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斜面の安定

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斜面の安定
斜面崩壊の状況①(新潟・福島集中豪雨:2004.7)
斜面の安定
1. 斜面の安定度
地下水位上昇よる
地盤の崩壊
盛土やアースダム, または, 自然斜面は, 色々の原因ですべり崩壊
を生ずる。したがって, 現在ある斜面がどの程度の安定度を持って
いるのか, あるいは, 新しく作られる土構造物がどの位の安定性を確
保すべきか, 等について安定性評価の尺度を定義しておくことが先
栃尾市人面 国道290号 人面峠付近に見られる道路の被災
ず必要になってくる。
安全率F : 最も危険なすべり面を想定し, それより上に存在する土塊
に作用するあらゆる種類の滑動力(重力, 地震力等)の総和と, す
べり面に沿って発揮しうる土の抵抗力の総和とを比較して安定度
段差のある土地
での崩壊
の目安とする方法
南蒲原郡下田村駒込 民家基礎の被災
河川堤防の崩壊
補強のり面の崩壊
南蒲原郡下田村 太平川護岸の被災①
福岡県西方沖地震
2005.3
志賀島②
西側がけ崩れ現場況
盛土部分の道路崩壊
志賀島③
東側がけ崩れ現場
余震による崩壊が続いておりかなり危険な状態である。
福岡県西方沖地震
2005.3
海の中道②
液状化による流動破壊
遊歩道が池側に流動している。
海の中道①
液状化現象の発生
海の中道③
液状化による流動破壊
図-1 半無限すべり
図-2 斜面の破壊
安全率 Fs
平面のすべり面に対しては,
表-1 斜面破壊の要因
円弧すべりの場合には,
せん断応力増加の要因
1. 外力の増加
2. 土の含水量の増加
3. 切取り・掘削による斜面部のせん断
応力の増加
4. 地震・発破などによる振動
5. 亀裂の発生
土の強度減少の要因
1.
2.
3.
4.
5.
浸透水による土の強度低下
間隙水圧の作用
凍土の融解
土の締固め不足
粒状土の振動によるクイックサンド
現象
表-2 安全率と安定性
安全率(Fs)
<1.0
1.0~1.2
1.3 ~1.4
>1.5
説
明
不安定
安定に疑問がある
斜面・盛土には満足, アースダムに疑問
アースダムで安全
(1) 直線斜面の安定性
すべり面より上にある土に働く滑動力は, すべり面に伝えられて,
破壊に関与するわけだから, 上の定義は
(1)
というふうに解釈してもよいわけである。
図-3 無限長の直線斜面
式(1)のように定義した安全率が, 最も簡単な直線斜面の場合にどのよう
に適用されるのか考えてみよう。
このすべり面の傾斜角をα, 深さをHとすると, 任意の幅bをもつ土塊
ABCDの安定性を考えれば, 斜面全体の挙動を代表していることになる。
土塊ABCDの安定を考える : 2つの釣合い式と1つの破壊条件式を
作るのであるが, これに対する未知数は, 土塊の底面に作用する垂
直力Pとせん断力S, それに安定率Fの3つである。よって, Fの値が一
意的に求まることになる。
1) すべり面に垂直方向の力の釣合い。
P=Wcosα
ただし, Wは土塊ABCDの重量である。
W=tbH, b=lcosαなる関係を用いて, 上の3式を解くと, 安全率が次のように求ま
る。
(5)
今, 特別な場合として, 粘着力c=0の砂質土を考えてみると,
(6)
(2)
2) すべり面方向の力の釣合い
となる。安全率が1より大きい間は, すべりが発生しないから, 結局, 斜面の傾斜角
S=Wsinα
(3)
が内部摩擦角より小さい時には破壊が起こらず, F=1.0でα=φの時すべり破壊が
生ずることを式(6)は示している。
3) 破壊条件式
安息角(angle of repose) : 砂をホッパーから自然落下させると, 円錐状をなして堆
(4)
積して行くが, この時の斜面でもα=φたる条件が満たされているはずである。
よって, この円錐体の勾配を測れば, それがその砂の内部摩擦角に等しいとい
ただし, Wは土塊ABCDの重量である。
うことになる。
拘束圧が小さい時の内部摩擦角に等しいと理解しておいてよい。
安息角
雨水の影響
雨水等で斜面内に水がしみ込んで, 図-4(c)に示すように, す
べり面からβHだけ水位が上昇した時の安定性を考えてみよう。
この時, 斜面に垂直方向の力Pと斜面方向の力Sは, それぞれ,
○ 浅い部分でのすべり安定性は内部摩擦角より粘着力によって支
配されるが, 深層でのすべり安定性は粘着力でなく内部摩擦角が支
配的役割を果たす, ということになる。
(7)
○ 一般に, 軟弱地盤上の盛土等はすべり面の深さが数メートルに
すぎないから, 粘着力を重視した解析が行われ, 高さが100mにも及
ぶロックフィルダムでは, すべり面の深さが数十メートルにもなるので,
内部摩擦角を主体とした安定解析が行われるのは, 以上のような背
景に基づくのである。
で与えられる。想定されるすべり面上に
はβH・bwの重さの水が存在しているから,
すべり面上の有効重量P'は
斜面内に充分水がしみ込むと, 地下水面が地表面と一致して, 図-4(b)の
ような状態となる。この時にはβ=1.0となるから, これを式(9)または式(10)に
代入すると安全率は
(11)
(8)
となる。飽和した砂の単体重量をsat≒20kN/m3とすると'=sat-w=10kN /m3
となる。今, 斜面は砂質土で構成され, 粘
着力はゼロで内部摩擦角のみによって抵
抗力が発揮されると仮定すると, 安全率F
は次式で与えられる。
となり、安全率は著しく小さくなる。
以上述べた地下水位の上昇, つま
りβの増加に伴う安全率の低下の
模様を図示したのが図-5であり,水
位がすべり面より下位にある場合
に比して, 表面まで浸水すると安
全率が1/2位まで下がってくること
が知れる。
(9)
近似的にt≒satと置くと,
(10)
図-4 斜面が浸水している時の安全性
20kN/m3)
図-5 地下水面の上昇に伴う斜面のすべり安全率の低下
アースダムの上流側斜面等では, 貯水によって水位が更に上昇し, 図4(a)に示すように斜面が完全に水没してしまう。この場合, すべり面より上
方のCDFEの区画内にある水は釣合って透水は生じていないから, 透水力
はゼロとなる。よって, 式(7)のSから, β=1.0として透水力Hbwsinαを差し引
いたものが, 水中斜面に作用する滑動力となり, これは
S'=(sat-w)bHsinα='bHsinα
で表わせる。すべり面に沿う抵抗力P'tanφは式(8)でt=sat, β=1.0と置くこと
により'bHcosα・tanφで与えられるので, 水中斜面の安全率は
となる。これは, 地下水位が存在しない場合の安全率, つまり式(6)で与え
られるものと全く同じになる。
粘性土の斜面安定解析(テイラーの工夫)
テイラーは解析の手続きの研究から斜面の限界高さや、安全率と
求める便利な図表を作成した。
→ テイラーは斜面が破壊しないで安定を保てる限界の高さを限界高さHcと呼
んで、このHcと、粘着力cm、斜面土の単位体積重量tとの関係が次のような関
係になることを示した。
ここで、Cmは、仮定せん断抵抗角mに対して釣合いを保つに必要な粘着力を意
味し、斜面土の粘着力cに対してcm=c/Fcで与えられる。この式はすべり面の位置
を定めるパラメータ, と斜面の勾配b、および粘着力cmが発揮されるときのせ
ん断抵抗角m(=F)を含む関数であり、関数fが最小のところでFc も最小にな
る。テイラーは上式をの解析結果をまとめて、 cm, mをと書き改め次式を提案し
た。
粘着力c=0の砂質土からなる斜面については, これが空中にあろうと水中
にあろうと, 理論上の安全率は同じになるが, 斜面内に地下水位が存在す
る場合には透水力の影響で安全率が低下してくるということがわかる。
テイラーの導入した安定係数Ns とをパラメータとしてとNsの関係を下記の図
に示した。この図から、一組のc, に対して安定を保つときの斜面勾配bや限界
高さHcを求めることが出来る。また、逆に やHが与えられれば、c, の必要な
値が決まるので、斜面土のc,がわかればこの斜面のもつ安全率が求められる。
複合すべりの斜面安定解析
図に示すように斜面の下部に軟弱な土層があると, すべりはその
層に沿って生じるので, この場合は直線のすべり面を含んだ複合す
べりと考えられる。この斜面では図のように, 土塊ABCDは自重とし
てCD面に, 右側の土塊ADEは主働土圧PAとしてAD面に, そして左
側の土塊BCFは受働土圧PPとしてBC面に作用する。また, 土塊
ABCDの重量W, CD面の長さLとすると, すべりに対する抵抗力は
cL+Wtanφとなる。
したがって, 安全率は,
Ndのとり方
図に示す斜面のすべりに
対する安全率を求めてみ
る。軟弱粘土層の厚さは薄
く粘着力が23kN/m2, 内部
摩擦角は0°であり, また
軟弱粘土層より上の土は
内部摩擦角が35°, 粘着
力は0, 土の単位体積重量
は16.8kN/m3とすると,
下図に示すような地盤を斜面
角=25°で深さ4mまで掘削
する場合、破壊の種類および
斜面の安全率Fsを求めよ。
図 複合すべりの例
軟弱粘土層より上の土は粘着力がないので,
(4)
cL=23×14=322(kN/m), Wtanφ=0
したがって, 安全率Fsは,
として表わされる。
図 複合すべり
となる.
○粘着力と内部摩擦角を有する土の場合
分割法による斜面安定解析法
斜面を構成する土が不均一の場合には、円弧すべり面を仮定し、
すべり面上の土塊をいくつかの鉛直帯片に分割し、安全率を求め
37
る方法が用いられる。
斜面の土質条件が複雑で
土の強度が異なる場合, 通
常この安定解析法が用いら
れる。粘性土のところで述べ
たように, 円弧すべり面で仕
切られる部分を数個の土塊
に分割する。この分割片の
すべりを起こそうとするモー
メントはRWsinθである。これ
に対して分割片のすべり面
に働く抵抗モーメントは, 図-3
から分かるように粘着力によ
るRclと内部摩擦角による
RWcosθ・tanφの和である。
図
分割法(c>0,φ>0)
38
したがって, 安全率Fsは,
図のような斜面の一つのすべ
(2)
り面に対する安全率Fsを分割
法により求める。ただし, 土の
内部摩擦角は20°, 粘着力は
となる。
20kN/m2, 土の単位体積重量は
17.8kN/m3として計算すると表-
そして, すべり面に問隙水圧uが発生している場合には,
2のようになる。
(3)
として表わされる。
図 すべり面の分割例(φ≠0)
39
40
○ 粘性土の場合
図のように斜面の円弧すべり面で仕切られる部分を鉛直線で数個の土
塊に分割する。分割片の重量をW, 分割片底面の水平面となす角をθとす
ると, すべりを起こそうとする力はWsinθ, そのモーメントはRWsinθである。こ
れに対し, すべり面lに働く抵抗モーメントはRclである。
したがって, この斜面の安全率Fsは,
図 すべり面の分割法(φ=0)
表 分割法による安全率の計算(図-2の場合)
(1)
で表わされる。
なお, この方法は, 斜面の安定計算
法として最も一般的であり, 複雑な土
質条件の斜面にも適用することが可
能なものである。
分割片
番号
A
(m2)
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
2.7
8.3
13.3
17.5
18.4
16.2
8.7
合計
図 分割法
41
γ
W
(kN/m3) (kN/m)
16.0
16.0
16.0
16.0
16.0
16.0
16.0
43.7
132.8
212.8
280.0
294.4
259.2
139.2
θ
(°)
sin θ
( kN/m)
c
(kN/m2)
l
(m)
cl
(kN/m)
-38
-22
-4
7
22
37
67
-0.615
-0.374
-0.069
0.121
0.374
0.602
0.920
-26.9
-49.7
-14.7
33.9
110.1
150.0
128.1
20
25
25
25
25
20
20
3.2
2.6
2.6
2.6
2.7
3.2
6.3
64.0
65.0
65.0
65.0
67.5
64.0
126.0
W sin θ
336.8
516.0
42
表 分割法による安全率の計算
分割片
番号
A
(m2)
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
3.38
7.06
9.70
11.60
11.91
10.56
3.90
γ
W
(kN/m3) (kN/m)
17.8
17.8
17.8
17.8
17.8
17.8
17.8
60.16
125.67
172.66
206.48
212.00
187.97
69.42
θ
(°)
cosθ
sin θ
φ
(°)
tan
Wcosθ
(kN/m)
Wcosθ
・tanφ
(kN/m)
-3
-2
7
18
28
40
52
0.999
0.999
0.993
0.951
0.883
0.766
0.616
-0.052
-0.035
0.122
0.309
0.469
0.643
0.788
20
20
20
20
20
20
20
0.364
0.364
0.364
0.364
0.364
0.364
0.364
60.1
125.5
171.5
196.4
187.2
144.0
42.8
21.9
45.7
62.4
71.5
68.1
52.4
15.6
-3.1
-4.4
21.1
63.8
99.4
120.9
54.7
337.6
352.4
合計
Wsinθ
(kN/m)
L=15×1.43=21.45(m)
cL=20×21.45=429(kN/m)
図のような水面があるとき,すべ
りを起こそうとするモーメントとす
べりに対して抵抗しようとする
モーメントに分けて計算し安全率
Fsを求めると, 表のようになる。
この場合, 土の内部摩擦角は
20°, 粘着力は水面以下で
15kN/m2, 水面以上では20kN/m2
で, 土の飽和単位体積重量は
19.7kN/m3, 水面以上の土の単位
体積重量は17.8kN/m3とした。
図 すべり面の分割例 (水面のある場合)
なお, 斜面に作用する静水圧は
安全側に働くと考え無視している。
43
44
(b) すべりに対して抵抗しようとする力とモーメント
γ'=γsat-γw=19.7-10=9.7(kN/m3) tan20°=0.364
表 分割法による安全率の計算例
(a) すべりを起こそうとする力とモーメント
分割片
番号
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
地下水面以下の部分
γsat
A
(m2) (kN/m3)
3.38
7.04
7.50
5.70
2.31
-
19.7
19.7
19.7
19.7
19.7
-
地水面以上の部分
Aγsat
(kN/m)
A
(m2)
γ
(kN/m3)
Aγ
(kN/m)
66.6
138.7
147.8
112.3
46.7
-
0.02
2.20
5.90
9.60
10.56
3.90
17.8
17.8
17.8
17.8
17.8
17.8
0.4
39.2
105.0
170.9
188.0
69.4
合計
W
(kN/m)
θ
(°)
sinθ
Wsinθ
(kN/m)
66.6
139.1
187.0
217.3
217.6
188.0
69.4
-3
-2
7
18
28
40
52
-0.052
-0.035
0.122
0.309
0.469
0.643
0.788
-3.5
-4.9
22.8
67.1
102.1
120.9
54.7
359.2
分
割
片
番
号
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
地下水面以下の部分
地水面以上の部分
A
(m2)
γ'
(kN/
m3)
Aγ'
(kN/m)
A
(m2)
γ
(kN
/m3)
Aγ
(kN/m)
3.38
7.04
7.50
5.70
2.31
-
9.7
9.7
9.7
9.7
9.7
-
32.8
68.3
72.8
55.3
22.4
-
0.02
2.20
5.90
9.60
10.56
3.90
17.8
17.8
17.8
17.8
17.8
17.8
0.4
39.2
105.0
170.9
188.0
69.4
W'
(kN/m)
θ
(°)
cosθ
W'・
cosθ
(kN/m)
W’・
cosθ・
tanφ
(kN/m)
c
(kN/
m2)
l
(m)
cl
(kN/m)
32.8
68.7
112.0
160.3
193.3
188.0
69.4
-3
-2
7
18
28
40
52
0.999
0.999
0.993
0.951
0.883
0.766
0.616
32.8
68.6
111.2
152.4
170.7
144.0
42.8
11.9
25.0
40.5
55.5
62.1
52.4
15.6
15
15
15
15
15
20
20
2.9
2.5
2.5
2.7
2.9
3.5
4.3
43.5
37.5
37.5
40.5
43.5
70.0
86.0
21.3
358.5
合
計
263.0
∑cl+∑W'cosθ・tanφ=358.5+263.0=621.5(kN/m)
R∑Wsinθ=15×359.2=5388kN・m/m
R(∑cl+∑W'cosθ・tanφ)=15×621.5=9322(kN・m/m)
45
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