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優秀賞 「受け入れる 『かぎりなくやさしい花々』を読んで」 泉南市立一丘
優秀賞 「受け入れる 『かぎりなくやさしい花々』を読んで」 泉南市立一丘中学校3年 林 萌子 著者は、中学校の体育教諭となって二か月後、クラブ活動の指導中に誤って 墜落し、頸椎を損傷しました。手足の自由を失いましたが、入院して二年後に 口に筆をくわえて詩画を書き始め、詩画展を開いたのです。 この本を読もうと思ったきっかけは、母が私に、著者のことを何度も話して くれたからです。介護の勉強をしている母は、授業の中で著者を知り、 「能力と 機能の喪失感、障害を負うことによる無力感を克服して、新しい人生を歩み始 めた素晴らしい人よ」と介護の本を見せながら話してくれました。最初は無関 心でしたが、何度も聞いているうちに興味が湧き、知的障害のある妹への理解 にも繋がると思い、この本を読むことにしました。 読み進めていくと、妹を見ている私が意識せずにいたことが、沢山あると判 りました。著者の心の在り方や物の見方が変化していく様子が、ありありと表 現されていたからです。本文に「ケガをして一・二年は、身体のことで悩んだ り、苦しんだりしました。でも、受けた傷は、いつまでも開きっぱなしではな かったのです。傷を治すために、そこには新しい力が与えられ、傷跡は残りま すが、そこには前よりも強いものが盛り上がって、覆ってくれます。身体には 傷を受け、確かに不自由ですが、心はいつまでも不自由ではないのです」とあ りました。介護の本と照らし合わせてみると、障害を負うことによる無力感と、 能力・機能の喪失感により、自立性の感覚を奪われた著者の姿が、そこにあり ました。筆記用具を手の代わりに口でくわえて絵や文字を描くという、つまり、 一つの代替機能を持つことは、自己表現、自己実現、社会参加に繋がるそうで す。障害を負った著者を一人の自立した人間として尊重し、受け入れた周囲の 人々の存在と、著者の強い意志が、心の在り方を変えたのだと思いました。私 も、ダウン症の妹が産まれるまで、外見だけで人を判断し、相手の立場となっ て考えませんでした。今思えば、障害に対する関心や理解、知識が無かったの です。障害と向き合うことが必要となってから、障害を受け入れる親の辛さや 不安、妹自身の頑張り、また一つ成長する度に湧き上がる家族の喜び、知らな いことばかりだったと気付きました。妹を見ていると、 「不自由と不幸は結び付 きやすい性質を持っているが、全く別のものだった」という著者の深い思いが、 ひしひしと伝わってきました。 妹が産まれて生活が一変した我が家も、六年が経ち、ようやく落ち着きまし た。トイレの自立や発語など、できることが少しずつ増えています。我が家で は登校前によくじゃんけんをします。ある時、私が勝って「萌の勝ち」と言う と、「あっ」という顔をした後ににっこり笑って、「もえちゃん、よかったね」 と言ってくれたのです。勝ちにこだわり、負けを受け入れられない年齢であり ながら、自分の負けを認めるだけでなく、相手を称賛できたことに驚き、ギュ ッと抱きしめました。 「人類全員がダウン症なら戦争が無くなるはずだ」と聞い たことがありましたが、その通りだと納得しました。私たちが見習うべき、妹 の純粋で温かい心を感じたからです。妹の成長は、私たち家族の楽しみです。 この本から学んだことは「受容」の本来の意味と、過程の難しさです。受傷 直後から立ち直りの時期までには、ショックから否認、混乱、解決への努力、 受容という五つの段階を踏むと、介護の本に書いてありました。著者の場合、 いつもと違う身体の様子に疑問を抱き、ショックを受けます。次に、元の身体 に依存的になってしまう否定があり、動かないままでいる身体に絶望し、自暴 自棄となる混乱期を迎えました。そして、時間の経過や、入院患者との交流で、 口で文字を書くことに喜びを感じ、生きがいを取り戻していきます。これが解 決への努力で、その後の目覚ましい活動が受容を表しています。改めて読み返 していくと、受傷直後から立ち直りまでのステップを確かに踏んでいることに 驚きました。 受容は、障害受容だけでなく、様々な日常の困難に直面した時に、私たちの 心の中で、日々繰り返されています。失恋や骨折などのケガがそうです。 立ち直りまでの段階をイメージした上での心理状態の把握や、自己分析は、 あらゆる場面で私を助けてくれると思います。一番大変な混乱期でも、次には 解決への努力に辿り着くと分かっていれば、落ち着きを取り戻し、自分自身の 気持ちの変化を待つことができるからです。これは、他者の立ち直るまでの過 程を見守る上でも同じです。 この本と出会ったことで、多くのことを学び、私の心の世界が広がりました。 今は、小さな経験ばかりですが、これから先、どんなことが待っているか分か りません。立ち直りまでの過程を胸に、人の気持ちに寄り添い、自分のことも 他者のことも受容できる大人になりたいです。