等々がカルテ記載情報を電子記録
として実現し情報の共有化を果たした。今までのオ
ーダリングとは比較にならない程の評価であった。
そして、電子カルテは診療計画の可視化として電子
パスの取り組みが幕を開けた。しかし、そのベース
システムは医事会計・オーダリングシステムであり
医師の思考結果のみを扱ってきたシステムには、セ
ットオーダの領域を超えることができず、手順書と
しての電子パスとなった。
まず、医療 IT 発展の歴史から観ると医療に IT が
活用され始めて 40 年余り、1970 年ころから診療報
酬費を計算する医事会計システムから始まった。そ
の後、臨床検査・調剤、放射線、給食等の部門シス
教育講演 4
10月15日(金) 9:20 1 10:20 第2会場(萩)
医療情報システム発展の歴史と役割
医学知識・EBMの活用
医療の質向上・
安全性の実現
医療の質・安全性の追求
診療オブジェクト・医学教育支援
EBM,パス改善支援、適応選択パス
電子カルテシステム
他科紹介・診断書・診療情報提供
インシデントレポート
お
部門業務
の効率化
ユニット・ミニパス選択機能
温度表・レジメン・クリニカルパス
診療経過記録・検査画像レポート・看護計画
オーダリングシステム
情報連携に
よる効率化
迅速化
地域医療連携
スーパー電子カルテシステム
コミュニケ シ-ョン
経営改善
全体最適
医療機関情報流通
連携パス
成
熟
放射線・内視鏡・手術・処置・注射・物流
処方・検査・入退院転科転棟・食事・病棟管理
予約業務(診療、放射線・検査、手術)
部門システム
統合画像管理システム
部分最適
看護支援・放射線(RIS/PACS)・手術・ICU
生理検査(心電図・肺機能)・内視鏡・病理・リハ
臨床検査・調剤・給食・物流
医療事務
診断群分類(DPC)
医事会計システム
の効率化
レセプト電算(電子レセプト)
2010
1970
1980
1990
2000
時間
医師の診断過程で扱う情報処理やチーム医療とし
医療制度や医学の進歩は絶え間なく続き医療現場
てのコミュニケーション機能にしても患者アウトカ
もそれに伴い刻々と変化している。この変化を捕ら
ムと医学知識・エビデンス情報を元に思考・検討を
え、変化に対応して改善を加え続けなければシステ
加え診断するプロセスをサポートする仕組みは、歴
ムは死んでしまう。多額の投資により活用できない
史から見ても発想もできないし、現在のシステムに
システムはお荷物となり病院経営的にも死活問題に
欠けているのは当たり前のことである。医師が電子
発展する。職員の満足、医療の質、業務効率により
カルテとして求める機能は患者アウトカムをもとに、
患者満足度が上がり結果的に病院経営が好転する。
医学知識・ナレッジに照らし合わせ最善の医療行為
生きた(使い勝手の良い:利用効果の高い)システ
(アクションプラン)を選択し、医療行為に対する
ムを維持管理する為には経営的立場で病院全体を俯
患者のアウトカムが予想通りに進むことである。医
瞰・把握し課題を捕らえ解決に取り組む TQM 組織
療人のこの思考プロセスを可視可することなどシス
とスタッフが必要である。その人材育成に組織を上
テムベンダーには到底できない。システムは道具で
げて取り組む事が病院の活性化とやり甲斐のある職
あり使い手がその使い方を道具屋(システムベンダ
場づくりに最も重要なこと確信している。その意味
ーSE)に可視化し内容をしっかり伝える努力をしな
で多くの医療機関が悩む IT 化への道に参考となれ
ければ、使い勝手の良い、匠(医療人)の道具には
ば幸いである。
なり得ない。一方システムベンダーは企業であり利
益を上げる為には、ある病院で開発した(未成熟と
は気が付いていない)システムをパッケージとして
販売する。パッケージであれば開発コストを押さえ
られバク発生率を押さえ、安価に販売できるメリッ
トがある、しかしこの未成熟の部分が導入した医療
機関に新たな課題を提供し、苦労の始まりとなる。
この苦労をユーザは根気強くベンダーにシステムの
課題を指摘し、機能の優位性やあるべき姿を教育す
る努力が必要になる。心あるベンダーであればしっ
かり受け止めパッケージ強化として安価に対応する。
この度量があるベンダーは成長していく。この辺が
ベンダー選定のポイントの一つでもある。
教育講演 5
10月15日(金) 9:20 1 10:20 第6会場(白橿1)
産業と環境における放射線応用計測
有限会社 応用量子計測研究所
富永 洋
1.はじめに
第 2 次世界大戦後, 国連の国際会議で原子力平和
2.2
中性子・γ線水分密度計
利用の呼び声とともに, 放射線利用技術も表舞台に
高速道路建設では盛土をローラー車で締固めた後,
登場することとなった. それからおよそ半世紀,
その場で迅速に締固め度を計測管理するのに「RI 計
IAEA(国際原子力機関)によれば, 放射線応用計測
器」が必要不可欠となっている.252Cf 中性子源と
機器は世界で数十万台が産業界の工程管理などに用
60Coγ線源(合計 3.7MBq
いられ, 製品品質の向上や原材料・エネルギー節約
さ20cmに挿入し,速中性子とγ線両者の土透過率を
に貢献している. その努力によって,工業化社会の
それぞれ計測する独自の方式(地盤工学会基準)が採
みならず, 開発途上国を含む全地球規模の世界に広
用されている. RI 減衰補償を含む校正曲線の保証の
がりつつあるが, また同時に, 宇宙規模の探査等に
ために,全使用計器には基準原器による定期的試験
も対応せざるを得なくなってきている.
が必須条件として課せられ,計測値のトレーサビリ
以下)を線源棒により深
ティが保たれている. 最近ではレンタルも含めて
約 1 千台が現場利用に用いられている.
2.日本の放射線応用計測機器
日本の放射線応用計測機器は,早くも 1950 年代前
半,三輪博秀 (当時、神戸工業㈱)らによる研究開発の
2.3 微弱γ線透過型配管密度計
時期を迎えた. 1964 年の IAEA 調査では, 欧米先進
化学工場プラントのパイプ内を流れる溶液やスラ
国に比し日本の機器台数はまだ国民総生産の割には
リーの密度を測るγ線密度計等にも, 前述の微弱
少なかったが, 高度経済成長期を経て凡そ 13,000
RI 線源(60Co, 137Cs, 133Ba など)利用の波が押し寄せ
台に達し,工業製品の生産増大のみならず品質向上
た. 換言すれば, 容易に新規導入できる殆ど唯一の
にも大きく貢献した.
ものになったかの感がある.
しかし 1980 年代半ば以降,不況などにより多くの
機器が停滞から減少に転じた. その頃,法規制なし
2.4 β線浮遊粒子状物質モニター
に使用できる微弱 RI 線源(3.7MBq 以下)利用の動向
環境汚染の一つとして,浮遊粒子状物質による大
が現れた. 弱い放射線で信頼できる応用計測を目指
気汚染が問題になって既に久しいが,日本では環境
す新技術への挑戦でもあった. この法規制外機器の
庁告示(1981 年)後, β線透過式モニターが普及した.
普及数は、現在凡そ4,000 台に及ぶと見られる.
最近では殆ど全国の測定局で約 2 千台の微弱 RI 利
用機器が用いられ, 大気汚染状況を発信し続けてい
2.1
β線紙厚さ計
る. ガラス繊維等の濾紙上に浮遊粒子状物質を連続
上記の不況後も漸増傾向がかなり続いた機器の一
捕集しながら, β線の透過率計測から集積質量を求
つに紙厚さ計がある. 日本は世界有数の紙生産高を
めるもので, 毎時間の測定が可能, 故障が少なくか
誇るが, 高品質紙を大量かつ安定に製造する高速抄
つメンテナンスが容易などの特徴を有する.
紙機では,β線透過型厚さ計を用い,紙の坪量(単位面
積あたりの質量厚さ)を連続的に計測制御している.
(85Kr
3.欧米の放射線応用計測機器
な
豪州を含む欧米の様子は日本とはかなり異なる.
ど)と直流電離箱式検出器を用い,1ms の短時間に最
その特徴は 1) 天然資源産業への応用の比重が大き
高 0.15%の相対精度を得ている. β線紙厚さ計の総
く, 2) 通常の第二次産業のほかに,3)核技術, 宇宙航
数は 1990 年代末のピーク時に約 1 千台に達した.
空を含む防衛産業, 4) 薬物・爆薬探知などのために
高速高精度厚さ計では, 充分強いβ線源
教育講演 5
10月15日(金) 9:20 1 10:20 第6会場(白橿1)
も, 5) 政府援助による新規開発が続き, 6) その販路
を装備している. α粒子は三種の方法(後方散乱, 陽
はグローバル化を指向していることなどが注目され
子放出及び X 線誘起)で土・岩石の元素分析に, 他方
る.
メスバウア分光計は鉄化合物の鉱物学的調査に用い
られる. 火星の過去に存在した水の痕跡が,これら
3.1 DUET 法石炭灰分計など
の機器により発見されたことが報道されている.
豪州では Watt らが早くから鉱石スラリーのオン
ライン分析器や,ベルトコンベア上の石炭灰分計等
の開発に取り組み,その実用化,さらには海外輸出に
大きな成果をあげた. 後者はコンベア上の石炭量に
関係なく,2 重エネルギーγ線透過(DUET 法)を利用
して灰分を計測するもので, 看板商品ともなった.
同様の手法はその後さらに,石油産出現場において,
原油・水・ガスの混合多相流をオンライン計測する
のにも用いられた.
3.2
即発γ線多元素分析装置
1980 年米国西岸で創業された Gamma-Metrics
社は, 石炭およびセメント原料のための
252Cf
中性
子捕獲γ線分析装置を製造販売し,前世紀末までに
世界各国に納入した総数は約 200 台に達したという.
同社は近年 Amdel 社と合併し,豪州に拠点を移した.
また, Western Kentucky 大学と Numat 社は協力
して, パルス中性子発生管による高速・熱中性子即
発γ線利用の新型石炭分析装置を開発し, TVA 傘下
の火力発電所に 1 号機を設置した.
3.3
イオン移動度分析計
大気中に漏出した微量の蒸気や微粒子を吸引捕集
し,
63Ni
のβ線でイオン化した後, その移動時間ス
ペクトルから禁制品薬物や爆薬を探知するイオン移
動度スペクトル測定の技術は, 近年, 米連邦政府の
支援の下で開発実用化された. 電池式ポンプを内蔵
した携帯型プロ-ブの例で, 検出下限 10-50 pg の優
れた分析性能を有し, 環境における汚染物質分析や
乱用薬物探知などにも広く用いられるようになっ
た.
3.4
火星探査機の RI 利用計測器
NASA(米航空宇宙局)ジェット推進研究所は,
1960 年代の月面無人探査以来, 惑星の探査計測な
どを進めてきた. 2004 年 1 月火星に着陸した 2 機
の双子無人探査車は, 前方に突き出した腕の先に岩
石表面研磨機等とともに,α粒子誘起 X 線分析計
(244Cmα線利用)とメスバウア分光計(57Coγ線利用)
教育講演 6
10月15日(金) 14:00 1 15:00 第3会場(橘)
医学と医療におけるX線CT専門技師の役割—放射線科医の立場から
滋賀医科大学放射線科
村田 喜代史
1. はじめに
えて考えてみたい。
現在の医療現場において画像診断は重要な役割を
果たしているが、とくに、近年の CT と MRI の技
2.日常 CT 業務をきっちり行えるのが大前提
術的進歩は目覚ましく、体内に生じたミリ単位の形
態変化について詳細な情報を提供してくれる。さら
「診断に役立つ画像を提供してほしい」
に CT について言うならば、かつての精密な形態診
胸部領域で考えてみると、肺癌においても、びま
断のための横断断層撮影装置という位置づけから、
ん性肺疾患においても、微細な形態診断を行うため
MDCT の登場によって、MPR, MIP, 三次元画像、
には、薄層の高分解能 CT (HRCT) が必要不可欠で
CT 内視鏡像などの様々な画像が1回の高速スキャ
ある。
たとえば、
特発性肺線維症の診断においては、
ンデータから作り出せる三次元画像診断装置という
臨床所見と HRCT で特徴的な所見が得られれば、
病
役割に変化してきている。このように高い能力をも
理診断無しで、特発性肺線維症と臨床診断して良い
った MDCT であるが、種々の再構成画像を追加す
という考え方が国際的なコンセンサスとなっている
ることができる一方で、同じスキャンデータから横
1)。また、HRCT
断像だけを撮像して検査を終わることもできるわけ
結節を捉えることができれば、高分化型腺癌の診断
で、MDCT の能力を生かすかどうかは診療放射線技
に大きく近づくことができる。したがって、MDCT
師の腕にかかっているといっても過言ではない。ま
のデータから、5-7mm 厚の通常 CT に加えて、
た、種々の再構成画像が作れるといっても、臨床に
HRCT を追加することが、現在の医療の標準となっ
役立つことの少ない画像を数多く作成するのは優秀
ているわけで 2)、これが撮像されていなければ、合
な検査とは言えないし、時間と医療資源の無駄遣い
格点の CT 検査とは言えない。
で、すりガラス影を周辺に持った
になるかもしれない。さらに、近年の CT 検査の著
しい増加を考えるなら、CT 画質と X 線被曝のバラ
ンスを考えることも CT 検査を担当する人間の重要
な役割になってきている。
したがって、これらの種々の要因を考慮しながら
円滑に CT スキャンを実施し、そこから診療に必要
とされる最適な再構成画像を含めた画像を過不足無
く提供することが CT 検査に要求されるし、それを
行うのが、プロとしての診療放射線技師の仕事であ
ると私は考えている。そのためにはコンピュータ技
通常 CT
HRCT
術を駆使した CT 装置やワークステーションを使い
図1 特発性肺線維症では、種々の線維化病変が不均一に混
こなす能力も重要であるが、それ以上に診療医師が
在している特徴を捉えることが重要で、HRCT は必須である。
CT 画像からどのような情報を得ることを求めてい
るのかをしっかりと把握し、それに答える画像を提
供するのが、今回のテーマであるX線CT専門技師
の最も重要な役割といえる。
本講演では、放射線科医の立場からみて、こうあ
ってほしいと思うX線CT専門技師の姿を私見も交
教育講演 6
10月15日(金) 14:00 1 15:00 第3会場(橘)
成画像を作るのが腕の見せどころである。
通常 CT
HRCT
図2 高分化型肺腺癌の CT 像。スライス厚が大きいと、結節
の辺縁や内部性状、血管との関係等の特徴を正確に捉えるこ
とは難しくなる。厚いスライスの画像では判断が難しい。
横断像
三次元像
図4 巨大気管気管支症
現在は MDCT によって小さな肺野結節が数多く
検出されるようになり、その経過観察のための CT
検査が増加している。この場合、診断に必要な情報
は、その結節の大きさや形が変化しているかどうか
であり、それを CT 画像で比較判定する。異なった
時期の CT ではスキャン面が微妙に異なっているの
で、比較は結構難しい。FOV の違いは PACS 上で
拡大縮小を用いることで対処できるが、スライス厚
とスライスピッチが異なっていると、視覚的な比較
は非常に難しくなってしまう。目的が何なのかを理
解して検査を行うことが重要であり、その目的に合
致した画像を提供してはじめて、しっかりとした
三次元像
CT 業務といえる。
図5 肺分画症の CT 像
横断像では分画肺の栄養血管が分断されてしまうが、三次元
画像で起始部から病変部までの走行が明瞭に描出されている。
「診療放射線技師は画像のプロとして仕事に前向
きであってほしい」
私は、放射線科医は画像診断のプロ、診療放射線
1mm
2mm
図 3 異なった時期に撮影された CT の比較(6ヶ月の経過)
技師は医用画像を作り出すプロでなければならない
と考えている。プロは自分の仕事に誇りをもって、
自ら進んで向上を目指して努力しなければいけない。
現在の 64 列クラスの MDCT での検査データは豊
したがって、
「忙しいから三次元画像は、医者に作ら
富な情報の固まりである。大動脈や肺動脈といった
せたらよい」というような声が診療放射線技師の方
血管病変あるいは気管支病変のように連続性を持っ
から聞こえてくると悲しくなってしまう。それはプ
た管状構造物の形態変化を容易に捉えることができ
ロの姿勢でないと考えるからである。プロなら医師
る種々の再構成画像の作成が可能である 3).このよう
が感激するようなすばらしい画像を作ってほしいと
な症例において、通常の横断像のみという CT 検査
思う。
「医師が何を望んでいるかがわからない」とい
では、あまりに寂しい。診断はできるとしても、豊
う反論があるかもしれないが、それは医師と議論す
富な MDCT のデータをムダにしていると言わざる
れば良いわけで、そのように前向きに行動すること
をえない。病変の特徴を最も捉えられるような再構
が重要と思われる。
教育講演 6
10月15日(金) 14:00 1 15:00 第3会場(橘)
CT 検査では通常撮像プロトコールが決められる
MDCT の時代になって、その高速性から CT が精密
が、その決められた通りにすればよい、という態度
検査と同時にスクリーニングも兼ねるようになった
は前向きでなない。そのプロトコールで実際にスキ
ことから、健常人での CT 検査数が増加することに
ャンしてみて、気がついたことはどんどん意見を出
も留意しなければならない。これまで以上に、集団
して、プロトコールをより優れたものにしていくと
としてのX 線被曝の減少に努力するのは当然のこと
いう姿勢がプロの姿勢であると思う。プロトコール
であり、X 線 CT 専門技師という立場は、その最前
に限らず、いろいろな工夫を考える姿勢は重要であ
線に立たなければならない。と同時に、X 線被曝に
る。
関する正確な情報を多くの人に伝えることも、放射
線科医とともに務めなければならない重要な役割で
「CT 検査はチーム医療であることを忘れないでほ
しい」
ある。
画像診断に係わる医師や技師は、しばしば「美し
CT 検査は、診療放射線技師だけでできるわけで
い画像」の魅力にとりつかれてしまい、被曝のこと
はないのは言うまでもない。CT 検査室の中には、
が少し甘くなってしまう危険性があることを自戒し
診療放射線技師のほかに、放射線科医、看護師や看
なければならない。X 線専門技師は、画質と被曝と
護助手、
事務職員という異なった職種の人間がいて、
のバランスを、被曝に無頓着な医師に教えてほしい
CT 検査をスムーズに運営するためには、すべての
と思う。
人間がチームワーク良く連携して、助け合いながら
動くことが必須である。そして、このチームワーク
が、造影剤ショックのリスクを抱えた CT 室のリス
クマネジメントの上でも非常に重要になる。
3.研究に対する意欲は重要
日常診療がしっかりと行えることが診療放射線技
師としての大前提であるが、それだけでは X 線 CT
この CT 室のチームワークを作り上げるキーパー
専門技師としては不十分であると思われる。CT 技
ソンが診療放射線技師であると私は考えている。CT
術もこれからさらに進歩していくであろうし、現在
検査が診療放射線技師の言葉を起点に動いているこ
登場している様々な画像が、実際にどのように臨床
とは間違いなく、その言葉のもとに、他の職種の人
に役立つかの検証はまだ終わっていない。各診療科
間が気分良く働けるかどうか、それは、その診療放
の医師とともに放射線科医も新しい診断法の開発の
射線技師の腕にかかっているといってもよい。チー
研究を進めているが、CT 技術を最もよく判ってい
ムワークを作り上げる能力というのは CT 技術能力
る診療放射線技師も、この研究に参加しなければい
の範囲を超えているかもしれないが、CT 検査室を
けない。技術的な視点から現在行われている手法の
動かしていくリーダーとして、X 線 CT 専門技師と
改善を目指す研究もあると考えられるし、医師の臨
いう資格には、そのような能力も含まれるべきだと
床研究に技術的側面から共同研究者として参加する
考えている。人に動いてもらおうとするならば、自
道もあると思われる。とくに、大学等の研究機関で
らがそれ以上に動かなければならないことはいうま
診療を行う診療放射線技師は、このような研究に対
でもない。
する意欲をぜひもってほしいと思う。
X 線 CT 専門技師という立場は、診療のプロであ
「X線被曝軽減に対する配慮をいつももってほし
い」
ると同時に、研究への意欲をもった専門家であるべ
きである。
日本における CT 台数は欧州全体の台数を超える
ほどで、しばしば、日本における CT 検査による X
4.若手教育は次世代に対する責任
4)。100mSv
どのような組織においても、指導する立場の人間
の医療被曝で一生涯における発癌リスクが 1%増加
には次世代の若手を育てる大きな責任が存在する。
すると言われるが 5)、CT 検査により多くの癌が発見
自分が持っている能力を誰にも教えないというよう
され、治療されるメリットを考えれば、CT 検査を
な後ろ向きの姿勢は間違っている。どんどん、次の
否定する根拠にはならない。
しかし、
合理性もなく、
世代の若手に知識や技術を伝えていくことによって、
線被曝とその発癌リスクが問題になる
とりあえず CT をやってという姿勢は正しくないし、 そこから新しい発展が生まれる。そのような教育に
教育講演 6
対して積極的な姿勢をもっている人が指導者として
ふさわしい。X 線 CT 専門技師がもつべき資質とし
て、教育に対する情熱は欠かせない。
若手を育てるときの考え方として、自分が指導す
る形ばかりでなく、一定の業務の責任を持たせて、
そのサポートにまわるという姿勢も人を育てる上で
非常に重要であると痛感している。
5.最後に
放射線科医と診療放射線技師は、放射線医療にお
いてチームを組む仲間であると考えている。ただ、
仲良しクラブではなくて、お互いがプロとしての仕
事を行い、お互いの立場を理解し、お互いの意見を
聞く耳を持ち、お互いを高め合う、そのような緊張
感のある良い関係でありたいと願っている。
6.参考文献
1)
American
Thoracic
Society/European
Respiratory Society (ATS/ERS).
Thoracic
Society
Society/European
international
American
Respiratory
multidisciplinary
consensus classification of the idiopathic
interstitial pneumonias. Am J Respir Crit
Care Med 2002; 165:277-304.
2)
水谷由美子、山田耕三. 肺癌の画像診断—X 線、
CT 所見. 工藤翔二監修. 肺癌のすべて、文光堂、
東京、2007、pp108-115.
3)
村田喜代史、高橋雅士、新田哲久. 呼吸器領域
における多列 CT の応用. 工藤翔二他編、
Annual Review 呼吸器 2009, 中外医学社、東
京、2009、pp 193-202.
4)
Berrington deGonzalez A, Darby S. Risk of
cancer from diagnostic X-rays: estimates for
the UK and 14 other countries.
Lancet
2004; 363: 345-351.
5)
BEIR VII: Health risks from exposure to low
levels of ionizing radiation., Washington D.C.,
National Academies Press, 2005.
10月15日(金) 14:00 1 15:00 第3会場(橘)
教育講演 7
10月16日(土) 9:20 1 10:20 第1会場(大ホール)
治療用加速器の放射化問題への対応
国立保健医療科学院
山口 一郎
1.はじめに
ので 4 年以内にはクリアランスレベルを下回ること
i
放射化物の規制整備が進められている 。そこで治
療用加速器の放射化物の放射線管理を考えたい。
になる。PET で用いる LSO 検出器には NORM と
して Lu-176 が含まれているが、濃度は 40Bq/g 程
度であり、減衰させた放射化物の方が放射能レベル
2. 放射化の原理と生成量
は低い。
2.1 放射化の原理
光核反応と光核反応で生成した中性子による核反
応で放射化する。
光核反応は材質に大きく依存する。
中性子は、最終的には熱化して捕獲されるので捕獲
で放射化物が生成するかしないかが放射化物の生成
量を左右する。詳しくは、保科先生の「放射線治療
表 1. イコライザの放射化核種と生成過程
生成核種
濃度
想定される生成過程
Mn-54
0.6mBq/g
Fe-54(n,p)Mn-54
Co- 60
5mBq/g
Ni-61(r,p)Co-60,
Ni-60(n,p)Co-60
Zn- 65
1mBq/g
Zn-66(r,n)Zn-65
Ag-110m
0.3mBq/g
Ag-109(n, r)Ag-110m
W-181
3.6kBq/g
W-182(r,n)W-181
W-185
180Bq/g
W-186(r,n)W-185,
W-184(n, r)W-185
用加速器における放射化−高エネルギーX 線による
光核反応と中性子による核反応」を参照されたい。
それぞれの反応の核データは整備されており部品の
組成などの情報があれば、放射化物の量が推定でき
る。
2.2 生成量
15MeV の加速器廃棄物中の生成放射化物の量は
Brusa らにより測定されているii。10MeV の加速器
で放射化の程度が強いと考えられるイコライザ(タ
ングステンと銅の合金)の測定例を示す。対象は国
立病院機構埼玉病院のリニアック(三菱電機製
MHCL-15D)である。治療室の壁面で Q 値の最大
値は 2×1011 [Gy-1]であり、中性子の生成量は標準で
ある。表面の線量率は、H(10)で 0.4mSv/h であった
が半年の保管後は 0.3µSv/h となっていた。生成さ
れていた核種とその濃度を示す。濃度は均一に放射
化していた場合を仮定しており概算値である。
濃度が最も高かったのは W-181 でその生成量は
約 1MBq であった。W-181 の規制免除レベルは 10
MBq である。従って、規制免除の考え方からは、
この時点で放射線防護の規制対象外となる。もっと
も、対象物を規制の枠から外す場合には廃棄物安全
なども確保する必要があることからクリアランスレ
ベルを適用させるとする考え方もある。W-181 のク
リアランスレベルは 10Bq/g で、半減期は 121 日な
3.放射化物の放射線管理の必要性
放射線管理が必要かどうかは、放射化物の生成量
に依存する。このうち、短半減期核種は運転時、長
半減期核種は廃棄物としての放射線管理の必要性が
問われる。運転時のスタッフ防護では、18MeV の
放射線治療で工夫されている例iiiがある。廃棄物の
管理では、放射化の程度が強い物品であっても半年
の減衰で規制免除レベル下回り、4 年の減衰でクリ
アランスレベルを下回る。従って放射線防護上は、
一定の減衰期間を確保すれば、治療用加速器を放射
化物として扱う必要はない。しかし、ルールの整備
では金属リサイクル業界などの合意が前提となる。
なお、放射性廃棄物として RI 協会に廃棄を委託す
る場合には生成核種とその量を伝える必要があり、
安全性が確保されていない廃棄物は廃棄の委託に制
限がある。また、日本画像医療システム工業会から
は、装置の解体時に 1 週間のクーリング期間を確保
するよう要請されている。
教育講演 7
4.放射線安全規制検討会での検討
放射線安全規制検討会は、平成 22 年 1 月 20 日に
第 2 次中間報告書をとりまとめた。
この報告書では、
「6MeV を超え 10MeV 以下ではターゲット等以
外の金属部品やコンクリートは放射化していないも
のとして区分することを検討する」
「10MeV を超え
る装置に関して、ターゲット周辺部での放射化領域
を測定評価し、放射化物として取り扱うべき範囲に
ついて検討を行うとともに、金属部品以外のコンク
リートについては放射化が発生していないものとし
て区分することについて検討を行う」
とされており、
この方針がルール整備に反映できるように治療分科
会が科学的根拠を示すことが期待される。
5.リスクコミュニケーション
クリアランスの実施には課題が山積している。クリ
アランス制度は既に炉規法で先行しているが、電気
炉メーカーの理解が得られず一社での鋳造による再
加工のみで再加工品の利用も電力会社など関係機関
内に限られている。炉規法でクリアランス廃棄物が
金属くず、コンクリート破片、ガラスくずの三種類
の産業廃棄物に限定されていたのは、放射線障害防
止法の改正で焼却灰まで拡大されたが、可燃物は対
象外で減衰保管によるクリアランス制度の導入は不
透明なままである。このような社会問題での健全な
課題解決にはリスクコミュニケーションが欠かせな
い。この観点では、放射線管理測定は理解を得るた
めの手段でとなる。放射線管理測定で 3σを超えな
ければ有意ではないと判定するのは、タイプ 1 エラ
ーの制御に過ぎず、安全性確保の観点からはタイプ
2 エラーの制御が求められることから測定の質を担
保する必要がある。放射化物のリスクは小さくその
インパクトも小さいが、円滑な放射線治療のために
科学的根拠に基づきかつ関係者の信頼が得られるよ
うな取り組みが求められる。
10月16日(土) 9:20 1 10:20 第1会場(大ホール)
参考サイト: http://trustrad.sixcore.jp/
iクリアランス制度等の法整備の現状と放射線診
療関係学会等団体の取り組みについて.日放技学
誌, 66(7), 829-832, (2010) .
A. Brusa, et al “Long term activation in a 15
MeV radiotherapy ccelerator,” Med. Phys. 35,
3049-3053, 2008.
ii
Rawlinson JA, et al. Dose to radiation
therapists from activation at high-energy
accelerators used for conventional and
intensity-modulated radiation therapy. Med
Phys. 2002;29(4):598-608.
iii
※講演者は山口一郎先生から藤淵俊王先生(茨城
県立医療大学)に変更となります
教育講演 8
10月16日(土) 9:20 1 10:20 第5会場(桜2)
癌診断におけるPETの有用性
東北大学加齢医学研究所
福田 寛
1.はじめに
は安静・無言を保つ必要がある。一方、FDG は腎
東北大学は、PET による癌診断の基礎的・臨床
尿細管における再吸収の効率が低いため尿に排泄さ
的研究を世界で最も早い時期に開始したパイオニア
れ、腎盂、尿管、膀胱への放射能が高くなり、診断
1980 年頃より長年にわたってこ
の妨げとなる。さらに白血球はエネルギー産生効率
の研究に携わってきたが、当時、PET による癌診断
の悪い嫌気性解糖が主であるため、リンパ球やマク
に注目していたグループは世界的にもほとんどなか
ロファージはブドウ糖消費量が多い。このためサル
った。現在汎用されている SUV は、筆者が DAR と
コイドーシス、結核など肉芽腫疾患やリンパ球や炎
して1984 年に初めて提唱したものである。
その後、
症細胞が塊を形成するような疾患では FDG 取り込
20 年以上経過して、2000 年 4 月に 18F-フルオロデ
みは極めて高い。このように FDG-PET 診断では組
オキシグルコース(FDG)による PET 検査が保険診
織・臓器の糖代謝特性あるいは人体の生理・生化学
療に採用された。これは日本核医学会を中心とする
的状態の違いにしたがって、その集積が修飾される
ロビー活動の成果で、筆者も PET 担当理事として
ことを良く理解しておくことが肝要である。
この交渉に関わった。
3.PET による癌診断の有効性
である
1)。筆者は
保険診療用前の国内 PET センターは研究が中心
癌の糖代謝の亢進を利用する PET 癌診断は、原
であり、数も 30 カ所程度であった。ところが保険
理的にはほとんどすべての種類の癌に有効である。
診療採用がきっかけとなって PET 施設が急増した。
中でも肺癌、頭頚部癌および悪性リンパ腫は有効性
また医薬品メーカによる FDG 供給が開始されると
が高い。癌の FDG-PET 診断の有効性について腫瘍
PET センターがさらに急増し、2010 年 8 月時点で
検出(イメージング)
、良・悪性の鑑別、病期診断、
は、約 273 ヶ所となっている。本教育講演では PET
再発診断の面から述べる。
癌診断の臨床的有効性と限界について述べる。
3.1 癌の検出・良悪性の鑑別
2.FDG-PET に関する基礎的知識
肺癌の広がりや他臓器への浸潤を見極めるには分
FDG はブドウ糖の類似体で、トランスポーター
解能の高い CT や MRI は不可欠である。しかし、
によって細胞内に輸送され、ヘキソキナーゼによっ
肺結節の良・悪性の鑑別に対しては CT、MRI の診
てリン酸化される。しかし、それ以上の代謝は進行
断能はそれほど高くない。FDG-PET による肺孤立
せず、FDG-6-リン酸の形で細胞内にトラップされる。 性結節の良悪性鑑別診断能をX線 CT と比較した数
このためブドウ糖代謝が亢進している組織に多く集
多くの論文があるが、これらをまとめた論文による
積し、イメージングが可能となる。癌は糖代謝が亢
と、PET では感度 96%(83~100%)
、特異度 79%
進しており、一般に増殖の早い悪性のものほど糖を
(52~100%)と報告されている。一方 CT では、
多く消費する。したがって、FDG を用いた PET 癌
感度 99%、特異度 58%程度であり、PET の方が優
診断は、癌の viability あるいは悪性度を反映するこ
れている。しかし、保険診療上、良悪性の鑑別は適
とになる。一方、正常組織でも糖代謝が盛んな組織・
用ではないことに留意されたい。
臓器は FDG をとりこむ。脳は人体で最もブドウ糖
3.2 病期診断
を消費する臓器であり、FDG の取り込みは極めて
非小細胞性肺癌の治療は切除可能な限り手術が最
高い。心筋は通常は脂肪酸をエネルギー源としてい
も成績がよい。しかしⅢ期以上、特にⅢb 期の進行
るが食後の高血糖・高インスリン時および虚血心筋
肺癌の手術成績は放射線・化学療法と大差がなく、
はブドウ糖を利用する。また、骨格筋、平滑筋もそ
一般に侵襲の大きい手術よりも他の治療法が推奨さ
の活動に応じて FDG を取り込むので、FDG 投与後
れる。従って肺癌の正確な病期決定は肺癌治療にお
教育講演 8
10月16日(土) 9:20 1 10:20 第5会場(桜2)
いて極めて重要である。一般に肺癌の病期診断は
れている。さらに気管支肺胞上皮癌、CT 上、すり
CT、MRI で行われることが多い。しかしその病期
ガラス状陰影(GGO)を示す高分化型腺癌、および
診断能は必ずしも高くない。これは、これらの形態
ムチン産生腫瘍などは FDG の集積が低い。これら
画像診断の基準がリンパ節のサイズや形状のみであ
は腫瘍組織全体に占める腫瘍細胞の割合が低いため
ることに起因する。一方、FDG-PET による診断は
に FDG 集積が低い。
癌細胞の代謝活性に依存するため、分解能の限界は
4.2 良性疾患でも集積の高いもの
あるものの CT より優れている。CT による肺癌の
マクロファージなどの白血球の FDG 取込みは、
病期診断の感度、
特異度はそれぞれ 41-86%, 43-91%
細胞一個あたりで比較すると腫瘍よりも高いことが
と報告されている。一方 PET による診断ではそれ
報告されている。このため、炎症細胞や巨細胞が集
ぞれ 61-93%, 77-97%であり、CT より優れていた。
簇して肉芽腫を形成するようなサルコイドーシス、
また、PET 診断では主治医が予想していなかった
活動性結核腫、その他の活動性肉芽腫の FDG とり
転移巣が発見されることがしばしばある。遠隔転移
こみは極めて高い。また、活動性炎症巣への集積も
巣が発見されれば、Ⅳ期となり治療方針が根治治療
高い。臨床情報や他の画像所見を参考にして鑑別す
から姑息治療に変更されることになる。これら
る必要がある。さらに、大腸腺腫や Warthin 腫瘍な
FDG-PET により新たに得られた情報により、
ど、良性腫瘍でも集積の高いものがある。
20-40%の症例で肺癌の治療方針決定・変更に貢献し
4.3 部分容積効果による過小評価
たとの報告がある。
3.3 再発・瘢痕の鑑別診断
PET の空間分解能は最新の装置でも 5mm 程度で
ある。この装置で直径 1cm 球の放射能の画像再構成
癌の根治手術を行った時、再発があるかどうか定
を行うと、recovery coefficient は約 0.4 で半分以下
期的に経過観察を行う必要がある。一般には CT や
に過少評価されることになる。このため、1cm 以下
MRI を用いるが、腫瘍壊死や治療後の瘢痕と残存・
の腫瘍では FDG の集積が見かけ上低くなり擬陰性
再発腫瘍の鑑別診断はしばしば困難である。特に解
となる可能性があるに留意すべきである。
剖学的な構造が複雑な頭頚部領域では組織密度の差
5.最後に
が少なく、CT/MRI 上で再発か瘢痕かの鑑別が困難
先に述べた弱点を考慮してもなお PET は癌の診
なことが多く、FDG-PET の有効性が示されている。
断・治療に欠かせない検査となりつつあり、今後も
4.PET による癌診断の限界
さらに検査件数が増えることが予想される。
しかし、
PET による癌診断はいくつかの弱点があり、これ
普及が進むほど、生理・生化学的基本知識や装置・
らを十分認識しておく必要がある。
画像に関する基本知識が不十分な利用者が増加する
4.1 生理的高集積のため診断しにくい部位
ことを歴史が教えている。関連学会として、PET に
先に述べたように脳への FDG 集積が高いために一
よる診療レベルを維持する努力を継続する必要があ
般に脳腫瘍の診断は困難である(治療後の再発か壊
る。
死かの鑑別には有用)
。また、腎、尿管、膀胱の FDG
文献
集積・排泄が高いため腎および腎周囲の癌、
膀胱癌、
1. Fukuda H, Matsuzawa T, Abe Y., et al., Eur J
前立腺癌の診断率は低い。
Nucl Med. 7(7):294-297, 1982.
4.2 悪性腫瘍でも集積の低い腫瘍
悪性腫瘍でも FDG の集積が低い癌として高分化
型の肝細胞癌がある。正常肝はグリコーゲンを分解
して糖新生を行い、
ブドウ糖を全身に供給している。
糖新生の律速酵素である glucose-6-phosphatase の
活性が他の組織と比べて肝臓では非常に高い。この
ため FDG-6-P の脱リン酸が起こり、FDG は細胞外
に逆拡散してしまう。高分化型肝細胞癌は癌化して
もこの酵素を保持しているために、FDG の集積が
低い。また、腎細胞癌も同じ理由で集積が低いとさ
略歴(プロフィール)
1948 年 6 月生まれ
1978 年 3 月 東北大学大学院医学研究科修了
1979 年 10 月 東北大学抗酸菌病研究所勤務
1990 年 12 月 東北大学抗酸菌病研究所教授
役 職
2004 年 4 月 東北大学加齢医学研究所副所長
2006 年 4月 東北大学加齢医学研究所所長
資 格
1974 年 6 月 医師免許
1978 年 11 月 第一種放射線取扱主任者
1990 年 12 月 日本核医学会認定医(専門医)
1998 年 4 月 日本老年医学会指導医
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